とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

52 / 344
第五二話、投稿します。
次は一〇月二日土曜日です。


第五二話:〈艱難辛苦〉を乗り越え、安堵?を手に

(Aug.31_PM10:07)

 

〈上条、インデックスを見つけた。今からそっちに場所送る〉

 

「サンキュー!」

 

上条は救援を要請した頼れる真守が即座にインデックスの居場所を見つけてくれたので、ほっと安堵しながら一度真守との通話を切って携帯電話に送られてきたポイントを地図で確認する。

 

「うわ! このバカ猫が生ゴミ漁ったところじゃねーかっ! コイツの案内間違ってなかったのかよ!?」

 

実は上条、インデックスを探すために街中を駆け回っていた時に真守が送ってきたポイントに既に一度辿り着いていた。

だが辿りついた理由が三毛猫の案内であり、その(くだん)の三毛猫はゴミ捨て場の生ゴミが入ったポリバケツに直行したので、主人を探すためではなかったと上条は判断してしまったのだ。

 

実は良い線行っていた三毛猫は現在上条に首根っこを掴まれて全力脱力しており、『ほれ見た事か』とでも言いたげに恨めしそうに上条を睨みつけていた。

 

「朝槻! 場所は把握した! 今からそっちに行くから……そうだなあ、ホテルの裏口……ごみ置き場でいっか! そこで合流を、」

 

 

「君、第七学区のファミリーレストランでガラスを割る騒ぎを起こさなかったか?」

 

 

「え?」

 

上条が真守に電話をかけて集合を提案していると、警備員(アンチスキル)が突然声を掛けてきたので上条は振り返って目を(またた)かせる。

どうやら交番の前に立っていた警備員(アンチスキル)がいつの間にか上条に近づいてきていたらしい。

 

〈上条、どうかしたか?〉

 

上条が妙な声を上げるので電話越しに真守が怪訝な声を上げるが、上条はそれに応えている暇ではない。警備員(アンチスキル)が自分の事を疑わしい目でじろじろ見てくるからだ。

 

「被害届を出してきた店長さんの心を読心能力者(サイコメトラー)に読まさせて似顔絵を描いたんだが……、待ちたまえ。君、どうもどこかで見た顔だな」

 

上条がダラダラと汗を流す中、警備員(アンチスキル)は持っていたタブレット端末を動かして顔をしかめさせる。

 

「む。昼にも同じ第七学区ビル倒壊の件で君の姿を目撃したという証言があるな。あれによって第二級警報(コードオレンジ)が発令されたはずだが……まさか今の第一級警報(コードレッド)も全て繋がっているという事ではあるまいな?」

 

「………………、えー?」

 

上条は笑顔を引きつらせたままニコッと間を持たせるように笑ってから──即座にダッシュ。

 

「こ、こら! 止まりなさい! 待たんか!」

 

警備員(アンチスキル)が後ろから声を放つが、やましい事をして止まれと言われて止まる人間はいない。

上条が必死に走っていると、突然後ろから銃声が鳴り響いた。

 

「うげっ!」

 

振り返ると、警備員(アンチスキル)が二二口径の銃を構えてその銃口から硝煙(しょうえん)をくゆらせていた。

 

「殺す気か不良警官! テメエ人を何だと思ってやがる!」

 

「案ずるな。子供の人権を考えてしっかりゴム弾だ」

 

上条が思わず怒鳴ると、警備員(アンチスキル)はグッと親指を立てて答える。

 

「空砲じゃないの!? ってかゴム弾でも肋骨ぐらいは折れるんですけど! つーかなんかノリノリじゃね!? 幼気(いたいけ)な学生虐めて楽しいか!?」

 

上条が警備員(アンチスキル)に向かって叫ぶと、全てを察した真守は困惑したまま上条へと声を掛けた。

 

〈上条? なんか警備員(アンチスキル)の所有している独特な音の銃声が聞こえたが、お前なんで追いかけまわされてるんだ……?〉

 

「銃声聞いただけで分かるなんて、流石ですね朝槻さん! いや、ちょっと色々あって上条さん猛ダーッシュ!!」

 

上条は真守を称賛しながら警備員を()くために夜の学園都市を駆け回る。

 

 

 

(Aug.31_PM10:47)

 

 

 

ビルの屋上には無数の縄が張られており、その縄はロープのように給水塔を頂点として八方向へと伸ばされ、ビルのフェンスへと縛り付けられている。

八本の縄の途中には和紙に墨で記された護符が一定の間隔で複数張り付けられており、見る者に運動会の万国旗のような印象を受けさせる事だろう。

 

「これは……神楽舞台?」

 

縛られたインデックスは儀式場と化したビルの屋上を見回しながら呟く。

 

「そんな大それた代物ではない。差し詰め、盆踊りの会場といったところだな」

 

そう答えたのは日本神道にゆかりのある魔術師、闇咲逢魔だった。

 

インデックスは日本神道の専門家ではないので神に舞を奉納する神楽舞台だと考えたが、儀式場を仕立て上げた闇咲が言うには盆踊りの会場らしい。

確かに給水塔を(やぐら)、ロープにかかった護符を提灯(ちょうちん)として見れば神仏混合の配置に見えなくもない。

 

(だけど、そんなものを用意して……まさか、私に何か()かせる気──痛っ!)

 

もぞもぞと動いているとお尻で何か固いものを踏んづけてしまい、インデックスは痛みに耐えながら振り返ってお尻の辺りを見つめる。

 

踏んづけたのは上条に持たされた〇円ケータイであり、携帯電話の使い方がイマイチ分からないインデックスは画面がピカピカと光っていてもどうしようもできない。

それでも闇咲の視線を引きそうだったので携帯電話をササッと背中に隠した。

 

そんなインデックスの動きに闇咲は気が付かず、右腕に装着していた弓を誇示(こじ)するようにインデックスに見せつけた。

 

「なに。結界を張ったのは少しばかりコイツの威力を増強しようという魂胆だ。この弓は、元々舞踊の席で使うべきものだから」

 

「……、梓弓(あずさゆみ)?」

 

「素晴らしい。日本の文化圏もカバーしているのか、その魔導書図書館は。……()れの元々の威力はせいぜい心の患部に衝撃を与え、(ゆが)みを正す程度の力しかないのだが」

 

闇咲は梓弓──矢を(つが)えずに弓を引き、鳴り響かせた弦の音によって魔を(はら)うとされる日本神道の呪具をそっと撫でながらインデックスを称賛する。

 

梓弓は元々、弦の音を使って舞を踊る巫女をトランス状態に導いて神降ろしを行うためのものだ。

 

そんな性質を(はら)む梓弓を(たずさ)えて、闇咲は頭上の縄を指し示す。

 

「このように一定の条件さえ(そろ)えば──相手の心の中を詳細に読み事ができる。……そう、例えば胸の内に必死に隠している一〇万三〇〇〇冊を暴く事なども、な」

 

インデックスが驚愕した瞬間、縄を中心として空間そのものが淡く紫色に輝きを帯びる。

 

闇咲は儀式場の力を借りて梓弓の強化を行い、インデックスの頭の中にある魔導書を読むためにインデックスに向かって右腕の梓弓の弦を引き(しぼ)る。

 

「だ、ダメ! これは、あなたの思っているようなものじゃないの! 普通の人間なら一冊も読めば発狂しちゃうんだから。いかに特別な魔術師って言ったって、三〇冊も耐えられない! 私以外の人間が一〇万冊以上もの魔導書を読み取れば何が起こるか、あなただって分かるでしょう!?」

 

「無論、百も承知」

 

インデックスが必死に止めようとするが、闇咲は止まらない。

 

 

「──そこまでやって魔導書に触れたいという事は、何か叶えたい望みでもあるのか?」

 

 

その瞬間、ビルの屋上より高く飛び上がった人影が夜天より飛来した。

その人物とは蒼閃光(そうせんこう)で形作られた猫耳をぴこぴこと動かし、尻尾と黒髪、それとスカートの(すそ)をひらひらとはためかせた朝槻真守だった。

そしてその小脇には自分よりも明らかに体が大きく、顔を真っ青にさせた上条当麻を抱えているが、真守はケロッとした余裕の表情である。

 

「まもり! とうま!」

 

「む。何らかの結界か。ほら行け上条。ちゃんと右手を前に突き出すんだぞ」

 

「え。ちょ、おわぁあああ────!?」

 

インデックスが自分たちの名前を叫ぶ中、真守は淡く光る屋上全体から闇咲の右腕に装着している梓弓へと力が流れ込んでいるのを感知して呟くと、小脇に抱えていた上条を儀式場に向かってぶん投げた。

 

上条が真守にぶん投げられて屋上へと上から落とされると、真守に言われた通り構えていた右手の幻想殺し(イマジンブレイカー)が屋上に展開されていた淡く紫色に光る儀式場を打ち消した。

 

「どわっ!?」

 

異能を打ち消した上条はそのまま屋上へと顔からダイブしそうになるのでなんとか身を(ひね)るが、捻った先で(したた)かに背中を()ったので屋上に転がった彼は悶絶(もんぜつ)する。

 

真守は儀式場が破壊されたと知ると、ひらひらと舞うスカートを右手で押さえつけながら屋上に降り立つ。

 

まあ真守がスカートの前を押さえようと後ろをカブトムシが押さえようと空から飛来した時点で上を向いた闇咲とインデックスにはばっちり真守の下着が見えていたのだが、突然儀式場を破壊された闇咲はそんな事を考えられず、そしてインデックスは上条と真守が駆けつけてくれて嬉しかったのと、同性という事もあってまったく気にしていなかった。

 

「大丈夫か、インデックス?」

 

「──断魔(だんま)の弦」

 

真守がインデックスの下に降り立った瞬間、闇咲は真守に向けて梓弓によって圧縮空気の刃を放った。

真守は右手をとっさに動かして源流エネルギーを生成し、その空気の刃を弾いた。

その瞬間、虹色の煌めきが辺りにまき散らされて闇夜を明るく照らし出す。

 

「無駄だ」

 

真守は歯車が噛み合うガギギギッという音と共に蒼閃光(そうせんこう)(ほとばし)らせる源流エネルギーを手の平で生成しながら、闇咲へと声を掛ける。

 

「お前の力は私には効かないし、お前は私の力を防げない。冥土の土産に聞いてやる。どうしてインデックスを拉致した? やはり頭の中に用があったのか?」

 

「…………抱朴子(ほうぼくし)

 

真守に圧倒的な力を見せつけられて闇咲が絶句するが、真守が歩み寄ろうとしてきているのを感じた闇咲は息を()みながら(うめ)くように呟く。

 

「抱朴子?」

 

「中国文化における不老不死、『仙人』となるための魔導書だよ」

 

「禁書目録の言う通りだ。……私は、あらゆる病や呪いを解く薬を作る『錬丹術』という術式が知りたかった」

 

真守が首を傾げる中インデックスが説明し、インデックスの説明に付け加えるように闇咲は目的を告げる。

 

「……梓弓の効果は医療行為に用いられるってあなたは言ったよね。もしかしてあなたは自分では助けられない人を助けたかったの?」

 

インデックスが問いかけると、闇咲はギリ、と歯噛みしてから自虐的に嗤った。

 

「……ハ。そうだ、私は魔術師になれば何でもできると思って生きてきた。もう二度と挫折したくなかったからだ」

 

魔術師は才能のない人間が才能のある人間へと追いつきたいがためにその道を志す。

だからこそ己の欲に忠実に動き、時には世界を破滅させる事も躊躇(ためら)わない。

真守たちの目の前のいる魔術師も例に漏れず既に挫折しており、劣等感に呑まれて必死に力を求めた。

だからこそ、他の魔術師のように闇咲逢魔は悲痛で切実な願いを口にする。

 

「……死にかけの女一人救えないようでは『なんでもできる』や『挫折したくない』という私の夢に傷がついてしまう。……つまらない、取るに足らないあの女を助けられなければ……。助けてと叫ぶ気力も残っておらず、目視(もくし)に迫る死に対して微笑むしかできない無力な女を救えなければ自分が今まで大事に育ててきた夢が傷ついてしまう。自分の夢に傷がつく事なんて耐えられない」

 

 

「はあ。つまりお前はなんだかんだ言うがその人の事が好きなんだな」

 

 

真守はインデックスの縄を生成したエネルギーで焼き切ってインデックスを解放しながら、闇咲の動機に対して気のない返事をしながら顔をしかめて告げた。

 

「な、何を言っている。私は私の夢のために行動している! 決してあの女のために禁書目録を傷つけるのではない! あんなつまらない女のために罪を犯すのではない! 私は私の夢のために行動しているんだ!」

 

真守は闇咲の意固地になった言葉にぽかんとした後、即座にふふっと噴き出した。

 

「な、何がおかしい……!」

 

「いや、すまない。……っふふっ。お前が本当にその人の事を想っているんだなって思って。思わずそのツンデレっぷりに笑ってしまったよ、ふふっ」

 

「つ。つんでれ……?!」

 

男に対しては不名誉なレッテルを貼られて闇咲が呆然とする前で、真守はくすくすと笑いながら告げる。

 

「自分のためだって何度も言ってるが、それって結局その人に重荷を背負わせたくないからそう言っているんだろう? どうせ『お前のせいで俺が罪を犯したんじゃない。自分のためにやった事だからお前は俺の犯した罪に責任を感じなくていい』とか考えてるんじゃないのか? その人の事、大好きって言っているようなもんだろ、お前……それに、つまらない女つまらない女って言って自分にとってどうでもいいんだって必死に主張するし。くくっ」

 

「だから……あんなつまらない女のためにやっているのではない! 私のためだ!」

 

大の男が遠回りな愛を叫ぶのが面白くて真守が笑っていると、闇咲は違うと(かたく)なに叫ぶが、それは真守の笑いを助長するだけだった。

真守の横でぽかんとしていたインデックスも真守と闇咲の掛け合いを聞き、シスターらしい慈愛に満ちた温かい目で闇咲を見つめる。

 

「ふふふっ。ほーら、そうやって主張する辺りがツンデレなんだ。『べ、別にあんたのためにやってるんじゃないんだから! 絶対、絶対よ!』って言いながら甲斐甲斐しく風邪を引いた意中の男の子を介抱する女の子と、何が違うんだよ」

 

闇咲は突然文字通り()ってきて人の気持ちを確実に言い当ててにやにやと笑う真守を見つめて絶句する。

 

「それは普通の医学では治せないのか? ここは天下の学園都市。お前がその人を本当に治したいと言うのであれば、私が良い医者を紹介してやる。あの人は患者である私に保護者が必要だと判断したら即座に後継人になってくれるような優しい人だ。私が助けてほしい人がいると言えば、自分の得意分野だと率先してお前の大切な人を救ってくれるぞ」

 

「……科学ではどうにもできない。……呪いだ」

 

ひとしきり笑った真守が自分の主治医で恩人である冥土帰し(ヘブンキャンセラー)を紹介しようか、と持ち掛けると闇咲は意気消沈した様子で呟いた。

 

「呪い?」

 

「東洋風に言うなら鏡と剣を使った呪禁道(じゅごんどう)厭魅(えんみ)術、西洋風に言うの出れば類感(るいかん)魔術の一種『類似の呪い』……とりあえず、科学では治せないものなんだね?」

 

インデックスが小首を傾げた真守の代わりに闇咲に問いかけるので、闇咲はそっと頷く。

 

真守はインデックスと顔を見合わせてから、地面で痛みにごろごろと身もだえしている上条を見るように闇咲に(うなが)しながら告げる。

 

「異能由来のものだったらそこで背中を(したた)かに()って魚のように口をパクパクしている男の右手が打ち消せるぞ」

 

「……は?」

 

真守は背中を打って悶絶している上条に近づき、その背中に向けて右手の幻想殺し(イマジンブレイカー)に当たって打ち消されないように位置を調節して衝撃波を放って痛みを打ち消してやる。

どう考えてもショック療法だが、上条は真守の衝撃波を受けて一度咳き込みながらまったく感じなくなった背中の痛みにきょとんとしながら真守を見上げた。

 

「着地くらいできるようにしろ、上条。それだったらいつか死んでしまうぞ」

 

「いつか!? 俺いま死ぬかと思ったけど!?」

 

「ほら、そこの大男。見ていろ」

 

横暴な真守の言い分に上条が声を上げるが、真守は闇咲の方を振り返りながら右手に蒼閃光を(ほとばし)らせて手の平でエネルギーを生成し、上条を見ずに放った。

 

真守が放った源流エネルギーは足を開いて座っていた上条の股のすぐ真下でさく裂し、源流エネルギーによって地面が焼き尽くされた事によりその場にちょっとしたクレーターができた。

 

「うおぉっ!? 上条さんちょっと男として死ぬかと思った股間がひゅんってした!!」

 

「私は今からコイツに向かって同じエネルギーを撃ち出す。ちゃんと見るんだぞ」

 

上条がぷすぷすと自分の一番大事な部分のすぐ下にできたクレーターに体をひるませていると、真守は上条の右手を狙って源流エネルギーを放つ。

 

「うぉおお!? あぶねえェえええ!!」

 

真守の源流エネルギーに本能的な恐怖を感じた上条は叫び声を上げながら、幻想殺し(イマジンブレイカー)で真守の源流エネルギーを打ち消した。

 

「朝槻!? なんか今日ちょっとお前機嫌悪い!?」

 

「疲労がたまっていて誰かをイジりながらじゃないと話ができない。それと早く事を済ませたい。大丈夫だって垣根は言ったけど心配は心配だし……病院で治療受けててあの子、本当に大丈夫なのか……?」

 

「俺を虐めないでくれる!? 後それ完全にお前の都合だし、お前一体何に巻き込まれてたの!?」

 

上条が真守の理不尽な行動に泣き叫ぶ中、真守の破壊力抜群の源流エネルギーを打ち消した上条当麻の右手を見ながら固まっていた闇咲に真守は告げる。

 

「このように。この男の右手は触れただけで『異能』を打ち消す事ができる。呪いだって『異能』だからな。例外じゃない」

 

「本当だよ」

 

真守の言葉が普通ならば信じられないと知っているインデックスは魔術の専門家として闇咲に話しかけて、太鼓判を押す。

 

「まもりが実践したみたいに、とうまの右手はなんでも打ち消しちゃうの。だからその女の人の呪いだって簡単に打ち消せるんだよ」

 

「あ、……まさか。本当に?」

 

闇咲が現実が上手く呑み込めずに困惑していると、真守はフッと微笑んだ。

 

「本当だ。だから問題ない。上条がいればその人は助かる。なあ、上条?」

 

「ああ。アンタの大切な人は必ず助け出す。それには世界でたった一人のアンタの力が必要だ。アンタだって自分の手で助けたいんだろう? だから案内してもらうぜ?」

 

「う、あ…………」

 

真守が上条に笑顔で問いかけると、上条はしっかりと頷いて救いの手を差し伸べた。

闇咲はそんな二人を見つめて声を漏らすと、ぼろぼろと涙を零す。

 

「じゃあ夏休み最後に気持ちよく、ちょっくら人を救いに行くか!」

 

「あ、上条。ごめん、私はついていけないんだ」

 

気合を入れた上条に水を差すようで悪いと思った真守はちょこっと手を挙げて気まずそうに告げる。

 

「え。なんで?」

 

「私、超能力者(レベル5)第一位に認定される事になったんだ。で、そんな人間が今学園都市の外に出ると脱走とみなされて、学園都市が総力を挙げて私を引き戻そうとする。そんな壮絶な追いかけっこ始まったら人助けしている場合じゃなくなるだろ? だから私は行けないんだ、ごめん」

 

「え!? 超能力者(レベル5)第一位!? マジで!?」

 

突然の告白過ぎて上条が目を()く中、真守はトントンと上条の背中を軽く叩いて気合を入れる。

 

「だから一人で頑張って行ってこい。それと、インデックスも行ったら行ったで色々面倒になるからお留守番だ」

 

「え!? 私も行きたいよ、まもり!」

 

真守に行っては駄目だと言われたインデックスが抗議するので、真守はインデックスに向き直ってゆっくり(さと)すように告げる。

 

「お前はイギリス清教が学園都市に預けてる身だ。だから簡単に学園都市の外に出たらマズいだろう? 今日から明日にかけて必要なご飯を好きなだけコンビニで買っていいから、上条の家で大人しく留守番していろ、分かったな?」

 

「本当!? じゃあしょうがないね! とうま、頑張ってきて!」

 

「お前変わり身が早すぎんだろ……。上条さんちょっと悲しい。……朝槻さん、俺にもご褒美で何か買ってくれませんか?」

 

真守の目論見通りにインデックスが餌で釣られている現場を目撃した上条は、インデックスが羨ましくておずおずと真守に提案する。

 

「帰ってきたら何か奢ってやる。だから行ってこい」

 

「よっしゃあ! じゃあ行くぞ……って、アレ。そういやお前の名前はなんて言うんだ?」

 

真守に約束を取り付けた上条はあからさまに元気になって闇咲を見るが、そう言えば闇咲の名前を聞いた事が無かったので上条は問いかける。

 

「……闇咲。闇咲逢魔だ」

 

「そうか、闇咲と言うのか。私は朝槻真守だ。闇咲、上条と一緒にお前の大事な人を救ってこい」

 

真守が柔らかな笑顔を自分に向けてくるので、闇咲はその笑顔に洗われて最後に(こぼ)した涙を(ぬぐ)うと、しっかりと頷いてから応えた。

 

「…………ああ」

 

真守は闇咲の言葉にニッと微笑んで安堵した。

 

(良かった。今日は事件盛りだくさんだったが、全部無事に収束してよかった)

 

真守は垣根から一方通行(アクセラレータ)の方は落ち着いていて今治療を受けていると聞いていたのでそう安堵した。

 

だが実のところ、垣根は真守に衝撃的すぎる事実を隠していた。

 

一方通行(アクセラレータ)

彼が脳に損傷を受けてしまい、現在生死を賭けた緊急手術が行われているという事を──。

 

朝槻真守は、まだ知らない。

 

 

Aug.31_PM10:59終了

 




闇咲さんはどう頑張ったってツンデレです。異論は認めます。

そして垣根くん、真守ちゃんに大事な事伝えてません。
まあ同じ病院ですので遅かれ早かれバレるんですけれどね。




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。