とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一五〇話、投稿します。
※次の更新は一月五日金曜日です。



第一五〇話:〈世界真理〉である愛というもの

誰にとっても長い夜が明けた。

スコットランド、エディンバラ城へと向かう『王室派』の馬車の上。

そこに腰かけている垣根帝督は朝日を見つめながら、目を細めた。

 

「愛。人を想う気持ち、か」

 

垣根は馬車の上に座って片膝を立てたまま、ぽそっと呟く。

 

『神の子』は──完成された存在は、完璧で万能だ。できない事はない。

だがその万能を機械的に振るうことはあり得ない。

完成された存在は、求められたから『奇蹟』を起こすのだ。

 

しかもただ求められたから『奇蹟』を起こすのではない。

人の子を愛しているからこそ、万能なる存在はその『奇蹟』の力を振るうのだ。

垣根帝督が馬車に座って朝日を見ていると、垣根の隣に降り立つ少女がいた。

 

「垣根」

 

朝槻真守は、いつものように微笑を浮かべる。

あどけない顔つき。アイドル体型を包む、特徴のないセーラー服。

優しい眼差しが込められたエメラルドグリーンの瞳。

 

猫耳ヘアに整えられた髪は、今だけ蒼銀の輝きを帯びている。

蒼ざめたプラチナの翼を広げて朝焼けに光を帯びる姿は、本当に神々しい。

垣根は何が何でも大事にしたい少女を見て、目元を柔らかく緩めた。

 

「アレイスター、頑張ったな」

 

真守は銀色の髪を元の黒髪に戻し、蒼ざめたプラチナの翼をすうっと消して、垣根に微笑む。

 

「とはいえまったく。無茶をしてくれる」

 

真守は呆れた様子で、それでもとても嬉しそうに目を細めた。

 

魔導書の『原典』として現代に蘇った魔術結社、『黄金』の傑物たち。

彼らはどうしようもなく本物だ。だが魔導書の『原典』であるからこそ、彼らには弱点がある。

 

その弱点とは大地に走る地脈や龍脈から供給されるエネルギーを断つように、空間そのものを力で埋め尽くすというものだ。

 

魔導書の『原典』は自前で魔力を精製できるが、実は大地から少しずつ魔力を吸い取っている。

つまり大地と魔導書の『原典』の受け渡しを阻害すればいいのだ。

 

純粋な力で空間を満たせば、魔力の受け渡しは困難になる。

だがそれはある意味力技であり、周りを全く考慮しないものだ。

それでもメイザースたちを滅ぼすために、アレイスターはそれを行った。

その余波から馬車を守るために、真守は翼を広げていたのだ。

 

朝槻真守もアレイスターと同じように、純粋な力で空間を満たすことはできる。

だが純粋な力で空間を満たしてしまえば、『王室派』の魔術が影響を受けてしまう。

だから真守にも選択肢はあったが、真守はあえてその選択肢を取らなかった。

 

その選択肢を取ったアレイスターのために、真守はフォローに回った。

そしてアレイスターが巻き起こす余波からその全てを守った。

 

真守は垣根の隣に座って、垣根の頬へと手を伸ばす。

垣根は真守の小さな手を握ると、自分の頬をすり寄せた。

 

「俺も、人を想うことなんてできなかった」

 

アレイスターとメイザースの攻防。

それを垣根帝督はカブトムシ越しに見守っていた。

 

アレイスター=クロウリーは仇敵との対峙しながら、奇蹟が『人を想う気持ち』によって成り立つと公言した。

 

人を想う気持ち。それはすなわち、愛。だ

それがアレイスターは本当に欲しかった。

だがどうしても手に入れる事ができなかった。

 

垣根帝督も、心のどこかで愛を──温もりを求めていた。

だが垣根は幸福が学園都市で得られないと知った。そして幸せなど、悲劇に溢れた学園都市では儚く消え去ってしまうものだと実感した。

だから垣根帝督は拒絶した。

 

愛なんて、情なんて。そんなものに意味はない。

永遠ではないから。いつか消えてなくなるものだから。

そんなものに縋っていても意味はない。

 

世界は非情であり、学園都市はどこまでも悲劇で満ちている。

誰も彼もが利用され、命を落としていく。

優しい人ほど、絶対に無くしたくない存在ほど、いなくなってしまう。

 

だから垣根帝督は愛なんて求めてなかった。

求めた途端に、ぼろぼろと崩れて行ってしまうから。

でも。いま現実として。

垣根帝督には、何があっても消えない想いがある。

 

「お前に会えて良かった。真守」

 

自分の想いを受け取ってくれる朝槻真守は、永遠に失われることがない。

何があっても、世界が終わっても。共にいられる。

その力が、今の垣根帝督にも朝槻真守にもある。

垣根は柔らかくて温かい命を抱きしめた。

 

「私も垣根に会えてよかった」

 

真守は垣根の腰に手を回して、すりっと垣根にすり寄った。

 

「ずぅっと一緒にいてくれるって言ってくれて、とっても嬉しかったんだ。これからもずぅっと一緒にいられるコトが、何よりも幸せだ」

 

垣根は真守の事を優しく抱きしめて、目を伏せる。

 

「愛してる、真守」

 

愛してるという言葉なんて、以前の自分には考えられない言葉だった。

でも今の自分は違うと垣根帝督は知っている。

何度伝えても伝え足りないほどに、色褪せない大切な感情なのだ。

この少女を大切に想う気持ちは、どうしたって消える事はない。

 

「私もだいすきだ、垣根」

 

真守はふにゃっと笑って垣根を見上げる。

本当に心を許した人にしか見せない笑み。

それを向けてくれる真守が愛おしくて、垣根は真守にキスをした。

長い口づけの後、真守は照れくさそうに笑う。

 

「やっぱり外は恥ずかしいよ、垣根」

 

そんな真守が、本当に愛おしい。

垣根はぎゅっと真守を抱きしめると、優しく何度もキスをする。

 

「人の話を聞かない男だ。まったく」

 

真守はくすっと笑うと、垣根にすり寄る。

 

「絶対に離さない」

 

そう告げたのはどちらだろうか。

だが事実として。どちらも絶対に相手を放す気持ちは微塵もない。

馬車列にA.A.Aで並走していた御坂美琴は顔を背けたまま呟く。

 

「バカップルめ……っ!」

 

「…………バカップルでもぉ、やっぱり溺愛されるのって憧れるわよねえ」

 

「食蜂!?」

 

美琴は後ろに乗っている食蜂が少し羨ましそうにする声を出したので声を上げる。

上条はアレックスを操る女性騎士の後ろに乗っており、少し顔を赤くしていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

既に朝日は昇っている。冬の早朝に相応しい、清浄な空気が辺りに満ちていた。

 

『黄金』に強襲され、アレイスターによる迎撃の余波に巻き込まれそうになった『王室派』。

それでも真守たちの活躍により、『王室派』は無事にエディンバラ城へとたどり着いた。

 

エディンバラ城内は博物館や記念館があるほどに広大な城だ。

だが城内からは観光地のスタッフではなく、大勢の役人や騎士たちが出迎えてきた。

 

「上条」

 

真守は伯母であるアシュリンに声を掛けてから、トテトテと歩いて上条へと近づく。

 

ちなみに真守たち一行は立派な不法入国者である。

そのため上条は『王室派』という英国の権力の象徴を前にしてびくびくしていたが、同じく不法入国仲間の真守が来てくれた事でほっと安堵した。

そんな上条に御坂美琴はムッとしており、食蜂操祈は笑っていたがそれはさておき。

 

真守は垣根と並んで歩き、上条へと近づく。

 

「帝兵さんにはメイザースの遺体の場所を既に調べてもらっている。アレイスターもこっち来てる。行くぞ」

 

「分かった」

 

上条は頷いたが、ちらっと御坂美琴と食蜂操祈を見た。

上条当麻は彼女たちが何故ここにいるのか分からない。

だが彼女たちを置いて行くわけにはいかない。

 

「今さら隠してもどうにもならんし……ついてこい御坂、食蜂!」

 

上条は美琴と食蜂へと声を掛ける。

美琴と食蜂はその言葉に心臓が止まりかけた。

 

「……ッはぁい、上条さぁん☆」

 

だが上条の言葉を噛みしめていた美琴と違い、食蜂は本当に嬉しそうにすぐに駆け出す。

 

「あ、ちょ、ちょっと!!」

 

美琴はガシャガシャとA.A.Aを唸らせながらも、食蜂の後を追う。

 

「そうよ、最初っからそう言ってりゃよかったのよ、ほんっっっっっとうーに随分前からね、それなのにアンタはまったくもーぶつぶつぶつ……ッ!」

 

美琴はぶつぶつと呟きながらもA.A.Aを背中に携えて歩き出す。

真守たちはカブトムシの案内で城壁の内側をぐるっと回ると、木々によって巧みに隠された城内の墓地へと向かった。

 

「遅かったな」

 

そう告げたのは、銀の少女だった。

 

アレイスターは先にホウキに跨って墓地に到着していた。そしてすでにその手にスコップを持って、メイザースの遺体が納められた棺一式を掘り返していた。

 

サミュエル=リデル=マグレガー=メイザースの遺体。

その前で、アレイスターはボロボロのまま清々しい笑みを浮かべていた。

 

「アレイスター、お疲れ様」

 

真守は柔らかく微笑んで、ぎゅっとアレイスターを抱きしめる。

それに垣根が良い顔をするはずがない。だが今は何も言わなかった。

その隣で、美琴と食蜂は驚愕の表情をした。

 

「ええっ!? アレイスターってもしかして統括理事長のこと!? 『窓のないビル』の中にいたのって、こんな、私たちと変わらない女の子だったの!?」

 

「いえ、そんなはずは……? ああ、でも……そうなのかしらぁ……?」

 

食蜂はなんとなく違和感を覚えて首を傾げる。

美少女に転生したアレイスたんの事を話すのは面倒なのでとりあえず割愛すると、上条はアレイスターを見た。

 

「できそうか?」

 

「ああ。今回こそ本物だ。サミュエル=リデル=マグレガー=メイザース。この遺体を中継器にして、大悪魔コロンゾンへの行動停止命令の糸口を作る。作業自体は簡単なものだよ」

 

アレイスターはそう告げると、上条当麻を手で制した。

 

「上条当麻、キミはそこにいろ。こればっかりは幻想殺し(イマジンブレイカー)に砕かれてしまっては敵わない」

 

上条はアレイスターに促されて、指定された場所まで下がる。

真守と垣根は興味津々でアレイスターのそばにいた。

 

アレイスターは棺の蓋の上に、様々な道具を並べる。

杖、杯、剣、盤。

見たことがある霊装たち。それはメイザースが使っていた象徴武器(シンボリックウェポン)だ。

それを見て、上条は目を見開いた。

 

「おい、それって……」

 

「この手の道具は自分で作るべきと定められているのだがな。しかしタブーを破るのであれば、敢えて他人が聖別した道具に触れてみるアプローチもある。そこにあるのなら、使わない理由はない。邪法の中の邪法だからオススメはしないが」

 

アレイスターは笑いながら棺の蓋の上で四つの道具を規則的に動かす。

その動作に込められた意味は、上条にも真守たちにも分からない。

だからただ見守っていた。

 

「長かった……」

 

アレイスターは棺の前でひざまずくような形で呟いた。

 

「長かった」

 

真守はその瞬間、顔を上げた。

大気圏の先。高度三五〇〇キロ、弾道軌道上。

 

「来たぞ、アレイスター」

 

真守が告げると、空から落下して突き刺さったものがあった。

それは激しい爆音と破壊音を響きわたらせ、空気を裂き大地を割った。

 

コウモリのような翼を左右に侍らせた、大悪魔コロンゾン。

 

学園都市の封印から這い出てきた彼女は、エディンバラ城へと到来した。

美琴のA.A.Aが広がって生身の人間を守る中、コロンゾンの声が漏れた。

 

「な……」

 

「そんなに驚く事かね、コロンゾン」

 

コロンゾンはアレイスターや真守のすぐそばに降り立っていた。

本当はアレイスターたちを狙ったのに、だ。

 

大悪魔であるコロンゾンが目測を誤ることなんてありえない。

だが現実として、コロンゾンはアレイスターに指先を届かせる事ができなかった。

 

つまりそれを意味するところはアレイスターの術が既に完成し、コロンゾンに干渉する事ができたということだ。

 

「こいつッ!!」

 

「止まれ大悪魔」

 

アレイスターが指示すると、大悪魔はアレイスターに後数センチ迫るところで止まった。

どうしてもその顔に、揃えた右手の五指を突き立てる事ができない。

アレイスターは微笑む。

 

「予想通り、まだ残っていたな。メイザースとの繋がりが」

 

「認め、ない」

 

「ならばヤツの死体を通じてこの私が命じよう。三三三、拡散。我が二人目の娘、ローラの内側より離れよ。四界の表層において穢れた大悪魔に居場所はナシ。速やかに深淵の向こうへと立ち去るが良い!!」

 

「別離と離散は自然にあるべき分解の流れになりけるのよ。それを拒むなど、私は認めないいいいいいいいいい──────!!!!」

 

ぱんっと、いう音が響いた。

終わってしまえば、最後は案外とあっさりしていた。

 

アレイスターは長い長い金髪を広げて倒れこむ少女を抱きしめる。

血と泥にまみれた手。

色々あって随分と変わってしまった手だが、それでも父親は娘の体を抱き留めた。

 

「おかえり」

 

アレイスターはローラの事をぎゅっと抱きしめる。

 

「おかえり、ローラ」

 

柔らかな静寂。それは温かさで満ちていた。

だが次の瞬間。ドスッと刃物の突き刺さる音が響いた。

 

「な……」

 

ローラ=スチュアートの手には、小ぶりなナイフが握られていた。

それはアレイスターの血に濡れている。

 

「……あ?」

 

「アレイスターッ!」

 

真守はすぐに飛び出した。

すると、大悪魔コロンゾンは即座に動いた。

アレイスターの軽い体を真守の方へと突き飛ばす。

 

その瞬間、隙ができた。

コロンゾンはその隙を使って、真っ黒な炎によってメイザースの遺体を焼き尽くした。

 

アレイスターへの致命傷。

それを与えたコロンゾンはメイザースとの契約を果たしたとみなされた。

だからメイザースの遺体を燃やすことができたのだ。

 

「ひひひひひ! 殺した、殺した! あ・あ・こ・ろ・し・た! これでやっと、ようやっとメイザースとの縁も切れる! あはっは。この棺を燃やしたるまでが長かったぁ。あははははははっ!」

 

真守はアレイスターをぎゅっと抱きしめる。

そしてアレイスターの命を自分の力で繋ぎながらハッと息を呑んだ。

 

強烈な違和感。

真守は『流行』に至った事で、少ない情報からも確実な推測ができるようになった。

そんな真守は、コロンゾンを前にして答えに辿り着く。

 

「お前、まさか……自分で肉の器を用意したのかっ!? だから契約によって強制的に行動させられても、ある程度自由が利く?!」

 

「く、くくく。いひひひ。人間の手で造られし俗物、気付くのが遅すぎたなあッ!!」

 

コロンゾンはにたにたと笑い、自らと同じ場所へと至った真守を嗤う。

 

アレイスターの娘の体を乗っ取ったわけではない。

それは嘘で、コロンゾンは誰にも悟られないように自分を特別にしたのだ。

この世界で自由に動くための霊媒を、コロンゾンは自分で用意した。

 

肉の器を自前で用意したならば、話は変わってくる。

 

契約とは超常存在をこの世に縛り付けておくためのものだ。

超常存在はこの世界で行動するための肉の器を持っていない。だからこそ役目を果たすまで退却しないように、契約によってこの世に縛る。

 

だが肉の器が存在すれば、超常存在は確かにこの世界に根付く事ができる。

確かな肉の器。それがあれば、超常存在がこの世に存在できる物理的なものがあれば。自分をこの世界に縛り付けておく契約にもある程度は抗うことができるのだ。

 

「いひひひひひ。肉の器を用意するのは貴様にもできぬことであろう、俗物」

 

コロンゾンは笑い声を漏らしながらにたにたと笑う。

 

「かの『明けの明星』や『蠅の王』さえ、自分の肉体は持ちてはおらぬ。インキュバスやサキュバスが肉の器を持ちたるとされたのも、宗教論争で湧いて出た仮説の一人にすぎん。……私だ、このコロンゾンだけが独力で実態を確保した大悪魔であるッ!」

 

コロンゾンはそう宣言すると、真守の事を睨んだ。

 

「人間などという矮小なモノの枠組みから外れずに、人間の進むべき形へと至る? それによって私と同じステージへと立つ? 笑わせるなッ!!」

 

コロンゾンは真守へと向けて金の髪の一撃を放つ。

真守は垣根にアレイスターを即座に託すと、その一撃を弾いた。

 

凄まじい衝撃が走り。墓地が吹き飛ぶ。それにひるむ一同。

 

煙が晴れた中、真守とコロンゾンだけは立ったまま、対峙していた。

真守は自身の肉体を守るかのように蒼閃光(そうせんこう)を迸らせていた。

さながら、光の鎧を身に纏ってるようだった。それが真守の肉体を守っていた。

 




イギリス篇第二幕、終了。
次回、イギリス篇第三幕:コロンゾン最終決戦、開幕。

ついに新約もイギリス篇最終章までやってきました。
流動源力は新約までで一度完結する予定ですので、あと二章(篇)で終わる予定です。
ですが原作のリバースに当たる章(篇)で書きたいことを詰め込んだので、長くなりそうです……笑
最後までお楽しみいただければ幸いです。
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