とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一三六話、投稿します。
次は一〇月一六日です。


第一三六話:〈再生構築〉と主従契約

クリファパズル545。

コロンゾンが創り出した、邪悪の樹を基とした憑依専門の悪魔。

アレイスターによって排除された悪魔だが、真守の推測通りコロンゾンはクリファパズル545に復元機能を付けていた。

 

その復元機能によってクリファパズル545がもう一度動けるようになるまで、もう少し時間がかかるはずだった。

 

だが真守の導きのもと、垣根帝督がクリファパズル545をかき集め、再構築した。

しかも垣根は自分や真守に反旗を翻せないように、クリファパズル545にストッパーとしていくらか数値を入力した。

 

その結果、真守と垣根から逃れることができなくなったクリファパズル545。

彼女はアレイスターと戦闘があった建物から少し離れた建物の屋上にて、ぺたんと屋上の床に座っていた。

 

『無理解、不寛容。お互いがお互いを諦めてしまう悪意を物理的な破壊へ変換したモノが、「 神威混淆(ディバインミクスチャ)」の正体ですぅ』

 

クリファパズル545はコロンゾンが造り出した霊装、神威混淆についての情報を口にする。

彼女は真守と垣根によって逆らえないように数値を入力されたため、二人の要望通りに神威混淆について喋るしかないのだ。

真守はふむっと頷くと、ちらっとロンドンの街並みに目を向ける。

 

「無理解・不寛容を攻撃に転用する、か。……だから人間に接続したらあれだけクロウリーを屠ることができたのか」

 

今もなおクロウリーズ・ハザードを蹴散らし続けている神威混淆。それを身に纏ったオルソラの姿を視界に入れないようにしながら、真守は情報を整理する。

 

人間は分かり合うことが難しい生き物だ。

自身の利益や目的を第一として、他人を蹴落とす。自己生存本能に基づく、この世界のあらゆる生物が逃れられない運命だ。

 

だが人々は心を持っている。だからこそ分かり合う事ができる。

その相互理解を極限まで邪魔をして、それを攻撃に転用する。

それが神威混淆という霊装の正しい力なのだ。

 

真守はクリファパズル545の説明を聞き、ちょっと呆れた様子を見せる。

 

「アレイスターは他人にどんな悪口を言われても悪者にされても、全然気にしなかったからな。むしろそれを逆手にとって好き放題悪事を繰り広げていたし……無理解・不寛容を力に転用する神威混淆はアレイスターに効きまくりだな」

 

アレイスター=クロウリーは英字新聞で好き勝手記事を書かれていた。

英字新聞とはその時代、貴重な情報源だった。そのため人々は英字新聞に書かれたアレイスターの姿を真実として、アレイスターのことを罵っていた。

 

アレイスターは事実無根の噂話をされても気にしなかった。むしろ嬉々として英字新聞と同じような振る舞いをして、場を混乱させていた。

 

人間とは根本的に分かり合えない。そう思っているアレイスターだからこそ、無理解・不寛容を攻撃に転用する神威混淆は対アレイスターの霊装になるのだ。

真守はアレイスターのことを考えながら、ピッと人差し指を立てる。

 

「これまで入手した情報を統合して推測すると、霊装の名前がエジプト神話とギリシャ神話のどっちの神さまもくっつけた名前なのは、最初から偏見や先入観の溝を織り込んだ霊装としてコロンゾンが造り上げようと画策したからだな?」

 

ラー=ゼウス、オシリス=ハデス、テフヌト=アルテミス、ワチェット=レト。

──そして、イシス=デメテル。

 

これは真守の伯母であるアシュリン=マクレーンから聞いた話だが、元々ギリシャ人はエジプト神話をきちんと学んで理解するつもりがなかった。

そして新たに発見された神々を簡単に容認する事ができず、結果として自身が崇める神の名前を無理やり対応させた。

 

ギリシャ人が適当に考えた、それでも何故か魔術として作用してしまう身勝手な解釈。

 

神威混淆とは、クリファパズル545を敢えて邪悪の樹の解釈を誤用して生み出したコロンゾンらしい手腕だった。

真守は存在している価値あるものを誤用する事で、半ばその価値を否定しているコロンゾンを考えて顔をしかめる。

 

「価値ある物事を小馬鹿にするしかできないとは、コロンゾンは本当にひねくれてるな。まあアイツの在り方に則っていえば、当然なんだろうけど」

 

真守がちょっと寂しそうにする。すると、垣根が面倒そうに目を細めた。

 

「数価、三三三『拡散』だっけか? 人と人の不和を生むアイツが神威混淆を作るっつうのは、納得できるモンがあるな」

 

真守は垣根を見上げて、にこっと微笑む。

 

「でもコロンゾンの在り方は、世界にとって必要なモノだけどな」

 

「……お前が生まれたようにか?」

 

「うん、その通りだ」

 

真守は垣根の言葉に、こくんっと頷く。

そしてちょっと距離を取って、垣根と一方通行(アクセラレータ)を見た。

 

真守のエメラルドグリーンの瞳は絶対能力者(レベル6)進化(シフト)した時から無機質であり、人形のように作りものめいたようになっていた。

 

だが『流行』に至った今は違う。優しい眼差しを秘めており、その奥に確かな意味を孕んでいた。

 

一方通行(アクセラレータ)と垣根は、真守から目を逸らせない。

目を逸らす気はないが、何故か今この場においてとても惹き付けられてしまうのだ。

真守はふふっと笑うと、妖しくエメラルドグリーンの瞳を輝かせた。

 

「万物は流転する」

 

朝槻真守は穏やかに淡々と、自らの在り方を口にする。

 

「この世界のあらゆるものは、絶えず変化し続ける。私は元々、新たな定義を流れに加えながらも、世界をどこまでも進み続けさせる事がその能力名にも刻まれていた」

 

世界の仕組みを動かし続け、絶えず世界を進み続けさせる。

それが朝槻真守の本質だ。

そして正当な進化を経た真守は、人々が生み出す流行りや廃りなどを司る『流行』へと至った。

 

「コロンゾンはある意味、世界にとって必要な存在だ。何故ならその真髄は世界を滅ぼし、次へと至るために必要な破壊だからな」

 

一方通行(アクセラレータ)と垣根は黙って真守の話を聞く。

真守はエメラルドグリーンの瞳を柔らかく細めると、コロンゾンについて思いを馳せる。

 

「自然分解。コロンゾンは世界に滅びを与えるコトにより、新しい時代を到来させるために存在する。世界を壊して生まれ変わらせる。その壊す役割を、コロンゾンはその身に刻まれている」

 

コロンゾンの在り方を肯定するような事を、真守は告げる。

一方通行(アクセラレータ)は朝槻真守が敵に回るのかと思った。

だが垣根帝督はそう思わなかった。だから真守に問いかける。

 

「コロンゾンの()り方をお前は否定しねえ。でもコロンゾンが今やってる事は間違っている。だからお前はコロンゾンを止めにイギリスまでやってきたんだよな?」

 

「うん」

 

真守は垣根の確認に笑みを浮かべる。

そして腕に抱いていたカブトムシをぎゅっと抱きしめた。

 

その時。後ろから真守の後光のように神威混淆から放たれた一撃が、クロウリーズ・ハザード数百体を滅亡させた。

 

ロンドンに似つかわしくないエジプト紛いの風景と世紀末を背に、真守は告げる。

 

「神に隷属する時代は終わった。そして人々は自由になった」

 

神に隷属する。それは即ち、十字教単一支配下における人々の在り方だ。

 

「人々は真なる目覚めを迎えたんだ。そして一人一人が神へと至る時代が到来しつつある」

 

一人一人が神へと至る時代。

それは即ちアレイスター風に言えば十字教が支配するオシリスの時代が終焉を迎えたという事だ。

そして時代は人々が真なる目覚めを果たすホルスの時代へと、明確に移行しつつある。

 

朝槻真守は先駆けの乙女として、人の枠組みから外れる事無く一足先に神へと至った。

そして朝槻真守を『(しるべ)』として、人々が一人一人、自らの望む姿へと進化する時代でもある。

 

「人々は自分の在り方に則って、自由に生きる。その時代がやってきたんだ。素晴らしい時代が始まったばかりなのに、世界を壊すなんて間違ってるだろ?」

 

アレイスターの言うホルスの時代が始まったのは一九〇四年のエイワス召喚によって最後の審判が示された時だ。それからまだ一〇〇年ほどしか経っていない。

 

そして朝槻真守が『(しるべ)』となれるように正当な進化を遂げたのはつい最近だ。

これから人々は真守に導かれて、変わっていく。それなのにその変化を壊されたらたまらない。

だから『流行』を冠するに至った真守はコロンゾンを止めに来た。

 

朝槻真守が『自然流行』を冠するに至ったように、世界は変わりゆくものである。

だから遥か昔に『自然分解』を自らの()り方だと決められたコロンゾンが、いつまでもその在り方を全うしなければならない道理はない。

 

「……俺は、お前がやりたいようにやりゃあいいと思ってる」

 

垣根は柔らかく微笑んで真守に近づき、その頬に手を添えた。

 

「でも俺は絶対にお前の隣にいたい。お前が大事にする世界より、俺はお前の方が大切だ」

 

「えへへ。私も垣根がいないと困る。とても寂しい」

 

真守は柔らかく微笑むと、自分の首から下げているお守りを握る。

学園都市の停止した機能を再び蘇らせるためのワクチンソフト。

それを手にしながら、真守は目を細める。

 

「もちろん私は一方通行(アクセラレータ)も一緒が良いな。そして学園都市のみんながいないと、私はとても困る。すごく寂しく思ってしまうから」

 

真守は柔らかい笑みを浮かべている一方通行へ目を向ける。

一方通行は、優しい眼差しで真守を見た。

 

「とってつけたよォに言わなくていい。……ちゃんと分かってる」

 

真守はふふっと幸せそうに笑う。

そして二人を前にして、宣言する。

 

「全部を救って帰ろう。それが私たちにはできる。絶対にな」

 

真守が柔らかく告げると、垣根はそんな真守を抱き寄せた。

真守は垣根の腕の中でくるっと回転すると、クリファパズル545を見た。

 

「さ。悪魔ちゃん、もう少し詳しく教えてくれないか。大丈夫。私はお前にもできる限り優しくしたいと思ってるぞ?」

 

真守がにっこり微笑むと、クリファパズル545は内心思う。

 

この少女はどうやら、自分を造り上げた大悪魔と同じ立場へと人の身ながらも至っているらしい。

それならば媚びを売っておくことも大事だ。

何故ならクリファパズル545は、こんなところで終わりたくないからだ。

 

もちろん垣根によって再構築されたクリファパズル545には、絶対服従の数値が埋め込んである。主人は未だに空席だが、それでも真守と垣根には逆らえないのだ。

 

だからクリファパズル545は、神威混淆の解除方法について口にしようとする。

だがそれを、一方通行(アクセラレータ)が止めた。

 

「オイ悪魔、ちょっと待て」

 

『はいですぅ?』

 

クリファパズル545は一方通行の言葉に首を傾げる。

そんな悪魔の前で、一方通行は真守と垣根を見た。

 

「コイツ、貰ってもいいか?」

 

「ん。一方通行、悪魔ちゃんが欲しいのか?」

 

真守が問いかけると、クリファパズル545は驚愕の声を上げる。

 

『ひひ!?』

 

朝槻真守と垣根帝督と同じくらいヤバそうな存在、一方通行(アクセラレータ)

一方通行はクリファパズル545に手を加えていない。手を加えずとも、一方通行は力任せでクリファパズル545を従わせればいいと考えている。

クリファパズル545は一方通行のその意図に気が付いており、ぶるりと震える。

そんな悪魔を睥睨して、一方通行は眉をひそめた。

 

「アレイスターの野郎が科学と魔術を切り分けちまったせいで、俺は世界の片側しか理解できてねェ。今からもう片方を学び直すってのも周回遅れだ。モノの本質が分かるまで、迂闊に手を出して後悔したくもねェ」

 

ここに来るまで、多くの魔術を見てきた。

それは一方通行(アクセラレータ)にとって未知のものだ。

触れてきた事のない世界。うかつに手を出せば、火傷してしまう。

世界を分断した彼(女)のことを考えて、一方通行は真守を見つめる。

 

「俺はオマエみたいにヤツを手放しで信用できねェ。だからカードが必要だ。オマエたちは自分の手札を応用して魔術を使うことができるが、俺はあいにくとそォなれるまで時間がかかる。そォいう意味でも周回遅れだ」

 

「だから必要な時に必要な知識と力を。そのために悪魔ちゃんが欲しいってことだな」

 

一方通行は真守の確認に肯定の意味を込めて頷く。

正直、自分のできないことをおおっぴらに宣言するのは避けたいことだ。

だが真守たちの前でカッコつけることはない。

 

あの無能力者(レベル0)にはそういうところを見せたくないが、自分の悪側の本質を理解している二人になら知られてもまあいいかと思うのだ。

真守は一方通行を見て、にっと笑う。

 

「いいぞ、一方通行(アクセラレータ)にあげる。垣根と私が入力した、悪魔を束縛する数値を教えておく」

 

『ひぃ!?』

 

自分の所有権を勝手に引き渡されて、当然として声を上げるクリファパズル545。

そんなクリファパズル545を見て、真守は微笑む。

 

「私と垣根にはエルダーさまやケルトのコト以外は何でも教えてくれる伯母さまたちがいるからな。無条件でアドバイザーになってくれるひとがいるのはとても良いコトだ」

 

クリファパズル545は真守の自分に対する扱いに思わず泣きそうになる。

真守はそんなクリファパズル545の頭を優しく撫でた。

 

「大丈夫だぞ、一方通行(アクセラレータ)は身内になったひとは何が何でも守ってくれるから。……お前もまだ自由な訳じゃない。だから守ってもらえ」

 

クリファパズル545はあくまでコロンゾンに造られた人造悪魔だ。

そのせいで製造者に逆らえない。

だが自分か垣根、それか一方通行のそばにいれば自由は保障されるのだ。

クリファパズル545は真守の言わんとしていることを理解して、一方通行を見た。

 

「オマエはもォ俺のモンだ」

 

クリファパズル545は一方通行のその言葉に、目を見開く。

何故だかその一言が胸に響いた。

だから驚いたまま、クリファパズル545は一方通行を見つめる。

 

「どォ使ってどォ進ンで、どォ落ちを付けるか俺が決める。オマエの命は俺が切れ端の端まで有意義に使ってやる。──それが契約だ、どォだ悪魔」

 

一方通行はニヒルに笑って、クリファパズル545を睥睨する。

 

「そォいうの得意だろ?」

 

『………………は、はいぃ……っ!』

 

クリファパズル545は一方通行に気圧されたまま、こくんっと頷いた。

この胸の高鳴りは何だろう。

その意味を知るために、彼について行くのはアリな気がする。

クリファパズル545は感じたことのない想いを胸に抱いて、どきどきしていた。

所謂──一目ぼれのように。クリファパズル545は胸を高鳴らせていた。

 


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