次は一月二二日月曜日です。
契約から解き放たれて、世界を自然分解へと導こうとするコロンゾン。
そんなコロンゾンへの解決策を構築した真守は上条当麻のところへやってきていた。
真守はいつもの通りに垣根につねられた頬をさすりながら、緑のテント内を移動する。
そして上条の座っているベッドの隣にあるベッドをソファ代わりにちょこんと座ろうとした。
「真守」
座ろうとした真守を、垣根が呼び止めた。
真守が首を傾げると、垣根は真守が座ろうとしていたベッドを見つめた。
すると、ベッドの上にじわりと純白の
その未元物質は垣根の意思で形を得て、ふわふわ座布団と座椅子に変化した。
ただのパイプベッドに大事な女を座らせられるか。
そんな垣根の意思表示を見た上条、美琴、食蜂は遠い目をした。
「まったくもう、垣根は」
真守はちょっと怒った様子を見せながらも、嬉しそうにすとんっと垣根の作ったスペースに座る。
美琴は見れば見るほどに重い男になっていく垣根をじろっと見上げる。
「ちょっとアンタ。流石にやりすぎじゃない?」
「あ? なんだよ、男に大事にしてもらった事がない生娘が。口出ししてくるんじゃねえ」
「きっき?!」
「つーかそれ以前だろ、お前。好きな男に見向きもされないヤツがぎゃーぎゃー吠えるな」
「わあああああああッ!!!!」
美琴はガシャンガシャンガシャン!! と、A.A.Aを構える。
垣根はそれを嘲笑するように見た。
A.A.Aはアレイスターの魔術的な力を伝播させるためにある。だがそれを美琴は理解していない。
そのため美琴はA.A.Aを純粋な科学技術でしか扱えないのだ。
この世の技術では、最早垣根帝督を傷つける事なんてできない。
だから御坂美琴なんて、脅威でもなんでもないのだ。
垣根が余裕たっぷりの姿を見せていると、上条は首を傾げた。
「? 御坂、やっぱり好きな男がいるのか? 女の子だなあ」
美琴は上条のその言葉に涙目になって食蜂を睨んだ。
「食蜂!! 記憶消去ぉ!!」
「はいはい。わかったわよぉ」
食蜂は隠し持っている上条の右手が見えないようにリモコンを取り出すと、ピッとボタンを押す。
途端に記憶消去される上条当麻。垣根はそれを見て、食蜂を鼻で笑った。
「はん。気軽に精神操作するテメエはやっぱヤバいヤツだな」
「人の事言えないでしょぉ。朝槻さんのためなら何でもやってるくせにぃ」
食蜂は負けじと垣根を白い目で睨む。
食蜂にとって垣根帝督とは、暗部で仕事をしている危険人物だった。
だが真守と出会った事で垣根は角が取れたらしく、大覇星祭の二日目──木原幻生に追い詰められた時なんかは助けてくれた。
それから一〇月一〇日の暗部抗争で派手に暴れたらしいが、垣根帝督が暴れた理由は明らかだ。
世界よりも大事な朝槻真守が自分と一緒に幸せに暮らせる事。
それを願って、垣根帝督は動いていた。その願い以外、垣根帝督は本当にどうでもいいのだ。
(とはいっても、朝槻さん以外に完全に興味がないわけじゃないらしいけどぉ。……その証拠に、私のことも文句言いつつも助けてくれたしぃ)
食蜂操祈は真守の前に追加で
垣根帝督が何を考えているのか、食蜂操祈は分からない。
何故なら垣根帝督に自分の能力は効かないからだ。
だが今の垣根帝督は、真守への優しさで動く。
誰を中心にして動いているか分かれば、特段脅威にはならない。
(それにしたってありえないほどにひねくれてるけどぉ……別にいいか。私には関係ないし、本人たちは幸福力マックスなわけだしぃ)
食蜂は心の中で思いながら、足をくじいたふりをしてぎゅっと上条の後ろから抱き着く。
「あらぁごめんなさい上条さん☆ ちょっとよろけちゃったわぁ」
「ふ、ふほぉおおおおおー────!! たわわで柔らかくて気持ちいいマシュマロみたいなものが二つ背中に……っ!!」
「こらぁー食蜂ォおおおおお!!」
美琴はバチバチ前髪から電気を迸らせ怒る。
食蜂に記憶を消去されたことをもちろん覚えていない上条は、垣根に最大限配慮されている真守を見てぽそっと呟く。
「……垣根って、本当に朝槻を大事にしてるよなあ」
真守は軽食を並べる垣根とカブトムシを見ながら、恥ずかしくも嬉しそうに目を細める。
「垣根はちょっとやりすぎだと思うけど。でも、男の子に大事にされるのは悪くないぞ?」
「そっか。俺も早く誰かを大事にしたいなー。具体的には管理人のお姉さんとか」
上条当麻の何気ない言葉に、ピキッと空気が軋む。
「あ、あれ……?」
上条が顔を上げると、美琴が静かにブチ切れてるのが見えた。
途端にバカスカ上条に向かって弾丸が撃たれるA.A.A。その美琴の攻撃が最初から当てる気がない攻撃だと上条は持ち前の感覚で分かっているため、特に動こうとしなかった。
垣根は上条たちをよそに、用意されていた紅茶を華麗な手つきで淹れる。
そして真守に差し出した。
「ありがとう、垣根」
真守は垣根にお礼を言って、くぴっと飲む。
「む。戦場でもやっぱり本場の紅茶っておいしいんだな」
垣根は真守の隣に座りながら、紅茶を飲んで頷く。
「戦場でも豪華なティータイムってワケだ。真守の伯母もしょっちゅう学園都市で紅茶飲んでたし、やっぱイギリスは紅茶の国だな」
垣根は確かに良い香りがしている紅茶を嗜みながら告げると、美琴は目を遠くした。
「……そういえば朝槻さんって、母方の実家がイギリスのウェールズに住む貴族なのよね」
美琴が遠い目をする中、食蜂も頷く。
「そぉねえ。
「設定とか言うな」
真守がじろっと食蜂を睨むと、美琴が食蜂に近づいてぼそっと告げる。
「しかも彼氏持ちなのよ、食蜂。しかも
真守は美琴の言葉を聞いて、顔を赤くしながらムッとしかめる。
「別に垣根が恋人でもいいだろ。すきになっちゃったんだからっ……」
真守はぽっと頬を赤くしながらも、淡々と告げる。
垣根帝督という男に女として大事にされている、自分の大切な友達である朝槻真守。
仲睦まじい、らぶらぶいちゃいちゃカップル。
高校生にとって、彼氏彼女がいるというのは羨ましいものだ。
上条が密かにいいなあ恋人、と思っていると垣根は笑って真守の腰を抱き寄せる。
そして不敵に上条当麻を見た。
「いいだろ、上条当麻。これ俺のなんだぜ」
「ぐぬぬぅ……っ!! すごく嫌味な言い方っ!! イケメンだからって何言ってもいいわけじゃないやいっ!!」
上条は叫んで、おいおいと泣く。
「あらあらぁそんな上条さんには私が濡れタオルでお身体の方を拭かせてもらいますからねぇ? 右手の代わりを務めさせていただきますぅ」
「うるさいわ食蜂後にして! 今A.A.Aを駆使して私が食事食べさせるんだからッ! ほ、ほらバカ! 英国にはポリッジって言うイギリス伝統のオーツ麦を使ったおかゆがあるのよ!! 特別にフルーツたっぷり盛ってるから食べなさい!! ほら、アーンして、アーン!!」
真守はハーレムを築き上げている上条を見て、スコーンに手を伸ばす。
「本当、世界分解の危機に面してるとか思えない様子だよなあ」
「そうだな、上条当麻を見てるとバカらしくなってくる。……でも、まあこういうのもいいか。変わらねえことも大事だからな」
垣根が小さく笑う姿を、真守は幸せそうに見つめる。
すると、真守はぴくんっと反応した。
真守が反応したのを見て垣根も鋭く目を細めて、顔を上げる。
「……ヘリが撃墜されたな」
「確か人員補給のためにヘリは何度もロンドンとスコットランドを往復しているハズだよな。コロンゾンの気配はないし、多分第三者がヘリを撃墜させたんだと思う」
真守は顔をしかめて、エディンバラ城の外周部を見つめた。
「魔術で撃ち落とされたのか? ……これは地脈から魔力を吸い取って使った魔術……個人が精製した魔力じゃないから誰でも使える魔術だ。一体だれが何をして……」
「特定した。滝壺理后が女と逃げたみたいだ」
垣根はカブトムシのネットワークで状況を特定して、真守に伝える。
滝壺理后。彼女は恋人である浜面仕上によって気絶させられ、『清教派』に確保された。
浜面が滝壺を気絶させたのは、コロンゾンの指示だった。
自らについて来るならば、恋人すらも切り捨てる覚悟を見せろ。
浜面仕上はコロンゾンの指示に従った。それほどまでに、浜面仕上はダイアン=フォーチュンを助けたかったのだ。
真守はふむっと頷いて、首を傾げる。
「滝壺は事情聴取をされていたハズだよな。おそらくそこから滝壺を連れ出して一緒に逃げた女……誰だろう?」
「分からねえ。滝壺理后は告解室にいたからな。流石に中にはカブトムシを入れなかった。いま告解室に
未元物質は本当に万能だ。そのためサイコメトリーのようなことだってできる。
「垣根はやっぱりすごい」
「お前だってできるだろ。俺にできる事はお前にももちろんできるんだから」
垣根は柔らかい笑みを浮かべる真守を見る。
真守はそんな垣根を見上げて、ふるっと首を横に振った。
「私には器を作れないから」
「……そうだったな」
真守は創世や『流行』を冠するところまで至ったが、肉の器を作ることはできない。
肉の器に近しいものは造れるが、それは源流エネルギーで造られた器だ。
超常的な存在は往々にして肉の器を自分の力で用意できない。
だがコロンゾンはそれができた。だからこそ彼女は特別となっており、彼女を打破するのはとても難しいことになっている。
「……何があっても、お前のそばにいる。真守」
垣根はするりと真守の黒髪に触れながら、目を細める。
「絶対にその身体は喪わせねえけど。欲しいものがあったら俺がなんでも用意してやる」
「ありがとう、垣根」
真守はふにゃっと笑って、垣根を見上げる。
そして垣根へと手を伸ばして、ぎゅっと抱き着く。
「私は垣根の力も、垣根の心も。ぜんぶがほしい。だからずぅっと一緒にいて、垣根」
「当たり前だ」
垣根は真守の頭にちゅっとキスをする。
真守はくすっと笑う。ちなみに上条たちは彼らで楽しくやっている。
そんな上条を横目で見て、垣根帝督はにやっと笑った。
魔導書図書館、インデックス。
彼女は大英博物館でコロンゾンについて調べていたが、件の墜落されたヘリに乗っており、上条の安否が心配で走って来ているのだ。
「クソハーレム野郎に天罰だな」
垣根がカブトムシで確認しながら笑うと、医療用テントの布がめくられた。
そこには、インデックスがもちろん立っていた。
本当に上条当麻のことを心配していたインデックス。
だが目の前には水着にレインコートの少女に抱き着かれて、甲斐甲斐しく水着の短髪(インデックスの美琴の呼び方)に世話をされている上条当麻がいる。
心配していた大切な男の子の様子を見た瞬間、インデックスの瞳から光が消えた。
「今さっき起きた迎撃魔術の件も込みで、ひとまずてっぺんの『王室派』辺りと情報共有をしておきたかったんだけど」
インデックスは目から光が消えたまま告げる。
「……そこの王様モードの人、全体的に何があったか教えてほしいかも」
上条当麻は固まる。
まるで浮気現場を見られた亭主のように。
そしてお約束の噛みつきタイムが始まった。
「いつも通りだな、垣根」
「そうだな。自分の女の手綱をいつまでも取れないなんてやっぱり真正のバカだよな」
真守は呆れている垣根を見て、くすくすと笑った。