とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第六六話、投稿します。
次は一〇月一八日月曜日です。


第六六話:〈正体不明〉の襲撃と魔術

夜。真守は枕を抱いて病室の自分のベッドに寝転がり、布団の上にいるカブトムシ越しに垣根と話をしていた。

 

「もーそんなに怒らないで、垣根。一方通行(アクセラレータ)の包帯取れた記念パーティーに行ったくらいで」

 

『怒ってねえ』

 

真守が垣根の怒っている理由を面倒そうに呟くと、垣根は食い気味にカブトムシの薄い羽を使って声を出させた。

 

「怒ってるだろ。一方通行(アクセラレータ)のことお前が嫌いだからって別に私が一方通行に会いに行っても良いだろ。器のちっさい男め」

 

『別に器小さくねえって言ってんだろ! 当然の反応だコラ!』

 

真守が責めるようにじろりとカブトムシを睨むと、垣根がカブトムシから衝撃波にも似た叫び声を上げた。

 

「まったくもう。私は器の小さい男は嫌いだぞ」

 

『……、』

 

真守は溜息を吐きながらカブトムシの角をつんつんとつつきながら告げると、垣根(カブトムシ)はきょろきょろと動かしていたヘーゼルグリーンの瞳を動かすのをやめて沈黙した。

 

(あ、ヤバい。本気で傷ついてる)

 

真守は危機感を覚えて枕を持ったまま体を起こして焦って声を上げた。

 

「……ほ、ほら! 垣根の器が小さかろうと私にとってみればそれは可愛い欠点だし、垣根の良いところはそこじゃない! むしろ器が小さくなってしまったのは環境的な問題で、お前の良いところは環境で左右されない本質的な優しさにあるし! な!?」

 

『……、』

 

それでも答えない垣根に、真守は枕を抱きしめるのをやめてぽすっと自分の隣に置くと、カブトムシを抱き上げて太ももに乗せると、切なそうに眉をひそめた。

 

「…………私のこと、嫌いになったか?」

 

『あ、いや。そういうワケじゃ、』

 

真守が傷ついたような声を出したので垣根が焦った声をカブトムシから上げる。

 

「……垣根、私のそばにいてくれるよな? 器ちっさいからって今の一言で離れていったりしないよな……?」

 

『うるせえ離れていかねえから器が小さいって何度も言うんじゃねえ!!』

 

真守が寂しそうにぽそぽそと呟くと(しゃく)に障ったのか、真守の太ももをカブトムシの六本の足でだしだしと叩いて地団太を踏む。

 

「良かった!」

 

『……なんか上手く乗せられて気がするのは気のせいか?』

 

切なそうな顔から一転、真守がぱあっと顔を輝かせるとカブトムシから垣根の納得の言っていない声がぽそぽそっと聞こえてくる。

 

「気のせい、気のせい。……そう言えば、引っ越す先の候補が出揃ったんだ。明日には決めるから引っ越しの時は手伝ってくれるか?」

 

真守はカブトムシのつるりとした角を撫でながら話題を換える。

 

『構わねえが日にちは決まってんのか?』

 

「ううん、まだ。でも遅くても大覇星祭までには絶対に引っ越しする事は決まってるんだ」

 

『大覇星祭? ……ああ、外部の人間が出入りするから病院にいると色々とマズいのか』

 

真守は垣根の納得に気まずそうに目を泳がせる。

 

「それもあるんだが。大覇星祭で私、選手宣誓を任されたんだ」

 

『あ? 選手宣誓だと?』

 

垣根が怪訝な声を出すのでますます居心地悪くなった真守は声のトーンを落としてぽそぽそと呟く。

 

「外部へのお披露目も兼ねてで、上層部直々の命令が小萌先生のところに来て、小萌先生にこれ以上無理させるワケにいかなかったから断れなかったんだ。公式で人前に出るとプライバシーの観点から普通の病室に入院しているのはマズいから、大覇星祭までには絶対に引っ越しをすませる必要が出てきたんだ」

 

『……そうか。大変かもしれねえが頑張れよ』

 

真守は垣根からの激励を聞いてきょとっと目を見開いてから小首を傾げた。

 

「? てっきり垣根は悪態()いて選手宣誓なんて断れとか言うと思ってたが、応援してくれるのか?」

 

垣根は努力や希望などの幻想が大嫌いなはずである。

 

学園都市は能力者に希望を与えるような事をして努力を強要する癖に、素養格付(パラメータリスト)などで最初から一部の能力者以外を見捨てている。

 

しかも才能があっても利用価値によって必要か不必要か判断されると言うのに、それらを知らずに努力やら希望やらを信じて学園都市の覇権を争う大覇星祭なんて垣根にはお遊びにしか見えないのだ。

 

垣根は自分の事を大事に想ってくれているから垣根が嫌いな大覇星祭の見世物になるのを嫌がるはずだと真守は思っていた。

 

そのため言いにくかったのに、垣根が激励を飛ばしてくるのが真守は変だと思ったから垣根にそう問いかけたのだ。

 

真守自身は知らされていないが、垣根は真守に与えられた超能力者(レベル5)第一位の地位が実はいずれ絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)してしまう真守を繋ぎとめるための(くさび)であると知っている。

 

その楔を強固にするためには、超能力者(レベル5)第一位として多くの人々から認められる必要があるため、真守が大覇星祭で選手宣誓をするのが良い手だと思って激励した垣根だったが、確かに自分の事を知っている真守から見たらおかしな話である。

 

『……っ別に、俺には関係ねえからな』

 

垣根が自分と真守は無関係だと主張するので、真守はなんか納得がいかないがそれよりも追求したい事があってカブトムシをジト目で見つめる。

 

「そこで関係ないって思えるなら、私が一方通行(アクセラレータ)に会いに行くのだって許してくれてもいいのに」

 

『無理』

 

(ほんっとうに器が小さいなあ……)

 

真守がカブトムシを呆れた様子で見つめていると、突然外からバババッと複数の銃声が響いた。

 

『銃声?』

 

真守は弾かれたように立ち上がるとカブトムシを抱えたまま窓のそばに近寄って垣根にも見えるようにカブトムシを(かか)げて外を見つめる。

 

外では一方通行(アクセラレータ)が駐車場で警備員(アンチスキル)とやりあっていた。

 

『オイオイ。ついにあいつは警備員(アンチスキル)にもケンカ売るようになったのか?』

 

「違う、あれは警備員(アンチスキル)じゃない。だって警備員は子供に銃を向けない」

 

『……確かにそうだな。凶暴な元第一位、現第二位だろうがヤツだって学生でガキだからな』

 

垣根と真守の会話の通り、警備員(アンチスキル)が一般人、それも子供に対して銃を向ける事なんてありえない。

 

それに警備員(アンチスキル)の中には子供に対して絶対に銃を向けないで警棒と盾で戦う教師だっている。

 

絶対におかしい。

 

「ちょっと様子見てくる」

 

『俺も行く』

 

真守が椅子に掛けてあるパーカーを着るためにカブトムシを宙に放つと、垣根は薄い羽を展開して飛んで宙で静止しながら告げた。

 

一方通行(アクセラレータ)の前に出るんだぞ? 嫌じゃないのか?」

 

『お前の身が危ねえならそれとこれとは話が別だ』

 

真守がパーカーを着ながら問いかけると垣根はそう告げて、パーカーを着た真守の右肩にしがみついてよじよじと動いて収まりをつける。

 

「……そうか」

 

(いつもこうやって切り替えてくれればいいんだがなあ)

 

真守が垣根の自分を想う気持ちを嬉しく思いつつも、垣根の一方通行(アクセラレータ)への憎悪に呆れてカラカラと病室の窓を開ける。

 

「真守ちゃん、やっぱり行くの?」

 

パーテンションの向こうでは冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が特別に用意したソファベッドに腰かけて話を聞いていた深城が立ち上がっており、真守に近づいてそうやって声を掛けてきた。

 

「お前は林檎のところに行ってあげて。あの子、負荷がかかると植え付けられた一方通行(アクセラレータ)の精神に引っ張られる傾向があるから。前はそうなった時記憶が曖昧だったが、私が直したから今は違う。……あの子、自分の人格が一方通行の人格に変質していく感覚に恐怖を覚えてると思うから、そばにいて安心させてあげて」

 

一方通行(アクセラレータ)相手に戦おうと思う人間が何かを用意していないはずがないので、これから大規模な戦闘になり、その音は凄まじくなるだろう。

 

その戦闘音で林檎にストレスがかかるかもしれない。

 

そう思って真守が深城にお願いすると、深城はコクッと力強く頷いた。

 

「変わっていくことが怖い真守ちゃんと同じだね。分かった!」

 

「……一言余計だけど、まあいっか。行こう、垣根」

 

『おう』

 

真守はカブトムシが落ちないか肩を二、三度震わせてから蒼閃光(そうせんこう)でできた猫耳と尻尾を展開して窓から外に出た。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

真守が駐車場の上空に踊り出ると、一方通行(アクセラレータ)に突撃してきた警備員(アンチスキル)の車両を一方通行が『反射』で後方まで吹き飛ばして大爆発を起こしたところだった。

 

「──オイ! 俺が優しく撫でてやってる間に消えろ。でないと潰すぞォ!!」

 

「き、貴様……害獣の分際で許さんぞ!」

 

警備員(アンチスキル)が叫びながら何かのスイッチを押すと、警備員の後ろに控えていた車両の荷積みの部分が白い煙を吐き出しながら中心から左右に割れるように開かれた。

 

「見せてやる! 貴様に、絶対の正義をなぁあああ──!!」

 

警備員(アンチスキル)が叫ぶ後ろで車両の中から這い出てきたのは巨大な兵器だった。

 

半透明の球体の中に脳のような緑色の器官が搭載されており、球体の正面には赤い光が灯されている。

 

その球体は水晶玉を支える台座のように球体よりも大きな四つ足によって支えられていた。

 

足を動かす度に機械が駆動する鈍い音を響かせながら、その兵器は体勢を整える。

 

「何だこりゃァ? サンタクロースにでもおねだりしやがったかァ?」

 

一方通行(アクセラレータ)が楽しそうに話しかける前で、兵器の球体部分の表面に紫色の光を帯びた紋様が浮かび上がった。

 

(魔法陣!?)

 

真守が驚愕の表情を浮かべている目の前で、魔法陣の中心から青い炎が一方通行(アクセラレータ)に向かって放たれる。

 

それを受けても一方通行(アクセラレータ)は無傷で、即座に青い炎をベクトル操作で一掃して散らした。

 

(あれはどう頑張っても発火能力(パイロキネシス)だ。なんで魔法陣から能力が放たれるんだ? 科学と魔術は明確に違う技術だ。だからそれが複合できるなんてありえない……できなかったからこそシェリーはテロを起こしたんだぞ!?)

 

「ッフ。良く跳ね返したな、害獣。だがこれはどうだ!?」

 

真守が心の中で現状が理解できずに困惑している真下で警備員(アンチスキル)が意気揚々と叫ぶ。

 

そして兵器の前方の球体部分で青い炎が大きな火球として練り上げられ始める。

 

「貴様らのような能力を自分のことにしか使えない輩は所詮悪だ! 何も守れない。誰も救えない! 悪は正義の牙にかみ砕かれるのみだ!!」

 

兵器は炎を巻き起こしながらどんどんと火球を大きく作り上げていく。

 

「ギャハ」

 

一方通行(アクセラレータ)警備員(アンチスキル)の言葉を聞いて一つ笑いを零すと、そこから大きな声量で心底愉快そうに嗤い出した。

 

ギャハ、ギャハハハ! と一方通行(アクセラレータ)が狂ったように盛大に嗤いだしたので、警備員(アンチスキル)は一方通行を見つめて顔を引きつらせる。

 

「正義を気取るのがそンなに好きかァ? ならオマエの前に立っているこの俺という悪をかみ砕いてみろォ!!」

 

一方通行は嗤いながら警備員(アンチスキル)へと一歩一歩杖を突いたまま近づく。

 

「できねェなら、自分の腕にでも噛みついてやがれ。どォせ同じ味だ。俺に比べれば随分と薄味だろォがなァ!!」

 

「ふ、ふざけるな。我々を貴様と同じ悪党にするな! リミッター解除だ!!」

 

一方通行が警備員(アンチスキル)を追い詰めると、警備員は手に持っていたスイッチを押しながら叫ぶ。

 

兵器が溜め込んでいた火球が一方通行(アクセラレータ)に向かって放たれる。

 

火球は駐車場に停めてあった車を巻き込みながら一方通行(アクセラレータ)を中心に爆発した。

 

爆発して火球は振り払われた後、その場には大きなクレーターができていたが、一方通行(アクセラレータ)が立っている場所だけは無傷だった。

 

「自慢の玩具なのは分かったがよォ。ソイツもスクラップの時間かァ!?」

 

一方通行(アクセラレータ)は自分が立っている場所の地面を崩しながら飛び上がると兵器へと上から迫る。

 

そんな一方通行(アクセラレータ)に、兵器は球体部分に紫色の光の魔法陣を再度浮かばせながら火球を一方通行に向かって放った。

 

一方通行(アクセラレータ)は伸縮自在の杖を仕舞って右手を自由にすると、その火球をベクトル操作によってその右手に掴んで兵器に投げつけた。

 

兵器は格納されていた両腕を伸ばして球体部分の前で交差させて防御の姿勢を取ってその火球を防ぐ。

 

だが兵器が火球に気を取られている間に一方通行(アクセラレータ)は地面に着地して即座に飛び上がり、左手を兵器の球体部分の赤く点灯している目のような部分に手を伸ばしてベクトル操作を施した。

 

一方通行(アクセラレータ)に触れられた中心から球体部分を構成していたガラス表面にバキバキとヒビが入っていく。

 

中に入っている液体はガラスの球体部分にヒビが入った事により支えてもらえなくなり、自壊するようにヒビが広がり球体部分を更生するガラスが砕け、中から液体が大量に流れだす。

 

その衝撃で兵器は後ろへと倒れていき、四つ足をだらしなく弛緩させて沈黙した。

 

「逃げられるとォ────!?」

 

一方通行が逃げ出した警備員(アンチスキル)を追おうとするが、すぐそばに落ちてきた棺のような部品に驚いて立ち止まった。

 

 

棺の前部分が開かれると中から下着姿の少女が地面へと落ちてきた。

 

 

少女が力なく地面に倒れこむ姿を、一方通行(アクセラレータ)は目を見開いて固まっていた。

 

その少女は死体だった。

 

一方通行(アクセラレータ)の脳裏に一万体以上の妹達(シスターズ)の死体が思い起こされる。

 

「………………何のつもりだァ」

 

一方通行(アクセラレータ)(うめ)くように呟く。

 

「中に死体なンか詰めやがってェ…………!」

 

一方通行(アクセラレータ)は動揺で思わず顔に片目を出す形で手を当てる。

 

妹達(シスターズ)を殺したのは自分だ。

 

だがこの少女は殺してない。

 

もしこの少女を自分が殺していたら命を奪う感触に絶対に自分は気が付くはずだ。

それにこの少女が兵器に搭載されている事に気が付かなかったのは、生体反応がまったくなかったからだ。

だから最初からこの少女は死んでいた。

自分は殺してない。

 

でも──万が一殺していたら?

 

「──一方通行(アクセラレータ)!」

 

一方通行(アクセラレータ)の脳裏にその可能性が駆け巡った時、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

夜空を一方通行(アクセラレータ)が見上げると、そこにはいつかの夜のように朝槻真守が天から()ちるように自分へと一直線に向かってきていた。

 

 

真守は一方通行(アクセラレータ)の前へと躊躇(ためら)うことなく降り立って目線を合わせて眉をひそめる。

 

「大丈夫か?」

 

真守が心の底から心配そうに告げるのを聞いて一方通行(アクセラレータ)は真守から目を逸らした。

 

この少女はいつだって自分の心配をしてくれている。

 

クローンと言えど、人間を一〇〇〇〇人以上殺した自分を。

 

「…………………………あァ……、問題ねェ」

 

「本当か?」

 

「大丈夫だっつってンだろォが」

 

真守の再度の問いかけに嫌そうに真守を睨むと、真守はそんな一方通行(アクセラレータ)へと柔らかく微笑んだ。

 

「そうか。良かった」

 

真守が柔らかく微笑むのを、一方通行(アクセラレータ)は直視できなくてそっと顔を逸らす。

それでも真守が自分のことを見つめて安堵の笑みを浮かべているのを感じて、一方通行(アクセラレータ)もその笑みにささくれだっていた心が癒されてそっと目を細めた。

 




真守ちゃん、垣根くんの扱いに慣れてきました。

あと垣根くん、真守ちゃんのためなら嫌なことでもこなします。
でもやっぱりまだ三流チンピラから完璧に脱せられてない……。頑張れ。

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