とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一四五話、投稿します。
次は一二月一一日月曜日です。


第一四五話:〈各地点在〉にて行動を

朝槻真守が垣根帝督にスパッツを穿けと怒られている中。

名も知れぬオアシスでは、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)がトレーラーハウス内に様々な機材を並べていた。

それらの大体は冥土帰しの鞄の中に入っていたものだった。

だがその大半は医療器具ではない。

 

手回しのドリルやノコギリなど、日曜大工の道具の精度を上げたような品々だ。

だがエルダー=マクレーンはそれに特に驚かない。

本当に極めた人間は、どこにでも売ってそうな基本的な道具を使う。

 

それはアレイスター=クロウリーもそうだ。事実として、アレイスターは現在ショッピングセンターの日曜大工コーナーで、音響を用いた破壊兵器を作成していた。

 

「そこのコーヒーメイカー借りるよ」

 

「うむ」

 

「冷凍庫に製氷皿はあるか? ボウルに詰めてガラス管を通せば蒸留と凝固はやりたい放題だ」

 

「分かった、用意しよう」

 

エルダー=マクレーンは頷くと、製氷皿でできている氷の量を確かめる。

この隠れ家を用意した土御門元春は抜かりない男だ。

氷はすでに使える状態で、きちんと用意してあった。

冥土帰しは辺りを見回して思考する。

 

「ジューサーがあるんだね。だったら遠心分離器に使える。スチームオーブンは手を加えれば煮沸消毒器になるね。哺乳瓶用のものじゃ小さすぎるから」

 

ブラックライトを見つけた冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は電源側の出力をイジり、紫外線消毒の機能をつける。

そして収納ケースを見つけてくると、接着剤で埋めて隔離作業台に。

ホームシアター用のプロジェクターは分解して手を加えて、オシログラフへ。

 

次から次へと、冥土帰しは日用品や電化製品を精密作業のできる医療器具に変えていく。

その様子を見守っていた木原唯一は目を白黒させていた。

 

木原というのは最先端を操る一族だ。

最先端を研究するための場所は、すでに十分な土台が用意されている。

そのため生活用品や家電製品から医療器具を生み出す事なんて考えた事もなかった。

木原唯一はリビングのソファに座ったまま、思わず呟く。

 

「……本当に彼は何者なのでしょうか」

 

木原唯一は呟きながら、傍らに伏せている木原脳幹の包帯を避けて黄金の体毛を優しく撫でる。

 

魔術師、アラン=ベネット。

またの名を仏門の僧侶スワミ=マイトラナンダ。

ロンドンにおいて阿片中毒となっていたが、なんとか生き延びてセイロンでヨガを学びながら養生した結果、見違えるほどに健康体になった。

 

……なんてありそうでありえなさそうな、でも確かに考えられそうな嘘を使っていいとアレイスター=クロウリーは冥土帰しに冗談で言ったが、そんな嘘は必要ないのだ。

 

何故ならエルダー=マクレーンと冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は、英国の辺境で出会って友となっていたのだから。

心を通わせた友ならば、謎に包まれた正体や出自など関係ない。

 

「して、具体的にはどうやってリリスの器を用意するのだ? 垣根帝督の代替技術をオマエが使うとは思えぬのだが。しかもアレを使ったとしても、ワタシたちに魂が降ろされるのを遮断するコトはできぬ。そうなれば赤子のために一人の赤子を使ってしまうコトになる」

 

垣根帝督の代替技術というのは垣根帝督が真守のそばにいなかった時、朝槻真守を神として必要とする者たちを降ろすために用意された肉体を造り上げるための細胞技術だ。

 

だがその技術は学園都市の最新設備を必要としている。しかもその技術を使って赤子の体を用意すれば、その赤子に意思──魂が宿ってしまう。

 

そうなればリリスのために、一つの命が使い潰されてしまう。この場に真守がいれば簡単にできただろうが、ロンドンで事態解決に奔走している真守を頼る事はできない。

 

何にせよ、学園都市の最新技術をこの場でできるとは思えない。

そう思うエルダーに冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は丁寧に説明する。

 

「ここ最近、DIYバイオという言葉が普及していてね。余計なカビや雑菌を排除するのが大変だけど、細胞増殖それ自体はさほど苦労するものではないよ?」

 

「? それはバナナやジャガイモで作った培地を滅菌させてガラス瓶に詰め、その上にスーパーで買ってきたひき肉を乗せて培養するというアレか? 確かあの技術はガン細胞と同じで、無秩序に増殖を繰り返すでだけであろう?」

 

エルダーは愛らしく小首を傾げる。

エルダーは目の前のカエル顔の医者の事を良く知っている。だから彼にできない事はない。

だが専門の道具があったとしても難しいのに、トレーラーハウスという場所でできるのだろうか。

 

「テロメアをコントロール下においてガン化プロセスを遮断する。外にある普通の技術でも、テロメアーゼ酵素の注入実験によって老化現象を抑制する事ができる段階にある反復配列TTAGGGに反応するある種の酵素を培養して一定量確保した上で複製元のサンプル細胞に注入してやればいい」

 

冥土帰しは言葉を切って、アシュリンに分かりやすいように説明する。

 

「ざっくりまとめてしまえば、異質な細胞を後付けで正常な状態に戻してやればいいのさ。この方法なら、体のどの部位もガラス瓶の中で作りたい放題。僕やキミが懸念している、赤子一人の命を使い潰さなくて済む」

 

「ふむ。それだと失敗する事もあるのだな。よぅし、ワタシがいっちょシミュレーターとしての高性能演算機能を駆使して補助してやる。いまのワタシは計算なら大得意だ」

 

「頼もしいね? じゃあ遠心分離機は任せていいかな? モニタリング用に念のため、三つの計測機器を増やしておきたんでね?」

 

エルダーはご機嫌に尻尾を揺らすと、気が付いたように猫耳をぴょこんっと揺らした。

 

「この場には何でも造れる帝兵と帝察がおる。足りないものがあれば二人に話すと良い」

 

「彼の人造生命体だね? 分かったよ?」

 

エルダーはカブトムシとトンボを呼びつけて、自分に割り振られた仕事を始める。

彼らは本当に旧友らしい、と木原脳幹はその姿を見て思っていた。

何故なら互いの事を信頼しきっているからだ。

 

一〇〇年程度前の友情で、今ある命を救おうと協力する。

しかもその救おうとしている命は彼らの共通の友人の娘なのだ。

 

なんともロマンのある話じゃないか。

 

木原脳幹が静かに尻尾をブンブン振っていると、木原唯一はそれに目を細めた。

あのまま『復讐者』として終わっていたら、自分は再び先生と共にいる事はできなかった。

 

『復讐者』として終われなくて。助けられて、温情を掛けられて、前を向かされて。

『復讐者』ではなくなったただの蛇足を自分は歩んでいくんだと思っていた。

 

だが、こんな蛇足も悪くない。いいや、これは蛇足ではないのだろう。

大切な先生といつまでも一緒にいられる、そんな幸せな日常が続くのだ。

木原唯一はそう思って、木原脳幹の背中を優しく撫でた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

バッキンガム宮殿。

英国女王と『王室派』に連なる者たちが住まう、英国にとって神聖な場所。

真守と垣根はアレイスターと別れて、再びバッキンガム宮殿へと戻ってきた。

 

アレイスターは上条と一方通行(アクセラレータ)と共に、現在の『黄金』の情報を集めるべく『黄金』の拠点であるイシス=ウラニア別館の、石造りのアパートへと向かっていた。

真守は『騎士派』に案内されて、垣根と共に伯母であるアシュリン=マクレーンのもとへと急ぐ。

 

「伯母さま、来たぞっ」

 

真守たちが案内された場所はバッキンガム宮殿の裏手だ。そこでは『王室派』の面々をスコットランド方面に逃がすための馬車が用意されていた。

 

馬車列の手前。

そこでアシュリン=マクレーンは、地面に無様に転がった英国女王の事を縄で締め上げていた。

 

ご丁寧にピンヒールを履いた片方の足を不敬にも英国女王に乗せて、思いきり縄で英国女王のことを縛り上げていた。

 

「お、伯母さまが英国のトップを地面に転がして縄で締め上げてるっ!!」

 

真守は一体何がどうなってるのか分からず、思わず目の前に広がっている状況を叫ぶ。

 

「ど、どうしてそんなことに……っというか、周りの騎士たちも伯母さまに力貸してる!」

 

アシュリンと英国女王を囲む騎士たちは、アシュリンに縄よりも強靭な拘束具を渡すために構えている。しかも中には、英国女王の口に布を当てて黙らせようとしている者までいた。

何が何だか分からない真守。

そんな真守に気が付いたアシュリンは、にこっと微笑む。

 

「あら真守ちゃん。お疲れ様、早かったわね」

 

アシュリンは笑顔を見せながら腕を引いて、ぎゅうっと英国女王を強く締め上げる。

布を口にかまされた英国女王は、ふがふがと声を上げる。

アシュリンはにこにこと笑いながら、英国女王を締め上げて紐でくくる。

 

「真守ちゃんと帝督くんなら馬車を走らせ始めても余裕で追いつくと思ったけれど、それはやっぱり大変だからぎりぎりまで待とうと思っていたの。でもこれなら、準備ができれば定刻よりも早めに出発できそうね」

 

笑いながら、騎士が持っていた拘束具で英国女王を締め上げるアシュリン。

多くの『騎士派』の騎士たちに囲まれて支援されながら、英国女王を簀巻きにするアシュリン。

真守はおずおず躊躇いながらも、アシュリンへと近付く。

 

「伯母さま……どうして英国女王を簀巻きに……?」

 

「この高貴なる猪突猛進なお方はね、困ったことにロンドンに残って『黄金』と戦うなんて仰ってるのよ。だから縛って縄で括り付けて馬車に放り込んで連れて行く必要があるの」

 

「ええー…………」

 

真守は思わずふがふが声を上げている英国女王を見る。

英国女王は自分を縄で縛り上げるアシュリンに文句を言っていた。

 

文句を言っているのだが、その文句は『不敬な扱いをするな』ではなく『私も戦える!』という主張だと真守は読み取った。

真守は思わず呆れた表情で、本来ならばかしずく存在である英国女王を見下ろす。

 

「本当に英国女王って好戦的なんだな……。政治のトップが前線で戦うってどーいうコトだ。というか魔術の国である英国は魔術的象徴として英国女王という存在が必要不可欠だろ。ここで死ぬなんてコト、一番あっちゃだめだろ……」

 

真守はアシュリンによって完膚なきまでに締め上げられ、その上から『騎士派』の騎士たちによって魔術的に拘束される英国女王を睥睨する。

真守の隣にいた垣根帝督も、呆れて英国女王を睥睨していた。

 

「こんなのが国のトップでよく国が持ってたな。あのバカで無鉄砲で万年失敗野郎の統括理事長だって不必要には前に出なかったぜ」

 

「垣根。こんなのなんて言っちゃダメだぞ、不敬になる。……たぶん」

 

真守はちょっと自信がなくなって、思わず声量が小さくなる。

そんな真守たちの前で、拘束された英国女王は馬車へと『騎士派』の騎士に担がれて去っていく。

アシュリンは不敬罪としても確実に見えてしまう大役を成し遂げてから、真守を見た。

 

「二人共ケガはしていないわよね? 『黄金』の魔術師を相手にしていたのでしょう?」

 

「大丈夫だぞ。私と垣根は最強だからな」

 

真守はふふっと笑う。そんな真守の頭を、アシュリンは優しく撫でた。

 

「それで、伯母さま。首尾はどうなってるの?」

 

「英国女王はとっ捕まえたし、後は第一王女リメエアさまと第三王女のヴィリアンさまの準備が終われば、出発できるわ」

 

処刑(ロンドン)塔にいるキャーリサさまはロンドンに残るのか?」

 

「ええ。政治的な意味合いでキャーリサさまはロンドンに残らなければならないの。こんな事態でも政治を気にしないといけないなんてバカらしいけど、習慣だから仕方ないわね」

 

ロンドンに第二王女キャーリサを残して他の王族が退避するのは、古い時代の王侯貴族が行った政治的な人質の意味合いがあるのだ。

その意味とは全員撤退ではなく王族を一人残すことで、ロンドンが本当に危険な場所ではない事を示す、というものである。

 

「処刑塔は鋼の牢獄だし、ロンドンに残るあの方は『軍事』を司る王女殿下。しかも隣の牢獄には傭兵騎士がいるから、大丈夫なはずよ」

 

「傭兵騎士……?」

 

真守はアシュリンの口から出た言葉に、首を傾げる。

だが、すぐに思い当たる人物が脳裏に浮かんだ。

 

「あ、もしかして後方のアックアのことか……!? ……そういえば、処刑(ロンドン)塔に投獄されてるって話だったな」

 

後方のアックア。ウィリアム=オルウェル。

彼は元々、英国のために戦っていた人間だった。

第三王女、ヴィリアンが危機に陥った時は政治的な意味合いで動けなかった『騎士派』の代わりに、彼がヴィリアンを助けた。

 

英国の人々のために動いていたウィリアム=オルウェル。彼は英国を外部から守るために、ローマ正教に入って後方のアックアという地位を得たのだ。

 

「実はキャーリサさまもウィリアム=オルウェルも、第三次世界大戦の時に功績を成し遂げているのだけれど……その恩赦を蹴って、牢獄にいるのよ。その方が英国のためになるからって、全く困ったものよね」

 

「成程。力のある者が投獄されていることはある意味で効果を発揮するからな」

 

真守がアシュリンの言葉に頷いていると、王女様方がやってきた。

だが何故か、第三王女ヴィリアンがちょっとむくれてすんっとした顔をしている。

真守が小首をちょこんっと傾げると、アシュリンが真守に微笑みかけた。

 

「ヴィリアンさまは傭兵騎士のことをとても気に掛けていらっしゃってね。キャーリサ様とあの傭兵が英国に残るのがちょっと不服なの」

 

「そ、そうなのかっ!」

 

優しく内緒話をするかのように声量を落としているアシュリン。

真守はアシュリンに耳打ちされて、驚愕する。

 

政治的な意味合いでロンドンに残されるキャーリサ王女。

何かあれば、彼女を補佐する形で処刑塔に収監されているウィリアム=オルウェルが共に戦う。

そういう手筈になっているのだ。

 

実はウィリアム=オルウェルは数々の戦いで一般的な魔術しか使えなくなってしまったのだが、それでもあの男には関係ない。

 

聖人と聖母の二重属性を持ち、多大なる力を持っていたウィリアム=オルウェル。

彼は力がなくなった今でも、魔法名──その涙の理由を変える者(F l e r e 2 1 0)を掲げている。

 

「私は学園都市に上条を抹殺しに来たアックアと戦って手傷を負わせたケド。それを第三王女さまに知られたら、笑顔だけで殺される気がする」

 

学園都市の第二二学区で死闘を繰り広げた時、ウィリアム=オルウェルは後方のアックアとして真守たちと敵対していた。

理由があったにせよ、彼に聖人として大ダメージを負わせたなんて第三王女に知られたら、どんな目で見られるか分からない。

垣根は心配する真守の頭を、ぽんっと撫でる。

 

「安心しろ、真守。俺や上条も同罪だから気にする事じゃねえ。つーか上条なんてアイツに抹殺されそうになってたんだぜ?」

 

「それはそうだけど……垣根、女の子の恨みは怖いんだぞ?」

 

真守は垣根に頭を撫でてもらえて、嬉しそうに目を細めながら垣根を見上げる。

そしてくすっと笑って、垣根を見上げた。

 

「まあ女の恨みも怖いけど、男の嫉妬も怖いよな。特に垣根の嫉妬はすさまじ──あいてっ」

 

真守は垣根に頭を小突かれて声を上げる。

アシュリンはその様子を見て、くすっと笑った。

すると、アシュリンに『騎士派』の騎士が近付いた。

 

「マクレーン殿。『王室派』の方々の準備が整いました。『清教派』はすでに待機しています」

 

「分かったわ。──真守ちゃんと帝督くんはわたくしと一緒の馬車よ。それでいい?」

 

「うん、大丈夫だぞ。ありがとう、伯母さま。行こう、垣根」

 

真守は垣根の手を取ると、伯母と共に歩き出す。

垣根は真守の小さな手を感じると、ふっと笑った。

 

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