とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一三五話、投稿します。
次は一〇月一二日木曜日です。


第一三五話:〈鉄拳制裁〉と解決に走る

神威混淆(ディバインミクスチャ)。大悪魔コロンゾンが首都決戦兵装と銘打って用意していた霊装。

 

神威混淆はギリシャ人が考えた、ギリシャ人の視点から見たエジプト神話であるロゼッタストーンがモチーフだ。そして神威混淆は人間が身に纏う事で、本来の力を発揮する。

 

誰かが身に纏う。それはつまり必ず誰かが犠牲になる必要があるという事だ。

しかも十字教徒ならば、ギリシャ人が考えたエジプト神話などという訳の分からない異なる神に(くみ)することになる。

 

コロンゾンは神威混淆の他に、クリファパズル545という悪魔を用意していた。

その悪魔のせいで、ロンドンの人々は簡単に道を踏み外してしまう。

だからこそ、清貧を絶対に守るであろう修道女、オルソラ=アクィナスが神威混淆を手に取ってしまったのだ。

 

神威混淆を修道女が手にするように手配したのは、『騎士派』の一人ホレグレス=ミレーツ卿だ。

 

彼はこの非常事態において、純粋な英国人でない元ローマ正教の修道女たちをどうにか排除できないものかとも考えていた。だからこそ彼は神威混淆を自分で使う事無く、運び屋を使って大英博物館に神威混淆を送り返したのだ。

 

イギリスの要人は、歴史的価値がある建物のそばで陣取っていることが多い。

そして部外者を必要以上に遠ざける習性がある。

 

しかも大変お上品な騎士サマは戦争の時にも自前の旗や紋章を掲げ、わざわざ自分の居場所を知らせるのだ。彼らは日本の戦国時代における一騎打ちをする時に自身の名前と経歴を明かすように、自らの存在を誇示している。

 

「真守。周りを見るんじゃねえぞ」

 

垣根帝督は未元物質(ダークマター)の翼を広げていた。

そして真守のことを抱き上げて飛翔し、真守が周りの景色を視界に入れないようにしていた。

 

オルソラ=アクィナスが身に纏う神威混淆には、様々な意味がでたらめに付与されている。

情報を読み取ることができる真守は、修道女を視界に入れただけでその情報量の多さに酔ってしまうのだ。だから垣根は真守のことを優しく抱き寄せて、真守に気を配りながら空を飛ぶ。

 

そんな垣根に追随していた一方通行(アクセラレータ)は、垣根より前に出た。

そして、神威混淆を手に取らせた元凶であるホレグレス=ミレーツ卿が乗った馬車を襲撃。

 

一方通行は馬車からその人物を引っ張り出すと、ネルソン記念柱と言われるトラファルガー広場のランドマークである、五○メートル以上の高さを誇る柱の上から逆さづりにした。

 

真守は垣根の腕の中からちらっと一方通行(アクセラレータ)を見て、少し慌てる。

 

「一方通行、あんまり手荒なことをしないでくれ」

 

真守が声を上げる中、垣根帝督は一方通行の隣に着地する。

突然馬車に強襲を掛けられて、白い怪物に引きずり出されたホレグレス=ミレーツは、何が起こったか把握できない。ちなみに馬車から引きずり出す時に抵抗したため、すでに一方通行に何度かぼこぼこに殴られていた。

 

真守は垣根に柱の上に降ろしてもらいながら、一方通行をちょっと怒った様子で見つめる。

 

「気に入らない相手だからって簡単に手を上げてはダメだぞ。お前はもう話ができない怪物じゃないんだから」

 

真守は隣にいる一方通行の肩をぺちぺちと叩く。

ホレグレス=ミレーツは一方通行にぶらぶら下げられたまま真守を見て、驚愕する。

 

「げぇ!? マクレーン!?」

 

真守とアシュリンは遺伝子上においては、母娘といっても差支えがない。

しかも真守とアシュリンはそっくりなのだ。

違うのは銀髪か黒髪か。年齢が少し若いかだけ。

見る者が見れば、真守はマクレーンの血を引いていると一発で分かるのだ。

そんな真守を見て、ホレグレスは逆さのまま怒鳴り声を上げる。

 

「わ、わらひにこんな事をするとはっ!! 早く降ろせっ!! 歴史あるイングランド貴族の一員たるこの私をなんだと思っているんだ!!」

 

真守はぎゃーぎゃー喚くホレグレスを前に、微妙な顔をする。

 

「うーん。なんか落ちぶれ貴族っぽい不遜な態度。伯母さまが毒舌評価するのも分かる気がする」

 

「な、なんだとっ?!」

 

真守はホレグレスが騎士としては三流も良いところだとすぐに見抜く。

それでも真守はアシュリンから、言伝を授かっているのだ。

だから丁寧に、ゆっくりと英国語で伝える。

 

「騎士団長がちょっと使い物にならないから、いま伯母さまが『騎士派』の指揮を執ってるんだ。だから早く伯母さまに連絡をつけてくれ。ちなみに伯母さまは英国女王から正式に指揮権を賜っているからな。お前の行動は目に余るって、伯母さま怒ってたぞ」

 

真守の丁寧な英国語を聞いて、ホレグレスは顔を真っ赤にする。

 

「マクレーンなどという辺境貴族が出しゃばるな! どうせ戯言だ! これはイングランド貴族を貶める罠に違いないっ! 私は騙されないからな!!」

 

真守は厚顔不遜なホレグレスの言葉に、むーっと口を尖らせる。

 

「伯母さまたちのことを悪く言うなっ! このでぶっちょ!! 口の利き方と立場が分かってないのはどっちだ!」

 

真守はぷんぷん怒って、ピンッと人差し指で虚空を弾く。

すると、ホレグレスの顎下に強烈な一撃が入った。

 

「ほぐあっ!!」

 

ホレグレス=ミレーツは立派な甲冑を身に纏っている。

ミレーツが身に纏っている甲冑は超能力者(レベル5)である一方通行の攻撃を受けても、四肢が引き千切れて爆散しないほど強固だ。

だがその甲冑を貫通して、突然顎に衝撃が走ったのだ。

 

何が起こったか本当に分からないホレグレス=ミレーツ。

そんな男を睥睨して、真守はふんっと憤慨する。

一方通行(アクセラレータ)はホレグレスを逆さづりにしながら、真守を見た。

 

「オマエ、さっき俺に暴力振るうなって言ってただろォが……」

 

真守は一方通行に微妙な顔を向けられながら、ふふんっと得意気にする。

 

「簡単には手を出しちゃダメって意味だ。時と場合によっては、純粋な力が相手を屈服させる良いスパイスになる」

 

胸を張る真守を見て、一方通行は胡散臭そうにする。

垣根はふっと笑うと、真守の手を握った。

 

「真守の言う通りだ。この騎士サマは大悪魔に触発されて誰かを犠牲にしたんじゃねえ。元から性根が腐ってるから誰かを犠牲にできるんだよ。こういうヤツは力で立場を分からせるしかねえ。昔の誉望みてえにな」

 

真守は余計な一言が垣根から聞こえて、思わず遠い目をする。

 

「垣根……それ誉望が聞いたらすごく肩身が狭くなるだろうから、もう許してあげて。誉望も垣根と同じで、ちゃんと変わったんだから」

 

真守が遠い目をする中、一方通行がため息を吐く。

 

「オマエも手を上げた事だし、もォコイツやっちまってイイか?」

 

呆れつつも、一方通行は真守に一応お伺いを立てる。

真守は垣根にすり寄りながら、周りを見ないようにホレグレスに目を向ける。

 

「確かにこのでぶっちょは根性腐ってるかもしれない。でも、一応伯母さまと同じ『騎士派』に所属してる端くれだからな。伯母さまに確認を取る。……私がどんなに言っても、伯母さまの使いで来たって理解できないようだしな」

 

真守はふんっと憤慨すると、肩にくっついていたカブトムシに目を向ける。

 

「帝兵さん、伯母さまに繋げてくれ」

 

『はい』

 

カブトムシは真守にお願いされて、ヘーゼルグリーンの瞳を輝かせる。

すると、冷酷ながらも優雅なアシュリン=マクレーンの英国語が発された。

 

『ごきげんよう、ミレーツ卿? わたくしの可愛い姪を使いに寄越したのに信じないなんて、バカらしくて微笑ましいわ』

 

しょっぱなからフルスロットルな伯母に、流石の真守も慣れた。

だから特に気にする事なく、真守はカブトムシを抱き上げて、イイコイイコと角を撫でる。

するとそんな真守の前で、ホレグレスはぶらぶら逆さにされたまま叫ぶ。

 

「ま、マクレーン! 貴様どこから声を出してる! そのカブトムシはなんだ!!」

 

『あらあら。歴史しか取り柄のない、二○○年は何の功績も上げていない貴族のお荷物にそのようなことを言うとお思いになりまして?』

 

「こ、このっ!!」

 

ホレグレス=ミレーツは顔を真っ赤にさせたまま、言葉に詰まる。

何故ならアシュリンは嘘を言っていない。純粋な事実しか言ってないのだ。

そんなホレグレスに、アシュリンは畳みかける。

 

『ミレーツなんて二○○年前にちょっと一度活躍したくらいで、何をそんなに大きな顔をしていますの。特にあなたなんて、女王にも顔を覚えられていないくせに』

 

何も言い返せないホレグレスをいい事に、アシュリンはまくしたてる。

 

『大体そのだらしない体躯はなんだというの。もしかしてウチの当主に負けた時から剣を諦めてますの? 「清教派」の武闘派シスターにすら勝てない負け犬が、彼女たちをいいように捨て駒扱いするなんてずいぶんとご立派ですのね。笑ってしまいますわ。ふふふふふ』

 

アシュリンの軽やかな毒舌を聞きながら、真守は眉を寄せる。

 

(伯母さま、すごく生き生きしてる……)

 

すごく楽しそうな伯母の顔が思い浮かぶ。

そんな真守の隣で、一方通行はカブトムシに目を向けた。

 

「で、コイツはどォすりゃイイ?」

 

『そのだらしない体がまとっている特注(笑)の鎧は曲がりなりにも最高級だから、何したって簡単には死なないわよ。せめてカツオのタタキみたいに炙って差し上げて細切れにしないと』

 

「ほォ。お前より上等な貴族のお方が遠回しに許したンだから別にいいよなァ?」

 

一方通行は獰猛な笑みを浮かべる。

その笑みを見て、ホレグレス=ミレーツは自分の身が危険だと言う事をじわじわと理解していた。

 

「思う存分ぶっ飛ばしてもうっかり殺しちまう心配のねェ、しかも一ミリも罪悪感の湧かねェヤツってなァ、本当の本当に心の底から助かるンだよ!! その根性物理的に叩き直してやるからちったァ頑張りやがれェ!!」

 

一方通行はベクトル変換を十分に使って、ホレグレス=ミレーツを百叩きにする。

 

「あ、一方通行! 死なないって言っても流石にそれはマズいっ!!」

 

真守は一方通行を止めるために手を伸ばす。

垣根はそんな真守のことを抱き寄せて、腕に閉じ込めた。

 

「イギリスの膿はここらで取り除いておかねえとな。一方通行(アクセラレータ)に好き勝手やらせておけ」

 

「む。むむむ……確かに道理だけど。……一方通行っあんまりイジメちゃだめだからなっ!」

 

真守が声を掛けると、一方通行はホレグレス=ミレーツに渾身の一発を叩きこんだ。

するとホレグレス=ミレーツの体は、一〇〇〇メートル以上水平にぶっ飛んでいく。

 

そしてロンドンのランドマークである時計塔の文字盤のど真ん中に突き刺さった。

 

一方通行はチッと舌打ちをする。

そして空中を駆けると、真守の肩に乗っているカブトムシへと顔を近づけた。

 

「見てたか? ホレグレス=ミレーツはふっとばしておいたぜ」

 

『手を煩わせてしまい、ごめんなさいね。オルソラ=アクィナスが身にまとっている神威混淆についてこちらも調べをしているけれど、詳しいことはまだ分からないの。……馬車に情報が残ってないかしら?』

 

真守はアシュリンの頼みを聞いて、すっとホレグレス=ミレーツに手を向ける。

そして、目を細めて。ミレーツ卿から情報を読み取った。

 

「ミレーツさんは特に知らないな。止め方も知らないようだ」

 

真守は『流行』を冠する者として、ふむっと納得したように頷く。

 

「……まあ、最初に神威混淆を地脈に接続したあたりから、使い方が分からないってのは読み取れたが。……神威混淆は人が身に纏うコトで効力を発揮する。どうやらミレーツさんは再計算することで使い方を突き止めたらしい」

 

真守はオルソラ=アクィナスを視界に入れないように、ロンドンを見渡す。

ロンドンは悲惨な状況になっていた。古い建物は崩壊し、エジプトのよく分からない建造物も共に破壊され。その間を縫うように、極彩色の蔓が蔓延っている。

 

「コロンゾンの霊装のことは、コロンゾンの手先に聞くのが一番だと思う」

 

『真守ちゃん? それはどういうこと?』

 

アシュリンに問いかけられて、真守は淡々と告げる。

 

「アレイスターはあの悪魔のことを『命に似た何か』であり、器物であると言っていた」

 

真守は前置きすると、とある場所に目を向けた。

その方向にあるのは、先程アレイスターと共に悪魔を撃退したアパートだ。

 

「大悪魔コロンゾンのコトだ。あの悪魔に復元機能をつけていてもおかしくない」

 

あの悪魔。それはもちろん、大悪魔コロンゾンが用意して聖人・神裂火織に憑依させていたクリファパズル545の事だ。

 

コロンゾンの手先であるあの悪魔の方が、ミレーツ卿などという『騎士派』の端くれよりも情報を多く持っているに違いない。

 

真守は垣根にすり寄って、ふふんっと鼻で得意気に笑う。

 

「私はこれでも魔神を三体も再構築した人間だ。霧散している悪魔をかき集めて言うことを聞かせるくらいできる。……そして、私が導けば垣根も私と同じことができる」

 

垣根は真守の言葉に目を見開き、ふっと笑った。

垣根帝督は朝槻真守は学園都市から解き放った人物だ。

解き放たれて、『流行』へと至った真守。

そんな真守の世界を、垣根帝督は自らの力をフルに発揮すれば覗き込める。

 

「私にできる事は垣根にもできるんだから。だから一緒にやろう」

 

真守はふにゃっと笑うと、垣根の手を取る。

 

「もちろん一方通行(アクセラレータ)も一緒にできる事だぞ?」

 

真守は帰ってきた一方通行を見上げてにへらっと笑う。

 

「ふン」

 

一方通行は鼻で嗤うと、にこにこ微笑む真守へと近づいた。

 

「俺は見てる。どォせこの男がやきもち焼くだろォしな」

 

「うるせえよ」

 

垣根はじとっと一方通行を睨むと、真守を見た。

 

「俺を導いてくれ、真守」

 

「うん。何せ私はみんなを導くために先に神さまになったひとだからな」

 

真守は笑うと、握っている垣根の手を自分の胸元に寄せる。

 

「私は人のフォローをするのが大得意だ。それに垣根はもともと才能があるからな。私がちょろっと導けば後は自分でできるようになるぞっ」

 

真守が元気づける笑顔を見せる中、垣根は頷く。

そして真守のことを抱き上げると、未元物質(ダークマター)の翼を広げた。

 

純白のこの世には存在しない、彼方の世界にて輝く物質。

それによってできた、誰にも穢されない翼を広げた垣根は──愛おしい少女を抱きしめてふわっとその場から浮いた。

 


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