とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一六六話、投稿します。
次は二月二九日木曜日です。


第一六六話:〈肉体剝離〉と終幕を

これまで世界は生命の樹(セフィロト)邪悪の樹(クリフォト)によって成り立っていた。

だが世界は変容した。

朝槻真守が大切な人たちの力を借りて、第三の人造の樹を打ち立てたからだ。

 

「さて。人造の樹を打ち立てて、世界を変えることはできた。──次はコロンゾンを特別にしている肉のはく奪を行おう」

 

真守は笑って、蒼ざめたプラチナの翼を輝かせる。

翼が輝くと同時に、真守の蒼銀の長い髪が煌めいた。

そして真守の内側の髪が、呼応するかのように蒼く虹色に輝く。

 

「コロンゾンの望みを潰えさせる。そしてコロンゾンを仕留める」

 

真守が宣言したと同時に、明確な変化があった。

オペラハウスが、神々しい輝きで満ちる。

そして真守の神性によって、クイーンブリタニア号という儀式場が乗っ取られた。

 

朝槻真守は『窓のないビル』にて、聖守護天使エイワスを神蝕して退却させた。

あの時は『流行』に至った直後だったため、十全に力を扱えなかった。

だが今は違う。神人は人造の樹の頂点というあるべきところに収まり、その下には彼女に連なる者たちがいる。

 

「乗っ取れたぞ」

 

真守の宣誓と共に、クイーンブリタニア号のすべての機能が真守の制御下に入る。真守が儀式場を乗っ取ったため、オナーズオブスコットランドを転用していた攻撃もぴたりと止まる。

 

「悪魔ちゃん。波長を合わせてくれ」

 

『はいですぅ』

 

真守が声を掛けると、クリファパズル545は頷く。

 

『大悪魔コロンゾンの思念を確認。私はヤツに造られた悪魔ですからね。繋がりやすいんでしょう。言語化しますかあ?』

 

「うん、お願い」

 

真守はこくりと頷いて、クリファパズル545にお願いする。

すると垣根と一方通行(アクセラレータ)の意識に、突然ぶつっとノイズが走った。

 

『きさっ、ま……!!』

 

大悪魔コロンゾンの忌々しそうな悲鳴が、真守たちの脳裏に響く。

 

『何をしたる、これは生命の樹でも邪悪の樹でもないわ。こんな、こんなものを世界に埋め込みたら、「御使堕し(エンゼルフォール)』どころの変質じゃあ……ッ!!』

 

「うん、もちろんそれが狙いだぞ」

 

真守は軽やかに微笑んで、コロンゾンの言葉に応える。

 

「人々は真なる目覚めを果たした。もはやあらゆるものに縛られることなく、人々は自らが望む姿に変わる事ができる。自らが行き着きたいところ。そこへ自由に至ることができる。それを私は先導する。私はそのために生まれたんだ」

 

人々が神に隷属する時代は終わった。

人間一人一人が真なる目覚めを果たし、神へと至る時代へとなったのだ。

あるべき姿へ。誰もが自分の望む姿へ。人々は変わることができるようになったのだ。

 

「もうかつての常識は通じない。新たな世界は私たちが創る。すべてを破壊し、創造し、そして創世する。お前は古い時代の存在になった。だから打破することができる」

 

『ぞ、俗物がぁああああああ──!!!!』

 

「私たちを俗物だと下に見ているから、時代に置いて行かれるんだ」

 

真守はにこっと微笑んで、意識の向こうにコロンゾンを感じて宣言する。

 

「この世界は既にお前のものにあらず。故にお前の血と肉でできた器は剥奪させてもらう。そうなればお前はもう既にただのコロンゾンだ。過去の遺物になり果てる」

 

真守は宣言すると、そっと手の平を前に伸ばす。

意識の向こうにいる大悪魔コロンゾン。

この世界を自然分解に導くように造り上げられた舞台装置に、真守は手を掛ける。

そして圧を加えるように、真守はグッと手の平を握った。

 

『まさか……外から巨大なる圧を加えて、私の魂をかりそめの実体から取り外したるつもりか?!』

 

「お、分かってるのか。行くぞ、大悪魔」

 

真守は自分が何をしようか気が付いたコロンゾンに微笑む。

 

「全体論の超能力者。大を持って小を動かすその力。私はその力を持って、私たちの人造の樹の管理人たるクリファパズル545を媒介にして、お前に揺さぶりをかける」

 

新しく打ち立てた人造の樹。

それの力を十全に発揮し、過去の時代の存在であるコロンゾンに圧力をかける。

 

コロンゾンを特別にしているのは、コロンゾンが保有する肉の器だ。

衝撃を受ければ、コロンゾンは肉体と乖離してただのコロンゾンになる。

 

それはつまり、剥き出しの高純度エネルギーを体にしているエイワスと同じ。

幻想殺し(イマジンブレイカー)が通用するコロンゾンとなる。

真守はクリファパズル545とコロンゾンの繋がりから、衝撃波を放つ。

 

『がっ』

 

「剥き出しのお前を明るみにする時だ。私たちの新たな常識の前にひれ伏せ、コロンゾン」

 

『あああああああああああ──!!!!』

 

コロンゾンの絶叫が響く。そして、ぷつりとコロンゾンとの繋がりは途切れた。

 

「これで特別だったコロンゾンは特別じゃなくなった。後に残るのは『天使の力(テレズマ)』で構成されたコロンゾンだけだ」

 

垣根はコートのポケットに手を突っ込むと不敵に笑う。

 

「そうなると上条当麻の幻想殺し(イマジンブレイカー)が効く。そういうこったな?」

 

「うん、そうだ」

 

大悪魔コロンゾンを特別にしていた肉体は乖離させた。

その結果、大悪魔はその特別性を失った。

だがそれでもコロンゾンという存在は消えない。

 

彼女を特別にしていた肉の器を失っただけで、大悪魔コロンゾンという存在自体は消失するわけではないからだ。

 

コロンゾンはあくまで、この世界に必要とされて生み出された舞台装置。

だから旧時代の遺物となっても、彼女の存在自体が消え失せることはありえない。

 

「今のコロンゾンはただのコロンゾンだ。幻想殺し(イマジンブレイカー)で打ち消してしまえば、コロンゾンはこの世に現出することができなくなる」

 

エイワスと同じ状態への移行。そうなれば幻想殺しが効くのだ。

真守は上条当麻のことを想って、微笑む。

 

「食蜂とちゃんと話をして、上条は幻想殺しを返してもらったし。大丈夫だな。後はコロンゾンの残された肉体だけだ。それを回収しなくちゃな」

 

真守は今後の方針を口にしながら、顔を上げる。

 

豪奢なオペラハウス。その舞台の中心に立って、真守は目を細める。

 

「止まろうと思えば、止まれたんだ」

 

真守は天へと手を伸ばして、小さく呟く。

 

「救いはあったんだぞ、コロンゾン」

 

コロンゾンの意識に接続した時。

真守はコロンゾンを唯一許してくれるひとを見つけていた。

 

浜面仕上。彼は『黄金』の魔術師であり、アレイスターによって魔導書の『原典』として機能を停止させられたダイアン=フォーチュンを取り戻すために、コロンゾンと共にいた。

 

浜面仕上はどうしてもダイアン=フォーチュンを救いたかった。

救いは誰に対しても平等に訪れるわけではない。

だから救いを与えることができるのであれば、悪魔とも取引する必要があると考えた

 

ダイアン=フォーチュンを再びこの世界に呼び戻すためには、『魔導書』の原典である彼女を正常に起動させる必要がある。

それに必要なのは地脈や龍脈からの魔力ではなく、純粋な魔力だ。

 

つまり浜面仕上は自身で魔力を精製し、魔導書の『原典』としてのダイアン=フォーチュンへ供給する必要があった。

 

だが浜面仕上は無能力者(レベル0)だとしても能力開発を受けている。

ダイアン=フォーチュンを呼び覚ますために魔力を精製すれば、浜面仕上は全身の血管がずたずたになり、当たり所が悪ければ死に至る。

 

それでも浜面仕上はダイアン=フォーチュンを救いたかった。そしてコロンゾンは、儀式を成功に導くための火種として、浜面仕上の精製する人の純粋な魔力を必要としていた。

 

つまりコロンゾンは浜面仕上に知恵を授けることで浜面仕上を利用し。浜面仕上はコロンゾンに魔力を与えることで知恵を貰った。

 

自分のやりたいことを推し進めるために、二人は知恵と力を出し合った。

つまりそれは互いの利益が一致したということであり、二人は共犯者となったのだ。

 

これまで大悪魔、コロンゾンを召喚した人間は二人いた。

サミュエル=リデル=マグレガー=メイザース。アレイスター=クロウリー。

だが彼らはコロンゾンを召喚して、主従関係を結んで服従させようとしていた。

 

浜面仕上は世界を危険にさらすリスクをきちんと承知していた。

コロンゾンに利用されて世界を危険にさらすとしても、ダイアン=フォーチュンを助けたかった。

 

初めて共犯者を得たこと。

それがコロンゾンの心に響いていた事を、真守は理解している。

 

「お前を許してくれる人間がいるんだ。だから受け入れろ、コロンゾン」

 

超常的な存在は他者を必要としない。

弱くないから、わざわざ弱い人間と縁糸を結ぶことなどないのだ。

 

朝槻真守も、コロンゾンも。誰も必要としていない。

それでも。自分たちのことを考えてくれる人間がいる。

それはとても、奇蹟的なことで。本当ならありえない事なのだ。

 

「──コロンゾン」

 

真守は大悪魔を呼びながら、上条当麻たちと一緒にいるカブトムシに自身を接続した。

 

カブトムシの目の前には、肉体をはく奪されて佇むコロンゾンがいた。

天使の力(テレズマ)』で構成されたコロンゾン。彼女は最後のあがきをするために動いた。

 

最後のあがきとしてコロンゾンが利用しようとしているのは──A.A.Aだった。

 

いま現在、コロンゾンの目の前には上条当麻と共にやってきたA.A.Aを操る御坂美琴がいる。

 

御坂美琴が操るA.A.Aとは科学技術で造り上げられた、アレイスター=クロウリーの魔術を伝播する兵器だ。そしてコロンゾンはアレイスターとある種その力が同等である。

 

つまりコロンゾンにだってA.A.Aを操る資格があるのだ。

 

「帝兵さん、遮って! A.A.Aにコロンゾンを干渉させては──」

 

真守がカブトムシへ指示を出す前に、コロンゾンはA.A.Aに自身を素早く接続する。

 

A.A.Aはアレイスターのために仕立て上げられた、力を伝播することに特化した武装だ。

そのA.A.Aを正当に操る権利があるコロンゾンの方が早いのは、自明の理である。

 

A.A.Aの本来の使い手であるアレイスターはコロンゾンとの戦いで既に動くことができない。

だから誰も、コロンゾンがA.A.Aを使用するのを阻止できなかった。

 

コロンゾンは、A.A.Aでカブトムシを消し飛ばす。

その瞬間、真守はコロンゾンの様子を探る端末を失って状況が把握できなくなる。

 

「帝兵さんっ!」

 

人造生命体であるカブトムシはいまや、真守たちと共に人造の樹へと接続されている。

そのため真守が力を伝播するには最高の媒体なのだ。

それを理解しているコロンゾンは、A.A.Aで先にカブトムシを消し飛ばした。

 

「しまった……コロンゾンの方が早い!」

 

真守が声を上げる中、一方通行が舌打ちする。

 

「あの無能力者(レベル0)はいつだって土壇場で勝利を手にしてきた。だから心配するンじゃねェ」

 

「……分かってる、一方通行(アクセラレータ)。でも心配だ。垣根、近くにいる帝兵さんを上条たちのもとへ」

 

「状況が確認できねえんじゃ不便だからな。分かった」

 

真守の言葉に垣根が頷き、垣根は即座に指示を出す。

本当に一瞬、真守はコロンゾンの様子を確認できなくなる。

その空白の間の攻防によって。──鋭い振動が、クイーンブリタニア号を襲った。

 

「真守ッ!」

 

垣根は突然大きく傾いたクイーンブリタニア号内で、真守の事を抱き寄せる。

 

一方通行(アクセラレータ)っ!」

 

真守は垣根に抱き寄せられながら一方通行へと手を伸ばす。

一方通行は杖を突いて歩いているほどには歩行が不自由だ。

そのため真守が支えると、垣根はチッと舌打ちをしながらも一方通行も支えた。

そして三対六枚の蒼ざめたプラチナの翼を広げて、全員を守る。

 

「クソッ。何が起こったんだ、アレイスターたちは!?」

 

垣根が声を上げる中、真守は息を呑みながら虚空を見つめる。

その瞳は垣根たちが分からない力を見つめていた。

 

「今クイーンブリタニア号を真っ二つにしたのは、上条の中から出たモノだ」

 

「あァ? ヤツの中から出たモンだとォ?」

 

一方通行(アクセラレータ)は真守の言葉に怪訝な声を上げる。

真守は一方通行の言葉に応えない。そして鋭い視線を見せた。

 

「垣根、帝兵さんと帝察さんを総動員してみんなを探してくれ」

 

「お前はどうするんだ?!」

 

()()()はとりあえずエルダーさまとリリスの安否を確認する」

 

真守は自分だけじゃなく、この場にいる全員で行くことを口にする。

 

「アレイスターに比べれば、エルダーさまとリリスは脆い。アレイスターは自分よりもまず二人の無事を優先するはずだ」

 

真守は即座に優先順位を打ち立てて、垣根を見上げた。

 

「上条の側には美琴がいるし……とりあえず、垣根。最優先でエルダーさまを探してッ」

 

「試運転ってトコか。──分かった」

 

垣根は真守の指示に従い、カブトムシでエルダー=マクレーンを探す。

彼女はなんとか無事だった。だがそれでも危うい状況にいるのは確かだ。

それを確認した垣根は蒼ざめたプラチナの翼で真守たちを大きく包み込んだ。

だがふと気になったことがあって、プラチナの翼の間から外を見る。

 

「そういやネフテュスはどうした?」

 

観客席にいたネフテュス。

垣根が視線を向けると、観客席にもたれかかって手を振っているネフテュスがいた。

 

どうやら、ここで潰えるのも一興だと思っているらしい。

 

(ッチ。魔神ってのは面倒だな)

 

垣根は心の中で舌打ちしながらも、完璧に真守と自分と、一方通行を翼の中に閉じ込めた。

途端に浮遊感が真守たちを襲い。

真守たちは、クイーンブリタニア号のすぐ近く。氷の大地に降り立った。

 

垣根はエルダー=マクレーンのもとへ行くために、世界の方を丸ごと動かしたのだ。

それが空間移動(テレポート)と同じ結果を生み出したのだ。

 

真守は真っ二つになった船から転げ落ちる形で、頭上から降ってきたエルダー=マクレーンへ手を伸ばす。

 

「エルダーさまっ!」

 

「真守! 霊装を頼む!!」

 

真守はエルダーの後ろから降ってきた、四点セットのオナーズオブスコットランドに目を向ける。

真守は素早く手を伸ばすと、オナーズオブスコットランドに力を加えた。

四つの霊装は真守の力によって浮遊し、氷の大地に突撃することはなかった。

 

そして垣根はリリスを抱き上げたまま降ってきたエルダー=マクレーンを受け止める。

 

「おっと! ……ふふ。垣根帝督、ありがとう」

 

「あんまり無茶するんじゃねえぞ。赤ん坊抱いてるんだからな」

 

垣根の腕の中でリリスを抱きながらすっぽり収まったエルダーは、垣根の忠告にくすりと笑う。

そんなエルダーを、垣根はゆっくりと氷の大地に降ろす。

オナーズオブスコットランドを浮遊させた真守は、エルダーに近付いた。

 

「エルダーさま。大丈夫か」

 

「すまない、真守。衝撃でアレイスターとはぐれてしまった。まだヘリポートにいるかもしれん」

 

エルダーは歯噛みすると、真守が持っているオナーズオブスコットランドを見つめた。

 

「イギリスの秘宝を海水にドブ漬けするわけにもいかんし、助かったよ」

 

「そうだな。──エルダーさまは安全なところへ。そして霊装を英国女王に返しに行ってくれ。霊装は帝兵さんを呼んで持ってもらうから」

 

真守はエルダーの安否を確認すると、頭上を飛ぶカブトムシとトンボを見上げた。

 

「帝兵さんと帝察さんは引き続き、みんなの捜索を。エルダーさまの言う通り、アレイスターは動けないハズだ。──垣根、次はアレイスターのところへ飛んで。お願い」

 

真守が指示を出していると、エルダーが真守を呼んだ。

 

「真守」

 

素早く的確な指示をしてエルダーに背を向けていた真守は、エルダーに呼ばれて振り返る。

 

「エルダーさま? どうしたんだ?」

 

「……どんな結果でも、受け入れよ」

 

真守はその言葉に目を見開く。

だが即座ににっと笑った。

 

「悪い結果にはならないぞ。何せ私たちがいるんだからな」

 

エルダー=マクレーンは真守の笑みを見て、目を見開く。

そして、安堵したようにたおやかに笑った。

 

「わが永遠の友を頼む」

 

「うんっ」

 

真守はふにゃっと笑うと、垣根に向き直った。

 

「垣根」

 

「分かった」

 

垣根は真守の声掛けで、一方通行と真守と共にその場から姿を消した。

エルダーはオナーズオブスコットランドを携えて、リリスを抱きしめて歩き出す。

 

「ワタシたちの望んだ『永遠』は、どこまでも運命に翻弄された。だが運命に翻弄されても大丈夫だ。どこでだってやっていける。そして全てを救ってくれる」

 

エルダーは柔らかく微笑むと、真守のことを思って笑った。

 

「人に寄り添うように成長してくれて、ありがとう。──真守」

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