とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第三五話、投稿します。
次は九月一三日月曜日です。


第三五話:〈夜月優美〉が全てを癒す

「よぉ、朝槻。サンキューな」

 

夜空から飛来してきた真守に上条が地面に尻餅をついてボロボロの状態で声をかけてきたので、真守はそんな上条を見て寂しそうに微笑む。

 

「もっとちゃんと守れれば良かったんだがな。この子、辺りのベクトルを操る能力の性質上、空間把握能力が高いから感知されないようにするの大変だった。ベクトルの向きが変えられたことが分からないようにエネルギーの薄い膜を生成して、その中に違うエネルギーを生成して通すなんて、初めてやったぞ」

 

「? 意味が分からないんだが?」

 

「……記憶術(かいはつ)の課題を増やさなければ…………」

 

「うげっ!? そ、それは勘弁してください!」

 

真守がぽそっと呟く言葉に上条が慌てふためくと、真守はくすくすと笑った。

真守と上条の親しげな会話を一方通行(アクセラレータ)は地面に仰向けになったまま動けずに呆然と見つめていた。

真守はそんな一方通行の視線に気が付いて腰を落とした。

 

「なンで…………オマエ、が」

 

「お前を止めにきた」

 

一方通行(アクセラレータ)躊躇(ためら)いがちに訊ねるが、真守のきっぱりとした宣言に一方通行は瞳を揺らす。

真守はそんな一方通行を上から覗き込みながら両手を一方通行へと伸ばした。

 

一方通行が伸ばされた真守の手に体を固まらせる中、真守はそっと一方通行の頭に触れる。

その瞬間、窓ガラスを割るような甲高い音が響き、一方通行の組み上げた『定義』を真守が()()()()()()()()()()()()『定義』で砕いた。

 

その音と衝撃は現実的に響いたのではなく、初めて会ったあの夜の不意の接触と同じく、定義を生み出す事ができる真守と一方通行(アクセラレータ)にだけ理解できた感覚だった。

 

「な…………ッ」

 

競合して互いに弾きあった昨日とは違い、真守に存在しなかったベクトルを差し込まれて反射の定義を崩された。

今まで経験した事のない感覚に一方通行(アクセラレータ)は思わず(うめ)くように声を漏らした。

真守はそんな一方通行の頭をそっと優しく撫でながら告げる。

 

「私の能力はお前の能力に例えれば、新たなベクトルを生成する事だ。だからお前のベクトル操作の定義を崩す形で私がベクトルを入力すれば、お前の定義を(くつがえ)す事ができる」

 

朝槻真守と一方通行は言ってしまえば、どちらもベクトルを操る能力者だ。

 

正確に言うと流動源力(ギアホイール)はベクトル生成であり、生成したそのベクトルを既存のベクトルにぶつける事で、()()()()全てのベクトルを操作する。

 

対して一方通行(アクセラレータ)は自分の肌に触れた全てのベクトルを()()操作する。

 

そんな両者が衝突した場合、既存のベクトルに新たなベクトルを入力する朝槻真守に軍配が上がるが、真守が一方通行を圧倒できる()()()()()()

 

真守が生成したベクトルを一方通行が空間にある既存のベクトルとして『定義』してしまえば、一方通行も真守の攻撃を操れるからだ。

 

つまり流動源力(ギアホイール)による先制攻撃は一方通行(アクセラレータ)に効かないことになるが、一方通行は真守に決定的な一撃を加える事ができない。

 

一方通行の攻撃は物理攻撃であり、真守に物理攻撃は効かないからだ。

それに真守が一方通行の定義を壊すようにベクトル生成を行えば、その一撃を無効化して逆に操る事もできる。

 

この力関係はじゃんけんをしたら五分五分の勝率だが、後出しじゃんけんならば真守だけが必ず勝てるという寸法だ。

 

この少女は自分が定義する外側にいるのだと、一方通行(アクセラレータ)は真守が触れてきた事によって理解した。

そして原理が全く異なりながらも同種の力を持つ真守だからこそ、自分の気持ちを察する事ができて、昨日の夜に真守が自分の触れてほしくない部分に踏み込めたのはそういう理由だったのだと一方通行は理解した。

 

「絶対的な力。それがあればなんだってできる。そう思ったんだよな。でもお前は私と違って、人を傷つけるために力を求めたんじゃないって分かってる」

 

真守は一方通行(アクセラレータ)が自分たちの関係を明確に理解したと知りながら本題に移ると、その言葉に一方通行は目を細めた。

 

この能力はいつか世界そのものを滅ぼしてしまうだろう。

本当に全てを滅ぼす力をこの能力は持っている。

力が争いを生むのならば、戦う気も起きなくなるような絶対的な存在になればいい。

そうすれば、自分も朝槻真守のいる世界へ行けると思った。

だが朝槻真守も世界を壊す力を持っていた。

 

両者の道が分かたれたのは何故なのか。

 

「私を導いてくれた人がいたんだ」

 

一方通行(アクセラレータ)が疑問に思っていると真守が口を開いた。

自分を導いてくれた源白深城。

戦いになるからと少し遠くで待ってもらっているあの心優しき少女を思い出しながら、真守は穏やかに微笑んだ。

 

「あの子は身も心も清らかで、優しくて。太陽のように輝いていて、いつだって楽しそうで、全力で。あの子がいたから私はこうやって生きていられるんだ」

 

一方通行(アクセラレータ)は真守の言葉に絶望した。

朝槻真守には自分に寄り添ってくれる存在がいて、自分にはいなかった。

選ばれた者と、選ばれなかった者。

良い未来と悪い未来に分かたれたのはたった一人の特別な存在の差だと、一方通行は心の底から理解した。

 

「大丈夫だ。私がお前を導いてあげる」

 

真守から伸ばされた救いの言葉に、一方通行は呆然と微笑む真守を見上げた。

その微笑みは月の光のように柔らかく、闇を照らすような温かさを持っていた。

 

「確かに私はあの子のように身も心も清らかじゃない。あの子の光を受けて私は輝いているだけ。所詮、私は太陽に照らされていないと夜空で輝けない月のようなモノだ」

 

真守の言葉に一方通行(アクセラレータ)は夜空に浮かぶ三日月を見上げた。

その光は闇の中で淡く光り輝いていた。

真守は月を見上げる一方通行に(うた)うように語りかけた。

 

「でも月が誰かを癒せないことはない。いつだって夜空を照らすのは月なんだ。『闇』を照らすのは、月の役目だ」

 

一方通行(アクセラレータ)は思わず真守へと手を伸ばした。

ずっと欲しかった世界にいる真守に、その世界へ導いてほしかった。

孤独な世界からその世界へと連れ出して欲しくて、必死に手を伸ばした。

 

真守は一方通行の妹達(シスターズ)を殺し続けてきた、人を傷つける事しかできなかったその罪に(まみ)れた手を優しく取った。

 

一方通行の細い手を、真守は小さくてふにふにとした手で優しくぎゅっと握って、一方通行を見つめて微笑んだ。

 

(わたし)が、(おまえ)を照らしてあげる。だから使い潰さなくていい命を使い潰すのはやめよう。絶対的な力なんて、なくたっていい」

 

一方通行(アクセラレータ)はそっと目を伏せる。

 

この少女のようにできると自分には思えない。

この少女はひたむきに、血の滲むような努力をして今の世界を手に入れたのだろう。

絶対的な力を手に入れる方が楽だと考えられるほどにもがき苦しみながらも努力をしたのだろう。

その努力が自分にできる自信がなかった。

それでもこの少女のように頑張れば、自分もその世界に少しでも近づくことができるだろう。

 

「大丈夫。お前は一人じゃないから」

 

真守が柔らかく微笑む姿を見て、一方通行(アクセラレータ)は真守について考える。

一方通行は朝槻真守を知っているが、過去に会った事を真守は覚えていないようだった。

 

あの時、何か話していれば変わったのだろうか。

二人で生きられたのだろうか。

自分も朝槻真守も、間違うことなく進めたのだろうか。

何が良かったか、分からない。

分からないけれど。

 

もう一度会えたことはきっと良い事だと、一方通行は感じていた。

 

生き写しでありながらも、全く違う可能性へと至った二人を、上条当麻は穏やかな笑みで見つめていた。

そして次の瞬間に気絶して、一方通行の手を握る真守を見て固まっていた美琴は上条へと駆け寄り、真守は一方通行の手を握りながら携帯電話を取り出して冥土帰し(ヘブンキャンセラー)へと電話を掛けた。

 

 

──────…………。

 

 

 

一方通行(アクセラレータ)は朝槻真守によって連れて来られたとあるマンモス病院で顔の傷の処置を受けて廊下のソファで座っていた。

 

「鼻の骨、折れてなくてよかったな」

 

そんな一方通行に軽い調子で声をかけてきたのは、もちろん朝槻真守だ。

真守は手に缶コーヒーと医療用のストローボトルを持っていて、一方通行へと近づいてきて缶コーヒーを昨日の夜に何の下心もなくごく自然に差し出す。

 

「銘柄が同じのなかったが良かったか?」

 

一方通行は真守の問いに行動で応えるためにその缶コーヒーをそっと受け取った。

 

「上条の顔面グーパンを二回も顔に食らったヤツはそうそういないんじゃないかな。あいつのアレは一発でも破壊力抜群だし」

 

自分から缶コーヒーを受け取った一方通行(アクセラレータ)の隣に真守は座ると、ストローボトルから経口補水液を飲みながら共通の話題を提供してきた。

 

上条、とは自分に一撃を入れたあの無能力者(レベル0)のことで、真守はその友人らしい。

 

何故、突然真守が計画を止めようと動いたのか疑問に思っていると、真守が一方通行の気持ちを察して説明し始めた。

 

上条当麻と真守が本屋で偶然会って本屋から出ると、上条と一緒にいた妹達(シスターズ)の一体が姿を消していた。

消えた彼女を探していると実験場に辿り着き、その場で死んでいる別の妹達(シスターズ)を見つけて実験が発覚。

実験を止めるために真守は上条当麻と協力して一方通行の前に立ちはだかったのだ。

 

一方通行は初めて知ったが、真守はどうやら消えた八人目の超能力者(レベル5)らしく、計画を止めようと乱入しても逆に計画を進めてしまう可能性があったため、『無能力者が乱入して予測演算に誤差が出た』として計画自体を中止に追い込むことにしたのだと。

真守は直接手を出せないから主体となる無能力者(レベル0)の援護をしており、秘密裏に致命傷から守っていた。

そう真守は一方通行(アクセラレータ)に説明した。

 

「ただ殴られてハイ、終わりじゃ嫌だろ。ちゃんと経緯知っておかないとな」

 

普通、鉄拳制裁をしたら気まずくて話しかけられないはずなのに、真守がこうも軽い様子なのはあの無能力者(レベル0)の少年と共にこれまでも色々な事件に首を突っ込んで止めてきたのだろう。

随分と慣れた様子の真守を見て、一方通行(アクセラレータ)はそう推察できた。

 

「別にお前が私より先に絶対能力者(レベル6)進化(シフト)するのが嫌だったからとかじゃないぞ。絶対的な力なんてなくたって私がそばにいてやる。私のできるコトはなんでもするつもりだぞ」

 

真守が少し怒った調子で告げるので、一方通行は思わずフッと口から呆れたように息を零してしまう。

 

「絶対的な力。確かにそれがあれば無敵だ」

 

真守はストローボトルを手のひらの上で転がしながら呟く。

 

「…………でもそれを手にするためには色々と捨てなくちゃいけないんだ。その中には人として生きることも含まれている」

 

「……?」

 

気落ちした真守の声音に反応して、一方通行は真守をそっと横目で見た。

真守はとても寂しそうな顔をして、その瞳には恐怖の色が濃く出ていた。

 

(人として……大事なモンを失うから、コイツは俺を止めたンだな)

 

絶対的な力を手に入れれば、誰もがひれ伏すだろう。

だがその力を手に入れて人間としての大切な何かを失うという事は、まったく別の存在へと造り替えられてしまう事だ。

まったく別の種類の生命体ならば分かりあうことは難しく、話もろくにできない。

 

(なンで…………)

 

何故そんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。

現状を変えるには絶対的な力しかない。

そんな仲介人の言葉を鵜呑みにして、クローンは人間ではないという言葉も疑うことなく信じて。

クローンを──人間を一万体以上殺した。

 

誰も傷つけたくなくて絶対的な力を欲したのに、その過程で人を傷つけて殺してしまった。

 

「お前はただ周りに(うなが)されて自分のやるべき事をしただけだ」

 

自ら進んでやった罪深いはずの一方通行(アクセラレータ)を、真守は擁護(ようご)するような言葉を呟いた。

 

「それ以外の道がないように追い込まれたようなものだ。……でもそれが罪にならないわけじゃない。やってはいけない事はやってはダメだし、人間として大事なモノを失っている状態が良いワケない」

 

その言葉は朝槻真守が自分自身に言い聞かせているように一方通行(アクセラレータ)は思えた。

これまでの行いを後悔し恥じて、罪だと感じてそれを忘れないように真守は日々を生きているのだと一方通行は察した。

 

「だから私はお前の傍にいる。私は清らかじゃないけれど、寄り添う事はできるよ」

 

寂しそうに微笑む真守はあの頃に出会った少女とは似ても似つかない存在だった。

 

「オマエに…………」

 

「うん?」

 

その事を思い出しながら一方通行(アクセラレータ)が口を開くと、真守は柔らかく微笑んで小首を傾げる。

 

「昔、会ったことがある」

 

だが次の瞬間、一方通行から放たれた言葉を聞いて呆然と目を見開いた。

 

「…………研究所で?」

 

真守の問いかけに、一方通行は薄く頷く。

 

「お前。私のところに連れて来られた情操教育相手の……一人だったのか?」

 

一方通行(アクセラレータ)は真守の所属していた『特異能力解析研究所』に一度も所属したことはない。

だが能力解析のために連れて行かれたことがあったのだ。

数日間滞在している最中にとある少女に会わされた。

 

人間味が欠片も感じられない、身も心も人形のような少女だった。

蒼閃光(そうせんこう)でできた猫耳と尻尾を常に展開している少女で、何かの『実験』をしていると、一方通行(アクセラレータ)は聞かされた。

 

その少女と同じ部屋に押し込まれた一方通行(アクセラレータ)は、その時には既に人間に対して感情を向けないようにしていたので何もしなかった。

自由時間だと言うのにその少女はおもちゃや雑誌に目もくれずに何かを紙に書き殴っていた。

 

一方通行(アクセラレータ)が盗み見ると、それは論文だった。

エネルギーに関する論文だが、それが能力由来だと理解できた。

複雑な数式が書き連ねられており、その数式をエネルギーに入力する事でどんな作用と性質が生まれるかの論文だった。

その少女の頭の中の演算を、数式や言葉に置き換えているのだと一方通行は悟った。

 

演算能力は感覚に頼る人間も多く存在する。

その中で一方通行は演算を全て数値に置き換えることができる。

だがそれを理路整然と並び立てて構築式に換えて方程式として組み上げ、再び演算する際の時間を短縮、演算効率を比較的に上げようとしている少女はやっぱり歪に見えた。

数日間『特異能力解析研究所』にいて、少女と一緒にいた。

その中で自分と彼女は一度も話をしなかった。

ただ酸素を共有しているだけだった。

 

昨日、真守と初めて会った時に超能力者(レベル5)らしく記憶力の良い一方通行(アクセラレータ)が真守を一目見ても気が付く事ができなかったのは能力が競合して動揺してしまったからではなく、記憶の中の少女と似ても似つかなかったからだ。

恐らく真守が能力を解放しなければ、一方通行はきっと一生気が付かなかっただろう。

 

「そうか。ちょっと待て」

 

真守はPDAを取り出して(いじ)る。

 

「この中に、お前の名前は入っているか?」

 

それは朝槻真守に情操教育相手としてあてがわれた少年少女たちのリストだった。

 

「………………あ、」

 

見つけた。長らく使われていなかった名前だったが、字面を見て一方通行は思い出した。

一方通行が向けた視線の先にあった名前を見て、真守は微笑んだ。

 

「お前の名前、良い名前だな」

 

真守が笑顔で告げるので、一方通行はそうなのだろうかと考えた。

朝槻真守が言うのだからそうなのだろう。

自分の事を信じてくれる彼女が言うのだから、きっとそうなのだ。

 

「お前は何て呼ばれたい?」

 

一方通行(アクセラレータ)

 

「そうか。それはちょっと残念だ。でもお前に会ったら、私は心の中でそう呼ぶよ」

 

真守の笑みに一方通行は視線を缶コーヒーに落とした。

 

数年前は酸素を共有しているだけだった。

 

だが今この時は穏やかな空気を共有していたことが一方通行には分かった。

 

真守も分かっていて、数年前には共有できなかった雰囲気に柔らかく微笑んでいた。

 

 

そんな様子を不穏な目つきで(うかが)う存在がそばにいたことに、真守は最後まで気が付かなかった。

 




真守ちゃん、垣根くんよりも先に一方通行と前に会っていたというお話でした。
上条くんと食蜂さん、それに美琴ちゃんの関係みたいなものです。

それとこの話と同時で一方通行についての考察も活動報告にて載せさせていただきました。
よければご覧ください。
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