とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一七五話、投稿します。
次は四月八日木曜日です。


第一七五話:〈幸福平穏〉で朝を迎える

大悪魔コロンゾンとの戦い。

その戦いから一夜明けたロンドンは、冬らしく霧が出る寒い朝となった。

そんな早朝。朝槻真守は温かいベッドの中で、ふかふかの布団を被って幸せに浸っていた。

 

目の前には、自分に寄り添って綺麗な顔で眠っている垣根の姿がある。

もうすっかり見慣れた光景だ。

だが真守は、起きてすぐ隣に垣根がいる事にいつも幸福を感じていた。

 

去年の初夏。朝槻真守は垣根帝督と出会った。

それから本当に色々あった。その日々の中で、垣根帝督はいつだってそばにいてくれた。

 

だいすきな男の子。いつでも一緒にいてくれる存在。

自分のことを一心に想ってくれるひとがいるのは、本当に幸せな事だと真守は思う。

 

垣根だけではない。大切にしたい女の子や神様ではなく本当の自分を見てくれる女の子。

そして自分の事を神として必要とする子たち。自分を大切にしてくれる家族。

 

たくさんの人々が自分の事を想ってくれる。それは本当に素敵で素晴らしい事だ。

 

幸せな気持ちのまま、真守は垣根の寝顔を見つめる。

すると、垣根帝督が目を覚ました。

長い睫毛と共にまぶたが揺れて、垣根はそっと目を開く。

綺麗な黒曜石色の瞳。寝ぼけた様子。

そんな垣根の愛おしい姿を自分だけが見られるなんて、真守は本当に心が満たされる。

 

「……ん」

 

「おはよう、垣根」

 

真守は寝ぼけ眼でぼーっとしている垣根へと笑いかける。

 

「…………真守」

 

「ん?」

 

垣根はぼうっとしたまま、真守の頬へと手を添える。

 

「昨日の夜もすげえかわいかった。ご無沙汰だったからな」

 

真守はにやっと笑う垣根を見つめて、きょとっと目を見開く。

だが意地悪な笑みを浮かべる垣根に朝からからかわれて、真守はぼぼっと頬を赤くする。

 

「ッ!?」

 

確かに、昨日は久しぶりに甘いひと時を過ごした。

ここ最近は、二人でゆっくり夜を過ごす事ができなかったからだ。

 

それに真守はコロンゾンとの戦いで体調に不備が出ていた。

だから垣根がすごーく遠慮していたのだが、真守は人造の樹を打ち立てた事で完璧に至った。

 

だから真守と垣根は、昨日久しぶりに男女の仲を深めていたのである。

 

「か、かきねのえっち!!」

 

真守は自分が着ている垣根のシャツの袖を自分の口元に持ってきて、声を大きくする。

垣根は素肌一枚に自分のシャツだけ着て布団を被っている真守を見て、ふっと笑う。

 

「お前が誘ってきたんだろ」

 

「わあああああかきねのばかっもう知らないっ」

 

真守は声を大きく上げて飛び起きる。

垣根は冷たい空気が布団の中に入ってきたので眉をひそめる。

 

「寒いだろうが」

 

「うるさーいっ! 知らないそんなコト!!」

 

わたわたと赤い顔で慌てる真守。

垣根は慌てる真守の手を引っ張ると、布団の中に引きずり込む。

 

「わわっ」

 

真守はかーっと頬を赤くしながら、布団の中に出戻る羽目になる。

 

「だ、だって……ッ」

 

真守はぼぼっと頬を赤くして、ぼそぼそと呟く。

 

「かきね、わ、わたしの体調に気を使って……わたしがいいよって言わなかったら……て、てててて手ぇ、絶対に手ぇださなかっただろぉ……っだから、だからっ」

 

「ふ。恥ずかしかったら言わなくてもいいんだぜ?」

 

「かきねのばかぁ……っばかばかばか……っ!!」

 

真守は垣根にぎゅっと寄り添わされながら、頬を赤くして縮こまる。

垣根は笑うと、真守の頭を優しく撫でた。

 

「かわいい」

 

垣根は優しく、真守の頭にキスを落とす。

真守はぷるぷると震えると、頑張って垣根から離れる。

 

「しゃ、シャワー浴びてくるっかきね、離して!」

 

垣根は真守を抱き寄せると、真守の首元に顔を埋める。

 

「もうちょっと寝る」

 

「だ、だめだぞ垣根っ私はシャワー浴びたいっ起きておねがいっ!」

 

真守はぷるぷると震えて、首筋に顔を埋めてくる垣根を頑張って引き剥がす。

 

「やだっかきね、やだっ」

 

真守はすんすんっと鼻を鳴らして離れようとする。

 

「……しょうがねえな。ほら、行ってこい」

 

垣根はやだやだいう真守のことを解放する。

いつもならば意地でもベッドに拘束するが、昨日のご無沙汰で垣根帝督は気分が良い。

真守は垣根に解放されると、もぞもぞと必死に動いてベッドから出た。

 

「……べ、べつに。垣根とするえっちが嫌だとか、そういうことじゃないからなっ!!」

 

「ふっ。その主張が今と何の関係があるんだよ。良いから行ってこい」

 

真守は自分がよく分からないことを口走っていると知って、恥ずかしくなる。

そしてぴゅーっと、垣根のシャツを一枚着たまま服を拾いながら去って行った。

垣根は真守が愛らしくて、くつくつと笑う。

気が向いたから、垣根はベッドの上で座った。

下は穿いているが、上は着てない。そのため近くに放り投げていたトレーナーを拾った。

 

カブトムシ(端末)

 

垣根が呼ぶと、ぶーんっとカブトムシとトンボが飛んできた。

 

「何か異常はねえか?」

 

『はい、問題ありません。昨日までが嘘のように平和です』

 

「コロンゾンはどうしてる? 俺が造った箱に真守が詰めただろ」

 

『大人しく真守が用意した夢の中にいます。目を覚ましても箱の中ですし、真守によって拘束されていますからね。夢の中は現実と違って自由ですから。大人しくしているようです』

 

垣根帝督はカブトムシの説明を聞いて、目を細める。

大悪魔コロンゾン。彼女が特別だったのはコロンゾンが自前で肉の器を用意したからだ。

その肉の器を、真守は人造の樹を打ち立てることで剥奪した。

 

だが肉の器はコロンゾンのモノとして完璧に作り上げられたものだ。

大本から切り離されたとしても、そこにはコロンゾンが宿っている。

 

いうなれば、肉の器に残されたのは矮小化されたコロンゾンと言ったところだ。

矮小化したコロンゾンは、完璧な存在である真守に太刀打ちする事ができない。

 

そんなコロンゾンに真守は夢を見せている。夢の中では自由なようで自由ではない。夢の権利を真守が握っているからだ。だが真守はそこまで意地悪ではない。

 

そのためコロンゾンがゆったりできる世界を作り、話をしている。ちなみにそこにはカブトムシとトンボもいて、垣根はやろうと思えばコロンゾンと接触できる。

 

(まあ、大悪魔と話すことなんて何もないからやらねえけど)

 

垣根は膝に右手の肘を乗せて、外を見る。

朝霧で煙るロンドンの街並み。それを見て、垣根は少し考える。

 

思えば本当に遠いところまで来たものだ。

垣根帝督はついこの間まで学園都市の暗部にいた。

暗部で生きて、学園都市を陰から掌握しようと動いていた。

 

世界の中心である学園都市を手に入れれば、自分は満たされると思っていた。

だが実際のところ、学園都市は世界の中心ではなかった。

そして本当に大事で自分のことを満たしてくれるものは別にあった。

 

誰よりもかけがえのない、大切な少女。

そんな愛おしい少女が、自分をここまで連れてきてくれた。

 

学園都市の表を牛耳り、統括理事長と対峙をして。そして全ての因縁を断ち切るために、学園都市から英国へ。そして世界の命運をかけて戦った。

 

真守がいたからこそ、垣根帝督はここまで来られたのだ。

真守がいたからこそ、全てが変わった。

垣根帝督はその変化を良い事に思って、大切な少女のことを考えて優しく笑った。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

大悪魔コロンゾンとの戦い。

そしてその後に起きた上条当麻と神浄の討魔の戦い。

それらが終わって、朝槻真守たちはやっと平穏な日常へと帰還した。

 

ちなみにマクレーン家のタウンハウスには、エルダー=マクレーンとリリスも身を寄せている。

上条当麻やオティヌス、御坂美琴、食蜂操祈やインデックスは冥土帰し(ヘブンキャンセラー)がイギリスから借り受けた医療機関に入院したり滞在したりしている。

 

真守は朝からいつもの通りに垣根に意地悪をされたが、きちんとシャワーを浴びて着替える。

そして、朝食の場である食堂にやってきていた。

 

「お祖父(じい)さま、伯母さま。おはよう」

 

真守は垣根と一方通行(アクセラレータ)を連れたまま、二人にお辞儀をする。

その姿は、深窓の令嬢だと言わんばかりの服装だ。

 

白いブラウスに膝より少し上の、後ろが長くなっているテールスカート。

胸元には黒いリボン。そして首には垣根帝督が真守にプレゼントした、黒い豪奢なチョーカーが巻かれている。

髪の毛はいつもの猫耳ヘアだが、髪先は丁寧に巻かれていた。

 

アシュリンは真守を見ると、表情を輝かせた。

 

「おはよう、真守ちゃん。その服も良く似合ってるわ」

 

「へへ。ありがとう、伯母さま」

 

真守はスカートの裾を摘まんで、少しだけポーズをとる。

愛らしい真守の姿を見て、ランドンは目元を優しく緩めた。

はにかんで笑った真守は、少しだけ胸を高鳴らせながら告げる。

 

「あ、あのね。伯母さま、お祖父(じい)さま……」

 

真守は緊張した声を出しながら、垣根の手をぎゅっと握ったまま口を開く。

アシュリンは真守の前にやってくると、真守の頬にそっと手の甲を沿えた。

 

「なあに、真守ちゃん」

 

「……私……伯母さまたちと、家族になりたいの」

 

真守は自分の気持ちをきちんと言葉にする。

『流行』へと至った真守は、言葉を用いらずに簡単に自分の考えを伝えられる。

 

だがそれは普通ではない。

自分の気持ちをきちんと言葉にして、それを相手に伝える事にこそ意味がある。

 

だから真守は緊張しながらも、自分の気持ちを話す。

 

「家族になりたい。でもね、伯母さま。私は怖いんだ。いつか一緒にいられなくなってしまうのが怖い。もちろん、物理的な距離じゃなくてな? 縁が切れてしまうコトが怖いんだ」

 

「分かってるわ、真守ちゃん」

 

アシュリンは真守の前で、床に膝をつく。

そして垣根と手を繋いでいない真守の手を握って、真守を下から見上げた。

 

「真守ちゃん、わたくしたちは誓約(ゲッシュ)を自らの血族に課すわ」

 

「……誓約?」

 

真守は首をこてっと傾げて、アシュリンの言葉を復唱する。

 

誓約(ゲッシュ)とは、破ればわたくしたちに不幸な災いが起こるモノよ」

 

「え。そ、それ……大丈夫なの?」

 

真守は誓約の意味を聞いて、慌ててアシュリンを見る。

ランドンも立ち上がって、真守の前で腰を下ろした。

 

「真守。我が娘、アメリアの子よ」

 

ランドンは、そっと真守の頬へ手を伸ばす。

 

「我がマクレーン家が真に望んだ、我らを潰えさせえない希望。その姫御子よ」

 

ランドンは真守のことを慈しんで、そっと目を細める。

 

「お前にはとても辛い運命を背負わせてしまった。それなのに、お前は私たちを救うと言ってくれた。それならば、私たちも応えねばならぬ。そうだろう?」

 

真守はランドンの優しい言葉に、すんっと鼻を鳴らす。

アシュリンは微笑むと、真守の手を優しく撫でた。

 

「わたくしたちが死んでも、マクレーン家が続いていく限り。わたくしたちは真守ちゃんと一緒よ、真守ちゃんとずっと家族よ。だって半分だとしても、真守ちゃんには同じ血が流れているんだもの。当然よ」

 

「真守、お前は何も不安に思う必要はない。いつだって、私たちは一緒だ」

 

真守は心の奥からこみ上げるものがあって、視界が霞む。

涙が、ぽろっと落ちた。それは悲しみの涙ではない。

嬉しくて流れてしまう涙だ。真守は必死にこらえるが、どうしても涙は止まらない。

 

「……何があっても、私はみんなとずぅっと一緒?」

 

「誓おう、真守。何があっても、お前と共にいる。その努力を我々は怠らない。永遠に一緒だ。我らの魂は、いつだってお前と共にある」

 

真守はランドンの言葉に、何度も頷く。

垣根はそっと、真守と繋いでいる手を解いた。そして、真守の背中を押す。

真守はアシュリンとランドンに手を伸ばす。

 

二人は立ち上がると、真守のことを優しく抱きしめた。

真守は優しいひとに包まれて、すんすんと泣き続ける。

アシュリンも目に涙を溜めていた。

ランドンは小さく震える真守のことを、優しく必死に抱きしめる。

 

「マクレーン家が続く限り。ずぅっと一緒よ、真守ちゃん」

 

真守はアシュリンの言葉に、こくこくと何度も頷く。

 

「何よりも愛らしい真守ちゃん。わたくしの半身の忘れ形見」

 

アシュリンは真守の髪を優しく撫でて、真守の事を強く優しく抱きしめる。

 

「誓約は真守ちゃんを安心させるためのものよ。でもそんなのがなくたって、わたくしは真守ちゃんの事を想ってる。それは理解してくれる?」

 

「……伯母さまは、いつだってわたしのために動いてくれるよ」

 

真守はぽろっと涙をこぼしながら、ふにゃっと笑う。

 

「いつだって、私がしあわせになれることを考えてくれる。今も、色々してくれてるでしょう?」

 

「……そうね。真守ちゃんのために、学園都市に在中できる近衛侍女と護衛を見繕ってるの。エルダーさまがいると言っても、十字教に精通している手駒がいたら何かと便利だから」

 

真守はぐすっと鼻を鳴らすと、アシュリンを見上げてふふっと笑う。

 

「人を寄越してくれるんだ」

 

「ええ。真守ちゃんは魔術サイドの人間が学園都市に入るのは嫌?」

 

「ううん、そんなことはない。学園都市も、変わる時が来たからな」

 

真守はふるふると首を横に振って、微笑む。

 

「まだ学園都市と外を隔てる壁は必要だとおもう。もちろん線引きは大事だから。すぐにすべての環境を変えたら、みんなが大変になってしまう。……だから徐々にかえていくつもりだ。そこら辺は状況をみて、臨機応変に対応していきたい」

 

科学サイドと魔術サイドは、長らく睨み合っていた。

それぞれの領分を侵さないようにしていた。

それは科学と魔術を分けたアレイスターが魔術を憎んでいたからだ。

だからこそ学園都市は閉鎖的な環境となり、外へ出す技術もダウングレードしていた。

 

「わたくしたちは魔術サイドに所属しているけれど、決して十字教に与していない。誰にも侵されない立ち位置を保持し、十字教が絶対に無視できない立ち位置を確立してきた。だからわたくしたちはあなたの力になれるわ。あなたのバックに立てる」

 

アシュリンは真守の頬を優しく撫でて、そして微笑む。

 

「わたくしたちマクレーン家は、真守ちゃんと共に生きるわ。永遠に、ずぅっと一緒よ」

 

真守は嬉しそうに何度も何度も頷く。

垣根帝督と一方通行(アクセラレータ)は一つの家族を見つめて、そっと優しく微笑んだ。

 

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