とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

64 / 352
第六四話、投稿します。
※次は一〇月一六日です。


第六四話:〈深切体温〉が心地いい

真守は一方通行(アクセラレータ)の病室に来ていた。

 

一方通行(アクセラレータ)はベッドに完全に横になっており、バイタルを測定するための機械に繋がれてあらゆるチューブやケーブルを体に取りつけられており、頭には痛々しい包帯が巻かれていた。

 

そんな一方通行(アクセラレータ)の右手を布団から出して、真守は優しく握っていた。

 

現在真守は蒼閃光(そうせんこう)で形作られた猫耳と尻尾を展開しており、淡い蒼閃光を体に帯びており、からくり時計が歯車を噛み合わせるようなカチ、カチ、カチという軽い音が響いていた。

 

『そォか。オマエが第一位に』

 

一方通行(アクセラレータ)の思念が真守の頭の中で響く。

 

真守は源流エネルギーに指向性を付与して一方通行(アクセラレータ)との間に疑似的なパスを構築しており、それによって一方通行の脳に直接自身の考えを書き込んでおり、そして一方通行が考えたことをもう一種類の精神に干渉するエネルギーによって読んで会話をしていた。

 

『脳がまともに動かない状態でも、お前にはどうしても言っておきたくて。無理させてしまったか?』

 

『問題ねェ。つーかこっちは思考はできンのに外に出力することができねェから正直暇だった』

 

『……本当に大丈夫か? 苦しくないか?』

 

『ハッ。そンな何度も聞かなくても問題ねェっつってンだろ。お優しいこったなァ』

 

『私にとって大切なお前に優しくするのは当たり前だ。……そんなお前が一番頑張っている時にそばにいて力になれなかったのが、私は酷く心苦しい』

 

自分の心配を一方通行(アクセラレータ)が嗤うので真守はムッと口を尖らせて抗議し、しおしおとうなだれた。

 

『オマエだって木原と戦ってたンだろォが。あいつらは簡単に倒せるヤツらじゃねェ。……それに、俺はオマエに背中を押されたンだ』

 

『背中?』

 

『あのクソガキを救いてェって考えた時、オマエの顔がちらついた。オマエならどォするかって考えた。……絶対に目の前の命を諦めねェと思った。オマエにできンなら、似たよォな力持ってる俺にもできるハズだって思った。……まァ、オマエのよォに上手くいかなくて、このザマだがな』

 

一方通行(アクセラレータ)が自嘲気味に思念会話の中で嗤うので、真守は空いている手で一方通行の肩を優しく撫でる。

 

『……ううん。私だって初めて救った時には失敗して本当の意味で救えなかったから。だから一緒だ。お前はよく頑張ったよ』

 

『そォか。……オマエもそォだったンだな』

 

一方通行(アクセラレータ)がしみじみとした思念波を送ってくるので真守は一方通行の手を撫でながら、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)に伝えるように言われていた事を思い出して伝える。

 

『お前の代理演算についてはな、私たちの先生がなんとかしてくれるんだ。大丈夫、あの子たちだってお前に恩があるんだから、きっと力になってくれるよ』

 

『そォか』

 

『うん。だからお前はゆっくり休め、頑張ったんだからな』

 

真守が手を優しく撫でていると、その感触に少しだけ目を細めた一方通行(アクセラレータ)はそっと目だけを動かして真守を見た。

 

『……なンか気落ちしてるみてェだが、オマエにそれは似合わねェよ』

 

『え』

 

真守がその言葉にきょとっと目を見開くと、一方通行(アクセラレータ)が真守が握っていた手に少しだけ力を入れた。

 

元気づけるように。託すように。信じているという風に。

 

一方通行(アクセラレータ)はそっと真守の手を握った。

 

『オマエは俺より前を歩いてンだから、後ろにいる俺に胸張りやがれ』

 

真守は一方通行(アクセラレータ)の優しさに触れて照れ隠しに笑ってから一方通行に脳に書き込む形で語り掛けた。

 

『うん、ありがとう。一方通行(アクセラレータ)最終信号(ラストオーダー)も芳川桔梗も問題ないから、ゆっくり休んで』

 

『あァ。…………オマエも休めよ、そンなに顔色悪ぃンだからな』

 

『あはは。ちょっと徹夜しててな、寝れば治る。お休み、一方通行(アクセラレータ)

 

『あァ』

 

真守は一方通行(アクセラレータ)から手を離して微笑むと病室を後にするために椅子から立ち上がり、最後に一方通行に手を振ってから出ていった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

(私は、ここからどうすればいいのだろう)

 

一方通行(アクセラレータ)に励まされた真守は廊下を歩きながらぽそっと心の中で呟く。

 

やるべき事は分かっている。

 

自分の制御ができるであろう学園都市上層部の下へと戻り、その管理下に入ればいいのだ。

 

そうすれば絶対能力者(レベル6)へと進化しても誰も傷つける事はない。簡単な事だ。

 

上層部の下に行くという事は今の生活を全て捨てるという事だ。

 

病院での生活も、学校生活も。陽の光の下での生活全てを捨てる。

 

学園都市の支配下に戻るべきだ。

 

でも学園都市の非道を許す事はできないし、何よりも、垣根帝督と離れたくなかった。

 

(垣根だけじゃない。クラスの子とも上条たちとも、美琴たちとも。『スクール』の子たちや一方通行(アクセラレータ)からも離れたくない)

 

籠の中の小鳥は大空という広い世界を知らないが、それでも幸せに暮らしている。

 

表の世界での幸せを知らないでいられたら、真守は上層部の管理下である意味本当の幸せを知らずに狭い世界でそれなりに幸せに暮らせていたのだ。

 

もしかしたら、自分は深城と会わなければ良かったのかもしれない。

 

そうすれば深城の命を想って暴走して研究所を破壊する事なんてなかった。

 

いいや、そうじゃない。

 

だって深城は自分の情操教育相手として連れてこられたのだ。深城に悪いところはない。

 

情操教育を受けなければならない自分のせいだ。

 

(そしたら、やっぱり)

 

真守は眠っていない思考が鈍った頭でぼーっと考えながら心の中で呟く。

 

(私が、私として生まれた事自体が、いけなかったのかもしれない)

 

真守はそこまでふと思ってしまい、考えてはいけない事だと首を横に振って、自分の病室の前までやってきて扉を開けた。

 

「真守か?」

 

「…………垣根」

 

真守がパーテーションで区切られた自分のスペースへと戻ると、垣根がデスクに座ってオカルト本を読んでおり、垣根は真守を視認してからパタンとオカルト本を閉じた。

 

「…………垣根、あのな」

 

「お前はこのままここで生きればいい。ヤツらの下に戻ろうとなんかしなくていい」

 

真守が俯きがちに言葉を紡ぐと、真守が何を言いたいのか察した垣根は先回りして自分の気持ちを伝えた。

 

「……でも」

 

真守がぽそぽそとそれでも呟くので、垣根は立ち上がって真守に近づくとそっと抱きしめた。

 

「お前がどこか行くのは許さねえ。学園都市の支配下に収まるなんて尚更許せねえ」

 

真守は垣根の言葉を聞きながらきゅっと唇をかみしめて垣根の腰に手を回した。

 

「でも、私……」

 

「でもじゃねえ。お前はここにいていいんだ。お前がそばにいるだけで、俺は嬉しい」

 

真守は垣根の言葉を聞いて顔をくしゃっと歪ませながら垣根を見上げた。

 

「……本当? 私がいて、うれしい?」

 

「当たり前だろ、何言ってんだよ」

 

垣根帝督は朝槻真守がそばにいることを望んでいる。

自分が生きている事を望んでいる。

自分に会えてよかったと、心の底から思っていてくれている。

 

だからこそ、不安になって真守は思わず問いかけてしまった。

 

「私……生まれてきて、よかった?」

 

垣根は真守のその言葉に愕然とした。

 

真守は自分のせいで周りの人間が迷惑していると思っているのだ。

 

自分は絶対能力者(レベル6)進化(シフト)する際に誰かに制御してもらえなければ人類の敵になる。

 

そんな迷惑ばかりかけているのであれば、自分が人を傷つけるのでしかないなら、元々生まれなければ良かったのではないのか。

 

そもそも自分が置き去りにされた事だって自分がいけなかったのではないか。

 

きっと、真守は今日一日でがらりと世界が変わってしまってその変化に上手くついていけなくて困惑しているのだろう。

しかも昨日は色々あって徹夜だ。真守は徹夜だと演算は正確にできても思考が鈍ることが多々ある。

 

真守だって一五歳の女の子で。精神的に未熟で、弱い部分もある。それは自分だって同じだと垣根は思う。

恐らくその弱い部分がいま、如実(にょじつ)に表れているのだろう。

 

「真守」

 

垣根はそっと真守の頬に手を添えてゆっくりと(さと)すように告げる。

 

「俺は、お前に会えて。お前が生まれてきてくれてよかったよ」

 

瞳を揺らす真守を見つめながら、垣根はそっと真守の頬を撫でる。

 

「源白深城だって、杠林檎だって、お前がこれまで助けてきたヤツらはお前がいなけりゃ救われなかったんだ。お前がいなくて一体誰が俺たちを救ってくれるんだよ」

 

そう。垣根帝督は朝槻真守に救われたのだ。

 

光を求めて深い暗闇へと降りていった自分に、月光のように傷ついてボロボロになった体を癒してくれるような優しい光を与えてくれた。

 

真守がいなかったら自分はきっと一生一人で。

 

きっと守りたいものなんて一生できなくて、全てを利用して最後まで生きたことだろう。

 

だから生まれてこない方がよかったかもなんて真守に垣根は思ってほしくなかった。

 

「お前は迷惑かけてる分だけ人間救ってんだ。プラマイゼロで問題ねえよ」

 

「……プラスにもマイナスにもならないの、嫌だなあ」

 

垣根の気持ちを受け取った真守はふにゃっと笑いながら呟く。

 

「だったらお前がもっと人間救えばいいだけだろ。……お前はいつか、もっと多くの人間を救うようになる。だから問題ねえよ」

 

垣根は真守が学園都市の神に()ってあらゆる人の幸せを叶える存在になると知っている。

 

だからこそ、真守をそうやって垣根は鼓舞した。

 

「じゃあ、垣根と一緒にいる」

 

真守は心の底から幸せを感じているようにとろけるような笑みを浮かべてそっと垣根の胸に頭をうずめた。

 

「じゃあじゃなくても一緒にいんだよ」

 

垣根はすりすりとすり寄ってくる真守の後頭部をそっと撫でながら告げる。

 

「それに上層部だってバカじゃない。何かあったらあいつらが手を出してくるからお前は生きたいように生きればいい」

 

「うん。ありがとう、垣根」

 

真守はその言葉を聞いて垣根の体に顔をうずめるのをやめて顔を上げて垣根を見上げるとふにゃっと微笑んだ。

 

そんな真守の事を垣根は愛しくなってもっと固く、それでも優しくぎゅっと抱きしめる。

 

「……深城は林檎のところかな。林檎に任せっきりだと林檎が大変になるし……ちょっと回収に行ってくる」

 

真守は幸せに浸っていたが、終わりが見えないのとこのままだといつまで経っても垣根から離れられない甘ったれた人間になってしまうと思ってもごもごと呟くと、名残惜しそうに垣根の腰に手を回すのをやめる。

 

「源白にいいように振り回されて、保護者サマは大変だな」

 

「べっ別にそういう気持ちはないけど。……でもまあ、あの子から目が離せないのはそうだ。あの子結構能天気だからどこに行ってどんな問題起こすか分からないし」

 

「人の事言えねえだろ、じゃじゃ馬娘」

 

垣根がぽそぽそと呟く真守を見て、しっかりしなければと考えている真守が可愛くてハッと幸せそうに笑いながら告げると、真守は恥ずかしそうにしながらも口にムッと力を入れて抗議する。

 

「わ、私は深城みたいに切れた凧みたいにどこかいかない。ちゃんと帰る場所に帰ってくる……ちゃんと、垣根のそばに……帰ってくる」

 

「じゃあお前は帰巣本能だけはしっかりしてるお猫サマだな」

 

真守の可愛らしい抗議を受けて垣根が真守に愛しさを感じながらコツっと真守の額を小突くと真守は『テッ!』と小さく(うな)ってから両手で額を押さえてむくれる。

 

「……垣根のばかっいじわるっふーんだ!」

 

真守は垣根に向けてシャーッと全力で威嚇するとパタパタと病室を後にする。

 

「なんであんなにかわいいんだろうな」

 

垣根は機嫌悪くしてそっぽを向いてスタスタ去っていく気まぐれな猫を真守に重ねてふっと笑い、独り言を呟いた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「深城、帰るぞ」

 

真守が拗ねていた気を取り直してガラッと林檎の病室を開けると、深城は真守に背を向ける形で林檎のベッドに座っており、声を掛けられてぐるんと深城は首を右に回すが良く見えなかったのかすぐに左に首を回して真守を(とら)えた。

 

「真守ちゃん!」

 

深城が真守を見てぱあっと顔を輝かせる隣で、林檎は真守をじぃーっと見つめていた。

 

「どうした、林檎?」

 

「朝槻、神さまになるの?」

 

真守は林檎の問いかけに身を固くさせたが、すぐに柔らかく微笑んで林檎に近づく。

 

「……うん。そうなる事が決まってる」

 

「大丈夫」

 

真守が寂しそうに笑うと、林檎は自分に目線を合わせてくれた真守の頭にそっと手を伸ばして、でも手が幼いなりに短くて前髪を撫でる形になったとしても真守の頭をなでなでと撫でる。

 

「朝槻は神さまになっても、きっときれいだよ」

 

真守は林檎の言葉に目を見開いた。そして寂しそうに微笑むと、林檎の事を優しく抱きしめた。

 

「ありがとう、林檎」

 

「うん」

 

林檎に真守が頭を摺り寄せると、林檎は幸せそうに目を細めながら頷いた。

 

「林檎ちゃん良いなーっ真守ちゃん、あたしもぎゅーっ!!」

 

真守に抱きしめられる林檎が羨ましくなって深城は真守に(すが)りつくように抱きしめる。

 

「ぐえっ。ちょ、林檎が潰れる!」

 

「真守ちゃんを潰そうとしているからだいじょうぶ!」

 

「な、……なにもだいじょうぶじゃない…………っ」

 

真守は深城の圧倒的な胸部装甲に背中を圧迫されて息が詰まって苦しくて(うめ)く。

 

真守が頑張って林檎が潰されないように踏ん張っているのに気が付いて、林檎は真守が回してくれている腕にそっと自分の手を添えて目を細め、口角を少しだけ上げて微笑んだ。

 

深城と出会って、研究所から逃げ出して。人を殺した事により罪を背負った。

 

それでも懸命に陽の光の下で生きてきて、大切な人々と出会えた。

 

変わってしまう事はやっぱり怖い。

 

でも自分を信じてくれる大切な人たちがいるなら、きっと自分は自分でいられるだろう。

 

真守は林檎を抱きしめながら、深城に抱きしめられながら、垣根の優しさを思い出して、そう心の中で呟いていた。

 




素敵空間三連発。

これにて力量装甲篇終了です。
次回からは死霊術師篇が始まります。『とある科学の一方通行』のお話です。
お楽しみいただければ幸いです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。