とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第三九話、投稿します。
※次は九月一八日土曜日です。


第三九話:〈事態終結〉して細々と

絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』を止めた二日後。

真守は冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の下にやってきて端末を見つめていた。

 

「『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』の概要でも懸念されていたが、やはり培養液の中で投与された薬品が妹達(シスターズ)の余命を一、二年にまで縮めていたか。対応はどうするんだ?」

 

「急速な成長を促すホルモンのバランスを整えて細胞核の分裂速度を調整すると、ある程度の寿命が回復できるね?」

 

真守の問いかけに冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が軽く答えるが、真守は妹達の個体データを羅列しながら問題点を指摘した。

 

「一万体弱を一人ずつ的確に処置するのは大変では?」

 

「学園都市の外の協力機関に要請をし、各機関に振り分けして調整していく方針を考えているよ?」

 

真守は冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の方針に眉を顰める。

学園都市の計画が失敗して助かった大量のクローンを外に出すという事は、学園都市が失態を世界に公表するようなものだ。

学園都市の失態は真守にとってどうでもいいのだが、問題は妹達(シスターズ)がどのような目で見られるかである。

 

「……まあ、協力機関ならギリギリ大丈夫だろう。ここでも預かるのか?」

 

「うん。何人か残ってもらう予定だね?」

 

「──あの、少しよろしいですか。とミサカは問いかけます」

 

真守と冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が話をしていると扉の外から声が聞こえてきた。

 

「どうぞ?」

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が促すと入ってきたのは事前に申告まがいのことをしていたミサカだった。

 

「あなたに訊ねたいことがあって来ました、とミサカは先に明言しておきます」

 

「何が聞きたい?」

 

真守はミサカに指名されて端末を冥土帰し(ヘブンキャンセラー)に返しながら柔らかく微笑む。

真守にギリギリ分かる程度に意を決して、ミサカは無表情のまま口を開いた。

 

「あの少年は死亡したミサカ一〇〇三一号とこのミサカ、一〇〇三二号と接点がありました。お姉さまはDNAマップを提供した本人です。何故ミサカ個人にも実験にも関係ないあなたはミサカを救おうと動いたのですか?」

 

真守はその返答にちょっと困った。

真守が『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』に実は組み込まれていたと言ってもミサカを困惑させるだけだろうし、一方通行(アクセラレータ)を助けたいとか妹達(シスターズ)の命を守りたいとか色々事情があったのだ。

 

どこから説明すればいいか分からないから、とにかく真守はあの時ずっと思っていた気持ちをミサカに伝えた。

 

「気に入らなかったんだ」

 

「気に入らなかった?」

 

ミサカは真守の気持ちが理解しがたいものなのでオウム返しをして、そして表情は変わらないが驚いた様子だった。

真守はそんなミサカの反応を見てからそっと目を伏せ、自分の掌を見つめてぎゅっと拳を作ってから、真守が『実験』を止めた様々な理由の中から妹達(シスターズ)の命を守りたかったから、という理由をミサカにゆっくり(さと)すように説明する。

 

「そう。気に入らない。全ての命は平等なハズなのに、使い潰して良い命と使い潰したらマズい命に分けるのが気に入らない。妹達(シスターズ)の命は使い潰すための命なんだと勝手に決めつけて、お前たちをモルモットに(おとし)めたヤツらが私は大嫌いだ」

 

「あなたも個人的な感情でミサカたちを助けたと言うのですか、とミサカはあの少年やお姉さま(オリジナル)と同じ気持ちだったのかとあなたに問いかけます」

 

ミサカは予想外の真守のエゴ的な発言に、瞳を揺らす。そんなミサカを見て真守は微笑んだ。

 

「そうだぞ。生まれたてのお前たちにはまだ分からないだろうが、人間はエゴで動くんだ」

 

真守の言う通り、人間はエゴでできている。

それは自分を存続させたいという生存本能からくるものだ。

誰も彼もが自分のエゴに基づいて動くだけで、結果的にそれが誰かを救うだけなのだ。

だが彼女たちはそれが理解できないだろう。

学習装置(テスタメント)の刷り込みしか知らない生まれたばかりで無垢な彼女たちは、真守が知る人間の本質であるエゴというものが分からない。

だからこそ真守は軽やかに告げる。

 

「上条はお前を一人の女の子として助けたかった。美琴はDNAマップを利用されたから実験を止めたかった。私はただ気に入らなかった。……個人の気持ちなんてそんなもんだ。誰だって自分勝手なんだ」

 

「自分勝手……それが、人間とでも言うのですか?」

 

「そうだ。そしてお前たちも自分勝手になっていいんだ。だって同じ人間なんだから」

 

ミサカはそれを聞いて熟考してから一つ頷いた。

 

「ミサカたちは殺されるために造り出されました。ただそれのみが存在意義であり、生み出された理由でした。それがなくなった今、ミサカたちは自分勝手に生きていいと。そう言っているのですか?」

 

「自分勝手、という言葉は少し言い方が悪いな。なんでもやっていいワケではないし、人間として生きていくために必要な最低限の秩序とかいうヤツは守らなければならない。それだけ頭に入れて、お前たちは行きたいところに行って帰りたいところに帰ればいい。そうやってお前たちは穏やかにゆっくり過ごして生きればいいんだ」

 

「穏やかに……」

 

真守の言い分に引っかかるところがあったのか、ミサカは呟いた後に真守へと問いかけた。

 

「穏やかに生きるとはどういったものでしょうか、とミサカは問います。ミサカは実験のために存在していましたから他の生き方を知りません。ですから穏やかな生き方がどういったものなのか、あなたに提示してもらいたいです、とミサカはお願いします」

 

「……そうだな。お前は何か好きなことがあるか?」

 

「好きなこと?」

 

真守はそのお願いを聞いて少し考えてからミサカに問いかけるとミサカはオウム返しした。

 

「簡単に言えば好きな食べ物とか。飲み物とか。そういう好みとか、これまでお前たちが経験した中で印象的だったことはあるか?」

 

ミサカは真守の問いかけに考える。

これまで妹達(シスターズ)にとって印象的だった記憶をミサカネットワークで検索をかけ、ゆっくりと精査してからミサカは口を開いた。

 

「……ミルクティー。外に初めて出た時の世界の美しさ。お姉さまと一緒に食べたアイス、苺ショートケーキ。それとお姉さまからもらった缶バッジです」

 

真守はミサカの印象的だったミサカの『すきなこと』を聞いて微笑んだ。

理路整然と思考を組まれた彼女たちにも、やっぱり人間らしさはある。

人間として生まれたのだから、どう教えられようと人間として生きられるのだ。

『人間』という枠組みにいることができれば、人間として生きていける。

 

真守はそこまで考えて、やっぱり自分が人から外れるのが怖くなった。

ぎゅっと手に力を込めてから真守はミサカに笑いかけた。

 

「そういう好きなものだけを日常に詰め込んで生きるって事が、穏やかに生きるってことだ。大丈夫だ。お前たちはこれからそんな人生を過ごせばいい。私はお前たちの命が使い潰されないように見守っているから」

 

「あなたは穏やかに生きていられていますか?」

 

ミサカの問いかけに真守は少し目を見開いた。

その問いかけのために真守は自分がこれまで進んできた道、これから避けては通れない道について考えて、素直に自分の心境を吐露した。

 

「……私の置かれている状況はお前たちより複雑だから穏やかとは言えないな。でも私は好きなものに囲まれて生きているよ。守りたいもの。大切なもの。かけがえのない人とか思い出とかものとか。私がこれまで得てきてかけがえのないものたち全てが宝物だ。そこにはもちろんお前たちだって入っている」

 

真守が優しく微笑むとやはりミサカは無表情だが、戸惑った様子だった。

自分にとってかけがえのないもの。──人々。

自分が命を賭けて守り抜きたい少女、源白深城。

深城を目覚めさせられなければ殺すと脅したのに、脅した真守の事も患者として診てくれて、親身になって治療してくれている冥土帰し(ヘブンキャンセラー)

病院でお世話になった人たち。

初めて学校に通ってできたクラスメイトや友達。

 

そして何があってもそばにいてくれると約束してくれた垣根帝督。

 

「かけがえのないものがあるから私は苦しくても頑張れる。穏やかじゃなくても生きていける。お前たちはまず体を調整し、体調を万全にしてからかけがえのないものを見つけるんだ。そしてゆっくり穏やかに暮らしていけばいい」

 

真守が微笑んで告げると、ミサカはそこで綺麗に頭を下げた。

 

「ありがとうございます。参考になりました、とミサカは妹達(シスターズ)全体からの感謝を代表してあなたに伝えます」

 

「お前たちは私が示した生き方に(じゅん)じなくてもいい。これを参考にして生きたいように生きるんだ」

 

「はい。では失礼します、とミサカは頭を下げながら退出します」

 

ミサカは真守の優しさにそっと瞳を細めてからそう告げて部屋から出ていった。

 

「キミは僕の患者だ。一人でなんでも背負わなくていいんだね?」

 

真守がミサカが出ていった扉を見つめていると、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が真守をまっすぐ見つめたまま微笑んだ。

自分の重荷を冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が一緒に背負ってくれようとしているだけで真守は幸せで、その幸せを噛み締めながら真守は冥土帰しに向けて微笑んだ。

 

「ありがとう、先生」

 

「そこに付けこんで悪いんだけど、そろそろ普段の食事のメニューを変えるのはどうかな?」

 

「う。………………分かった。ちょっと変える……」

 

ダメもとで言ったのに真守が了承したので冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は少しだけ目を見開いた後、真守が少しずつ前進している事が微笑ましくて嬉しそうに目を細めた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「上条、具合はどうだ? ……って、お前退院するのか?」

 

真守が冥土帰し(ヘブンキャンセラー)との話が終わって病院の廊下を歩いていると、松葉杖を突いて入院着から普段着に着替えた上条が前を歩いていた。

 

「入院費がバカにならないからさー。インデックスも腹ペコで噛みついてくるし……」

 

「……何度かあの子がご飯食べたいって私の下に来たが、お前はやっぱり噛みつかれてたのか…………」

 

真守は遠い目をしたまま上条当麻に哀れみの目を向けて呟く。

 

「で? 歩いているようだが具合の方はどうなんだ?」

 

「今回は全身打撲と全身筋肉痛だけだからな。そこまでじゃねえよ」

 

「それは常人だったら重傷で、私はお前の基準が日々おかしくなっていくのが心配なんだが」

 

真守が白い目を向けていると上条は躊躇いがちにも問いかけてきた。

 

「……なあ、朝槻。一方通行(アクセラレータ)はどうした?」

 

真守は薄く目を開いてから一方通行(アクセラレータ)を想って微笑んだ。

 

「……あの子も妹達(シスターズ)と一緒で、周りからミサカたちがモルモットだって教え込まれて実験してたからな。妹達が人間だって言われて罪の意識に(さいな)まれているが、私があの子に寄り添う。一人で悩ませない。……でも、ちょっと器の小さい男がいてな。ソイツが機嫌を損ねるから色々と面倒なんだが、絶対にあの子を一人にはしないよ」

 

「? なんかよく分かんねえけど、お前も大変なんだな。頑張れよ」

 

真守が目を泳がせて垣根のことを思い出していると上条は首を傾げながらも真守を元気づけてくれた。

 

「うん。お前も気を付けて帰れよ」

 

「ああ、じゃあな」

 

松葉杖を慣れた様子で突いて歩き出す上条に、怪我に慣れられても困る、と思いながらも真守はぼそっと呟く。

 

「私の課題ちゃんとやれよ」

 

真守の言葉にピタッと止まって上条はギギギーっと首を動かして振り向き、真守を見つめた。

 

「……あの、入院してたので免除とか」

 

「ダメ」

 

「スパルタ教育ぅー!!」

 

上条は叫びながら松葉杖を先程よりも早く突いて去っていく。

 

(あれだけ元気なら大丈夫そうだな)

 

「──朝槻さん!」

 

クスクスと笑っていると唐突に名前を呼ばれたので、真守は振り返った。

 

「美琴、どうした?」

 

振り返るとそこにはやけに気合の入った美琴がいて、真守は怪訝に思って小首を傾げた。

 

「その……朝槻さん忙しそうでお礼渡せてなかったから……これ!」

 

美琴は手に持っていた紙袋の内、一つを真守に差し出した。

 

「……ありがとう。開けてもいいか?」

 

真守が美琴に断りを入れてから紙袋を開けるとラッピングされた小さなカゴの中に数種類のクッキーが入っていた。

 

「その……あ、あのバカがクッキーは手作りが良いとか言うから! 渡せなかった朝槻さんへのお礼も一緒に作ったんだけど……あ、ついでとかじゃないのよ!? あのバカが無理にねだってくるから仕方なく……」

 

「嬉しい」

 

しどろもどろで言い訳をする美琴を見ずに、真守は紙袋の中に入ったクッキーを見つめながら微笑して明るい声を出した。

いつもよりも明らかにテンションが上がっている真守を見て美琴は思わず固まってしまった。

 

「私、誰かに手作りのお菓子貰ったの初めてだ。だからとっても嬉しい。ありがとう、美琴」

 

真守が周囲に花を咲かせるような幸せそうな笑みを浮かべたので、美琴はそれを見て決意した。

 

(これから何かあったら朝槻さんにお菓子作ってあげよう。仕方ないからあのバカにもおすそ分けしてあげよう。そう、仕方なく!)

 

「あ。そういえばついさっき上条は退院したぞ」

 

美琴が心の裡でそう決意しているのを知らずに、真守は上条が去って行ってもういない方を見つめながら美琴にその事実を伝えた。

 

「え!? なんであのバカあの傷で退院したのよ!?」

 

「入院費がかさむから。苦学生には厳しいもんな」

 

真守が苦学生の事情を伝えると、美琴は顔をしかめっ面にして呟く。

 

「……それならそうと言ってくれれば、お礼で入院費くらい出したのに……」

 

「そこまであいつも甘えられないだろ。それに年下に養われるって結構こたえるぞ?」

 

真守が拗ねた美琴を見てくすくすと笑っていると美琴はそれもそうか、と納得するように頷いた。

 

「でもさっき出たからすぐに追いつけると思うぞ。まあ、どうせ上条の学生寮知ってると思うがな」

 

「べっ! 別にあのバカの学生寮知ってようが知らなくても追いつけるわよ!?」

 

美琴が顔を真っ赤にしながら叫ぶので、真守はくすくすと笑った。

 

「そうか。じゃあさっさと行け」

 

美琴は楽しそうな真守を見つめながら唸るが、こほん、と咳ばらいをして姿勢を正した。

 

「朝槻さん、本当にありがとう。助かったわ」

 

「うん。また困ったことがあったら言えよ、美琴」

 

「…………ありがとう」

 

真守は美琴に手を上げて挨拶してから美琴から貰ったクッキーが入った袋を大事に抱え直して微笑むと、隣に浮かんでいた深城が声を掛けてきた。

 

『真守ちゃん、手作りのクッキー嬉しいねえ』

 

「うん。早く食べたいから病室行こう」

 

真守が嬉しそうにはにかみながら告げると、深城も笑顔で頷いて二人は病室へと向かう。

 

『真守』

 

真守が病室の扉を開けると、ぶーんと白いカブトムシが飛んできた。

 

「垣根。帝兵さんこっちに寄越したのか?」

 

『ああ。ここに連絡用として一体置いてく。何かあったら言え。……つーかそのあだ名、定着しちまったのか…………』

 

『えー! カブトムシさんから声がするー!!』

 

真守の問いかけに答えた垣根が最後にぼやいていると、深城が真守の右肩にしがみついたカブトムシを興味深そうに見つめながら声を上げた。

 

「あ。そうか、深城には分かるのか。これ垣根。垣根が喋ってる」

 

『えーっそぉなの!? ていへいさん? で、垣根さんとお話しできるの!?』

 

『……源白深城がそこにいるのか?』

 

真守が虚空へと話しかけたので、垣根は真守にしか見えていないAIM思念体の源白深城を即座に思い出して、真守に訊ねる。

 

『そぉなの! 初めまして垣根さん! うわー真守ちゃん以外の人とお話するの久しぶり!』

 

「深城がはじめましてだって。垣根と話ができてすっごく喜んでる」

 

『……そうか。生身の人間が認識できないだけでデータとかに通せば源白深城は人間を認識できるんだっけな』

 

真守が間に入って垣根に深城の言葉を伝えていると、深城がおーっと声を上げて感心する。

 

『そぉなんだよ! 垣根さんよく知ってるねえ! えらいえらい! 良い子さんだぁ!』

 

「深城、良く知ってるね、イイコイイコって垣根のこと褒めてる」

 

『イイコって……ああ、そうか。上から目線で普通にムカついたが、そういえば源白深城は一八歳で俺より年上だったな』

 

『ねえねえ垣根さん! 聞きたいことがあったの!』

 

本体の成長が停まってはいるとは言え、深城は一八歳で自分より年上だった事を垣根が思い出していると、深城がやけに騒ぎ立てた。

 

「深城が垣根に聞きたいことがあるって」

 

『なんだ?』

 

 

『垣根さんは真守ちゃんのどこが好きになったのぉ?』

 

 

「は!?」

 

興味津々で目をきらきらと輝かせる深城の質問に真守は思わず声を上げた。

 

『ねえ真守ちゃん! 垣根さんに聞いてー? だってずぅっと一緒にいてくれるんでしょぉ? 真守ちゃんから片時も離れたくないんでしょぉーねえ聞いて!』

 

「ちょっ……ばっお前っ! 私がそれを直接聞かなければならない事に関してお前はどう思う!?」

 

カブトムシの向こうで慌てふためく真守に首を傾げている垣根の前で、真守は頬を赤く染めて深城に詰め寄る。

 

『愛されてる証拠が聞けるからいいじゃない!』

 

「あぃ……っ!?」

 

真守は深城の爆弾発言によってかぁーっと顔を真っ赤にした。

 

「うー…………っ深城のバカ! ばかばかばかばか……っ!」

 

『あはは。真守ちゃん真っ赤になってくぅあわいいー!』

 

真守が顔を真っ赤にして触れられないのに深城へと手を伸ばすと、深城は嬉しそうに笑って宙を泳いで逃げ回る。

 

『……真守、大丈夫か……?』

 

「大丈夫じゃない! 深城がっ! 深城がバカなこと言うからっ!」

 

垣根に深城は見えないのに、真守は思わず深城を指さして叫ぶ。

 

『……そのバカなことってのはもしかして色恋の話か?』

 

カブトムシ越しの垣根の問いかけに真守はピシッと固まった。

真守はふるふると小さく震えた後、羞恥心で瞳を潤ませて呟く。

 

「…………………………そうだから、きかないで…………」

 

『………………おう』

 

源白深城にからかわれているのは分かるが、どんな風にからかわれているのか分からないので下手なことが言えない垣根は返事だけした。

 

『えー何々真守ちゃーんっ。垣根さんに色恋の話をしてるってバレちゃった~?』

 

真守は顔を真っ赤にして涙目になったまま、ニマニマ笑って上から覗き込んでくる深城を見上げた。

 

「………………………………いじめないで、みしろ」

 

『ぐはっ!!』

 

真守が今にも泣きそうな声で深城を見上げて懇願すると、深城は胸を銃で穿たれたように胸を抑えた後、空気に解けるように消えていった。

 

「……………………悪は、去った」

 

『…………そうか』

 

スン、と鼻を鳴らして深城を撃退した事を垣根に報告すると、垣根は『スクール』のアジトの一室で真守にカブトムシ越しにそう伝えた。

垣根も真守の反応で顔を赤らめており、それを隠すように顔を片手で(おお)っていた。

 

「……かわいすぎんだろ…………」

 

垣根がぽそっと呟くと、丁度報告にきた誉望が部屋に入ってきたので、垣根は無言で部屋の中に待機させていたカブトムシを誉望に向かって放ち、部屋から追い出した。

 

追い出された誉望が心理定規(メジャーハート)に垣根の様子がおかしいと告げると、心理定規は誉望に急かされて垣根の様子を見に行った。

扉を薄く開けて垣根の様子を伺うと、垣根は心理定規(メジャーハート)ですら見た事のない表情をしていた。

気味が悪くなった心理定規はそっと扉を閉めてから明らかに動揺している誉望の下へと向かった。

 

「……どうでした?」

 

垣根の機嫌で自分の具合が左右される誉望はハラハラとした様子で心理定規(メジャーハート)に訊ねる。

 

「アレは恋(わずら)いよ」

 

「恋!? 誰に!?」

 

誉望は垣根に春が来た事が信じられなくて悲鳴に似た驚きの声を上げると、心理定規(メジャーハート)は腕を組みながらため息を吐いた。

 

「一人しかいないじゃない」

 

誉望はそこで頭を回転させて該当する一人の人間を思い浮かべる。

 

「……ああ。朝槻さんスか。…………でも垣根さんが恋って……ええ……」

 

誉望が現実を受け入れらずに全力で引いていると、心理定規(メジャーハート)も若干引いているらしくぽそっと呟く。

 

「それも結構な重傷ね。心の距離がほとんどゼロに近い。もう一心同体よ」

 

「そんなに!?」

 

自分のトラウマ製造機である垣根帝督が恋に悩むお年頃だという認識が上手くできずに、誉望はくらっとめまいがしてしまい、血の気が引いて顔が真っ青になる。

 

 

その後しばらく誉望は垣根に会うと垣根の恋(わずら)いを思い出してしまい、サーっと血の気が引いていくようになってしまった。

会う(たび)に顔が真っ青になる誉望に、垣根は怪訝な視線を毎回向けていた。

 




早速弄られる真守ちゃん。
真守ちゃんが後押ししてくれたので美琴はクッキーを上条に渡せました。
食べ物と聞くとインデックスが飛んでくるのでその後はお察しできるかと……。

これにて絶対能力者進化計画篇は後日談含めて終了です。
これからも更新続けていきますので新章もよろしくお願い致します。



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