とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一六九話、投稿します。
次は三月一四日木曜日です。


第一六九話:〈休息一息〉から推測する

上条当麻の裡から出てきて、上条当麻と同じように動き出した神浄の討魔。

 

今のところ神浄の討魔は何もせず、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の言いつけ通り医療テントで待機していた。

性急に何か問題を起こすそぶりはない。彼は完璧に自分が上条当麻だと振る舞っていた。

 

そのため真守たちは神浄の討魔を様子見しつつ、食事を摂ることにした。

 

真守の伯母であるアシュリン=マクレーンがメイドに頼んで、真守に差し入れしてくれた昼食。

その昼食は、学園都市にもあるカフェチェーン店のものだ。

真守はがさがさと紙袋を探って、クラブハウスサンドを手に取る。

 

「おー、これおいしそう」

 

真守は表情を輝かせて、サンドイッチをちまっと手に取る。

茹でチキンとフリルレタスと、トマトの入ってる棒棒鶏(バンバンジー)風のサンドイッチだ。

垣根はがさっと袋の中からカツサンドを取り出しながら、真守を見る。

 

「それ二つあるヤツだろ。他のはいいのか?」

 

「これが良い」

 

自分の意見を主張する真守から目を離して、垣根は一方通行(アクセラレータ)と上条当麻に視線をちらっと寄越す。

 

「異論はねえよな?」

 

一方通行は手を振って応え、チキンバーガーを手にする。

上条当麻は今も物色しているが、真守がサンドイッチを食べることに異論はないらしい。

オティヌスはポテトを取り出して、既に頬張っている。

 

真守はお手拭きで手を拭くと、ビニールに包まれたサンドイッチを手に取る。

そして小さなお口を頑張って開けて、サンドイッチを頬張った。

 

「ふふーっ。おいしいっ」

 

日本で慣れ親しんだ味。

イギリスのご飯も真守は好きだが、やっぱり親しんだ味というのは安心する。

真守はもきゅもきゅと口を動かして、幸せそうに目を細める。

 

上条当麻は真守の前で、そっと右腕でホットドッグを手にする。

真守は食べていたものをこくんっと呑み込むと、上条当麻の右腕をじーっと見つめた。

 

「ふむ。ケミカルな腕でも普通に動くようだな」

 

「そうなんだけど……なんかぐにゃぐにゃしてるんだ。すぐにでも形を変えられそうな感じがしてむずむずする」

 

上条はそういって、ふりふりと右腕を揺らす。

するとスカイブルーにレモンイエローの影がちらついた。

それを見て、ホットコーヒーを口にしていた一方通行(アクセラレータ)は眉をひそめた。

 

「オマエの右腕の力はアッチが持ってることで良いンだよな? それともその腕も幻想殺しの力が宿ってンのかよ?」

 

「……少なくとも、幻想殺し(イマジンブレイカー)はこっちにない。……多分この腕は絞りかすで、大部分は向こうにあるんだと思う。今の俺を特別にしているものは何もないんだ」

 

一方通行は上条の言葉を不愉快に思って、眉を跳ねさせる。

だがそれに上条当麻は気が付かない。

 

「ちょっと試してみるか?」

 

上条はそう告げると、辺りを見回した。

 

「分かりやすい異能の力……そうだな、やっぱり半透明の子が良いか。変な悪魔」

 

『はいい? 変なとは何だこの全方位ツンツン頭』

 

主人である一方通行の食事を甲斐甲斐しく手伝っていたクリファパズル545は、上条の随分な物言いに、ムッと顔をしかめて反応する。

そんなクリファパズル545に上条は近づく。

 

「見てろ、幻想殺し(イマジンブレイカー)があったらこんな事はできないはずだ」

 

『ふぁい……?』

 

クリファパズル545は返事をしながら、くしゃっと顔を歪める。

悪魔の様子を不思議に思いつつも、上条はクリファパズル545へと手を伸ばす。

そして──次の瞬間。

 

『ふぁっぷし』

 

悪魔の癖に、クリファパズル545は天才的なタイミングでくしゃみをした。

クリファパズル545が動いたことにより、上条当麻の腕が逸れる。

そして、上条の右腕はぎゅむっとクリファパズル545の胸を掴む形となった。

 

「あ」

 

真守はラッキースケベの犯行現場を見て、思わず声を上げる。

クリファパズル545は悪魔だが、女の子のような恥じらいを持っている。

そのため顔を真っ赤にして悪魔は絶叫。

 

一方通行(アクセラレータ)は即座に動き、自分の悪魔にラッキースケベをかました上条当麻をビンタした。

……というか思いきり能力を使ったので、ビンタに留まらない。

最早空気を五指で切り裂くほどの大衝撃である。

 

「あヴぁほろばうあーっ!?」

 

いまの上条当麻に幻想殺し(イマジンブレイカー)はない。

そのため一方通行のベクトル操作を打ち消せずに、そのまま吹っ飛ぶ。

一方通行は初めて上条当麻に自分の能力が通じた事実を前にして、わなわな震える。

 

「……どォいう事だ? マジでそのまま通っちまったぞ」

 

学園都市元第一位の能力使用済みの激しいビンタなんて、普通だったら床に転がった拍子で全身の骨が砕けていてもおかしくない。

 

だが上条はごろんごろんごろーんっとソファを巻き込みながら吹き飛んだ結果、ソファが良い感じにクッションになった。

 

つまり幸運なことに、ケガをすることはなかった。

上条はソファと一体化して逆さになったまま、リビングの端の方で口を開く。

 

「分はったろ? び、右手の力はなんかおかしいんでぶ」

 

上条は逆さになった状態で、レモンイエローにスカイブルーの腕を気にする。

テーブルに座っていたオティヌスは、ポテトをふりふり振りながら自らの『理解者』を見る。

 

「あの一撃を浴びて死なずに済ませるとは。不幸体質は返上した方がいいかもな」

 

「あっ! 幻想殺し(イマジンブレイカー)がないって事は、そういう事にもなるのか……ッ!?」

 

垣根は呆れたまま、真守のためにテーブルに飲み物を用意しながら顔をしかめる。

 

「つーか気になってたんだけど。幻想殺しってのは自分に災厄が降りかからないようにする追儺の霊装だったはずだろ。神のご加護を打ち消して不幸になるっておかしいんじゃねえの?」

 

幻想殺しは自分に降りかかる災厄や不幸──運命による飛沫などを回避することができるものだ。

だからメイザースは幻想殺しがある『黄金』に所属していれば、自分に魔術を使った時の副作用は降りかからないと確信していた。

 

全ての災厄から『黄金』のメンバー全員を守ることができた追儺の霊装。

それなのに、神のご加護を打ち消して不幸になるというのはおかしな話だ。

 

真守は垣根の服の端をくいっと引っ張ると、ひそひそと小声で囁く。

 

「垣根。幻想殺し(イマジンブレイカー)はな、実はその力をいつでも上条の中にある力の封印に使ってるんだ」

 

「……じゃああいつが不幸になってるのは幻想殺しが上条を守り切れてねえってことなのか? どんだけヤバいモン抱えてるんだ、あの男」

 

垣根はガムシロップを入れたカフェラテを真守に差し出しながら、呆れた様子を見せる。

 

「上条は元々すごくラッキーなのかもな。……だからラッキースケベするんだよ……」

 

「納得だな」

 

推測を口にする真守に同意する垣根の前で、クリファパズル545は叫ぶ。

 

『納得してる場合じゃないですよぅっ!? 不幸だった時もコイツはこーいうスケベしてたんでしょうがっ!! 不幸の枷から解き放たれたコイツが世に放たれたら、世界の倫理が狂っちまいますよぉ!!』

 

真守は被害者の意見を聞いて、ハッと息を飲んで神妙な顔をする。

 

「確かに大問題だ。今の状態の上条に近づいたら危険だ。私もうかうかしてられないかも」

 

垣根は真守の呟きを真に受けて、表情を消す。

 

「……おい上条当麻。真守に近付くんじゃねえ。隅っこで飯食ってろ!」

 

大事な女がラッキースケベにあったらたまらない。

そんな垣根の正当な意見に、上条当麻はめそめそする。

 

「酷いよう酷いよう。別に俺は好きでスケベしてるわけじゃないよぅ」

 

真守は泣いている上条当麻を見て、くすりと笑う。

真守は上条が意外とナイーブになっているのが分かっている。

そのためわざとちょっとおどけて、上条がいつも通りに振る舞えるようにしたのだ。

 

(さて。本当のところ、どうしたものか)

 

真守は心の中で呟きながら、大切な人たちと遅めの昼食を摂っていた。

 

 

────……。

 

 

真守たちは少し遅い昼食を共にすると、一息つく。

お腹がいっぱいになって満足した真守は、上条当麻を見た。

 

スカイブルーにレモンイエローの腕を持っている上条当麻。

真守は少し途方に暮れながらも、その様子を感じさせないように頑張っている上条に声をかける。

 

「上条。お前はいま深城と同じ類の状態に陥っている」

 

「? 源白と?」

 

上条は首を傾げて、残っていたポテトへと手を伸ばす。

 

「……深城は一度、死んだ。それを私が無理やりこの世に引き戻した」

 

上条は残ったポテトを食べるために口を開けていたが、その動作を止めてぎょっと目を見開いた。

 

真守と共に特異能力者解析研究所に所属していた源白深城は、人体実験の被験者だった。

そして深城は真守の情操教育の相手でもあった。

研究所の人間の目論見は功を奏して、真守は深城と交流する事で他者に興味を示すようになった。

 

そして。運命の日。能力体結晶の投与実験。

源白深城はその実験に耐えられなかった。

 

まだ全てが明瞭ではないが、それでも真守は深城を大切に想っていた。

だから、真守は深城をどうしても手放したくなかった。

 

そして深城も死の間際で願ったのだ。

朝槻真守と、いつまでもずっと一緒にいたいと。死にたくないと真守に救いを求めた。

 

「生と死の境界。深城が死に瀕したことによって、全てが曖昧に溶けて希薄になる時。私と深城はあの時、同じ思いを抱いたんだ。……いつまでも一緒にいたいと。どうしても離れたくないと。──その想いが、私と深城の力と共に『奇蹟』を起こした」

 

真守は今でも傷になっていて、そして始まりでもある記憶を思い出しながら目を細める。

そんな真守が心配で、真守の隣に座っていた垣根は真守の手をそっと握った。

 

真守は垣根が手にを握ってくれたことが嬉しくて小さく笑う。そして、上条当麻を見た。

 

「私たちの切なる願いが、あの深城を生んだ。私といつまでも一緒にいることができる、源白深城。私たちの願いの結晶がお前とインデックスが出会った深城なんだ」

 

「俺とインデックスが会った源白は……願いの、結晶……?」

 

上条当麻は何故か胸に引っかかりを覚えて呟く。

深城は未成熟だったが、AIM拡散力場に対する適性を持っていた。

 

AIM拡散力場とは能力者の願いや祈り、そして悪意によって形作られている。

だからそれらが真守と深城の思いに呼応して。真守と深城の力が複雑に絡み合った結果、『いつまでも朝槻真守と一緒にいられる源白深城』が生まれた。

 

「上条。お前の裡から生まれ出た、神浄の討魔とも言うべき存在。あれは願いを基にして条件が重なった結果、カタチを得たんだ。お前の裡に秘められていた力。それが自我を持って動き出した」

 

真守は上条当麻をまっすぐと見て、そしてその胸に人差し指を向ける。

 

「お前は願っただろう、上条」

 

真守は上条当麻を、エメラルドグリーンの瞳でまっすぐと見つめる。

穏やかで神のように慈悲深く煌めく、真守の瞳。

真剣な表情の真守に見つめられて、上条はどきっと胸を高鳴らせる。

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)

 

全ての異能を打ち消す力。上条当麻の力を封印していたもの。

真守は世界の基準点について口にして、上条を見つめた。

 

「自分が右手をもっとうまく使えていたら。記憶を失っていなくて、使い方をきちんと覚えていられたならば。全てを救えたかもしれない。お前はそう考えただろう、上条」

 

上条当麻は自分の手の平から零れ落ちて行くものを感じながら、何度も考えた。

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)を上手く使えていたら、結果は違ったかもしれない。

そう考えるようになったきっかけはフランスのアビニョンで左方のテッラと対峙した時だ。

 

左方のテッラは訝しんだ。

幻想殺し。その使い方を上条当麻が知らないはずがない。

だが上条当麻は現に幻想殺しを使いこなせていない。

 

ならば、幻想殺し(イマジンブレイカー)の使い方を忘れてしまったのかと。記憶を失っているのかと。

 

上条当麻は左方のテッラにそう看破された。

その結果、御坂美琴に記憶を失っていることが不覚にもバレてしまった。

 

幻想殺しを上手く使えていたら、誰も傷つかなかったかもしれない。

使い方を知っていれば、誰も悲しまなかったかもしれない。

救えたものが、もっと多かったかもしれない。

 

あの時から何度も何度もそう考えて。

上条当麻は何度も何度も記憶を失ってしまったことを悔やんでいた。

 

記憶を失わなければ、大切な少女であるインデックスを完璧に助けられていれば。

インデックスに記憶があると嘘を吐かなくても良かった。彼女を悲しませることにならなかった。あの笑顔を、完璧に守ることができていた。

 

「俺が……願ったから……? だから、アイツは動き出した……?」

 

上条は思わず自分の変わり果てた右腕を見つめる。

スカイブルーにレモンイエロー。

自分の壊れてしまった右腕を見つめて、上条当麻は呆然とする。

真守はそんな上条を見て、首を横に振った。

 

「願うことは悪いことじゃない」

 

上条は顔を上げて、真守を呆然と見つめる。

 

「願うことが悪いなら──『奇蹟』を求めるならば。私と深城も、同罪だからな」

 

真守はふっと笑うと、『奇蹟』について考える。

 

「『奇蹟』は人の思いに起因する。願いや祈り。それらが状況とうまく合致した時、神の御業ではなくとも『奇蹟』が起こる。……この世界には、明確な救いがある。それが事実だ」

 

神による慈愛深き救済。

その救済が誰にでも平等に配られていたら、アレイスターが十字教を憎むことはなかっただろう。

救いの根源ともなる『愛』で世界が溢れていたら。誰もが等しく救われていたことだろう。

 

だが現実に、愛は溢れていない。奇蹟はそう簡単に起こらない。

 

真守はその事実について考えながら、そっと目を伏せる。

そして顔を上げて上条を見た。

 

「アレイスターが区切っただけで、この世の異能は全て同じ仕組みでできている」

 

真守はこの場にいないアレイスターが世界に残した爪痕について口にする。

 

アレイスター=クロウリーは真守の側にもういない。

科学と十字教勢力の魔術以外にも脅威は存在していると気づき、どちらにも属さない第三の領域(バックステージ)へと身を潜めた。

 

アレイスターは魔術と科学を隔てたままだ。

だが誰もが気づき始めている真実を、真守は口にする。

 

「科学と魔術に違いがないこと。その真実に人々は気づけないようになっているが、世界は真実を思い出し始めている。だから能力者の深城と同じように、上条当麻の秘められていた神浄の討魔が願いに応えて動き出したとしてもおかしくない。……おかしくないんだ」

 

呻くように告げる真守を見て、垣根は目を細める。

そっと垣根が真守を抱き寄せると、真守は垣根の優しさを感じながら、目を伏せる。

 

能力が自我を持った存在である一八歳の源白深城。

彼女が生まれたのは真守と深城が願ったからだ。

 

いつまでも一緒にいたい。絶対に離れたくない。死にたくない。死なないでほしい。

その願いが形となり、元々特異な能力であった源白深城の能力は、真守の能力に触発されるかたちで自我を持って動き出した。

 

真守はこの世で一番大切な女の子のことを考えながら、上条を見た。

 

「どうする、上条」

 

「……どうって、」

 

「あの上条当麻を、上条は許せるかと聞いているんだ」

 

真守はそう問いかけながら、深城のことを想う。

 

「私の大切な深城は折り合いをつけて共生している。そもそも二人は私に生かされているからこそ存在しているんだ。切っても切れない縁で結ばれている。いわば運命共同体だ」

 

源白深城は一度死んだ。それを朝槻真守が無理やりこの世に繋ぎ留めた。

深城は真守に生かしてもらわなければ、生きていけない。

一二歳の体を持つ深城を真守が生かさなければ、一八歳の源白深城は霧散してしまう。

二人共真守がいるからこそ、生きていられる。

 

「深城の望みは私と一緒にいるコトだ。それ以外に欲しいものは何もない」

 

一二歳で成長の停まった体を持つ、夢を見ている源白深城。

一八歳の体を持ち、能力が源白深城として自我を持って動き出した源白深城。

 

夢を見ている源白深城は、一八歳の体を持つ深城を通して真守と日々を共に過ごしている。

ある意味繋がっており、地続きなのだが──実質二人いる源白深城。

 

彼女たちの望みは朝槻真守と一緒にいることだ。

それ以外は要らない。だから。

 

「深城たちは、私の悲しむことは絶対にしない。だから自分が二人いようと、潰し合うことはしない。どちらの深城も私にとっては大切だ。だからどちらの深城も、私が大切にしている存在を穢そうとはしない」

 

真守はまっすぐと上条当麻を見つめた。

 

「お前はどうだ? あの上条当麻の存在を許せるか? 自分と同じながらも明確に異なる存在が現実にいるというコトを、受け入れられるか?」

 

上条は真守に問いかけられて、押し黙る。

もう一人の上条当麻。そんな存在について考えて、上条当麻は俯いた。

 

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