とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一四一話、投稿します。
次は一一月一三日月曜日です。


第一四一話:〈黄金対峙〉で見定める

朝槻真守たちは大悪魔コロンゾンを打ち倒すために、イギリスへとやってきた。

 

イギリスの中心地であるロンドンは、コロンゾンの悪意によって満ちていた。

アレイスターを倒すためだけに用意された霊装、神威混淆(ディバインミクスチャ)

その神威混淆を運用するために生み出された、人造悪魔であるクリファパズル545。

 

真守たちの手によって、ロンドンに悪影響を及ぼしていたコロンゾンの悪意は排除された。

そして真守たちはコロンゾン打倒のため、ウェストミンスター寺院へと来ていた。

 

コロンゾンは今も死んだメイザースとの契約に縛られていると、アレイスターは睨んでいた。

明確な主従関係がある。そしてその契約とは、メイザースの肉体に依存してもいる。

だからアレイスターはコロンゾンを止めるために、メイザースの遺体を求めてウェストミンスター寺院を目指したのだ。

 

だが墓の下にサミュエル=リデル=マグレガー=メイザースの遺体はなかった。

そしてアレイスターが倒したはずのメイザースが、真守たちの前に現れた。

 

魔術の栄華を築き上げた『黄金』の傑物たちを連れたメイザース。

対して、魔術を憎悪して『黄金』を破滅へと導いたアレイスター=クロウリーが生み出した科学の申し子たち。

 

彼らが対峙する中──ウェストミンスター寺院の墓地に、爆発が轟く。

 

爆発を起こしたのは『黄金』を束ねる男、メイザースの四大元素の象徴武器(シンボリックウェポン)──ではない。

数奇な運命を辿り、科学の申し子として『流行』へと至った朝槻真守だった。

 

真守はまず、目くらましとして閃光を放った。

メイザースたちは、突然の閃光に防御姿勢を取る。

真守はそれを注意深く観察しながら、ローファーの先で地面をとんっと蹴った。

 

ロンドンの地中には、ガス管が埋め込まれている。

そのガス管を源流エネルギーで刺激して、爆発を引き起こしたのだ。

突然の、地中からの大爆発。

鋭い地響きが辺りを揺らし、爆発がウェストミンスター寺院を染め上げる。

 

「──この程度で。『黄金』の最たる俺に何を期待すると?」

 

メイザースは炎の壁の向こうから、真守たちに声を掛ける。

真守は五体満足のメイザースを炎の壁越しにはっきりと知覚した。

 

(この感じ、やっぱり人間じゃない)

 

かつて同胞と共に『黄金』を設立した男。サミュエル=リデル=マグレガー=メイザース。

あの男は、近代西洋魔術の全てを知り尽くしたアレイスターに通用する魔術を使った。

アレイスターを恐怖させた。それはつまり、あれは紛れもない本物のメイザースなのだ。

 

だが、あれが生身の肉体だと朝槻真守は思えない。

銀の少女へと至ったアレイスターとは、違う気がする。明らかに感触が違う。

試しに源流エネルギーによる攻撃ではなくガス管爆発という物理的な攻撃をしてみたが、それでも人間だとは思えない。

 

(メイザースは私が放った閃光には反応した。五感は人間と同様のものだろう。でも組成は全然違う。なんてことない生身の人間の感覚じゃない)

 

『黄金』のウェストコットは不死身の魔術を使っていた。

魔術ならば、あらゆる不可能を可能にすることができる。現にアレイスターも『窓のないビル』でコロンゾンに打ちのめされたが、美少女転生を果たして生きている。

 

(魔術に不可能はない。でも、あのメイザースの肉体は一〇〇年前からそのままってわけじゃない)

 

真守は静かに頭を回しながら、メイザースを警戒する。

 

(とはいってもメイザースや『黄金』を源流エネルギーで『焼失』させるのは避けなくちゃならない。揺り戻しが激し過ぎる)

 

朝槻真守はこの世でただ一人、源流エネルギーを操ることができる能力者だ。

源流エネルギーは全てのエネルギーの源。しかも存在を『焼失』させる力がある。

源流エネルギーによって焼き尽くされた人間は生きた痕跡を残さずに、この世から消え失せる。

ひと一人が、痕跡もなく消える。それは世界の在り方に影響が及ぶ。

だから焼失した人間の穴を埋めるように、人々の記憶が書き換わる。

 

『黄金』を創り上げた一角。超有名人であるサミュエル=リデル=マグレガー=メイザース。

彼を源流エネルギーで焼き尽くすのは避けるべきだ。

そしてその他の名だたる『黄金』も同様である。

 

あまりにも有名人であり多くの人間に強い影響力を与える存在を焼失させるのは悪手だ。

『黄金』を築き上げた人間の代わりなんていない。多くの人間に認知されている者を源流エネルギーで『消失』させれば、世界に多大な影響が及んでしまう。

 

気を付けなければ、この世界が崩れてしまう。

 

だからこそ、真守は様子見の攻撃をした。

その一撃によって、分かる事が多々あった。

アレイスターは確実に情報を集めつつある真守の隣で、にっこりと微笑む。

 

「私は魔術と知り合う前は科学的興味を追求する少年でな」

 

アレイスターが幼少期のことを口にすると、メイザースは怪訝な表情をした。

 

「それはつまり、諸々の迷信を具体的行動によって証明せねば気が済まない人間でもあった。今でも悪い事をしたと思うよ。猫には九つの命が宿っていると迷信の真偽を確かめるために、ホントに何度も何度も重ねて殺してみる必要はなかったと」

 

黒猫系美少女である真守は、アレイスターが猫を実験台にしたと聞いて大変嫌な気持ちになる。

遠い地では『みゃっ!?』と声を上げ、突然走った悪寒に体を震わせる銀猫系貴婦人もいた。

そんな猫系一族の前で、アレイスターは先程までの震えを一切見せずに笑う。

 

「何事も実験と観察だよ、メイザース。不気味な猫と添い遂げた男よ」

 

調子を取り戻したアレイスターは、科学の街の王らしい顔を見せる。

 

「不可解な現象が目の前で展開されている以上、実験と観察が必要だ。私はそれを積み上げることで、科学サイドと学園都市を造り上げた。成功も失敗もひっくるめてな。……気づいた頃にはもう遅い。貴様を雁字搦めに縛り上げ、丸裸にしてくれよう」

 

アレイスターは宣言すると、柔らかい唇を再び動かした。

 

「何しろ数が必要なんだ。こんな事をしている間に、次が襲い掛かるぞメイザース」

 

その言葉と共に、ブゥゥゥンという音が響き渡る。

いつの間にかメイザースや『黄金』の周りには、無数の白いカブトムシが展開されていた。

 

朝槻真守のために垣根帝督が造り上げた人造生命体であるカブトムシ、通称帝兵さん。

垣根帝督は朝槻真守を害する全てから守りたいと考えていた。だからこそ垣根はカブトムシに片っ端から使える技術を埋め込み、その機能を何度も刷新してきた。

 

彼らは『更新』が続く限り、未元物質(ダークマター)を生成できる。

そんなカブトムシたちから『黄金』へ向けて、物体を確実に破壊する超音波が放たれる。

メイザースは異能による攻撃を感知して、即座に動いた。

 

「温にして湿、風よその性質を我が前に示せ」

 

短い、洗練された呪文。それが放たれた瞬間、突風が吹き荒れる。

超音波とは空気を振動させる事により伝わる。

そのため垣根の指示でカブトムシが生み出した破壊力しかない超音波は防がれた。

 

だが。垣根帝督が率いるカブトムシたちの攻撃だけでは終わらない。

 

ツンツン頭の男子高校生、上条当麻はカブトムシに注意が逸れたメイザースを見据える。

そして前に出て、その右拳を強く握り込んだ。

上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)が宿った右拳はが、メイザースの顔面の真ん中を捉える。

 

あらゆる魔術を打ち消す、基準点ともなりえる幻想殺し。

自身にとって最悪の追儺霊装である幻想殺しを前にしても、メイザースは冷静だった。

 

「寒にして湿、水よその性質を我が前に示せ」

 

メイザースは幻想殺しに向けて、四大属性の水に基づく魔術を放つ。

その魔術は、当然として上条当麻の幻想殺しに打ち消される。

異能が打ち消される甲高い音が響く。

それと共に、上条当麻の拳の軌道がわずかにズレた。

 

「なっ……!」

 

上条当麻は驚きを隠せない。

メイザースは魔術を一枚隔てたことで、幻想殺し(イマジンブレイカー)を宿した拳の軌道を逸らしたのだ。

魔術を打ち消されることを前提として、魔術を行使する。そして自分に殴りかかってくる幻想殺しの持ち主の攻撃を逸らす。

それはかつて一度、幻想殺しによって敗北したメイザースの策だった。

 

「続けて、温にして乾」

 

メイザースは幻想殺し(イマジンブレイカー)と上条当麻の拳から身を守り、呪文を続けて口にする。

するとメイザースの周りを踊っていた四つの象徴武器の内、火の杖の底が上条当麻の方を向いた。

 

「火よその性質を我が前に示せ」

 

杖の底がオレンジ色にジジジッと点滅する。

上条当麻は拳を振り抜いた状態だ。

その無防備な状態で眼球や喉を一突きされたって問題なのに、洗練された魔術の炎による攻撃ならば致命傷は避けられない。

 

それでも、上条当麻はメイザースの攻撃を受けなかった。

 

一方通行(アクセラレータ)の不意打ちの拳が、真横からメイザースの頬骨を打ったからだ。

 

垣根帝督のカブトムシによる致死性の超音波。それに紛れた上条当麻の幻想殺し(イマジンブレイカー)

それすらも囮にした、一方通行の攻撃。

 

なんだかんだ言いつつも似た者同士である彼らが、阿吽の呼吸ができないはずがない。

一方通行の拳によってメイザースは吹き飛び、多くの墓石を砕きながら地面に転がる。

凄まじい衝撃で緩く地面が震えた攻撃だが、一方通行はチッと舌打ちした。

 

「アイツが違和感覚えたよォに、まともな人体の設計図を思い浮かべて攻撃するンじゃ話にならねェって訳か」

 

一方通行(アクセラレータ)は『反射』による全身の血管と神経をズタズタにする演算をしていた。

だがメイザースには傷一つ見られない。

しかもメイザースは首の一つも鳴らさずに、のっそりと起き上がった。

 

大仰に吹っ飛ばされたのは、お遊びに付き合っているから。

そう言いたげな態度で、メイザースは笑った。

一方通行は余裕たっぷりのメイザースを見つめる。

科学の申し子たちを睥睨して、メイザースは笑う。

 

「この俺は欧州全土にカバラを広め、魔術の洋の東西を切り分け、たかだか身内の粛清に『蠅の王』まで持ち出したクソ野郎だぞ? 科学だ魔術だ、そんなオブラートに意味はない」

 

メイザースは断じると、アレイスターを睨む。

 

「若輩よ、コロンゾンの味を忘れたか。もう一度ここに召喚でもしてくれようか?」

 

「構うな」

 

アレイスターは脅しをかけてきたメイザースの前で、ぱちんっと指を鳴らした。

 

「元々何の根拠もなく自分はハイランダーの末裔グランストラエ伯爵などと寝言を吐く輩だった。いちいち舞台俳優じみた大仰で無意味な振る舞いに付き合う必要はない」

 

「ふうん。そういうトコが私のご先祖様であるエルダー=マクレーンさまに嫌がられてたんだな」

 

真守が流ちょうな英国後でぽそっと呟くと、メイザースの顔が一瞬引きつった。

真守はにこっと笑う。そんな真守を見て、メイザースは警戒を露わにした。

 

よくよくみれば、黒猫系少女には見覚えがある。

ケルトの一族。マクレーン家。その一族の容姿に、真守はよく似ている。

東洋の血が入ったと分かる、真守の黒髪。

それでも知っていれば、ケルトの一族だと分かる容姿をしている真守。

 

魔術の家系を引き継ぐ混じりもの。それがある意味強敵な存在になってもおかしくない。

 

真守は、まっすぐとメイザースを見た。そして鋭く目を細める。

メイザースを見据えて、真守は意識の中でメイザースへと手を伸ばした。

 

朝槻真守は絶対能力者(レベル6)を経て、『流行』を冠するにまで至った。

そのため意識をすれば、人間でも事象でも干渉することができる。

干渉して、制御して。自分の思うがままに流用することができる。

メイザースに、干渉する。それが真守にはできる。

 

だが、上手くいかなかった。

大悪魔コロンゾン。その気配が、メイザースにまとわりついていた。

 

(コロンゾンか。やっぱりメイザースを守、って…………?)

 

真守は、ふと違和感を覚えた。メイザースは真守に干渉されようとしていた事に気が付いていない。真守は意識を向けただけだ。そのため、メイザースは気が付かなかった。

 

(おかしい。なんか……()()()()()()()()?)

 

真守は心の中で思いながら、感じた不可解さに眉をひそめる。

訝しむ真守の隣で、アレイスターはメイザースを見て嗤う。

 

「メイザース、一つ一つの成功失敗は重要ではない。それはブライスロードの戦いが引き起こされる以前から、分かっていた事だろう?」

 

かつてアレイスターは『黄金』を内側から滅ぼすために、わざとメイザースに負けた。

たった一度の敗走。それによって、アレイスターは『黄金』を滅ぼせしめたのだ。

 

「失敗の積み重ね。私はそれを繰り返し、挫折に呑まれながらも前に進み続けてきた。その積み重ねはビッグデータの如く、貴様を雁字搦めに縛り付けて丸裸にする」

 

ブライスロードの戦いを引き起こす前から、アレイスターは常に失敗を糧にして突き進んできた。

今一度アレイスターが同じことをすると宣言した途端、夜空を何かが覆い尽くした。

それは『窓のないビル』でコロンゾンに肉体を破壊された事により、体から解き放たれたアレイスター=クロウリーの可能性たちだった。

 

「クロウリーズ・ハザード!?」

 

上条は驚いて声を上げる。

そんな上条の隣で、アレイスターはいたずらっぽく笑った。

 

「誘導しておいて悪いがこちらも制御不能だ。せいぜい足掻けよメイザース」

 

アレイスターはどんな可能性でも、自分のやりたいようにやる。

だから元の肉体からベイバロンをモチーフにした可能性に転生したアレイスターでも、クロウリーズ・ハザードを制御することは不可能だ。

 

メイザースはクロウリーズ・ハザードを見上げて、ため息を吐いた。

そして火の象徴武器である杖の底で、軽く地面を何度か叩いた。

 

すると。ウェストミンスター寺院のあらゆる建物の屋上や屋根で控えていた『黄金』の魔術師が一斉に動いた。

 

クロウリーズ・ハザードはイギリス連邦に所属する五三カ国を混乱の坩堝に陥れ、ロンドンすらも陥落せしめた集団だ。

だがそんな怪物集団を、『黄金』の魔術師たちは圧倒していた。

 

クロウリーズ・ハザードは様々な魔術の花によって細切れになる。

血と肉と臓物。その他もろもろ無機物などをまき散らし、ぼとぼとと地面にクロウリーの無数の残骸が叩きつけられる。

 

ウェストミンスター寺院の尖塔の先が、戦闘の余波によって吹き飛ぶ。

上条当麻は『黄金』がクロウリーズ・ハザードを蹂躙する姿を見て眉をひそめた。

 

『黄金』はロンドンの街並みが破壊されても、何も思っていないようだった。

つまり『黄金』はイギリスを守るために配置されたのではないということだ。

では何のために?

その疑問を持っていると、朝槻真守が呆然とする上条を呼んだ。

 

「(上条。見てる場合じゃないから。今のうちに撤退するぞ)」

 

「えっあ?」

 

上条が声を上げる中、アレイスターは真守の言葉に捕捉する。

 

「(ハナからあんなもんで勝利できるなどとは期待していない。今はデータを集める段階だと何度も説明しているだろう? 敵の魔術師が得意としている術式は帝察さんで撮影済みだ。こんな辛気臭い墓地に留まり続ける理由はない。さっさと行くぞ)」

 

「逃がすと思うか?」

 

アレイスターが小さい声で囁いていると、鋭い声が響いた。

少し離れた場所。そこにはメイザースがいて、アレイスター達を睨んでいた。

 

「逃がすと思うか?」

 

上条はメイザースの冷酷な視線に射抜かれて、ぞっと怖気立つ。

そして二人の怪物へと声を掛けた。

 

一方通行(アクセラレータ)、垣根、頼む!!」

 

「チッ」

 

「貸しだからなッ!」

 

一方通行はベクトル操作を使って、墓地の地面を蹴る。

激しい地響きと共に、土が爆発したように舞い上がった。

その舞い上がった土。その全てが大小さまざまな鋭い金属破片へと変化した。

 

その変化は垣根帝督の未元物質(ダークマター)によるものだ。

土を鋭い金属片へと変化させ、一定の時間で連鎖的に爆発する法則を未元物質で生み出したのだ。

一方通行、垣根帝督のコンビネーション。

真守はそれに嬉しくなりながら、上条とアレイスターに手を伸ばした。

 

「二人共、手を!」

 

上条は真守の右手をガッと掴み、アレイスターは真守の左手を掴んだ。

 

「朝槻、頼む!」

 

真守は二人の手をがっしり握る。

そして二人に負荷が掛からないように真守は手を引っ張って飛び上がり、垣根と一方通行(アクセラレータ)と共にその場から離脱した。

 


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