とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第七一話、投稿します。
次は一〇月二三日土曜日です。


第七一話:〈悪意権化〉との議論

〈キミの事は超能力者(レベル5)第一位ということ以外も僕は知ってるよ、うん。『解析研』の秘蔵っ子。制御不能の消えた八人目の超能力者(レベル5)。『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』の隠された本命。まだまだキミを形容する言葉はたくさんあるね〉

 

「エステルから聞いた。最終信号(ラストオーダー)を狙ったりミサカ一〇〇四六号を手元に引き寄せようとしたのはミサカネットワークに存在する死の記憶を求めてなんだな?」

 

〈うん、そうだ。『公式』を完成させるためにどうしても必要なんだよ〉

 

真守が自分のことなどどうでもいいと言わんばかりに問いかけると、菱形も真守の身の上話はどうでもよかったのか、淡々と答える。

 

真守は気になる単語があり、眉をひそめて問いかけた。

 

「公式?」

 

〈そうそう。一〇〇三一回の死の記憶を持ってして『公式』が完成は完成する。それをインストールして、蛭魅は絶対能力者(レベル6)へと進化できるんだ。完全な頭脳には死の記憶だってもちろん必要だろう?〉

 

「菱形蛭魅が絶対能力者(レベル6)となった後、お前たちは一体どうする気だ?」

 

真守がその目的の先に何があるのかと問いかける。

 

絶対能力者(レベル6)は神さまの答え──世界の真理を知るための手段だ。

 

その手段を菱形幹比古と菱形蛭魅が何に悪用しようとしているのかと真守が気になって問いかけると、菱形は『蛭魅が絶対能力者(レベル6)になったら、か』と一言しんみりと呟いてから思案する。

 

〈……朝起きて夜眠る。そんな平凡で幸せな毎日を送って静かに暮らすんだよ。僕と蛭魅、二人っきりで全てをやめて一緒に仲良く暮らすんだ〉

 

(絶対能力者(レベル6)が何をもたらすか理解していないのか、この男)

 

真守は心の中でそう呟くと菱形に切り出した。

 

「……お前は絶対能力者(レベル6)が世界に顕現(けんげん)したら一体どうなると思う?」

 

絶対能力者(レベル6)が顕現した世界? 何だい、それは〉

 

真守の問いかけが分からずに菱形は思わずオウム返しをする。

 

真守は訝しみながらもゆっくりと(さと)すように絶対能力者(レベル6)が顕現した世界について話す。

 

絶対能力者(レベル6)、つまり神さまが現れるということは今のこの世界が終わるということ。世界が終わるならば戦争が起きて誰も彼もがその中で命を落とす。……世界を相手取る力を持つ神は個人を優先してはいけない。その強大な力の責任を負わなければならないからだ。多大な力を持つ者には多大な責任が(ともな)う。それは統治者を見れば分かるはずだ」

 

〈それが?〉

 

真守が力を持つ者に与えられる責任を説いていると、菱形は興味なさそうな薄っぺらい声で告げた。

 

「……お前は絶対能力者(レベル6)がもたらす世界やその意味について、どうでもいいの?」

 

〈うん、どうでもいいね〉

 

真守が研究者にあるまじき人間だと顔をしかめていると菱形はそう断言した。

 

〈蛭魅の夢である絶対能力者(レベル6)に蛭魅が辿り着ければ世界なんてどうでもいい。世界が滅びようと蛭魅と僕が生きていればどうでもいいよ、うん〉

 

菱形はあざ笑う様子で彼が本当に心からしたい事をはっきりと宣言した。

 

「それでも絶対能力者(レベル6)に手をかけるべきじゃない。アレはお前の思っているようなものと違う。本当に菱形蛭魅のことを想っているならお前は止めるべきなんだ」

 

〈……その言い方、まさかキミは絶対能力者(レベル6)に手をかけたとでも言いたいのかい? ……キミは確かに『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』で既に絶対能力者(レベル6)へと進化できる可能性があるとお墨付きが出ている。もしかして、自分の意思で進化(シフト)していないのかい?〉

 

菱形は真守の言い分を聞いて震える声で訊ねてくる。

 

「だったらどうする?」

 

〈ありえない……まさか、キミは死を知っているとでも言うのかい?〉

 

どうやら菱形幹比古にとって気になるのは真守が何故絶対能力者(レベル6)になる権利を持っているのに進化をしないのか、という事ではなく、蛭魅が絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)するために必要な死の記憶を真守が持っているのかの方が重要らしい。

 

「……そうだな。お前が使う()()()()()()大事な死を知っているかと聞かれれば知っている。私は昔、人を死から引き戻したことがあるからな。その時に私は死に触れた。それは事実だ」

 

〈な、……なんてことだ〉

 

菱形は真守の告白に恐れおののく。

 

〈だったらその死をどうにかして教えてくれないか!? そうすれば打ち止め(ラストオーダー)は諦めよう、うん! キミは超能力者(レベル5)で現実を数字に置き換える事ができる逸材だ! だからキミの死についての詳細なレポートが聞きたい!〉

 

「……それを聞いてもお前はどうしようもないんだよ」

 

〈どうしようもないかは僕が決める事だ! キミに言われる筋合いはないね!〉

 

「……お前たち『プロデュース』は能力が脳のどの部位に宿っているか調べていたんだろう。非人道的すぎる実験を繰り返して解った事実は、『霊魂と呼ぶべき何かが能力を発動している』というオカルト的な見解だけ。だから──霊的な何か、つまり魂はある。お前たちが出した結論だ。それをお前たち自身が覆すことはしないだろう?」

 

〈突然何の話をしているんだい?〉

 

「……あの時、あの子の生命力の塊──魂はここではないどこかへと行こうとしてしまっていた」

 

真守は深城を死の淵から取り戻した時の事を思い出す。

 

「私はあの子の魂がどこかへ()()()()していたのを止めるために、ベクトル生成をしてこの世の法則を()()()()()()()()新たな定義を生み出してあの子の魂を繋ぎとめた。……だが、それだけじゃダメなんだ」

 

真守は息を吹き返したのにまるでそこに命がないと感じられるほどに空虚な深城の体を抱き上げた時の感触を思い出しながら呟く。

 

「あの子の存在そのものは既にあの子の体から周囲へと()けつつあった。つまり世界の定義を塗り替える私の能力をもってしても、人を完全に蘇生させる事は不可能だ。だから私のような特別な能力者が近くにいなかった菱形蛭魅は死んでいる。私の死の記録を聞いて、お前が『公式』に組み込んでも菱形蛭魅の願いを叶えるなんてできない。菱形蛭魅はこの世にもういないのだから」

 

〈……蛭魅は生きている〉

 

真守の話に筋が通っているのは菱形も分かっている。

 

だが自分の心の支えである蛭魅が死んでいるという事実を受け入れられないからこそ、おまじないのようにそう呟いた。

 

「私の話が研究者の視点から見て筋が通っているとお前は理解できる。その研究者としてのプライドを折っても、お前はそう思い込みたいのか?」

 

〈蛭魅は生きているんだ! 蛭魅が蛭魅としてここに存在しているんだから当然じゃないか!〉

 

菱形は真守の問いかけに激昂(げきこう)するが、真守もすかさず追撃する。

 

「では菱形蛭魅はどこからその公式の知識を持ってきたんだ? 魔術を欠片も教えたことがないとエステルは言っていた。その菱形蛭魅の中身は檮杌(とうこつ)なんじゃないのか?」

 

〈蛭魅が素晴らしい頭脳を持っていたからこの公式を導き出すことができたんだ!〉

 

「じゃあ百歩譲って菱形蛭魅がその公式を生み出したとしよう。だが菱形蛭魅は最終信号(ラストオーダー)のことを全く知らなかったのに、何故一〇〇三一回の死の記録を最終信号が保全しているなどと突然言い出したんだ?」

 

〈死の記録が必要だって分かった時に蛭魅が調べたんだよ! 当たり前じゃないか! キミはどうしても蛭魅が死んだことにしたいのかい!?〉

 

真守の追撃に菱形は(わめ)き散らしながら答える。真守はそこでグッと歯を噛み締めた後にそっと呟いた。

 

「……だってお前が菱形蛭魅を死んだと認めなければ今のままじゃ彼女は報われないじゃないか」

 

〈…………報われない?〉

 

菱形の問いかけに真守は、死がどんなものか知っているからこそ、やるべきことを菱形に教える。

 

「死んだのにまだ生きているはずだと、生きている人間に勝手に思われて弔ってもらえないなんて菱形蛭魅が浮かばれない。本当に彼女のことを想っているならば、死を認めて(いた)んだほうがいいに決まっている。……菱形蛭魅を楽にできるのはお前だけだ」

 

〈だから、蛭魅は生きているんだってば! キミは真の髄まで超能力者(レベル5)サマなんだね、うん! 自分の考えに凝り固まっている!〉

 

「だったらどちらの考えが凝り固まっているか証明してみようじゃないか」

 

〈証明?〉

 

菱形は嫌な予感がしつつも顔をしかめた真守の発言が気になって問いかけた。

 

「その菱形蛭魅の中に侵入している檮杌の魂を砕いても菱形蛭魅がそこに存在していたら、菱形蛭魅は死んでいない事になる。だからやってみよう、菱形。菱形蛭魅が本当に死んでいるのか死んでいないのか、明らかにしよう。菱形蛭魅が本当に死んでいるならばお前もそれを認めて弔ってやった方がいいに決まっている」

 

〈檮杌の魂を……砕く? 何を言っているんだい、だからこれは蛭魅だって、〉

 

「お前は私の噂を聞いたことがあるんだったな。だったら私の周辺で記録はあるのにいないことになっている人間が続出している、という噂は聞いたことがあるか? まあ、なくてもいい。そういう噂が存在してもおかしくないと私は思っているからな」

 

真守は菱形の動揺する声を途中で(さえぎ)って告げる。

 

〈……突然、何の話をしているのかな? さっきから話題が飛び飛びだよ、うん〉

 

「それは悪かったな。だが必要な話だから聞いてくれ」

 

真守は菱形の意味がうまく掴み取れないという苦言に、一言謝ってから忌々しそうに呟く。

 

「──私の源流エネルギーには私にとって面白くもなんともない特性がある」

 

真守が手から源流エネルギーを生成すると、歯車がガキガキガキ! と、荘厳に噛み合わされる音と共に蒼閃光(そうせんこう)(ほとばし)った。

 

「源流エネルギーは存在そのものの抹消をする性質を持つエネルギーだ。だから源流エネルギーに焼き尽くされて存在の確認ができるものはこの世にありえない。この源流エネルギーを使って人を殺すと人間の存在そのものが『抹消』されるんだ。誰も彼も、その人物がいたことを忘れることになる。私はこれで何百人もこの世からその存在を『抹消』した」

 

〈……は?〉

 

「今からそっちに行ってそこにいる菱形蛭魅を源流エネルギーで焼き尽くす。それで檮杌という存在が抹消されて菱形蛭魅という存在がこの世に残っていれば、菱形蛭魅が死んでいたという事になる。死んだ人間の死体を焼き尽くしてもそれは既にモノだから人間の存在は消えないんだ。おそらく魂を『抹消』していないからだと思うが……まあそんな憶測はどうでもいい。……この証明について、お前が理解できない部分はあるか?」

 

〈──そ、それで蛭魅が本当にこの世から消えたらどうするんだよ!〉

 

真守の説明に菱形幹比古は即座に声を荒らげた。

 

「蛭魅がこの世からその存在を『抹消』されれば、お前は蛭魅の存在そのものを忘れる。だからお前は悲しみすら覚えないだろう。『存在の抹消』とはそういうものだ。だから安心しろ。──何も、問題ない」

 

真守の冷静で残酷な言葉に菱形は絶句する。

 

だが自分の大事なものが、その存在そのものまで抹消されてしまうかもしれない恐怖を怒りですぐに怒鳴り散らし始めた。

 

〈殺す! 殺してやる!! 蛭魅を傷つけるヤツは全員殺してやるぅ!!〉

 

「『棺桶』か。楽しみにしているよ。でも菱形幹比古。忘れていないか?」

 

真守はそんな菱形の怒りにフッと柔らかく微笑みながら意地悪そうに呟く。

 

〈何をだ!?〉

 

錯乱するほどに怒り狂っている菱形に真守は悪魔のような囁きで恐怖を植え付けるように囁く。

 

「私の源流エネルギーで存在を抹消できないモノはこの世には存在しない。私は私の大切なものを守るために、すべてを平等に公平に焼き尽くす」

 

真守はそこでマイクをガッと掴んで目を鋭くして決意の言葉を口にする。

 

「目を覚まさせてやる、菱形幹比古。そうしなければお前は菱形蛭魅を(ないがし)ろにしたまま生きていく事になるからな」

 

真守は力を込めたマイクをバキバキバキ! と力任せに折ってブチッと通信を切る。

 

(……普通なら、こんな脅しは私もごめんだ。でも菱形はこれからも生きていかなくちゃいけない。菱形蛭魅がいないこの世で。だから荒療治が必要だ。……それに、今の菱形蛭魅はどう頑張ったって檮杌だ。それは間違いない。だってそうじゃなきゃ、流れがおかしいんだ。だから絶対に菱形蛭魅は死んでいる)

 

真守は自分が演技をしてまで菱形を追い込んだことについて心の中で言い訳を呟きながら真剣な表情をしてコンソールを操作し、真守が借りているサーバーへとデータを全て送信するように命令を出す。そしてデータの転送が終わったらこのデータサーバーが壊れるようにも追加命令を出した。

 

「……あの子はゆるしてくれたけれど」

 

真守は命令が正しく出た事を確認しながら、顔を歪めて小さな声で呟く。

 

「死が決まった人間の死を(くつがえ)してはならない。もし、不用意に覆し続ければ、この世のあらゆる流れが狂ってしまう。……それに、生と死を自らの都合で操る者は人間じゃない。……それは、人間ではない何かで──立派な人でなしだ」

 

真守はきゅっと自分の腕を握り締めながら、プログラムが正常に走っているか確認すると、気を紛らせるように首を横に振って通信室を後にした。

 




神さまに対する真守ちゃんの考えが少しだけ出てきました。
そして悪党ぶった真守ちゃん。
人を攻撃したくないのであまり悪党ぶりませんが、菱形のために頑張りました。偉い。

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