とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一七四話、投稿します。
次は四月二日月曜日です。


第一七四話:〈切望祈願〉は胸の中に

夜。真守は寝間着に着替えて、広いベッドの上で一人考えていた。

 

アシュリンがマクレーン家のタウンハウスに用意してくれた真守の部屋は、垣根と同室だ。

真守が毎日垣根と一緒に寝ている事を知っているので、気を利かせてくれたのだ。

 

真守は夜が深まるロンドンの街並みに目を向けながら考える。

真守が考えていることは、もちろん自分の戸籍と国籍についてだ。

 

伯母であるアシュリンと祖父のランドンは、何もない真守にマクレーン家と繋がりがある英国の戸籍と国籍を用意したいといった。

 

ケルトとしては受け入れられないけど、家族としては受け入れられる。

だから真守の事を、正式に家族として受け入れたいと言った。

 

マクレーン家と家族になる。

その提案が突然過ぎて、真守はどうすればいいかわからなくなっていた。

 

朝槻真守はただの超能力者(レベル5)から絶対能力者(レベル6)進化(シフト)し、そして『流行』へと至った。

だがそんな真守も、自分がマクレーン家に家族として迎えたいと言われるなんて思わなかった。

完璧な存在だとしても、マクレーン家と家族になる日が来るなんて全く考えた事がなかった。

 

マクレーン家と繋がりができたって、真守は何も変わらない。

朝槻真守はこれからも朝槻真守であり、何にも縛られない。

垣根帝督とも、源白深城とも、みんなとも。その繋がりが変わってしまうわけではない。

それでも根本的なところで、完璧に変わるのだ。真守はそう感じていた。

 

「真守、大丈夫か?」

 

部屋に入ってきた垣根は、その手にホットミルクを載せたお盆を持っていた。

悩む真守のために、垣根はホットミルクを貰ってきたのだ。

 

垣根はベッドにちょこんっと座っている真守に近づく。

真守の寝間着は白いシルクのロングスカートだ。純白の服に、真守の黒髪がよく映えている。

儚いながらも、神秘的な装いだ。

 

「ほら、真守。これ飲んで落ち着け」

 

「ありがとう、垣根」

 

ふにゃっと真守は笑うと、垣根からホットミルクを受け取る。

温かいマグカップを両手でちょこんっと持った真守は、くぴっと飲む。

 

「……おいしい。あまい。やさしい味がする……」

 

真守は小さくほうっと息を吐く。垣根は真守の隣に腰を下ろす。

真守はホットミルクを堪能すると、コップをそばの机に置く。

そして、すすっと垣根にすり寄った。

 

垣根はすり寄ってきた真守のことを、後ろから抱きしめる。

ぽすっと、真守は垣根の胸の中にすっぽり収まる。

 

垣根に後ろからぎゅっと抱きしめられて、真守はご機嫌に目を細めた。

垣根は真守の頭を優しく撫でながら告げる。

 

「科学サイドと魔術サイドを分け隔てるものはもう何もない。アレイスターに配慮する必要もねえ。……だからお前はマクレーン家の人間と家族になれる。そうだろ?」

 

真守は垣根に後ろから抱きしめられたまま、こくんっと頷く。

マクレーン家は科学サイドと魔術サイドのバランスを考慮して、真守に必要以上に接触しないようにしていた。

すでに手放した存在の所有権を主張するのは争いに発展する。

そのため、アシュリンは真守の存在を学園都市とアレイスターに託した。

 

だがそのアレイスターは第三の領域(バックステージ)に引っ込んだ。

そして学園都市は、アレイスターから真守たちに引き継がれた。

 

科学と魔術の対立する時代は終わる。

だからマクレーン家は真守と明確なつながりを持っても、問題なくなった。

 

真守は学園都市のトップに立つ。

だからこそ、マクレーン家は大切な真守のことを支えられる完全な後ろ盾になりたいのだ。

 

マクレーン家が一番配慮したいと思っているのは、真守の気持ちだけ。

だから家族にならないかと、真守に提案した。

 

「いまの私は、何も変わらない。……伯母さまとお祖父(じい)さまは、何も変わらなくていいように配慮してくれるって言った」

 

「でもやっぱり不安か?」

 

真守は垣根の問いかけに、むむっと眉をひそめる。

マクレーン家はどこまでも真守のことを想っている。何があっても、マクレーン家はどうしても真守のことを何よりも大切にしたいと思っている。

そのことを良く理解している垣根は、真守の髪の毛を優しく撫でる。

 

「真守、お前はどうしたいんだ?」

 

垣根は真守の髪をやさしく撫でながら、問いかける。

 

「昼間にお前はあのバカに自分の気持ちが一番大事だって言ってただろ。……学園都市のトップになろうが何しようが、お前も自分の気持ちに素直になっていいんだ」

 

コロンゾンを討伐した後。上条当麻は神浄の討魔と争い合うことになった。

その時、真守は上条に言葉をかけた。

 

自分がどうしたいか。何をしたいか。

それが一番大切で、それ以外に何かを優先する事はしなくて良いのだ。

誰かに配慮しなくて良い。ただ自分がやりたいことをすればいい。

 

真守は上条当麻に、そう言ったのだ。

 

「…………いいのかな」

 

真守はぽそっと呟く。

そして垣根の胸の中で、垣根の体温を感じながらぽそっと呟く。

 

「私、ケルトのひとじゃないのに。ケルトに触れられないのに。私を家族として受け入れてもマクレーン家はいいのかな」

 

「家族になるのとケルトに触れるのは別だって、お前の伯母と祖父が言ってただろ。当主であるお前の祖父が良いって言ったんだろ。本当にダメなら言わねえよ」

 

「……うん」

 

真守は垣根の腕の中でこくりと頷く。

朝槻真守は天涯孤独だった。真守もそう思っていた。

だが真守は人の子として生まれた。だからこそ家族がいて、それがマクレーン家である。

 

完璧な存在に至ったといえど、血が繋がるひとの事についてはやはり戸惑ってしまう。

血の繋がりは、本当に強いものだ。

そして真守はその血に混じりがあったからこそ、強大な力を秘めて生まれてきた。

 

真守は垣根に甘えたまま、少し前の記憶を思い出す。

それは超能力者(レベル5)に認定されて、世界にお披露目された真守の存在を知ってアシュリンたちマクレーン家が真守の血族として名乗り出た時のことだ。

その時。戸惑う真守にクラスメイトである土御門元春は言っていた。

 

家族の前では目算なんて、裏なんて考える必要がないのだと。

家族という存在は本当の安らぎを得られる存在であり、裏切りなんて考えるのがおかしいのだ。

土御門元春は義妹である土御門舞夏のことをそう考えていると言っていた。

 

家族。血が繋がっている存在。

真守はマクレーン家の事を、母を想ってそっと目を伏せる。

そして自分という存在が恐ろしくて捨てた父親にも、思いを馳せる。

真守は垣根の腕の中でもぞもぞと動くと、垣根に向き直る。

 

「垣根。私はすごく、困ってる。考えたこともない素晴らしい提案をされて、私は戸惑ってる」

 

「言葉にしてくれてありがとな、真守。まあ見てれば分かることだがな」

 

垣根は真守の頭を優しく撫でる。真守は垣根の大好きな手に触れると、ぎゅっと握った。

 

「だいぶ戸惑ってる。でも、ウェールズには行きたいと思ってる」

 

真守はむすっとした表情のまま、それでも自分の気持ちを口にする。

真守の母であるアメリア=マクレーン。彼女の遺体をマクレーン家は血眼になって探した。

そしてマクレーン家は無事にアメリアの遺体を回収して、ウェールズに墓を建てた。

 

真守の母はケルトが嫌いで出奔した。

だがマクレーン家は悩んだ結果、アメリアにとってケルトの地で眠るのが最善だと考えたのだ。

 

真守の母は、ウェールズで眠りについている。

イギリスに来ているのだから、母に会っていくのはどうだろうか。

真守はランドンたちにそう誘われたのだ。

 

「お母さまのお墓に手を合わせても何も変わらない。でも、お母さまに会いに行きたい」

 

垣根は頷くと、真守のことを優しく抱きしめる。

 

「……ん」

 

真守は小さく唸ると、垣根にぎゅっと抱き着く。

だがその瞳は不安で揺れていて、垣根は胸が切なくなってしまった。

 

「俺はお前が幸せになれればそれでいい。家族になるか、ならないか。その選択はお前がするべきものだ。だから自分で決めろ。俺は絶対に強制しない」

 

「……うん」

 

垣根は真守の頭を優しく撫でる。

真守は垣根にすり寄ったまま、目を細める。そして、ぼそっと呟いた。

 

「…………みしろ」

 

真守は大切な少女の名前を呼ぶ。

すると、カブトムシがぶーんっと飛んできた。

 

「ありがとう、帝兵さん。深城に繋いでくれる?」

 

真守は垣根にすり寄ったまま、カブトムシを抱きしめる。

 

『真守ちゃん。どぉしたの?』

 

「深城、いまいい?」

 

『うん。あたしはいまハワイのぷらいべーとびーちにいるのぉ。貸し切りだよ』

 

「……もう、深城ったら。楽しんでてよかった」

 

真守はいつもの調子の深城に、くすっと笑う。

 

「あのな、深城。……伯母さまとお祖父(じい)さまに、家族にならないかって言われたの」

 

『家族?』

 

「うん。私って国籍とか戸籍がちゃんとないんだ。だから家族にならないかって言われた」

 

『……真守ちゃんの伯母さまの事だから、真守ちゃんが家族になる事を選んでも真守ちゃんの何かが変わることはないんだよね。ただ戸籍と国籍が英国所属になるだけ。そうだよね?』

 

「うん、その通りだ」

 

深城はふんふんと頷くと、真守に優しく声をかける。

 

『真守ちゃん。本当は自分がどぉしたいか、もう決まってるでしょぉ』

 

「う」

 

『でも不安だから、その気持ちをはっきり口にできない。最後の踏ん切りがつかない。そぉでしょ?』

 

真守は深城に痛いところを突かれて、声を上げる。

そして顔をしかめて、すすすっと垣根にすり寄る。

へにゃんっと眉を曲げる真守。

そんな真守の頭を、垣根は優しく撫でた。

 

「真守。大丈夫だ、自分の気持ちを吐き出せ」

 

垣根が優しく声を掛けると、真守はムッと口を引き結ぶ。

そして本当に困った様子でへなっと眉を八の字に曲げて、垣根を見上げた。

 

「…………怖いんだ……」

 

真守は泣きそうになりながら、ぽそっと呟く。

 

「家族になりたいよ。伯母さまたちと家族になりたい。……でも、怖い」

 

真守はぎゅうっと、垣根にすり寄って垣根の服を躊躇いながらも握る。

 

「関係をはっきりしたら、突き放された時がすごく怖い。一緒にいられなくなる時が来るのがすごく怖い。……怖いんだ」

 

朝槻真守は、これから永遠を生きる。

永遠を生きれば、変わらないことなんてありえない。

だから時が経つにつれて、マクレーン家のみんなが自分から離れていく事が怖いのだ。

 

「真守」

 

垣根は真守の肩に優しく手を掛けて、真守の目をまっすぐと見つめた。

 

「お前はマクレーン家が本当に願った子供なんだろ。それにお前はその期待に応えようとする。……滅びの運命にあるケルトを、絶対に守るんだろ?」

 

真守は垣根の問いかけに、こくりと頷く。

朝槻真守には全てを守る力がある。

その力を使って、真守は何があってもケルトを守り抜くつもりだ。

 

何故なら、マクレーン家は血に混じりがある自分の事を大切にしてくれる。

運命のいたずらによってケルトの一員になれなかった自分を、マクレーン家は本当に大事に想ってくれている。

 

自分の事をマクレーン家が思ってくれるからこそ、真守はケルトに触れられなくとも、ケルトを絶対に守りたいと思うのだ。

 

「ケルトに触れずに、ケルトを守ろうとする血の繋がってるお前。そんなお前を、マクレーン家がないがしろにするわけねえだろ。それはお前だって分かってるんだろ? お前をマクレーン家が裏切る日が絶対に来ない。な?」

 

「…………うん、そうだけど。でも……」

 

真守は自分の気持ちを分かってくれる垣根を見上げて、へにゃんっと眉を八の字に曲げる。

 

「真守、大丈夫だ。お前が悲しい思いをするなら、俺がマクレーン家をぶん殴ってやる」

 

「垣根……ありがとう」

 

真守は垣根の言葉に、ふにゃっと笑う。

 

「家族になるのが怖いってんなら、その気持ちをきちんと伝えろ。ちゃんと話さねえと分からないだろ」

 

真守は無言で、垣根にすり寄る。垣根は真守のことを、きちんと受け止める。

真守はふふっと笑うと、幸せを感じて表情をとろけさせる。

 

「私、家族になりたいって伯母さまたちに伝える。……でも、いつかマクレーン家の人たちが離れて行ってしまうのが怖いとも伝える」

 

真守は決意すると、垣根にぎゅっと抱き着いた。

 

「ありがとう、垣根。私が泣いたら助けてくれるっていう垣根の言葉、すごく心強い」

 

「当たり前だろ」

 

真守は垣根の言葉にふにゃっと笑うと、カブトムシに目を向けた。

 

「深城、ありがとう。深城のおかげで、気持ちの整理がついた」

 

『ふふ。良かったあ。……真守ちゃん、怖くないよ。だいじょぉぶ。あたしが保証する。マクレーン家のひとたちは、真守ちゃんとずぅっと一緒だよ』

 

「ふふ。お前が言うならきっとそうなんだな。……うん、ありがとう。深城」

 

真守はカブトムシに向かって、ふりふりと手を振る。

そして垣根を見上げた。

 

「明日、伯母さまとお祖父さまに言うんだ。垣根も一緒に来てくれる?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

垣根は真守の小さな体温を感じながら、微笑む。

 

「決められてよかったな、真守」

 

垣根は真守の頬をやさしく撫でて、軽く触れるだけのキスをする。

 

「お前の気持ちが一番大事だ。……俺は、お前の心を何よりも大事にしたい」

 

かつて朝槻真守は絶対能力者(レベル6)進化(シフト)することを恐怖していた。

絶対能力者に進化して、誰かを大切に思えなくなったらどうしようかと恐怖していた。

 

もちろんそんなことはなかった。真守は完成された存在になっても、そのままだった。

だがそれでも、かつての真守は本当に恐怖していた。

そして垣根帝督はあの時から変わらない真守の心を守ってやりたいと思っている。

 

真守は神としてあらゆる存在に必要とされている。真守は人々の心を受け止める存在である。そんな真守の心のことを、ずっとそばにいる自分は何よりも大事にしたいと、垣根帝督は思っている。

 

「お前の幸せが、一番大事だ」

 

優しい言葉。

真守は垣根が本当に自分の事を大事に思ってくれているのが嬉しくて、目を細める。

 

「だいすき、垣根。すごく優しい垣根だから、私は安心してずぅっと一緒にいられるの」

 

真守はぎゅうっと垣根に抱き着く。そして、自分から垣根にキスをした。

 

「ふ」

 

真守は幸せそうに息を漏らすと、ふにゃっと笑った。

垣根はそんな真守の頭に手を添えて、もう一度深いキスをした。

 

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