次は一一月二七日月曜日です。
『黄金』への対抗策として、即席の武器を作るためにホームセンターへと向かう真守たち。
真守は自分の感じたことについて考えて、そして整理をする。
「あのな、アレイスター」
だが真守がアレイスターに声を掛けたところで、ぶーんっとカブトムシが飛んできた。
『話の腰を折ってすみません、真守』
「どうしたんだ、帝兵さん?」
真守は飛んできたカブトムシのことを、ぎゅっと抱きしめる。
『アシュリン=マクレーンが話をしたいそうです』
「伯母さまが? そっか、心配かけちゃってるもんな」
真守はちらっとアレイスターを見る。そして一方通行がいなくなっている事を確認した。
一方通行は真守たちと違い、魔術に対してあまり知識を持っていない。
そしてアレイスターに対しても一方通行は懐疑的だ。そのため自分が悪魔と契約したという事実をアレイスターに伝える気はない。
だからこそホームセンターに向かわずに、真守たちと一旦別れていた。
その事実に気が付いている真守。そしてアレイスターも一方通行がいない事に気が付いていたが、特に何も言わなかった。
敷かれたレールはすでにない。そのためアレイスターは一方通行を束縛する気がないのだ。
真守は一方通行の事を認識しながら、アレイスターを見た。
「アレイスター、ちょっと待ってて。時間が欲しい。伯母さまと話したいのもあるケド、頭の中を整理したいんだ」
「分かった、ではまた後でな」
真守は頷くと、垣根と一緒にホームセンターの入り口でアレイスターと別れる。
そして、その場で真守はカブトムシへと目を向けた。
『真守ちゃん、今いいかしら?』
「うん、大丈夫だぞ。一応落ち着いたところだ」
真守の言葉に嘘はない。『黄金』には追われているが、今のところ追手は来ていない。科学技術で対抗するために工作する時間もある。
時間が作れたのは意外とクロウリーズ・ハザードが役に立ったこともあるし、真守たちが完全にここまで来る痕跡を消したからでもあった。
「伯母さま、とても心配をかけて申し訳ない」
『問題ないわ』
アシュリンやカブトムシの向こうで軽やかに微笑む。
『わたくしの事なんか気にせずに、真守ちゃんは真守ちゃんがやりたいようにやればいいのよ。……ただ、真守ちゃんが何をするか教えてくれたらわたくしも安心できるのだけど』
「うん。私も伯母さまに心配かけたくないから。ちゃんと話すぞ」
真守は笑うと、ウェストミンスター寺院であったことを軽く説明する。
「契約に縛られているコロンゾンのことをメイザースの遺体で操ろうとしたんだけどな。遺体を探してたら死んだはずの『黄金』の魔術師たちが現れたんだ」
『「黄金」? 「黄金」とは、イギリス最大の魔術結社のあの「黄金」なの?」
「うん、伯母さまも知ってるあの『黄金』だ。……あのメイザースはアレイスターに一撃を与えることができる魔術を使った。アレイスターに対抗できる魔術は、『黄金』以外に存在しない。だからアレは本物の『黄金』だ。対処しないといけない」
『黄金』。それは近代西洋魔術史にとって、あまりにも偉大すぎる組織だ。
その組織に名を連ねていた者たちは、全員が傑物。それをアシュリンも理解している。
『「黄金」はイギリスの一大魔術結社だった。でも彼らが『王室派』やロンドン自体に遠慮してくれるわけじゃない。だったらこちらは予定を繰り上げなければならないわ』
「予定?」
真守がきょとっと目を見開いて首を傾げると、アシュリンは真守に説明する。
『スコットランド地方へと「王室派」の方々を避難させるのよ。クロウリーズ・ハザードが消え去ったとしても、ロンドンは危険だわ。だから一度撤退する手筈が整えられているの。わたくしは「王室派」に同行する予定よ』
どうやら『王室派』の方は『王室派』で動いているらしい。
真守はふんふんっと頷くと、カブトムシ越しにアシュリンへと微笑みかける。
「分かった。英国女王たちはこの国に欠かせないから。伯母さまたちも気を付けて。『黄金』は私たちを狙ってるけど、どう出るか分からないから」
『ありがとう、真守ちゃん。気を付けるわね』
真守はアシュリンとの会話を終える。そして、目を細めた。
「垣根、伯母さまと話をしていて自分の感じたことが整理できた。行こう」
「……ったく、お前は。あんまり無理するんじゃねえぞ」
垣根は頭をフル回転させていた真守の頭をぽんっと撫でると、心配の目を向ける。
真守はふへへっと笑うと、嬉しそうに垣根を見上げた。
「ありがとう、垣根。垣根が心配してくれるのは本当に嬉しい。気を付けるね」
「そうしろ」
垣根は頷くと、真守と共にアレイスターのもとへと向かう。
ホームセンターは広いが、アレイスターは案外見つけやすいところにいた。
「アレイスター。私の話を聞いてくれるか?」
「ん、問題ない。話してくれ、手を動かしながら聞こう」
アレイスターは真守の言葉に返事しながら、即席の兵器を作るために手元を動かす。
するとホームセンターの奥から、チューブやら何やらを上条が持ってきた。
真守は作業中のアレイスターが分かりやすいように、簡潔に情報を整理する。
「あのメイザースたちは一〇〇年前から生きているわけじゃない」
上条当麻は真守の言葉に首を傾げる。
「? それってどういうことだ?」
真守は一つずつ、情報を整理しながら口を開く。
「
真守はカブトムシの背中に触れて、情報を整理しながら告げる。
「どんな存在か分からないから、とりあえず干渉しようと思ったんだ」
最早朝槻真守は
できないことはないし、やろうと思えば全てに干渉して意のままに操ることができる。
「普通の人間なら、私の干渉に抗うことはできない。魔術だろうが科学だろうが、どうしたって私の干渉を跳ねのけることはできない。……でも、ダメだった」
真守は自分の感じた事を丁寧に思い出しながら、アレイスターを見た。
「あの『黄金』はコロンゾンに守られていた。……いいや、その表現は少し違うな。あの『黄金』はコロンゾンに
アレイスターは思わず手を止める。
上条当麻は真守の言っていることが分からずに、首を傾げる。
「? 何がおかしいんだ? コロンゾンがバックにいるんだから朝槻の……干渉? が跳ねのけられてもおかしくないだろ?」
「私たちの行動の原点に戻ってみよう、上条」
真守は人差し指を立てて、上条当麻を見る。
「そもそも、私たちは何をしにウェストミンスター寺院に行った?」
「ええと……コロンゾンをメイザースの遺体で操るために、メイザースの遺体を探しに行った……はずだよな?」
「その通りだ」
真守はそこで言葉を切ると、上条当麻をまっすぐと見た。
「契約とは、絶対なんだ。それを見落としてはいけない」
今この時だけ。上条当麻は真守がただの普通の女の子ではないと感じた。
真守の超常的な存在という側面が前面に押し出されていると、上条は感じた。
事実。真守は超常的な存在へと至った者として、口を開く。
「契約をしたならば、超常的な存在は絶対に契約を果たされなければならない。召喚に応じたならば、その召喚に応えた時点で契約を交わさなければならない」
真守はこの世界に降ろされた者ならば、必ず縛られるものについて話す。
「召喚とは供物を基に行われるものだ。その供物を捧げられて召喚に応えた時点で、超常存在には契約に応える義務がある」
『流行』を冠した者として、真守は契約の大切さについて話す。
「コロンゾンはメイザースに召喚された。コロンゾンはメイザースの召喚に応えた時から、メイザースの契約に応える義務がある。メイザースの命令は、アレイスターの邪魔をしろ。できれば抹殺しろ。だからコロンゾンはアレイスターを執拗に狙っていた」
「……確かイギリス清教に対アレイスター用の部署を置いてたとか、そーいう……?」
垣根は微妙な情報を覚えている上条に、呆れる。
「真守が言いてえのはコロンゾンが今も確かに、絶対にメイザースとの契約に縛られてるってことだ。コロンゾンはメイザースと明確な主従関係にある。メイザースが主で、コロンゾンが下僕。それくらいはバカでも分かるだろうが」
「一々罵倒しないでください垣根さん……」
上条はちくちく言葉が激しい垣根にぐさぐさ体を刺されて悲しそうにする。
真守はくすっと笑うと、話をまとめる。
「私は『黄金』がコロンゾンの支配下にあると感じたんだ。だが本来ならば、メイザースがコロンゾンを契約で支配しているハズなんだ。主従の関係と立場が逆転してる。そうだろ?」
あ、と上条当麻は納得がいって声を上げる。
垣根はここまで解説しないと分からない上条当麻のバカさ加減に嗤いもできない。
上条は必死に頭を回して、はっと声を上げる。
「じゃあ……えっと、『黄金』はコロンゾンによって蘇生させられたとか? その時にコロンゾンが主従の逆転をさせる魔術を何か使ったとか……?」
「それもおかしいコトになるんだ。もしコロンゾンがメイザースを復活させたとしても、コロンゾンが契約に縛られてる現状、あのメイザースがコロンゾンの支配下にいるハズがない」
真守は何度も口にしているが、契約というのはとても重いものだ。
そして超常的な存在を、明確に縛るものでもある。
召喚に応じた時から、超常存在は召喚した者を主と定める必要がある。
それが召喚に応えるということだからだ。
そして超常的な存在とは、自らの在り方に則って人々を導くものである。
囁く者であるならば、囁く者として人々を惑わせる。
叡智を授ける者であれば、召喚した者にとって最適な叡智を授ける。
そうやって自分の在り方に則って、召喚された者は動くのだ。
「契約は絶対。だがあのメイザースたちは逆にコロンゾンに支配されている。だからメイザース含める『黄金』がアレイスターみたいに現代まで生き延びていたというのは、少し違う」
「じゃああのメイザースたちは偽物だってことか?」
首を傾げる上条当麻に、黙っていたアレイスターは問いかける。
「キミは今存在しているエルダー=マクレーンを偽物だと否定できるかね?」
真守はアレイスターの問いかけに、小さく目を見開く。
そんな真守に気が付いたのは垣根帝督だけだった。
そして上条当麻はアレイスターの問いかけに真面目に答える。
「……朝槻のご先祖様は本人が偽物じゃなくて、地続きだって認識してるんだ。それに俺は偽物だとは思わない。誰かがそう決めつけるなら俺は間違ってるって言う」
「そうだろう」
アレイスターは上条の言葉を聞いて、満足そうに笑う。
「つまりそれと『黄金』の連中も一緒なんだ。だからヤツらはどうあがいても腐っても本物なんだ。だからこうして私の持てる技術で対抗策を構築する必要がある」
「エルダーさま。そうか、最後のピースはエルダーさまだったんだ」
突然呟いた真守を、アレイスターと上条は見る。
「あのメイザースたちは、コロンゾンに支配されている」
真守は真相への糸口を見つけたことを、説明する。
「本来ならば、コロンゾンを支配するメイザースがコロンゾンに支配されている。体の組成的に、あのメイザースはコロンゾンの手が隅々にまで入り込んでいる。だからただの蘇生ではない。ただの蘇生ではコロンゾンはメイザースを支配できないからな」
真守は自分たちが収集した情報を基に、告げる。
「ただの蘇生ではない。あのメイザースはコロンゾンに命令を出せない。だったら、コロンゾンに命令を出せるメイザースはどこにいるんだ? 生死は関係ない。でも確かにいるハズだろ。だって、契約がまだ生きているんだから」
アレイスターは真守の発想の転換を聞いて、思わず手を止める。
「あのメイザースは、まるきり違うものであり本物である。一度完璧に断絶したが、いまもなお生きている」
真守は情報を整理して、アレイスターを見つめる。
「……なあ、アレイスター。いまお前は、私たちのすぐ近くにいて、『黄金』たちと同じ状況のひとの名前を──口にしただろう」
アレイスターは真守のことを見上げる。
真守を見上げるアレイスターのは、真守の面影に永遠の友を見ていた。
「一度終わって断絶した。だがそれでも死んだ自分と今の自分は地続きであり、今の自分は変容しながらも本物であると考えるひとを、私たちは良く知ってる」
エルダー=マクレーン。真守の先祖であり、アレイスターの永遠の友。
彼女は死んだ。だがアレイスターが人工知能として再現して、いまは魔導書の『原典』として動いている。そして──アレイスターの娘の世話をしている。
「…………ま、さか……?」
「よく考えてみろ、アレイスター」
真守は超常的な存在として、アレイスターに問いかける。
「なんで『黄金』は私たちがメイザースの遺体を求めたあの時に登場したんだ? アレイスターが憎くてしょうがないなら、ウェストミンスター寺院で待ち構えている必要はない。やりたいときに準備をして、アレイスターの首を取りにくればいいだろう」
一〇〇年前のブライスロードの戦い。
あそこからメイザースたちが生き残っていれば、本当にアレイスターが憎いのであれば。学園都市を強襲してくれば良いのだ。
学園都市を落とせそうな隙は、これまで何度もあった。
しかも隙はそれだけではない。学園都市が建設されるそれよりももっと前。
アレイスターがイギリスの僻地で死にそうになっている時。あの時だって、アレイスターを亡き者にできるタイミングだった。
だが真守たちがウェストミンスター寺院でメイザースの遺体を探していたあのタイミングで、メイザースたちは姿を現した。
それに意味がある。そう考えるべきなのだ。
「『黄金』がエルダーさまと同じ魔導書の『原典』であると仮定すると、全ての辻褄が合うんだ」
何故、メイザース率いる『黄金』は真守たちがメイザースの遺体を求めた時を狙って現れたのか。
何故、本来ならば絶対的な主であるメイザースがコロンゾンに支配されているのか。
何故、メイザースの肉体は人間の組成とかけ離れているのか。
どうして真守は、メイザースの肉体の組成にどこか既視感を覚えたのか。
幾つもの不可解な点。それがあの『黄金』たちを魔導書の『原典』として仮定したら、すんなりと疑問が解けるのだ。
「あの『黄金』は、コロンゾンが用意したトラップなんだ。ウェストミンスター寺院にコロンゾンを操ることができるメイザースの遺体がある。そう思った人間を一網打尽にするために、コロンゾンがカウンターとして造り上げた──魔導書の『原典』である『黄金』たち」
大悪魔コロンゾンは、アレイスターのために何重にも策を講じている。
意趣返しをたくさん含みながら、コロンゾンはアレイスターに対抗している。
「『黄金』もコロンゾンの意趣返しなんだ。アレイスター、お前はエルダーさまを魔導書の『原典』として動かしている。その意趣返しとして、コロンゾンは『黄金』を魔導書の『原典』として運用してるんだ」
アレイスターはウェストミンスター寺院に辿り着く前に、コロンゾンが用意した対アレイスター用の霊装である神威混淆と対峙している。
その神威混淆で仕留められなかったアレイスターを、確実に仕留めるために用意した罠。
それが『黄金』ではないか。そう真守は言っているのだ。
「メイザースの遺体を探されると、コロンゾンは困るんだ。だからコロンゾンは『黄金』を神威混淆で仕留めきれなかった敵のために、『黄金』を第二のトラップとして用意した」
朝槻真守は、収集した意味が見いだせない情報より正解を導き出した。
それは神のような所業だった。事実、真守は『流行』へと至った存在である。
神であり、人であり。そして真なる者である。
「コロンゾンは安全装置として、『黄金』を用意した。本当にあの大悪魔はメイザースの遺体に触れてほしくないのだろう」
真守は淡々と告げる。そして、コロンゾンを追い詰める疑問を口にした。
「ならば、本物のメイザースの遺体はどこにあるんだろうな?」