とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一五五話、投稿します。
次は一月二二日月曜日です。


第一五五話:〈幸福只中〉で情報整理

アシュリン=マクレーン。真守の母であるアメリア=マクレーンの双子の姉で、遺伝的に考えれば真守にとって母親でも差し支えないひと。

 

真守はアシュリンの腕の中で、本当の幸せについて考えていた。

人間のまま『流行』へと至った、超常存在へと至った自分の幸せについて。

すると。真守のお腹からきゅるるーっと、可愛らしい空腹を示す音が鳴った。

 

「えへへ。体力使ったからお腹空いちゃった」

 

真守は空腹を正しく感じて、垣根とアシュリンに報告する。

お腹が減る。誰もが感じることを、真守はついこの間まで知らなかった。

 

だからお腹が減る感覚がすると、なんだか困惑してしまうけど嬉しくなる。

真守はそっとお腹を押さえる。そんな真守を、アシュリンはじとっと見つめた。

 

「自分でエネルギーを生産できるからって食べることは大事よ、真守ちゃん」

 

「うん、分かってる。最近はちゃんと食べてるぞ。みんなと食べると幸せを感じるからな」

 

真守はふにゃっと笑うと、アシュリンをおずおずと見上げる。

 

「伯母さま、ご飯貰ってもいい? その余裕って、『王室派』にはあるか?」

 

「もちろんよ。近衛侍女(メイド)を呼ぶわ」

 

アシュリンは笑顔で頷く。だが次の瞬間、何かを感じてぴたっと止まった。

 

「む」

 

「伯母さま?」

 

眉根を寄せてむすっとした表情をするアシュリン。

そんなアシュリンは、真守とよく似ていた。

アシュリンは大変不服そうに、真守を見る。

 

「もうちょっと真守ちゃんとお話がしたいけど、お父様のところに行かないと」

 

「お祖父(じい)さまか? そういえばお祖父さまや他のマクレーン家のみんなは先にエディンバラ城に来ていたんだったな」

 

「そうよ。イギリスの各地で問題が起きてないか調べて、スコットランドが『王室派』の退避に一番適している土地だと判断したのはマクレーン家よ」

 

アシュリンはにこっと微笑むと、真守に説明する。

 

「我らが故郷、ウェールズも候補に挙がってたのだけど……あそこはロンドンから直線状にあるから。退避するためには、ちょっと近すぎたのよね。かといって、北アイルランドは海を越えた場所だから」

 

「なるほど。……あとで、私もお祖父(じい)さまに会いに行かないと。みんなもいるのか?」

 

「ええ。ウェールズやイギリスの主要な地を探っていたのだけど、とりあえず集結しようという話になったの。コロンゾンの対策室はエディンバラ城に設置されたから」

 

学園都市から異界を通ってイギリスに帰還したマクレーン家は、イギリスの各地でそれぞれ安全確認と防衛を行っていた。

いつだってマクレーン家は陰からイギリスを支えている、縁の下の力持ちだ。

そんな彼らもコロンゾンに総力戦をかけるために、集合する手筈となっている。

 

「一応他の派閥にも声を掛けたから、多分大人数になっていると思うわ」

 

「他の派閥?」

 

真守はきょとっと目を見開いて、首を傾げる。

アシュリンは真守の頭を優しく撫でながら、分かりやすいように説明する。

 

「ケルトの民はマクレーン家が主体となっているけれど、幾つかに分かれているのよ。大陸のケルトと繋がりを持つ者もいれば、島のケルトとして国に携わることを良しとしない人たちもいる。ケルトと一口に言っても、色々あるのよ」

 

ケルトの民と言えど、その規模はヨーロッパに広く分布している。

ケルトの民というのは、ヨーロッパに古くから根付くある種の文化だ。マクレーン家はイギリスにいるケルトを取りまとめる立場だが、マクレーンがケルトの全てではないのだ。

アシュリンは真守の頭を優しく撫でて、柔らかく微笑む。

 

「ケルトの民として認めてあげられないけど、色々とお勉強しましょうね。政を行う者や、十字教徒の重鎮は理解していることだから」

 

「分かった、伯母さま」

 

真守はアシュリンに頭を優しく撫でられて、幸せそうに目を細める。

そして躊躇いながらも、アシュリンにすり寄った。

真守の背中をアシュリンは優しく撫でる。

 

「帝督くんの言うことを聞くのよ。彼がダメって言ったらしてはだめだからね」

 

「分かった。ちゃんと聞く」

 

真守はちょっとしょんぼりした様子で頷く。

アシュリンのその言い聞かせは、垣根のことは信用しているが、無茶をする真守はある意味信用していないということだ。

アシュリンはしおれた真守が愛おしくて、くすっと笑う。

 

「良い子ね」

 

アシュリンはくすっと微笑むと、真守の額にキスをした。

 

頭を撫でられて良い子良い子。

それだけでも幸せなのに、アシュリンは親愛の意味を込めて真守の額にキスをした。

 

真守はすごく驚いて、目を丸くする。そんな真守を、アシュリンは幸せそうに見つめた。

 

「帝督くん、真守ちゃんのことをお願いね。食事はすぐに持ってこさせるわ」

 

アシュリンは垣根が頷く姿を見て、真守に手を振る。

真守はぼうっとしたまま小さく手を振って、アシュリンを見送った。

 

「か、かきね……」

 

真守はカブトムシが食事を並べる姿を見ながら、垣根を見上げる。

 

「夢じゃないよな……? い、いま……伯母さまにちゅーしてもらった……?」

 

垣根はくすっと笑うと、真守のベッドの前にあるスツールに座る。

 

「夢じゃねえよ。良かったな、真守」

 

「……えへへ」

 

真守はにまにまと笑って、ご機嫌に目を細める。

 

「伯母さま、元気そうでよかった」

 

コロンゾンが何かをするだろうが、それでも抵抗するな。黙って見過ごせ。

その真守の指示で、イギリスを統べる三派閥には重大な被害が起きていない。

 

ただ一部の者たちは真守の忠告を聞かずにコロンゾンに突っ込んでいって、返り討ちにされてしまったりしたのだが。それは自業自得である。

 

集団になれば、一定数人の話を聞かないものは出てくるというものだ。

真守がむむっと顔をしかめていると、垣根は真守の肩にそっと手を置いた。

 

「お前が誰かを心配するように、お前の事を心配する人間は俺以外にもいるんだ。……本当に無茶するんじゃねえぞ」

 

「うん、分かった。絶対に約束破らない」

 

真守は垣根に優しく諭されて、こくんっと頷く。

コロンゾンと刺し違えようなどとは考えてなかった。

だが色んな人に心配をかけた。色んな人が心配をしてくれている。

 

「自分を大事にするね、垣根」

 

「ああ、約束だ」

 

垣根はようやくわかった真守を見て、一息つく。

そして自分も微かに腹が減っている事を気にして、食事の心配をする。

 

「お前の伯母が動いてくれてるが、いまカブトムシ(端末)の方にも伝達して食事を用意してもらってる。……ただイギリスは飯がマズいって有名な国だからな。お前の口に合うと良いんだが」

 

「垣根、イギリスの食事は味が薄くて素材の味がダイレクトに響くと聞く。私は刺激物が苦手だからな。それに朝食はとてもおいしいと聞くから、大丈夫だろ」

 

「確かにイギリスの伝統的な朝食は種類が豊富で美味いって聞くけど……まあ物は試しか」

 

真守は垣根と軽い話をしながら、そっと目を細める。

 

「コロンゾンが奪った、世界を滅ぼす儀式──モ・アサイアの儀に使われる霊装。確かオナーズオブスコットランドという霊装だったな」

 

「ああ。それについてはカブトムシ(端末)で情報を既に収集してある。なんでもスコットランド版のカーテナって言ったところらしいな」

 

真守と対峙して、真守がコロンゾンを見過ごした後。

コロンゾンは、エディンバラ城の地下迷宮を強引に突き進んでいった。

 

強引というのは既に英国女王(クイーンレグナント)最大主教(アークビショップ)の権限を凍結させていたからだ。

 

だがコロンゾンは大悪魔という素性を隠して、完璧に最大主教をやっていた。そのためエディンバラ城内の術式を網羅しており、脆弱性を突いて強引に突破したのだ。

 

「オナーズオブスコットランドは四つでセットの霊装なんだな。国家の剣、即位の冠、統治の笏。それに加えてスクーン石という四点セットを用いることで、英国を掌握できる」

 

オナーズオブスコットランドはその性質上、スコットランド式で英国を掌握できる。

つまり英国を同じように掌握できるカーテナと競合してしまうため、このエディンバラ城に秘匿されていたのだ。

真守は顔をしかめて、思案顔をする。

 

「それにしても浜面は何をやってるんだ、まったく。大悪魔に取引を持ちかけるなんて」

 

浜面仕上。彼は恋人の滝壺理后と共に、天草式十字凄教に捕らえられた。そして状況を見るに浜面は滝壺と共に、輸送ヘリが着陸した途端に事前に示し合わせた通りに起きて抜け出していた。

 

エディンバラ城は大悪魔コロンゾンの闊歩によって、混乱を極めていた。

だから浜面仕上たち学園都市の人間が動き回っていても咎められなかった。

 

そして浜面仕上は大悪魔コロンゾンに接触した。

垣根帝督は浜面仕上がコロンゾンに取引を持ち掛けた理由を口にする。

 

「『黄金』の一人、ダイアン=フォーチュンを助けたい……か」

 

垣根帝督は、浜面仕上の目的について口にする。

ダイアン=フォーチュン。コロンゾンの手によって造られた防衛装置。

魔導書の『原典』として現代に蘇った、魔術結社『黄金』の一人。

 

真守と垣根は、ピカデリーサーカスのショッピングセンターにて、ダイアン=フォーチュンを含めた『黄金』三人と対峙した。

 

真守と垣根が撃破したダイアン=フォーチュンのその後のことは分からない。

何故ならダイアン=フォーチュンを拾った浜面仕上を監視していたカブトムシは魔神によって破壊されてしまっていて、状況を察することしかできなかったからだ。

 

だが浜面仕上とダイアン=フォーチュンの間には、確かな絆が生まれたらしい。

そしてダイアン=フォーチュンは『黄金』の魔術師として、アレイスター=クロウリーによって魔導書の『原典』として機能不全にされた。

 

「そういえば、垣根。帝兵さんに頼んだ『黄金』たちの回収はできているか?」

 

「見つけたぜ。いま輸送中だから全部は手元にはねえけど」

 

垣根は真守の問いかけに返答して、カブトムシに指示をする。

すると、一匹のカブトムシがタロットカードを一組持ってきた。

 

「ふむ。メイザースのヤツかな?」

 

真守はカブトムシからタロットカードを一組手渡されて、ふむふむと頷く。

 

魔術師『黄金』はコロンゾンの手によって魔導書の『原典』として蘇った。

魔導書の『原典』は簡単には消滅しない。

 

そのためアレイスターは純粋な力で空間を満たすことにより、魔導書の『原典』と地脈や龍脈との繋がりを断って魔導書の『原典』を処理した。

 

機能不全によってばらばらと崩れていった魔導書の『原典』たち。

真守は馬車の上で、それらを帝兵さんに回収するように垣根にお願いしていたのだ。

 

「今は余裕がないけど、コロンゾンとの決着が付いたら、彼らと一人一人話をする」

 

コロンゾンによって安全装置として、現代に蘇った『黄金』。

真守は先程まで対峙していた『敵』のことを想って、小さく笑う。

 

「彼らにもエルダーさまみたいに選んでもらうんだ。そして自分のやりたい道に進んでもらう。それが一番だ」

 

真守は笑って垣根を見上げる。垣根はそんな真守の頬にキスを落とした。

この少女は誰だって前を向かせることができる。

だからきっと、在りし日で止まってしまった『黄金』を立ち直らせることができるだろう。

真守は幸せそうにそっと、メイザースを構成しているタロットカードを撫でる。

 

「ただ、このままだとマズいのは確かだ。浜面が持っているダイアン=フォーチュンを構成している魔導書の『原典』も含めてな」

 

真守はタロットカードの一枚を手にする。

ステラ。大アルカナ一七番。星を象徴とするタロットカードだ。

 

真守はテントの照明の下で、タロットカードをゆっくりと煌めかせる。

タロットカードの上には細かい傷がついている。

 

タロットカードにわざわざ付けられた傷は、なめくじが這うようにむずむず動いていた。

その傷は、少しずつ修復され始めていた。それを見て真守は目を細める。

 

「『黄金』を構成しているタロットカードは全部同じだ。だがコロンゾンはタロットカードに傷や折り目を付けることで人格を造り上げた」

 

タロットカードに着けられた折り目や傷。それが『黄金』の魔術師を形作っているのだ。

 

「魔導書の『原典』は地脈や龍脈から魔力を吸い取って自動修復する。人格を形成している傷が全て修復されてしまえば、『黄金』の魔術師の人格は消え失せる。そうなるとただの魔導書の『原典』だ。だから自動修復を止めなくちゃならない」

 

真守はタロットカードの表面へ手の平を向ける。

その様子を見て、垣根は情報を整理して口を開いた。

 

「自動修復は魔導書の『原典』が地脈や龍脈から魔力を吸収する事で行われる。つまり純粋な力で覆っちまえば、地脈や龍脈からの魔力の供給が断たれて自動修復が行われない。つまり未元物質(ダークマター)で外界と魔導書の『原典』をシャットアウトすればいいんだな?」

 

「その通りだ、垣根。帝兵さんがたくさんいればできることだから、頼む」

 

真守は頷くと、『黄金』の誰かであるタロットカードをカブトムシに返す。

 

「帝兵さんと帝察さんがいてくれて助かった。『黄金』の魔術師は膨大だから、私一人じゃ全員を救うことができなかっただろう」

 

真守はカブトムシにタロットカードを預けながら、目を細める。

 

「私たちが集めた『黄金』は問題ない。だが問題なのは、浜面仕上が保有しているダイアン=フォーチュンを形作る魔導書の『原典』だ。あれも恐らく、傷の自動修復が行われているだろう」

 

真守が回収した『黄金』の魔術師は、そのままにしておけば自動修復によって人格が消失し、ただの魔導書の『原典』になる。

 

浜面仕上が所持しているダイアン=フォーチュンも他の『黄金』の魔術師のように、人格が消失する危機に瀕しているのだ。

 

ダイアン=フォーチュンを、浜面仕上は取り戻したいのだ。

救いは平等には訪れない。だから浜面仕上は手が届くところにいるならば助けたい。

その想いで、浜面仕上はコロンゾンに着いて行っているのだ。

 

垣根帝督は真守の髪をそっと撫でる。

 

「浜面仕上、最後には殺されるんじゃねえのか?」

 

どうやら今、浜面仕上はオナーズオブスコットランドの一つである剣をコロンゾンによって持たされているらしい。

垣根帝督がカブトムシで確認していると、真守はふむっと頷いた。

 

「最後には殺されるかもしれないけど、コロンゾンは理由もなしに人を殺めない。そして理由もなく自分に付き従うのを赦したりしない。だからコロンゾンにとって、浜面仕上はそばに置く価値がある人間なのだろう。その対価として──コロンゾンは、浜面の望みを叶える」

 

「……まあ、お前が言うならそうなんだろうな」

 

垣根帝督は大悪魔コロンゾンが理解できない。

コロンゾンは何を是として何を否とするか、垣根帝督には想像できない。

それでもコロンゾンと同じステージへと至っている真守がそう言うのだ。

 

真守のことは理解しているし、信じられる。だからこそ、垣根はそう呟いた。

真守はくすっと笑うと、垣根にすり寄った。

 

「浜面仕上は垣根と同じで、やっぱりヒーローなんだな。誰かのために頑張れる」

 

「……そうだな」

 

垣根はふっと笑って、真守の事を自分の腕で包む。

この少女のためならば、どんな逆境だって跳ねのけられる。

この少女のためならば、なんでもできる。

垣根はふっと笑うと、真守の小さな唇にキスをした。

 

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