とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第三七話、投稿します。
次は九月一五日水曜日です。


第三七話:〈行先不安〉で一筋の光

「成程な。絶対能力者(レベル6)が縦に突き抜けてんなら俺は横に広がりを見せてんのか」

 

垣根は真守から受け取った『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』の概要にある超能力者(レベル5)のこれからの成長の方向性の予測について記載された部分を自前の端末で読みながら呟いた。

 

垣根帝督の未元物質(ダークマター)、その『無限の創造性』とは群体となることで初めて完成する。

そのため個として完成している絶対能力者(レベル6)と同じ性能を垣根帝督は手にする事ができるが、垣根帝督の存在は絶対能力者(レベル6)という完成された個体を追い求める研究者にとっては望むべきものではなく、研究者たちは絶対能力者(レベル6)が生まれなかったときの()()()くらいにしか恐らく考えていないのだろう。

 

「つーか超能力者(レベル5)の成長方向ってバラバラなんだな。初めて知った。絶対能力者(レベル6)進化(シフト)させるとなると超電磁砲(レールガン)は体が耐えられねえ。原子崩し(メルトダウナー)は生存本能によってセーブされちまって、その生存本能をぶち壊して絶対能力者(レベル6)にしようとすると廃人確定。精神掌握(メンタルアウト)は人体に干渉する域から出られず人体の真理しか知ることができないから絶対能力者(レベル6)と言えない……ってところか?」

 

超能力者(レベル5)の方向性をそう簡潔に述べた垣根は真守と一方通行(アクセラレータ)のデータを見る。

 

「……で。お前と一方通行(アクセラレータ)は方向性が異なるが、二人共万物を完全なる個として掌握できる域に達する。要は神みたいなもんだ。だから絶対能力者(レベル6)に分類される。そういうことだな?」

 

「……うん。そうみたいだ」

 

真守は垣根の問いかけに頷きながら瓶に入ったチーズケーキを躊躇(ためら)いがちにスプーンですくい、それを意気消沈したまま口に運ぶ。

 

真守が食べているチーズケーキは一個一〇〇〇円もする高級チーズケーキで、垣根が真守に食べてもらいたくて事前に準備していたものだった。

カブトムシを連れて垣根の下にトボトボやってきた真守は顔が真っ青であからさまに気落ちしており、垣根が落ち着かせるために真守に与えたのだ。

 

「ふざけんじゃねえよ」

 

そんな真守の前で垣根は怒りを明確にして吐き捨てるように呟いた。

垣根の高い干渉能力によって空間がヂヂィッと鳴り、部屋の至る所にいたカブトムシたちのヘーゼルグリーンの瞳が垣根の怒りに呼応するように一斉に赤く染まった。

 

「勝手に絶対能力者(レベル6)って枠組み決めて、俺がその枠組みに綺麗に(はま)ってないからってコケにしやがって。関係者全員ぶち殺してやろうか、ああ?」

 

「……そしたら学園都市丸ごと消失することになると思う。絶対能力者(レベル6)は学園都市の悲願だし」

 

真守は体を縮こませてはいるが、垣根の殺意に対してはまったく反応しておらず、ぽそぽそと呟くとスプーンの腹の背をカプッと小さい口で噛んだ。

 

真守が絶対能力者(レベル6)になる可能性があり、その事について話すにはまず情報が必要だとして、真守から『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』の概要を貰ったが、自分を落第品呼ばわりされてつい頭に血が上ってしまった。

自分のことをコケにした研究者たちに殺意を向けていてはいつまで経っても本題に入れないので、垣根は一息ついて無理やり怒りを鎮めてから真守に問いかけた。

 

「……で、お前は絶対能力者(レベル6)に手をかけた事があるんだな?」

 

真守はスプーンを噛むのをやめて垣根の問いかけにぽそぽそと俯いて呟く。

 

「………………うん。五年前に深城が傷つけられて怒った時に……全部壊そうとして手をかけたら深城に止められた」

 

「自分が自分じゃなくなると気づいて怖くなったのか?」

 

昨日の夜の真守の行動を全て見ていた垣根は、真守の恐怖の正体をそうやって看破(かんぱ)して重ねて問いかけた。

 

「…………怖いよ」

 

真守は顔を歪ませて、瞳を涙で潤ませながらそこで垣根を見上げた。

本当に心の底から真守が恐怖している姿を見て、垣根は胸が苦しくなる。

そんな垣根に、真守は必死に(すが)りつくように呟く。

 

「別のものに組み替えられていくんだ。私の人としての大切なものが壊れてしまって、すべて組み替えられた後、私がどうなるか分からない。深城も、垣根も。……他の人たちのことも、どうでもよくなったら怖いよ。そんな事になりたくない」

 

周りの人間の事を思いやれる人としての気持ちを失うのが真守は怖い。

人の幸せを考えて全てを壊す事をしてはならないと自分を戒めているのに、人の事を考えられなくなったらその幸せを奪ってしまうかもしれない。

絶対能力者(レベル6)になって手に入れた強大で理不尽な力で無慈悲に無感動に、人々を蹂躙(じゅうりん)してしまうのを真守は恐怖しているのだ。

 

絶対能力者(レベル6)になったらそこに人としての朝槻真守はそこに存在しない。

 

(上層部は真守の事を逐一監視してやがる。だったら真守が自力で絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)できるのももちろん知っているはずだ。だが上層部は真守をコントロールできない。だから現状は静観している。……それでも真守が隙を見せれば上層部はその隙に付け込んでくる。結果、真守は絶対能力者(レベル6)に強制的に進化(シフト)させられちまう)

 

研究者たちは『神さまの頭脳』に『神さまの体』を手に入れ、世界の真理を解き明かそうとしか考えていない。

絶対能力者(レベル6)にされて人間としての生き方を奪われる真守の気持ちなんか、学園都市は考えない。

いつだって奪われて苦しむのは奪われる側の人間だ。

いくら力を持っていたとしても奪われる時は奪われる。

その奪う機会を、上層部は虎視眈々と狙っている。

 

「一人で戦うな」

 

一人で懸命に学園都市に抗い続ける真守を想って、垣根は真守に告げる。

 

「お前のことを助けるって俺は言った。だから俺を頼れ」

 

垣根が以前に決意した言葉を吐くと真守が瞳を不安そうに揺らしながら呟いた。

 

 

「……私が私じゃなくなったら、垣根はどうする?」

 

 

「あ?」

 

真守の問いかけの意味が分からずに垣根は怪訝な声を上げる。

真守は自力で絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)できるが、真守にはその気がない。

だから七年間の特別な時間割り(カリキュラム)を組まれないように学園都市に隙を見せずに徹底抗戦していけば大丈夫なはずだ。

自分には『無限の創造性』があるし、真守も一方通行(アクセラレータ)の絶対防御を崩す事ができる最強の超能力者(レベル5)だ。

二人で徹底抗戦すれば学園都市だって敵じゃない。

それなのに真守は何をそんなに恐れているのだろうか、と垣根は至極真っ当な疑問を持った。

 

能力の特性上、全ての物事が見えている真守は物事の真理というものを告げた。

 

「人は始まった時から少しずつ終わりへと向かってる。それが決まってる。その過程で少しずつ成長するのが人間だ。……誰も、その流れには逆らえない」

 

垣根は真守だからこそ分かる万物流転の仕組みに息を呑んだ。

 

 

「だから私はいつか私ではなくなる。私は望まなくても絶対能力者(レベル6)になる。そうなる未来が決まってるんだ」

 

 

真守はグッと息を呑んでから垣根をじっと見据えて、もう一度垣根に問いかける。

 

「私が私じゃなくなったら、垣根はどうする?」

 

朝槻真守には全ての可能性が見えている。

それは()()()()()()()すら見えているという事だ。

自分で変えることができない強大な流れならば、どれだけ嫌がってもそちらに流れていくのは必然だ。

 

どうしたって、何をしたとしても真守は自分が絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)するのを避ける事ができないと分かっている。

 

そんな最悪の結末に辿り着く事が分かっている真守は、蟻地獄に落ちて終わりが目に見える形で迫ってきている虫のような境遇であり、それは深い絶望を真守に与えてた。

 

確かに人間もゆっくり死へと向かっており、蟻地獄に落ちているようなものだ。

だが人間は蟻地獄に落ちているという感覚がない。

それはリアルに人として終わる事を感じたことがないからだ。

だが真守は既に絶対能力者(レベル6)へと手をかけており、自分が組み変わってしまう恐怖を知っている。

 

学園都市は真守が放っておいても絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)すると知っており、だからこそ真守に七年間の特別な時間割り(カリキュラム)を無理やり施そうとせずにただ監視しているだけなのだと、垣根は悟った。

 

呆然とする垣根の前で真守はぽそぽそと呟く。

 

「…………もしかしたら私は私のままでいられるかもしれない。でも怖いよ。怖くて怖くてたまらない。能力の可能性が広がるのはとてもいいと思う。でも知らないうちに知らない方向へ向かって制御領域の拡大(クリアランス)の取得をしていったらどうなるか分からない。……怖いよ。まさかこんな形でもう一度自分が絶対能力者(レベル6)進化(シフト)するんだって自覚させられるなんて思わなかった」

 

垣根はぎり、と奥歯を噛み締める。

 

真守の流動源力(ギアホイール)の特性である可能性の提示は素晴らしい可能性ばかりを提示するわけではなかった。

同じように悪い可能性も見えているのだ。

ただ単に真守がそれを周りに伝えないだけで、真守はいつだってその悪い可能性を知っているのだ。

それなのにひたむきに人の事をずっと想ってきた。

絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)したくないのも人の事を想えなくなるからだ。

他者の幸せを奪うような事をして、絶対に傷つけたくないからだ。

絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)した真守は人とは明確に違う生き物で。

真守の事を理解してくれる人間はどこにもいない。

真守がどんなに人の事を想おうとも、真守は孤独でしかない。

何もかも一人で背負わなければならず、誰の力も借りられない。

 

 

自分はそれが嫌だったから真守の助けになると決断したのではなかったのか。

 

 

それならばやる事はやっぱり決まっていた。

 

「真守」

 

垣根は真守のその柔らかくて小さい手をそっと握る。

真守が不安そうに瞳を揺らす。そんな真守を垣根はじっと見つめていた。

 

 

「お前がどんなになってもそばにいてやる」

 

 

真守は垣根を見つめながら目を見開いた。

 

そしてすぐに目を細めてぼろっと涙を零した。

 

ぽろぽろと音もなく美しい姿で泣く真守を見つめて、垣根は胸が苦しくなって真守の手を握る手に少し力が入る。

 

不安で仕方なくて身動きが取れなくなるはずなのに、それでも最後の瞬間まで絶望せずに懸命に生きようとする真守に、垣根は優しく自分の思いを告げる。

 

「お前が嫌がっても一緒にいてやる。それでお前に殺されることになっても、俺は最後までずっとお前のそばにいる」

 

「……私、かきねのこと、殺したくない……………………」

 

真守がふるふると力なく首を横に振ると、垣根は真守を安心させるために微笑む。

 

「だったら絶対に死なないで一緒にいてやる。お前が教えてくれた『無限の創造性』ってのはそんなにヤワじゃねえ。分かってんだろ?」

 

真守はぽろぽろと真珠のような大粒の涙を零しながら一つ頷き、それを皮切りに何度も頷いて、真守は垣根が優しく握ってくれている手と反対のスプーンを握っている手でごしごしと目をこすって涙を(ぬぐ)う。

 

それでもやっぱり垣根の言葉が嬉しくて。

大粒の嬉し涙が後から後から零れてしまって。

真守がその涙を拭おうと強く目をこすると、そんな真守を見ていた垣根はその手を優しくどけて丁寧に(ぬぐ)ってやった。

 

真守は何があっても真守だが、いつか彼女は遠くに行ってしまうだろう。

遠くに行ってしまっても、絶対に離さない。

自分に大切なものをたくさんくれた少女を、垣根帝督は人とは少し違う存在になったくらいで離したくなんてなかった。

 

「……垣根。ずっとそばにいてくれるって言ってくれて、ありがとう」

 

垣根が真守の涙を(ぬぐ)い終わると真守は目を赤くしたままふにゃっと笑った。

 

「やっぱり垣根は優しい」

 

真守は涙を拭った後も頬に添えてもらっている垣根の手を感じながら、心の底から幸せを感じて微笑んだ。

その幸せそうな真守の表情に安堵を覚えた垣根は、長い前髪の向こうに潜む黒曜石の瞳を薄く細めた。

 

「……お前が相手だから優しくなれるだけだ」

 

「そう。特別で嬉しいな」

 

真守はとろけるような笑みを浮かべながら垣根の手に頬を摺り寄せる。

垣根はそんな真守をじっと見つめており、真守の気が済むまで真守の頬に手を添えていた。

 

源白深城以外、自分を見てくれる人はいなかった。

誰も彼もが自分を化け物として、利用できる実験材料だと思っていて。

誰も朝槻真守の人間としての本質を見てくれる人はいなかった。

 

垣根帝督は源白深城のように何があっても一緒にいてくれると言ってくれた。

 

それが本当に嬉しくて。

 

「垣根。ずぅっと一緒にいてね。絶対、絶対だぞ」

 

真守が強く強調すると、垣根はしっかりと頷いてくれた。

 

 

この瞬間。

朝槻真守にとって垣根帝督は何物にも代えがたい二人目の『特別』となった。

 




垣根くんの二度目の決意。ターニングポイントでした。

それにしても色々とすっ飛ばしている垣根くん。
それを気にしない真守ちゃん。
最早恋愛の枠組みに収まってない。

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