次は二月二二日木曜日です。
世界を完膚なきまでに破壊し、次につなげようとしているコロンゾンを止めなければならない。
そのため真守は垣根と
「悪魔ちゃん、お前がやるんだ」
『ですぅ?』
クリファパズル545は真守に呼ばれて首を傾げる。
「オマエがイギリスって国を引っ掻き回した張本人だろォが。オマエが筆頭になってやらなくちゃ、誰がやるンだよ」
『……にひひ。そうですねえ。了解ですぅ、ご主人様っ!』
クリファパズル545は、尻尾を跳ねさせる。
真守はくすっと笑うと、クリファパズル545に笑いかけた。
「私たちも力を貸してあげる。垣根、それでいい?」
「……真守の頼みだ。しょうがねえから聞いてやる」
『にひひ、それじゃ行っきますよーう!!』
クリファパズル545が声を上げると、全てが大きくねじ曲がった。
そして氷の大地の上に現れたのは、竜巻だった。
コロンゾンの攻撃によってへし折れた大量の樹氷や、コロンゾンの攻撃によって砕けた氷の大地。
すでに役目を終えた氷の大地の残骸をクリファパズル545は片っ端からかき集め、直径数十メートルまで渦のように巻きあげて、天まで届く天災へと変貌させたのだ。
「外から見えねェ。砕く事も叶わねェ」
クイーンブリタニア号は既に神殿と化しているため、外からいくら攻撃を加えても壊せない。
だがそれは魔術の常識において、だ。
そのため
「なら試してみよォじゃねェか、自信があるなら胸を貸せよ、クソ悪魔がァ!!」
一方通行の怒号を皮切りにして、突き進む残骸でできた氷刃の竜巻。
コロンゾンは『騎士派』への攻撃として使用していた光の雨を白い竜巻に向けた。
だが白い竜巻は光の雨すらも巻き込んで、勢いを増していく。
コロンゾンの意識が竜巻に向いている間に、『騎士派』が歩を進めれば万々歳だ。
それでも。そう物事は簡単にはいかない。
突如、大量の金の髪の塔が分厚い氷の大地をぶち抜いて現れた。
『にひっ!? アエティール・アバターっ!!』
塔のように打ち立てられた、金の髪でできた竜にも天使にも見える攻撃。
それらは二なるARM、八なるZID、二一なるASP、二五なるVYI。
切り取る文字によって性質が変わる天使の巨像だ。
それを見て、一方通行はチッと舌打ちをした。
「リズムが足りねェ。フロアも不十分。アンプも小せェ。ふン。やっぱ単体じゃこの程度か」
『ですぅ?』
クリファパズル545は、自らの主人が言っている意味が分からずに首を傾げる。
真守は柔らかく微笑んで、
「垣根」
真守が垣根を呼ぶと、垣根はチッと舌打ちをしながらも応えた。
「地盤は
「うん。よろしく、垣根。増幅は私がするから」
真守が柔らかく微笑むと、
「制御預けな、クリアパズル545。……楽しめよ。こォいうモンは楽しんだモン勝ちだろォが」
クリファパズル545は
そんなクリファパズル545の近くで、真守は不敵に笑った。
「──学園都市の頂点の力を見せてやる。コロンゾン!」
真守がそう告げた瞬間、垣根帝督が翼を大きく広げた。
ゴォッ!! と風が巻き上がる中、垣根は周囲に
すると、空間を制御する能力者には分かる
それは通った攻撃の速度を上げる道だ。
一方通行のベクトル攻撃を何倍にも威力を上げる道である。
これで、
すると次に朝槻真守が動いた。
真守は一方通行と繋いでいない方の手を空へと向ける。
その瞬間。
真守が源流エネルギーを注入したことで、クリファパズル545が作りあげた竜巻がより凶悪な形となって君臨した。
直径が百数メートル前後まで大きくなり、竜巻の中で震える樹氷や砕けた氷にぶつかったら一瞬で人間が細切れになる凶悪さだ。
垣根帝督が場を作り、朝槻真守が出力を底上げし、一方通行が完璧に制御する。
その天災はまっすぐと突き進み、クイーンブリタニア号の横っ腹に突っ込んだ。
鋭い衝撃。それによって氷の大地が一部砕ける。
そしてクイーンブリタニア号に直撃した天災は巨大船舶の軌道をずらした。
「私たちの力をもってしても、神殿を形成した船は壊せないかもしれない。壊せないなら、コロンゾンが向かいたい海上のポイントに辿り着くのを妨害してしまえばいい。すごい力技だけどな」
真守は『流行』に至った者として、天啓のように告げる。
派手な振動と衝撃がクイーンブリタニア号から、氷の大地へと響き渡る。
ズズズズゥン、と低い音が響き渡り、クイーンブリタニア号の軌道が少しずつズレていく。
真守たちの合わせ技でクイーンブリタニア号を壊すことは叶わない。
だがクイーンブリタニア号が浮いているのは海上だ。その海上に干渉する事ができる。
だから一方通行は、真守と垣根の力を使ってクイーンブリタニア号を横から押して妨害した。
流石に方向転換までとはいかなかった。
それでも正午ぴったりに到着する予定が、そのズレによって叶わなくなる。
コロンゾンは歯噛みする。
『人間の手によって生み出された俗物がァ!!』
コロンゾンの絶叫が響く中。真守は柔らかく微笑んだ。
「これで終わると思うなよ、コロンゾン」
まだまだこれは序の口だ。
真守は不敵に微笑むと、天災と化した白い竜巻の制御を一方通行から譲り受ける。
そして『騎士派』、『王室派』、『清教派』の全軍を守りながらも船に近付く。
「む。てっきり結界をぶち破って船に侵入しなければならないと思ってたケド。普通に船内には降り立つことができるんだな」
真守はクイーンブリタニア号の横の通路に降り立って、辺りを見回す。
「おー、やっぱり大きいよな。さすがイギリスの『王室派』が保有する船だ」
真守はきょろきょろと辺りを見回すと、クイーンブリタニア号の豪華仕様に目を輝かせる。
「私、こういう船に乗った事ないからな。少しわくわくしてしまう」
「安心しろ。俺だって乗ったことねェ。オマエの男は違うだろォけどな」
垣根はクイーンブリタニア号を見回すと、ふーんと鼻を鳴らす。
「こんなにデカい船は俺も乗るのはハジメテだぜ。──真守、お揃いだな?」
「な、なんか言い方に悪意があるっ」
真守は頬を赤くして、ぴゃっと飛び上がる。
その横で、クリファパズル545が笑った。
『いひっ』
そんな一方通行へ、クリファパズル545はするんっと体を寄せた。
そして求められていないが、一方通行に肩を貸す。
「……ここでじゃれつくかよ?」
『私はご主人様を支える盾ですので☆ いざという時は盾にもなれますよ』
「ッチ」
『おっとこれは肯定の舌打ちと判断しますよ? にひひ、それに硬い杖よりおっぱい当たっている方がお得でしょう?』
そして無言で手を上げた。
『どはぁーっ!! そこはっ、おでこの穴、おばかさん、よもやそんな所に指を突っ込んじゃいますっ? バカそんな二本もッ、縁をなぞっちゃダメぇ!! これは照れ隠しっそれとも本気のヤツ? どっちだぁー!!』
真守はクリファパズル545をイジメる一方通行を見て、不覚にもドキドキしてしまう。
「な、なんかイケナイことを見ている感じがする……ッ!」
真守は変な高揚に胸を高鳴らせる。
垣根は真守の目を隠すために、ぎゅっと後ろから抱きしめる。
「ヘンタイなんて見るな、真守」
垣根が一方通行とクリファパズル545を真守に見せないようにする中、真守はなんだか少し恥ずかしくてぽぽっと頬を赤らめる。
「高みへと昇り詰めるところを見るのがこんなにドキドキすることなんて……っ私、これから私を追って神さまになる人たちに不覚にもどきどきしちゃうかも……っ」
「真守?! 何て階段上ってやがるんだ……! ──オイ一方通行ァ!! テメエ何真守に変な階段上らせてやがる! これは俺のだ!!」
垣根に怒鳴られる中、
「めんどくせェ……何だこの混沌とした空気はよォ」
「お前が発端だろォが!!」
垣根は真守のことを何故か抱きしめて守りながら、
おちゃらけた雰囲気をしていたが、真守はこほんっと一つ咳をした。
「で、どこを攻撃しようか。不用意なコトすると儀式場が暴発してイギリス吹き飛んじゃうだろうから、丁寧に破壊しないとな」
「丁寧に破壊するっておかしいだろォが……」
一方通行はため息を吐くと、船内を見渡した。
「とりあえず機関室に向かった方が良いか。つーか、具体的にオマエが大悪魔を止めるために構築した秘策をまだ聞いてねェけど。本当に大丈夫なンだろォな?」
「うん、大丈夫だぞ。……まあでも、機関室に向かうのが上等かなあ。船を止めて時間に余裕ができたら、ゆっくり私たちの儀式に取り組めるから」
「……儀式だとォ?」
真守はふふっと笑うと、船内を歩き出す。
「百聞は一見に如かず。とりあえず機関室を目指そう。操縦室には上条たちが向かってるし、アレイスターなんかはエルダーさまを連れて正攻法で儀式場に向かおうとしてるから。手分けしてって感じだ」
真守は垣根の手を引いて、トテトテと
大悪魔コロンゾンは世界を自然分解へと導くために、クイーンブリタニア号という儀式場を使おうとしている。
儀式は儀式場をきちんとした場所に向かわせなければ、全ての位相と共にこの世界を破壊することはできない。
真守が船体にぶつけたためコロンゾンの目的地点へとクイーンブリタニア号が到達するまでにある程度の時間を稼げた。しかも目的地点へと到達しても星の位置の関係上、コロンゾンはすぐに儀式を行えるというわけではなくなった。
だが結局、時間を稼いだというだけだ。
クイーンブリタニア号を完全に止めるには、機関室を壊すのが一番手っ取り早い。
「英国女王は儀式場として完璧だからクイーンブリタニア号を解体できないとか言ってたけど、コロンゾンを倒したら私が直々に破壊してやろう」
真守はにこにこ笑って、とんでもないことを口にする。
「位相と世界を丸ごと破壊できる可能性のある儀式場なんてあぶねえからな。『王室派』も持て余してんだ。それも良いだろ」
真守の言葉に同意する垣根。
真守たちは下りの階段を見つけて、機関室へと向かう。
すると、一方通行が呟いた。
「やっぱりいやがった……」
真守たちの行く手を阻んだのは、一人の男だった。
浜面仕上。
「お、浜面だ」
真守はひょこっと顔を出して、浜面仕上を見る。
『あ、まずい……科学的に開発された能力者のくせに無理やり魔力なんて精製してるものだから、体の中がとんでもない事になってますよぅ!』
能力者は魔術を使うことはできない。
厳密に言えば、魔術を使うために魔力を精製することが能力者の体に大きな負担をかけるのだ。
能力者の体は能力者として、完璧に開発・仕立て上げられている。
その体を無理に運用すれば、体を傷つけるのは当然だ。
『あの呼吸をずっと続けていたら、全身の血管が破れてもおかしくありません。むしろ今まで生きてきたのが不思議なくらいですぅ!』
「うる……せえよ……」
浜面仕上は息も絶え絶えな様子で呟く。
辛そうにしながらも、ズボンのポケットに手を沿える浜面仕上を見て、真守はふむっと頷いた。
「本当にダイアン=フォーチュンを助けるためにコロンゾンに付いてったんだな。自分の体を使って魔力を精製するのは、私でも忌避感があるよ。浜面」
浜面仕上は真守が事情を知っているのだと理解して目を見開く。
「あの子を助けたいなら、助ければ良い」
真守は浜面仕上と対峙して、自分の想いのままを口にする。
「お前はコロンゾンに魂を売ったが、コロンゾンは対価としてお前に知恵を授けた。そういう契約をお前はコロンゾンと交わしたのだろう?」
真守は浜面仕上が大事に持っているタロットカードを見つめて、そっと目を細める。
「お前がダイアン=フォーチュンを助けることに意味がある。私はそう思う」
真守は乏しい表情で、天啓のように浜面仕上に言葉を掛ける。
「お前の望むべくところはすでにコロンゾンと別にある。そして私たちはお前と関係なくなったコロンゾンを止めるのが目的だ。お前の大事なひとも来てるみたいだし、他所に行け」
真守はすいっと指を動かした。
途端に、ふっとその場から浜面仕上が消える。
この場から消えたのは浜面仕上だけではない。
謎の女によって導かれ、浜面仕上のもとにやってきた滝壺理后。
彼女もまた、この場から退却させられていた。
「それに、ここは戦場になるからな」
真守がぽそっと呟いた瞬間、真守たちのいる左側の壁がぶち抜かれた。
垣根帝督はその存在に気が付いていた。
そのため
廊下の壁をぶち破って出てきたのは、一人の魔神だった。
褐色の肌に銀の髪。グラマラスな体に包帯しか巻いていない、露出度が高すぎるしなやかな肢体。
「あら。この私と会うのは久しぶりね、神人さん?」
魔神ネフテュス。『窓のないビル』と共に大悪魔コロンゾンが『新天地』へと飛ばされた際、暴れすぎてうっかりこちら側へと出てきてしまった魔神。
彼女は真守が加工したネフテュスとは違う存在だ。
ネフテュスはその成り立ちからして、自分のことを小分けにする事ができる。
いま真守たちの目の前にいるのは、上里翔流が大部分を新天地へと飛ばしたネフテュス。
人を救うための自分として目醒めたネフテュスとは違い、自儘に動くネフテュスだ。
「私が個を与えたネフテュスは今も上里翔流と楽しくやってるみたいだぞ」
「ふふ。それはもう私ではないけどね。だとしても楽しくやってるならそれで良いじゃない」
ネフテュスは微笑むと、真守へとそっと手を伸ばす。
「私も私のやりたいように戦わせてもらうわ。あなたたちと戦うのを、本当は楽しみにしていたのよ。私は僧正のように、あなたの力を喰らっていないから」
「楽しみ、だと?」
真守はくすりと笑って、魔神ネフテュスを見る。
エメラルドグリーンの瞳が、妖艶に煌めく。
「私はあの時の私じゃない。私は流れ行きながらもその真価を変えることなく、自らをどこまでも高みへと昇り詰めることができる存在だ。──魔神如きが、図に乗るなよ」
真守は不敵に微笑んで、ネフテュスへと手を伸ばす。
そして蒼ざめたプラチナの翼を広げて、超常存在として魔神ネフテュスと対峙した。