とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第五五話、投稿します。
次は一〇月六日水曜日です。


第五五話:〈立場一新〉で変わりゆく日常

翌日、九月一日。

真守は自分の高校のセーラー服を着て林檎の病室の前に来ていた。

 

「垣根、林檎のことお願いな? 私も手続きが終わったら合流するから」

 

「飯と服与えりゃいいんだろ?」

 

真守が垣根を見上げて両手の平を胸の前で合わせて懇願(こんがん)すると垣根は大雑把に答えた。

 

今日の一二時付けで超能力者(レベル5)第一位に承認される真守は諸々の手続きがあって学校に行かなければならない。

そこで問題になってくるのは誰が林檎の面倒を見るかで、真守は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも垣根に林檎を預ける事にしたのだ。

 

「いや、それはそうなんだけど適当な言い方だな。……でも私は垣根に頼む立場だし、垣根は優しいから大丈夫だし。……大丈夫だよな?」

 

真守が不安になって眉を八の字にして垣根を見上げると、垣根はため息を吐きながらも真守を安心させるため真守の頭に手をポンと乗せる。

 

「大丈夫だ。気にしないでお前はちゃんと手続きしてこい」

 

小さな子供の面倒を見るなんてごめんだが、始業式に出る気持ちが微塵もないのでどうせ時間があるのと、何よりも真守の頼みなので垣根には断る理由がなく、そう告げて真守を安心させる。

 

「うん、お願い」

 

真守は垣根に頭を撫でられて目を細めながら安心してふにゃっと笑った。

 

「……それよりアレのお守は大丈夫なのか?」

 

垣根がビッと親指を立てて真守の視線を誘導したのは、少し扉が開いた病室の中で林檎と話をしている深城だった。

 

深城はほわわーんとした雰囲気で林檎の事を包み込んでおり、林檎も深城の明るい雰囲気に触発されて無表情に近いがそれでも穏やかな顔つきをしていた。

 

「垣根と林檎と待っているように言ったんだが……私と一緒に学校に行くって聞かないんだ。それに連れて行ってくれないなら一人で行くって言うし、しょうがないだろ」

 

真守は幸せそうに微笑む深城を見つめながらため息を吐く。

 

人の顔が認識できるようになった深城は、真守と一緒に学校に行って真守のクラスメイトの顔を見たいと言い出したのだ。

真守は超能力者(レベル5)についての諸々(もろもろ)の手続きがあるため深城に構っていられないのでまた今度と優しく(さと)したのだが、深城はむくれて『真守ちゃんが連れて行ってくれないなら一人で行く!』とだだをこねた。

 

深城の子供のようなわがままっぷりを見ていた垣根は『……アレが一八歳だと?』と(いぶか)しんでいたが、五年間も真守以外と接してないと精神年齢も成長してないよな、と納得して深城に手を焼いている真守をどう手助けすればいいかわからないので、傍観(ぼうかん)するしかできなかった。

 

「……まさか源白が真守を上回るじゃじゃ馬娘だとは思わなかった」

 

たった数時間だけで真守を好き勝手振り回す深城の恐ろしさを目の当たりにし、垣根は思わずそう零す。

 

「私は別にじゃじゃ馬娘じゃない」

 

「じゃあ俺の言う通りにどこにも首突っ込まないで大人しくしてろ」

 

真守がムッと口を尖らせると、垣根は真守のおでこを人差し指で弾きながら告げた。

 

「イタッ。……垣根のバカ。お前の言う通りになんかしてやんないっ! 大体私は別に首突っ込んでない。やらなくちゃいけない事やってるだけだ!」

 

「そういうところがじゃじゃ馬娘だっつってんだよ……!」

 

真守がおでこを両手で押さえながら顔をしかめて(わめ)くと、垣根は片眉を上げて苛立ちを示す。

 

「真守ちゃん! お話終わったぁ?!」

 

「ぐえっ」

 

垣根が真守をどうしようか考えていると深城が少し開いていた病室の扉をばーっんと開けて突然現れ、真守に流れるような動作で抱き着いてくるので、真守は本日何度目か分からないカエルが潰れた時のような悲鳴を上げてしまう。

 

「早く学校行こぉー!」

 

深城は口から魂が抜けて遠い目をしている真守をひょーいと軽く抱き上げると、自分を中心に真守をくるくると振り回す。

 

「やめろっ回すなっー! ……お前っ力はっあるくせにっー運動神経がっ極端に低いからーっ怖いんだよーっ!」

 

真守は深城の運動神経が信用ならずにぐるぐる回されながら悲鳴を上げて待ったをかける。

 

「じゃあ垣根さん行ってきまーす!」

 

それでも深城は好き勝手真守を振り回して地面に降ろすと、ぎゅっと抱きしめて垣根に向かってぶんぶんと手を振ってから真守をずるずると引きずって去っていった。

 

「…………おう。……まあ、なんだ……頑張れよ、真守」

 

「ううっ……ペースが崩される……でも深城がすっごく喜んでるから何もできないー……」

 

垣根は真守の遠くなっていく泣き言を聞きながら、大変だなあと他人事のように思っていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「いい? 深城。お前の本体と私がパスで繋がってるからなのか、私には今のお前の位置も大体わかる。それでも絶対に遠くに行ったら駄目だからな。……それと! 私のクラスメイトにはツンツン頭で人畜無害そうな上条当麻という男がいるが、ソイツの右手は異能ならばなんでも打ち消す幻想殺し(イマジンブレイカー)と呼ばれるモノだ。近づくときは絶対に気を付けろよ、危ないんだから!」

 

真守は昇降口で腰に手を当てて少し前かがみになって深城を見上げて、真守はゆっくりと注意事項を告げる。

 

「右手……幻想殺し(イマジンブレイカー)……? ああ! あたしの体消してる子かなあ?」

 

「……あいつ、AIM拡散力場も打ち消しているのか。最強だな」

 

真守が幻想殺し(イマジンブレイカー)すごすぎる、と思っていると深城は他人事みたいに微笑む。

 

「ねえ。すごい子だねえ。で、その子の何が危険なのぉ?」

 

「……お前のその体は頭のてっぺんからつま先まで異能の力でできている。だから今のお前の体にアイツが右手で触れたらお前のその体は消し飛ぶだろう。それだけならいいが、もしかしたらお前の命に関わるかもしれない。ここまでは分かるか?」

 

「うん、なんとなく?」

 

真守はいまいち理解していない様子の深城をジト目で睨みながら言葉を続ける。

 

「だから保険として力量装甲(ストレンジアーマー)を展開しておくんだ。……アイツの不幸は主に女の子を巻き込むから心配なんだ。だからちゃんと能力を展開させておくんだぞ。そしたら上条に不意の接触をされても力量装甲(ストレンジアーマー)が打ち消されるだけで、お前の体には届かないからな。確かにお前は異能力者(レベル2)だけど、今回に限って強度(レベル)はどうでもいい。分かるか?」

 

「うん。分かった!」

 

真守の注意に深城は笑顔で親指をグッと立てて頷く。

 

「……本当に分かってるのか?」

 

まったく信用ならない深城をジト目で(にら)みつつ、真守はため息を吐いてから深城と別れて職員室へと向かう。

 

 

──────…………。

 

 

 

「失礼しま、」

 

パンッ!

 

「わっ」

 

真守が断りを入れながら職員室の扉を開けると、破裂音と共に自分の体へとテープが降りかかってきたので、そのテープを自分の身に(まと)っているシールドで焼き切る。

 

「朝槻ちゃん、おめでとーございますです!」

 

蒼閃光(そうせんこう)(ほとばし)った中真守が目を(またた)かせていると、小萌先生が真守の前にやってきて笑顔で真守の事を祝ってきた。

 

「朝槻ちゃんが超能力者(レベル5)として承認されるの、先生はずっと待っていたのですよ」

 

小萌先生はクラッカーを持ったまま(うる)んだ瞳で真守を見上げて微笑む。

 

超能力者(レベル5)に承認されて利用されるのが嫌で真守は承認を蹴ったが、それを知らない小萌先生はずっと真守が正当な評価が下る事を願っており、小萌先生のその想いを聞くたびに真守は胸が苦しくなっていた。

 

「…………ありがと」

 

自分が望んでいなくとも、小萌先生が自分の事を想って超能力者(レベル5)承認を望んでいたという小萌先生の気持ちを真守は受け取って、その賞賛に少し寂しそうな顔で微笑む。

 

「で、手続きって何すればいいの?」

 

「朝槻ちゃんが超能力者(レベル5)として承認されるので、まずは学生の援助組織さんについての契約を更新しないといけないのですよ。それと朝槻ちゃんには専門の分析機関や研究機関が付きますからねー。後、緊急身体検査(システムスキャン)しなくてはいけませんし、やる事が山積みなのですよーっ?」

 

小萌先生は机の上に置いてあった三〇㎝ほどの高さの書類を指さす。

 

「これで全部?」

 

「これだけじゃないのですよ、応接室にもたくさんありますよーっ」

 

真守が書類の多さにげんなりしていると、小萌先生はよいしょ、と小さい両手に大量の書類を持つので、真守は顔をしかめながらも小萌先生が持った書類を半分貰うと、二人で応接室へと向かう。

 

「今日は転校生ちゃんがいますから先生は途中で抜けますが、朝槻ちゃんは始業式に出ないでちゃちゃっと終わらせちゃってくださいね。朝槻ちゃんの頭脳なら午後までかからないと思いますし」

 

「……転校生?」

 

「はい、姫神秋沙ちゃんなのです。霧ヶ丘女学院からの転校生ちゃんですよ」

 

真守が転校生という言葉に首を傾げていると、小萌先生がつらつらと転校生について説明してくれる。

 

「……確か上条が助けた女の子で、吸血殺し(ディープブラッド)とかいう珍しい能力者だったな。力を抑えたから学校にいられなくなったとかなんとか上条は言ってたっけ。……そうか、霧ヶ丘だったのか。私もそうだが、先生は特殊な事情を持つ手のかかる生徒が本当に好きなんだな」

 

「なっ! 生徒さんに対して好きとか嫌いとかなんてないですからねーっ! ただちょっとダメな生徒さんのお世話をしたくなるだけであって、そこまでではないんですから!」

 

「それは出来の悪い生徒が大好きって言っているようなもんだが。というか自覚があったんだな……」

 

真守は小萌先生の言い分を簡潔にして呟くと、小萌先生を見つめて呆れたように微笑む。

 

「先生。いつも私のために頑張ってくれてありがとう」

 

「む。何を言っているのですか、朝槻ちゃん。生徒のために先生ができる事をするのは当然なのです。では朝槻ちゃん、応接室の扉開けてくださいですー。ちゃっちゃと終わらせちゃいましょう」

 

小萌先生は少し怒り気味になりながらも最後は笑って真守を(うなが)す。

 

「うん」

 

真守は柔らかく微笑んで応接室の扉を開けると、小萌先生を先に中へと入れて自分も入っていった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

深城は校舎内を隅々(すみずみ)まで渡り歩いた後、食堂へと来ていた。

 

学校に登校する学生を昇降口で見ていた深城だったが、ホームルームが始まってみんな教室に引っ込んでしまったので暇なのだ。

 

(ほぇー。真守ちゃんが全く興味ないから来た事なかったけれど、学食ってこんなに色々あるんだなぁ。あたしも今なら真守ちゃんと一緒にご飯食べられるから、真守ちゃんが食べられない分あたしが食べてあげて一緒に食べたいなーっ)

 

厨房で調理音が響く中、深城は食券販売機の前に立って豊富なメニューの種類を見てにこにこと真守の事を考えて微笑んでいた。

 

「あなたは誰? こんなところで何してるの?」

 

「え?」

 

だが突然声をかけられて深城が振り向くと、そこには金の装飾が施された真っ白な修道服を着こんだ銀髪碧眼の少女が胸元に三毛猫を入れて、そしてその両手に二千円札を持って立っていた。

 

「あたしは源白深城。シスターさんのお名前は?」

 

「インデックスって言うんだよ。よろしくね、みしろ!」

 

深城がにこーっと微笑んで自己紹介をすると、きょとんとしていた少女──インデックスは深城の笑顔を受けてにぱっと微笑んだ。

 

「よろしくねえ。インデックスちゃんはどうしてここにいるの? もしかして転校生なのかな?」

 

「とうまがお昼ご飯準備してくれてなくて教室まで行ったんだけど、こもえに追い返されちゃったんだよ。でも、こもえが二千円札くれたんだよ!」

 

深城が優しく問いかけると、インデックスはムッと口を尖らせて不満を口にするが、貰ったお金を深城に見せつけるかのように前に出して笑った。

 

「とうま? もしかして上条当麻くんの事?」

 

「とうまを知ってるの?」

 

深城が真守から聞いた『要注意人物:上条当麻』を思い出しながら首を傾げると、インデックスも一緒に首を傾げた。

 

「うん。真守ちゃんが教えてくれたんだあ。上条くんとインデックスちゃんは仲良しさんなんだねえ」

 

「みしろ、まもりのことも知ってるの?」

 

インデックスが真守の名前が出て目をまん丸にして見開くと、深城は胸を張って得意気に答える。

 

「うん、そうなんだよぉ。あたしにとってこの世の誰よりも大切な子なの。インデックスちゃんも真守ちゃんの事知ってるんだねえ!」

 

「そうなんだ、素敵だね! まもりはね、私のことをとうまと一緒に助けてくれたんだよ!」

 

インデックスは真守に助けてもらった事があると聞いて、深城は目を見開いてから幸せそうに微笑んだ。

 

「じゃあ、あたしと一緒だねえ」

 

「みしろもまもりに助けてもらったの?」

 

「うん。それでね、ずぅっと一緒にいてくれるって約束してくれたの。だから、ずぅっと一緒にいるんだぁ」

 

インデックスが小首を傾げると、深城は胸に手を当てて世界が終わっても絶対に破らないと誓った真守との約束をインデックスに大事だと言わんばかりに優しい声で伝えた。

 

「……私も、とうまとずっと一緒にいたいな」

 

「叶うよっ!」

 

インデックスのささやかな願いを聞いて、深城はにへらっと笑うとインデックスに抱き着いて彼女の頭にほおずりしながら甘い声で告げる。

 

「一緒にいたいってお祈りしておけば大丈夫。だってあなたシスターさんなんでしょぉ? シスターさんはお祈りを神さまに捧げて願いが叶いますようにするって真守ちゃんから聞いた! お祈りすれば神さまは叶えてくれるんだよね。だったらお祈りすれば大丈夫!」

 

インデックスは記憶を消去されているので昔の記憶がない。

 

そのため記憶喪失になってから女の子に初めて抱きしめられたのでびっくりしながらも、深城の言葉に幸せそうに微笑みながら頷く。

 

「……みしろの言う通りだね。私たち修道女はそうやって教えを広めてきたんだ。祈りは届くから。絶対に」

 

「うん! ……あ、そうだ。あたしは真守ちゃんのこと待ってるんだけどね。インデックスちゃんもあたしと一緒に上条くんのこと待つ?」

 

インデックスのしみじみとした言葉を聞いて深城は周囲に花を振りまくような笑顔を浮かべてインデックスから体を離しながらそう提案する。

 

「うん! 一緒に待つんだよ!」

 

「じゃあ、丁度ここは食堂で椅子があるし、座って待ってようか!」

 

インデックスが自分の提案に笑顔で頷くので、深城はインデックスの手を引いて、二人で話をするためにゆっくりと食堂の中へと入っていった。

 




二学期に入りました。

活動報告やこの小説の注意事項でも書きましたが、『流動源力』には『人工天使』である風斬氷華が出てきません。
ですがアレイスターはアドリブを利かせているだけで、AIM拡散力場を制御するために風斬氷華の『計画』について考えていました。
それが話の骨組み的には登場しませんが、設定を多数取り入れているという注意事項の理由です。

作者も風斬氷華というキャラが好きなのですが、深城と立ち位置が被っているので泣く泣くこの方針を取る事に致しました。
風斬氷華ファンの方には申し訳ありませんが、二次創作の一種としてお楽しみいただければ幸いです。
……まあ、それが多方面に喧嘩を売っている作品と作者が自称する理由でもありますが……。
これからも『流動源力』の投稿は続けさせていただきますので、ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。


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