とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第六七話、投稿します。
次は一〇月一九日火曜日です。


第六七話:〈痴話騒動〉と方針決め

真守は一方通行(アクセラレータ)の無事を確認すると、うつ伏せになって倒れている死体へと近づく。

 

そして自分よりも高い身長に赤茶色の腰まで伸びる髪の毛を持つ少女を難なくひょいっと抱き上げると、綺麗に横たわらせてその頬にぴとっと手で触れた。

 

(死後二日とちょっと。これは防腐処理をすぐに施されたのかな。……でも、なんだコレ?)

 

真守は体温なんて微塵もない死体の冷たさを手で感じながら、少女の状態を確認する。そして内心首を傾げた。

 

(原理不明の力が働いている? 上手く言い表せないこの感触。さっきの魔法陣といい、やっぱりこの子には魔術が使われているのか。……でも能力者に、しかも死体に魔術を使わせるなんて絶対にできない。……原理が逆? もしかして魔術で能力者を動かしているのか? 死体を操る魔術。……それなら辻褄が合うな)

 

「……オイ」

 

真守がじぃーっと死体の少女を観察していると、真守の背中から一方通行(アクセラレータ)が声を掛けてきた。

 

「なんだ?」

 

「さっきから気になってたンだが……オマエの右肩にくっついてるソレは何だ?」

 

一方通行(アクセラレータ)が真守にその存在を問いかけたのは垣根が未元物質(ダークマター)で作り上げた人造生命体である白いカブトムシだった。

 

「あ。えーっとこれは、その……通信媒体にもなる新手のアンドロイド……に近い何かとか?」

 

真守は右肩にくっつき、ヘーゼルグリーンの瞳に無機質さをわざと演出して一方通行(アクセラレータ)を睨みつけているカブトムシ(垣根)をそう表現する。

そんなカブトムシの視線にさらされた一方通行(アクセラレータ)はカブトムシを見て怪訝な表情をして──。

 

「……そンなのが?」

 

爆弾発言をした。

 

場の空気が凍るが次の瞬間、カブトムシがヘーゼルグリーンの瞳を赤く染め上げて、ババッと薄い羽を展開して真守の右肩から離れて一方通行(アクセラレータ)へと特攻しようとする。

 

「落ち着け!」

 

そのため真守は飛んでいるカブトムシを両手で挟み込むように掴み上げる。

 

真守に掴まれたカブトムシは空中でバタバタと六本足を暴れさせて薄い羽を高速振動させて馬力を生み出すと、真守を引っ張りながらも一方通行(アクセラレータ)へその鋭利な角を突き出して特攻しようと前へ進む。

 

真守はそこで体内のエネルギーの循環効率を上げると、カブトムシの馬力以上の力を引き出してカブトムシを(ふところ)まで持ってきてぎゅーっと動けないよう覆いかぶさるような体で抱きしめる。

 

「バカにされて怒る気持ちは分かる! ほら、一方通行(アクセラレータ)、ちょっと謝って!!」

 

「……悪かったなァ?」

 

「ほら謝った! 一方通行(アクセラレータ)が謝ったぞ、だから落ち着け!!」

 

一方通行(アクセラレータ)が真守に言われたので状況が上手く呑み込めずに疑問符をつけたまま謝ると、真守はそれを受けて小学生が使いそうな『形だけでも確かに謝ったから良いだろ理論』で垣根を丸め込もうとする。

 

だがカブトムシはバタバタ真守の手から離れようともがく。

しかも心なしかさっきよりも抵抗が激しくなっている気がする。

 

それもそのはず。

 

垣根は真守と話をするのと状況を見極めることを目的としてカブトムシと五感をリンクさせている。

 

真守はカブトムシを全力で押さえつけるために、そのふくよかな胸の谷間にぎゅうぎゅうカブトムシを押しこむ形で抱きしめている。

 

つまり──真守の胸の感覚がダイレクトに垣根に伝わるのだ。

 

それはつまり、真守の胸に全身が包まれている感触なわけで。

 

最早一方通行(アクセラレータ)への怒りを向けている暇ではなく、早く真守の胸から脱したい垣根は自分の体を抱きしめている真守の腕を前足二本でべしべしと叩く。

 

それでも真守が離してくれないので、あまりやりたくないが後ろ足で真守の胸をふにゅんと踏んで離すようにジェスチャーで示した。

 

「あ」

 

真守はそこでカブトムシ(垣根)が何を考えているか全て察して声を上げた。

 

そしてかぁーっと顔を赤くして胸からカブトムシを開放すると、真守の胸から脱する事ができて安堵している垣根に向けて、真守はカブトムシを自分の目の高さに持ってきて声を掛ける。

 

「…………かきねのえっち」

 

真守が眉を八の字にして顔を赤くしてムーっと口を尖らせると垣根は真守に掴まれたまま『お前のせいだろ!?』と言いたいがためにバタバタとカブトムシの六本足を空中でばたつかせた。

 

そしてそれと同時に垣根はカブトムシの五感リンクを一括にしないでバラバラでも起動できるプログラムを急ピッチで造り上げる事を決意した。数日前にもこんな事があり、まさか二回目が起こるはずもないと思っていた自分が馬鹿だったとも思いながら。

 

(カキネ? あのカブトムシもしかして人間の男が操ってンのか? ……五感とかリンクさせてンならそりゃァ酷だろォなァ)

 

顔を赤くしてじとーっとカブトムシをジト目で見つめる真守と、抗議するように六本足をバタつかせるカブトムシの一連の様子を眺めていた一方通行(アクセラレータ)は心の中で呟く。

 

そんな破壊痕が目立つ三人がいる駐車場に、警備員(アンチスキル)の車両が到着した。

 

「朝槻、またお前じゃん?」

 

「黄泉川先生」

 

真守は警備員(アンチスキル)の車両から降りてきた黄泉川を少し赤らめた顔で見上げた。

 

「──DA? 聞いた事ないじゃん」

 

黄泉川にここで何があったかを真守が話し、それに一方通行(アクセラレータ)が補足する形で事の経緯を説明すると、黄泉川はそんな言葉を吐きながら首を傾げた。

 

どうやら一方通行(アクセラレータ)の話では病院に入ってきた侵入者を追っていたDAを名乗る警備員(アンチスキル)と戦闘になったというのだ。

 

真守も黄泉川と辺りを探してみたが怪しい人物はおらず、どうやら先程の戦闘のどさくさに紛れてその少女は逃げたらしい。

 

学園都市に展開している垣根のカブトムシでも全く知らない人物を探すのは困難を極める。

 

「装備一式はどう見ても警備員(アンチスキル)のものだったが、ヤツらは絶対に警備員じゃない」

 

「なんでじゃん?」

 

そのため真守はDAに追われて病院に侵入した人間を探すのを一旦保留にして黄泉川にそう推測を述べると、黄泉川は当然の疑問を口にした。

 

「オマエたちは笑っちまうくらいクソ真面目だから丸腰の一般人に銃なンか向けたりしねェだろォが」

 

「成程ね。……で、あの遺体は?」

 

黄泉川は真守と一方通行(アクセラレータ)の意見に納得し、現在進行形で死体袋に詰められている少女の死体を横目で見てから問いかける。

 

「あのガラクタの中に入っていたンだ。死んで二日は経ってる」

 

「え? どういう事じゃん!?」

 

一方通行(アクセラレータ)の言っていることに間違いはないぞ。正確には死後二日ちょっとだ。大体二日前の夕方頃に死んだと思う」

 

真守が一方通行(アクセラレータ)の説明に補足を入れると黄泉川は真守と一方通行を見比べてから首を傾げた。

 

「何でそんなことが分かるの?」

 

「生きてるヤツとはベクトルの通りが違う」

 

一方通行(アクセラレータ)の言い分は確かに真っ当だった。

一方通行の能力はベクトル操作。ベクトルを通せば理解できる事だ。

 

「……ベクトルで? 朝槻は一方通行(アクセラレータ)に教えてもらったんじゃん? それにしては一方通行よりも時間に正確だけど」

 

「根本的な仕組みは違うが言ってしまえば私の能力はベクトル生成だ。一方通行(アクセラレータ)に分かる事は私にも分かる。……まあ、体内のエネルギーの残存具合でも大体死んでから何日経ってるとか分かるが、どっちにしろ私にも一方通行にも分かることに変わりはないな」

 

真守は黄泉川の問いかけにつらつらと自分と一方通行(アクセラレータ)の能力の関係性を述べると黄泉川は納得したように頷いた。

 

「だから彼女が死後二日なのは間違いないぞ。……それにあの遺体の保全性から考えて、防腐処理は死んですぐに行われた。……殺されたんじゃないのか?」

 

「いいや、違うぞ」

 

真守が黄泉川と話をしていると、黄泉川と同じ班の髪の毛が短い青年が歩いてきて真守の推測を否定した。

 

「あの遺体は人皮挟美。二之腕高校一年。三日前に川に飛び込んで自殺を図り、救急搬送中に死亡となっている」

 

「でもお前たちはあのロボットは能力を使ったって言ってたじゃん? 死んでたら能力使えないはずだろ?」

 

同僚の説明に黄泉川が至極当然な疑問を持つと、それを聞いていた一方通行(アクセラレータ)はチッと舌打ちしながら面倒くさそうに説明する。

 

「オマエたちのパチモンが、死体を盗んでガラクタに押し込ンで死んだ脳から能力を引き出したって事だろォが」

 

「仮にそうだとしても彼女は異能力者(レベル2)だぞ。この惨状を作るにはどう見積もっても大能力者(レベル4)はいるんじゃないのか?」

 

「ハッ。引き出すだけじゃなくて底上げもしてるってわけだ」

 

一方通行(アクセラレータ)が吐き捨てるように告げると、茶髪の警備員(アンチスキル)はますます今回の事態が奇妙で顔をしかめた。

 

「そんな事例聞いたことがない」

 

「どういうことじゃん?」

 

茶髪の青年と黄泉川が首を傾げていると一方通行(アクセラレータ)は気怠そうに立ち上がった。

 

「それを調べンのがオマエたちの仕事だろォが。俺はもォ帰る。オマエは?」

 

「そうだな。とりあえず私も病室に戻ろうかな」

 

一方通行(アクセラレータ)の言葉に真守が頷くと、真守は黄泉川を見上げた。

 

「じゃあ黄泉川先生。後はよろしく」

 

真守は右肩に再びしがみついたカブトムシを連れて黄泉川に別れを告げてから、先に杖を突いて歩き始めていた一方通行(アクセラレータ)の後を追った。そして一方通行に追いつくと、真守は一方通行の歩くスピードに合わせて隣を歩きながら思考する。

 

(ブードゥー教には生きたままゾンビにされるっている刑罰があったハズだ。そこから発展したもので死体を操っていたのか? でもあれは生者をゾンビにする刑罰だから死ぬ事はない。イマイチ違う気がするな。……そう言えば道教には僵尸(キョンシー)という札を額に張り付けて動く術があったが、それ関係か? まあなんにせよ私は魔術にあまり詳しくないからな。インデックスに聞くしかないか)

 

真守が使用されている魔術についてインデックスから得た知識を(もと)に思考してそう結論づけると病院内に入り、一方通行(アクセラレータ)と別れを告げる。

 

「じゃあなァ」

 

「うん、おやすみ。一方通行(アクセラレータ)

 

一方通行(アクセラレータ)は病院の二階に病室があり、階段を上がって帰れるが、真守はVIPルームがある最上階なのでエレベーター前へと向かってボタンを押す。

 

そう言えば深城と林檎のもとに行かなければならないとエレベーターに乗ってから気が付いて、真守は林檎の病室がある階のボタンを押してエレベーターの壁に寄り掛かる。

 

(先日もシェリーが科学と魔術の関係性に暴れてたのに、能力者の死体を操って魔術を使う事件とかタイミングが悪すぎる。イギリス清教に連絡したら能力者の死体を操れば能力が使えるとバレてしまうから教えられないし、そもそもシェリーの一件で学園都市と駆け引きしている最中だから絶対に教えられない。もう夜遅いし、明日インデックスだけに伝えて学園都市内で処理を、)

 

『……さっきから何考えてんだ?』

 

真守が思案顔をしていると、垣根は真守の右肩にしがみついているカブトムシ越しに躊躇(ためら)いがちにも問いかけてきた。

 

「…………さっきのオモチャについて」

 

さきほど垣根の顔に胸で感覚的に全身を(おお)ってしまうように抱きしめてしまった真守は、その事を思い出して頬を少しだけ赤らめながら目を泳がせて呟く。

 

『……学園都市には能力者の意志そっちのけで能力を引き出す技術もある。幻想御手(レベルアッパー)だって植物状態になっても能力者から能力を引き出してたんだ。能力を底上げする技術だってあるだろ』

 

垣根も若干気まずいのか間を置いてから推測を述べる。

 

真守はそれを受けていつまでも照れていてはしょうがないと考え、一息ついて気持ちを落ち着けてから真剣な表情をして先程の事件で自分が感じたことを告げる。

 

「垣根。アレには魔法陣が浮かび上がっていた。だから純粋な科学じゃないんだ」

 

『は? つーことは『外』の技術、魔術ってことかよ?』

 

「魔術には死霊魔術と呼ばれるものがある。字面(じづら)のまま死体を操ることができる魔術だ」

 

真守は垣根の疑問に一つ頷いてから魔術を全く知らない垣根にも分かりやすいように簡潔に説明する。

 

『能力者は魔術を使えないって話じゃなかったのか?』

 

「能力者が魔術を使うんじゃなくて、魔術師が能力者の死体を使うんだ」

 

垣根は真守の言い分に一瞬間を置いてから再びカブトムシの薄い羽を使って発声する。

 

『それなら拒絶反応みたいなのはでないな。辻褄が合う。で、どうすんだ? 魔術だったら手も足も出ねえだろ。……ああ、正確には能力使ってんのか。クソッややこしいな』

 

「餅は餅屋。知り合いに魔術を知り尽くしている子がいる」

 

真守がインデックスのことを思い浮かべながら告げると、垣根はカブトムシのヘーゼルグリーンの瞳の光を鋭くさせる。

 

『その知り合いってのはあのシスターか?』

 

「うん。インデックスって女の子だ。あの子に聞けば間違いないと思う」

 

真守はそこでエレベーターが目的の階に到着したので降りて林檎の部屋へと向かう。

垣根はそんな真守の右肩にしがみついている六本足のうち、一本を使って真守の腕をぺちぺちと叩く。

 

『そこら辺もしっかり話してもらうからな』

 

「分かってる、ちゃんと話すって約束する。だがまずはDAについて調べないといけないな」

 

『逃げたDAは別のカブトムシ(端末)で追ってるが。どうする?』

 

真守が約束を取り付けてくるので魔術についての話題は終了したとして、垣根は現在進行形でできることについて問いかける。

 

「あんなオモチャを持ってるって事は結構大きな組織なハズだ。慎重に動きたいからまずは情報収集だ、ヤツらのアジトの一つだろうけど、場所は一応特定しておいてくれ。……魔術が関わってるから慎重に動かないといけない」

 

『……確認するが、魔術はこの世の法則じゃねえんだよな?』

 

垣根の問いかけに真守はコクッと真剣な表情をして頷く。

 

「うん。だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。それに私も気を付けなくちゃならない。源流エネルギーで魔術由来の異能を焼き尽くすと不思議な現象が起こるからな」

 

『不思議な現象?』

 

「シェリーのゴーレムを焼き尽くした時に虹色のきらきらーっとしたのが舞っただろ。あれが不可思議な現象だ。それに魔術を焼き尽くすと余波がいつもよりすさまじいんだ。ゴーレムの質量と同等の他の物質を焼き尽くしても、余波が暴風並みに吹き荒れることなんてありえない。それにおかしなことに私の源流エネルギーで魔術を焼き尽くすとどうも空間に歪みが生じるんだ」

 

『源流エネルギーによる「存在の抹消」が歪みを生じさせてるってことか?』

 

「恐らくそうだ。だから魔術に対しては慎重にならざるをえない」

 

『……一方通行(アクセラレータ)が関わってくるから表立って動きたくねえが、見過ごせねえから影から手伝ってやる』

 

(垣根、やっぱり一方通行(アクセラレータ)に対してだけ器が小さいなあ)

 

真守は真剣な話をしていたのに一方通行(アクセラレータ)への敵意は忘れない垣根の様子に、思わず心の中でそう呟きながらガラッと林檎の病室を開けた。

 

「…………わぁお」

 

真守が思わず呟いたのは林檎が念動能力(サイコキネシス)であらゆる家具、それと深城すら浮かせていたからだ。

 

「あ、真守ちゃん! 大変だよぉ林檎ちゃんなんでも浮かせられるんだよ!」

 

どうやら警備員(アンチスキル)一方通行(アクセラレータ)の戦闘は林檎のストレスに微塵もならなかったらしく、それでも深城が自分のもとに来た目的が自分を精神的に安定させるためだと林檎は知り、深城を安心させるために能力を使ってみたところ、どこまでできるか試したくなりこのような事態になっているらしい。

 

『どういうことだ。林檎の念動能力(サイコキネシス)低能力者(レベル1)から異能力者(レベル2)の間を行ったり来たりしてるんじゃねえのかよ』

 

「脳の電気信号イジって一方通行(アクセラレータ)の思考演算パターンを林檎用に最適化したからどうやら能力が大幅に向上したらしいな。……ん? 林檎? なんで下の名前?」

 

『そんなこと気にするんじゃねえ。俺がアイツを名前で呼ぼうがどうでもいいだろうが』

 

真守が垣根の『林檎』呼びに疑問を持つと、垣根はあからさまに嫌そうに告げる。

 

(その言い方、なおさら何かあったって言ってるようなもんだが。……ゆずりは……そうか、私の時と同じでまた噛んだのか)

 

真守が全てを察してふふっと小さく笑うと、右肩にしがみついていたカブトムシの足を垣根は一本動かして真守の肩を怒りを込めてダシダシと叩く。

 

特に痛くもかゆくもないので真守は深城や周りの家具を楽々と持ち上げている林檎へと近づいてベッドに座っている林檎に視線を合わせる。

 

「林檎。お前の体が心配だから能力を使うのは一旦やめろ」

 

「うん」

 

真守に指示された林檎は素直に頷き、深城をベッドの上に降ろして家具を全て元の位置に戻した。

 

「……林檎の能力の正確な計測が必要だな。でも林檎は『暗闇の五月計画』出身で学校に所属してないから簡単には計測できないし……小萌先生に頼むか……? でも小萌先生は発火能力(パイロキネシス)専攻だから、結局他の人に頼まなくちゃいけないし……」

 

真守が小萌先生を思い浮かべて思案していると、真守の腕の中からカブトムシが飛び立ってベッドの上に降り立ち、真守を見上げた。

 

『誉望が林檎と同じ念動能力(サイコキネシス)だからあいつに見守らせて、ウチで保有してる計測機器使って能力の測定するか?』

 

「え。ああ、そうか。誉望は大能力者(レベル4)だったな。なるべく早い方がいいからできればすぐに誉望に連絡とってもらいたいんだが、あいつの予定はどうだろう。聞いてみてくれないか?」

 

『アイツの予定なんてあったもんじゃねえから気にするな。それに呼び出せば絶対に来る。つーかそれ以外の選択肢は許さねえ』

 

真守が誉望にお伺いを立ててほしいと垣根に伝えると、垣根は心底どうでも良さそうに答える。

 

「……垣根。あんまり誉望にパワハラしないで」

 

『あいつは前に俺につっかかってきてんだよ。だから俺があいつのことをパシリみたいに使っても問題ねえ。あいつだって文句ねえだろ』

 

真守が垣根の誉望に対する扱いに苦言を(てい)すると、垣根はあざ笑った様子でつらつらとカブトムシから発声させる。

 

「垣根。それは『文句がない』じゃなくて『文句を言えない』んだぞ。分かってるか?」

 

『うるせえ。別にいいだろ、あんなヤツ』

 

(本当に私以外には辛らつだなあ……)

 

真守が内心ため息をついていると、方針が固まった様子なので深城がそこで真守の肩をちょんちょんとつついて声を掛けてきた。

 

「真守ちゃん。それでもう表の方は大丈夫なのぉ? すっごい音が響いてビカァッて光ってたけど」

 

「うん? うん、とりあえず大丈夫だ。……そうだな、もう夜遅いし寝ようか」

 

「うん! 林檎ちゃんおやすみーっ」

 

真守の提案に頷いた深城は寝る前の挨拶として林檎をぎゅーっと抱きしめる。

林檎は深城に抱き着かれた方の片目を閉じながら深城の手に自分の手を添えて少しだけ口角を上げて微笑んだ。

 

「おやすみ、深城」

 

「うん、おやすみ。あ。丁度良いから帝兵さん、林檎ちゃんのことよろしくね?」

 

『はい。分かりました。源白もおやすみなさい』

 

垣根ではなくカブトムシがそう了承する隣で、林檎はいそいそと布団の中に入ってよじよじ歩いて林檎の枕もとに向かってきたカブトムシにも布団を少しだけかけてあげて、真守と深城を見上げた。

 

「朝槻、おやすみ」

 

「おやすみ、林檎。それと垣根も、おやすみ」

 

真守は林檎の頭をそっと撫でながら微笑みカブトムシにも笑いかける。

 

『お前もちゃんと寝ろよ』

 

「うん。垣根もゆっくり休んでな?」

 

真守は林檎の頭から手を離すと垣根とそう言葉を交わして、深城と共に林檎の病室を出て自分の病室へと戻って就寝に入った。

 

 




垣根くん、ここで一方通行と初めて接触(カブトムシ越し)。

そして真守ちゃんの胸に全身を包まれるという謎の異空間に飛ばされてしまう……思春期男子にはキツい……垣根くん、色んな意味で応援するから頑張れ……。

作中でもある通り、魔術の攻撃はこの世の法則ではないので、この世に負ける事が無くなった垣根くんにも魔術ならば攻撃が通ります。
原作では垣根くん、『外』の技術を知らなかったので無敵だと思っていましたが本当はそんなことなく……本当に井の中の蛙だったんだなあ、と思います。



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