とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第五九話、投稿します。
次は一〇月一〇日日曜日です。


第五九話:〈不穏分子〉が詰め寄って

「やっと二二学区についた……」

 

「と、統括理事会が顔写真付きで公表するからこういう事になるんだよ……っ」

 

上条と真守は顔に明らかに疲労を見せて第二二学区の地下街にまでやって来ていた。

 

四人が街中へと繰り出した最中、真守が超能力者(レベル5)として承認された事を知った学生や大人たちに真守は取り囲まれてしまったのだ。

 

声を掛けてくるのは主に研究所所属や企業の大人で、学生たちの多くは野次馬的に人垣を作って真守の盗撮をしていたくらいだが、中には名門校の制服を着て話しかけてくる猛者もいた。

 

盗撮も勿論駄目だが、声をかけられてくるよりよっぽど良いくらいに真守は迷惑していた。

 

人混みに呑まれた上条がどんぶらこっこどんぶらこっこと流されて遠ざかっていた時はどうなる事かと思ったが、頑張って回収して野次馬を振り切り、四人は地下街へとやって来た。

 

「ごめんな、インデックス。移動に時間がかかってしまって昼食が遅くなって」

 

地下街の(すみ)っこの人気がない場所までやってくると、真守はインデックスに申し訳なさそうに声を掛けた。

 

「問題ないんだよ! みしろが『たこやき』っていうの買ってくれたから! 外がカリッカリで中がとろーっとしてて、入ってる魚介? がおいしいんだよ!」

 

インデックスは手に乗っている木目調の紙である船に乗ったタコ焼きを(かか)げながらにっこりと満面の笑みを浮かべる。

 

「んふふ~真守ちゃんが人に囲まれている間にインデックスちゃんに何か買ってきてって真守ちゃんがお金くれたんだよ~」

 

深城は真守の気遣いをインデックスに伝えると、インデックスはパクッとタコ焼きを食べながら目をきょとんと見開いてからにぱっと笑った。

 

「そうなの? まもりありがとう!」

 

「迷惑をかけてしまったからな。これくらい安いぞ、大丈夫」

 

インデックスが笑顔で自分にお礼を言うので、真守は柔らかく微笑んでインデックスに声を掛ける。

 

そんな真守の隣で深城が人差し指を立ててニコニコと笑顔で講釈を垂れる。

 

「ちなみにちなみに、中に入ってるのはタコって言うんだよぉ。タコ焼きのタコって魚介のタコの事だからね~」

 

「で、デビルフィッシュ!? ……あんなぐなぐなしたのがおいしく調理されるなんて、日本文化は凄いんだよ……!!」

 

インデックスは手に持っている船に乗ってる残り三つのたこ焼きを見つめながら愕然とする。

 

「でびるふぃっしゅ?」

 

「タコの事だ。外国ではデビルフィッシュ、直訳のまま悪魔の魚って呼ばれてるんだ」

 

上条が首を傾げたので真守が説明すると、上条はその意味に引っかかりを覚えて真守に質問する。

 

「オクトパスじゃなくて?」

 

「通り名とか俗称みたいなモンだな。……そうだな、ライオンの事を百獣の王って言うのと同じだ」

 

「あだ名ってことか。へえー。外国でもそういうのあるんだなあ」

 

真守の説明に、上条は納得したように何度も頷いて感心する。

 

「さて、これからどうしようか。お前たちだけで先に食事に行くか? 私がいたらまた人混みができるだろうし……」

 

「いやいや。奢ってもらうのに先に行くのはちょっとなー」

 

第二二学区まで来るのに上条に苦労させてしまったので、真守は既に上条に昼食を奢ると言っており、上条はその事を気にしながら呟く。

 

「こら、そこのあなたたち!」

 

真守と上条が今後の方針について考えていると、女子高生がこちらに駆け寄って注意してきた。

 

真守と上条が女子高生に目を向けると彼女は風紀委員(ジャッジメント)の腕章をつけており、風紀委員の仕事に従事している最中らしい。

 

「さっきも風紀委員(ジャッジメント)に人混み作るなと言われたが、あっちから勝手に寄ってくるだけだ。だから私たちに悪気はないぞ」

 

真守は先程、自分を取り囲む人垣が大きくなりすぎて風紀委員(ジャッジメント)が出張してきた事を思い出しながら顔をしかめて風紀委員の少女に声をかける。

 

「……? 何を勘違いしているのか知らないけれど、私が注意しているのはあなたたちを避難させるためよ! 早く逃げなさい、早く!」

 

真守はその言葉に目を細めて警戒心を(あら)わにして、上条は目を(またた)かせ、隣で聞いていたインデックスは最後のたこ焼きを食べながら深城と一緒にきょとんとした顔をしていた。

 

そんな四人を見つめながら風紀委員(ジャッジメント)の少女はムッと顔をしかめた。

 

念話能力(テレパス)が聞こえているはずでしょ、ほら!」

 

少女が顔を赤くしながら力ませると、インデックスはきょろきょろと辺りを見回す。

 

「む。何か頭の中から直接声が聞こえたような気がするかも」

 

インデックスが顔をしかめる中、深城は頭を片手で押さえながらインデックスに説明をする。

 

「インデックスちゃん。これ念話能力(テレパス)って言って、あの人が話しかけてきているんだよ」

 

「てれぱす?」

 

念話能力(テレパス)とは離れた人間と会話できる能力の総称で、糸電話、生体電流の読み書き、可聴域外の低周波音声など、伝達経路は能力者によって違うんだ。その中でもお前は糸電話タイプだな?」

 

インデックスが深城の説明に首を傾げると、真守は少女の念話能力(テレパス)の仕組みを感じ取ってつらつらと説明する。

 

真守の分析の通り、少女は空気の振動の伝達率が変動して『見えない糸』を作り出すタイプの念話能力者なのだ。

 

「そういや小萌先生が補習でそんな事言ってたな。しっかし念話能力(テレパス)ってまだ開発研究続いていたんだな。携帯電話の普及と共にポケベルみてーに消えていったって聞いてたけど」

 

「……上条、それはただの噂だぞ。念話能力(テレパス)は精神感応と一部被っているからその能力開発には一定の価値があるし、高位能力者になれば姿が見えなくてもパスを繋げられれば会話可能なんだ。携帯電話みたいに一々電波使わなくても意思疎通できるから、秘匿情報のやり取りにはとても役に立つ良い能力だぞ」

 

「あ、あなた詳しいのね……。ちょっと待って。あなたどこかで見た気が……あ、もしかして新しい超能力者(レベル5)!?」

 

少女が真守の知識の深さに感心していると、真守の顔に見覚えがあって頭の中で情報を探り、真守が超能力者(レベル5)第一位に位置付けられた少女であると思い当たって驚愕した。

 

「そんなことは今どうでもいいだろ。……それより何かあったのか? 私は念話能力(テレパス)の干渉を弾くようにできているし、上条も違う意味で念話能力(テレパス)が効かない。口頭で説明してくれないか?」

 

「私の念話能力(テレパス)が通じない? 流石、超能力者(レベル5)……。分かったわ、口頭で説明しますね。現在、この地下街にテロリストが紛れ込んでいます。特別警戒宣言(コールレッド)も発令されており、今から……えっと、九〇二秒後に捕獲作戦を始めるため、隔壁を下ろして地下街を閉鎖。これから銃撃戦になるのでここから退避してください。……分かりましたか?」

 

特別警戒宣言(コールレッド)だと? ……昨日も発令されていたな。その延長線……としてはおかしいな、別口か?」

 

真守が学園都市が臨戦態勢になっている事に顔をしかめてぶつぶつと呟いていると、風紀委員(ジャッジメント)の少女が説明する。

 

「当のテロリストに捕獲準備の情報を知られると逃げられるかもしれないから、こうして音に頼らないあたしの念話能力(テレパス)が入用になったの。だからあなたたちも騒ぎを起こさないで、できる限り自然に退避してくださいね」

 

念話能力(テレパス)はその性質上、相手を選び取る事ができる。ということはテロリストの顔は既に分かってるんだな?」

 

「うっ、流石超能力者(レベル5)。頭の回転が速い。……その通りです、顔写真付きで手配書は回してもらっているわ。……ほらほら、分かったら早く逃げてください。閉鎖までもう八〇〇秒もありませんよ」

 

風紀委員の少女は真守たちを(うなが)すと、他の学生たちにも注意をするために素早く立ち去る。

 

「……ごめん、インデックス。せっかくここまで来たのに地下街での食事は難しそうだ」

 

真守が申し訳なさそうに告げると、インデックスは最後に食べたタコ焼きを飲み込んで真守を安心させるために微笑んだ。

 

「まもりのせいじゃないよ。てろりすとー? が悪いんでしょ? ……でも、とうまが日本の昔話だけで出てくるような擬音で流されなかったらご飯にありつけたかも」

 

インデックスはジロッと上条の事をジト目で睨む。

 

「俺だってでっかい桃が勝手に流されるみたいに、人間の波に呑まれたくて呑まれたワケじゃなくってですね!」

 

「とりあえず垣根に連絡とらなくちゃな。えーっと帝兵さんどこだろう?」

 

上条がインデックスの追及に声を上げている隣で、周囲を見回して第二二学区に展開しているカブトムシを呼び寄せようとした瞬間。

 

 

『──見ぃつっけた』

 

 

何もない壁から女の声が聞こえた。

 

四人が壁に視線を向けると茶色い泥の中央に人間の眼球が浮かび上がっていた。

 

眼球がぎょろぎょろと真守たちを一人ずつ見回す。

 

上条と深城に嫌な予感が突き抜ける中、真守は警戒を最大限に引き上げてその目玉を睨みつけ、インデックスはその目玉を無表情で見つめていた。

 

『うふ。うふふ。うふうふうふふ。禁書目録に、幻想殺し(イマジンブレイカー)に、虚数学区の鍵。おまけに最上級の熾天使すらいるなんて、どれがいいかしら。よりどりみどりで困っちゃうわ』

 

ゆったりとした妖艶(ようえん)な声色だが、どこか軋みを上げているような声が(うた)うように呟く。

 

(虚数学区の鍵? 最上級の熾天使?)

 

真守は眼球が深城と自分を見つめていた時に呟いた、恐らく自分たちの俗称(ぞくしょう)であるそれに顔をしかめた。

 

『──ま、全部ぶっ殺しちまえば手っ取り早いか』

 

そんな真守の前で、その声は突然(よど)んで乱暴なものへと切り替わって明確な敵意を(あら)わにした。

 

真守は深城を見ることなく、その手を取って深城を自分の体の後ろに回らせた。

 

深城の方が横にも縦にも大きいので真守が(かば)っているのはどう見ても違和感満載だが、深城は真守に絶対の信頼を寄せているので真守の後ろに素直に回って、真守から離れていない事を真守に示すために、真守の右肩にそっと手を置いた。

 

インデックスはそんな二人の前で眼球を見つめながら淡々と告げる。

 

「神は人を土から創り出したという伝承に基づいた、土より出でる人の巨像を操るカバラの術式。ユダヤの守護者たるゴーレムを無理やりに英国の守護天使に置き換えている辺りが、ウチのアレンジの仕方とよく似ているみたいだね」

 

「ゴーレム? ……確か体にシェムハメフォラシュという七二の聖音を刻み、起動する際に『emeth(エメス)』と刻み、役目が終わったら『e』を消して破棄するとかなんとかっていう土人形か?」

 

真守は魔術の使い方ではなく、歴史や魔術にどんな種類があるかの概要をインデックスに教わっており、その『知識』を思い出しながら呟く。

 

「うん。それが基盤となっているだけで時代の変化によって進化してるけどね。大体そんな感じかな」

 

「ゴーレムって、この目玉が?」

 

インデックスが真守の方を見て頷いていると、上条が目玉を見つめながら顔をしかめる。ゴーレムというのはRPGでも良く出てくるので、上条も『知識』で知っていたのだ。

 

「この魔術師は探索、監視用に眼球部分のみを特化させた泥人形を作り上げたんだと思う。本来は一体のゴーレムを作るのが精いっぱいだけど、一体あたりのコストを下げる事で、大量の個体を手駒にしているんじゃないのかな」

 

「魔術師がテロリストとして学園都市に侵入したのか!?」

 

インデックスの説明に上条は真守が既に気づいている事実を叫んで驚愕の表情を浮かべる。

 

『うふ。テロリスト? うふふ。テロリストっていうのは、こういう真似をする人たちを指すのかしら?』

 

その言葉と共に眼球は泥と共に吸い込まれるようにとぷん、と壁の中に消えていった。

 

その次の瞬間、地下街全体がドンッ! と、地響きを上げて震えた。

 

「なん……っ!?」

 

上条が驚く中、真守は即座に能力を解放。

 

頭の猫耳ヘアの丁度真上に三角形を二つ猫耳のように展開、その三角形にそれぞれ二つの正三角形を連ならせる。

 

セーラー服のスカートの臀部(でんぶ)の上からタスキのような長く四角い(おび)をぴょこっと出すと、その帯の付け根に正三角形を二つリボンのように(たずさ)える。

 

それと同時に、こちらに倒れてきたインデックスを抱き留めて自分の肩に手を乗せている深城の無事を確認する。

 

振動がいくつも重なって地下街全体が揺れる。

 

どうやらこの振動は余波であり、あの魔術師が行動を起こしたのは随分遠くのようだった。

 

天井から粉塵がパラパラ落ちてきた瞬間、地下街を明るくしていた蛍光灯がチカチカチカッと(またた)いたと思ったら一斉にフッと消えた。

 

真っ暗になった後、遅れて非常灯の赤い光が辺りを照らす。

 

テロリストに気取られないようにゆったりと避難していた人々は、戦闘が始まったと知り、恐怖で震えた悲鳴を上げながら出口へと殺到する。

 

その直後、地下街全体に連続的に金属の重低音が響き始める。

 

警備員(アンチスキル)が隔壁を下ろし始めたのか? 予定より早すぎる」

 

真守が顔をしかめた瞬間、隔壁が落ちたことを告げる地面を叩く低い音が幾度も響く。

真守と上条が出口の方を見ると、逃げ損ねた人々が隔壁に(すがり)りつくようにしがみついてパニックの声を上げて出してと口々に叫ぶ。

閉じ込められて困惑、憔悴(しょうすい)した人々のわめき声が辺りに響く。

 

『さあ、パーティーを始めましょう。──土の被った泥臭ぇ墓穴の中で、存分に鳴きやがれ』

 

柔らかい穏やかな声が、徐々に怨嗟(えんさ)の声へと変わっていく。

 

酷い憎悪を帯びた声だ。

 

全てを憎んでいて、自分がここにいる事すら憎しみを抱いている。

 

大切な何かを(うしな)って憎悪をたぎらせているようだと、真守は声だけでなんとなくそう察していた。

 




ゴーレム魔術師、来襲。


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