次は九月二八日火曜日です。
(Aug.31_PM05:36)
「ねえ、ずっと聞きたかったのだけど。あなた、一体彼のどこがいいの?」
「ふも?」
誉望と弓箭が買ってきてくれた数種類のお弁当の内、ロコモコ丼を選んで真守が食べていると、話し相手になってくれていた
「垣根の良いところ?」
「そう。それ以外に何かあるかしら」
真守がごくん、と飲み込んでから首を傾げると
「わ、わたくしも聞きたいです! 朝槻さん、どうして垣根さんのこと好きになったんですか?」
「す………………すき、」
弓箭に直球で聞かれて真守は頬をポッと赤く染める。
(やっぱり恋愛話には
「………………優しいところ」
「どこが優しいのかしら?」「どこが優しいんですか?」
真守の垣根の良いところを告げると
「彼は敵対しても格下は見逃すし一般人には手を出さないけれど、利用できるものはなんでも利用するわ。見てくれがいいから女の子が怖いものみたさで寄ってくるけど、俺様気質で傍若無人。彼と一緒にいて疲れないの?」
「垣根さんはすぐに機嫌を損ねるじゃないですか。その時の威圧感が半端なくて、誉望さんなんかトラウマあるからトイレにいっつも駆け込むんですよ。機嫌取るの大変なんじゃないんですか?」
(ああ。やっぱり垣根ってそういう印象で、私に優しくしてくれるのは奇蹟なんだ……)
真守は『スクール』女子の辛らつな評価を聞いて思わず真顔になるが、垣根のフォローをするべく自分に対して優しい垣根について伝えるために口を開いた。
「確かに垣根はそういうところあるし、すぐに機嫌悪くなるし、器が小さいけど。でも私のこと心配でいつでもカブトムシそばに置いて見守っていてくれるし、私が一人で買い物に行くって言うと時間がある時はいつも買い物先で待っててくれるし、そのままご飯奢ってくれるし……とっても優しい」
「「それってストーカー?」」
だが真守は研究所時代も現状も学園都市に四六時中利用監視をされているので感覚がおかしくなっている。
それに学園都市は自分を利用するために監視しているが、垣根は心配だから自分を見守っていると真守は知っているため、優しさからくる監視は特に気にならないのだ。
「す、ストーカー……? あ、いやでも。ストーカー……なのか? んーちょっと違うような気がするんだが……?」
((お風呂の時とか着替える時とか一体どうしているんだろう))
真守の感覚がおかしくなっているのだと弓箭と
流石に垣根も真守が入浴中は病室からカブトムシを退散させているし、真守もお風呂に入ってくる時や着替える時は少し恥ずかしそうにしながらも、カブトムシにどこかへ行ってくれとお願いしているから問題ないが、二人の疑問は
「……それで、一体どこまで進んでいるの?」
「す、進む?」
真守がロコモコ丼のタレが付いたご飯を箸で持ち上げていると
「キスとかその先とか」
「きっ……!」
真守は箸で掴んでいたご飯をぽろっとロコモコ丼の容器の中に落としてしまう。
「……………………さっき、初めて抱きついた……」
「「え」」
真守が頬を赤く染めて恥ずかしそうに
「だっ……だって別に付き合うとか明言してないし! ……す、好きって言葉にした事もされた事もないから、そういう恋人みたいなのはあんまり考えてなくて……」
「「え?!」」
真守が顔を真っ赤にしている中、弓箭と
「わたくし、色恋についてはあまり経験がないのですが色々とすっ飛ばし過ぎてませんか?」
「私も色々な人と話をしてきたけれどこんなケースは初めてね。心の距離が近すぎると逆にバグるのかしら」
「垣根さんって命令には絶対服従を無言で強要してくるタイプですが、本当に大事にしたい人には奥手なんですかね?」
「あるいは、これまでにいないタイプ過ぎて手を出したら歯止めが利かなくなるから自制してるとか?」
「どっからどう見てもストーカーしてるのに?」
「もしかしてきちんとした恋愛をしたことがないのかしら? 彼って恋愛なんて面倒なんて言いそうなタイプだし」
「……そ、そんなにおかしいか? なんかそこまで言われるとおかしい気がしてきた……」
真守はひそひそと喋りながらも全力で聞こえている二人の会話を聞いて眉を八の字にして頬を染めて内ももをすりすりとすり寄せて恥ずかしそうにする。
「あなた的にはどうなの? 手を出されなくて寂しくないの?」
「う。…………分からない。でもさっきぎゅーってして頭撫でてもらった時は、幸せだった……」
「幸せの基準が低すぎるわね……外国ではハグなんて挨拶なのに……」
「わ、わたくしも! さっき朝槻さんに抱きしめてもらって頭撫でてもらった時はすごく幸せでした! 朝槻さんはあの時どうでしたか? 私と同じで幸せでしたか?!」
「……女の子に抱き着かれたの久しぶりだったからちょっとびっくりした。でも、とっても嬉しかったぞ」
「はぐぁっ!!」
真守が頬を赤く染めたまま素直に感想を言うと、ドスッと胸の中心を矢で射貫かれたような衝撃を受けた弓箭は胸を押さえてそのまま撃沈した。
「…………これはなんとかしないとマズい気がするわ。この様子だと手も繋いでなさそうだし」
身近に感じている二人の恋模様が
真守がロコモコ丼を落とさないように携帯電話を取り出すと、そこには『
「あ。そう言えばメールが……。ごめん、ちょっと出ていいか?」
「どうぞ」
真守は
「ごめん。ちょっと立て込んでいて。……お前が言っていた
〈そこまで分かってンのか。なら話が早い〉
「何があった?」
〈俺ンとこに来たのは二〇〇〇一号だ。アイツが
「うん。
〈実験を主導してた残党の一人がソイツにウィルスを打ち込んだンだ〉
真守が
「そのウィルスの内容と打ち込んだ人間は?」
〈中身は人間に対する無差別な攻撃。研究者の方は天井亜雄だ〉
「天井亜雄……あの神経質な男か」
〈会った事あンのか?〉
「ちょっと脅したら泡食って気絶しただけだからあんまり。……確かソイツは『
〈……なンでそンなに詳しいンだよ〉
「計画を止めるために調べ上げただけだ。そんな事より、打ち込まれたウィルスはいつ起動するんだ?」
〈タイムリミットは九月一日ジャスト零時〉
「対策は?」
〈コードは芳川が今解析してるからウィルスを打ち込んだ天井のクソを探してコードを吐かせる必要はねェ。だが頭ン中に爆弾抱え込ンだ当の本人がいなくちゃ話になンねェからな。ガキの保護が最優先だ〉
「
〈あァ。培養槽から出れば命の保証がねェよォな体だからなァ。それに俺と別れた時、既に動けるよォな状態じゃなかった。だから居場所は分かってンだ。オマエ今どこにいる? 手が空いてるならオマエにもその場所に行ってほしいンだが〉
「……悪い。ちょっと木原の野郎と色々あってこれから動かなければならないんだ」
〈木原だとォ? ……まァオマエなら大丈夫だろォが……クソッ。タイミング悪ィな〉
木原という名前に過剰反応してから毒を吐く
「
〈ハッ。俺にゃ似合わねェよ〉
真守は
「そこを超えてこそ、お前は私の下に来られるんじゃないのか?」
〈……………………………………そォだな〉
「頑張って、
〈あァ。オマエも…………気を、つけろ〉
そして窓の外を見ていたが、引きつった笑みのままゆっくりと振り返った。
そこには機嫌が最上級に悪い無表情の垣根帝督が立っていた。
「……………………垣根?」
真守がニコッとごまかすために微笑むと垣根の頭の中でブチーンと何かが切れた。
「テメエ俺のアジトであの野郎と通話するなんて良い度胸だなァあああああ!!」
「べ、別に私が
真守の叫び声が響く中、
(Aug.31_PM06:13)
「で、真守の精神状態は?」
垣根は
弓箭とは言うと、垣根に理不尽に怒られて両頬を引っ張られ不機嫌になった真守のそばにいて、
「ええ、大丈夫そうよ。……あなたにいじめられた以外は」
実は会話の通り、真守が木原相似に精神的に痛めつけられたのを心配した垣根は秘密裏に
真守は精神干渉系能力者の干渉をシールドによって弾くが、精神干渉系能力者の特技である心を読む事は真守にももちろん通用する。
垣根は
(まあ、おかげであの子から面白い話が聞けたのだけれど)
「仲介人はなんて?」
「真守の保護を最優先、木原は確実に潰せだと。簡潔に言えばそんなところだな」
「そう。ある意味異常だけど
伝え聞いた簡潔な説明だけで即座に理解できるのは、精神干渉系能力者としての実力か、それともただ単に洞察力が鋭いのか。
「ねえ。あの子のために一つだけ言いたいことがあるのだけど」
「あ?」
垣根が
「きちんと言葉にしておいた方が良いわよ。手綱も握っている事に越した事ないんだから。女の幸せは男には分からないものよ」
「……お前は突然何言ってやがんだ?」
垣根が突然妙な事を言い出した
「あら。あの子のためを想って言っているのよ。これから大変な目に遭うあの子にだって満たされた時間は必要じゃない?」
「……うるせえな。真守の幸せは俺もちゃんと考えてんだよ。あいつを絶対に一人になんかしねえ」
(そういうことを私は言っているんじゃないんだけど……まあ、痛い目見て現実を認識しなければ無理かもね。……あの子、
それからしばらく、垣根は木原相似の居場所を探すためにカブトムシを動かしており、この場ではないどこか遠くを
カブトムシと情報を共有しているとどうもそんな目になってしまうらしく、女性が見たらどこか影があって色気を醸し出しているイケメンに見える事だろう。
『木原相似に類似する人間を見つけました』
カブトムシがわざわざ発声したのは
「誉望。丁度お前を呼びに行こうとしてたところだ。情報共有する。ケーブルを寄越せ」
「垣根さん、少し待ってください」
垣根が誉望が頭につけている土星型のゴーグルにカブトムシから情報を送るための接続ケーブルを求めると、タブレット端末を持っていた誉望が待ったを告げた。
「あ? なんだよ」
「垣根さんの指示通り俺もネット上で情報収集していましたが、木原相似がいるであろう場所が三か所あるんです。衛星マップ上の位置や郵便配達の記録を木原相似の研究技術で代替していると思うんですが、どうします?」
垣根に木原相似の居場所を割り出して表示したタブレット端末を差し出しながら、誉望は調査結果を報告する。
「……俺の端末が見つけたのが本命なのは間違いねえが、万が一の事もあるな。よし。誉望は一人で、
「彼女、連れて行くの?」
「狙われてんのにここに置いとくわけにいかねえだろ。つーか、あのじゃじゃ馬娘が大人しく待ってられるとお前らは思うのか?」
「思いません」
「まあ、ありえないわね」
誉望と
「んじゃ、さくっと木原の野郎をぶっ殺しに行くか」
垣根はソファに浅く座って軽い前傾姿勢のままタブレット端末を軽く横に振りながら獰猛に嗤って木原相似の死刑宣告をした。
Aug.31_PM06:58終了
お気づきかもしれませんが、垣根くんと真守ちゃん、好きだとか言った事ないし手だって恋人的な意味で繋いだことないんです。
本当に心配になる恋愛模様。