とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第四二話、投稿します。
次は九月二一日火曜日です。


第四二話:〈強襲救済〉で陽光の下へ

有冨春樹は『スタディコーポレーション』という企業の取締役で暗部組織『スタディ』の構成員だ。

ラボを多く所有していたが、その本命のラボに『スクール』と一人の少女が強襲してきた。

 

『スクール』は統括理事会直轄の暗部組織であり、統括理事会直轄という事もあって暗部組織のトップ層に君臨している。

有冨は『アイテム』の超能力者(レベル5)第四位、麦野沈利を利用して彼女のデータを取っており、つい先日には第三位の御坂美琴のデータも取れて大変満足していた。

 

それに加えてまさか第二位の垣根帝督のデータまで取れるとは思わず、ついに運が自分たちに回ってきたと有冨は喜んでいたが、結果は惨敗。

麦野沈利、御坂美琴と比べ物にならないくらい、垣根帝督は強かった。

 

圧倒的な力を持つ彼の隣には、確かな存在感を放つ少女が立っていた。

垣根帝督が軽く『スタディ』を圧倒してしまったので暴れたりなかったのか、少女は随分と不服そうな顔をしていたと有冨は感じていた。

 

その少女──朝槻真守は有冨たちに近づくと、フェブリとその姉、そして布束砥信を助けに来たと宣言した。

 

真守が彼女たちを助けに来た事の経緯を聞かされた有冨たちは、真守が圧倒的な才能を有しているのだと思い知らされた。

何故なら真守は、わずか数日で自分たちが数年前にコンペに一回出した『ケミカロイド計画』を膨大な情報の中から拾い上げ、それを基にハッキングをして『スタディ』と『スタディコーポレーション』を丸裸にしたというのだ。

 

真守の力は有冨たちが持っていない才能に他ならない。

自分たちに圧倒的に才能がないことを思い知らされた有冨たちは絶望した。

 

だが真守はそんな有冨たちの絶望を鼻で嗤った。

 

『才能があろうとなかろうと、人を傷つけて良い理由にはならないし、命を粗末に扱っていい理由にもならない』

 

その言葉は真守が自分自身に言い聞かせている言葉だと有冨たちはなんとなく思った。

 

『お前たちにも色々と苦しみがあると思う。才能のある人間に何を言われても響かないかもしれないが、これだけは言わせてもらう』

 

真守はそう前置きしてから有冨たちに救いの言葉を差し伸べた。

 

『お前たちには研究者としての才能がある。だからその才能を人のためになる善い事に使え。もしこの学園都市の癌みたいに「科学に犠牲は付き物」なんて考えて命を粗末に扱った日には、お前たちを全力で叩き潰して更生させてやるから覚悟しておけ』

 

真守は超能力者(レベル5)の自分の言葉は有冨たちには響かないと知っている。

それでも有冨たちにお前たちには研究者としての才能があるとどうしても教えてあげたかったのだ。

 

真守は研究者としての才能がいかに人を傷つける可能性を秘めているか身に染みているため、快く思っていない。

だから有冨たちが研究者の道を進む事に関して真守はあまりおすすめしないが、進んだら進んだで道を踏み外したら今回みたいに叩き直してやると言ったのだ。

 

何がダメとか、何が正しいとか頭ごなしに押し付けるのではなく、自分が教えた才能を信じて進むなら進めと真守は有冨たちに告げたのだ。

 

有冨たちは学園都市研究発表会、通称『学級会』でテロを起こそうとしていたという理由で警備員(アンチスキル)に連行されて裁きを下される。

罪を償わなければならないが、その後自分たちは研究者として一から始めようと有冨たちは思っていた。

 

消えた八人目の超能力者(レベル5)として確かな才能を持つ朝槻真守が自分たちの才能を教えてくれたのだから、きっとその才能を信じて自分たちは生きていけると有冨たちは希望を持てたのだ。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「成程なあ。面白い研究してるじゃねえか」

 

垣根は真守が事態を収束させた後、『スタディ』のラボの端末で彼らの研究についてのデータを閲覧していた。

 

「誉望、『ケミカロイド計画』についての情報は『スクール』で独占する。警備員(アンチスキル)には絶対に渡すな。……まあ、こんな技術あいつらに使えるわけねえが、念のためにな。分かったか?」

 

「はあ。何か目ぼしいものでもありましたか?」

 

楽しそうに嗤っているご機嫌な垣根に、誉望は逆に恐怖を感じながら問いかける。

 

幽体拡散(ディフュージョンゴースト)っていう能力者を『ケミカロイド計画』は生み出した。この研究を進めれば、あらゆる能力を生み出せるようになるって事だ」

 

垣根はジャーニーの能力、幽体拡散(ディフュージョンゴースト)の詳細データをスクロールしながら告げる。

幽体拡散とは能力者の髪を媒介にして、それが密閉された空間のAIM拡散力場を仮想物質化して操る能力で、その仮想物質化した力場には事前に幾つかの命令を入力できる。そのプログラムによって駆動鎧(パワードスーツ)や警備ロボを遠隔操作する事ができるのだ。

 

「……垣根さん、能力者を生み出すんですか? 命を粗末にすると朝槻さんに怒られますよ」

 

誉望が奥で布束砥信と話をしている真守をちらっと横目で見ながら告げると、垣根は苛立ちを込めて誉望を睨んだ。

 

「ちげえよバーカ。俺は『無限の創造性』を持ってんだぞ。カブトムシにこの研究技術をぶち込めばいいだけじゃねえか」

 

垣根帝督は自らの能力、未元物質(ダークマター)によって人造生命体群であるカブトムシを生み出している。

そのカブトムシに『ケミカロイド計画』の技術を応用すれば未元物質(ダークマター)以外の好きな能力をカブトムシに与えられるのだ。

 

「真守のAIM拡散力場の解析を待たなくたって複数の能力が手に入れられそうだな。真守のために『スクール』で後始末するのに何も文句はねえが、良い土産が手に入ったもんだ」

 

(うわあ……ただでさえ凶悪なカブトムシがもっと凶悪に…………)

 

誉望は『スクール』のアジトのあちこちにうじゃうじゃいるカブトムシを思い出しながらゾッとして顔を真っ青にする。

誉望が悪だくみをする垣根を恐怖して見つめていると、頭に被っていた土星型のゴーグルに通信が入った。

 

「垣根さん。仲介人から電話です」

 

「あ?」

 

ご機嫌だった垣根が唐突に怪訝な声を出すので、その落差に誉望はびくびくとしながら自分の頭からケーブルを一本伸ばし、持っていた携帯電話に突き刺すと、それを垣根に渡した。

 

「なんだ?」

 

〈朝槻真守と共に随分と派手に動いたそうじゃないか〉

 

最初から切り込んできた『電話の声』に垣根は思い切り舌打ちする。

 

「真守の監視網から知ったのか」

 

垣根が電話を睨んでいると、『電話の声』は軽やかに笑ってから切り出した。

 

〈ああ。静観しているつもりだったが、一つ問題があってな〉

 

「問題?」

 

〈『スタディ』は『アイテム』にも手を出していてな。そちらの方はこっちで手を打っておいた〉

 

「……何を考えてやがる」

 

垣根は上層部の手厚い真守への対応に警戒心を(あら)わにして問いかけた。

 

〈言っただろう? 朝槻真守に関しての事ならば我々は融通を利かせると。それに統括理事会直轄の暗部組織が衝突するのは避けたいからな。あちらの仲介人とはコンタクトを取ってある。気にするな〉

 

「真守絡みだから手が早いって事か。そんなにアイツにご執心かよ」

 

〈我々ではなく、学園都市がな〉

 

「……そーかよ」

 

垣根は学園都市が大切な真守を食い物にしようと虎視眈々と狙っている事に機嫌が急降下した。

そんな垣根を見てトラウマを植え付けられた誉望は顔を真っ青にしてウッと(うめ)いた後、口を押さえた。

 

〈では、朝槻真守をよろしく頼むよ〉

 

垣根は勝手に通話を切った『電話の声』にヂリッと苛立ちで空気を鳴らしながら携帯電話を握り締めた。

そしてバキッと盛大な音を響かせて砕いた携帯電話を手から地面にバラバラと落とす。

慌てて誉望がケーブルの刺さっている携帯電話の欠片ごとケーブルを引っ張って回収した瞬間、垣根の長い脚がとどめを刺すように携帯電話だったものへと叩き落とされた。

 

粉々になった携帯電話をぐりぐりと苛立ちを込めて踏みつぶす垣根に、事態を静観していた心理定規(メジャーハート)が溜息を吐きながら声を掛けた。

 

「物を粗末に扱っているところをあの子に見られたら幻滅されるわよ」

 

「うるせえバーカ死ね」

 

垣根は携帯電話をギリギリと踏みにじる事を止めずに心理定規(メジャーハート)へ暴言を吐く。

 

「……本当にあの子と一緒にいる時がおかしいのね」

 

心理定規(メジャーハート)が呆れる中、心理定規の隣にいた誉望はトラウマを刺激されてその場から消えており、『スタディ』のラボのトイレへと駆けこんでいた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

真守は能力を行使させるための紫色のポッドに入れられたジャーニーの前に立っていた。

真守の隣にはコンソールを動かしてジャーニーを目覚めさせようとしている布束砥信の姿がある。

 

「フェブリを助けるために来てくれてありがとう。おかげでジャーニーも助ける事ができるわ」

 

布束はコンソールを動かしながら真守の方を見ずにお礼を言う。

 

「私はフェブリを助けるためだけに来たんじゃない。私はお前も助けに来たんだ、布束」

 

「私も? 何故?」

 

自分の言い分に布束が思わず手を止めて顔を上げて見つめてくるので、真守はそんな布束に柔らかな視線を送って微笑む。

 

妹達(シスターズ)がな、お前に会いたいって」

 

「……え?」

 

「お前に生きていくために大事なものを貰ったから、お礼が言いたいって。その願いも引き受けて、私は『闇』に売られたお前とフェブリと、姉であるジャーニーを助けるためにここに来たんだ」

 

「どうして……」

 

真守がここに来た目的を正直に話すと、布束は震える声を出した。

 

「私は、罪を犯したわ。妹達(シスターズ)がお礼を言うべき人間じゃない。だって私たちは彼女たちを勝手に生み出して勝手に殺した。フェブリとジャーニーだって、私がいなければこんな事にはならなかったわ」

 

布束が生み出してしまったと後悔している、眠ったままポッドに入っているジャーニーを見上げながら真守は呟く。

 

「お前が後悔しているのは分かる。でもお前たちが生み出さなかったら妹達(シスターズ)もフェブリもジャーニーも、この世界に生まれてこられなかったぞ」

 

「……そうだけど。でも、私が罪を犯した事に変わりはないわ……」

 

布束は罪の意識があるからこそ、かつて御坂美琴を救った上条当麻と同じような言葉に救われなかった。

そんな布束に、彼女と同じように罪を背負っている真守は一歩踏み込んで救いの手を差し伸べる。

 

「罪と感じているなら、それを清算するように生きていけばいいんじゃないのか?」

 

「清算……?」

 

真守はジャーニーから視線を外して布束をまっすぐと見据えてから、(うた)うように呟いた。

 

「お前が罪を償うためには……そうだな。生み出した命のために生きていけばいいんじゃないのか?」

 

「生み出した命のために……?」

 

真守が指し示す生き方を聞いて、布束は真守を呆然と見つめながらオウム返しする。

 

「お前は生み出した命たちの事を大切に想っている。だからフェブリを逃がしたんだろ? だったらフェブリたちや妹達(シスターズ)のために生きればいい。あの子たちの命が唯一無二だと知っているお前があの子たちの命を守ればいい。……まあ、強制はしないがな」

 

真守が柔らかく微笑むと布束は瞳を涙で潤ませながら頷いた。

妹達(シスターズ)とケミカロイドたちは人間の身勝手で生み出された。

彼女たちの命は大切であり、何物にも代えがたい命だ。

だがそれらの命を人々は諸手を上げて受け入れる事はない。

 

だからこそ彼女たちの味方になる事ができる自分たちが守ればいい。

 

罪を背負って後悔しているならば、命を生み出した人間として責任を取って、生み出した命のために行動すればいい。

真守は布束にその道を示したのだ。

 

「私はお前の手伝いをするよ。私だけじゃなくて心強い味方は他にもたくさんいる……私だって罪を犯した。その罪を背負って忘れずに、私は運命に抗っていくつもりだ。…………人として生きられる、最後の最後まで」

 

いずれ自分は絶対能力者(レベル6)となり、人間という枠組みから超えてしまうと真守は知っている。

確かに朝槻真守という存在がいなくなる事はないが、人間として終わってしまうのは確実だ。

だが最後のその時まで諦めることなく運命に抗い、人間として生き抜くことを真守は決めている。

 

それに垣根帝督と源白深城は朝槻真守が変わってしまっても一緒にいてくれると言った。

だから絶対能力者(レベル6)になってしまう未来が目の前に迫っていても、朝槻真守は絶望しないでいられるのだ。

 

「そうか。……あなたも、戦っているのね……」

 

布束が言葉を漏らしている中、真守は布束へと手を差し出した。

 

「うん。だからお前も私と一緒に陽の光の下で『闇』に抗うんだ。少し大変だけど、そういう人間は私以外にもいるから大丈夫。……だから布束、この手を取ってくれないか?」

 

「……ええ。もちろんだわ」

 

 

布束はその手を見てぼろぼろと涙を零しながら頷くと、コンソールから手を離して真守の小さな手をそっと握った。




垣根くん、カブトムシに他の能力を宿すための知識を手に入れました。

ちなみに真守ちゃんは布束が『闇』で売られたとしか知らずに何が理由で売られてしまっていたのかは知りません。


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