次は九月九日木曜日です。
目の前にいるのは間違いなく御坂美琴だった。
だがその焦点の合ってない瞳は分散しているように視界に映る全てのものを
おおよそ普通の人間にはできない視界を有している彼女。
そういう風に作り上げられたのだと、真守は一目見て直感した。
「お前、御坂美琴の体細胞クローンか?」
真守は御坂美琴本人と見分けがつかない程に似ている存在が二人もいる事実を受けて、確信を持って訊ねた。
「はい。学園都市で七人しか存在しない
真守の問いかけに、
体細胞クローンとは、主に人間の毛髪から摘出した体細胞を用いた受精卵を使用され、体細胞クローンを造り上げるにはDNAマップが必要不可欠だ。
『闇』に関する研究所所属の能力者は全てを管理されるので、DNAマップを取られてもおかしくない。
だが御坂美琴は学園都市の『闇』になんて関わっていない。
関わっていれば、表の人間が無自覚に振るい、『闇』の人間を傷つける正義感を振りかざしてなんていられないからだ。
(……騙されたのか)
御坂美琴は恐らく何らかの理由でDNAマップを提供させられた。
美琴が現状、それを知っているかは分からないが、数日間に起きた出来事に心当たりがあって真守は恐らく知っているのであろう、とそう推察した。
真守が思考していると、真守と話をしていたミサカの後ろから別のミサカが次々と現れた。
「
真守は自分と話をしているミサカに
「実験とは?」
「ZXC741ASD852QWE963`と、ミサカは
「セキュリティランクA以上の
「今の
(先程まで生きていた人間が死体になっていて、それが『実験』だったなんて上条にどうやって説明すればいいか……とりあえず、聞き出せるだけ情報を聞き出す)
真守は死体袋に詰められていくミサカを視界に入れながら内心そう思って問いかけた。
「上条と話をしていたのは死んでしまったあのミサカか?」
「あの少年と今日接していたミサカは検体番号一〇〇三二号、つまりこのミサカです、と答えます。今日の実験で死亡したミサカは検体番号一〇〇三一号。昨日あの少年がお姉さまと一緒に
(上条が会ったミサカは今死んだのか……)
「ミサカは電気を操る能力を応用し、互いの脳波をリンクさせています。他のミサカは一〇〇三二号の記憶を共有させているにすぎません、とミサカは追加説明します」
真守がギリ、と歯噛みしている前でミサカ一〇〇三二号は淡々と説明するので、真守は歯噛みするのをやめて問いかける。
「
「その推測に間違いはありません、とミサカは答えます。理解が早いようですが、あなたもどこかの研究所に所属し、実験を行っているのですか? 実験場が重なる、という事態をミサカは知り得ませんでしたが」
「……昔の話だ」
「昔? ……──他の個体から連絡がありました。
真守は死体袋を持ち上げながら告げたミサカ一〇〇三二号についていく。
真守は携帯電話を操作して、上条へとメールを入れる。
『上条、
真守は簡潔にメールを送ると、携帯電話をしまった。
少しして、上条当麻が辺りを探りながら真守の下へとやってきた。
上条は真守の姿を見つけてこちらへと走り寄ってくる。
「朝槻! 御坂妹の死体がないんだ! 一体何がどうなって……!」
そこまで言いかけて突然ピタッと上条は止まった。
真守の隣に死体袋を抱えたミサカが立っていたからだ。
「黒猫を置き去りにした事については謝罪します。ですが、無用な争いに動物を巻き込む事は気が引けました、とミサカは弁解も同時にします」
「……どういう事だ? ……死体は俺の見間違いで、俺は錯乱しちまって
「……いまいちあなたの言動には理解しがたい部分があるのですが。ミサカはきちんと死亡しましたよ、とミサカは報告します」
「は?」
上条は表情を固まらせてから真守を見た。真守はそっとミサカが持っている死体袋に目をやった。
その死体袋のファスナーの隙間から茶色い髪がはみ出していた。
「ちょっと待て。お前、一体なに抱えてんだ? その寝袋、一体何が入ってんだよ」
その死体袋が上条には寝袋に見えたらしい。
それもそうだ。死体袋を死体袋として認識できる一般の学生なんて存在しない。
「念のため、
「な、に? お前、さっきっから何言ってんだ?」
「今の
上条は意味が分からないと真守を見つめるが、真守は無言のままだった。
「あなたの言うその寝袋に入っているのは
真守とミサカの後ろから他の個体が声をかけた。
「あなたには謝罪をしなければなりません、とミサカは頭を下げます」
その後ろから何人もの
「どうやら本実験のせいで、無用な心配をかけてしまったようですね」「と、ミサカは謝罪します」「しかし心配ならさずとも」「ここにいるミサカは全てミサカです」「
「……あ? なんだ、これ……あ、朝槻……!」
「行くぞ、上条。やることができた」
真守は黒猫を抱えたまま、困惑する上条の腕を引っ張って路地裏を後にした。
「猫をお願いいたします、とミサカは去っていくあなたたちに声をかけます」
──────…………。
真守はミサカの無機質な言葉に応えずに路地裏を後にする。
怒りでおかしくなりそうだったし、嫌な予感がぐるぐると体の中でうず巻いていた。
体細胞クローンを消費する『実験』。
その『実験』で
つまるところそれは
人に言われたことをやっていた以前の自分と同じような雰囲気を醸し出す彼。
自分のもしかしたらという可能性の彼。
彼はあの場の近くにいた。
AIM拡散力場が感知できる真守は、
だから分かった。
ミサカを殺したのは
(あの子が何に関わっているか調べなければ……!)
真守は心の中でそう呟きながら無言で表通りまで進んでいき、上条を連れたまま公衆電話を探して辺りを
「なあ朝槻。もしかしてこの事、ビリビリは知ってるんじゃないのか? 昨日会った時、御坂妹も一緒にいたんだよ。知ってないとおかしいじゃねえか。実験に協力してんのか? あんな非人道的な実験に……」
「その質問の前に情報を集めたい。その方が話をするのも早そうだ。それでもいいか?」
「……ああ」
上条と会話をしていると、真守は公衆電話を見つけた。
真守は上条に黒猫を預けて公衆電話の扉を開けて中に入った。
ウェストバッグからルーターとPDAを取り出すと、公衆電話に差し込んでPDAを起動させた。
「何やってんだ?」
黒猫を抱えたまま公衆電話の扉を半分開けて中を覗き込む形で上条は訊ねるが、真守は無言で能力を解放した。
ショートパンツのお尻の上から細長いたすきのような尻尾が飛び出して、その付け根に二つの三角形がリボンのようにぴょこっと飛び出した。
上条は真守が本気で能力を行使するところを記憶がなくなってから初めて見たので目を見開いた。
そんな上条の前で、真守は指先から電気エネルギーを生成してパパリパリッと帯電させると、PDAを操作、ハッキングを開始した。
「さっきミサカが言っていたあの
「え。それってハッキングじゃないのか……?」
上条が何のためらいもなくハッキングをする真守に呆気に取られているが、真守は即座に実験の情報を引き出した。
「出た」
真守が呟くと、上条も扉を押しのけて公衆電話の中に入って真守のPDAを覗き込んだ。
『
「レベル……6?」
上条が呟く隣で、真守は時が停まった気がした。
『学園都市には七人の
『まだ見ぬ
『他の
第一位『
第二位『
第三位『
第四位『
第五位『
五人の詳細データが並べられており、第六位はデータが消去され、第七位は
未承認『
そして付け加えるように、真守のデータも並べられていた。
『
上条は思わずPDAを操作する指先以外凍り付いている真守を見た。
朝槻真守がまだ見ぬ可能性である
その真実が、信じられなかった。
真守はごくッと生唾を呑み込んでから読み進めていく。
『「
その下には、人体を二五〇年活動させる方法がまとめてあり、
『そして
その下には『特別な
真守は最初を読んだだけでろくな
『その特別な
『そのため特別な
その下には、情操教育相手としての候補者を各研究所から集める
その候補者の中には。
あのまま研究所にいたら、何も知らないうちに
『
『どちらが成功しようとも我々には関係ない。むしろ
学園都市が追い求める『世界の真理』──
その『神さまの答え』を知るためには、まず『神の領域』へと辿り着かなければならない。
『神の領域』へと辿り着くためには人間を超えた身体を手に入れなければならない。
それが学園都市の追い求める『世界の真理』、ひいては『神さまの答え』を知るための
『
『「
『だが同じ
『それでも本家の
『これを用いて「
そこにはずらりと殺される
『
『次に
『最初の九八〇二通りの「実験」は所内でも行える。だが、残り一〇一九八の「実験」は戦場の条件上、屋外で行うしかない。死体の処分などの関係から、我々は戦場を学園都市内の一学区に絞って行うものとする』
────……。
そこまで読んで上条は気が付いた。
屋外実験に自分と真守は遭遇したのだと。
真守は美琴の事を思い出していた。
何も知らないで幸せに暮らしていけるなら幸せに暮らしていければいい。
だが御坂美琴は知ってしまったら幸せに生きていけない事を知ってしまった。
『闇』に引きずり込まれた。
何も知らないで幸せに生きられる
誰も彼もが、学園都市に利用される事となる。
その事実を、真守はこの計画で知ることとなった。
幻想御手事件は垣根くんと真守ちゃんのターニングポイントでしたが、絶対能力者進化計画は真守ちゃんの置かれている状況が明らかになるターニングポイントです。
……というより、事件が起こるたびに割とターニングポイントが発生している気がする。
思うんですがとあるの少年少女ってメンタル強すぎですよね。
クローン勝手に造られてたり残酷な死体を見たりなんて現実でそんな事あったらその時点でメンタルボロボロですし。
そんなメンタルつよつよの少年少女の中でも肝が据わっている真守ちゃんもメンタル鋼です。