とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一八五話、投稿します。
次は五月九日日木曜日です。


第一八五話:〈僻地移動〉でも幸せ空間

ウィンザー城での祝賀会パーティー。

垣根帝督はパーティーを終えて真守たちと共に、マクレーン家のタウンハウスに帰ってきた。

 

そして、一夜が明けた。

今日はマクレーン家の領地であるウェールズに向かう日だ。

真守たちはウェールズで真守の母親の墓参りを済ませて、学園都市に帰還する。

そういうスケジュールとなっている。

 

だがウェールズに向かうとしても、朝から動くわけではない。

理由はもちろん、昨日パーティーがあったからだ。そのため朝はゆっくりと過ごして、余裕をもって移動することになっている。

 

それに垣根帝督は昨日、着飾った真守とすごく楽しんだ。そのため朝がゆっくりなのは良い事だ。

垣根はそっと目を開ける。そして自分の胸の中で丸くなっている真守を見た。

 

「ん……」

 

いつもなら、垣根が起きると真守も起きる。

だが真守は小さく呻くと、もぞもぞっと垣根の胸にすり寄った。

 

「……あまえさせて……おねがい……」

 

真守はぼそぼそ呟くと、垣根に寄り添ってむにゃむにゃ眠る。

真守に睡眠は必要ない。というか垣根帝督にとっても、睡眠とは頭の中を整理するだけだ。

 

人造の樹に組み込まれた事で、垣根は体を休めるという意味では睡眠があまり必要のないことになっている。それは一方通行も同じだ。

それでも真守が垣根の腕の中で眠りたいということは、本当に甘えたいということで。

 

(多分、墓参りが不安なんだろうな)

 

垣根は真守の小さな背中に手を回すと、優しく撫でる。

 

「んふふ……」

 

真守は幸せそうに笑うと、すやすや眠る。

垣根はそんな真守が愛おしくて小さく笑うと、髪の毛を優しく撫でる。

ふわふわで細い、猫っ毛の黒髪。

垣根は真守のことを優しく宥めながら、ロンドンでの最後の朝を迎えていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

連合王国の一角、ウェールズは英国の中で最も治安の良い国だ。

そして自然あふれる土地でもあり、湖や城などが多い観光地でもある。

 

そのウェールズの辺境。そこに、マクレーン家が所有する土地と本邸がある。

馬車には真守とアシュリン、深城と垣根が乗っている。

他の面々は後続の馬車だ。

 

真守はいつもの猫耳ヘアに、セーラー服を着ていた。アシュリンにたくさんの服を用意してもらったが、やっぱり制服が一番落ち着くのだ。

 

それに真守は、これから母の墓参りをして学園都市へ帰還する。

そのためセーラー服は何かと都合が良いのだ。

真守は牧草地が続く風景を見渡す。

 

「伯母さま、もうマクレーン家の領地に入ってるよな?」

 

「ええ、その通りよ。真守ちゃん」

 

アシュリンは真守の頭を優しく撫でる。

もう既に、マクレーン家の領地内。

真守はそれを聞いて、本当に貴族なんだなあと実感する。

 

(改めて考えると、私の実家ってすごい。そんなすごい貴族の一員として私を受け入れてくれるなんて……とても幸せなことだ……)

 

血に混ざりがある朝槻真守は、ケルトの民として受け入れられない。

だが貴族として、マクレーン家の家族としてなら、真守の事を受け入れられる。

ランドンやアシュリンはそう考えて、真守に国籍と戸籍を用意してくれた。

 

それにイギリスで大悪魔コロンゾンと戦う事になる前。

真守は学園都市に避難してきた一族全員と、顔を合わせた事がある。

 

その時から、マクレーン家の人々は真守にずっと優しかった。こんなに優しい人たちが自分と同じ血を共有しているのが、真守はとても嬉しかった。

 

そんなマクレーン家は、永遠を生きる真守のために誓ってくれた。

真守が孤独にならないために。真守に寄り添う事を辞めた時点で、マクレーン家は滅びるという誓いだ。

 

優しい人たちが、いつまでも自分と一緒にいるという誓いを立ててくれる。

それは本当に嬉しいことで。幸せな事だと真守は思っている。

 

「真守ちゃん。見えて来たわよ」

 

アシュリンは真守の手を優しく握って、外を指差す。

前方には大きな柵に囲まれた敷地が見えてきた。

 

「建物はまだ見えないけど、マクレーン家が直接管理する敷地に入るわ」

 

真守と一緒に外を見つめていた深城は、カブトムシを頭に載せたまま感動する。

 

「ほぁああ本当にマクレーン家はすごいんだねえ……!」

 

敷地の外から本邸の建物が見えないなんて、お伽噺の中の貴族のような話だ。

そしてやがて、巨大な門の向こうにお城にも見えるマクレーンの邸宅が見え始めた。

馬車列は一度停まり。マクレーン家の門が、ゆっくりと開く。

真守はその様子を見て、緊張できゅっと自分のスカートを握った。

 

「真守ちゃん」

 

緊張した様子の真守に話しかけたのは、アシュリンだった。

アシュリンは姪の手を握って、柔らかく微笑む。

 

「大丈夫よ、真守ちゃん」

 

アシュリンは柔らかく微笑むと、真守の頭を優しく撫でる。

 

「ここがあなたの実家なのよ。……今は緊張するかもしれないけど。直に慣れるようになるわ」

 

真守はアシュリンに抱きしめられて、顔を歪ませる。

 

「ありがとう、伯母さま」

 

真守は優しく抱きしめられて、幸せそうに目を細める。

真守はアシュリンと手を繋いだまま、外を見る。

広大なイングリッシュガーデン。

それを抜けると、マクレーン家の本邸である広大な洋館が見えてきた。

 

「おおきい……」

 

ぽそっと呟く真守。アシュリンはそんな真守の髪の毛を優しく撫でて微笑む。

 

「わたくしにとっては普通だけど、真守ちゃんは大きく感じるわよね」

 

「……そうか、伯母さまにとっては普通なのか」

 

真守はそう呟くと、マクレーン家の本邸を見た。

 

「ここで……お母さまも生きていたんだね……」

 

アシュリンは真守の頭を撫でながら、真守と共に馬車の外を見る。

馬車はマクレーン家の本邸の前で、ゆっくりと停まる。

玄関の前では侍女が数名立っていた。真守はそれを見て、少し緊張してしまう。

 

「真守お嬢様はお待ちください」

 

真守は馬車を開けた途端に侍女に慇懃無礼に告げられて、こくりと頷く。

お嬢様。ついこの間まで、真守はメイドに『真守様』と呼ばれていた。

まだマクレーン家のお嬢様ではなかったからだ。

 

だが今はきちんとお嬢様と呼ばれている。

それが真守は、たまらなく嬉しかった。

アシュリンと垣根、深城は馬車から降りる。

すると、前の馬車に乗っていたランドンが降りてきた。

 

「真守。いまはまだ邸宅の中を自由に歩く事はできない。だがきちんとお前を迎え入れる準備をする。それまでは、私に抱かれて移動してくれるか?」

 

「はい、お祖父(じい)さま」

 

真守はしっかりと頷くと、祖父へ手を伸ばす。

ランドンは頷くと、真守のことをひょいっと抱き上げた。

 

「やはり軽いな、真守。これからはちゃんと学園都市でご飯を食べるのだぞ」

 

「うん、気を付けるね。お祖父さま」

 

マクレーン家の本邸には様々な魔術が掛けられている。それはケルトの民の血に反応する魔術であり、ケルトの血を持たない人間には反応しないようになっている。

 

真守は魔術が反応するケルトの血と、反応しない東洋人の血が混じっている。

そのせいで術式が誤作動を起こし、現代的に言えばバグが生じてしまうのだ。

その対策として、ランドンが真守の事を抱き上げて移動する。そういう事になっていた。

 

「不自由をさせて済まないな、真守」

 

「ううん、大丈夫。お 祖父(じい)さまに抱っこしてもらえるの幸せ」

 

真守はふにゃっと笑って、自分の事を片手一本でお姫様抱っこしているランドンにすり寄る。

ランドンはふっと笑うと、真守のことをそっと抱き直した。

 

「可愛い奴め」

 

「へへーっ」

 

真守はランドンに褒められて、嬉しくて目を細める。

真守が微笑むと、ランドンは目元を柔らかく緩めた。

 

「……アメリアは幸せな最期を迎えられなかった。だがお前が幸せになれるよう、最大限の努力をするから。なんでも言っておくれ」

 

「ふふ。ありがとう。……でもな、お祖父さま」

 

「うん?」

 

真守は首を傾げる祖父を見上げて、ふにゃりと微笑む。

 

「お母さまもきっと……それなりには幸せだったと思うぞ。ずっと悲しい思いをしてたわけじゃない。……お祖父さまと伯母さま。みんなに囲まれて……嫌になっちゃったけど、でも幸せだったと思うぞ」

 

アメリア=マクレーンはケルトとして堅苦しいマクレーン家が嫌になった。

ケルトはいつか滅びると知っている。

その滅びを目前にしても、ケルトの民は一度もくじけず突き進んできた。

 

真守の母はケルトのしきたりに疲れてしまった。そして一族から出奔した。

それでも全てが幸せじゃなかったわけではない。真守はそう信じている。

 

「……そうだな、真守よ」

 

ランドンは柔らかく笑むと、真守の頬を優しく撫でる。

 

「行こうか。みんな待っておる」

 

「はいっ」

 

真守は頷くと、祖父と伯母と、大事な少年少女たちと共にマクレーン家の玄関前に立つ。

そしてランドンの声掛けで、玄関の大きな扉が開け放たれる。

綺麗なエントランスホール。

そこには、マクレーン家で働く侍女やフットマンが並んで真守を待っていた。

 

「……わ、」

 

真守は想像よりも多くの人が自分を待っていたと知って、思わず目を瞬かせる。

ランドンはそんな真守を見てふっと笑うと、近くにいた執事長へと笑いかけた。

 

「ただいま帰った。部屋は用意してあるか?」

 

「もちろんです」

 

「ではみんなを客間へ。エルダー様は生前愛していた庭のガゼボに行きたいそうだ。そこにお茶と防寒具を」

 

「承りました」

 

執事長は慇懃無礼に頭を下げると、ランドンににこっと微笑みかけた。

 

「ちなみにご当主さまは多くの事務処理がありますので、執務室に行かれるのが賢明かと」

 

「分かっておる。真守を客間へと連れて行ったら向かおう」

 

ランドンは告げると、真守を見た。

 

「私がそばにいない時は、侍女が用意した緑のカーペットの上を移動するのだ。アレの上でなら、お前は自由に動ける。ただ今は抱き上げさせてくれ」

 

「うん、分かった。お仕事がんばって。お祖父さま」

 

ランドンは真守の言い方がかわいくて、少し固まる。

その姿を見て、アシュリンはくすっと笑った。

 

「真守ちゃんの頑張れボイスを収録しておけばお父様も頑張れるんじゃないのかしら?」

 

「が、頑張れボイス……?」

 

真守はアシュリンの言葉に、きょとっと首を傾げる。

アシュリンはクスクス笑うと、ランドンを見上げる。

 

「ではお父様。みんなを客間へ移動させましょう」

 

「うむ。案内せよ」

 

ランドンの命によって、侍女たちは動き出す。

そして真守たちも、客間へと向かった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

客間の中でなら、真守も自由にしていい。

真守はそう言い付けられて、客間で一息ついていた。

ちなみに英国で一息つくということは、ティータイムだ。

真守や深城、垣根と一方通行(アクセラレータ)は丸いテーブルにアシュリンと共に座り、『スクール』や林檎、白い少年や黒髪の少年はソファとローテーブルに座ってお茶を楽しむ。

 

すると、客間の扉がばったーんっと勢いよく開かれた。

 

「お母さまっ真守ちゃん来たって本当!!」

 

扉を大きく開けて登場したのは、真守の従姉妹──つまり、アシュリンの娘たちだ。

 

「「ああー本当に真守ちゃんいるっ!!」」

 

双子は真守をロックオンすると、ばたばたと走って真守に近付く。

 

「こら、はしたない事をしないの」

 

アシュリンはせわしない二人へと叱咤を飛ばすが、双子は聞いていない。

 

「「真守ちゃーんっ」」

 

真守は両側からむぎゅーっと抱きしめられて、少し慌てる。

 

「ぁう……ひ、久しぶり」

 

真守は躊躇しながらも、双子に挨拶する。

アシュリンはむーっと口を尖らせると、双子を睨んだ。

 

「二人共」

 

「えーお母さま、ちょっと抱きしめただけじゃん!」

 

「真守ちゃんかわいーんだから、抱きしめたくなるでしょー!」

 

双子はぶーぶー文句を言って、真守にすり寄る。

真守は恥ずかしがりながらも、微笑んだ。

 

「大丈夫だよ、伯母さま。二人共、優しく抱きしめてくれてるから」

 

「……真守ちゃん、嫌なら嫌だって言うのよ」

 

アシュリンはじとっと双子を睨みながら、紅茶のカップに手を伸ばす。

双子は真守の座っている椅子の両脇の床に膝をつくと、真守に笑いかける。

 

「真守ちゃん、家族になったんでしょ? 国籍と戸籍用意してもらったんでしょ? だったらもう学園都市に帰らなくていいじゃん。一緒にいようよー」

 

「そーだそーだっ統括理事長サマになるって言っても、別に学園都市にいる必要ないじゃん。一緒にいようよー」

 

真守はアシュリンと同じ事を言っている二人が愛らしくて、くすっと笑う。

アシュリンはそんな真守を見て、むーっと不機嫌そうにする。

深城はその様子を見て、思わず天井をおあぐ。

 

「真守ちゃん族がいっぱい……ッ!! ここは、天国……ッ!!」

 

感無量、と言わんばかりに声を上げる深城。

そんな深城を見て、真守は困惑した表情で眉をひそめる。

 

「怖いよ、深城。よく分からない興奮して頭から帝兵さん落とすなよ」

 

真守は双子にぎゅーっと抱き着かれたまま、大切にしたい少女に優しく注意する。

垣根はふっと笑うと、いつもと変わらずに楽しそうにしている真守を見守っていた。

 

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