次は一〇月一一日月曜日です。
真守は源流エネルギーに指向性を加えて光球をいくつも浮かべて辺りを照らし出す。
「ここにいる四人全員、どうやらあいつの標的のようだな」
「俺とインデックス、朝槻は魔術世界に関係があるから分かる。でもなんで源白までターゲットなんだ?」
上条が呟いた通り、三人にはそれぞれ狙われる理由がある。
インデックスは一〇万三〇〇〇冊の魔導書を記憶した魔導書図書館。
上条は
真守は上条よりも交戦経験が少ないが、テロリストとして学園都市に侵入してきた魔術師が
だが今日深城と知り合った上条は深城が特殊な立ち位置にいる事を知らないので、そんな疑問を持つのは当然である。
「……深城は学園都市と一体化しているようなもんなんだ。学園都市が攻撃されるとなると、深城も標的になるのもまあ理解できる。……でもなんでそんな裏事情を魔術師が知っているのかが分からない。インデックス、本当にあの魔術師はイギリス清教式の魔術を使っているのか?」
「確実とは言えないね。でも似ている部分がたくさんあるからイギリス由来の魔術師であることは確かなんだよ」
魔術の専門家であるインデックスが言うのならば間違いはないのだろうが、真守は深城がテロリストの標的になっていること以外にも引っかかることがあって顎に手を添えながら呟くように思考する。
「ステイルと神裂の話だとイギリス清教は学園都市と協定を結んだハズだ。だから組織的にはイギリス清教に敵対する理由がない。でも魔術師は個人で動くから、イギリス清教の思惑を無視して行動してるのは確実だ。……まあ、具体的な思惑なんて分からないから、本人に直接聞けばいいか。深城、インデックス。私から離れるな、分かったか?」
「うん、真守ちゃん」
真守が自分の肩に手を置いている深城に声を掛けると、深城はコクッと頷いた。
「まもり、私は魔術の専門家だから大丈夫だよ!」
だがインデックスは自分の『知識』に自信があるため、守られなくても大丈夫だと豪語する。
「それでもお前だって身を守れる場合と守れない場合があるだろ。任せておけ。……と言っても魔術は科学と明確に違うからな。源流エネルギーで弾くとイマイチよく分からない現象も起きるし、慎重に行かないと」
「む。……分かった。確かにまもりは強いし。だったら専門家としてフォローは任せてほしいかも!」
「分かった。よろしくな、インデックス」
真守がお願いすると、インデックスは任せて! と言わんばかりに自分の平たい胸を叩く。
(深城をターゲットにした事、後悔させてやる)
真守がインデックスを見つめながら心の中でそう決意していると、遠くからこちらへと近づいてくる靴音が辺りに響く。
「敵か?」
上条の疑問に真守は即座に首を横に振る。
「違う。あれはローファー、多分学生。……あ、それにこの感じ。美琴と白井だ」
「え? なんでそんな事が分かるんだ?」
真守がAIM拡散力場から強力な電磁波と、空間移動系能力者にありがちなAIM拡散力場の事象に対する揺らぎを読み取り、その組み合わせの二人に心当たりがあって声を上げると、上条は真守の推察に首を傾げた。
「探知系の応用力を身に着けたんだ」
「……流石
真守が何の気なしにケロッと告げると、上条はその向上心に思わず言葉を漏らした。
「美琴、白井!」
真守が声をかけると靴音が四人の方へと向かってきて、真守が浮かべていた光球に美琴と白井が照らし出される。
「朝槻さん! ……と、アンタも!」
真守を見つめて美琴は顔を驚愕させるが、隣に立っていた上条を見て、即座に喧嘩腰になる。
「とうま、この品のない女たちは一体誰なの。知り合い? どんな関係? そっちの短髪、この前のクールビューティーに似ているけど、違う人だよね」
インデックスは突然現れた美琴と白井を認識すると、ムッと口を尖らせて自分を抱き留めてくれた真守から離れて美琴と白井を睨みつけた。
明らかに喧嘩腰のインデックスに、美琴は片眉を跳ね上げさせて怒鳴り声を上げた。
「ちょっと! この明らかに失礼なこの子はアンタの一体何なワケ?!」
「とうま! この短髪とは一体どういう関係なの!? 説明して!」
美琴と上条の仲が親しいものだと判断したインデックスは、同じようにインデックスと上条が親しそうだと感じた美琴と二人して上条を睨みつけ、怒鳴り声を上げる。
どうやら二人共相手を即座にライバルとでも認識したらしく、二人の間には険悪なムードが
上条は美琴とインデックスに同時に睨みつけられた上条はヒィッ! と、情けない悲鳴を上げて固まった。
「朝槻さん! どういう事なのかしら?!」
「まもり! とうまとこの短髪の間に何があったのかな!?」
上条が使えないと即座に判断した二人が真守に迫る。
「……どっちも上条当麻が恩人だが?」
真守が簡潔に二人の立ち位置を表現すると、二人共信じられない、と言った顔をする。
「それってまもりにも助けてもらったの、この短髪!?」
「この子もあたしと同じで朝槻さんに助けてもらったの!?」
「……仲良いなあ、お前たち」
真守は同時に声を上げてから相手を睨みつける二人を見ながらぽそっと呟く。
そんな真守に白井が向き直って問いかける。
「……で、どういう事か説明してくださいますか、朝槻さん? どうせ今回の騒動の中心にあなたはいらっしゃいますのでしょう?」
「その言い方だと、まるで私がいつも騒動に巻き込まれているみたいだが」
「前科がありすぎますのよ! 前科が!」
『そうだな、前科がありすぎるんだよお前』
真守の心外だ、という言葉に白井がツッコミを入れると、そのツッコミに同意するかのような声が聞こえてきて、真守以外その場にいた人間はその声の在り処を探す。
すると暗闇の中にヘーゼルグリーンの瞳が二つ浮かび上がっており、ぶーんという低い音と共に姿を現した白いカブトムシは、一同の前までやってくると真守の左肩にしがみついた。
「「「「……カブトムシ?」」」」
垣根が
「垣根が造った通信端末のような子で、通称帝兵さん」
「垣根さんが造ったんですの?」
真守が色々と説明が面倒なので
「このカブトムシどっかで……あ! 朝槻さんの研究室の机の上にいたあの!? ……これ、垣根さんが造ったロボットだったのね……てっきり置物か何かと思っていたわ」
『ロボットじゃねえよ。……まあ説明が面倒だからいいか』
垣根が説明を放棄すると美琴はそこから、白いカブトムシを無遠慮にじろじろと見つめる。
「帝兵さんって随分と可愛い名前つけたのね……そうなの。そういう趣味なんだ……」
『俺の趣味じゃねえよ。このじゃじゃ馬娘が勝手につけて勝手に言いふらしている間に、忌々しいことに定着しちまったんだよ』
「おっきなカブトムシなんだよ、とうま!」
「世の中の能力者ってなんでもできるんだなあ……」
垣根が不本意な名前だと美琴に告げる隣で、インデックスが目を真ん丸にして興奮した様子で上条のシャツの
『で。どういう状況なんだよ。一から十まで話してもらうぞ、ああ?』
「分かったから喧嘩腰になるなよ、ちゃんと話すから」
真守は溜息を吐きながら魔術
その魔術云々がどういうものか垣根は聞きたかったのだが、やっぱり他の学生には隠したいと真守が思っているのだと感じ取ると、後で聞こうと静観する。
「成程。……ねえ、黒子。やっぱさっきのキレたゴスロリと繋がりがあると思う?」
「そうですわね。朝槻さん方が聞いたとされる声の特徴からしても、関与していると考えるのが
どうやら美琴は既に魔術師と交戦しているらしく、その場にいた白井と顔を合わせて話をする。
「学園都市の他にも能力開発機関があるのかしら。でも、『外』の超能力の噂なんて政府のUFO陰謀説と同じくらい信憑性がないのよね」
「今朝は二組の侵入者がいたと聞き及んでいますの。片方がこの騒ぎですから、もう片方の侵入者も心配ですわね。
「え。二組も? それは聞いてないんだけど」
美琴が白井から新情報に目をぱちぱちと
「ええ、お姉様。
「あー……」
二人の話を黙って聞いていた真守だったが、感情の乗ってないまま間延びした声を上げると、ちらっと自分の隣でダラダラと冷や汗を流す上条を見た。
「とうま。何か体が小刻みに震えているけど、どうかしたの?」
「くっくっ……アンタが暑苦しい格好してるから鬱陶しいんじゃないの?」
「うっとうしくないもんっ!!」
美琴がインデックスの服装を笑っていると、インデックスが美琴を睨んで怒鳴った。
「白井。上条が言いにくそうだから言うけど、侵入者の一人は学園都市に帰ってきた上条なんだ」
「はい?」
白井が目を見開いて首を傾げ、美琴は眉を顰ませて、インデックスは昨日のことを知っているのに『侵入者=とうま』という図式が組上がらずにきょとんとして上条を見つめた。
「いやー……実は昨日さ、闇咲っていう不器用な男と知り合って、その知り合いを助けるために学園都市の外に出て、それで今朝帰ってきたところなんだよ。あの……何だよ? 『分かった分かったいつもの病気だろ』みたいな目は」
『同じ病気
「垣根うるさい。別に感染してないし、そもそも病気じゃない」
上条が白井と美琴に呆れたような目で見られる中、カブトムシがヘーゼルグリーンの瞳を動かして真守を見上げるので、真守は横目でカブトムシを睨みつけて顔をしかめながら白井と美琴に向き直った。
「……で、白井と美琴はなんでここに? 救援に来たのか?」
「はい。
白井が
「ん? じゃあなんで美琴はここにいるんだ?」
「え、いや……別に、私は…………その。な、何よ! 別になんでもいいでしょうが、何でも!!」
(……上条の事が心配だったのか)
上条に訊ねられて顔を真っ赤にして怒鳴る美琴を、真守は温かいまなざしで見つめていた。
そんな真守たちに白井は心の底から楽しくなさそうに淡々とした様子で喋る。
「予定を切り上げて隔壁を下ろしたという事はもう時間がありませんの。あなた方も避難をしてくださいな」
「白井、質量限界的にお前は一度に何人まで
「二人くらいが限度ですの。まあ体重によりますけれど」
白井の
(上条は
そこまで真守が高速で思考すると、白井に指示を出す。
「インデックスと美琴を先に出してくれ。私と上条、それと深城がこの場に残る」
「分かりました。では、お二人共。行きますわよ」
「「ちょっ」」
白井が何か言いたげな二人に手をかけた瞬間、三人がその場から消える。
その瞬間、地下街全体が再び揺れて、その揺れの発生箇所がこちらへと段々近づいてきているのが分かった。
遠くから銃声が連続的に鳴り響く音と人の怒号やうめき声が聞こえてくる。
「こっちは朝槻に昼飯奢ってもらう約束してんだからな! さっさと終わらせてただ飯食うぞ!」
上条はそこで気合を入れるために叫ぶと、ずんずんと戦闘音のする方へと進んでいく。
「……真守ちゃんもあれだけ食に
『本当にな』
「二人共うるさい。いいだろ別に関心がなくたって。それに最近ちゃんと食べてるぞ」
『嘘つけ。この前も気分じゃない、メンドクサイって食べなかったくせに』
「……真守ちゃん。気分とメンドクサイで食べないのは、あたし怠慢だと思うなあ」
真守が顔をしかめて主張すると、カブトムシがヘーゼルグリーンの瞳をきょきょろっと動かして真守を睨み上げ、深城がそれに呼応して非難の目を向けてくる。
「……早く行くぞ!」
真守は一人と一匹の視線に気まずくなって声を上げると、上条の後を追って駆け出し、テロリストを倒すために動き出した。
インデックスと美琴が初めて会いました。
禁書目録と超電磁砲って魔術サイドと科学サイドのそれぞれのヒロインって事ですよね?
一体どっちが上条の本命なんだろう……。
というか隠れヒロインに食蜂ちゃんもいますし、複雑すぎるヒロイン事情……。