とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第四九話、投稿します。
次は九月二九日、水曜日です。


第四九話:〈醜悪優美〉なその御姿

(Aug.31_PM07:45)

 

真守は垣根と共に第二一学区にある総合運動公園にあるサッカーグラウンドにやってきていた。

正確にはその地下にある木原相似が所持している広大な研究施設なのだが。

 

二人は施設に侵入すると手当たり次第に部屋を調べて木原相似を探す。

そして真守と垣根が最後に行き着き、垣根が蹴り破った扉の向こうに広がっていたのはドーム型の大きな研究室だった。

 

その研究室には培養槽がずらりと並び、その中に学生たちの死体が入っていた。

 

中央には一際大きな培養槽と、低い唸り声を上げているフラフープ状の、恐らく真守の源流エネルギーを循環させて保管するための機械と、巨大な演算装置が置かれていた。

 

「どもども。真守さんに帝督さん!」

 

木原相似は電話で聞いた声の通り、軽薄な男だった。

二〇代前半で暗褐色の短い髪に、研究者には向かない七分丈のズボンとスニーカー、それに黒い革の手袋。

ピアスもたくさん開けており、どちらかと言うと研究者ではなく、どこかのチャラそうな大学生のようだった。

 

「よお。死体愛好家とは趣味が悪いな、木原」

 

培養槽に並べられている死体を見て表情を硬くした真守を庇うように垣根は前に出て、木原相似を鼻で嗤う。

 

「いえいえ。これらは真守さんの源流エネルギーに指向性として数値を入力する際にどうすれば効率が良いかを調べるための試作品ですので。でもまあ、源流エネルギーによって能力の強度が底上げされているので使えるんですけれどね?」

 

「……どの子が一方通行(アクセラレータ)の代替に造り上げられた子? お前が寄り掛かってる培養槽に入っている子?」

 

真守が問いかけると木原相似は待ってましたと言わんばかりに寄り掛かっていた培養槽から体を離して培養槽に視線を誘導するために手を差し向ける。

 

「『暗闇の五月計画』ってご存じですか?」

 

「……置き去り(チャイルドエラー)を使った一方通行(アクセラレータ)の演算パターンを植え付ける実験だ。でもあれは研究者死亡で計画が廃止になったハズだ。研究が潰れた後、多くの子供たちはどこに行ったか、死んでいるのかすら私にも追えなかった。多分、行き場を失って路頭にでも迷っていたのだろう。……その子がそうなのか?」

 

「ハイ。真守さんの言う通り、この子は路頭に迷っていたので僕が保護しておきました! ……と言っても計画で造られた時には失敗作だったので、僕が完璧に一方通行(アクセラレータ)の代替品に仕立て上げたってところです!」

 

真守は木原相似にそう説明されたので、真守は木原相似の『保護』という言葉に顔をしかませながらも、培養槽に入れられた少女を見上げた。

紺色の髪をショートカットにしており、薄手のキャミソールワンピースを着ている。

年齢的には一〇歳前後で、酷くやせ細っている。

栄養失調気味なのを(かんが)みて、恐らく研究所時代も今も満足のいく食事を与えられなかったのだろう。

 

「……あの子は生きてる」

 

真守が垣根に向かって伝えると、それを聞いていた木原相似は軽く嗤った。

 

「動く屍は実験用の試作品。僕の目標である超能力者(レベル5)の代替品は生身じゃないと意味ないじゃないですか。凄いですよ~この杠林檎さんは! 一方通行(アクセラレータ)の力を寸分違わず再現、そしてあなたの源流エネルギーによって耐久力が底上げされていますから。……殺さないと止まりませんよ?」

 

木原相似が告げた瞬間、培養槽が音を立てて開いた。

 

中から培養液が排出されて木原相似に杠林檎と呼ばれた少女が宙に浮いた。

 

林檎が虚ろな目をゆっくりと開いた次の瞬間、その場に爆発が巻き起こされた。

 

 

 

(Aug.31_PM08:04)

 

 

 

真守は地下の研究施設の天井をぶち抜く形で外に飛び出した。

 

猫の様に体を翻させて蒼閃光(そうせんこう)の猫耳と尻尾を展開させたままグラウンドに降り立つと、目の前に杠林檎が宙に浮かんでそこにいた。

 

林檎の周りにはサッカーゴール、照明器具、彼女が壊した瓦礫や鉄のポールやらが浮かんでいた。

 

それらが音速以上のスピードで真守に向かって飛んでくる。

 

真守は源流エネルギーを目の前に展開してそのサッカーゴールや照明器具を片っ端から焼き尽くした。

 

鋭い余波が辺りに吹きすさび、その衝撃によって地面がひび割れる。

 

(AIM拡散力場から考えるに、下地は念動能力(テレキネシス)。恐らく一方通行(アクセラレータ)の演算パターンを入力したから念動能力(テレキネシス)が変質してベクトル操作に限りなく近づいているんだ。出力だけは超能力者(レベル5)並みか……っ!)

 

「真守!」

 

「垣根は私の苦手な死体の相手をお願い! この子の相手は私がする!」

 

真守は地下にある研究施設から聞こえた垣根の鋭い声に応えながら、源流エネルギーを展開して前に出た。

 

真守は杠林檎の懐に入って掌底を食らわせようとしたが、目の前で林檎が消えた。

 

「────ッ!!」

 

真守の視界から消えた林檎は、真守の後ろへと周りこんで真守の背中を蹴りつける。

 

「くっ!」

 

音速を超えた少女が流れていった方向を真守は無意識下で把握、自動的と(うた)われるほどの凄まじい速度で逆算をし、林檎の蹴りから身を守るために真守は背中に衝撃波を展開して蹴りの衝撃を相殺した。

 

真守だからこそ防げたものの、並みの能力者だったら確実に一撃を貰っていただろう。

 

真守は林檎の蹴りと相殺している衝撃波を崩さないように体を(ひね)って背後の杠林檎を見るが、その瞬間に目を見開いた。

 

「マズい……っ!」

 

真守は一言漏らすと、林檎を避けるように体を動かしながら衝撃波の向きを変えて林檎の攻撃を即座に()らした。

 

林檎は真守によって向きを変えられたので、真守のすぐ横を通り過ぎて、真守から斜め左へと音速で通り過ぎていく。

 

真守に攻撃を逸らされた林檎は蹴りの体勢のまま、地面を割ってクレーターを作り上げながら、その中心地点に突き刺さる形で止まる。

 

真守が林檎に素早く体を向けると、林檎はクレーターの中心でふらふらと体をふらつかせながら膝に手を突いて息を荒らげていた。

 

(書き込まれた命令によって強制的に体を動かされているから身体的負荷を全然考えない。それにいくら私の源流エネルギーで耐久力を上げたとしても、あの子が能力に振り回されているから体が高速戦闘で悲鳴を上げている。このまま戦闘を長引かせたら命が危ない)

 

真守が林檎の体の心配をしているが、林檎はそんな事知らずに真守に向かって突進してきた。

 

真守は即座にシールドのエネルギーに指向性を付与して林檎の衝撃波を相殺すると共に電気エネルギーを生成し、林檎に鋭く浴びさせて感電させる。

 

林檎は真守の並列処理による演算で繰り出された防御からの追撃によって吹き飛ばされて、地面を(えぐ)るように転がると、転がった先で体を痙攣(けいれん)させながらも芝生がめくれあがった地面に手をついて起き上がろうともがく。

 

(神経に電気を走らせたから痛みと麻痺で立ち上がれないハズなのに、植え付けられた命令で動こうとするのか……っ木原の言う通り、殺さないと止まらない……か)

 

真守は立ち上がろうとしては地面に転がり、再び立ち上がろうとしてもがく林檎を見て顔を悲痛で歪ませる。

 

「……殺しなんてしない。化け物が『抹消』しかできないって誰が決めた!? 絶対にあの子を救ってみせる!!」

 

真守はキッと視線を鋭くさせながら吠えて、頭の中で高速で思考する。

 

(あの子の頭に書き込まれた命令を消去するしかない。大丈夫。学習装置(テスタメント)によって強制入力(インストール)された命令文(コード)の消去の仕方は分かる。学習装置によって書き込まれた命令文は理路整然としているから脳の電気信号の流れが無理やりに整えられている。その整えられた流れを、全体像を見ながら自然な流れに戻せばいい。そうすれば命令文(コード)の内容が分からなくても命令文が書き込まれていない元の状態に復元できる)

 

真守は林檎を鋭く睨みつけながらフッと自虐的に笑った。

 

(学習装置(テスタメント)の代わりを私がする。……『解析研』で『勉強』させられて『実験』して手に入れた成果がお披露目か、今日は色々と因果が巡ってくる日だ。……もう誰かの脳の電気信号なんてイジりたくないと思ってたのに、皮肉だな)

 

八月三一日。初めての夏休み最終日。

木原相似によって造られた、もしかした深城がこうなっていたかもしれないという可能性に襲撃された。

嫌な記憶が呼び起されて、精神的に消耗させられて。

挙句の果てにはもうやりたくないと思っていた誰かの脳を(いじく)り回すという所業をやらされるなんて。

 

「…………でも、垣根はずっと一緒にいてくれるって」

 

真守はそこで鋭い視線を(ゆる)めて穏やかな笑みを浮かべ、愛おしそうに呟く。

 

垣根は今、真守が立っているグラウンドの地下にある研究所で真守の苦手な死体と戦っている。その音が地下から響いてくる。

 

「垣根がそばにいてくれるから何も怖くない。……私が、私じゃなくなっても。ずっと一緒だって言ってくれたから」

 

真守は独り言を呟いて微笑む。

 

命令文(コード)が欠片も分からない現状、杠林檎を救うためにほぼ手探りで電子顕微鏡レベルの演算で脳の電気信号を(いじ)りながら超能力者(レベル5)級の戦闘力を誇る相手と戦うなんて無理だ。

 

──真守が、()()()超能力者(レベル5)ならば。

 

 

「深城、力を借りるぞ」

 

 

真守は何度呼んでも自分のそばに来なかった深城に一声かけて呟く。

 

深城の姿が見えなくても真守はこれっぽっちも心配ではなかった。

 

源白深城はいつだって朝槻真守のそばにいる。

 

 

そして──力を貸してくれる。

 

 

真守は息を吐いて脱力し、その場で祈るように顎の前で手を組んだ。

 

そして真守は目を閉じて源流エネルギーに指向性を付与し、エネルギーを体から噴き出させた。

 

そのエネルギーは周りの存在を『抹消』するものではなかった。

 

ただそのエネルギーは穏やかに広く、薄く伸びて辺りに満ちていく。

 

真守の目の前で、疑似的なベクトル操作を獲得した林檎が辺りに正体不明のエネルギーが満ちていく事を感知して何が起こっているか把握しようと体を起こして動きを止める。

 

真守はそんな林檎を見つめて寂しそうに微笑んだ。

 

そして真守は自分の体から放出したエネルギーを一斉に()び起こした。

 

 

次の瞬間、真守のエネルギーを触媒にして、学園都市全体に広がっているAIM拡散力場から爆発的な力が生み出された。

 

 

真守はそれを束ねて自分のものとして操作し、十数本の灰色の竜巻に()えて体から後方に灰色の翼として伸ばした。

 

 

その内の六つが大きく広がって(うな)りを上げる中、真守の外見に変化があった。

 

 

真守の体の表面には蒼閃光で形作られたネオンのような猫耳と尻尾が展開されている。

頭には猫耳の形状を取っている三角形二つと、その二つに連なるように正三角形が二つずつついており、尻尾になっているの四角いタスキとその根元にリボンのようについている二つの正三角形だ。

 

そのタスキのように伸びた尻尾が真守の背中を()うように昇っていく。

 

真守の背を這いあがると尻尾の形状が変わり、蝶の翅の翅脈(しみゃく)のような蒼閃光の光が空間に展開される。

 

一見すれば真守に蝶の翅が生えたように見える。

 

 

だが外見の変化はそれで終わらなかった。

 

 

頭に猫耳として展開されていたおおきな三角形が二つ、大きく展開されて重なり、それが六芒星となる。

 

その六芒星の外側に伸びた六つの頂点にそれぞれ、頭にあった小さい正三角形が四つと尻尾の根元にリボンのようについていた正三角形二つが大きさを合わせて展開された。

 

 

まるで、それは六芒星を基盤とした幾何学模様の天使の輪だった。

 

 

蝶の翅のような後光と六芒星の天使の輪が展開されると同時に、灰色の翼の質が変わった。

 

「大丈夫」

 

真守の口から放たれたその言葉は一体誰に吐かれた言葉だったのだろう。

 

目の前で死に(ひん)している杠林檎に対してか。

 

それとも自身が体内から組み替えられてしまっている感覚に対する恐怖を抑えるための言葉か。

 

それともその両方を勇気づける言葉だったのか。

 

真守自身、どうしてその言葉を吐いたか分からなかった。

 

だから今度こそ、真守は杠林檎に向けて宣言する。

 

 

「────────絶snhn救c魅────」

 

 

真守の口からぶれた言葉が飛び出すと、その灰色の翼の主軸となっていた六つに明確な変化があった。

 

 

灰色の翼が根元から純白と漆黒へとそれぞれ変化していく。

 

 

純白になった翼は白い羽根によって包まれて、漆黒になった翼は黒い羽根によって包まれていく。

 

二種類の色の翼は真守の背中から左右に綺麗に分かれて展開されたのではなかった。

 

真守から見て右側の三枚の翼は上から数えて一番目と三番目が純白の翼。

間に挟まれているのは漆黒の翼となった。

 

そして左側の三つの翼は右側と違い、一番目と三番目の翼が漆黒。その間に挟まれている翼が純白な翼として展開される。

 

 

互い違いに生えた純白と漆黒の翼。

 

 

()ちた天使を想像させる、歪な配色の三対六枚の翼。

 

 

白と黒、二種類混合の六枚で構成されているその翼は総合的に見て美しいとは言えない。

 

だが純白の翼も漆黒の翼も荘厳な輝きを放っていて単体で見ればとても美しいものだった。

 

 

 

それ故に真守は──天から()ち、堕落した、醜悪優美で歪な天使そのものだった。

 

 

 

真守は辺りに満ちているAIM拡散力場に干渉して杠林檎を空間に『固定』し、宙に縫い留めて(はりつけ)のように身動きを封じると、その三対六枚の歪な翼で浮かび上がって林檎の前にそっと立った。

 

林檎の焦点の合わない漆黒の瞳は、突然現れた()ちた歪な天使に縫い留められていた。

 

真守は両手を林檎の側頭部に柔らかく這わせる。

 

真守が目を細めた瞬間、翼が輝きを帯びて辺りに白と黒の光が泡となって噴き出した。

 

真守は拡張された演算能力で杠林檎の脳の電気信号の流れを知覚。

 

脳の電気信号のマップを把握、学習装置(テスタメント)によって植え付けられた命令文(コード)によって流れが無理やり変えられて、人工的に整えられている場所を一つずつ正確に見つけていく。

 

そんな中、真守は不自然な箇所を見つけた。

 

思考パターンを形成している電気信号の網目におかしな箇所がある。

 

その流れはまるで人工的に整えられた川が、年月によって水が流れやすいように少しずつ地面を削り、自らに都合の良いように流れを組み直そうと奮闘している最中の様だと真守は感じた。

 

人工的に整えられながらも自然に限りなく近付こうとしているその印象。

 

まるで馴染んでいる途中のような印象を受けるこの思考パターンは、恐らく『暗闇の五月計画』で植え付けられた一方通行(アクセラレータ)の思考演算パターンに、林檎の脳が柔軟に対応しようと奮闘しているのだと、真守は直感した。

 

このままゆっくり行けば、杠林檎の脳は一方通行(アクセラレータ)の思考演算パターンを受け入れる日がくるだろう。

 

だがその日が来る前に杠林檎の脳が対応しきれなくなって疲弊してしまい、林檎は死に至る。

 

真守は電気信号の流れに干渉して、学習装置(テスタメント)によって植え付けられた命令文によって整えられた電気信号の流れを自然に戻して学習装置の命令文(コード)を消去していく。

 

それと並行しながらも、真守は一方通行(アクセラレータ)の思考演算パターンを杠林檎の脳が徐々に受け入れていく工程をすっ飛ばして、一方通行(アクセラレータ)の思考演算パターンを完璧に受け入れた状態の、杠林檎の本来あるべき思考パターンへと脳の電気信号の網目図を整えていく。

 

真守による脳の電気信号の流れへの干渉によって、林檎がガクガクと体を震わせながら口を大きく開けて空気を求めて(あえ)ぐ。

 

林檎の体へのフィードバックが致命的にならないために、真守は時間をかけずに一気に林檎の脳の電気信号の流れを自然に戻して、整えていく。

 

そして一分にも満たない間に、真守は杠林檎の脳の電気信号の流れをこれから彼女が生きていくために必要な最適な流れへと変えた。

 

真守は林檎を呼び起こすために、林檎の意識や心と呼ばれる部分を司る電気信号を無理やり活性化させて林檎を覚醒へと導く。

 

意識が浮上してきた林檎が目の前の景色に像を結ばせると、その漆黒の瞳に光が宿った。

 

その瞳はぼーっとしていたが、真守をふと見上げてその目を丸く見開いた。

 

 

白と黒の互い違いの三対六枚の翼に、六芒星の天使の輪を持ち、蝶の翅のような後光を背負う()ちた歪な天使が、慈しみを込めた穏やかな瞳で自分を見つめていたからだ。

 

 

「………………………………てんし?」

 

林檎は頬を明るく染めて目を輝かせ、真守に訊ねた。

 

真守はそんな林檎の頬に手を添えて寂しそうに微笑んだ。

 

「私はただの歪な人間だ。……まだ、そう()りたいと思っているよ」

 

真守がゆっくりと林檎の頬を撫でると、林檎は真守の小さな手に真守よりももっと小さい自分の手を添えて、顔を輝かせて真守を見惚れるように見上げていた。

 

「素晴らしい……」

 

感嘆の声が聞こえてきたので真守がそちらを睥睨すると、そこには木原相似が真守を見上げて立っていた。

 

「その翼は一体何なんですか!? 周囲の事象が引っ張られていますね! まるで空間そのものをあなたが支配しているかのようだ! その翼の形状を取る理由は何ですか!? あーワクワクする! 楽しい、教えてくださいよ、真守さん!」

 

「うるさいな」

 

真守は空間に『固定』していた林檎を右手で抱き寄せながら、左手をスッと木原相似に向ける。

 

木原相似は真守に手を向けられた瞬間、ヅグン、と体が脈動するのが感じられた。

 

「が……ハッ…………!?」

 

体が外部からギリギリと締め付けられる感覚が木原相似を襲う。

 

「そ……う、ですか…………その翼に、よって……拡張された演算能力で、あなたは……AIM拡散力場に…………干渉して────っ!」

 

木原相似は真守が目を細めた瞬間、泡を吹いて膝から崩れ落ちた。

 

 

そして木原相似から少し離れたところには垣根帝督が未元物質(ダークマター)で造り上げられた三対六枚の純白の翼を広げてこちらを見上げて呆然と立っていた。

 

 

「垣根」

 

 

周囲にきらきらと淡い白と黒の光が真珠のように煌めかせる中、真守はそっと声を掛ける。

 

 

呆然と自分を見上げて立ち尽くしている軍師で()らせられる天使に向けて、()ちた歪な天使は寂しそうに目を細めて微笑んだ。

 

 

Aug.31_PM08:11終了

 




天で造り上げられて寵愛されながらも堕ちた天使は、地の果てで初めて自分以外の天使と出会った。


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