とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一五四話、投稿します。
次は一月一八日木曜日です。


第一五四話:〈親族激怒〉で分からされる

真守が垣根とほんのりと甘いひと時を過ごしていると、テントを訪れる人物がいた。

それは真守の伯母である、アシュリン=マクレーンだ。

 

「真守ちゃん、少しいいかしら」

 

「伯母さま。どうぞっ」

 

真守は伯母であるアシュリン=マクレーンの来訪に、表情を輝かせる。

アシュリンは緑のテントを開く。そのアシュリンの表情は真守に見せたことない表情だった。

ちょっと、怒っている表情である。

 

「お。伯母さま……?」

 

真守は伯母のいつもと違う様子に、どぎまぎする。

そんな真守のことをまっすぐと見つめたまま、アシュリンはテントの中に入ってくる。

 

「真守ちゃん、帝兵さんに聞いたわよ。無茶したのね」

 

真守はアシュリンの少し責めるような声を聴いて、きょとっと目を見開く。

そして辺りを見回して、あの真っ白なカブトムシの姿を探した。

 

「どこだ帝兵さんっ伯母さまに告げ口したな……ッ!」

 

「あの子を責めるのはお門違いよ、真守ちゃん」

 

アシュリンは少し厳しく真守をけん制しながら、真守に近付く。

垣根はアシュリンのために場所を譲った。

アシュリンが真守のことを想って、怒っているからだ。邪魔してはいけない。

 

「あ。あう……、お、伯母さま……?」

 

真守は自分の真正面で仁王立ちするアシュリンを見上げる。

コロンゾンと戦って、朝槻真守は負傷した。

 

その負傷はコロンゾンと対峙している最中に、垣根帝督の力を使って修復した。

だが垣根が負傷した真守の様子を見るために、大事を取ってエディンバラ城の中庭に敷設されたテントを一つ借り受けたのだ。

 

もうなんともないが、それでも負傷したのは事実。

そのことについて、怒っているアシュリン。

 

(か、過保護な垣根に何でもやりすぎて怒られるのはいつものことだけど……伯母さまが怒ってるのは初めてだ。……ちょっとこわい……っ)

 

真守は初めてアシュリンに怒られてしまい、びくびくと震える。

アシュリンは、そんな真守の手を優しく握った。

 

びくっと、真守は小さく肩を揺らす。

 

優しい、アシュリンの手の平。

真守はアシュリンに直接触れて、彼女が本当に怒っていると肌で感じた。

 

何がアシュリンの怒りを助長させるか分からない。

そのため真守はアシュリンに触れられている手が震えないように、思わず感覚を操作する。

一挙一動に気を付ける真守。アシュリンはそんな真守に触れている手に優しく力を込めた。

 

「真守ちゃん。大悪魔と同じ格に到達したからと言って、無茶が許されるわけじゃないのよ」

 

「は、はい……ごめんなさい……」

 

真守はアシュリンに厳しい顔をされて、しょんぼりと俯く。

しおしおと項垂れる真守。そんな真守を見て、垣根帝督は自業自得だと思う。

 

真守は出会った当初から、無茶ばかりしてきた。

垣根はその度に怒っていたが、何度怒っても真守はけろっとしていた。

確かに怒られるたびに、真守は面倒くさそうにしながらもちゃんと反省はしている。

 

だがいつまで経っても無茶をやめない。そのツケが回ってきたのだ。

 

真守はアシュリンに大きく出られない。

そんなアシュリンに責められているのは、いい気味である。

 

垣根帝督は黙ってしょんぼりする真守を見守る。

真守はびくびくと震えて、そうっとアシュリンを見上げる。

 

「はう……、お、怒らないで伯母さま……っ気を付けるから……っ」

 

朝槻真守はこれまで散々無茶をし続けてきた。

いつも真守は垣根の心配を過保護すぎると面倒そうにする。

 

それなのに心配して怒っている人が真守にとって強く出られない人だから素直に謝るなんて。大切な女の子にしても、その態度はちょっと都合の良いものである。

 

垣根は真守の態度にちょっと苛立って舌打ちすると、アシュリンを見た。

 

「俺はこれまで何度も真守に無茶するなって言ってきた。でも真守は大丈夫だ、問題ないって面倒そうに言い続けて、まともにいう事を聞いたことねえ」

 

「か、かきねっ静かにしててっ」

 

真守は慌てて垣根を見る。

 

(た、確かにこれまでも垣根に何度も怒られたケド……ッこうして私はちゃんと無事だし、全然大丈夫……って、それを言ったら伯母さま絶対に怒るっ。だって、垣根もよく怒ってるんだから)

 

アシュリンは心の中で言い訳をしながらも、空気を読んで言葉にしない真守の事をじとっと睨む。

 

「……これ以上無茶をして、自分のことをないがしろにするなら……」

 

真守はびくっと震えて、おずおずとアシュリンを見上げる。

 

「…………む、無茶をするなら…………?」

 

 

「嫌いになるわ。それにもう会わない」

 

 

衝撃の一言に、真守は一旦硬直する。

 

そして、サーッと顔を青ざめさせた。

 

無茶をするなら、自分のことを大切にしないなら嫌いになる。人の心配を何度もさせて顧みない悪い子にはもう会わない。

 

そう言われた真守はゆっくりと顔を歪めると、ぼろっと大きな涙を零した。

自分が大切な人を本気で怒らせるような無茶をしたと、今度こそ自覚したのだ。

 

アシュリンは本気だ。本気で自分のことを大事にしない真守のことを怒っている。

そんな真守に効果てきめんな決意を、アシュリンはしたのだ。

 

無茶をするなら本当に会わない。その決意が、アシュリンの表情にあらわれていた。

確実に追い詰められた真守は、ひっぐとしゃくりあげる。

 

「……や、やだ……っごめんなさい……っ」

 

真守は小さくなって、思わず垣根の服の裾を掴んだ。だが垣根帝督はつんっとしたままだ。

 

確実に無茶をする真守が悪い。周りの人を心配させるのが悪い。それが事実だからだ。

 

味方がいないことに、真守は言葉を失う。というか、真守のことを大切にしているからこそ、ここは悲しい思いをさせても真守にきちんと反省してもらわなければならないのだ。

 

何度も無茶をするから、取り返しのつかないところまでみんなを怒らせてしまった。

その事実に、真守は小さく震える。

自分が悪いのは分かってる。本気で自分を心配して怒ってる人が怖いからって、助け舟を求めて垣根に縋るなんて都合がよすぎる。

 

相手にされないのは当然だ。でも、すごく悲しい。

 

真守は震える手で、アシュリンと垣根の服を握り締める両手を頼りに、二人に謝った。

 

「心配させて、ごめんなさい……っ」

 

真守はぽろっと涙を零しながら、可哀想なくらいに追い詰められたまま謝る。

 

「気を付けるから、無茶しないから。嫌いにならないで……っ一生会わないなんて言わないで……おねがい……っごめんなさい……」

 

ちなみにアシュリンは一生会わないとは言ってない。

だが真守の中では『もう会わない=一生会ってくれない』に変換されていた。

 

可哀想なくらいにしょんぼりしている真守。

とりかえしのつかないことをしてしまったと、後悔する真守。

そんな真守を見て、アシュリンは一つ息を吐く。それすらも、真守はびくっと震えた。

 

「真守ちゃん」

 

アシュリンは小さくなってぷるぷる震える真守のことを、優しく抱きしめる。

 

「わたくしはあなたのことが大切なの。帝督くんも、深城ちゃんも。みんながあなたのことを大切にしているのよ」

 

「ごめんなさい……」

 

真守はアシュリンの優しくて甘い匂いを感じながら、ひっくとしゃくりあげる。

 

「真守ちゃんはすごいわ。できないことなんてない。そんなことありえない。……それでも、お願いだから心配させないでちょうだい。元気でいて。それだけで良いから」

 

アシュリンは祈りを込めて、真守のことを抱きしめる。

真守はすんっと鼻を鳴らすと、アシュリンにすり寄った。

 

「分かった、ごめんなさい。伯母さま……っ」

 

「ん。よく分かって良い子ね」

 

アシュリンは真守の頭を優しく撫でる。

真守はうるっと目を潤ませると、黙って見守っていた垣根を見た。

 

「垣根、心配かけてごめん……っ」

 

「……お前のこと、大事だから怒ってんだぜ? 俺が監禁したくなる気持ち分かったか?」

 

「わ、分かりたくないけど分かった……も、もう無茶しない……っぜったい……っ」

 

真守はえっぐえっぐとしゃくりあげて、アシュリンと垣根に手を伸ばす。

二人は真守の手を優しく握って、真守のことを穏やかな瞳で見つめた。

垣根は真守と手を繋ぐ反対の手で、優しく真守の涙を拭う。

真守がすんすんっと鼻を鳴らす姿を、アシュリンはじっと見た。

 

「……確かに、帝督くんの考えには一理あるわ」

 

「え」

 

真守はアシュリンのぼそっと呟いた言葉に、きょとっと目を見開く。

アシュリンはじとーっと真守を見つめると、真剣な表情をする。

 

「部屋から出たら嫌いになるって言えば、部屋から出て危ないことしないわよね……?」

 

「ええーっやだ、それはやだっ! ごめんなさい、伯母さまっもうしませんっ」

 

おろおろして、ひーんっと声を上げる真守。

そんな真守を見て、アシュリンと垣根は同時にくすっと笑った。

真守はむすっと顔をしかめて、二人の手を握る。

 

「意地悪しないで……っ」

 

「ごめんね、真守ちゃん。言ってみただけだから」

 

「俺は本気だけどな」

 

アシュリンは真守の頭を優しく撫でて、垣根は七割くらい本気だったと告げる。

真守は意地悪されて、むーっと顔をしかめる。

そんな真守の胸に、アシュリンはそっと手を伸ばした。

 

「ふえ……?」

 

真守は優しく制服の上からアシュリンに触られて、声を上げる。

アシュリンは真守のことをまっすぐと見つめて、目を細める。

その表情は、真守によく似ていた。当然だ。真守とアシュリンは、親娘に相当する遺伝子を持っているのだから。

 

「……本当に大丈夫なの? 真守ちゃん」

 

アシュリンはすすすっと真守に近付く。そして、するっとセーラー服の下から手を入れた。

 

「は、はう……?!」

 

アシュリンは真守に限りなく密着する。

そしてセーラー服の中に手を入れて、真守の体の調子を診る。

 

「何ともないように思えるけど。ここにコロンゾンの攻撃を受けたのね。辛かったでしょう」

 

アシュリンは真守のことを抱きしめる。

 

「だ、大丈夫だ。伯母さま……も、問題ないから……っ」

 

真守はぽぽっと頬を赤らめて、しどろもどろになる。

 

「うう。恥ずかしいよ、伯母さま……っ」

 

「別に恥ずかしがらなくてもいいじゃない。わたくしはあなたを産んだ子と、全く同じ遺伝子構成をしているのよ」

 

アシュリンと真守の母であるアメリアは、一卵性双生児だ。

そのため真守とアシュリンは伯母と姪という立場でありながら、母親と娘と言っても差し支えない遺伝子関係なのだ。

 

「……帝督くんにはたくさん触らせているのに。わたくしは嫌なの?」

 

「嫌とかじゃないっ。ただ、あの……恥ずかしくて……っそわそわしちゃって……っ」

 

真守は顔を赤くしたまま、ぽそぽそと呟く。

 

「伯母さまにぎゅってされるのは嬉しい……っでも、なんか緊張しちゃうの……っ」

 

なんだか気恥ずかしくて、真守はアシュリンの服の裾をきゅうっと掴む。

かわいい。ぷるぷる震えている黒猫気質美少女が愛らしい。

 

「……やっぱりお城に閉じ込めて、大切に大切に愛でるべきかしら」

 

「その話蒸し返さないでっ」

 

真守は再び監禁されそうになっていて、声を上げる。

垣根帝督はというと、たじたじになっている真守と楽しそうなアシュリンをじっと見ていた。

 

真守とアシュリンは、髪の色が明確に違う。だがそれ以外は本当にそっくりだ。

親子に相当するため当たり前だが、二人が仲良くする(?)ところは本当に優しい気持ちになれる。

 

「か、かきねっ見守ってないで助けてっ。伯母さまに私は大丈夫だって言ってっ」

 

真守はひーんっと声を上げる。

アシュリンはどさくさに紛れて真守の細っこい腰に手を這わせてなでなで撫でていた。

 

「腰が細くてちんまいのはマクレーン家っぽいわね……骨盤は開きやすそうだし、やっぱり能力で胸と身長だけを無理して大きくしたみたいね……」

 

「わわっおねがい、伯母さまヤメテ……っ」

 

真守は緊張で体を強張らせて、ぷるぷると震える。

垣根帝督がここまでやったら源流エネルギーが迸りそうなものだが、真守もアシュリンには強く出られないのだ。

 

(たまには翻弄されてろ、ばーか)

 

真守はいつも余裕たっぷりであるため、ちょっとはたじたじになった方がいい。

垣根は慌てる真守の事を見つめて、そんなことを思ってた。

アシュリンは真守のことを、優しく抱きしめて頭を撫でる。

 

「わたくしたちにとって、真守ちゃんは本当に大事な女の子なの」

 

真守はアシュリンに抱きしめられたまま、小さく頷く。

 

「だから幸せでいてほしいの。あなたが幸せだとわたくしも幸せになれるから」

 

アシュリンは真守にすり寄ると、柔らかく微笑んだ。

 

「ありがとう、伯母さま……」

 

真守はアシュリンにぎゅっと抱き着く。

 

(大切なひとがいるというのは、確かに足枷かもしれない)

 

真守は垣根とアシュリンに同時に手を伸ばして、抱きしめてもらう。

 

(でもな、コロンゾン。やっぱり自分を想ってくれる大切な人がいるのは、本当に幸せなことだと思うぞ)

 

真守は二人の優しさに頬を寄せながら、すんっと鼻を鳴らした。

 

水の天使が生まれた時から水に関係しているように。コロンゾンは生まれた時からこの世界に不和と混乱をもたらすように生み出されている。

 

コロンゾンの在り方は、ひとには受け入れられないものだ。

そしてコロンゾンも大切な者など不要だと考えている。

 

自分に手を伸ばしてくる人間を、掃きだめのゴミを見つめるかのような視線を向けてきた。

朝槻真守は、自らの在り方をどこまでも進化させることができる。

 

その可能性は無限大だ。そのため世界に対して、敵になる可能性だってあった。

その可能性を限りなくありえなくさせたのは、源白深城だった。

 

深城が人間として大事なことを教えてくれたから、真守は人間に寄り添える存在になれたのだ。

 

本当に大切にしなければならないこと。

それについて、真守はアシュリンの腕の中で穏やかに考えていた。

 

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