とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第六話投稿します。
原作に入りました。
自分で書いたけど前置き長い。
次は八月一〇日火曜日投稿予定です



虚空爆破事件篇
第六話:〈買物風景〉はこんな空気


『おっかいものー!! 真守っちゃんっとおっかいものぉ!!』

 

深城はテンション爆上がりで真守の周りをふわふわと漂う。

真守はそんな深城をよそに、携帯電話を弄って今年の夏のトレンドを探っていた。

 

『夏用の化粧品とー夏用のお洋服とーそれからそれからー!』

 

「深城、落ち着いて」

 

頭にぐわんぐわん響く深城の声に、真守は携帯電話に目を落としたまま、怪訝そうな表情で制止の声を鋭く告げた。

 

「真守?」

 

その時、頭に響く深城の声ではなく、はっきりとした音で自分の名前が呼ばれた。

 

真守が慌てて携帯電話から顔を上げて周りを見ると、デパートの壁際に避けて携帯電話を弄っていた垣根がこちらに視線を向けていた。

 

「垣根だ」

 

『お~垣根さんがそこにいるのぉ?!』

 

真守が垣根に近づくと、深城がそれを追いかけた。

 

真守が垣根と呼んだ少年の周りを深城はくるくると回ってから、至近距離でじぃーっと見つめる。だがやっぱりうまく顔が認識できないのか、不思議そうな顔をして首を傾げていた。

 

「お前、なんでこんなとこに?」

 

幽霊状態の深城に勿論気づかない垣根は、携帯電話を流れる手つきで仕舞いながら真守に訊ねる。

『スクール』の下部組織と連絡を取っていたので、真守に知られるとマズいと考えたからだ。

 

「夏休みに必要なものをセブンスミストに買いに行くんだ」

 

「いつから夏休みだ、二十日から?」

 

「うん。垣根のところは?」

 

「俺も同じ。……暇だから付き合ってやる」

 

(下部組織のしょうもない報告待つまでの暇つぶしができたな)

 

打算的なことを垣根が考えている前で、真守は垣根の隣で浮かんでいる深城をちらっと見た。

 

深城は真守の視線によって垣根がついてくる事をなんとなく悟った。

深城は親指をグッと立てて、

 

『勝手に口出すからいいよぉ!』

 

と、力強い言葉をくれた。

 

「……じゃあ、よろしく」

 

真守は深城からオッケーが出たので、垣根の申し出に頷くと垣根も頷いた。

 

 

真守と垣根は第七学区のセブンスミストへと入店する。

 

女性フロアに赴き、真守は事前にチェックしていた情報を基にテキパキと必要なものを買っていく。

 

真守は毎回のお会計時に、入院している自分の病室へと宅配するように店員に頼んでいた。

 

毎回毎回頼むのは面倒に感じるかもしれないが、やり方を心得ていればスムーズに終えられる。それに荷物を持つ必要がないので身軽に買い物が続けられるからだ。

 

(心理定規(メジャーハート)に買い物に連れてこられた時より楽だな)

 

垣根は店員と宅配便の手続きをしている真守を後ろから見ながら、心の裡で呟く。

 

以前、心理定規に買い物に連れて来られた時には買い物は長いわ、ああだこうだ言われたあげく、どちらが似合うかなど視線から読み取られる、などなど振り回されて散々だった。

 

だが真守は二つの商品のどちらを買うかしばし考えた後に薄く頷くと、即座に欲しいものを一つに絞り込んで買っている傾向がよく見られた。

 

女の買い物でも随分違うんだな、と垣根は思っていた。……が、真守は迷ったら深城の意見を聞いて、買う方を決めているだけだった。

垣根には深城が見えないから、真守が即決しているように見えるだけである。

 

「垣根は見なくていいのか?」

 

「お前に付きあってんだから別にいい」

 

自分を振り回さないばかりか、飽きていないか気遣う姿勢を見せる真守を見て、垣根は真守が裏表のない人格者だとここではっきりと判断した。

 

「あれ、朝槻?」

 

垣根と真守がフロアを歩いていると、真守は名前を呼ばれて振り返った。

 

「上条」

 

そこにはクラスメイトの上条当麻が幼女を連れて立っていた。

 

真守と同じ高校の男子制服を着ている少年を見て、垣根はチャンスだと思った。

真守から引き出せない情報が引き出せるかもしれない。

 

真守は近づいてきた上条と、その隣にいる幼女を見て首を傾げた。

 

「誘拐?」

 

真守が親しげな友人に向かって軽口を言う所を垣根は初めて見たので、新鮮さを覚えながらも真守らしい反応だと思ってくすっと小さく笑った。

 

「してねえよ! この子が洋服店探しているって言うから案内してきただけだ!!」

 

真守のかたわらに立っているイケメンに笑われたので、上条は必死になって否定した。

 

「事案かと思った」

 

真守がくすくす笑って冗談を告げると、上条はがっくりとうなだされた様子を見せてから真守に問いかけた。

 

「事案って……あのですね。朝槻さん。俺の事どう思ってるんですか?」

 

クラスの三バカ(デルタフォース)

 

「そこは相変わらずの塩対応。ていうか、そちらの方はもしかしてあの……?」

 

上条は真守から視線を外して、隣に立っていた垣根を伺うように盗み見た。

 

「うん、それで合ってる。垣根帝督」

 

「やっぱりスキャンダル相手か!」

 

上条が大声を上げて納得したように頷くので、真守は即座に上条の腹にグーパンをお見舞いした。

みぞおちにクリーンヒットした真守の拳を受けて、上条は低い唸り声を上げながら体をくの字に曲げる。

不良に手を出さない真守がクラスメイトに容赦なく拳を叩きこんだので、その行動に驚きながらも垣根は前から気になっていた事を訊ねた。

 

「……スキャンダルって話をこの前も聞いたが、結局一体なんなんだ?」

 

垣根の問いかけに真守が思いきり嫌な顔をすると、上条が痛む腹を抑えながら呟く。

 

「朝槻さんはですね、口調は勿論のこと、誰かの誘いは絶対に断るという手堅さと、黒猫を連想させるアイドル容姿が相まって、ウチのクラスでは塩対応の神アイドルと呼ばれていまして……」

 

「……成程?」

 

垣根は真守をちらっと見つめる。

確かにアイドルとして見られても問題ない外見だ。

唯一の欠点は満面の笑みを浮かべないところだが、それも塩対応というアイドルの新ジャンルに当てはめる事ができる。

それに低位能力者ばかりの生徒がいる高校で唯一の大能力者(レベル4)だ。

アイドルとして祀り上げられてもしょうがないだろう。

 

そんな真守は上条の説明に嫌悪感を表情全面に出していた。

その表情を盗み見て、垣根は塩対応だと揶揄されても仕方がないな、と思って小さく苦笑する。

 

「上条、自己紹介」

 

垣根の苦笑が聞こえて、真守は気まずそうにしながらも上条に挨拶しろ、と促した。

上条も礼儀正しい性格なので、慌てて自己紹介をした。

 

「朝槻のクラスメイトの上条当麻です。ええっと、めちゃ背が高いからもしかして先輩、ですか……?」

 

「二年だが、垣根で良い」

 

「そっか、よろしく。垣根!」

 

上条は顔を輝かせてフランクに挨拶をする。それを受けて、垣根は爽やかに頷いた。

そんな一連の流れを静観していた幼女が垣根に訊ねてきた。

 

「お兄ちゃんの高校すっごく有名だよね。高位能力者なの?」

 

「ああ。学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)だぜ」

 

幼女に対して自分が超能力者だと隠す意味がないので、垣根は自信たっぷりで告げる。

幼女は目をキラキラーっと輝かせた。これが普通の反応で、真守はそっけなさすぎるのだ。

 

超能力者(レベル5)なの!? 凄い!」

 

「このお姉さんも大能力者(レベル4)なんだぞ。エリート様たちだぜ、エリート様」

 

上条が真守もついでと言わんばかりに紹介すると、幼女がはしゃいで声を上げた。

 

「高位能力者カップルだー!」

 

「カップルじゃない」

 

真守は幼女の認識をくつがえすために、少し厳しめなダウナー声で否定する。

真守が恋愛系の話に動揺することはないと思ってはいたが、即否定についてはそれはそれで垣根の胸の奥が軋む。

……真守との心の距離を心理定規に訊ねたくなるくらいには。

 

真守の即否定を聞いて、きょとんとする幼女。

 

「カップルじゃないの?」

 

「違う。垣根に失礼」

 

垣根は真守が自分の事を考えて即否定したのを聞いて、何故だか分からないが胸のつかえがすとん、と取れた。

幼女は真守の二度目の否定を聞いて二人をぼけーっと見る。

高身長でイケメンの垣根と黒猫を連想させるアイドル顔の真守。

 

「お似合いだと思うけれどなあ……」

 

「だから──「まあまあ!」……」

 

幼女が恋愛話から離れないので真守が眉をひそめて反論しようとすると、上条が慌てて間に入った。

 

「洋服見るために来たんだ! 探そうぜ、な!」

 

「あ、そうだった!」

 

幼女は自分の目的を思い出して笑顔で頷くと、パタパタと上条を置いて走っていった。

幼女が走り去っていく前で真守は上条の事をじろっと睨んだ。

 

「上条、人の話遮るな」

 

「朝槻さん、お願いがあります。小さい子供に塩対応はやめてくださいませんか?」

 

相手が誰であろうとも揺るがないスタンスをどうにかしてくれ、と上条に言われて真守は黙る。

垣根が嫌な思いをするかと思って、つい厳しいことを言ってしまったのだ。

 

「ごめん、気を付ける」

 

真守は即座に自分の非を認めて、上条に謝った。

 

「いやいや、そこまで気にしなくてもいいよ。お前の気持ちは分かってるし」

 

上条が真守の隣にいる垣根を見ながら微笑むと、真守も頷いた。

クラスメイト同士、気持ちが通じ合っている二人を垣根はつまらなそうに見ていた。

 

その時、ふと上条が顔を上げて、何かに気づいたようにおっと唸った。

 

真守と垣根が上条の見た方を向くと、そこには常盤台中学の制服を着た少女が立っていた。

 

(……あれは第三位?)

 

垣根はその少女が、超能力者(レベル5)第三位。超電磁砲(レールガン)の御坂美琴だと即座に看破した。

御坂美琴は子供っぽいファンシーなパジャマ服を前に目を輝かせていた。

 

「あ、ビリビリ」

 

「もしかして襲ってきた子?」

 

「うん」

 

真守と上条が御坂美琴に関して一言二言話すと、上条は御坂美琴に近づいていった。

 

「お前の知り合いか?」

 

「違う。上条のこと追いかけまわしてる子。前に聞いた」

 

真守が即座に首を横に振ると垣根は怪訝そうな表情をした。

超能力者がただの能力者に興味を持つとは考えにくい。

 

「アイツの強度(レベル)は?」

 

何か特別性があるかもしれない、と垣根が訊ねると、真守は思案した後に小さく呟く。

 

「……上条、無能力者(レベル0)だけどあれは機械では測定できない能力だから」

 

「どういう事だ?」

 

上条の能力が身体検査で測れないほどの珍しい能力だと聞いて、垣根は興味が出た。

真守はそんな垣根の興味を受けて、上条へ近寄りながらはっきりと言い放った。

 

「詳しい事は上条から聞いて」

 

他人の能力について勝手に吹聴する気は真守にはない。

人の個人情報を勝手に漏らさない様子に、真守らしいと垣根は思う。

だが、隠されれば普通に気になる。

 

(後で誉望に調べさせるか)

 

垣根は心の裡で考えながら。真守の後を追った。

真守と垣根はファンシーなパジャマを体に当てようとした御坂美琴と上条に近づく。

 

「なんであんたがここにいんのよ!」

 

「いちゃ悪いのかよ」

 

上条と美琴が言いあっている中、真守は二人の輪に入って上条に声をかけた。

 

「上条、紹介して」

 

真守が紹介を求めると、美琴が真守とその後ろにいる垣根に目を向けた。

美琴が首を傾げていると、上条が流れるように紹介をした。

 

「この子がビリビリ中学生こと常盤台のエース、御坂美琴だ」

 

「そうなの? 上条を追いかける子だからどんな凶暴な子かと思ったら、案外真面目そう」

 

「うぐっ。ちょっと、あんた! なんであたしとあんたの勝負を他の人に言ってんのよ!」

 

真守が美琴を見て率直な感想を述べると、美琴が声を上げて上条を睨む。

 

「いや、言いたくて言ったんじゃねえし。居眠りしてる最中に寝言で呟いてたらしくて」

 

「常盤台のビリビリ中学生が追いかけてくる~って唸ってた」

 

「そんなはっきりした寝言言うのかあんたは! というか、授業中は寝るんじゃない!」

 

(上条当麻(コイツ)はどう見ても落ちこぼれだな。そんな男に御坂美琴が食いつくって事はよほど貴重な能力らしい)

 

垣根がそんな事を思っていることなど知らずに、真守は怒りを露わにしている美琴に律儀に挨拶をした。

 

「初めまして、御坂。上条のクラスメイトの朝槻真守だ」

 

「あ、初めまして! 御坂美琴です」

 

美琴は真守の自己紹介を受けて、慌てて姿勢を正して挨拶する。

お嬢様らしい優美な仕草だった。

 

「よろしく」

 

真守が柔らかく笑うと、美琴も少しぎこちないが微笑んだ。

そして、真守の隣にいた垣根をちらっと見てから、遠慮がちに訊ねる。

 

「……ええっと、そちらは彼氏さんですか?」

 

「違う。垣根に失礼」

 

「──垣根帝督だ。よろしくな、超電磁砲(レールガン)?」

 

再三にわたって即座に否定する真守の言い分にイラついたので、垣根は肘置きに丁度良い真守の頭に肘を乗っけながら威圧の笑みを浮かべる。

真守は頭に乗っかった垣根の腕の重さに顔をしかめていた。

恋に恋する少女である美琴は二人を見てとっさに判断した。

 

これは、男の方の片思いだと。そして、女の方は微塵も気が付いていない。

 

「よ、よろしくお願いします。……なんか、大変ね」

 

美琴の最後の呟きに真守が何が大変なんだ、と首を傾げていると、上条が声を上げた。

 

「ああ。そういや、お前は知らないんだな。垣根は──「お兄ちゃあ──ん!!」……あ」

 

上条が垣根が実は超能力者(レベル5)だと明かそうとしていると、先程の幼女が走り寄ってきた。

上条は別に能力の話は後でもいいか、と考えて幼女に笑いかけた。

幼女は真守たちと一緒にいる美琴に気が付くと、声を上げた。

 

「あー! 常盤台のおねえちゃんだ!」

 

「え? ……ああ、鞄の!」

 

どうやら幼女と美琴は、どこかで会った事があるらしい。

美琴は幼女の存在に気が付いた後、上条をハッとした顔で見上げた。

 

「お兄ちゃんってあんた妹がいたの!?」

 

「違う違う。俺はこの子が洋服店探してるって言うからここまで案内してきただけだ。そしたら別口で来てたクラスメイトの朝槻と垣根に、ばったり会ったんだよ。俺も垣根にはついさっき挨拶したばかりなんだ」

 

「へえ……」

 

美琴は事情を知って真守と垣根を見つめる。

 

(デートをしているということは脈ありなのかしら?)

 

二人をちらっと見ながら美琴がそんなことを思っていると、真守は美琴の視線で何か勘違いされている気がする、と眉を顰めた。

真守が怪訝な表情をしている前で、幼女が声を上げた。

 

「私もテレビの人みたいに洋服でおしゃれするんだもん!」

 

「そうなんだ。今でも十分おしゃれでかわいいわよ」

 

美琴が幼女の頭を優しく撫でていると、上条がぽそっと呟く。

 

「短パンの誰かさんと違ってな」

 

どうやら美琴はスカートの下に短パンを履いているらしい。

女っ気がねえなと、垣根が心の中で呟いていると美琴が顔を赤くして臨戦態勢に入る。

 

「何よ、やる気!? だったらいつぞやの決着を今ここで!!」

 

「はあ? お前の頭の中はそれしかねえのかよ……。大体、こんな人の多い場所で始めるつもりですかあ? こっちはクラスメイトとそのスキャンダ……違う違う。ついさっき知り合ったヤツがいるんだけど」

 

上条が再び垣根を真守のスキャンダル相手だと言ったので、真守が無言で拳を掲げると、上条は慌てて言い直した。

そんな上条に幼女が上条の服の端を引っ張って主張する。

 

「ねえねえお兄ちゃん! あっちみたい!」

 

「お、分かった。朝槻たちはどうする?」

 

上条の問いかけに、真守は垣根を見た。

 

「私もまだ見るところがあるから行く。それでいい、垣根?」

 

「俺は別に構わねえよ。元々お前に合わせて来てんだからな」

 

「ありがとう。じゃあ、御坂。上条、じゃあね」

 

「あ、はい」

 

真守が垣根と相談を終えると、上条と美琴に向かって別れるために手を振った。

美琴が手を振り返すと真守は、ん。と一言唸ってから、垣根と共に去っていった。

美琴は真守と垣根の後姿を見ながら上条にぽそっと訊ねた。

 

「……ねえ、あの二人は本当に何もないの?」

 

「何かあったら面白いんだがなあ」

 

スキャンダルとか言っておきながら何かあったら面白いのに、と思っていた上条は美琴にそんな風にぼやいた。

 




垣根くんと上条くん(幻想殺し)が初めて会った回でした。

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