次は四月二九日月曜日です。
真守はアシュリンたちと共に、馬車でウィンザー城へとやってきた。
少し余裕を持って城へ来たため、まだパーティーが始まるまで時間がある。
そのため控え室に通されて、真守は控え室に荷物を置くと立ち上がる。
「私はちょっと上条たちに挨拶してくる。垣根も来るか?」
「当たり前だ、一緒に行くに決まってんだろ。あのラッキースケベ野郎がいる場所に今のお前を一人で向かわせたくねえ」
垣根は即座に応えると、真守に近づく。そして真守へと腕を差し出した。
「エスコートしてやる。来い」
「うんっ」
真守は垣根にエスコートしてもらうのが嬉しくて、ふにゃっと笑う。
そして垣根の腕に手を回して、真守は深城を見た。
「深城、ちょっと行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
深城は笑うと、ふりふりと小さく手を振る。
真守も振り返すと、垣根と共にウィンザー城の廊下へ出た。
侍女を呼んで、上条がいる控え室まで案内を頼む。
そして真守は侍女の先導の下、垣根と腕を組んで城の内部を歩き出した。
真守は自分をエスコートしてくれる垣根をちらっと見上げた。
ワインレッドのタキシード。いつもと違う髪型。
垣根は暗部の仕事着としてスーツを着ていたが、やっぱりパーティー用のタキシードは別物だ。
いつもの特徴的な服装も好きだが、きっちりした垣根もすごく素敵。
しかも自分だけをエスコートしてくれるなんて言ってくれるのだ。
これ以上嬉しいことなんてない。
「ご機嫌だな、真守」
垣根はふっと笑って、表情を緩ませている真守を見た。
「垣根がかっこいいから。一緒にパーティーに出られてうれしい。ずっと一緒にいてほしい」
「当たり前だ。……そんな綺麗な格好してるお前を置いていけるか」
垣根は真守をじっと見つめる。
完璧に着飾った真守はこれから一番人目を引く存在となるだろう。
かわいらしいのもそうだが、何せ統括理事長でありマクレーン家の傍系として発表されるのだ。
絶対にちょっかいを出される。そんな大切な少女から離れるなんて、バカのすることだ。
「絶対に離れるんじゃねえぞ。裏に引っ込む時も一緒だ」
「ふふ。至れり尽くせりだな」
真守はちょっと必死になっている垣根が嬉しくて、にこにこと笑いながら歩く。
そして上条たちの控え室へとやってきた。
真守は案内してくれた侍女に手を上げてから、上条たちの控え室の扉を叩く。
「上条、入るぞ」
真守はそう前置きしてから、扉を開ける。
「お。よお、あさつ──」
椅子に座っていた身なりを整えた上条は、真守を見て固まった。
もちろん上条と同じ控え室の中には、インデックスや御坂美琴、食蜂操祈も一緒にいる。
だが彼女たちも真守に目を向けた瞬間、言葉を失った。
完璧に着飾った真守が本当に綺麗だったからだ。
しかも隣には真守と同じく完全に決めた垣根帝督が立っている。
本当に絵になるカップル。そんな二人に、四人は思わず圧倒されてしまったのだ。
真守は垣根にエスコートされたまま、恥ずかしそうに笑う。
「じっと見られると恥ずかしい。何か言ってほしいな」
真守の言葉によってすぐに復帰したのは、三人の乙女たちだ。
美琴は垣根と共に近付いてきた真守を見て、ほうっと一息つく。
「……な、なんかこう……びっくりするくらい綺麗ね……」
「しかも隣にはイケメン力全開の男が番犬みたいにくっついているしぃ? 反則よねえ?」
「ま、まもり……とてもきれいなんだよ……ッ!」
美琴、食蜂、インデックスの言葉に真守は嬉しくなってにこっと笑う。
それぞれ反応をする三乙女を前に、上条は少し頬を赤くしながらも照れ隠しに笑った。
「朝槻……その、すごく綺麗だな」
その言葉が放たれた瞬間。
インデックスたち三人は、照れた様子で告げる上条を睨んだ。
真守は女の子たちの様子を見てきょとっと目を見開くが、すぐに三乙女の怒りの意味を理解した。
「上条。もしかしてインデックスたちに綺麗だって言ってないのか……?」
インデックスたちもパーティーに出席する関係上、綺麗なドレスを着ている。
インデックスはお姫さまらしい純白に紫の装飾が施されたドレスを着ており、髪はハーフアップにして二つでお団子結びしている。そして美琴は藍色のスケスケナイトドレスで、要所要所は布が厚くなっているがお腹なんかは妖艶に透けている。
食蜂は金色のバニースーツをマーメイドドレスにしたような感じだ。
実は食蜂、上条の
「かわいく着飾った女の子にはちゃんとかわいいって言わないとだめだぞ、上条」
真守はぷんぷんっとちょっと怒った様子で座っている上条を見下ろす。
垣根は真守が上条にあまり近づかないように制しながら、上条当麻をじとっと睨んだ。
「女にかわいいや綺麗も言えねえのかよ。この童〇」
「うるさいやいっ垣根さんみたいにプレイボーイじゃない俺は色々と言うのにハードルがあるんだってば!」
上条は垣根に率直に告げられて声を大きくする。
垣根はそんな上条をあざけるように笑う。
「ったく、女が着飾るのにどんだけ頑張って用意したと思ってんだ。何度綺麗だかわいいって言っても足りねえくらいだ。童〇はそこら辺まったく分かってねえな」
真守は信じられないといった様子の垣根を見上げて、くすっと笑う。
「垣根、すごく私のドレス姿褒めてくれたもんな」
「当たり前だろ、こんなにかわいいんだから」
垣根は真守の髪の毛の毛先を優しく撫でて告げる。
垣根にすごく大事にされている真守。そんな真守を見て、三乙女はむっと顔をしかめる。
そして三乙女は同時に上条をじとっと睨んだ。
三乙女に睨まれた状態で、垣根に真っ当な意見で怒られてしょぼくれる上条。
真守はそんな上条を見て、くすくすっと笑った。
「上条、元気そうで良かった」
三乙女に睨まれる上条を見て、真守は柔らかく笑う。
上条当麻と神浄の討魔の戦い。
当人たちにも辛いものだったが、真守にとっても辛い戦いだったのだ。
だが上条当麻が穏やかな時間を過ごしているとなると、とても安心できる。
上条は真守が少し寂しそうにしながらも安堵している様子を見て、申し訳なさそうにする。
「ありがとな、朝槻。お前には心配かけた。でももう大丈夫だ。心配すんな。……たぶん、俺もあいつも納得できた」
「うん。お前たちが納得できるのが一番だ。……でもな、上条」
「え?」
上条は真守に視線を誘導されて、三人の乙女たちを見る。
するとインデックス、美琴、食蜂はものすごい顔をして上条を睨んでいた。
「え? えーっと……なんで三人とも、そんな顔してるんですか……っ?」
ドレスを褒めなかった件以外で、全く心当たりのない上条。
そんな上条に三人の乙女たちはいらいらが募っていく。
食蜂は拗ねた様子で、じとっと上条を睨む。
「ちなみにぃ、上条さあん。……私たちもすっごく心配してたんだゾ?」
「え」
美琴は凄みをつけた顔をしたまま、怒った様子で眉根をぴくぴくさせる。
「それなのに私たちには何も言わないなんて……ぜんぶ、ぜんぶ私たちが欲しい言葉をアンタは朝槻さんばっかりに……ッ!!」
「……~~~~とうまのばかぁーっ!!」
上条当麻と神浄の討魔の戦い。
それについては三乙女も色々考えて、もやもやしていた。
だが当事者である上条のことを考えて口には出さなかったが、真守並みに三人も不安だったのだ。
それなのに自分には声をかけてくれない。真守にはすんなりと感謝を口にするのに。
しかも真守には言ったのに、ドレスを着たのにかわいいって言ってもらえていない。
怒りが爆発する三人。
真守は途端に騒がしくなった四人を見て、くすくすと笑う。
垣根はため息を吐きながらも、真守を安全圏へと誘導する。
「自分に気がある女の気持ちに微塵も気づかねえし、女の手綱は取れねえし。三つ子の魂百までっつーが、ありゃあ童〇卒業したとしても成長しねえな、きっと」
「まあまあ垣根。それが上条の良いところだ。あとちょっとそんなに明け透けな単語連発しないでほしい。恥ずかしくなっちゃうから」
真守はぎゃーぎゃー騒がしくなった彼らを見て、楽しそうにころころ笑う。
垣根は真守が楽しくしてるならまあいいかと考え、いつものラブコメ展開をしている上条たちを見てふっと笑った。
──────…………。
「クロウリーズ・ハザードに端を発し、大悪魔コロンゾンによる英国、そして全世界の危機は無事収束した」
声を高らかに上げたのは英国女王だ。
ダンスホールの中心に立った英国女王は、慣れた様子で言葉を紡ぐ。
「この戦いで何かを失った者も多いだろう。だが我々はここで杯を掲げなくてはならない。真摯な想いで祈りを捧げ、そして生きて帰ったこの命で人生を楽しむ心を忘れるな! では乾杯!」
英国女王の一声と共に、ウィンザー城のダンスホールで宴が始まる。
パーティーは立食形式で、財政会界や報道陣を排除した本当に内部向けのパーティーだ。
何せ大悪魔コロンゾンなどという超常存在がいるなんて、公表できない。
そのため今夜は無礼講。この場にいる者たちは身分など関係なく、それぞれで楽しんでいた。
真守は垣根にエスコートされた状態で、英国女王のもとへと向かう。
もちろん伯母であるアシュリンと、祖父であるランドンも一緒だ。
「英国女王」
真守は騎士団長を秘書のように連れている英国女王へと声をかける。
「伯母さまたちと一緒に私の国籍を用意して下さってありがとう」
真守が緩く頭を下げると、英国女王は快活に笑う。
「固くならなくて良い。今回の戦争での立役者ならばきちんと褒美を与えねばなるまい。それに学園都市を統括する少女が我が国の一員ともなれば、色々と都合も良くなるからな」
英国女王はニヤッと笑う。真守もそれに応えるように、くすっと笑った。
「ふふ。お互いに利がある関係性が築き上げられると良いな」
英国女王は真守の笑みを見て頷く。
関係性とは利害の一致で強固になることもある。
てっきり真守はそこら辺が潔癖で嫌がるような気難しい少女かと思ったが、そうでもないらしい。
「さすがマクレーン家の傍系といったところか」
英国女王が納得した様子で呟くと、マクレーン家の当主ランドンが笑った。
「一目見ただけで真守が聡い子だと分かるだろうに。権力者というのはわざわざ確認せねばなるまいのが面倒だな、英国女王よ」
英国女王は呟いたランドンをじとっと睨む。
「……そういうお前は英国の首根っこを掴める処理だけは自分でやって、本当に面倒なことは全部『王室派』に任せおって。相変わらず用意周到だな」
「そんなのは当然であろう」
けろっと告げるランドン。拳を握り締める英国女王。
真守はその様子を見て、こそっとアシュリンに声をかけた。
「お
「ええ、そうなのよ真守ちゃん」
アシュリンは真守の問いかけににこっと笑う。
そして笑みを浮かべたまま、ちらっと騎士団長を見た。
「ちなみにそこにいる不出来な男は日本でいうところのわたくしの後輩です」
「え。
真守が驚愕して騎士団長を見ると、実は三○代半ばの騎士団長は鋭く目を細める。
「アシュリン=マクレーン。姪にあることないこと吹き込むのはやめておいた方が良い。家名が汚れるぞ」
「あらあら何をおっしゃってますの? マクレーンはそんなことで汚れるほどチンケな家ではありませんわうふふふふ」
アシュリンは余裕たっぷりの笑みを浮かべて騎士団長をちくちく刺す。
「一〇年前、政治的な理由で第三王女を見捨てた輩に言われたくありませんわあ。それなのに我慢ならなくてなりふり構わず助けに行こうとしてウィリアム=オルウェルにグーパンで沈黙させられたおバカさん?」
アシュリンは騎士団長が口を挟む暇を与えずに、軽やかに告げる。
「英国を守るためとはいえクーデター起こして失敗して。あげく第二王女さまが考えてらっしゃった自身とカーテナの封印の意向を見抜けないなんて側近の恥ですわね。この恥知らず。わたくしだったら死んでしまう程に恥ずかしいですわ」
真守は毒を吐き続けるアシュリンを見つめて、思わず遠い目をする。
「それなのに此度は悪魔にそそのかされて絶対に見捨ててはならない仲間である騎士たちを軽んじる? ふふふあなたの代わりがいないからいまも騎士団長の地位に立ててるからと言って、ずいぶんと頭が高いじゃありませんか騎士団長殿?」
くすくす笑うアシュリン。苦い顔をして真っ当に責められて何も言えない騎士団長。
真守はアシュリンの無敵っぷりに遠い目をしたまま、垣根にきゅっとすり寄る。
「なあ垣根。やっぱり私の家族って最強だと思う……っ」
「そうだな。お前が家族になったことでより最凶になったな」
英国の中枢にがっつり食い込んでいるマクレーン家。
完全勝利を収める祖父と伯母を見て、真守はなんとも言えない気持ちになっていた。
アシュリンは勝ち誇った笑みを見せると、垣根の腕にくっついている真守の頬に手の甲で触れる。
「この子がわたくしの姪なのよ、騎士団長。ちゃんと色々苦心してね?」
「アシュリン=マクレーンに言われずとも、私は騎士団長として英国の一員となった少女にきちんと対応する。それは当然のことだ」
騎士団長はこほんっと咳をして真守をそっと見つめる。
「……キミも、それなりに大変だったようだな」
騎士団長は真守を見つめた後、数年前のことを考えて少し遠い目をする。
「そしてキミの存在を知ったマクレーン家が荒れに荒れたのもの、それなりに大変だった」
「そ、それは心中お察しするぞ騎士団長……」
真守の父親は真守が恐ろしくて捨てた。
だが自分の前からいなくなったとしても真守が怖かった。
そして数年前。真守の父親とアシュリンは偶然とある国で出会った。
アシュリンと真守の母であるアメリアは瓜二つである。
恐ろしい娘を産んで死んだはずの女とうり二つの女性が目の前に現れたのだ。
その時の父親の慌てっぷりは真守も想像できる。
アシュリンは憔悴した真守の父親から話を聞いて自分の妹が死んだ事、そして妹に娘がいたことを知った。しかも男が娘を捨てた先は学園都市だったのだ。
騎士団長は真守の存在を知って荒れに荒れた当時のマクレーン家を思い出して遠い目をする。
「科学サイドである学園都市に魔術サイドの一角を担うマクレーン家が奇襲を仕掛けて世界を引っ掻きまわすかと、正直気が気じゃなかった……」
「仕方ないじゃない。わたくしの半身が産んだ大切な姪なのよ」
ぷいっとかわいらしく怒り、騎士団長を見るアシュリン。
「見なさいな。このわたくしと妹に激似の顔つき。本当にかわいらしいんだから」
「……それは認める。どこからどう見てもマクレーン家の傍系だと分かる少女が
じろっと睨まれる騎士団長。再びぷいっと顔を背けるアシュリン。
「振り回される方が悪いのよ」
とんでもない暴論を口にするアシュリン。そんなアシュリンを見て、真守は苦笑した。
「騎士団長。色々迷惑をかけてなんか本当にごめんなさい」
真守はやっぱり破天荒なアシュリンに、騎士団長の気苦労に申し訳なくなる。
「キミが謝るようなことではない。ただマクレーンにもう少し自重の心があると良いのだ。……だいたい貴様たちは自分たちが強力な権力を持ち、それなりの立場ながらも自由を確保しているからいつも被害を被るのは『騎士派』や『王室派』であってな」
「あらあらあなた方がかたっ苦しくて肘を張っているのがいけないのよふふふふ」
真守は余裕たっぷりで笑うアシュリンを見て目を遠くする。
その向こうでは英国女王がランドンに振り回されているし、マクレーン家は本当に怖い。
「垣根。私は学園都市の長になるけど、伯母さまたちは私に無茶ぶりしてくると思う?」
「マクレーン家はお前のことが大事だからそんなことしねえよ。お前はどっちかっつーとマクレーン家の一員だからな。権力者を振り回す方になるんじぇねえの?」
「……振り回したくないなあ」
真守は最強すぎる親族を見つめて、遠い目をする。
でも親族だと認められて、親族になることができて良かった。
真守はくすっと笑うと、垣根に寄り添ってマクレーンに翻弄される権力者を見ていた。