とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一五三話、投稿します。
次は一月一五日月曜日です。


第一五三話:〈一時落着〉で会話をする

大悪魔コロンゾンの襲撃。そして、全世界規模への攻撃。

その対処をするべくエディンバラ城の中庭には、複数の緑のテントが臨時で敷設されていた。

 

垣根帝督は臨時で敷設された一つの緑のテントで、簡素な軍用ベッドに座っていた。

 

垣根の目の前には、学園都市製に類似している未元物質(ダークマター)製のベッドが置かれていた。

必要となれば上体を起こして、ゆったり座る事ができるものだ。

 

「垣根、大丈夫だよ」

 

真守は垣根帝督が造り上げたベッドに背中を預ける形で座った状態で、垣根を見つめる。

そして、真守は垣根に手を伸ばした。

 

ぴとっと、真守は垣根の頬に手を沿える。

小さくて、温かくて。大切なちんまりとした手。

それを感じて、垣根は真守に目を向けた。

 

「やっとみてくれた。黙ったままだと分からないだろ?」

 

真守は柔らかく微笑むと、垣根の頬から手を放す。

 

「ん」

 

小さく唸ると、真守は垣根に向かって両手を広げた。

 

「ぎゅーってしてほしい。してくれないの?」

 

垣根は真守におねだりされて小さく息を吐くと、ベッドから立ち上がる。

そして真守に近付くと、垣根は自分が造り上げた真守専用のベッドの横に腰かけられるスペースを作った。そこに座って、垣根は真守のことを横から優しく抱きしめた。

 

「ふふーっ」

 

真守は垣根に抱きしめてもらえて、嬉しそうに言葉を漏らす。

 

「心配かけてごめんね、垣根」

 

真守は垣根のがっしりとした頼もしい体躯にすり寄りながら、微笑む。

 

「私は大丈夫だ。垣根の力を借りて押しのけたから。もうなんともない」

 

メイザースの遺体が保管されていた、エディンバラ城。

その場で、真守たちはコロンゾンと対峙した。

 

大悪魔コロンゾンは、自分をこの世界に召喚したメイザースとの契約に縛られていた。

メイザースとの契約。それがコロンゾンも自らの致命傷になると分かっていた。

 

だからこそ、コロンゾンは肉の器を用意した。

 

肉の器があればメイザースとの契約に基づいて行動を制限されたとしても、危機を脱する瞬間を作る事ができる。そしてその隙を有効活用して、コロンゾンはアレイスターに致命傷を与えた。

 

もちろんメイザースとの契約はアレイスターの邪魔をしろ、できれば殺せというものだ。

 

致命傷を与えても、完璧な契約の履行にはならない。そこから、アレイスターが奇蹟の復活を遂げる必要があるからだ。

 

だが、大悪魔が契約のもとにアレイスターへ致命傷を与えたという事実は残る。

しかも、コロンゾンにはメイザースとの契約に抗える肉の器がある。

肉の器があるからこそ、コロンゾンは自分を縛るメイザースの遺体を焼き尽くす事ができたのだ。

 

「まさかコロンゾンが自分の体を用意できる存在とはな。……私も考えつかなかった」

 

この世界に降ろされる超常存在が動くためには明確な霊媒(アバター)が必要だ。

 

アレイスターが聖守護天使エイワスを召喚する時は、学園都市中の能力者の力を膨大なエネルギーへと変えて、それによってエイワスの体を形作っていた。

『流行』へと至った真守は、元は人間だ。そのため自前の肉の器がある。

 

超常存在が動くためには絶対に用意しなければならない、器。

それを自前で用意できるのは、本当にコロンゾンくらいだろう。

 

「私は解き放たれたコロンゾンに一撃を喰らった。でも垣根がいてくれたから。大変なコトはあったけど、無事だった。それを喜ぶべきだ」

 

垣根は真守のことを優しく強く抱きしめる。

そして真守の小さな頭に、頬を擦り寄せた。

 

「……俺は、大切なモンがあれば世界なんてどうでもいい」

 

垣根帝督はコロンゾンから、自分を止めるためには朝槻真守が人として終わる必要があると聞かされて本気で動揺した。

 

真守ならば、自分を裏切る事などありえない。

自分を置いて、どこかに行くなんて今の真守にはありえない。

それでも真守がいなくなる可能性があるなんて聞かされれば、動揺するのは当然だ。

 

何故ならこの少女は、無茶をする。

その延長線上で、自分を犠牲にする事だってやりかねないのだ。

 

世界なんて、滅んでも構わない。

結局、垣根帝督は自分が大切にしたいものだけが生きていれば、それで構わないのだ。

 

何故ならこの世界は信じられないものが多すぎる。

 

そして自分が信じられる数少ないものの代わりなんて、この世界にはないのだ。

 

自分が信じられるものの中で、垣根帝督は朝槻真守が一番大事だ。

 

真守を通せば、垣根帝督は世界に優しくできると思っている。

真守がいなければ世界なんて憎悪の対象だった。

そして、利用するしか価値のないものだと思っていた。

 

「本当に大切にしたいモノが手の中にあるなら、俺はそれでいい。お前は俺のモンだ」

 

「うん、そうだぞ。そして垣根は私のモノだ」

 

真守は垣根の腕の中で、小さく微笑む。

そして垣根の背中を撫でて、優しく語り掛ける。

 

「私とこれから時間を共にすれば、垣根にとって大事なものはたくさん増えるよ」

 

真守は垣根にすり寄って、幸福でとろけた甘い声を出す。

 

「全部を終わらせて、新しく始めれば。きっと、たくさんのものを得られるよ」

 

朝槻真守が言うのであれば、そうなのだろう。

真守に会って、垣根帝督はそう思えるようになった。

垣根は真守のことを、絶対に離さないように強く抱きしめる。

 

「絶対にどこにも行くなよ」

 

「うん。どこにも行かない」

 

真守は垣根にすり寄って、ふにゃっと幸せそうに笑う。

 

「垣根の隣が、私の居場所だ。それはずぅっと変わらない。垣根とずぅっと一緒だ。……だから悪魔との対消滅なんて何があってもごめんだ。それに私は絶対に何も犠牲にしないで世界を救える。その力が私にはある」

 

真守はそう呟いて、自らの胸の上に手を置く。

 

「垣根が愛してくれた体が大事だ。垣根に何度も抱きしめてくれたからだが大事。だから、私はこの身体を捨てる気は一切なかった。死ぬ気はなかったんだ」

 

垣根は真守の言葉に、そっと目を伏せる。

小さくて、儚くて華奢な体。

それでも垣根帝督は、朝槻真守の体に強大な力が込められていると知っている。

 

垣根は自分にすり寄ってくる真守の体温を感じて、呟く。

そして、じとっと睨んだ。

 

「……お前、学園都市に帰ったら覚悟しとけよ」

 

「え」

 

真守は小さく声を漏らす。そんな真守を、垣根は据わった目で睨んだ。

 

真守はどこにもいかない。

それを真守の口から聞かされて安心したら、垣根帝督は怒りがふつふつと沸いてきた。

もちろん、朝槻真守が多大なる無茶をしたからだ。

垣根の怒りを察した真守は、突然ブチ切れモード全開になった垣根に思わず反論する。

 

「やりたい放題しやがって……大体、無茶しないって約束はどこいった?! 誰が無茶してもいいなんてそんな許可出したんだ、ああ?!」

 

「だ、だって……ッ大切なひとたちに手を出されたら頭に血が上るだろ?!」

 

「お前人間として大悪魔と同じ格に至ってんだろ?! 怒りで我を忘れる完璧な人間がいるわけねえだろ!」

 

「む、むむー。そんな完璧な存在がいたって良いだろっ! だって垣根やみんなのこと、絶対に守りたかったんだもん!」

 

「うるせえ、だもんとかかわいく言ってんじゃねえ!」

 

「横暴だーっ!」

 

真守はむぎゅーっと垣根に抱きしめられて押さえ込まれて、声を上げる。

 

「学園都市に帰ったら軟禁してやる……ッ絶対に何もさせねえ……ッ!!」

 

「やだっこれから楽しいことたくさんあるのに!」

 

真守は垣根の腕の中でじたばた暴れて、声を上げる。

垣根は完璧に真守のことを封じると、頬を寄せた。

 

「絶対に離さねえからな。大事なものを差し出すなんて、そんな常識は持ち合わせてねえ」

 

真守は垣根の呟きを聞いて、ふふっと笑う。

 

「そうだな。垣根には魔術もこの世界の理も通じない。未元物質(ダークマター)には無限の創造性があるから。そんな垣根と私やみんなが力を合わせれば、できないコトはないぞ」

 

真守は垣根の腕の中で、小さくもぞもぞと動く。

そして垣根の頬に可愛らしくキスをした。

 

「垣根が大事にしてくれる体だ。だから絶対に失くしたりはしない。……それは手酷い裏切りだと私は思ってる。私は絶対に垣根を裏切ったりしない」

 

垣根は真守のことをぎゅうっと優しく抱きしめる。

今ある真守の大切な体を抱きしめて、垣根は頷く。

 

「……俺が丁寧に最初から全部教え込んだ体だ。時間かけて俺好みに仕立て上げたんだ。絶対に失わせねえ」

 

「ふふ、垣根のえっちー」

 

真守はくすくすと笑って、垣根にぎゅっと密着する。

 

「大丈夫。世界は終わらせない。今のまま、誰の犠牲もなくコロンゾンに勝つ。……あのな、垣根。もうなんとなく、解決策は見えているんだ」

 

「……そうなのか?」

 

垣根は真守を抱きしめるのをやめて、真守の顔を見る。

黒曜石のような真っ黒な瞳。真守はそれを見上げて、柔らかく笑った。

 

「まだ、はっきりと道筋が立ったわけじゃない。……でもできると思う。それには垣根の力が必要だ。だから、垣根。おねがい、手伝って」

 

「当たり前だろ」

 

垣根は即答して、じろっと真守を睨む。

そして真守の頬に手を添えて、優しく目を細めた。

 

自分が何よりも大事にしたい少女。

どんな存在になったって、その本質が絶対に変わらない少女。

永遠に一緒にいたって飽きない。いつまでも愛おしい少女。

 

「俺はお前が世界よりも大事だ。だからお前のためならなんだってしてやる」

 

「それだと私が何もできない人間になってしまうだろ?」

 

真守は微笑むと、垣根の額にこつんっと自分の額を合わせる。

 

「でもそれでもいいかな。だって垣根と何もかもを共有したいから。垣根がだいすきだから」

 

真守は柔らかく微笑んで、自分から垣根にキスをした。

 

「垣根、ずぅっと一緒だ。何をするにしても。それは絶対だ」

 

「…………ああ」

 

垣根は頷くと、真守に深いキスをした。

真守は恥ずかしがっていたけれど、垣根の気が済むまでキスに応えていた。

 

「愛してる、真守」

 

「……、ふ。わたしも、だいすき」

 

真守は顔を赤らめながら微笑む。

垣根はその言葉を聞いて、真守のことを優しく抱きしめた。

真守は垣根の腕の中にすっぽりと収まったまま、視線を動かす。

 

「帝兵さん」

 

真守が虚空に呼び掛けると、どこからともなくぶーんっとカブトムシが飛んできた。

 

「上条とアレイスターはどんな感じだ? それと、一方通行(アクセラレータ)はいまどこにいる?」

 

『上条当麻は、眠っています。統括理事長は現在処置中。一方通行はクリファパズル545を連れて、単独でコロンゾン捜索に動いています』

 

大悪魔コロンゾンは既に実体という結果を手に入れていた。

 

朝槻真守と手乗り化したオティヌスに幻想殺し(イマジンブレイカー)が効かないように、現在進行形の異能現象ではない存在に幻想殺しは効かない。

 

しかも大悪魔コロンゾンの力は強大だった。そのためコロンゾンの攻撃を幻想殺しで打ち消すことができず、上条当麻は肉塊となってしまった。

 

だが上条当麻は真守に頼まれたアレイスター=クロウリーが操るA.A.Aによって、幻想殺し(イマジンブレイカー)が宿った右腕を切断された。

 

魔術を阻害する幻想殺しがなければ、上条当麻にも蘇生魔術が効く。

アレイスターの手によって、上条当麻は五体満足で蘇生された。

 

だが次の瞬間、右手が吹き飛んだ。

 

だらだらと流れ出る血液。その血液を止めるために真守が破裂した右腕の断面図を圧迫して、今は断面図を焼く事で血を止めてある。

 

今にも死にそうな体で魔術を使ったため、アレイスターは瀕死の状態だ。

 

『統括理事長の処置は順調に私たちで進めています。一方通行(アクセラレータ)には私と帝察が付いているため、真守の心配する無茶はフォローできるかと』

 

「ありがとう、帝兵さん。あと一つお願いがあるんだ」

 

『なんでしょう』

 

「上条が覚醒したら、能力で上条が右腕から先があるように感じるようにしてくれ。食蜂操祈の能力である心理掌握(メンタルアウト)のように、脳内の水分を未元物質(ダークマター)で操作するのでも何でもいい」

 

『分かりました。ですが理由は垣根帝督(オリジナル)に話してくれると嬉しいです』

 

真守はこくりと頷くと、垣根を見上げた。

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)は蓋だ。上条の奥にある力。その力を幻想殺しは常時抑え込んでいる」

 

上条当麻の奥にある力。

それを抑え込んでいるからこそ、幻想殺しには打ち消せる異能の量に限りがある。

 

「アレイスターは上条の奥にあるものを育てていた。上条の中にあるものが使えると知って、アレイスターは『計画(プラン)』に利用しようとしたんだ」

 

アレイスターにとって、朝槻真守が学園都市に流れ着いたことは想定外だった。

だがアレイスターはそれを好機だと考えた。

そして一方通行(アクセラレータ)を差し置いて、真守のことを『計画』の要に据えた。

 

アレイスターは自分の目的のために、あらゆるアクシデントを利用していた。

上条当麻の中にある力も、アレイスターは使えると思ったから使っていたのだ。

 

「『計画(プラン)』は上条の力を育てていた。『計画』によって、『計画』があるからこそ上条の力は制御されていた。……だけど、『計画』はとん挫する事になった」

 

「つまり上条当麻の力はもう制御できてねえってことか?」

 

「うん。しかも『計画(プラン)』がとん挫して、上条の力は私も制御できない方向に進んでしまったんだ。私が制御しようと手を出すと、それだけで力がねじ曲がって成長してしまう。だから、うかつに手を出せない」

 

「……お前が制御しようと干渉すると、ヤツの奥に潜む力を刺激することになる。それだけでも良くない方向に成長しちまうってことか」

 

真守が干渉しようとすると、上条の力は制御不能になる。

そのため、うかつに手を出せる状況ではないのだ。

垣根帝督は顔をしかめながら、上条当麻のことを考えて辟易する。

 

「なんで上条当麻は危ない力を裡に飼ってても気にしねえんだよ。普通自分の力がどこまで及ぶか、理解しようとするだろ」

 

「自分の奥にある力を自覚すること。それもある意味マズいことなんだ」

 

「? どういうことだよ」

 

垣根は真守の言葉の意味がいまいち理解できずに、怪訝な表情をする。

 

「物事というものは認識することによって、そこに確かに存在することになる。認識されること。それが明確なかたちを与えるんだ」

 

実在性を認められれば、観測すれば。物事はその形を決められる。

それは科学の世界でも、往々にしてありえることだ。

 

「上条の力は、上条が自覚すると途端にマズいモノに変容する可能性がある。だから上条は本能的に、無関心になって深く入り込まないようにしてるのかもしれない。……まあ本当のところは分からない。でも自認するとマズいことは多々あるということだ」

 

垣根は真守の軽くて分かりやすい説明に、納得する。

 

「……世の中には知ったらマズいこともあるからな」

 

「とりあえずのところ、右腕があると誤認させていれば力が外に出てくることはない。……けど、早いところ幻想殺し(イマジンブレイカー)をくっつけてやらないとな。……そのためには」

 

「食蜂操祈だな。アイツ、どさくさに紛れて幻想殺しを隠し持ってやがる」

 

垣根帝督はふんっと、件の少女を鼻で笑う。

上条当麻はこれまで、何度も右腕を失ってきた。

 

だが幻想殺しは、いつだって上条当麻のもとに帰ってきていた。

 

それでも今回、蘇生された上条当麻の右腕はなくなったままだ。

その原因は、食蜂操祈が切断された上条当麻の右腕を隠し持っているからだ。

 

「あの子にもあの子なりの考えがあるんだろう。だから話をしなくちゃな」

 

朝槻真守はカブトムシの背中を撫でて、目を細めた。

 

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