とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第六語話、投稿します。
次は一〇月一七日日曜日です。

死霊術師篇、開幕。


死霊術師篇
第六五話:〈極々普通〉な某日事案


(もう昼か。布束の見送りに意外と時間がかかったなあ。午後から学校行こうかと思っていたけど……うん、面倒だから今日はサボろう)

 

真守は先程まで第二三学区の空港で学園都市協力機関へと旅立つ布束砥信と、ジャーニー、フェブリの見送りをしており、マンモス病院まで戻ってきていた。

 

残暑が厳しいうだるような熱気で満ちている駐車場を歩いていると、真守の横を通り過ぎて一台のロングバンが停まった。

 

(全面スモークガラスに後部座席の窓を特注で取り付けてない秘匿性の高い車両か。あからさまな悪党宣言……逆に引く…………)

 

過剰な悪党宣言に真守がドン引きしていると、その車のバックドアが観音開きのように開け放たれた。

 

「あ?」

 

意気揚々と降りてき声を上げたのは、真守よりも身長が一五㎝ほど小さいオレンジ色の髪をロングヘアに伸ばした少女だった。

 

その格好は異様で、ボディースーツにプロテクターを装着し、腕にブレード、そしてそのブレードから伸びるチューブは背中に背負われた機械に繋がっていた。

 

その背中の機械には弾倉(マガジン)のようにカートリッジが幾つもカーブを描くように取り付けられており、いかにもな兵器を背負っていますという雰囲気だった。

 

「……お前、今から病院襲うのか?」

 

真守は引き気味になりながらもオレンジ色の髪の少女に問いかけた。

 

「それがどうかしたのか? 腰抜けたかァ一般人?」

 

オレンジ色の髪の少女は真守のドン引きして震える声を恐怖を覚えて震えている声だと認識したのか、真守を鼻で嗤った。

 

するとオレンジ色の髪の少女の後ろから長身の少女が降りてきて、真守に気が付くとヒッと(うめ)いた。

 

長身の少女はオレンジ色の髪の少女が背中に背負っているカートリッジの交換部品を手にしており、その格好はオレンジ色の髪の少女のように奇抜ではなく普通にどこかの制服を着ていた。

 

「…………う、嘘。流動源力(ギアホイール)!?」

 

長身の少女は真守を見つめてすぐさま看破して驚愕する。

 

「あ? 流動源力(ギアホイール)? ……って、新しい第一位!?」

 

長身の少女の悲鳴にも似た叫びを聞いてオレンジ色の髪の少女も真守が超能力者(レベル5)第一位である事にやっと気が付いて驚きの声を上げた。

 

「なっなんで新しい第一位がこんなとこにいんだよ!!」

 

「私がこの病院に入院してるからだが」

 

オレンジ色の髪の少女の問いかけに真守が答えると、オレンジ色の髪の少女と長身の少女は揃って驚愕の表情をした。

 

「も、元第一位だけじゃなくて現第一位も入院してるってのか、この病院! どんだけだよ!!」

 

「……その様子だと、お前たち一方通行(アクセラレータ)のこと襲いに来たのか?」

 

真守はオレンジ色の髪の少女たちの思惑を呆れた様子で訊ねると、その場に長身の少年が大きなボストンバッグを持って降りてきた。

 

そんな青年も突然エンカウントした真守を見て驚愕したが、驚きの声を上げないのと口を出してこないところを見るに、元来口数が少ない少年らしい。

 

そんな少年に意識を割かずに、少女は怒鳴り声を上げる。

 

「そうだよ! あたしたちが用があるのは元第一位様だ! お前は引っ込んでろ!」

 

「あの子のこと襲うって宣言されて引っ込むバカがどこにいるんだよ……」

 

真守が呆れた様子でため息を吐くと、オレンジ色の髪の少女は焦りながらも叫んだ。

 

「デカい口叩いてるところで悪いけど、こっちには対一方通行(アクセラレータ)用の兵器があんだよ! 死んじまえ、超能力者(レベル5)!」

 

オレンジ色の髪の少女は叫ぶと右手のブレードから薄い水色の透明なブレードを現出させる。

 

そしてそのブレードを薄く伸ばしたまま右手を振って、しならせながら真守に向かって振り下ろした。

 

振り下ろされたブレードは真守が身に(まと)っていたシールドにぶつかって当然弾かれる。

 

ギギッガッガガ、と歯車が軋む音と共に蒼閃光(そうせんこう)(ほとばし)って爆発、辺り一帯が煙に包まれる。

 

「やった!」

 

「そういうセリフは死亡フラグと言うんだが、お前は知ってるか?」

 

オレンジ色の髪の少女が引きつった笑みで勝ち誇った瞬間、真守は煙の中から飛び出して少女めがけて疾走する。

 

真守の体表面には蒼閃光でできた猫耳と尻尾が展開されており、尻尾に見える細長い四角い帯が真守が飛び出した事で軌跡を描くように揺れていた。

 

真守はそのままオレンジ色の髪の少女に接敵すると、即座に飛び蹴りを繰り出した。

 

「ぐぁっ────!」

 

オレンジ色の髪の少女は今さっき自分が出てきた車の中へと叩きこまれて運転席と助手席をなぎ倒しながらフロントガラスに激突する。

 

車が衝撃で爆発しなかったのは、真守が爆発しないように緻密な演算をして飛び蹴りしたからだ。

 

「ふうん。ウォーターカッター技術か。この大気中の成分を見る限り、液体窒素を超高圧で放射しているんだな。……だがそれはブラフ。本命は踏み込んできた相手を窒息死させる……という感じか? 確かに酸素がなくなったら死んでしまう対一方通行(アクセラレータ)用兵器だが……」

 

真守は辺りに散っている窒素に手を伸ばし、先程踏み込んだ瞬間の空気の感覚の違いを思い出しながら一人で呟く。

 

一瞬で全てを看破した真守に二人が固まっている中、真守はそこで目だけを動かして二人を射抜く。

 

「残念だったな。私は酸素がなくても生きていけるし、あの子は全てのベクトルを操作する能力者だ。風のベクトルを操作すれば酸欠なんてお粗末なことにはならない。そういうワケでお前たちは私たちに太刀打ちできない。どうする? もしこのまま刃向かってくるつもりなら──私はお前たちに死んだ方がマシな程の苦痛を与えるぞ?」

 

真守の脅しと鋭い眼光を受けて、二人は真守に本能的な恐怖を覚えていた。

 

新たな学園都市の超能力者(レベル5)第一位、流動源力(ギアホイール)

 

プロフィール、能力名、そしてその能力がエネルギーを生成する能力だとしか知らない彼らは、新たに第一位として君臨した超能力者(レベル5)の怖さを思い知った。

 

真守の真髄を知らずに、ただ能力のほんの一端を垣間見ただけでも、その圧倒的な力の前にはひれ伏すしかなかった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「朝槻!」

 

真守は名前をキツく呼ばれて耳がキ──ンとなって顔をしかめた。

 

「学校サボって何してんじゃん!」

 

「サボってない。友達が学園都市の協力機関に移るからその見送りをしてたんだ。小萌先生に聞いてみてくれ」

 

真守は警備員(アンチスキル)の服装をして、警備員として病院内から現れた黄泉川愛穂に叱られていた。

 

「本当?」

 

「嘘じゃない。超能力者(レベル5)に認定されたせいか小萌先生が前よりも心配性で朝には必ず電話を寄越してその日の予定を聞いてくるんだ。だから今日のことも小萌先生はもちろん知ってる」

 

真守がぶすっとしたまま毎日の鬼電を思い出して辟易(へきえき)していると黄泉川は納得したようにあー、と声を上げた。

 

「そりゃ自分の生徒が超能力者(レベル5)として承認されたら月詠先生は心配になるじゃんよ」

 

「……小萌先生に迷惑かけているのは分かってる。学校にも問い合わせがバンバン来てるみたいだし、私が街を歩くと盗撮写真が出回るし、野次馬に囲まれたりするから……」

 

真守が小萌先生に対して後ろめたい思いを感じていると黄泉川は知ると、真守の頭にポン、と手を置いた。

 

「生徒を守るのが教師の仕事だから、お前はそんなに気にするなじゃん?」

 

「……ありがとう、黄泉川先生」

 

真守はキレイに結い上げた猫耳ヘアを潰される形で頭に手を置かれたので、しかめっ面になりながらもお礼を言う。

 

「それにしてもさあ。あんたは何でこう、色々な事件に首突っ込んじゃうの?」

 

「好きで首突っ込んでるワケじゃない。普通に病院に帰ってきたら目の前で病院襲おうとしているヤツがいたんだ。むしろあっちからこっちにやってきたんだぞ」

 

「トラブル体質?」

 

真守は猫耳ヘアの形を整えながら口を尖らせて告げると、黄泉川は小首を傾げて呟く。

 

「そんな人をベッタベタな漫画の主人公みたいに言わないでくれ。それにこの街じゃ珍しくない。……それで? あの子たちは一方通行(アクセラレータ)を襲撃にしにきたのか?」

 

真守は連行されていく三人を横目で見つめながら黄泉川に問いかけると、黄泉川は手に持っていたタブレットで情報をつらつらと読む。

 

「鷹田杏子、木寺実莉、名荷原弘見。今日未明に大気連続体力学研究所を襲った子たちじゃん。そこで開発されていた対一方通行(アクセラレータ)用の秘匿兵器を奪って、それで一方通行を襲おうと考えたみたいじゃん?」

 

「対一方通行(アクセラレータ)用兵器と銘打ってもあれは所詮オモチャだろ」

 

真守が先ほどのウォーターカッター技術が使われたお粗末な兵器を思い出しながら顔をしかめると黄泉川も違う意味で顔をしかめた。

 

「オモチャって……一応、地上から地下道まで切断した結構な威力を持つ兵器じゃん」

 

「それは一般人から見たら脅威なだけで、国家の軍を一人で相手取れる超能力者(レベル5)にとってはただの銃みたいなものだ。……待った。もしかしたら対流動源力(ギアホイール)用の秘匿兵器とか民間で開発され始めてるのか? ……面倒だけど後で調べとこう」

 

真守は超能力者(レベル5)の自分から見た秘匿兵器の評価を辛らつに告げるが、対一方通行(アクセラレータ)用秘匿兵器、というのを思い出してそれが自分にも当てはまるのが開発されているのではないのかと気が付き、ぶつぶつと呟く。

 

「どうやって調べるじゃんよ、朝槻ぃ?」

 

「あ、いやごめん。大人しくしておく……」

 

黄泉川が真守の頭に肘を乗せて圧をかけてくるので真守は目を泳がせながら口を動かすが、後で調べる気が満々である。

 

「まったく、午後の授業はちゃんと出るじゃんよー!」

 

「はーい」

 

真守は黄泉川から解放されてまたもや崩された猫耳ヘアを整えながら、返事をして病院へと向かう。

 

(サボる気満々だったのに……病院にテロリストなんて来るから……)

 

真守はぶつぶつと心の中で呟きながら病院の正面玄関へとまっすぐと向かっていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「また暴れたの、朝槻さん?」

 

真守が病院に入って中を歩いていると、総合窓口の近くに立っていたパジャマ服にガウンを羽織った女性が手に紙パックのジュースを持ったまま話しかけてきた。

 

「芳川」

 

女性の名前は芳川桔梗。

遺伝子専門の研究者として『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』の主導部に籍を置き、妹達(シスターズ)肉体面(ハード)のメンテナンスを行っていた人物だ。

 

八月三一日に負傷し、一方通行(アクセラレータ)と同じように冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の患者となり、この病院に入院している。

 

真守と芳川が知り合いなのは真守が『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』の『実験』を止めるために芳川のいる主導部に侵入したからで、その時真守は芳川のことを『研究者に向いてない』と発言し、どうやらそれが芳川にとって嬉しかった事らしく、芳川は真守に心を寄せている節がある。

 

「私は暴れたくて暴れたワケじゃない。面倒事があっちから歩いてきただけだ」

 

そんな芳川は現在重傷患者なので、そんな人間をわざわざ自分の方へと歩かせるわけにはいかないので真守は早足で芳川に近づきながら告げる。

 

気を配った真守に気が付いた芳川は控えめに微笑みながら真守が近付いてこようとしているのでその場立ち止まって真守がこちらへ来るのを待った。

 

「そう言って首を突っ込むのはあなたの悪い癖ね。『実験』の時だってそうだったじゃない?」

 

芳川は近づいてきた真守にからかい交じりで言葉を投げかけるので真守はムッと口を尖らせる。

 

「別に癖じゃない。やらなければならない事をやっているだけだ」

 

「そうね」

 

芳川はくすくすと楽しそうに笑うので、相変わらず自分をからかう芳川を見て、ますます顔をしかめる。

 

「……というか、私はまだお前に怒っているんだぞ。どうして最終信号(ラストオーダー)が逃げ出した時に私に直接助けを求めなかったんだ。先生とは連絡とり合ってた癖に。私を仲間外れにしてそんなに楽しい?」

 

「あら。カエル顔のお医者様からあなたは人造人間を助けていて、よくよく聞けばその後もテロ未遂の後始末してたって聞いたけど?」

 

「う」

 

真守は痛いところを付かれて(うめ)く。

 

八月三一日の一週間前、打ち止め(ラストオーダー)がウィルスを打ち込まれた脱走した際、真守は丁度『ケミカロイド計画』で生み出されたフェブリとジャーニーの製造技術について調べていた。

その後垣根たち『スクール』と一緒にフェブリとジャーニーを造った『スタディ』に強襲をかけたり、テロに使われそうだったコンテナの撤去などを行っていたのだ。

 

「……それならフェブリとジャーニー救ったら先生教えてくれたって良かったのに……そうすればコンテナの撤去と並行してやったのに……」

 

「医者として言わないという判断をしたんじゃないかしら?」

 

「……、」

 

真守は芳川に何も言い返せずに黙ってしまう。

 

真守は冥土帰し(ヘブンキャンセラー)に既になんで教えてくれなかったんだと直談判しており、そうやって真守が抗議したら『徹夜常習犯の患者にこれ以上の生活破綻を引き起こすような事を(うなが)してしまって一体どうするんだい?』と言われて、それでもなお食い下がったら『専門家がいるんだから専門家に任せておけばいいんだよ?』と論破されてしまったのだ。

 

言わば、『キミ、色々首突っ込み過ぎて自分が入院患者だって忘れてるから大人しくしていなさい。ハイハイ、ドクターストップドクターストップ』状態だったのだ。

 

(私に言ってくれれば一方通行(アクセラレータ)は負傷しなくて済んだのに。……ああ、でもコンテナ片付けながら最終信号(ラストオーダー)探して、それで八月三一日に木原に絡まれてたら流石にヤバかったかな。……もしかしたら私が芳川のところ出入りしてる時に木原に襲われたり……ああ、もう。タイミング本当に悪い……)

 

真守が心の中でぶつぶつと顔をしかめて文句を言っていると、芳川が真守を怪訝そうに見つめていたので、真守はハッとして芳川を見て話題を提供する。

 

「そう言えば出歩いて大丈夫なのか? 心臓の冠動脈破裂で包帯取れてないはずじゃ?」

 

「回復は順調よ。余程の事がない限り大丈夫ね」

 

雲行きが怪しくなってきたので気まずそうに真守が話題を換えると、芳川はくすっと笑いながら答えた。

 

真守の言う通り芳川は一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)を守るために天井亜雄という男の道連れになる事を決めて、胸に天井の銃弾を受けて冠動脈が破裂している。

 

何故即死が決まっている彼女が助かったかというと、一方通行(アクセラレータ)が自分の脳を損傷してしまっていたにも関わらず、能力を行使し続けて芳川の血を一滴も零さずに体に巡らせ続けていたからだ。

 

言わば一方通行(アクセラレータ)は芳川にとって命の恩人である。

 

「その余程の事がさっきの一方通行(アクセラレータ)襲撃で起こったらどうするつもりだったんだ、まったく」

 

真守が芳川を見上げて怒っていると芳川は余裕をたっぷり持って微笑む。

 

「あら、心配してくれるの?」

 

「当たり前だ」

 

芳川は冗談交じりに真守に問いかけるが、『何でそんな事を今更聞くんだ』と憤慨(ふんがい)した様子で答えると、芳川は真守の本気の度合いを知ってプッと噴き出した。

 

「む。まったく、私のことを人の心配もしない冷血人間だとでも思っているのか? ……とりあえず怪我人はベッドで大人しくていろ」

 

「あなたもベッドで大人しくしてた方がいいんじゃないの?」

 

「私は別に大丈夫だ」

 

「……気になってたのだけど」

 

真守がからかわれて不機嫌になってその場を後にしようとすると、芳川がそんな真守に声を掛けてきた。

 

「何が?」

 

真守がくるっと振り返って不機嫌に言葉を漏らすと、芳川は興味半分、心配半分で問いかけてきた。

 

「どうしてあなたは入院しているの? あれだけ能力が十全に扱えて学校にも通えるなら、何も問題ないんじゃない?」

 

「……私は能力によって体の『最適化』が施されている」

 

「つまり?」

 

真守の一言だけでは事情が分からないので芳川が問いかけると、真守はつらつらと説明する。

 

「エネルギーを自分で生成できるから不必要な内臓器官が退化するんだ。一方通行(アクセラレータ)の髪の毛と瞳の色素が抜けてホルモンバランスがおかしくなっているのと一緒だな」

 

「……そうなの。あなたも彼と同じなのね」

 

強力な力を持つと色々と弊害(へいがい)も出てくる。

 

そのルールに漏れなく該当している真守と一方通行(アクセラレータ)のことを想って、芳川は寂しそうに微笑む。

 

「別に気にすることじゃない。私も一方通行(アクセラレータ)も特に気にしてないからな。……ただ人に溶け込んで生きていくには内臓器官の退化はちょっと問題だ。だから先生のところでお世話になってる」

 

「能力による内臓器官の退化なんて、あの人以外対処できなそうだものね」

 

「うん。だから先生には感謝してる。お前も一方通行(アクセラレータ)と先生に命を繋いでもらったんだから感謝しろ。もう二度と命を粗末に扱うんじゃない」

 

真守は芳川の事を軽く注意すると、その場から去っていく。

 

「……私はやっと一歩踏み出したんだもの。死ぬなんてバカな真似はもうしないわ」

 

芳川は去っていく真守の後姿を見つめながらそっと微笑んだ。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「あ! あなた、こんなトコにいたの!? ってミサカはミサカは嬉しさを前面に押し出して飛び跳ねてみる!」

 

最終信号(ラストオーダー)。私を探していたのか?」

 

真守が病院内を歩いていると、走り寄ってきたのは検体番号(シリアルナンバー)二〇〇〇一号、打ち止め(ラストオーダー)で、打ち止めは真守のそばまでやってくると、声を小さくして真守に内緒話をし始める。

 

「あのね。あの人の包帯取れた記念パーティーをしたいって言ったじゃない? ってミサカはミサカはこの前言ったことをあなたが覚えているか確認を取ってみる」

 

「うん。私の病室に来てお前が教えてくれた事、もちろん私は覚えているぞ」

 

真守が打ち止め(ラストオーダー)の頭を優しく撫でると、打ち止めは真守の小さな手を感じて嬉しそうに微笑む。

 

「そのパーティーは今日の夜なんだけどあなたにも来てほしいって、その方があの人も嬉しいかもって、ミサカはミサカはあの人の気持ちを想像して頼み込んでみる!」

 

「分かった。今日の夜は空けておくよ」

 

「よろしくね! ってミサカはミサカはあなたに大きく手を振って走り去ってみる!」

 

真守が打ち止め(ラストオーダー)の頭から手を離すと、打ち止めは嬉しさをぴょんぴょんと飛んで表してから真守の方を振り返りながら走り去っていく。

 

「危ないから前向いて走れよ」

 

「うん! ってミサカはミサカは遠くからあなたの優しい注意に頷いてみる!」

 

打ち止め(ラストオーダー)は真守の注意を聞いてくるくると回転して返事しながら去っていく。

 

「くるくる回ってるから私の注意聞いてないだろ、まったく。……ああ、頷いただけなのか、揚げ足取りな」

 

真守がしょうがないなあとため息をついているとポケットに入っていた携帯電話が鳴った。

真守が携帯電話を取り出すと『源白深城』と表示されていた。

 

深城が肉体を得たので必要だと思った真守は深城に携帯電話を買い与えていたのだ。

ちなみに深城は機能性の全くないデザイン重視の黒猫型携帯電話を所望して、それがいいと駄々をこねたので真守は深城の駄々こねに頭痛を感じながらも買ってあげた。

 

「もしもし」

 

〈あ、真守ちゃん? 今林檎ちゃんとケーキ屋さんに来てるんだけど、何か欲しいものある?〉

 

「ケーキ」

 

真守は深城の問いかけに目を(またた)かせてから一つ良いアイデアを思いついて深城へそれをお願いする。

 

「じゃあ大人数で分けられるようなエクレア? とか、シュークリームとか、まあそんな感じのたくさん小さいのが入っているヤツを適当に数種類買ってきてくれるか?」

 

〈誰かと一緒に食べるのぉ?〉

 

深城の問いかけに、真守は一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)妹達(シスターズ)の事を考えながら微笑む。

 

「うん。パーティーに誘われたんだ。でも好みが分からないからあんまり甘くないのをお願い。……お願い、聞いてくれるか?」

 

〈真守ちゃんがパーティーにお呼ばれしたの!? いいねえ、分かったよぉ! 万人受けするのをちゃあんと選んでくるからね!〉

 

「ありがとう」

 

真守がはにかみながら深城にお願いすると深城は全力肯定して気合が入った声で告げる。

 

〈うんっ! 真守ちゃんにも別で買うねぇ!〉

 

「え。私はそんなに食べられな──って、通話切った。まったく、昔から私が拒否しようとすると、絶対に私の話聞かないでおせっかい焼くんだから」

 

真守はブチっと通話を切られた携帯電話を見つめながら顔をしかめる。

 

「……まあ、楽しそうだしいいか」

 

真守は林檎と一緒に楽しそうにケーキを選んでいる深城を思い浮かべて微笑むと、とりあえず学校に顔を出さなければならないと思って自分の病室へと鞄を取りに行った。

 

 




死霊術師篇、始まりました。

深城が九月一日後も普通にいるのは風斬氷華さんと違って元が人間であり、力量装甲というAIM拡散力場を操る能力ですので安定した体を保持できるからです。そのため普通に買い物できます。


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