とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第五四話、投稿します。
次は一〇月五日火曜日です。


力量装甲篇
第五四話:〈依存継接〉はお互い様


理解不能な事態が目の前で起きていた。

 

真守が死の淵から強引に引き戻した結果、AIM拡散力場を自身の肉体と認識してAIM思念体とも言うべき姿になった源白深城が何故か年相応の姿を取って自分の目の前にいる。

 

何が起きたか理解できずに真守が呆然としていると、深城はスッと立ち上がって真守へと近づいてきた。

ビクッと真守が肩を揺らすと、深城は安心させるように柔らかく微笑んだ。

 

「真守ちゃんにもう一度触りたいってずっと思ってた」

 

深城は真守の右手をそっと握って自分の頬に誘導すると、スリッと頬を()り寄せて微笑む。

その柔らかな頬の感触とその温かみで、深城が実体を得てここに立っているのだと気が付いて、真守は驚愕する。

 

「そうしたら体が突然できたの。びっくりだねぇ」

 

深城が花を周囲に咲かせるような笑みを浮かべて自分を見つめてくる。

真守は深城の頬に触れていた手はそのままに、自分のもう片方の手を深城の反対の頬に這わせる。

そっと両手で深城の頬を包み込むと深城は幸せそうに目を細めた。

 

「えへへ~」

 

深城が心底幸せそうな表情をする前で、真守はふにふにと深城の頬を触っていたが、次の瞬間、深城の両頬を思いきりぎぎぎぎーっと引っ張った。

 

「ん!? い、いひゃいいひゃい(痛い痛い)いひゃいっへばまもりひゃん(痛いってば真守ちゃん)!!」

 

「……お前、一体何をしたんだ」

 

「へう?」

 

真守の地を這うような声に、深城はきょとんとしながらも反応する。

 

力量装甲(ストレンジアーマー)はAIM拡散力場を凝縮、圧縮して体に(まと)わせる能力だ。つまりAIM拡散力場をある種物質化してるとも言える。それをお前は応用して体に仕立て上げたのか?」

 

真守の追及に深城は頬を引っ張られたまま懸命に言葉を紡ぐ。

 

ひゃからまもりひゃん(だから真守ちゃん)いもういっかいさわへたら(にもう一回触れたら)いいふぁっておもっふぇ(いいなって思って)はらへにひれ(たら手に入れ)られまひた(られました)

 

「私に触れたいって思ったら手に入るモノなのかこの体は! だったらこの圧倒的な胸部装甲はなんだ!? 妄想か!? 妄想なのか!? お前の絶壁は一体どこ行った!!」

 

ぎぎぎーっと深城の頬を引っ張りながら真守は目線を深城の顔から下に向けて、たわわに実った自分よりも大きい深城の巨乳を睨みながら叫んだ。

 

「へぅ!?」

 

「おかしい……深城の胸がこんなにデカいなんておかしい……わ、私の深城がどっかに行ってしまった。……待て、AIM拡散力場は自分だけの現実(パーソナルリアリティ)という能力者の本質が現れてくる。……ということはその本質というものには自身の本来あるべき姿が関係しているのか? だったら深城のこの姿は本来あるべき姿であり、まさか深城の体の成長が停まらなかったらこうなっていたとでも言うのか……!?」

 

真守は深城の頬を引っ張りながら深城の謎の肉体について考察するが、自分の中の深城と目の前にいる深城がうまくかみ合わずに思わず動揺してしまう。

 

「ふもーまもりひゃん(真守ちゃん)いひゃいからはなひて(痛いから離して)!」

 

そんな真守の前で、深城は力量装甲(ストレンジアーマー)を展開してパパパリッという音を体から響かせた。

 

深城の力量装甲(ストレンジアーマー)はどうしたって真守の源流エネルギーの下位互換なので、真守の身に(まと)っているシールドによって弾かれるはずだ。

 

だが次の瞬間、何故か真守が一方通行(アクセラレータ)とぶつかった時に似た衝撃が真守と深城両方に入った。

 

バツン! という音が響いて真守と深城は弾かれるように吹き飛ばされる。

 

「いったあーい!」

 

深城はドテッと尻餅をつくが、真守は数歩後ろに下がってバランスを上手くとって地面にしっかりと立つ。

 

研究所時代、深城は能力の特性故に力は強いがはっきり言って運痴だった。

どうやら新しい肉体を得てもそれは同じらしく、まったく受け身を取れていない様子で、深城はお尻から腰にかけて走った痛みに耐えていた。

 

「……一方通行(アクセラレータ)と競合した時は感覚に衝撃が叩きこまれただけだったのに、今のは確実に物理的な痛みだった。……私が深城にエネルギーを注ぎ込み続けてる関係でパスが作られているから私のシールドと深城の力量装甲(ストレンジアーマー)が変な干渉を起こしたのか……?」

 

真守は自分の感覚に走った衝撃と、じんじんと物理的な痛みが走る両手を見つめながら呆然とする。

 

「いたたた…………ふっふーん。まーもりちゃあああああん!!」

 

深城はお尻を押さえながら立ち上がると、ババッと両手を広げて真守に抱き着いた。

 

「ぐえっ」

 

真守はやけに俊敏(しゅんびん)な動きをする深城にぎゅぎゅーっと抱きしめられ、カエルが潰れた時に出すような悲鳴を上げた。

 

「真守ちゃん! 真守ちゃん! かわいい真守ちゃんに触れられてあたし幸せ!!」

 

「む、胸……圧倒的なボリュームの、胸で、圧し潰され……っ」

 

深城が真守の頭をぎゅーっと自分の胸にうずめる形で抱きしめてくるので、真守は柔らかながらも確かな凶器である深城の胸に顔が圧し潰されてうめき声を上げる。

 

「真守ちゃん、これからはどこに行っても一緒だからねえ」

 

「お前がヒマしているだけでこれまでも一緒だっただろ……」

 

深城が幸せそうにうっとりと呟くので、真守は深城のふにふにと柔らかい胸を押しのけながら声を漏らす。

 

「えへへ~それとこれは違うんだよぉ」

 

「……そう」

 

深城をAIM思念体にしてしまったのは真守だ。

だから自分に触れられるようになって嬉しがる深城を至近距離で感じて、真守は罪悪感が(つの)る。

 

「真守ちゃんが気にする事じゃないよ。だってあたしのお願い叶えてくれたでしょう?」

 

「……うん」

 

深城は真守の気持ちを汲み取って微笑むが、真守は気落ちしたままだった。

 

「……あ、そぉだ! あたし、人の顔が分かるんだよ! だから真守ちゃんにお願いがあるの!」

 

自分の言葉が慰めにならないのが少し寂しくなりながらも、深城は真守の気持ちを切り換えさせるために話題を変えた。

 

「なに?」

 

「垣根さんに会いたいな!」

 

真守は深城のお願いを拒絶する気持ちなんてない。深城をAIM思念体にしてしまったのは真守の責任だからだ。

だから真守は深城のお願いを叶えるために、病室から出て深城の手を引いて垣根の下へと向かった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「え~!! 垣根さんって背ぇ高いんだね~写真より生で見る方がイケメン~!! すっごい人見つけたねえ真守ちゃん!! 真守ちゃんアイドル顔でお猫さまだからそんじょそこらの人だと隣にいると引き立て役にしかならないけど、相乗効果で二人共輝いてみえるよぉ!!」

 

垣根は輝かんばかりの瞳と恍惚(こうこつ)とした満面な笑みを深城に向けられて困惑していた。

 

「真守ちゃんと一緒にいてくれてありがとぉ!! あたしもこれから垣根さんと仲良くしたいなあって思ってて、よろしくねぇ!!」

 

「深城、あんまり垣根に詰め寄らないで」

 

「垣根さんって真守ちゃんの一個上なんだよねえ? 歳の差的にばっちり!! 真守ちゃん良い人見つけたねえ! エリート様でイケメンなんて! 真守ちゃんのこと大事にしてくれてるなら、あたしもう感無量だよぉ!! え~嬉しいなあ嬉しいなあ! 垣根さんって真守ちゃんの事一目惚れだったぁ?」

 

真守の制止(むな)しく深城はマシンガントークで喋り続け、直球過ぎる質問に真守は顔をかーっと赤く染める。

 

「…………いや、別に、」

 

垣根がぐいぐい迫ってくる深城に気圧されていると、深城は顔を輝かせたまま垣根のドン引きなんて気にもせずに喋り続ける。

 

「あたしは一目惚れだったよぉ!! 真守ちゃん研究所時代はずぅっと能力開放してて、お人形さんみたいに無表情だったからもうお猫さまのお人形みたいでぇ! もう、ほんっと可愛くて抱き着いちゃったんだぁ! 真守ちゃんに自己紹介してって言ったら、『何だこの世に存在しない生物は』って目で見てきてねえ! そこで初めて感情が乗った真守ちゃんの瞳見られて、あたし嬉しくって思わず頬ずりしたら流石にぐいーっと手で顔を押しのけられちゃったぁ!」

 

これまで散々自分の外見に惹かれた女に黄色い声を上げられて迫られて来た垣根だったが、黄色い声で誰かの惚気(のろけ)を延々と自分に垂れ流し続ける深城のようなタイプは初めてなので、どう対応したらいいか分からない。

 

しかも真守がこの世で最も大切にしたいと思っている女の子なので、下手な事はできない。

それに加えてこの少女、悪意や下心が欠片も感じられないので尚更どうしたらいいか分からない。

 

垣根が困惑していると、真守が垣根の困惑を受け取って深城の襟首(えりくび)を掴み、垣根から引っぺがす。

 

「ちょっと落ち着いて」

 

「え~やだぁ! 真守ちゃん以外とずっと話してなかったからもっとお話しする~!」

 

「垣根は逃げていかない。それと夜遅いから静かにしろ」

 

深城がぶーぶー文句を垂れるので真守はため息を吐いてから深城をジロッと睨み、至極真っ当な注意をする。

 

「は~い」

 

深城は真守の首根っこを掴まれたまま先生に(さと)された教え子のように素直に返事をした。

 

「み……源白深城ってこんななのか……」

 

「昔からそう。最初から距離感がバグってる子だった」

 

真守の忠告を受け入れてにこにこしている深城を見て垣根が(うめ)くと、真守は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら先程思い出した深城との出会いを再び思い出しながら呟く。

 

「……そりゃあ情操教育受けさせられるほど人間に興味なかったお前が心開くのも頷けるな……」

 

「うっうっ……! 真守ちゃんが他の人とお話している姿がちゃんと見られてあたし嬉しい……! 昔はあたし以外とお話しなんてしなかったのにぃ……嬉しいなあ嬉しいなあ!」

 

垣根と真守が話をしていると突然深城が感涙でむせび泣く真似を始める。

そして次の瞬間、深城は真守の方へぐるっと体を向け直すと、ぎゅーっと抱き着いた。

 

「ぐえっ」

 

真守はカエルが潰れた時に発する悲鳴を上げる中、深城は幸せそうに真守をぎゅうぎゅう抱きしめる。

 

「真守ちゃん真守ちゃん真守ちゃーん!」

 

「く……苦し…………っぷはっ! っだからその胸部装甲が凶悪なんだよ! 抱き着いてもいいけど私の顔を胸にうずめさせるな! 後、頭を撫でるなら垣根みたいに髪が崩れないように優しく撫でて! そうじゃなきゃダメ! もうっ……撫でるなぁっ!」

 

「…………源白、お前はある意味一番ヤベエよ」

 

深城の事を大事に想っている真守は深城に対して下手に強気な態度を取れない。

物静かなあの真守が()れた弱みに付け込まれて深城に翻弄(ほんろう)されている様子を蚊帳の外で見ていた垣根は、思わずそう(こぼ)した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

深城に突如訪れた異変によって完全に寝るタイミングを逃した真守は、疲れた様子のまま一人で林檎の検査結果を馴染みのナースに聞いていた。

 

垣根は木原相似の後始末についての報告があったので席を外しており、深城はマンモス病院を自分の足で探検したいと言ってふらふらとどこかへ行ってしまった。

 

病院から出るなときつく言っておいたので多分問題ないが、深城が何よりも大事な真守は心の底から深城を心配していた。

 

そんな心境の中真守がナースに話を聞けば、林檎は栄養失調気味で免疫が落ちているのと、実験の後遺症が心配なため定期的な検査とその都度(つど)対応した治療が必要だが、真守と一緒に冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が確保する住居に一緒に行けるだろうと言われた。

 

「真守くん。どうやら学校から連絡があったみたいだよ?」

 

真守がナースと別れると、丁度冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が廊下を歩いて真守の下へとやって来た。

 

「先生。芳川桔梗の手術は終わったのか? というかこんな時間に学校から連絡が?」

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は今の今まで一方通行(アクセラレータ)と共に打ち止め(ラストオーダー)を救おうとして負傷した芳川桔梗の手術を行っており、それが終わったのだろうか、と真守は純粋に気になって問いかけた。

 

「うん。問題なく終わったよ? それで連絡の方だけど、明日の一二時付けでキミが

超能力者(レベル5)に承認されるという連絡で、色々と手続きがあるから早めに登校するように、という事だったよ?」

 

「……承認まできっかり一二時間。私が前回承認を蹴ったから、ギリギリまで隠して私が動き出す前に承認してしまえって魂胆だな、きっと」

 

真守が上層部の思惑を考えて苦々しげに表情を歪ませて呟くと、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が困ったように笑みを浮かべる。

 

「上層部はどんな手段を使ってもキミを第一位に()えたいようだからね?」

 

「……ずっと監視されてたからそれは前から分かってた」

 

「まあ、正当な判断だと思うけどね? ああ、それと早めの登校とは学校の開門と同じくらいが好ましいとキミの担任は言っていたよ?」

 

「確か開門は七時一五分だったかな。分かった。気が向かないけどちゃんと行く」

 

「そうするべきだね? じゃあ僕は一方通行(アクセラレータ)の手術に行くよ? まだまだ難航しているらしいからね?」

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は真守に伝える事を伝えて去ろうとすると、真守は冥土帰しが身を(ひるがえ)してしまう前に頭を下げた。

 

一方通行(アクセラレータ)のことお願い、先生」

 

「勿論だ。……キミから彼の話は聞いていたけど、ずいぶんと優しい子だね?」

 

一方通行(アクセラレータ)は芳川桔梗の命を繋ぐために、意識がない状態でずっと演算を続けていたのだ。

その事に関して優しいと冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が告げるので、真守は柔らかな笑みを浮かべてから頷く。

 

「……そう、あの子は優しいんだ。優しいから人を傷つけるのが怖くて人を遠ざけてたんだ。私にとって大事な子だからあの子のことお願い、先生」

 

真守は一方通行(アクセラレータ)の事を想って笑うと、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)はしっかりと頷いた。

 

「僕を誰だと思っているんだい? あそこは僕の戦場で、僕はこれまで患者と共に何度も生還してきた。──もちろんだよ」

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)はそう言って真守を安心させると、そのまま真守と別れて廊下を歩く。

 

 

「あなたが、あたしの先生なんですか?」

 

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が歩いていると、目の前に深城が立っており、深城は突然そう訊ねてきた。

 

「人づてに聞いたよ。本当にその体はAIM拡散力場で作られているのかな?」

 

「うん、()()()()()。……先生なら分かるよね。全部()()()のせいなの」

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は深城の言葉に目を薄く見開いてから一つ頷く。

 

「……まあ、そういう事が()にはできるね?」

 

「真守ちゃんには秘密にしてほしいの。お願いします」

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が頷いたのを見ると、深城は頭を綺麗に下げる。

 

「それでいいのかい?」

 

「……真守ちゃんに残された時間は少ないから。それにどうにもできない事だってあるよ」

 

深城が寂しそうに呟くと、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)はフム、と一つ頷いてから頭を上げた深城に笑いかけた。

 

「……キミの気持ちは分かったよ?」

 

「ありがとう、先生。それにいつもあたしの体を大切にしてくれてる事もお礼言いたかったの。いつもありがとうございます。これからもよろしくね」

 

「キミも真守くんも僕の患者だ。だから当然の事をしているまでだね?」

 

深城がに感謝の気持ちを伝えると、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)はそれが普通であると深城に教える。

 

「でもでもありがとう! あたし真守ちゃんのところに行くね! じゃあね!」

 

深城はにへらっと微笑んで冥土帰し(ヘブンキャンセラー)へと手を振った。

 

「やれやれ。一体どちらがどちらを繋ぎ留めているんだろうね?」

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が一人で呟いていると、病院の廊下の向こうから潰れたカエルのような真守の悲鳴が聞こえてきたので、冥土帰しは思わずにっこりと微笑んだ。

 




深城の破壊力が凄まじい。そして真守、深城が大切なので結局やりたい放題させてしまうと言う。
垣根くんそれを見て呆然。

そして少し不穏な雰囲気が流れてきました。
AIM拡散力場というとあの人間が必要としている力ですのでそりゃ介入してきますよね……。

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