とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第七五話、投稿します。
次は一〇月二八日木曜日です。


A Very Merry Unbirthday:Ⅱ篇
第七五話:〈生活一新〉でやるせない


今日、真守は垣根と共に引っ越した先の新居に必要な物を買いに行く事になっていた。

 

超能力者(レベル5)となって新しく冥土帰し(ヘブンキャンセラー)から与えられた住居はエントランス含めて五階建ての医療特化型のソーシャルアパートメントと称されているが、その実医療用の設備が使えるような変電施設と非常電源が搭載されているマンション型のシェアハウスの強化版だ。

 

学生寮ではなくマンション的なシェアハウスを一つ用意するのは学園都市で普通できることではないが、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は患者に必要なものなら用意してくれるし、何より超能力者(レベル5)である真守のために住居を探していると、聞きつけた研究機関が真守と縁を作る目的で援助金を山のように出してきたのだ。

 

まあ研究機関の魂胆については色々と思うところがあるが、患者のことを第一に考える冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が結局住居を決めたので、安全性が保障されていることには間違いない。

 

そんな真守は現在一人であり、一緒に回ってくれる垣根を待ち合わせ場所で待っている状態にある。

 

真守が深城と林檎を連れて来ていない理由は単純で、深城に自由に家具を選ばせると大変ファンタジーな空間が出来上がってしまうからだ。

林檎の方は元々家具に興味がないので真守が買い物に出ている間、深城の相手をしてもらっている。

……まあ、一〇歳の女の子に一八歳の女の子の相手をしてもらうというのはおかしいが、相手はあの深城なのでお察しである。

 

 

(でもまさか先生が垣根に一部屋あげるから私の食生活よろしくなんて頼むとは思わなかった……)

 

真守が心の中で呟いた通り、シェアハウスには垣根の一室が用意されており、何故か真守は垣根と同棲チックになることが既に決まっている。

 

垣根は学生寮ではなく第八学区にある『スクール』のアジトで寝泊まりしていることが圧倒的に多く、その場合は『スクール』の構成員と共同生活じみた状態になるので同棲的な生活にあまり抵抗がない。

 

真守の方はというと、入院生活を五年ほど続けているので垣根と同じように集団生活には元々抵抗がないからやっぱり問題ない。

 

それでも異性と一つ屋根の下というのは年頃の娘らしくドキドキするものがあり、真守は少し頬を赤くして(うつむ)く。

 

「ひゃっ!?」

 

真守が俯いた瞬間、携帯電話に着信があって真守は可愛らしい悲鳴を上げた。

 

慌ててセーラー服のポケットからスライド式の携帯電話を取り出して画面を表示させると、そこには『ステイル=マグヌス』と表示されていた。

 

「もしもし、ステイル?」

 

〈やあ。こっちは残暑が厳しいね〉

 

真守はステイルの返しに目をきょとっとさせて携帯電話を横目で見た。

 

「学園都市に来ているのか?」

 

〈ああ。ちょっとあの子の力が必要でね〉

 

「……学園都市内で?」

 

〈いいや、『外』でさ〉

 

ステイルの言葉に真守は鋭く目を細める。

 

「……上条も同伴なのか?」

 

上条当麻は禁書目録の今代の管理人となっている。インデックスが必要ならば上条も必要なはずだ。

 

〈そうなんだよ、忌々しいことに小細工をしてまであの男を外に出さなくちゃいけない〉

 

真守がそのことについて言及すると、ステイルは電話の向こうで心底嫌そうな表情が想像できるほどに忌々しそうな声で告げたので、真守は思わず苦笑する。

 

「上条は科学の徒だから魔術界隈(かいわい)に首突っ込んだらマズいんじゃ?」

 

〈上条当麻を外すように交渉をしている暇がないんだよ〉

 

真守はそこでステイルの言い分に顔をしかめて問いかける。

 

「そんなに切羽詰まっているのか? 今回の問題について聞いても大丈夫か?」

 

〈キミなら問題ないし、僕もあの子のことを任せた君には話そうと思っていた。『法の書』が盗まれた。正確には『法の書』を解読できるオルソラ=アクィナスと一緒にね〉

 

真守の問いかけにステイルは先程上条に向けていた忌々しそうな声から真剣な声音になって今回の問題についてそう切り出した。

 

「『法の書』? ……あの稀代の変態魔術師と噂されてる、アレイスター=クロウリーが書いた『法の書』ってヤツか?」

 

〈『法の書』ともなれば有名どころだから君も知っているか、それなら話が早い。『法の書』の原典はローマ正教のバチカン図書館にあったんだ。そして『法の書』は誰にも解読できない魔導書で、解読できたら十字教が終わるとまで言われている代物だ〉

 

真守が問いかけるとステイルは特に驚かず、淡々と『法の書』について説明してくれるので、真守はその説明を聞いて引っかかったことを訊ねた。

 

「誰にも解読できない? ……ちょっと待て、じゃあインデックスにも解読できてないのか?」

 

〈うん。あの子の頭の中には未解読の暗号文のまま詰め込まれている。そんな『法の書』を解読できる人間が現れた〉

 

「それがオルソラ=アクィナス。一体誰がそんな大層な代物をセットで盗んだんだ? ううん、個人じゃ無理だよな。どこの組織だ?」

 

〈天草式十字凄教だ。キミならもう知っていると思うが、神裂が女教皇(プリエステス)をやっていた日本の十字教勢だ。まあ十字教勢力の一つとされているが僕は認めていない。あそこは神道や仏教が混ざりすぎて十字教の原型を留めていないからね〉

 

真守はステイルの説明にふむ、と一つ頷いて日本史についての知識を引っ張ってくる。

 

「日本で十字教と言うと、時代の流れで一度迫害されてる。欺瞞するために神道や仏教、その他諸々を取り込んだと、そういうことか?」

 

〈そうだ。天草式十字凄教は小さな組織で女教皇(プリエステス)だった神裂が抜けたことにより新たな力として『法の書』とオルソラ=アクィナスを求めたんだ。丁度『法の書』がバチカン図書館ではなく、国際展示会を開くために日本の博物館に移送していたのがいけなかったね〉

 

真守が問いかけるとステイルは天草式十字凄教の現状や今回の『法の書』絡みについての経緯を説明し、真守はそれを聞いてふむふむと何度も頷く。

 

「成程。一般公開とは権威を示すために開かれるものだから、そこが狙われたのか」

 

〈ローマ正教は学園都市に巣くっていた(くだん)の錬金術師に『グレゴリオの聖歌隊』を打ち破られて戦力ダウンしている。一般公開して意地でも『新たな信徒』が欲しいのさ〉

 

真守が納得すると、ステイルはそこで次に現状のローマ正教についてつらつらと説明し、真守はその説明に嫌な顔をする。

 

「きな臭い話だ。天草式十字凄教とローマ正教の派閥争いということか。……それでイギリス清教のお前がどう関係しているんだ?」

 

〈『法の書』の解読方法が分かったなんてことになれば、対魔術師用の専門機関である『必要悪の教会(ネセサリウス)』も無視できない。……それと、神裂と連絡が取れない〉

 

「え。神裂が?」

 

真守はそこで目を瞬かせて自体の危うさに気づく。

魔術世界で『聖人』というと、核兵器に匹敵する最終兵器でそんな神裂はイギリス清教の『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属だ。

もし神裂が元仲間のために手を出したら派閥争いにイギリス清教も巻き込まれてしまうのだ。

 

「……一大事だな」

 

〈ああ。だから神裂が動く前に全て終わらせる。そのためにはあの子の力が必要なんだ〉

 

真守の全てを察した呟きにステイルは同意して、そして最初に話した学園都市に来た目的を繰り返した。

 

「それで? もう学園都市には来ているのか?」

 

〈もうそこまで迫ってるよ。上条当麻は近くにいるかい? 今日は学校だろ〉

 

真守がステイルの現状を訊ねると、ステイルがそう質問を返してくる。

協力するならば上条に伝えてほしいということらしいが生憎真守には用事がある。

 

「……ごめん。私は今日少し用事があって学校を休んでいるんだ。連絡しておこうか?」

 

〈いいや、それで問題ないよ。せいぜいあの男は翻弄(ほんろう)されればいいさ〉

 

真守が謝るとステイルは面白くもなんともなさそうに吐き捨てるように告げるので、真守はそこでくすっと微笑んだ。

 

「恋敵に当たりが強いのは相変わらずだな」

 

〈こっ!? だ、だから僕はあの子を恋愛感情で見ていない! 尊敬する女性はエリザベス一世、好みのタイプは聖女マルタだ!〉

 

真守はステイルの狼狽(ろうばい)っぷりにくすくすと笑ってから軽やかに口を開く。

 

「はいはい。分かった分かった。ステイル、お前は私がこの話題に触れると大体そうやって主張してく────はぅっ!?」

 

真守は突然背中に走る嫌な予感を受けて、途中で言葉を止めてギギギーっと首を動かして振り返った。

 

そこには学園都市五本指のエリート校の学生服を着て、スラックスのポケットに両手を突っ込んで薄い鞄を小脇に抱えた、機嫌が最高潮に悪い垣根帝督が自分を睥睨して立っていた。

 

〈? どうしたんだい?〉

 

「い、いや……なんでも、ない。ちょっと知り合いの機嫌が悪くて…………は、ハハハ……」

 

真守はステイルの疑問にだらだらと冷や汗を流しながら、冷えた視線をこちらに寄越す垣根を見上げ、乾いた笑い声を出す。

 

「じゃ、じゃあステイル。私は用事があるから。もう話すことはないよな、な!?」

 

〈え? ああ、うん。全て話したよ。……君が機嫌を取らなくちゃいけない相手って一体……?〉

 

「気にしないでくれ。ちょぉーっと器が小さ……ああっごめん怒らないで! 事態が収束したらまた連絡してくれ! じゃあな!」

 

〈え。ああ、うん〉

 

真守は自分の言葉で更に機嫌を悪くした垣根をびくびくと見つめながら、ステイルとの電話を終える。

 

真守は通話を切って携帯電話を片付けて、垣根に向き直る。

 

「………………なんか言ってくれるか?」

 

通話を終えても機嫌が悪い状態で自分を無言で睥睨している垣根に、真守は恐る恐る声を掛けた。

 

「……べっつに。ステイルっつー明らか外国人と通話してようが、俺には関係ないけど?」

 

(いつもみたいに怒鳴らない代わりに()ねてる!? 何だコレ新パターンか!?)

 

いつもの垣根なら怒りを露わにして自分の頬をつねって糾弾してくるはずだ。

それをしてこないで地を這うような声で拗ねた言葉を吐きだした垣根を見上げて、真守はそう心の中で呟きながら愕然とする。

 

「あ、あのな。垣根! ステイルはこの前話したイギリス清教のガラの悪い神父でな、学園都市にいる魔術の専門家、インデックスに恋心を抱いているのに認めない、ちょっと面白いヤツなんだ! 少し問題が発生したから連絡してきただけで、何もやましいことはない! 本当だ!」

 

「誰も追及してねえけど?」

 

真守が必死に言い訳をすると垣根は冷え切った視線のまま真守にぶっきらぼうな言葉を投げかける。

 

「う。……だ、だって垣根がなんか怒ってるから……ちゃんと事情を説明しなくちゃダメなのかと思って……」

 

真守は異性に会っただけで白い目を向けられる恋人の気持ちを味わいながら、顔を俯かせてしどろもろに呟く。

 

「…………あんなに楽しそうなら(ねた)ましく思うに決まってんだろ」

 

「え。なあに? なんて言ったんだ?」

 

真守は垣根が呟いた言葉が聞こえなくて顔を上げるが、垣根は真守のことを切なそうに見つめてから首を横に振った。

 

「何でもねえ。それよりお前に追求したいことがある」

 

「……その追及はいつものことだからまあしょうがないとして、垣根はなんで今日制服なんだ? 私と買い物したら学校に行くのか?」

 

真守はそう垣根に質問して垣根の学生服をちらちら見ながら小首を傾げる。

 

垣根は普段完全オフの日以外はスーツを着ており、二学期に入ってから垣根が学生服を着ているのを真守は初めて見たほどだ。

 

今日は二人でデートっぽい買い物に行くので垣根的には完全なオフだ。

 

そのため真守はてっきり垣根が私服で来ると思っていたのだが、学生服をわざわざ着ているので気になるのは当然である。

 

ちなみに真守は学校がある平日はきちんと制服を着用しており、今日も黒いニーハイソックスにヒール高めのローファー、そして指定のセーラー服である。

 

「…………別になんだっていいだろ。ほら、行こうぜ」

 

真守の問いかけを軽く流した垣根はポケットから手を出して真守の手を優しく握ると、少し乱暴に引っ張って歩き出す。

 

「わわっ……ちょ。ちょっと垣根!」

 

「なんだよ」

 

垣根に引っ張られる形でも、垣根と初めて手を繋ぐことになったので真守がびっくりして声を上げると、垣根は真守の方を見ずに怪訝な声を上げる。

 

「……なんでもない」

 

真守は頬を少しだけ赤く染めて俯き、ぽそっと呟く。

 

(…………垣根の手ぇ、おっきい。冷たい。ひんやりしてる)

 

(思わず手が出ちまったが、やっぱ真守の手小さいな。それにガキの体型なんかしてねえのに体温高い)

 

真守と垣根はそれぞれ相手の手の感触にそんな感想を抱きながら、無言で歩いた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

真守は垣根に連れられて最近オープンした期間限定で様々な国の料理を出す、現在ハワイアンフェアを開催しているレストランに入った。

 

「一体どういうことだ。テメエいつの間にあんな大それたことしやがった」

 

真守と垣根がそれぞれ頼みたいものをオーダーすると、垣根がケンカ腰で切り出した。

 

「垣根は何をそんなに怒っているんだ……?」

 

真守は垣根に手を握られたことを思い出し、恥ずかしくて顔をしかめさせながら問いかけると、垣根は苛立ちをこめた視線で真守を射抜く。

 

「統括理事会のメンバーの一人、亡本が失脚した」

 

真守は垣根から放たれた言葉にきょとっと目を見開かせると、思い当たる節があって頷いた。

 

「ああ。あの汚職まみれのバカタレか。あいつは自分で蒔いた種で失脚したんだぞ。あることないことでっちあげてないから、垣根が気にすることじゃないと思うけど?」

 

「……確かに亡本はDAなんてお粗末な秘密結社のスポンサーやってたり、自分が所有する豪華客船でワシントン条約違反の希少動物食い散らかしてたりした。それに子供たち捕まえて文字通り甘い汁すすってたクソ野郎だが、お前がその情報をリークしたことに問題があるんだよ」

 

現在公共の場である店内にいて人目がある状態なので、垣根はテーブルを拳で叩きたい衝動を押し殺しながら真守を睨みつけて一気にまくしたてる。

 

「私がリークしたことは誰にも調べられないハズなのに、どうして垣根が知っているんだ? ……もしかして上層部で私だって特定されたとか? それだったら対応を考えなくちゃいけないけど」

 

「上層部は特定できてねえ。ただやり口が完璧すぎるから、俺にはお前以外に考えられなかったんだよ」

 

「バレてないなら別に良いだろう」

 

「今のところはな」

 

垣根は真守の平常運転さに嫌気がさして頭痛を感じ、テーブルに突いた肘から伸びる手の平で軽く頭を押さえながら告げる。

 

「統括理事会のメンバーが次は自分かもしれねえって個人的に所有してる暗部組織を動かして犯人を探してんだよ。暗部全体がそれでざわついてんだ。この状況分かってんのか?」

 

「垣根は私のこと知ってるから特定できただけで、判断材料はないに等しいんだろう。だったら見つからないから大丈夫」

 

「……このアマ、心配してんだからきちんとそれ受け取って、下手な動きしないように気を付けろよ!!」

 

真守が再三に渡って大丈夫だと言っていると、そこで堪忍袋の緒が切れて垣根が大声を上げた。

 

真守は周りで食事をしていた人々がざわっとしたのを気まずく思いながら口を開く。

 

「……垣根を心配させたのは謝る。でも私は命を使い潰すヤツだけは許せない。亡本はネクターと呼ばれる能力体結晶の元を子供から採取してその子供を使い潰してた。そんなヤツ許せるわけないだろ」

 

「……お前が何しても止まんねえのは分かったよ。それなら俺と約束しろ」

 

真守が至極真っ当な意見を告げると、垣根は再度ため息を吐きながら真守をじっと見つめる。

 

「……何を?」

 

「やってもいいから何かするときは事前に俺に一言言ってくれ。頼むからなんでも一人でこなそうとするな」

 

垣根が悲痛な表情で懇願(こんがん)してくるので真守は罪悪感を覚えながら頷く。

 

「分かった、約束する。……心配させてごめん。ちゃんと言うから」

 

真守はそこで垣根がテーブルに置いている手へと自分の手を伸ばしてそっと重ねる。

 

「……ああ」

 

垣根は真守が自分に重ねた体温の高い小さな手のひらを感じながら頷き、真守を許した。

 

真守が自分を心配している垣根に柔らかく微笑んでいると、そこに丁度ウェイトレスが食事を運んできた。

 

「おいしそう、いただきます」

 

ブルーベリーソースとホイップクリームが乗ったパンケーキを目の前にして真守は目を輝かせ、きちんと挨拶をした真守はナイフとフォークを綺麗な仕草で扱って食べ始める。

 

「ふふっ。おいしいっ」

 

真守は小さく切ったパンケーキの欠片を食べて、とろけるような幸せな笑みを浮かべる。

 

「?」

 

そして笑みを浮かべた瞬間、店内がザワッとしたので真守はナイフでパンケーキを切り分けながら周りを見た。周りはサッと真守から視線を外すが、自分を見ていたのは確実である。

 

(超能力者(レベル5)第一位に位置付けられてから前よりもやけに人に見られるようになったなあ。……まあ、街中歩いててもナンパ目的の人間がいっつも私のことじろじろ見てたから大して気にならないけど、流石に表情変えただけでざわざわされるのは嫌だなあ)

 

真守が周りの反応に顔をしかめていると、垣根は自分の左手を下ろして真守に見えないように学生服のスラックスのズボンを苛立ちを込めて握り締めた。

 

珍しいアイドル体型という完璧なプロポーションに、どう頑張っても純日本人には見えない整った容姿を持っているだけで確かに真守は街中を歩けば注目されていた。

 

だがその真守の完璧な容姿に追加するかのように超能力者(レベル5)第一位という輝かしい地位が与えられたので、真守は誰からも惹かれる存在となったのだ。

 

真守は自らで望んで消えた八人目となったとは言え、公式には存在しない超能力者(レベル5)だった。

そのため自分にちょっかいを出してくる学園都市の人間と敵対していても、誰にも頼れない立ち位置にいたのだ。幻想御手(レベルアッパー)事件なんかいい例である。

 

真守のことを以前は誰も見向きもしなかった。ただ容姿が優れた少女だけだったからだ。

 

だが地位を与えられた途端、誰もが真守に目を止めるようになった。

 

誰にも見向きもされないで一人で『闇』と戦っていた真守に手を差し伸べたのは自分だけだ。

 

真守のその輝きを知っているのは自分だけだったのに。

 

それなのに後からしゃしゃり出てきて真守の表面だけ見て惹かれる人間が心底気に入らない。

 

ただでさえ真守の輝きに惹かれた一方通行(アクセラレータ)も気に入らないのに、気に入らない人間が増えてきて更に垣根は気に入らない。

 

真守を繋ぎとめるために、真守が超能力者(レベル5)第一位に認定されなければならない理由があるのは分かってる。

 

理解はできるが、(つの)ってくる嫉妬をどうやったって抑えつけることができなかった。

 

垣根が今日学生服でいるのも、周りへのけん制の意味合いが強い。

 

真守は低レベルの学校であり、お嬢様やエリートよりも断然話しかけやすい。

そのため何かきっかけがあれば自分もお近づきになれるんじゃないのかと視線に思惑が乗っている人間が多いのだ。

 

垣根の通う学校は学園都市の五本指に入るエリート校なのでブランド力が非常に高く、真守のそばに自分がいるだけで真守にそう簡単に近づけるわけではないと底辺の連中にそう思わせることができる。

 

それに真守の隣にスーツで立っていると非常に目立つ。私服姿と学生服を取った場合、学生服の方がメリットがあるので学生服を着ているのだ。

 

真守に近づこうとする人間をけん制できても、真守を見つめる人間には対処できない。

 

現在も視線を集めており、真守が幸せそうに食事する姿に見惚れている男もいる。

 

夏休みに自分が連れ出すようになるまで真守は人前で食事することなく、それでもその時は超能力者(レベル5)第一位という明確な地位はなかったので、その愛しい笑みは自分だけに見せてくれるもので、自分だけの特権だった。

 

そんな幸せそうな笑顔を横から勝手に見て、勝手に見惚れる男なんて死んじまえ、と垣根は本気で思っている。

 

(誰にも笑顔見られないようにもういっそ外食に誘わなくしちまうか? ……っていうのはマズいんだよな、分かってる)

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が言うには真守が頻繁に食事を摂るようになったので、消化器官が活発な動きをし始めて普通の人間らしく動くようになってきているらしく、ここで食事を辞めると色々と台無しになってしまうのだ。

 

そのため引っ越しで環境が変わって真守が食事をしなくなるのを防ぐために、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は真守の新しい住居に垣根の部屋を一室用意するから垣根に食事の監督をしてほしいと頼んだのだ。

 

まあ部屋が幾つか余っているのでどうせ同棲的なことになるであろうと冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は考え、それならば食事の監督を頼めばいいやと思っているのも事実である。

 

色々背景があろうとなかろうと、垣根は真守の食事を邪魔するようなことは絶対にしてはならないと思っている。それは事実だ。

 

それでも真守のとろけるような幸せな笑みを誰かに見せたくない。

 

垣根は本日何度目か分からないため息を吐きながら、真守が食べられるように頼んだ果肉がごろごろしているマンゴーソースとホイップクリームが乗ったワッフルを切って口に運ぶ。

 

(…………甘ったるい)

 

垣根は口の中に広がる甘さを感じながらも、苦い思いを胸に抱いて真守と共に食事をしていた。

 




アレイスター=クロウリーを変態魔術師だと思っている真守ちゃん。

そして垣根くん、真守ちゃんが有名になった事でジェラシー感じてます。ここ数日ずっともやもやしてました。

ここからやっと恋愛的な距離の進展です。長かった……。


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