次は一月八日月曜日です。
第一五一話:〈悪魔動乱〉による甚大な被害
大悪魔コロンゾン。
生命の樹、セフィラの『深淵』を超える者の前に立ちはだかる超常的な存在。
数価三三三、『拡散』という意味を持って、世界に望まれて生まれ落ちた舞台装置。
『水の天使』が生まれた時から水と結びついてるように。世界に望まれて生まれた大悪魔コロンゾンは、世界を自然分解させることに特化している。
世界を新たなステージへと至らせるために、いまある全てを滅ぼすために存在する大悪魔。
人の魂の上昇を防ぎ、世界の理の結合を妨げる者。
そんなコロンゾンと、朝槻真守は対峙していた。
真守は人という枠組みから外れることなく、自らを世界の
ある意味、『永遠なる進化』を司る少女だ。
世界に望まれ、自分で望んで。真守はひとの手で生み出される『流行』を冠するまでに至った。
「いひひ」
コロンゾンは朝槻真守と対峙したまま、余裕の表情で嗤う。
真守は自らの肉体を守るかのように、
コロンゾンの鋭い一撃から、真守は完全に自身を守った。
それにコロンゾンは
そして疑念を確信へと至らせて、コロンゾンは笑みを零した。
「そうだよなあ、そうだよなあ……気に入らぬが、やはりそうだよなあ朝槻真守!!」
確信したコロンゾンは
真守は顔をしかめたままだ。最大限の警戒を見せて、コロンゾンを睨んでいた。
コロンゾンは真守を前にして、鋭く目を細める。
「『自然流行』。人の手によって生み出されし、その時々の人間の
コロンゾンは朝槻真守という少女を見据えたまま、認めがたいといった風に顔を歪める。
「忌々しいことに、その
真守は源流エネルギーによって体を包むのを止める。
そして自分と同じ格に存在するコロンゾンを見据えた。
「大悪魔コロンゾン。お前もまた、世界に必要とされて生まれた存在だ。……『自然分解』。世界を次なる世代へと引き継ぐために、新たな物事を始めるために。いま栄えているものを滅ぼす在り方を授けられた」
人間にとって、害でしかないコロンゾンの在り方。
それでもコロンゾンは世界に望まれたからこそ、この世に生まれ落ちた。
この世に必要として生まれた、ある種の機能。
自分が世界に望まれた生まれたことを、コロンゾンは理解している。
だからこそコロンゾンにとって真守がどこまでもいってもくだらない俗物だろうと、朝槻真守が『流行』へと至った事には意味があると知っている。
くだらない存在。人間の手によって生み出され、世界がある意味認めた新たな在り方。
そんな仇敵を睨んで、コロンゾンは忌々しそうに顔を歪める。
「私は決して受け入れぬが、お前は世界に認められた。それはつまり、肉の器に囚われぬ存在である、ある種の概念へと至ったということだ」
人間としてあるべき形で、どこまでも至れる朝槻真守。
真守は既に、コロンゾンと同じ格にまで至っている。
それはつまり朝槻真守もコロンゾンも、今の肉体が滅んだとしても永久不滅なのだ。
「我らの在り方は永久不滅。概念として存在している以上、その存在を完璧に滅ぼすことは不可能だ。故に肉の器を喪ったとしても、貴様はエイワスと同じく物理法則で満ちた科学なんぞの世界で生きながらえることができるであろう」
コロンゾンはそう断定して、真守を睨む。
「私の肉の器を滅ぼすことができるのは、お前だけであろう。だがお前は私を滅ぼせない。どこまで至っても人間であるお前には不可能であろう、朝槻真守」
『自然分解』。三三三、拡散を司る大悪魔、コロンゾン。
人と寄り添うために人が生み出す『流行』へと至った朝槻真守。
真守とコロンゾンは同じステージに立っている。
だからこそ、それぞれを撃ち滅ぼす事ができる。
だがその場合、どちらも共倒れで終わる事が決まっている。
そして朝槻真守は一度、人間として死ぬ。
後に残るのは『流行』を冠する、どこまでも人として進化し続ける事ができる『朝槻真守』という存在だけだ。
垣根帝督はコロンゾンが何を言っているか理解できて、目を見開く。
コロンゾンは、そんな垣根帝督へゆっくりと視線を動かした。
「そういえば貴様はこの世で唯一器を用意することができるのだったな」
垣根帝督の能力である
無から有を生み出す。未元物質という粒子自体は無機物だが、その在り方に役割を与える事で、有機物と同じように振る舞う事ができる。
無限の創造性。だからこそ、垣根帝督は神のように全てを創造する事ができる。
つまり、垣根帝督は超常存在に体を与える事ができるこの世でただ一人の能力者なのだ。
「貴様は私と対消滅をしたここにいる朝槻真守の明確な死を受け入れられぬであろう。貴様の造り上げた肉体を持って光臨する朝槻真守は、朝槻真守として変わらない。だがかたちに意味を見出すのが人間だからな。理解しがたいが、貴様は朝槻真守の死を受け入れぬだろう」
垣根は静かに、息を呑む。
そんな垣根に憐憫を向けながら、コロンゾンは真守を鼻で笑う。
「舞台装置らしからぬ。愛する存在など作るから、足枷になるのだ」
朝槻真守が誰よりも深く愛している、垣根帝督。
この場には垣根だけではない。真守が大切な友達だと思っている上条当麻も、オティヌスもいる。それに御坂美琴、食蜂操祈。そして──美少女へと転生した、統括理事長アレイスター=クロウリーもいる。
『流行』へと至った朝槻真守。『拡散』という役割を与えられて生み出された大悪魔コロンゾン。
彼女たちの決定的な違いは、大切なものがいるか、いないかという違いだ。
大悪魔コロンゾンを終わらせるためには、朝槻真守の犠牲が必要不可欠である。
そんな事実を、真守は笑い飛ばした。
「コロンゾン、お前と対消滅するのなんてごめんだ」
真守は動揺する垣根の前で、コロンゾンとの共倒れを拒絶する。
それにコロンゾンはにやっと笑った。
「ほう。ではどうやって私と敵対するのだ、俗物。何かを犠牲にしなければ物事とは往々にして成せぬものだぞ?」
「そんなコトない」
真守はふるっと首を横に振ると、コロンゾンを見据えた。
「お前は所詮過去の俗物だ」
コロンゾンは真守にまっすぐと見つめられて、ぴくっと眉を跳ねさせる。
「私は新たに世界に必要とされて生まれ落ちた。そんな存在に、何かを犠牲にしなければ得ることはできないという常識は通じない」
朝槻真守はこの世で一番たいせつな男の子の言葉を借りて宣言する。
「全部を守ってハッピーエンドを迎える。お前にはそれができないけど、私にはできる!」
朝槻真守はコロンゾンへと宣戦布告をする。
そしてコロンゾンと対峙するために翼を広げた。
天上者を示す蒼ざめたプラチナの翼。
それを携えて、真守はコロンゾンと相対する。
コロンゾンは自分の全力を持って相対しようとする真守を見て、ふんっと鼻を鳴らす。
「貴様と私の違いは分かりえているはずだが?」
コロンゾンはそう言葉を零すと。
真守を狙わずに、アレイスターを抱きしめている垣根帝督を狙った。
真守は即座に間に入る。
そして。コロンゾンの『拡散』と、朝槻真守の『流行』が衝突する。
だがこの場で不利なのは、明確に真守だ。
何故なら真守には、守るべきものがある。そしてコロンゾンには守るべきものなんてない。
周りへの影響を度外視して、大悪魔は全力を放てる。
対して真守は自分の守るべき者たちを傷つけないように、力をセーブする必要がある。
そしてコロンゾンが狙うであろう大切な人たちを守るために、力を割かなければならない。
真守は蒼ざめたプラチナの翼で背後にいる垣根を守りながら、きっとコロンゾンを睨む。
「お前なんかに、私の大切なものは傷つけさせない」
真守の六対一二枚ある翼のうち、側頭部から生えている翼が煌めく。
刺突に似た鋭い斬撃が、幾つもコロンゾンへと放たれる。
「だから言ったであろう。愛する存在など足枷だと」
コロンゾンはため息を吐くように、冷酷な言葉を紡ぐ。
凄まじい衝撃と、破壊が繰り出される。
蒼ざめたプラチナの光と、宇宙のような煌めきが瞬く。
そして、全てが収まったところには。
大悪魔コロンゾンが、真守の心臓に手を突き立てていた。
だがコロンゾンの手は真守の心臓を貫いていない。
真守が自分の胸を守るように、きちんとコロンゾンの手を両手で受け止めていたからだ。
「そう何度も馬鹿みたいに同じ手を喰らうと思うなよ」
真守はぎゅっと、コロンゾンの細腕を折らんばかりに握り締める。
途端に、コロンゾンは自らの本質を浸蝕する力を感じた。
真守は自分の力である『流行』を十全に扱って、『拡散』を浸蝕しようとする。
「お前は拡散という能力を持ってる。だがそれで、世界が本当に滅んだことはない」
真守はコロンゾンの手を決して離さないまま、言葉を紡ぐ。
「『流行』は廃ったとしても、いつだって再び勢いを増して流行り続ける。それは『拡散』なんかに負けない。『拡散』に打ち勝つことが『流行』にはできる!」
「ッチ!!」
「逃がさないっ!」
退避しようとするコロンゾンの手を、真守はぎゅうっと握る。
コロンゾンは真守のことを強く睨む。
朝槻真守が手を離さないなら、『拡散』を流し込んで朝槻真守に応戦するしかない。
そのためコロンゾンは、自分の手を受け止めた真守の両手に爪を立てる。
そしてそこから、自らの在り方である『拡散』を打ち込んで真守の『流行』を浸蝕した。
「チキンレースなどとのたまうなよ、薄汚れた俗物!!」
「世界のことを貶めるお前なんかに負けない!!」
『流行』である真守と、『拡散』であるコロンゾンの攻防。
その余波で、辺りが吹き飛ぶ。
真守とコロンゾンは一歩も動かずに、攻防を繰り広げる。
だが笑ったのはコロンゾンだった。
真守は自分の心臓をコロンゾンが穿つのを阻止した。
だがその攻撃を受け止める時、確かな衝撃が身体を走っていたのだ。
つまりコロンゾンが先に真守へ一撃を与えていた。
そこに、コロンゾンは『拡散』を流し込んできた。そのため少し不利なのは、真守の方だった。
真守は顔を歪ませたまま、ぎゅうっとコロンゾンの腕を掴む。
胸の中心に穿たれたコロンゾンの『拡散』が、真守を浸蝕する。
「う────っ」
そんな呻く真守の身体を、後ろから抱きしめる人物がいた。
「真守っ!!」
垣根帝督は、とっさに動いていた。
そして空間を侵すように
「一人でやろうとするんじゃねえ!!」
コロンゾンに、自分は勝てない。
だからこそ垣根帝督は、真守の補助に徹しようと考えた。
そして一度体勢を整えるために、真守の腕を強く引っ張った。
コロンゾンのことを離そうとしない真守に、垣根は口調を荒くする。
「真守!!」
「待って、垣根!」
コロンゾンは自分を放そうとしない真守の事を睨む。
すると。そこで、真守の手助けをするために上条当麻が前に出た。
「コロンゾォォォォオオオオ──────ン!!!!」
上条当麻は右手でコロンゾンの右顎を狙う。
コロンゾンは上条当麻へと意識を向ける。
垣根帝督はその瞬間、朝槻真守のことをコロンゾンから引きはがした。
すでにダメージを負っている真守を、このままにしておけるはずがないからだ。
「上条っだめだっ!」
真守は垣根の
上条当麻の
骨に直接響くような、鈍くてすべてを折り砕くような音。
多大なる衝撃を受けても、コロンゾンには何ともなかった。
「イシス、オシリス、そしてホルス。あらゆる
コロンゾンの緩い問いかけに、焦りを見せたのはオティヌスだった。
「まずいぞ、人間……」
自分の
その事実に虚を突かれている上条当麻に、肩に乗っているオティヌスは事実を口にする。
「今のヤツは私と同じだ! 現在進行形の魔術現象ではなく、すでに実体という結果を手に入れた超常! 灰に触れても燃え尽きた紙が元に戻らないように、貴様の幻想殺しでは倒せないっ!!」
「……我は悪魔。しかし悪の諸力の渦巻くクリフォトではなく、神秘なるセフィロトにて隠されるダアトと同じ深淵に潜む大悪魔」
ぎちぎちぎち、みぢみぢぎぎぎちち、──と、不穏な軋みが響く。
上条当麻の右拳が突き刺さる中、
上条当麻はそれを受けて、気圧されるように一歩下がった。
「あらゆる数は等価。我が右の手に蘇生のヌイト、有限の域を超えて広がる
コロンゾンは淡々と、自らの在り方を呪文として口ずさむ。
「すなわちここにラー=ホール=クイトの円にて無限の加速から解放されし一撃を現世の表層に顕さん」
それを見て、垣根帝督に抱き留められている真守は額に汗をにじませながら顔を歪める。
「上条……っ!」
「真守、動くんじゃねえ!!」
垣根は腕の中で、前へ出ようとする真守のことを抱き留める。
何故なら真守の体の中心から、コロンゾンから響く不穏な軋みが音を立てている。
ぎぎぎぎちぎち、みぢみぢぎちぎぎちち、音を立てて、真守のことを侵そうとしている。
確実に一撃を貰っている真守を、垣根は放っておくことなんてできない。
コロンゾンは、レイピアという細い剣を構えるように上条当麻へと向き直る。
そしてコロンゾンの長い金の髪。その向こうから、宇宙の輝きにも似た別の顔が垣間見えた。
「Magick:FLAMING_SWORD。セフィラの下降により顕現せし力を浴びよ」
上条当麻はコロンゾンの攻撃を受けて、とっさに右手の
「ダメだ人間!! その一撃は『世界の基準点』では抑えきれんっ!!!!」
オティヌスが叫んだ途端、辺りが白く染め上げられる。
コロンゾンの攻撃を、上条当麻は右手の
そのため上条当麻は、コロンゾンの攻撃によって右手ごとその肉体を破壊された。
イギリス篇第三幕が始まりました。