次は四月二五日木曜日です。
「ふぉおおお!! かわいい!! かわいいィいいい!!」
深城はテンションが上がりに上がりまくったまま、真守の周りをくるくると回る。
ウィンザー城にて開かれるパーティー。
それに出席するために着飾った朝槻真守は、本当に綺麗だった。
黒髪はいつものように猫耳ヘアに整えられているが、丁寧に毛先を巻いてある。猫耳の下には可愛らしい純白のリボンが取り付けられていて、猫耳本体にも細かいパールの装飾がされている。
いつもより丁寧に下ろされた前髪には細い鎖でできたティアラが載せられており、その真ん中にはエメラルドの宝石が煌めている。
そして真守の耳には垣根からもらったエメラルドのイヤリングが揺れていた。
真守のためにカブトムシが学園都市に戻って持ってきてくれたのだ。
そんな真守を引き立てているのは、虹色の輝きが施された純白のドレスだ。
ふりふりとして可愛いミニドレスは後ろが長いフィッシュテイルとなっており、真守の細く可愛らしい脚が強調されている。
腰の部分は蒼のリボンできゅっと絞められているし、後ろは大きく開いていてリボンで編み上げられている。
小さな手には精緻な刺繍が施されたレースの手袋。足には蒼の可愛い大きなリボンが後ろに付けられた真っ白なピンヒールのパンプスを履いている。
真守は本当に気合が入っている服を意識して、ぽそっと呟く。
「なんかちょっと恥ずかしくなってきた……」
真守は頬を少しだけ赤らめて、気合が入った自分の姿に眉をひそめる。
深城はというと、頭に乗っているカブトムシに写真を撮らせるために動き続けていた。
「かわいいかわいい本当にかわいいっ!!」
真守を絶賛している深城は淡いピンクのふんわりとしたワンピース型のふりふりドレスを着ており、グラマラスな肢体がドレスの上からも見て取れる。
深城の近くには林檎と弓箭がいて、二人はそれぞれシックなドレスに身を包んでいた。
弓箭はお嬢様らしい、ミルクティー色にまとめられたクラシカルドレス。
それと林檎はノースリーブでシャツ風の黒と白のワンピースドレスだ。
「朝槻、きれい……!」
「はぁう……朝槻さんかわいいです、本当に綺麗ですね……っ!」
真守は絶賛されて顔を赤らめながらも、ちらっと心理定規を見る。
「
「ええ。あなたの家の方が用意してくれたのよ。デザインも良いし、ハンドメイドだから気に入ったわ」
心理定規はレースやフリルなど、いつもより装飾が多くなったドレスを気にしながら告げる。
真守たちのドレスは全てマクレーン家の侍女が用意したものだ。
しかもなんと、侍女たちは真守たちの目の前で布からドレスを作り上げた。
マクレーン家の侍女はウィンザー城にいるメイドと同じ技術を身につけているらしく、さすが貴族といったところである。
真守はドレスの裾を気にしながらも軽やかに歩く。
「お前たちも良く似合ってるぞ」
真守が声を掛けたのは、いつもより豪華なフリルがついたセーラー服型のズボンを身に着けている白い少年と黒い髪の少年だ。
二人はそれぞれアシュリンからもらったテディベアを抱きしめており、本当に可愛らしい。
「朝槻真守もとてもかわいいぞ」
「うん。良く似合ってる」
真守は白い少年のセーラー帽子を直してあげて微笑む。
「
真守は二人の少年と一緒に杖を突いて立っていた一方通行へと笑いかけた。
年齢不詳の彼らはついたての向こうで着替えていたのだ。
「……ッチ」
真守が仕立てたピンクのネクタイに黒いシャツ。
そして白いスーツに身を包んだまま、一方通行は舌打ちする。
「…………オマエも良く似合ってる」
「ふふ。ありがとう、一方通行」
真守が嬉しくて目を細めると、車椅子に乗っている八乙女緋鷹に近付く。
「緋鷹。綺麗に車椅子に座れてる。でも裾を気をつけてな」
真守は紫のロングドレスを着て、足にタオルケットを載せている緋鷹に笑いかける。
「もうみんなが言ってると思うけど……真守さん、すごく綺麗よ」
「ありがとう、嬉しい」
真守が話をしていると、そこにランドンとアシュリンがやってきた。
「真守ちゃん、すごくかわいいわっ」
アシュリンはエメラルドのロングドレスを着込んでおり、スリットから真っ白な肌が見えている。
祖父はクラシカルなタキシードを着ていて、当主としてばっちり決まっていた。
真守はうっとりと自分の伯母に見つめられて、恥ずかしくて顔を赤らめる。
「ありがとう。伯母さまもとても綺麗だ」
アシュリンと共にやってきたランドンは真守の事をじぃーっと見つめると、やがてぽつり。
「学園都市は発育に力を入れているんだなあ」
マクレーン家としてはボリュームたっぷりの真守の胸を見て、ランドンはそう呟く。
マクレーン家の人々ははっきり言って胸が控えめである。
「……私がないすばでぃなのはちょっと色々理由があって……」
真守は気まずくて目を逸らす。
真守は自分の体の成長を停めていた。
だが研究所の外に出て、それがまずいと知った。
だから女性の平均と理想を考えて、真守は体の大きさを決めたのだ。
自分の遺伝なんて一ミリも考えずに身長を決めたが、マクレーン家の女性は小柄なのが普通だ。
その証拠にアシュリンやマクレーン家の女性たちは真守よりも身長が小さい。
そしてちなみに胸の大きさだって慎ましい。
アシュリンは遺伝子的に言えば娘と同等である真守に微笑みを向ける。
「真守ちゃんの豊満なお胸には一体どのような理由があるのかしらあ? 真守ちゃん、能力で一体どうしたのフフフ」
「あ、圧……ッ圧がすごいっ……やっぱりカラダネタになると伯母さまがマジになるっ」
体内のエネルギーをイジッて成長させたなんて言えない。何故ならその事について話すと、学園都市の『闇』の研究所に所属していた事を話さなくてはならなくなる。
たぶん、アシュリンたちは真守が学園都市でどんな扱いを受けていたか知っている。
知っているだろうが、そのことについて面と向かって話す勇気は真守にはない。
アシュリンのことを真守は大切に想っている。
だが過去についての話をするのは、まだ時期ではないと感じるのだ。
それでもいつか話せる時が来る。真守はそう思っている。
真守がアシュリンを見つめていると、真守たちがいた部屋に垣根と誉望がやってきた。
「ふえっ」
真守は思わず声を上げて目を見開く。
パーティーという事もあって、二人共スーツを華麗に着こなしている。
黒いフォーマルなスーツの誉望。そして垣根はワインレッドのタキシードを着込んでおり、黒のシャツと少しだけ濃い赤のネクタイをしていた。
誉望は自分に似合わないとおどおどしているが、流石垣根帝督。
自信たっぷりであり、とても様になっている。
しかも垣根は少しだけ髪型を変えていた。
前髪が長い垣根だが、今日は真ん中分けにして、後ろをちょんっと結んでいる。
そのため整った顔立ちが際立っており、真守はそのカッコよさに声を上げてしまったのだ。
「真守」
垣根は一目散に真守の前へとやってくると、柔らかく微笑む。
(か、かっこいい……ッ)
真守はエメラルドグリーンの瞳を真ん丸に見開き、垣根を見上げて固まる。
垣根は固まっている真守を見て、ふっと笑う。
「かわいい。綺麗だ」
心が込もった言葉を垣根に言われて、微笑まれて。真守はきゅうっとよろめいてしまう。
「っと。大丈夫か?」
真守は垣根に優しく腰を支えられて、ドキドキとしてしまう。
「今日、心臓じぶんでうごかすことになりそう……」
心臓止まってしまうかも、と真守が感じる中、垣根はくすっと笑う。
「なんだよ。そんなに俺の姿が気に入ったのか?」
真守は頬を赤らめたまま、意地悪く笑う垣根を前にして小さく頷く。
「……とても、かっこいい……すごくかっこいい……隣にいられるだけでドキドキしちゃう……」
真守は自分のふくよかな胸に手を置いて、垣根をじっと見上げる。
手袋に包まれた右手の薬指には垣根が真守に贈った指輪が嵌めてある。
その指輪は光の加減で精緻な模様が虹色に輝いた。
垣根は自分と同じ指輪をしている真守の頬を優しく撫でる。
「真守、本当に綺麗だ。誰よりもかわいい。お姫様みたいだ」
垣根は柔らかく微笑むと、真守の頬にキスをする。
真守の口にキスしないのは、真守がせっかく綺麗にルージュを塗っているからだ。
「は、はぅ……っ」
垣根の一つ一つの仕草がかっこよすぎる。
真守は垣根と対面しているだけでドキドキとしてしまい、小さく縮こまる。
その様子を見て、深城は床に崩れ落ちる。
「照れてる真守ちゃん、すごくかわいい……っはぁああめちゃくちゃ絵になるぅ……っ!」
「深城、それって限界化って言うんだって、前に誉望が教えてくれた。垣根、かっこいいね。朝槻とお似合い」
林檎は深城の背中をトントンと撫でながら告げる。
その横で弓箭は誉望を見上げてファイト、と言わんばかりに拳を握る。
「ほらっ誉望さん、胸を張ってくださいっちゃんと似合っていますからっ」
「だってあんなに着こなしてるひとがそばにいたら、自信だって失くすに決まってるだろ……」
心理定規は柔らかく微笑んで、弓箭と誉望に近づく。
「あら。馬子にも衣裳で結構似合っているわよ?」
「それ、けなしていますよね……」
誉望は
「何言ってるんですかっ。誉望さんは
「多分っていう一言が余計なんだよ……ッ」
誉望は弓箭の言葉に怒りを向ける。
そんな誉望たちを他所に、垣根は真守の事をじーっと見つめる。
かわいい。とてもかわいい。語彙力がどこか吹っ飛ぶほどに、真守が可愛い。
(やばい。めちゃくちゃかわいい。このまま誰にも会わせねえで手元で愛でておきたいくらいかわいい。一人占めしてえ……)
垣根は真守の手を握って黙ったまま、真守をじーっと見つめる。
「垣根、そんなに見つめないで……かっこいい垣根に見つめられると、すごくドキドキしてなんだか恥ずかしくなってくる……っ」
真守がてれてれと照れて目を逸らす。
かわいい、本当に真守が可愛い。
良い匂いがするし綺麗だし、すごく
垣根は決意を込めて、小さな声で呟く。
「………………後で絶対手ェ出す……」
「ちょっと待て不穏な決意しないでっ! えっち、へんたいっ!」
がっつり聞こえた真守はぷんぷんと怒って声を上げる。
「いいだろ別に。昨日からおあずけ喰らってんだから」
垣根は拗ねた様子で、ぷんぷんと怒る真守の髪を優しく撫でる。
「う」
真守は髪を撫でられて、優しく髪の毛を崩さないように頭を撫でられて声を上げる。
「かわいい、真守。マジでかわいい。本当に綺麗に着飾ってもらったな」
「う……そ、そんな褒められてもさっきの言葉は忘れないからな……っ!!}
真守はどきどきと胸を高鳴らせながら、垣根を警戒する。
自分のことを褒めてくれる垣根はすごくかっこいい。だが流されてはいけないのだ。
必死に踏ん張っている真守。そんな真守を見て、アシュリンが笑った。
「とりあえずウィンザー城に向かいましょう。馬車を用意していますから」
「とりあえずも何もないよっ!?」
アシュリンは進んでいるヨーロッパの人らしく、垣根帝督と朝槻真守の関係に寛容な所がある。
まあ真守が幸せな表情をしており、垣根が本当に真守の事を大事にしているのが分かるため好きにやらせているが、そうじゃなかったらアシュリンは全力で止めているところだ。
「(真守ちゃん。実はわたくし、真守ちゃんの誕生日にわたくしがプレゼントしたベビードールをこっそり学園都市から持ってきているの)」
「ふ、ふぉおおおお──────っ!?」
真守はアシュリンに耳元で囁かれて声を上げる。
「? どうした真守。ナニ言われたんだ?」
「べ、別になんでもないっ恥ずかしくて言えないっ!」
恥ずかしいという事はエロ関係か。
垣根はそう察すると、ふっと笑った。
さっきから忙しなく振り回されている真守もかわいいが、これくらいにしておこう。
垣根は笑うと、慇懃無礼に真守へとエスコートするために手を差し出した。
「ご令嬢、お手を」
「はうぅ……っかっこよすぎる……っ」
垣根の行動すべてがかっこよくて、思わずふにゃふにゃしてしまう真守
それでも、真守は垣根の手にちょこんっと自分の手を乗せる。
「おねがい、垣根。……連れてって」
真守がおずおずと告げると、垣根は微笑んだ。
「喜んで」
垣根は笑って、真守の手の甲に手袋の上からキスをする。
ぴゃっと飛び上がる真守。
垣根はそんな真守が愛おしくて、柔らかく微笑んだ。
「真守、俺がエスコートしてやるのはお前だけだ」
「むう……それ以上かっこいいコト言うな……っ」
垣根はくすくすと笑うと、真守の手を引いて歩き出した。
行先はもちろんウィンザー城。
目的は大悪魔コロンゾンを撃破した者たちを労うためのパーティーだ。