次は九月一二日日曜日です。
上条当麻は第一〇〇三二次実験の実験場となる第一七学区の操車場へとやってきていた。
ここに来るまでに自分の命を犠牲にして実験を中止させようとする御坂美琴を止めるために身を犠牲にして電撃を浴びたり、心臓が一瞬停まったりしたが、なんとか実験開始前に辿り着く事ができた。
「よお、御坂妹」
上条は操車場でこれから実験のために準備をしているミサカ一〇〇三二号へと声をかけた。
「お前を助けにきた」
上条はそうはっきりと宣言した。
「何をやっているんですか、とミサカは問いかけます」
「実験を止めにきた」
「意味が分かりません。ミサカは必要な器材と薬品があればボタン一つでいくらでも自動生産できるんです、とミサカは説明します。作り物の体に、借り物の心。単価にして一八万円、在庫にして九九六八人も余りあるモノのために『実験』全体を中断するなど、」
「──うるせえよ」
上条はミサカのつらつらとして言い訳を途中で切るように声を上げた。
「な、に?」
「そんなもん、関係ねえんだよ。作り物の身体とか、借り物の心にボタン一つでいくらでも自動生産できるとか、単価一八万円とか。お前がどういう風に作り出されたとかそんな小っせえ事情なんかどうでも良いんだよ!!」
上条は激情を口にしてミサカ一〇〇三二号が自分に言い聞かせるように呟く、彼女の存在価値を真っ向から否定した。
そして高らかに宣言する。
「俺は、お前を助けるためにここに立ってんだよ! 他の誰でもない、この世界でたった一人しかいないお前のために戦うって言ってんだ!」
ミサカはそれに応えずに、ただ呆然と感情の乗っていない目を見開かせているだけだった。
「今からお前を助けてやる。お前は黙ってそこで見てろ」
上条はそこでミサカから目を離して前を見た。
そこには白い髪に赤い瞳。整った顔立ちをしながらも線の細い、男か女かも分からない人物が怪訝そうな表情で立っていた。
いきなり始まった押し問答の行方がどうなるか静観していたのだ。
「お前が、
「あァ? なンだ、テメエ?」
一方通行がいら立ちを隠さずに、突然実験に割り込んできた上条を睨んだ。
「この実験を止めるためには、
上条が自分の事を三下呼ばわりしたのでぴくッと頬を動かすと、
「オマエ、ナニサマ? 誰に牙剥いてっか分かって口聞いてンだろォなァ、オイ。学園都市でも七人しかいねェ
「勝手に頂点
上条は誰よりも強い
それは何も能力だけが最強だというわけではない。
自分のするべき事を、守るべきものを。それをきちんと見定めて進もうとしているその
確かに朝槻真守は普通の女の子とは言えない。
上条当麻が
何か後ろ暗い過去がありそうだし、それに
それでも全てを忘れた上条当麻の大切な友達である事に変わりなかった。
「……、へェ。オマエ、面白ェなァ──」
実験よりも一〇〇倍先決に潰さなければならない人間を見つめる
そして、
「うおぉおおおおお!!」
上条が雄たけびを上げながら拳を振りかぶって
一方通行はそれを見て
その瞬間、
上条はその衝撃波に吹き飛ばされて、砂利と共に飛んできた石に全身を強く打たれた。
その中でも
「……遅っせェなァ」
上条が
上条は何度も体を縦に回転させられながら吹き飛ばされて、地面に投げ出されて
「全っ然、足りてねェ」
その瞬間、留められたボルトを全て弾きながら一本のレールが一方通行の前で直立した。
「オマエ、そンな速度じゃ一〇〇年遅ェぞ?」
レールがくの字に何度も折れ曲がっていき、起き上がろうとしていた上条に鋭い速度で襲い掛かった。
上条は即座に立ち上がってその場から離れる。
さっきまでいたところにレールが突き刺さり、土埃と共に石がいくつも跳ね上がってその一つが上条の顎を弾き、そして腹を貫くようにレールが飛んできた。
そのレールが致命傷にならないように上条は間一髪のところで避けるが、左わき腹をかすめた。
制服が切り裂かれるのと、その衝撃が左わき腹に入って上条はごろごろと操車場の地面を転がって、痛む脇腹を押さえながら体勢を整える。
上条が上空を見ると、折れ曲がったレールが数本向かってきた。
それを視認すると、上条はとっさにその場から飛び退いた。
だがそれを予見していたかのように鋼鉄のレールが上条の背後に突き刺さり、飛び退いた上条の背中にレールが突き刺さった衝撃波で吹き飛ばされた数十もの砂利や石が打ち込まれた。
背中に不意の攻撃が入ったことによって息が詰まった上条は地面の上にうつ伏せに倒れ込んだ。
風切り音が聞こえて頭上を見上げるとレールが何本もこちらに飛来してきていた。
そのレールは上条自身を突き刺すことなく周りに突き刺さった。
そして再び巻き上げられた石が数十も上条の身体を打つ。
美琴の電撃で足がおぼつかないし、口の中は血の味で充満していて、全身を石で何度も打たれて上条当麻は満身創痍だった。
何度もごろごろと転がっていると、何かに背中をぶつけた。
「コンテナの壁……?」
「余所見たァ余裕だなオイ! ンなに死にたきゃギネスに載っちまうぐれェ愉快な
狂った笑い声が響いた時、
積み上げたコンテナがその一度の飛び蹴りによって山のように崩れ、上条へと向かって落ちてきた。
上条は息を呑んでそれを見上げて、即座に避けた。
「無様に這いつくばって逃げろよォ、三下ァ!!」
それらのコンテナを上条が見上げた時、それは起こった。
コンテナが
(──動かない方がいい!?)
上条はとっさに避けるのをやめて頭を
そして
(今何が起こったんだ? 俺にぶつからないようにコンテナが
「デカい口叩いた割に、バカみたいに突っ込ンでくるだけとはなァ。
白煙の中から
「コンテナの中身は小麦粉みてェだなァ。今日はイイ感じに無風状態だし、こりゃあひょっとすっと危険かもしンねェなァ? ……空気中に粉末が
そのコンテナは、白煙に呑まれてた上条でも認識する事ができた。
上条が打ち上げられたコンテナを見てその場から逃げようとして背を向けた瞬間、背後から
「粉塵爆発って言うンだぜェ、三下ァ」
──直後、小麦粉がまき散らされた空間全てが爆発し、巨大な黒煙と炎が噴き上がった。
上条は小麦粉が舞った空間から逃げて爆炎からは逃れる事ができた。
だが衝撃波が背中を叩き、それと共に小石が飛んで体に叩きつけられる。
その粉塵爆発の衝撃波は、上条の横を通り抜けるように繰り出された別の衝撃波によって吹き飛ばされた。
「な、ん……!?」
上条が驚愕の声を上げる。
おかしかった。
粉塵爆発は辺り一面の酸素を奪い取り、気圧を急激に下げると『知識』で知っていた。
その気圧の変化で上条は内臓を
だが横を駆け抜けた衝撃波が粉塵爆発の衝撃波を相殺すると共に、気圧の変化をも調節したので上条の内臓は無事だった。
そんな芸当ができる能力者は上条が知っている人物の中で一人しかいない。
あらゆるエネルギーを生成する消えた八人目の
(そうか……っ! 朝槻はどっかで見て、そんで分からねえように援護してくれてるのか!)
上条は
だが山積みになったコンテナや粉塵爆発によって
朝槻真守は実験を中止に追い込むには
それに真守が実験を止めようとして
だからこそ朝槻真守は
(こっちには最強の
上条は
「酸素奪われるとこっちも辛いンだなァ。こりゃ核を撃っても大丈夫ってキャッチコピーはアウトかなァ? ────で? 身構えてどォすンの、オマエ?」
(器用に避けまくってェ運の良いヤツだなァ)
真守が援護していると知らない
「ポテンシャルの低さが逆に幸いしてるよなァ。そんな弱っちィンじゃ逆に『反射』が上手く働かねェ。ま、オマエはオマエで頑張ったと思うぜ。この
「イイ加減楽になれ。好きな方の手に触れろ。それだけで血の流れを。生体電気の流れを逆流させて死ねるからよォ」
左手は血の流れを逆流させて、右手は生体電気の流れを逆流させる。
そういう風に
「どっちがいい? 苦手か、毒手か」
「くっ!」
上条は
「それとも──両方かァ?」
そんな上条に、
────……。
気づくと、
(つ……き? 何で月なンか見てンだ……?)
(……俺が、仰向けになってるからか……じゃあ、何で俺は地ベタに寝転がってンだ?)
(!? アイツ……目の前にいたはずがいつの間に……イヤ。そもそもなぜヤツは五体満足で立っていられンだ? ……なンだ?)
(痛ェ。痛て……ェ?)
顔が殴られたように痛い。
そう思って自分の顔に手を
(痛み……だとッ!?)
「なっ……なンだコリャああァッ────!!」
(ぶっ飛ばされたってのか? 俺が? ありえねえッ。それならヤツの腕の方が折れているはず。俺に触れる事さえ……っ)
(両手に集中して、全身の『反射』を無意識に切っちまったって事か? マヌケ過ぎんぞ、クソがっ!?)
「面白れェハハハ。イイぜ。最っ高にイイねェ。愉快に素敵にキマっちまったぞ、オマエはァ!!」
上条は
そしてその右手を拳にして握り込む。
「歯を食いしばれよ、
上条は雄たけびを上げながら一歩踏み込んで
そして
「くだらねェモンに手ェだしやがって。
(生きてる?)
一方通行が視線を動かした方には
今夜の第一〇〇三二次実験で死ぬはずだった
(何言ってンだ? アイツらは人形だろ。そう言ってたじゃねェか)
(力がいる……コイツを黙らせる力。──いや、理もルールも全て支配する、圧倒的な力。……そォか。そこら辺にあるじゃねェか、これを全部支配すりゃァ────……)
その夜空に飛来する人影が見えた。
その人物は袖なしの黒いブラウスに、オーバーサイズの真っ白なパーカーを前開きのジッパーを閉じて肩がむき出しになるように着ていた。
その下にはハイウェストで白いリボンがポイントで取り付けられた黒いショートパンツを履いており、足元にはあの夜も履いていたストラップを編み上げるタイプの白いレースアップサンダルを履いていた。
「な…………っ」
服装はそんな感じだったが、その
猫耳ヘアに綺麗に結い上げた頭には
ショートパンツの
ネオンのような青い光で作られた猫耳と尻尾を身に
その姿を見て
連れて行かれたどこかの研究所。
その隔離区画のとある部屋で
「──
その少女は
ダウナー声でぶっきらぼうに。
それでも優しく穏やかに。
真守ちゃんはどっちかって言うと、誰かが頑張ってるのを手助けする方が好きです。