とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一六五話、投稿します。
次は二月二六日月曜日です。


第一六五話:〈超能力者〉たちは昇りつめる

「む。ちょっとはしゃぎすぎてしまったな。機関室の前からこんなトコに来てしまった」

 

朝槻真守は腰に両手を当てて仁王立ちし、得意気に笑う。

真守はいま、クイーンブリタニア号の中にあるオペラハウスの舞台にいた。

 

舞台を観客する席には、大きなクレーターが開いている。

そこに元々あった席は跡形もない。その中心には、一人の魔神が伸びていた。

 

「あんまりおイタしちゃだめだぞ、ネフテュス。まあお前が暴れようが、私が完封してやるけど」

 

真守は人差し指を立てて、伸びているネフテュスをめっと怒る。

垣根は茶目っ気たっぷりの真守の頭に、とんっと手の甲を当てる。

 

「あんまり調子に乗るな、真守」

 

「む。私は大丈夫だぞ?」

 

「そうは言っても体のこと大事にしろ」

 

真守は垣根帝督に体調を心配されて、にこにこと笑う。

一方通行(アクセラレータ)はその様子を見て、思わずため息をついてしまう。

 

調子に乗ってネフテュスをボコボコにしたことを怒るのではなく、朝槻真守を心配する垣根帝督。

この二人はどこでもいつでも変わらない。それに一方通行は呆れているのだ。

 

「つーかよォ。オマエのその単純な暴力をコロンゾンに当てれば、ヤツの肉の器を吹き飛ばせるンじゃねェの?」

 

真守が魔神ネフテュスを討伐した方法は、完全に力技だった。

純粋な力による、質量の暴力。それで真守は魔神ネフテュスを圧倒したのだ。

そしておいしいところは一方通行に託した。なんとも強引な少女である。

 

「コロンゾンは純粋な力をブチ当てただけで終わる大悪魔じゃないぞ、一方通行(アクセラレータ)。それくらいで端末と大本の繋がりが切れるなら、もうとっくのとうにやってる」

 

真守は笑うと、オペラハウスを見回した。

 

「ここは雰囲気が出てていいな。機関室でやるよりも、舞台として相応しい場所だ」

 

真守はオペラハウスという場所が儀式に相応しい場所として、一つ頷く。

真守は完全に伸びているネフテュスを確認すると、垣根と共に一方通行(アクセラレータ)に近づいた。

 

「魔神ネフテュス。動けないが意識はあるだろう。そういう風に加減した」

 

真守は観客席を振り返って、妖艶に笑う。

 

「お前はそこで見ていろ。新しい世界を見せてやる」

 

真守はネフテュスに声を掛けると、垣根と一方通行(アクセラレータ)と共に壇上に上がった。

 

「──始めよう。私たちの時代の幕開けだ」

 

真守は笑うと、垣根と一方通行に向き直る。

そして一方通行のそばにいるクリファパズル545を見た。

 

「悪魔ちゃん、こっちへ」

 

真守が手招きすると、クリファパズル545は移動する。

そしてクリファパズル545は、真守と垣根、一方通行(アクセラレータ)に囲まれる形で立った。

真守に向き直ったクリファパズル545は、真守を見て首を傾げる。

 

「悪魔ちゃん、お前は管理人になるんだ」

 

天啓のように、放たれる真守の言葉。

クリファパズル545は、その意味が分からなかった。

 

『管理人……ですぅ?』

 

「コロンゾンは自分のカタチに沿って、悪魔ちゃんを造り上げた。使いやすいように自分の機能の一部を切り取って、コロンゾンは悪魔ちゃんを造ったんだ。だから悪魔ちゃんはコロンゾンと同じ超常の存在だ。そうだろう」

 

真守はクリファパズル545の頬へ手を伸ばして、たおやかに微笑む。

 

「コロンゾンは『深淵』に佇む悪魔だ。『深淵』よりその先、神の領域へ人々を至らせないために存在している、叡智の管理人。悪魔ちゃんはコロンゾンの一部を切り取って造られた。だからこそ管理人になる権利がある」

 

クリファパズル545は真守の言わんとしていることが理解できる。

だが何の管理人になるか分からない。

そんなクリファパズル545に真守は笑った。

 

「私を目印に、人々はこれより神を目指す」

 

朝槻真守は誰よりも早く、高みへと到達した。

そしてこの世界の人々は、すでに目を覚ました。

だからこれから真守を目標として、どこまでも高みへ昇り詰められるようになる。

 

自分のあるべき姿へ。自分の在りたい姿へ。

だがその変化が本当に正しいものなのか、誰かが精査しなければならない。

 

「悪魔ちゃんは人々が先へと至る資格があるかどうか、選定するんだ」

 

真守はその言葉と共に、蒼ざめたプラチナの翼を広げた。

背中に五対一〇枚。頭を守護するように、一対二枚の翼が携えられる。

それと共に、真守の黒髪に変化があった。

 

蒼銀の艶やかな色へ、真守の髪が変化する。

そしてインナーカラーのように、真守の髪の内側が虹色の輝きを帯びた。

 

「ここに、人造の樹を新たに打ち立てる」

 

朝槻真守は宣言する。

生命の樹でも、邪悪の樹でもない。

第三の樹と呼ばれるもの。それを打ち立てる事によって、コロンゾンの特異性を削ぐ。

 

コロンゾンは今の世界のカタチによって、大悪魔の力を有している。

だが世界のカタチが変わってしまったら、大悪魔の力も瓦解する。

真守がコロンゾンの力を削ぎ、コロンゾンから肉の器をはく奪する解決策。

それは世界に新たな形を与え、世界を変えてしまう策だった。

 

「垣根、一方通行(アクセラレータ)。手を貸して」

 

真守は二人へと手を伸ばす。

二人は顔を見合わせた後、垣根は真守の右手を取り、一方通行は真守の左手を取った。

真守はまず、一方通行と繋いでいる手をぎゅっと握る。

 

「干渉するぞ」

 

その声掛けと共に、一方通行(アクセラレータ)は自分を通して奥にある力を掴み取られたと感じた。

 

『あらあら/return。お呼びかしら、朝槻ちゃん?/escape』

 

一方通行の脳裏に、声が響いた。

思わず一方通行は頭に触れる。そして次に、電極へと触れた。

そんな一方通行を、頭に響く声は糾弾する。

 

『この浮気性め/return。ミサカが心を開く前によく分からん別口の契約を繋いでバックアップを設置するとか、流石悪党よね、まったく/return』

 

ミサカネットワークの総体。

真守は一方通行を通して、一方通行が演算能力を借りている総体へと呼びかけてたのだ。

ミサカネットワークの総体は意識上においてもにこやかに微笑む。

 

『ようこそ朝槻真守ちゃん、ミサカネットワークへ/return。随分と遠い存在になったのね/return。でも/backspace、ちょっと安心した/return。だってあなたらしいもの/return』

 

「ふふ。お前にそう言われると嬉しい」

 

垣根は真守が柔らかく微笑んだのに目を細めた。

ミサカネットワーク総体の声が聞こえているのは真守と一方通行(アクセラレータ)だけだ。

 

垣根には聞こえていない。

だが真守は垣根を気にしなかった。

 

垣根帝督ならば、すぐに話をしなくても信じてくれると知っているからだ。

真守はすっと一方通行の奥にいる総体へと、目を向ける。

 

「お前の在り方が欲しい」

 

『あらあら/return。なんて直球な口説き文句/return。でも/backspace、あなたのやりたい事は分かってる/return。だから乗ってあげる/return』

 

ミサカネットワークは一〇〇三一人の死の記憶と生を謳歌する九九六九体と司令官と、そして総体自身があまり認めたくないがイレギュラーの一体によって成り立っている。

 

つまり、ミサカネットワークは生と死の情報どちらも有しているのだ。

 

それはつまり、生と死を経験しながらも人として完成されているという事。

真守はミサカネットワークの総体の許可が下りたとして、柔らかく微笑む。

 

「垣根」

 

真守は垣根に声をかける。

垣根帝督はミサカネットワークに接続されていないので、何が起こっているか分からない。

だがそれでも真守の事を信じて、黙って待っていた。

 

「受け入れて」

 

垣根は頷く。すると垣根帝督は自分の全てを掴まれたと感じた。

 

垣根帝督という個人だけではない。そこから繋がるカブトムシとトンボのそれぞれのネットワークを掌握されたと感じた。

垣根帝督はその感触にふっと笑う。

 

普通ならば垣根帝督は誰にも支配されたくない。

だが世界よりも大事な少女にならば全てを明け渡しても構わないのだ。

それに真守は絶対に自分を無下にしない。

 

「ありがとう」

 

真守は柔らかく微笑むと、垣根を通してカブトムシとトンボの意識へと触れた。

 

『あなたのしたい事であれば、全てを預けられます』

 

『私も「兄」と同じです。拒む理由なんてない』

 

「そう言ってくれると分かっていても、やっぱりちゃんと確認した方がいいだろ?」

 

真守は幸せそうにふふっと微笑む。

一方通行(アクセラレータ)にはカブトムシとトンボの声なんて聞こえない。

だがきっと、垣根帝督を通して何かと対話しているのだと理解できた。

 

「『後世の魂の変化』だけじゃ足りない」

 

真守はそう呟くと、鋭く目を細めた。

 

()()()()()()()()()。──ミサカ」

 

『おうよ/return。ミサカ達はいつだって人に寄り添っている/return。だから取り扱いやすい形で処理をして/return。朝槻ちゃんならそれができるっしょ/return。リモートオペレーション承認、この総体が権限を貸与する/return』

 

真守はミサカネットワークの総体が保有している、未だ何の記述も施されていない一〇と二二のパスでできた七八枚の枠組みを受け取って頷く。

 

最早、この世界の人々は『生命の樹』や『邪悪の樹』によって測れる場所に立っていない。

 

何故なら今まで存在しなった新しい価値観が生まれたからだ。

 

指先のタップの一つで加算されるSNSの賛同数。

ストイックに励むと褒めたたえられるフィットネスジム。

能力のレベルによって管理される学園都市。

 

グルメサイトの星の数。

唯一無二の創作物に星や感想を寄せ、ランキングで人気を表す行為。

 

評価を付けることは、別に悪い事じゃない。

新しい価値観とは、人々が得られる希望であり絶望である。

 

その新しい価値観値とは人々の『後世の魂の変化』だ。

だが朝槻真守は()()()()()()()()()()()()

 

「『知性や魂の在り方、その進化』。それを私は人造の樹として打ち立てたい」

 

だからこそ、垣根帝督が必要なのだ。

垣根帝督は人造生命体であり、全く新しい知性を有するカブトムシとトンボを有している。

 

彼らは垣根帝督の一部を切り取って移植し、独自の進化を遂げた存在だ。

つまり垣根帝督の一部だ。

 

だがこれから垣根帝督の一部に属さない人造生命体は生まれてくる。

だからこそ、人々の『後世の魂の変化』だけでは足りないのだ。

 

朝槻真守は知性の在り方、進化の在り方を指し示したい。

そして人々の魂を進化させることを誘導する『標』として、人造の樹を打ち立てたいのだ。

その一歩を、真守は口にする。

 

「まず知性として判断されるために何より必要なのは『思考する』ということだ」

 

それはつまり第一〇のセフィラ。一番下方に位置するセフィラである。

生命の樹も邪悪の樹も昇りつめる事で健全な形や、人の負の側面を強くする。

 

真守が打ち立てる人造の樹は、上昇する事で神にも等しい完全な知性と形を得ることができる。

 

そんな人造の樹。知性の在り方において。

『思考する』というのは誰もが持たなければならない下地である。

 

「第一〇のセフィラから分かたれた先。そこには前へと進む意志。変わらずに上昇しようとする意志を置く」

 

考えること。

それができるようになった知性はそこから上へと昇るために、『前へ進む意志』を必要とする。

 

すなわち第九のセフィラ。

そしてそこに当てはまるのは真守と垣根の手によってこの世界に顕現した、前へと進む意志を体現している『セイ』だ。

 

真守には、自分を神として必要とする者たちがいる。その者たちは、世界が何度終わって始まっても、人間というものが決して失わなかったものが概念化した存在だ。

 

つまり、彼らは誰よりも知生体としての在り方を体現している。だから真守は彼らの意思をセフィラに込めて、ミサカネットワークが提供してくれた枠組みに手を加えて下から埋めていく。

 

「『前へ進む意志』。そこから前に進むと、道が別たれる。それは『人を想う心』、そして『人を妬む心』による道だ」

 

人は考え、前に進む。

そして人を想い、協力して進む道と、人を妬み、敵視して孤高に進む道がある。

それすなわち第七と第八のセフィラ。

その行き着く先は一つだ。すなわち第六のセフィラである。

 

「『人を想う心』、『人を妬む心』。異なる気持ちをもってしても行き着く先は『共にある事』。それが当然だ」

 

孤独を選ぼうが仲間と前へ進む事を選ぼうが、どちらも最後には協力する事になる。

垣根帝督と一方通行がそうであるように。

どちらも互いを気に入らないと思いつつも、共闘するのと同じように。

進先はおのずと同じ道になる。

 

「そこから道は交差する。それぞれがそれぞれの道を行く。それは『研鑽と努力』の日々。『失敗と成功』を繰り返す日々。そして、それを抜けた先に真理がある」

 

第四、第五のセフィラを超えた先。

そこに佇むそれぞれの存在を感じて、真守は微笑む。

それは一方通行と垣根だ。

真守はそんな二人の手をギュッと握って、微笑む。

 

「『創造』と『創世』。それが第二と第三のセフィラに等しい。そしてその先、その頂に立つのが私。『流行』の名を冠し、前へと進み続ける存在だ」

 

垣根帝督と、一方通行(アクセラレータ)。そして朝槻真守。

第三、第二、第一のセフィラ。それに自分たちを当てはめた真守は笑う。

 

「これこそ、私たちが打ち立てる人の手で造られた樹。あらゆる神話伝承に登場しない新たな樹。未だ小さな苗木だとしても、神の手に依らず人の手で御する可能性を持った、新たな神秘である」

 

真守は正面に立っていたクリファパズル545を見る。

クリファパズル545はおずおずと真守へと手を伸ばす。

そして真守のその頬に両手で触れる。

 

その瞬間、クリファパズル545の在り方は決定された。

 

創造と創世。そしてその奥に潜む存在。

それらに手を伸ばそうとする者たちが、本当に相応しいのか。

その采配と裁定をする存在へと。クリファパズル545は仕立て上げられた。

 

『我は悪魔。創られし悪魔。血と肉の実体を持たぬ影』

 

クリファパズル545は真守の頬に触れながら、祈るように言葉を紡ぐ。

 

『我は一〇の球体のいずれにも居場所を持たぬ悪魔なり。所詮は矮小なる切り取られた力なれど、それでも本質はコロンゾンと同質の案内人なり』

 

コロンゾンに作り上げられたクリファパズル545は現在宙ぶらりんな状態だ。

それは真守と同じ。だから真守の手によって、クリファパズル545は案内人へと据えられる。

 

『我が名はクリファパズル545。その数は真なる一一、その意味は「邪悪という踏み台は善行を支えられる」! 神にも等しき完璧なる人間に導かれ、我は人造の樹の案内人とならん!!』

 

クリファパズル545の宣言と共に。ここに、人造の樹は打ち立てられた。

 

人造の樹こそ、知性の在り方、進化の在り方を指し示し、人々を誘導する『標』だ。

 

この樹を昇れば、誰であったとしても知性を有すると認められれば、完璧な存在へと至れる。

つまり知的生命体である誰もが神になることさえ許される人造の樹だ。

それを朝槻真守は示したのだ。

 

一方通行(アクセラレータ)は無言で電極のスイッチへと手を伸ばす。

垣根帝督はいつもの調子でスラックスのポケットに手を突っ込んだ。

 

そして、それぞれ翼を広げた。

 

純白の翼、だったはずだ。

だがそれは朝槻真守と同じ色の、蒼ざめたプラチナの翼に変わっていた。

 

「さあ、コロンゾン。お前は旧時代の異物となった。その手は既に万能にあらず。その性質にある拡散は意味を持たず。──お前は、どうする?」

 

蒼ざめたプラチナの翼たちはきらきらと瞬く。

その様子を、魔神ネフテュスはただただ見守っていた。

そして。新たな時代の到来を目にして、その身届人となって──微笑んだ。




新約で本当に書きたいと思っていた部分が書けました。

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