とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一四四話、投稿します。
次は一二月四日月曜日です。


第一四四話:〈真実到達〉で怪物が解き放たれる

「……見落としていた。というか、『黄金』が現れて当初の目的を忘れていた」

 

アレイスター=クロウリーは思わず呟く。

 

「朝槻真守の言う通り、契約とは絶対的なものだ。超常的な存在である者たちを縛る枷。契約とは彼らにとって、ある意味自らをこの世に繋ぎ留めるために存在する命綱だ。……何があっても、契約は守られるべきもの。そこが大悪魔コロンゾンの弱点となる」

 

大悪魔コロンゾンは、メイザースと契約を交わしている。

アレイスター=クロウリーの邪魔をしろ。すべてを奪い、あわよくば抹殺せよ。

 

その契約は必ず守られるべきものだ。だからコロンゾンは『窓のないビル』まで、アレイスターを抹殺しに来た。科学に興味があるらしいが、それは二の次。コロンゾンが何よりも優先するべきなのはメイザースとの契約なのだ。

 

「スコットランドだ」

 

アレイスターは『黄金』への対抗策を練る手を止めて、指をぱちんっと鳴らす。

 

「スコットランド貴族グランストラエ伯爵。ウェストコットの『シュプレンゲル書簡』並みにたわけた『設定』だが、舞台設定好きのメイザースはスコットランドを殊更大事にしていた」

 

アレイスターは仇敵の設定好きを皮肉って、笑みを浮かべる。

 

「そもそもあのメイザースがロンドンに骨を埋めるというのもちょっとピンとこなかった。ロンドンは確かにメイザースが生まれ育った町だが、必ずしも楽しい思い出ばかりとは限らない。……ヤツが固執するとすれば、それはスコットランド方面だと相場が決まっている」

 

真守はアレイスターの解説を聞いて、ふむっと頷く。

 

「召喚された超常的な存在は契約者に依存する。コロンゾンがローラ=スチュアートと名乗っているのも、コロンゾン自身には何もないからだ。だから自分のかりそめの名前を付けるにしても、霊媒とした者の名前や契約者が大事にしているものになる」

 

コロンゾンがアレイスターに対して意趣返しを何度も行っているのも、コロンゾン自身にはこの世に所縁がないからだ。

 

もちろんコロンゾンには数価、三三三『拡散』という役割がある。

だが召喚された際に契約に縛られるコロンゾンは、どうしても自分を召喚したものと契約内容に依存してしまう傾向があるのだ。

 

「……なあ、アレイスター。一つ確認したいことがある」

 

真守は最大限警戒した様子を見せて、アレイスターを見る。

 

英国女王(クイーンレグナント)や『王室派』はイギリスにとって重要な魔術的象徴となっている。それが大移動をすると、やっぱり何か弊害があったりするのか?」

 

アレイスターは真守の問いかけに、面白そうににやっと笑う。

 

「『王室派』なんていう魔術記号がイギリス内を大移動すれば、あらゆる術式が英国女王を受け入れるために解除される。そうでなくとも、魔術的記号の大移動の圧によってあらゆる魔術が解かれてしまうだろう。アシュリン=マクレーンから何か言われたのか?」

 

「うん。『王室派』の方々を、スコットランド方面へ退避させると言っていたんだ」

 

「契約に縛られているコロンゾンは、おそらくスコットランド方面にメイザースの遺体を隠している。場所的にいえば、エディンバラ城辺りが濃厚だな」

 

アレイスターはくっくっくと笑うと、手元を再び動かし始めながら告げる。

 

「コロンゾンのことだ。おそらく隠してあるメイザースの遺体には隠匿魔術を掛けているだろう。だがそれは『王室派』の大移動によって消滅する……絶対に暴かれてはならないものを守るには、コロンゾンに安全装置として生み出されたメイザースはなんでもやるだろう」

 

上条はアレイスターの言葉にぎょっと目を見開く。

 

「じゃ、じゃあ『王室派』の人たちが『黄金』に襲われるって事か?」

 

上条が驚く中、真守は真剣な表情で頷く。

 

「アレイスター、私は伯母さまたちを守りに行く。大切な人が襲われるかもしれないのに、黙って見ていることなんてできない」

 

「そうだな。あなたはすぐに『王室派』を守りに行くと良い。彼女たちの大移動は重要なものだ。いずれそこが戦場となる」

 

アレイスターはにやりと笑い、『黄金』が出し抜けそうだとほくそ笑む。

 

「女王陛下たちの動向を知らない『黄金』の今の狙いは私だ。だから私が囮となり、それと同時に手ごろな『黄金』でおそらく魔導書の『原典』として組み上げられたヤツらの仕組みを暴き、無力化する。それで良いか?」

 

「大丈夫だ。私はすぐにここを離れる」

 

真守は頷くと、垣根を見上げた。

 

「垣根、私と一緒に来てくれるか?」

 

「当たり前だろ。お前が大事にしたい人たちを傷つけさせるわけにはいかねえ」

 

垣根は真守の頭を優しく撫でて、アレイスターを睨む。

 

「テメエはきちんと『黄金』の注意を引け。そんでメイザースたちを壊す算段を必ず付けろ。真守の推測に間違いはねえ。だから魔導書の『原典』としての『黄金』の仕組みをちゃんと暴け」

 

「分かってる。囮はきちんと全うするよ。ただ動き出したキミたちを気にする『黄金』の数人が、そちらに向かう可能性は高いな」

 

アレイスターの言い分に垣根は、ぴきっと頬を引きつらせる。

真守はくすくすと笑うと、垣根の手を取った。

 

「垣根、行こう。伯母さまたちには指一本触れさせない」

 

「……ああ、そうだな」

 

垣根は真守と手をしっかり繋ぐと、アレイスターたちと別れた。

ちなみにショッピングセンターを出る前に、真守は一方通行(アクセラレータ)に声を掛けた。

詳しい理由をカブトムシが話すと、一方通行は軽く手を振った。

そして真守はアシュリンに連絡をして、詳細は伏せるが合流する事を伝えて。

ピカデリーサーカスのショッピングセンターから飛び出した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

二匹の怪物が、イギリスの夜へと飛び出す。

その二人とはもちろん科学の申し子である朝槻真守と垣根帝督だ。

 

人の枠組みから外れることなく、自身を世界に合わせて永遠に最適化し続けられる真守。

『無限の創造性』によって愛おしい少女と同等の力を発揮する事ができる垣根帝督。

 

真守は蒼閃光(そうせんこう)で造り上げられた猫耳と尻尾をぴょこんっと現出させる。

蒼ざめたプラチナの翼。それを広げれば、朝槻真守は十全に力を使うことができる。

だがそこまで力を使うと、垣根に怒られるのだ。

そのため真守は猫耳をぴょこぴょこっと動かして、レーダーのように辺りを捜索する。

 

「垣根、三人いる。あれは倒して行こう」

 

真守は蒼閃光で造り上げられた尻尾をゆらんっと揺らしながら、自分を追う垣根に声をかける。

 

「オイ、真守てめえ……ッ!!」

 

「? なんでキレてるんだ? ちゃんと垣根の言った通り、力は制限してるぞ?」

 

真守は顔をしかめて、未元物質(ダークマター)の翼を広げて怒っている垣根を見上げる。

垣根は真守を力強く睨むと、声を大きくした。

 

「お前スパッツはどォした!!」

 

真守はきょとっと目を見開く。

そして垣根の怒りの意味を知って無表情になると、面倒くさそうに目を細めた。

 

確かに真守はセーラー服の下にスパッツを穿いていない。直パンツである。つまり、スカートを翻らせて飛ぶとパンツが見えるのだ。

 

「おい真守! お前、俺が用意してたモンはどこにやった! 捨てたのかよ!」

 

「垣根がわざわざ用意してくれたモノを私が捨てるわけないだろ。でもちょっと気に入らなかった。だからちゃんと空間転移で学園都市の自宅に送ったよ」

 

「無駄に力を使うんじゃねえ! 力使うなって念押ししてたよなァ!?」

 

「えーだってスパッツあんまり好きじゃないんだもん」

 

真守は口を尖らせて、優雅に宙を舞いながら怒る垣根を振り返る。

その瞬間、ひらっとスカートがめくれ上がった。

真守の下着が垣根の目に飛び込む。

 

ちょうちょ結びがひらひら舞う、黒にゴールドの縁取りがされた──ちょっと大人でえっちな紐パンツだ。

垣根はわざとパンツを見せた挑発的な真守に、脳裏でブチッと何かが切れる音が響く。

 

「スパッツあんまり好きじゃないんだもんとか、かわいく言うんじゃねえ!! エロい下着は百歩譲って許す、ただ他の奴らに見せるんじゃねえ!!」

 

「わー独占欲強い。戦場でも垣根は私のぱんつ見られるの嬉しいだろ?」

 

真守はスカートの裾を摘まんで、垣根にパンツが見えないぎりぎりまでたくしあげる。

 

「ベッドの上では嬉しいが街中では嬉しくねえよ! 痴女みてえなことするんじゃねえ!」

 

「痴女というのはぱんつを穿いてないひとのコトを言うのだぞ」

 

「パンツみせようとするのも同じだボケェ!!」

 

垣根が大声を上げる中、真守は標的を見定める。

 

「スパッツなんてどうでもいいだろ。行こう、垣根」

 

「あ、ちょっと待て真守っ!!」

 

真守は垣根の事を無視すると、上空から『黄金』へと迫る。

先行してアレイスター=クロウリーを迎撃しにやってきたのは三人だった。

 

三人の内、一人は女だ。

白い花やヴェールで彩られた赤いショートの髪。色白で一五〇センチにも届かない体躯。

フリルたっぷりのミニドレスは白がベースで、桜色の飾りがちりばめられている。

 

ミニドレスに派手な色のタイツを合わせた彼女は『黄金』の魔術師、ダイアン=フォーチュンだ。

 

彼女と共に行動する後の二人は男だ。

ベストにスラックス、そして仕立て屋のように首にメジャーを回している男──アーサー=エドワード=ウェイト。

そして黒衣の裁判官じみた服を着ているジョン=ウィリアム=プロディ=イネス。

 

五階建てのビルで話をしていた彼らに、真守は躊躇いなく鋭いスピードを出して突っ込む。

真守は姿勢を低くして、音を最小限にしてしゅたっと屋上に着地する。

能力を解放して猫耳猫尻尾を出しているので、その姿はなおさら猫のようだ。

 

「なっ!?」

 

ダイアン=フォーチュンが突然現れた真守に驚く中、真守は両手を地面につく。

そして倒立すると、真守はアーサー=エドワード=ウェイトとジョン=ウィリアム=プロディ=イネスに、両足を思いきり開いてそれぞれに鋭い蹴りを繰り出した。

二人が真守の両足によって凄まじい速度で吹っ飛ぶ中、ダイアン=フォーチュンは叫ぶ。

 

「く、黒の紐パンっ!?」

 

ほぼ倒立みたいな状態から足を開いて二人の男へ同時に蹴りを繰り出したために、当然としてダイアン=フォーチュンには真守の下着ががっつり目に入っていた。

 

ダイアン=フォーチュンが驚く中、アーサー=エドワード=ウェイトとジョン=ウィリアム=プロディ=イネスは吹っ飛んだ先の建物を破壊して沈黙する。

 

真守は蹴りを繰り出した足をピンッと天へ向けて伸ばす。

そして倒立から軽やかに飛んで地面へと降り立つ。

真守は一気に踏み込んで、黒い箱を慌てて生み出したダイアン=フォーチュンの腹に向かって強烈なパンチを繰り出した。

 

ダイアン=フォーチュンは音速を超えた真守の拳によって、大きく吹き飛ぶ。

そして真守たちがさっきまでいたショッピングセンターの壁へと叩きつけられた。

すると当然の如く壁には放射線状にヒビが入り、クレーターができあがった。

 

「ちなみに同性っぽいからぱんつを見せただけで、二人の『黄金』の男にはぱんつ見せてないぞ、垣根」

 

真守は一応補足をしながら、自分の鋭い拳で建物にめり込んだダイアン=フォーチュンを見る。

彼女は建物に鋭くめり込んだ後、受け身を取ることができないまま、地面にぼとっと落ちた。

 

真守の強烈な一撃を喰らったダイアン=フォーチュン。

だが彼女は、次の瞬間には体を軋ませながらも立ち上がろうとしていた。

 

「この感触……やっぱり私の推測は間違っていないだろう。細かい仕組みはまだ理解するのに時間はかかるケド、人間ではないと仮定すればやっぱり色々な疑問がすんなり解けるな」

 

独り言ちる真守。そんな真守に、近づく影が二つあった。

アーサー=エドワード=ウェイトとジョン=ウィリアム=プロディ=イネス。

真守の背後から近づいた彼らは、突然降ってきた垣根帝督によってその攻撃の手を阻まれた。

 

「俺の女に背後から手ェ出してんじゃねえよ」

 

垣根は苛立ったまま威圧感を放ちながら鋭く告げると、背中から生えていた純白の未元物質(ダークマター)でできた翼で二人の男を薙ぎ払った。

垣根に吹き飛ばされた二人の男は、立ち上がろうとしていたダイアン=フォーチュンに激突して沈黙する。

垣根は敵を軽く排除すると、真守のことを睨んだ。

 

「オイ真守ッ! あんまり好き勝手するんじゃ──」

 

「む!」

 

真守は怒る垣根の前で、ぴくんっと猫耳を模した蒼閃光(そうせんこう)でできた三角形を揺らした。

真守は地面に目を向けた後、その視線を動かして夜空を見上げた。

 

「垣根、怒ってる場合じゃないっ! ──来るぞ!!」

 

真守が叫んだ瞬間、垣根は怒りを忘れてはっと息を飲む。

ピカデリーサーカスのネイキッドショッピングセンターの上空。

そこで、純然であるのに不安定な『力』が渦巻いていた。

その不安定な『力』は次の瞬間──ショッピングセンターを襲った。

 

「真守!」

 

垣根は突然ショッピングセンターに降り注いだエネルギーの塊から真守を守るために声を上げる。そして即座に真守を抱き寄せて、未元物質(ダークマター)の翼で覆い守った。

 

垣根の翼にショッピングセンターを純粋な『力』が穿ったエネルギーの余波が襲い掛かり、未元物質の翼が焼ける。

 

その瞬間、異変が起こった。

垣根の翼に当たったエネルギーの余波が黄色い閃光と共に風を生み出し、垣根と真守の背後の建物を切り刻んだのだ。

 

垣根帝督は魔術の法則を理解していない。

それは一方通行(アクセラレータ)も同じだ。だから魔術に対して科学の力で抗おうとすると、普通ならありえない現象が引き起こされてしまう。

 

大覇星祭にてオリアナ=トムソンと垣根帝督が対峙した時と同じだ。

あの時オリアナの炎の術式を未元物質(ダークマター)の翼で受けたら、緑の閃光と雷に変化した。

その現象が、今も再び起こっていた。

 

垣根はそれでも、高純度のエネルギーの塊から自身と真守と守り抜いた。

真守は崩壊したショッピングセンターを翼の隙間から見つめて垣根を見上げた。

 

「アレイスターたちは?」

 

カブトムシ(端末)で確認した限り、瓦礫に埋もれちゃいるが問題ねえ。全員無事だ」

 

真守は垣根からそう聞かされて頷く。

 

「じゃあ大丈夫だな。……先行してきた三人も余波に巻き込まれて沈黙したようだし、私たちは伯母さまたちを助けに行こう」

 

「そうだな。……だけど、その前に」

 

垣根は鋭い視線で真守を睨み、真守の腰をがっしり掴む。

そしてスカートの下に、未元物質(ダークマター)でできた純白の翼の先をするっと滑り込ませた。

 

「ヘンタイっ!」

 

「うるせえ!! いま未元物質(ダークマター)でかわいいの作ってやるから黙ってろっ!!」

 

垣根は暴れる真守の事を押さえつける。

そして垣根は未元物質で真守の好みに合う、純白のアンダースコートを作ってあげた。

 

「む、かわいい。これならまあアリかな」

 

真守はスカートをぴらっとめくって、垣根が造ってくれたアンダースコートを見る。

フリルたっぷりで腰にリボンがかわいらしくついている、垣根お手製のアンダースコートだ。

デザインが気に入った真守は、ご機嫌に尻尾を揺らす。

 

「さすが垣根、私の好みよく分かってる」

 

真守が満足して耳をぴょこんっと動かす中、垣根はため息を吐く。

 

「たくさん作ってやるから、制服着たら絶対に下に穿けよ」

 

「えー」

 

「えーじゃねえ!! あんまり聞き分けの悪ぃこと言ってるとマジで許さねえぞ」

 

「それは嫌だな」

 

真守はふふっと笑うと、垣根にすり寄る。

 

「遊びはここまでにしよう、垣根。ちゃんとアンダースコート穿いたから」

 

真守はにこっと笑うと、垣根の手を引く。

そしてそのまま、夜空へと躍り出た。

 

「頑張ろう、垣根」

 

真守はアレイスターから離れた自分たちを追ってくる『黄金』の気配を感じながら笑う。

垣根は大きくため息を吐くと、幸せそうな真守を見た。

 

「……あんまりおイタするんじゃねえぞ。俺のいないところにいくな」

 

「ふふ、大丈夫。ロシアの時みたいにはいかない。垣根とずぅっと一緒にいる。一緒にいるって、約束したから」

 

朝槻真守は垣根の腕にすりよって、柔らかく微笑む。

死が二人を分かつ事はない。何故なら朝槻真守と垣根帝督に死の概念は存在しないから。

 

文字通り永遠を誓い、何が何でも一緒に戦う事を決めた二人に敵はない。

コロンゾンだって打破してみせる。

それを決意した二人は柔らかく微笑むと、王室派を守りに行く前に『黄金』と対峙した。

 


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