とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一五六話、投稿します。
次は一月二五日木曜日です。


第一五六話:〈通常展開〉はラブコメである

イギリスの食事はマズいと言われがちだ。

だが朝食であるイングリッシュブレックファーストは、豪華過ぎるとちょっと有名である。

イギリスに長く滞在するならば、朝食だけ食べて生きろ──なんて言われるほどに。

 

ソーセージにベーコン、目玉焼き。トマトやスクランブルエッグにハッシュドポテト。ワッフルやパンケーキ。そして果物。

最近はエッグベネディクトと呼ばれる、マフィンの上にポーチドエッグというお湯で固めた卵とベーコンとソースを掛けたものも有名である。

 

真守は垣根に出してもらった未元物質(ダークマター)製のテーブルの上で、近衛侍女(メイド)に持ってきてもらったイングリッシュブレックファーストを食べていた。

 

「真守、これ美味いから食べろ」

 

垣根は味見をしてから、丁寧にナイフとフォークで切りわけたソーセージを真守に差し出す。

 

「む」

 

真守は体を前に出して、あーんっと小さい口を開けてぱくんっと食べる。

もぐもぐと小さい口を動かして食べる真守。そして、真守はふにゃっと幸せそうに笑った。

 

「おいしいっ」

 

垣根が真守に差し出したソーセージはただのソーセージではない。

ハーブや玉ねぎが練り込んであるもので、香味豊かなのだ。

 

真守は長年食事をしていなかったため、刺激物が得意ではない。

英国の食事は味が薄いというか、ほとんど塩コショウとワインビネガーで味付けされている。

ある意味で素材の味を生かす英国の食事というのは真守の口に合うのだ。

 

真守はにこにこと笑顔を見せながら、食事を食べる。

 

「垣根、後で帝兵さん印のタブレット端末作って。必要なんだ」

 

「そうだな。お前、俺と食事しながらコロンゾンへの対策の数式を頭で練ってるだろ」

 

「うぐ」

 

真守は焼きトマトを食べながら、小さく呻く。

そしてゆっくりと、垣根を見上げた。

 

「……なんで私が演算しながらご飯食べてるって分かるの?」

 

「それくらい分かるに決まってるだろ。お前のことずっと見てんだから」

 

垣根はじろっと、真守のことを睨む。

 

垣根帝督にとって、朝槻真守とは絶対に失いたくない少女だ。

そしてずっと、一緒にいたい少女だ。

そんな真守と一緒に過ごし始めて、垣根帝督はそれなりな時を過ごしている。

 

その間に真守は何度も変わっていったが、根本的なところは変わっていない。

だから垣根帝督は朝槻真守のことならば、大体何を考えているか分かるのだ。

垣根は少し焦っている真守のことを、じとーっと見つめる。

 

「……まあ、手と口だけはちゃんと動かしてるからな。もし食事しながらタブレット端末使ってながら食べしてたら、お前の伯母に告げ口してた」

 

「せ、せーふ……っ!」

 

真守はびくびくと震えながら、ほっと安堵する。

垣根はパンケーキを差し出しながら、真守を睨む。

 

「セーフとかギリギリを狙うんじゃねえ、このじゃじゃ馬娘」

 

「む。……ごめんなさい」

 

真守は垣根に謝りながら、差し出されたパンケーキをぱくっと食べる。

垣根はふんっと鼻を鳴らすと、自分も食事を続ける。

 

コロンゾンを倒すための解決策。それを真守は頭の中で組み立ている。

流石に真守がどんな計算をしているか、垣根には分からない。

それは朝槻真守の中に存在している独自の数式であり、独自の法則だからだ。

 

朝槻真守は元々、源流エネルギーからあらゆるエネルギーを生成できる能力者だ。

源流エネルギーに数値を入力して指向性を付与する事で、真守はエネルギーの質を変えて電気や熱量、運動エネルギー、はたまた重力としていた。

 

朝槻真守は数式で物事を見つめている。

科学の神さまらしく数を通して、世界を見ている。

 

「……あんまり心配かけさせるなよ」

 

「いまの私はちゃんと分かってるぞ。大丈夫っ」

 

ふふんっと、得意気に胸を張る真守。

本当に分かってないと終わりだけどな、と垣根は思いながらソーセージを口にした。

 

 

 

──────……。

 

 

 

食事が終わった後。朝槻真守は垣根にぴっとりと寄り添って集中していた。

真守の手の中には、未元物質(ダークマター)製のタブレット端末がある。

直接的な操作はしていない。真守はタブレット端末に直接干渉して操作していた。

 

どんどんと、タブレット端末の画面に数式が羅列されていく。

垣根は高速で処理されるタブレット端末の数式の羅列を見つめながら、真守の髪を優しく撫でる。

 

「よしっ」

 

真守は一息つくと、小さな体を少し揺らして凝り固まった体をほぐす。

 

「コロンゾンを打破するための解決策、構築できたのか?」

 

垣根は自分にぎゅうっと抱き着いてきた真守の頭を撫でる。

 

「一応できた。細かいとこはアドリブだけど、たぶん大丈夫。だって垣根がいてくれるからな」

 

真守は幸せそうに目を細めると、ふにゃっと笑う。

 

「垣根、ずっとそばにいてくれてありがとう。垣根はやっぱり優しいね」

 

「……面と向かって俺にそういうこと言うのは、お前だけだな」

 

垣根は真守のことを抱き寄せて、そっと目を伏せる。

この少女は出会った時から、ずっと変わらずに自分のことを優しいと言う。

 

優しいなんて、ありえない。そんな言葉は悪党である自分の生き方からほど遠いものだった。

自分をコケにして利用するヤツらを垣根帝督は徹底的に潰してきた。

 

他人に優しくしたことなんてなかった。

かつて優しくしたかった者は、優しくする前に死んでしまった。

 

だが、真守と出会って。自分にも優しい温かな何かが流れているのだと分かった。

 

「……お前だから、優しくできるんだ」

 

真守を通して、垣根帝督は他の人間にも優しくできるようになった。

源白深城や、杠林檎にも。そして手駒としか思ってなかった、『スクール』の人間にも。

 

「お前がいるから、優しくできる」

 

だから先程。垣根帝督は動揺してしまった。

この少女がコロンゾンを止める唯一の方法を持っていて。その対消滅をしてしまえば、人間の肉体を持つ真守はこの世から永遠に失われてしまうと。

 

確かに真守は対消滅などしないと即座に否定した。

だが真守に対消滅という選択肢が取れるというだけで垣根帝督は不安で動揺してしまう。

それほどに、垣根帝督は朝槻真守のことを必要としていた。

 

垣根は真守の首筋に頬を擦り寄せる。

その細い首には、自分がプレゼントしたチョーカーが付けられている。

肌でチョーカーの鎖を感じながら、垣根は真守の手を握った。

 

その右手の薬指には、自分が贈った指輪が嵌められている。

それを同じ指輪を嵌めた右手で撫でながら、垣根は目元を緩めた

 

「お前越しなら……世界にも優しくできる。そう思える」

 

本当にどうしようもない世界だけど。

それでも、真守が信じるのであれば。信じてやらない事もない。

 

「ふふ」

 

垣根帝督は、朝槻真守がいたから変われたのだと何度も言ってくれる。

それが真守はすごく嬉しくて、柔らかい微笑を浮かべる。

 

「……垣根、そんな垣根にお願いがあるんだけど」

 

真守はちょっともじっとしたまま、垣根を見上げる。

 

「お前の願いならなんだって叶えてやる。世界が欲しいっつっても用意してやる」

 

「だ、だからそーゆうコトあんまり言うのはよくないっ」

 

真守は良くないと告げるが、垣根帝督はこの愛おしい少女のためならばなんでもやるつもりだ。

何故なら朝槻真守は、自分に温かいものがあると教えてくれた少女なのだから。

 

「どんな願いだ?」

 

「……もしかしたら垣根、嫌がるかもしれない。でも、必要なことなんだ」

 

真守がむっと表情を引き結ぶと、垣根はふっと笑う。

 

一方通行(アクセラレータ)の居場所なら突き止めてる。列車で移動しようとしてる浜面仕上たちを追ってるぜ」

 

自分が嫌がる事と言えば、大体は一方通行の事だ。

真守が何を必要としているか分かる。だから垣根は即座に一方通行の名前を口にできた。

 

「さすが垣根だな。なんでも分かってる」

 

真守は微笑むと、垣根にきゅっと抱き着く。

 

「ありがとう、垣根。ほんとうに」

 

「……お前が必要に思うなら……嫌でも一方通行(アクセラレータ)と協力する」

 

「ふふ。器が大きくなった。本当に大きくなったぞ、垣根」

 

真守はふにゃっと笑うと、そっと目を細める。

 

一方通行(アクセラレータ)はコロンゾンに勝てない。だから垣根、危なくなったら帝兵さんで一方通行のことを守ってくれ。一方通行が本当に必要なんだ」

 

「分かった。あいつがぼろ雑巾みてえになってから助ける」

 

「まったくもう」

 

真守はくすっと笑って、垣根を見上げる。

そんな真守に垣根はキスをした。

むう、と唸る真守。それすらもこの少女は愛おしい。

 

「……垣根。ずぅっと一緒だ。何があっても」

 

「当たり前だ。……俺も、一緒が良い」

 

垣根は頷くと、真守に頬を寄せる。

真守は垣根と束の間の甘い休息を得ることができて、ふにゃっと笑った。

 

 

 

──────…………。

 

 

エディンバラ場内は、怒号で満ちていた。

 

コロンゾンの攻撃を受けているのはイギリスだけではない。

今や、コロンゾンは全世界に対して攻撃を行っている。そのためイギリスは、各国と連携を取ってコロンゾンの攻撃に対応しているのだ。

 

エディンバラ城はコロンゾンが暴れ回ったため、土はめくれて石壁は崩れ、生々しい爪痕があちこちに残されている。

 

本当に、ここは戦場だ。

真守は垣根と並んで歩いて、忙しくしている人々の邪魔にならないように歩く。

多くのテントが立ち並ぶ中、真守は上条のもとへと向かっていた。

 

上条当麻。コロンゾンによって肉塊にされたがアレイスターによって幻想殺し(イマジンブレイカー)が宿った右腕を切断されて、蘇生魔術によって蘇生させられた。

 

その右腕には、今も幻想殺しが戻っていない。それはつまり、上条当麻の奥に潜む力を押さえつけるものが何もないと言うことだ。

 

そのため真守はカブトムシに指示をして、とりあえずの処置として右腕があると上条に誤認させることによって場をしのいでいた。

 

だが右腕があると誤認させているのは、結局問題の先送りに過ぎない。

早いところ食蜂操祈と話をして、上条当麻に幻想殺しを返してもらわなければならない。

そうしなければ上条当麻の奥から力が溢れて、最悪世界を壊してしまうことすらありえる。

 

上条当麻の現状が心配だ。

そのため真守は、垣根と共に直に確認するべく上条当麻のところへ向かっていた。

真守と一緒にいる垣根はチッと舌打ちをする。

 

「ハーレムクソ野郎め」

 

「ん? 垣根、上条がはーれむ気質なのは今に始まった事じゃないだろ」

 

真守は垣根の呟きに答えながら、目的の少年がいるテントの前までやってきた。

 

「上条」

 

真守は特に遠慮することなく、ぴらっとテントを開けて入る。

 

すると上条当麻を中心に、確かにハーレム空間が出来上がっていた。

 

水着を着ている御坂美琴と、水着の上からレインコートを羽織っている食蜂操祈。

 

そのコンビに囲まれた上条は、お嬢様による全力の世話をされていた。

ちなみに肩乗りオティヌスちゃんも、ちゃんと女の子である。

 

「あ。朝槻」

 

鉄パイプと分厚い合成シートでできたベッド。

そこに座って女の子二人を侍らしている上条当麻は、真守を見る。

 

「……、」

 

真守は良いご身分になっている上条当麻を見て無表情になる。

上条当麻が女の子を惹き付けてやまないのは真守も知っている。

だが実際に同級生のそういう姿を見てしまうと何とも言えない気持ちになる。

 

真守は冷えた目のまま顔を歪めて、ゆっくりとこてんっと首を傾げた。

 

「──女子中学生を侍らせて。楽しいか、上条?」

 

心底軽蔑した真守の目を見て、上条当麻はひぃっと声を上げた。

 

「あ、朝槻さん! 汚泥に産卵してる羽虫を見るような目を向けないでくださいっ!! 生死の境をさまよったんだから、ちょっとぐらいいい扱いされてもいいでしょぉ!?」

 

上条の言葉に、上条の肩に乗っていたオティヌスがふんっと不機嫌そうにそっぽを向く。

 

「お嬢様にお世話されて。すごく楽しいだろ、上条」

 

「……………………うん」

 

起きたら右手が無かった。

カブトムシの能力によって右腕があると誤認させられているため体のバランスは取れるが、それでも自分の右腕がないことは衝撃的だ。

だから上条当麻は落ち込んでいたが、女の子二人が優しくしてくれるのでちょっと幸せだった。

 

「で、でもっ俺は右手がないしっ!!」

 

「そうだな、右手がないもんな。それで?」

 

「ひぃいいい朝槻さん冷たい、コワイ!!」

 

上条当麻は声を上げて、クラスメイトの冷たい視線に涙目になる。

真守はため息を吐くと、じとっと食蜂操祈を見た。

 

その視線に、気まずい顔をする食蜂操祈。

アレイスターがA.A.Aを操ったことにより、上条当麻の右腕から切断された幻想殺し(イマジンブレイカー)

それを持っているのは食蜂操祈だ。

 

先程上条が肉塊になってアレイスターが回復魔術を施そうと幻想殺しを切除した時、上条当麻の右手はぼてっと食蜂操祈の胸に当たったのだ。

 

それを知らない真守ではない。

垣根もじとーっと食蜂操祈を睨む。

食蜂は気まずそうに目を逸らしながらも、上条に抱き着く。

 

「上条さーん☆ 良かったわねえ、朝槻さんが平常運転でっ!」

 

「あっコラ食蜂!! このバカに母性の塊を押し付けるんじゃないわよっ!!」

 

あからさまに話を逸らした食蜂を、真守は追及しなかった。

垣根はそんな真守を気にしつつも、上条を見る。

 

「いいご身分になってることに自覚はあるんだな、クソ野郎」

 

「ふ、ふんっ!! イケメンで普段からちやほやされる垣根さんには分からないやいっ! こちとら右手が失くなってるんだぞっ!」

 

「何の自慢にもならねえよ、アホ。つーか俺も第三次世界大戦の時は右方のフィアンマのクソッタレに体を半分吹き飛ばされたんだが? それでも俺はお前みたいに優しくされて舞い上がることなく能力使って補って、真守助けに行ったんだよ。忘れたとは言わせねえぞ」

 

「……………………うぅ、すいません……」

 

上条はがっくりと肩を落とす。

そんな中、食蜂はにへらっと笑って垣根を見た。

 

「まあまあ垣根さん。そんなに睨まないでぇ☆ あなただって朝槻さんとイチャイチャ力全開にしてたっていいんだからぁ」

 

「うるせえ俺は時と場合を考えてんだよ。つーかテメエは真守のおかげで上条に覚えてもらえるようになったんだろうが。少しは自重しやがれ」

 

真守は吐き捨てるように告げる垣根を見上げる。

この男はやりたいようにやる。

だから一度たりとも時と場合を考えたことはないはずだ。

垣根は真守が『人のコト言えないだろ』と考えていると察すると、じろっと真守を睨む。

 

「なんか思ったか真守コラ」

 

垣根は睨むと、真守の頬をつねった。

 

「むーむー!」

 

真守は片頬だけをぐいーっと引っ張られて声を上げる。

大悪魔による、全ての位相とこの世界終焉の危機。

それでも真守たちは通常運転で、それぞれラブコメを展開していた。

 

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