とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一八〇話、投稿します。
次は四月二二日月曜日です。


第一八〇話:〈疲労困憊〉でも幸せ一刻

ウィンザー城にて祝賀会パーティがある前日の夜。

 

明日、真守はマクレーン家の傍系として、学園都市のトップに立つ存在としてお披露目される。

そのお披露目の準備のために、真守はエステやらマッサージやら入浴やらで、遅い時間まで拘束されていた。

 

「つ、疲れた……ッ」

 

朝槻真守はくたくたの状態で、マクレーン家が所有するタウンハウス内を歩いていた。

 

(か、かきね……もう寝てるかな……? 本当に結構遅くなってしまった……)

 

その筋ではトップレベルの人々によって、完璧に磨かれた真守。

それでも長い時間の拘束だったので、疲労が蓄積されていた。

今日はたっぷり寝て、明日の準備に備える。

そう言い付けられた真守は、くたくたになりながらも完璧に磨かれていた。

 

(今日もたくさん準備したのに、明日もたくさん準備するとは……とても気合が入ってるよな)

 

すでに遅い時間。そのため真守は静かに、ゆっくりと部屋の扉を開ける。

すると垣根は足を組んでソファに座って胡乱げな表情をしていた。

 

真守は垣根の姿を見て、目を見開く。

アンティーク調の家具に囲まれて胡乱げな瞳をしている垣根の姿は、とても絵になる。

どこに行っても様になる男だ。真守はそれを再び実感していた。

 

「垣根。帝兵さんと帝察さん、どっちのネットワークにアクセスしてるんだ?」

 

「真守」

 

垣根は真守に声を掛けられて、顔を上げた。

カブトムシのネットワークに接続していると、垣根は胡乱げな表情になるのだ。

 

それを外でされると女の子がちらちら見てくるのだが、真守がそばにいるとみんな残念そうな顔をするのだ。

真守がそれを思い出して少し優越感を覚えていると、垣根はちょいちょいっと真守を呼び寄せる。

 

「脅威はねえって分かってるけど、ここは学園都市の外だ。だからちょっと辺りを捜索させてた」

 

「ふふ。お疲れさまだ、垣根」

 

真守はとてとて歩いて垣根に近づく。垣根はそんな真守へ笑いかける。

 

「もう明日の準備は終わったのか?」

 

「うん、終わったぞ。……まあ、明日になったら明日の準備があるんだけどな……」

 

真守は遠い目をしながら、垣根の隣に座る。

そして少し遠慮ながらも、真守はぎゅっと垣根に抱き着いた。

垣根は今日も柔らかくてちんまりとしている真守を感じて、目を細める。

 

真守は隅々まで磨かれていた。

肌はきめこまやかだし、とても良い匂いがする。爪には丁寧に控えめながらもピンクのネイルまで塗られており、元々産毛なんて目立たなかったが完璧に消え去っていた。

 

「ん。十分磨かれたな、お前」

 

垣根は艶やかに光る真守の髪の毛を優しく撫でながら笑う。

真守の黒髪は元々猫っ毛でふわふわしている。

だが今はこれまで以上にふわふわとしていて、それなのにとても滑らかでつややかに光っている。

 

「髪の毛ふわふわだな。めちゃくちゃ手触りが良い。それに全身からイイ匂いがする」

 

垣根は真守のことを緩く抱きしめて、首筋に頬を寄せる。

真守は恥ずかしくて、小さく身をよじった。

 

「多分お風呂にバラの花びらと入浴剤が入ってたから。あとめちゃくちゃオイルでマッサージされた。……垣根、恥ずかしいからすんすん嗅がないでくれ……っ」

 

真守は恥ずかしがりながらも決して逃げずに、垣根にすり寄ったまま笑う。

 

「とても大変だったけど、きちんと綺麗になれた。これで明日のお披露目はばっちりだ」

 

「お前はいつも綺麗だが、今はもっと綺麗だな。かわいい」

 

真守は垣根に頬にキスをされて、真守は恥ずかしそうにじぃっと垣根を見上げる。

 

「そーいうコト、真顔で言わないでくれ」

 

「なんで。事実だろ」

 

事実、真守は控えめに言ってもかわいい。

身長は高くも低くもなく。ほっそりとちんまりした体躯なのに、胸はちゃんとふくよか。

顔も整っているし、エメラルドグリーンの瞳は大きいし、本当に猫のような美しい顔立ちながらもあどけなくて愛らしい。

 

「本当にかわいい。本当に」

 

垣根は真守の頭を撫でる。

真守は顔を赤らめながらも、垣根を見上げた。

 

「……垣根も、とてもかっこいい」

 

少し悪っぽい、怖いものみたさで近づきたくなる整った顔立ち。

茶色い髪の毛もちゃんと整えているし、その向こうに見える黒曜石のような輝きを秘めた瞳はすごく魅力的だ。

 

(こんなにかっこいい男の子がすっごく優しくしてくれて、私をダメ人間になるほど愛してくれるなんて。……本当にしあわせなことだ)

 

真守がじぃっと垣根を見つめていると、垣根はふっと笑った。

 

「そうだよな。俺に大事にされて幸せだよな?」

 

「な、なんで考えてるコト分かったんだっ……さ、さすが垣根……っ」

 

目を見開く真守を見て、垣根は笑う。

 

「当たり前だろ。ずっとお前だけを見てきたんだから。何でも分かる」

 

「……は、恥ずかしい……でも、嬉しいことだし……うぅ」

 

真守は心底幸せそうに垣根に言われて、顔を俯かせてぶつぶつと呟く。

だが一息つくと、ふっと笑った。

 

「お前が幸せそうで嬉しい。イギリスまで来た甲斐があった」

 

「……そうだな」

 

本当に遠いところまで来た。悲劇に溢れた学園都市から飛び出して。科学サイドの代表として、魔術サイドと協力して世界を救った。

 

「ふふ。ここまで来ると、学園都市で上層部相手に暴れていたコトが小さく思えるな」

 

垣根は小さく笑う真守のことを、緩く抱きしめる。

全てに決着をつける。垣根帝督がそれを成し遂げられたのは、やはり朝槻真守に会ったからだ。

 

消えた八人目の超能力者(レベル5)

一方通行(アクセラレータ)を差し置いて、『計画(プラン)』の『第一候補(メインプラン)』として据えられていた謎の超能力者。

 

八人目の超能力者は源白深城だとされていた。そしてそんな彼女と共に暮らしている真守に、垣根帝督は情報収集を目的として近づいた。

 

真守と交流する日々。その日々は、垣根帝督にとって優しい時間だった。

そしてあの廃ビルで。垣根帝督は朝槻真守こそが流動源力(ギアホイール)だと知った。

もう会わないと言った真守の事を、垣根帝督は逃したくない一心で真守に手を差し伸べた。

 

「……お前、最初はほんっとうに俺の話を聞かないじゃじゃ馬だったな」

 

真守は垣根帝督が手を差し伸べた後も、好き勝手事件に首を突っ込んでは暴れていた。

知らないところで事件を解決して、いつも垣根は問題が解決した後に報告されていた。

 

「お前が色んなところで暴れるから、カブトムシ(端末)作ることにしたんだぜ」

 

垣根は真守の頬をうりうりと突く。

真守はぷくっと頬を膨らませると、不満げに垣根を見上げた。

 

「だって……あの時は垣根に頼るっていう選択肢が頭になくて……」

 

朝槻真守はこれまで、すべてを一人でこなしてきた。

学園都市の闇から逃げて。大切な少女を頑張って守りながら、生きてきた。

誰かに頼ることなんてできない。だからこそ、自分を大切にしてくれる誰かがいたとしても力を貸してもらう考えが最初からなかったのだ。

垣根は呆れた様子で一つ息を吐く。

 

「お前は何でも一人でできちまったからな。人の力頼るなんて考えが確かに端からなかった。……つっても、お前。俺が力になるっつってたのに大体無視してただろ」

 

真守はムーッと口を尖らせると、キリッとした表情を見せる。

 

「垣根の力を借りるまでもないって思ったからなっ」

 

「自信満々に言うんじゃねえ。このじゃじゃ馬娘」

 

垣根はこつんっと、真守の額を人差し指で突く。

真守は額に少々の衝撃を受けて、顔をしかめる。

 

「……でも、八月末から垣根の力を借りることを覚えたぞ」

 

「その最初が一方通行(アクセラレータ)探しって言うのはめちゃくちゃ気に食わなかったけどな」

 

「……垣根、よく覚えてる……」

 

八月三一日。あの日は本当に忙しかった。

真守は自分の力に興味を持った木原相似に襲われた。

その裏では最終個体が狙われており、一方通行(アクセラレータ)が奔走していた。

しかも上条当麻は午前中にアステカの魔術師に襲われて、夜には闇咲逢魔と戦っていた。

 

「あの日、林檎と初めて会ったんだ」

 

木原相似に囚われていた杠林檎。

無茶な調整で出力だけを超能力者(レベル5)に仕立て上げられた林檎は、あのままでは危なかった。

だから真守は源白深城を構成するAIM拡散力場を利用して、翼を広げた。自らの格を絶対能力者に近付ける事で、普通の超能力者ではできない事を成し遂げた。

 

「しかも垣根は初めて魔術の存在を知ったんだったな」

 

インデックスを誘拐した闇咲逢魔。

あの男からインデックスを取り戻すために、上条当麻は真守の力を頼った。

あの時すでに垣根帝督はカブトムシを造り上げていた。そのカブトムシ越しに、垣根は魔術という学園都市の外の異能の存在を知ったのだ。

 

「ふふ、色々あった。本当に色々あったね、垣根」

 

真守はむぎゅうっと垣根に抱き着く。

 

「垣根のコト、だいすきだって気が付けて良かった。こうやって気持ちが通じ合っているのが、本当に嬉しい」

 

大覇星祭の時。朝槻真守は垣根帝督が男の子として好きだと理解した。

垣根帝督も、朝槻真守のことを絶対に離したくないと思っていた。

大変な事件や日々を経て、真守は垣根と無事に結ばれる事ができたのだ。

 

「ハジメテも貰ったしな」

 

垣根はするりと真守の頬を撫でて笑う。

真守は恥ずかしくて、ぼぼっと頬を赤くする。

 

「……もう、かきねのえっち」

 

真守はぼそぼそと呟き、そしてふにゃっと笑った。

 

「垣根、だいすき。ここまで一緒に来てくれてありがとう」

 

これまで、大変な事がたくさんあった。

それでもこうして、今は幸せな時間を過ごせている。

それが真守は、本当に嬉しかった。

 

消えた八人目の超能力者。『計画(プラン)』の『第一候補(メインプラン)』。──流動源力(ギアホイール)

絶対能力者(レベル6)進化(シフト)し、人間として完成された存在──神人へと至った真守。

 

そんな真守は、ケルトの民であるマクレーン家が真に望んだ永遠を体現する姫御子だった。

アレイスター=クロウリーが、実は大事に想っていた少女だった。

 

そして真守は、自らを人々の発展と共にあり続ける『流行』へと至らせた。

垣根帝督は、微笑む真守を見て安堵する。

 

「……良かった」

 

「垣根?」

 

真守は呟いた垣根を見上げて、きょとっと首を傾げる。

 

「お前と一緒に居られて良かった」

 

とても優しくて、貴くて。

それでも儚くて、目を離した瞬間にいなくなってしまいそうな少女。

絶対に手の平から零れ落としたくない、優しい女の子。

 

そんな少女がいまも自分のそばにいる。しかも彼女を守れる力が自分にはある。

永遠を共にする事ができる力を有している。

それがとても嬉しくて、垣根帝督は静かに真守に頬を寄せる。

 

「……えへへ」

 

真守はふにゃっと笑うと、垣根にすり寄る。

 

「みんなといられること。それが本当に喜ばしい」

 

真守は幸せを感じて、優しく目を細める。

 

「上条と神浄の討魔。そしてコロンゾンと戦った後始末やマクレーン家とのこと。それと学園都市の運営の打ち合わせ。色々やることがあったが、ウィンザー城でのパーティー前に終わって良かった。明日は楽しもうな、垣根」

 

真守はふにゃりと笑うと、垣根を見上げる。

垣根はそんな真守を見つめて、ふっと笑う。

 

「ああ、そうだな。明日はお前のお披露目だし、楽しもうぜ」

 

「うん」

 

真守はふにゃっと笑って、垣根にすり寄る。

そんな真守の姿が、垣根にとっては本当に愛らしい。

 

丁寧に体の隅々まで手入れされて、すべすべの肌。

柔らかい髪。それに良い匂いもする。

 

エステで極限にまで磨かれた真守。

かわいくて、やっぱり手を出したくなる。

 

「…………ちょっとだけなら汚してもいいよな」

 

垣根がぼそっと呟くと、真守はぴゃっと飛び上がる。

 

「!? だ、だめだぞ、垣根! 頑張ってエステしたのにっ! 痕なんて付けたら怒るぞっ」

 

真守はぴゃっと飛び上がると、垣根の胸から逃れようとする。

 

「ちぇっ。おあずけかよ」

 

垣根は逃げようとした真守の腰をがっしりと掴んでいたので引き寄せて、そして口を尖らせる。

 

頑張ってエステやマッサージに耐えた真守に痕をつけたら、流石に欧州人として進んでいて垣根に寛容なマクレーン家も白い目を向けるだろう。

 

だからここは我慢。本当に我慢なのである。

垣根が拗ねていると、真守はドキドキしながら垣根の腕の中で硬直する。

 

「まったくこの男は……っ!」

 

真守は自分のことを抱きしめる垣根の腕をぺちぺち叩く。

こんなことを言う垣根だが、それでも分別は弁えている。

……はずなのだ。大丈夫だと信じたい。

真守はそう思いながら、少し拗ねた様子で自分の頬をぷにぷに突く垣根の気が済むまで、抱きしめられていた。

 

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