とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第四話、予告通りに投稿しました。


第四話:〈注意勧告〉はやんわりと

その日、上条当麻は日用品を買い込んで電車に乗って寮へと帰宅しようとしていた。

 

駅構内には自分のクラスメイトであり、塩対応の神アイドルと揶揄されている真守がいた。

 

「あれ、朝槻じゃねえか。おー……い!?」

 

上条が食材を詰めていないビニール袋を持ってない右手で手を振るが、即座に固まった。

 

学園都市の五本指に入るとエリート校の制服。

その制服を華麗に着崩した一八〇㎝以上はある高身長のイケメンが我らがアイドルと親しそうに話をしていた。

 

塩対応の神アイドルと謳われる真守だが、別にいつも塩対応ではない。

 

塩対応とはその喋り方がぶっきらぼうでいつでも冷静なので、そう揶揄されるだけだ。

クラスメイト全員と良好な関係を築いているし、真守はクラスで唯一の大能力者(レベル4)なので気が向くと授業内容で首をひねるクラスメイトに分かりやすく説明してくれたりする。

 

ぶっちゃけその喋り方以外に態度までもが塩対応になるのは、クラスの三バカ(デルタフォース)がふざけている時だけであり、それ以外は自分たちにも普通に喋ってくれる。

 

確かに気まぐれで高貴な黒猫のようにマイペースで、自分のしたくないことは絶対にしない主義だが、周りの人間を邪険に扱ったりはしないのだ。

 

まあ神アイドルと呼ばれる所以はプライベートで誘っても気が向かない限り絶対に断る、という意味も含まれており、私生活でファンを寄せ付けないアイドルの雰囲気を漂わせているからでもある。

 

そのクラスのアイドル的な存在が、勝ち組の権化である少年と一緒に話をしている。

それも親しげに。慕っているように。そして、仲良く駅構内へと入っていく。

 

「す、スキャンダルだあ──!!」

 

上条は去っていく二人を見て、思わず朝槻真守のアイドル生命の危機だと叫んだ。

 

 

 

──────…………。

 

 

今日はクラスの三バカ(デルタフォース)が気になって仕方がない。

 

真守は確かに身分を隠して学校に通っているが、万物の流れを読み取り、そこに新たな流れを加える力を持つ消えた八人目である超能力者(レベル5)だ。

 

高位能力者にもなると能力を発動していなくても演算能力の有用性が現れる。

 

真守のその演算能力の有用性とははっきり言って直感に通じる。

物事の流れによってなんとなくそれがどこに行きつくのかを直感する事ができる。

それに加え、超能力者(レベル5)という学園都市最高峰の頭脳を持っているため、そのなんとなくという手がかりがあれば物事を正確に把握できるのだ。

 

この直感は物事を考えると表情や仕草、そして雰囲気に出る人間にも通用する。

 

そのため、人間を良く知っていれば企みや考えが理解できる。

だが、真守は人の思考を読み取る精神干渉系の能力者ではないので内容までは分からない。

 

だから今のようにクラスの三バカ(デルタフォース)が真守の様子を伺って、どう切り込もうとしているかは分かるのだが、何に関して切り込もうとしているのかは分からなかった。

 

それでも絶対に良からぬ事に決まってる。断言できる。

真守はふざけているあの三人に関わるとろくなことがないので無視してストローボトルから経口補水液を飲む。

ズズズッと音がして飲み終わったのを感じ取ると、真守は口を離して中身が空になったか確認するために試験管を振るように底だけを振った。

 

「朝槻! 飲み物切れたんだろ? 奢ってやるぜえい!!」

 

そんな真守の様子に気づいて即座に声をかけてきたのはクラスの三バカ(デルタフォース)の一角、土御門元春。

 

「下心ありすぎだ」

 

「なっなんのことですかにゃー!?」

 

真守が心底嫌そうな視線を向けると、土御門はドキーンと、体を硬直させた。

 

「朝槻、良く聞きぃ! 土御門はいっつもおんなじモンを飲んどる朝槻の気分転換になればいいと思って提案したんや!」

 

「そうそう! その好意は受け取っておくべきだぜ、朝槻!」

 

土御門をフォローするかのように近づいて声をかけてきたのは青髪ピアスと上条。

真守は自分を取り囲んだクラスの三バカ(デルタフォース)を一人一人見た後に溜息を吐いた。

 

「自販機行く」

 

真守は何か裏があるにしろ、乗ってみないと分からないと判断して立ちあがった。

てっきり塩対応を繰り出されるかと思った三人はそこでガッツポーズを取った。

 

 

「で、何が聞きたいんだ」

 

真守は土御門に苺牛乳を奢ってもらって一口飲んだ後、自身も自販機で飲み物を買おうとしていた土御門に問いかけた。

土御門が大袈裟にビクビクッとすると、上条と青髪ピアスが盛大に目を泳がせる。

 

「ええっと、俺ら別に聞きたい事なんてないんですけれど~?」

 

「雰囲気で分かる、嘘つくな」

 

真守がすっとぼける土御門を睨んでいると、真守の携帯電話が鳴ってメールの着信音が響いた。

 

「急ぎの用だったら困るからちょっと待って」

 

真守は三人に断ってから携帯電話をポケットから取り出し、スライドさせて起動させるとそれに視線を落とした。

……べ、別に誰とメールしようが何の関心もありませんよ、という雰囲気でそろーっと覗き込む三人。

 

『駅前に売ってた』

 

その短い単語と共に送られてきた写真は一口サイズのベビーたい焼きだった。

 

真守は生命エネルギーを能力に使うので、経口補水液や氷砂糖と言った簡単に口に含めるもので常時エネルギーを取り続けている。

それを日常生活を共にしている三人はよくご存じだ。

そのため消化器官の能力の大幅低下を引き起こしている。

結果、真守は超偏食になった。

……と、彼らは思っているが、実際には真守が色々と隠し事をした結果、勝手にそう思われているのである。

 

それでも真守の好みだけは変わらない。

だから、彼らは一口サイズのものが真守の好みだと知っていた。

このメールの送り主もそれは同じで、真守の好みを理解しているらしい。

それは真守と仲が良いという証になる。

 

だがこのメールの送り主が真守のスキャンダル相手だと確証が三人にはない。

 

「……その垣根ってヤツ誰だ?」

 

上条と青髪ピアスがどうやって切り込もうかと悩んでいると、土御門が訊ねた。

真守の携帯電話を盗み見ていたという事実を土御門はすっかりスルーして。

 

盗み見られている不快感に突き動かされて、真守は土御門の腹にグーパンを入れた。

 

真守が体に張っているシールドは常時展開型だが、別にその能力を自分の意志で切れないわけではない。そのため、相手をシールドで焼くことなく拳を叩きこめる。

 

ぐっふ! という悲鳴を上げて土御門は腹を抑えて膝を地面について倒れこむ。

それを見て顔を真っ青にしている二人を真守はキッと睨み上げた。

 

青髪ピアスと上条は私たちは見ていませんと揃って首を横に振る。

 

「お前たちが気になってるのは私の交友関係か?」

 

真守はため息をついてじろっと上条を睨み上げて問いかける。上条はそれに、観念したように言葉をぽそっと漏らした。

 

「この前、朝槻がエリート校のクッソイケメンと一緒にいたから気になって」

 

「神アイドルの不祥事なんて放っておけへんやん!」

 

真守は声を荒らげた青髪ピアスの腹に拳を叩きこむ。

 

うぐへっ! っと何故か嬉しそうな声を上げながら撃沈する青髪ピアス。

真守は上条をまっすぐと見つめる。

 

変なこと言ったらお前もこうだぞ、という脅しの視線に上条はごくッと喉を鳴らした。

真守は恐怖で震えている上条を見ると、溜息を吐いて事の経緯を話し始めた。

 

「不良に絡まれてたら助けてくれた」

 

メールの相手と上条の見た相手が同じだと真守が暗に告げると、上条が首を傾げた。

 

「不良? でもお前って結構強いじゃん。自分で倒せたんじゃねえの?」

 

「うん。三人ぶちのめした後に増援が来た。別に倒せたけど騒ぎが大きくなるし大変だって思われたらしくて、逃がしてくれたんだ」

 

「ちょっとちょっと朝槻さん。すでに倒した後だったんですか?」

 

「別にその後もイケたぞ」

 

けろっと答える真守を見て、流石クラスで唯一の大能力者(レベル4)、と上条が震えているとそこで土御門が復活して地面から立ち上がった。

 

「質問に答えろ、朝槻。その垣根って垣根帝督か?」

 

「何で知ってるの?」

 

真守がきょとっと驚いた目で首を傾げる。何か知ってそうな土御門の言い分に上条も首を傾げて、地面に膝をついているままの青髪ピアスも顔を上げた。

 

「あのエリート校の垣根って言ったら有名だからな。超能力者(レベル5)だぜ、知らないのか?」

 

「……そうなの?」

 

真守は土御門の話を信じられずに驚いて、目を再びきょとっとしながら訊ねた。

 

「うっそ、マジ!? 超能力者(レベル5)!?」

 

「朝槻さんの純情がそんなすごいヤツにとられたとか納得やわー!!」

 

青髪ピアスがバッ、と体を起こして真守に背を向けるように土御門に向かって叫ぶので、真守はその青髪ピアスの背中に今度は蹴りをお見舞いした。

 

ごろんごろんごろーん、とゴミ箱を盛大にひっくり返しながら転がって壁にぶつかった青髪ピアスを真守は認識すらせずに、土御門に声をかけた。

 

「知らなかった、初耳だな」

 

「……本人から聞いてなかったのか?」

 

「別に他人の能力一々気にして接してない。何位なの?」

 

「学園都市第二位で未元物質(ダークマター)。この世にありえない物質を生み出すとかなんとか」

 

真守の無関心っぷりに苦笑しながら、土御門は垣根帝督についての情報を与えた。

 

「へえ」

 

真守は土御門の曖昧な説明に興味がなさそうに反応した。

 

真守が操るのはまだ誰も触れた事のない、真守以外が触れる事は叶わない全ての源になる源流エネルギーだ。

未元物質(ダークマター)とやらがどんなものか知らないがその物質だって何かしらのエネルギーで構成されており、そのエネルギーに源流が負ける事は絶対にありえない。

 

源流エネルギーによって焼き尽くされない物質はこの世に絶対に存在しない。

……それが未知の物質であろうとも、だ。

 

超能力者(レベル5)としての自信ではなく、自らの操るエネルギーが何よりも尊い事を知っているが故の核心だった。

 

「垣根は優しいから大丈夫。でも、土御門の気持ちはきちんと受け取っておく」

 

真守が柔らかく微笑みながら告げた一言に、土御門は目を見開いた。

 

土御門が垣根帝督という超能力者(レベル5)を危険視している雰囲気が真守に伝わってきたからこそ、放った言葉だった。

 

超能力者(レベル5)は人格破綻者の集団だと言われるほどに我が強い。

 

何故なら能力者は自分の世界を強く信じ込めば信じ込むほどに能力が強くなるからだ。

この自分だけの世界観について自分だけの現実(パーソナルリアリティ)と表現されるのだが、これが強固なものになるという事は、それだけ自己中心的に世界を見ているという事だ。

真守は自分をそこまでだとは思わないのだが、学園都市の学生から見た超能力者(レベル5)の印象はそんなもんだ。

 

だからこそ、土御門は真守が垣根に振り回されるのを心配しているのだろうと感じた。

 

真守は自分を学園都市最高峰の能力者と信じて疑わないが、だからこそ無敵だと思い込んだり、誰の意見も取り入れないで我が道を進むほど傲慢ではない。

 

人は一人では決して生きていけない。

 

源白深城と共に生きる事を掲げている真守は心底それを理解している。

だから自分のことを本気で心配している土御門の気持ちを無下になんてしないのだ。

 

「その言葉だけで十分だ」

 

自分の感性に固執して他者からの想いを突っぱねることを決してしない真守。彼女の事を、土御門はよく理解しているため、ふっと柔らかく微笑んで安心するように頷く。

 

「ジュースありがとう」

 

真守もニッと微笑んでから土御門にお礼を言うと、携帯電話を操作して垣根にメールの返信をしながら教室へと帰っていく。

 

「いやあ、大能力者(レベル4)には超能力者(レベル5)が惹かれるんだなあ。これも能力主義ってことか。上条さん現実の非情っぷりを久しぶりに感じましたよ」

 

「か、上やん。そないなことええから助けたって~ゴミ箱が嵌って抜けられん」

 

「お前はもうちょっとそこで反省してろ。言いすぎにもほどがある」

 

「そんな~!」

 

ゴミだらけになりながらゴミ箱と仲良くドッキングしている青髪ピアスと上条がそんなバカげた話をしているのを聞きながら土御門は呟く。

 

「クソッ。なんでこんなことに……」

 

だから、土御門の切迫した独り言を聞いている者はその場にはいなかった。

 




神アイドルの不祥事(笑)
真守ちゃん、きちんと超能力者やってます

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