とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第七七話、投稿します。
次は一〇月三〇日土曜日です。


第七七話:〈先駆同類〉の助言

(どうしよう……一体、どうすればいいのか…………)

 

「よー朝槻!」

 

真守が上条の入院している病室の前で携帯電話を見つめて困惑していると、自分の名前を呼ぶ(ほが)らかな声が聞こえてきて真守は顔を上げた。

 

「土御門」

 

そこには真守が名前を呼んだとおり、アロハシャツに青いサングラスをした真守と上条のクラスメイト、土御門元春が歩いてきた。

 

どうやら真守と同じでローマ正教と戦っていつものごとく入院した上条当麻の見舞いに来たらしい。

 

「……お前、私に何か言うことがあるよな?」

 

真守が携帯電話を片付けながら土御門をじとーっとジト目で見つめると、土御門はぺかーっとバカらしいほどの朗らかっぷりを演出している笑みを浮かべた。

 

「じっつはー土御門元春はイギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔術師でー学園都市に紛れこんだスパイだにゃー!」

 

「知ってた」

 

「あり? やっぱり?」

 

真守が(すさ)まじいカミングアウトに特に驚きもせずに告げると、土御門は真守が気づいていると知っていたので焦ることなくおどけてみせた。

 

「うん。上条が学園都市外で御使堕し(エンゼルフォール)なるものに巻き込まれて、お前にボコボコにされて病院に入院した時に話を聞いた」

 

「なんだーカミやんも人のこと言えずに口が軽いぜよー。じゃあなんで俺に魔術師かって聞いてこなかったんだにゃー?」

 

「お前を信じてるから」

 

真守の一言に軽い調子で喋っていた土御門はピタッと硬直した。

 

「私はお前が色々な顔を持っていることに当然気づいてた。イギリス清教のスパイというのもその顔の一つなのだろう?」

 

「……最初から気づいてたってわけか。スパイ的には痛恨の一撃ですたい。……ならなんで俺のことを信じられるんだ?」

 

「楽しそうだったから」

 

土御門の問いかけに、真守はけろっとした調子で告げた。

 

「……へえ?」

 

「私たちと一緒にいるのはお前にとって作業の一つだ。だけどお前の気持ちにいつだって嘘はない。むしろ私と上条を気に掛けていた。そんなお前をどうして私が責めなくちゃいけないんだ?」

 

土御門が真守の言い分を興味深そうに聞くので真守はつらつらと自分の気持ちを土御門に伝える。

 

真守は土御門がずっと自分を心配しているのを知っていた。

 

友情を感じているからこそ自分たちを守ろうとしてくれているのだと、真守は上条と土御門の間に御使堕し(エンゼルフォール)の時にあった出来事を上条から聞いて確信した。

 

自分や上条のことを大切に想っているが故に自らの腹を切り、それを気取られないためにいつだってひょうひょうとした態度を取る。

 

真守や上条の重荷にならないように、二人が穏やかな生活が送れるように。

 

いつだって自分の苦心を周りの人間に悟られないように隠している土御門のことを、真守が咎めることなんてありえないのだ。

 

「それすらも嘘だったらどうするんだぜい?」

 

「私が信じている土御門元春は大事なもののためならば嘘はつけない。でもそれだったら面白い。コテンパンにやっつけてやるから覚悟しろ?」

 

土御門がニッと挑発的に笑うので、真守もその挑発に応えてふっと微笑むと、土御門は大袈裟に体を震わせた。

 

「おお、恐いにゃー」

 

「大丈夫。そんなことは絶対にない。だってお前は義妹を大事に想える優しい人間だから」

 

「……舞夏のことを引き合いに出されちゃおしまいぜよ」

 

土御門の全面降伏を受けて真守がクスクスと笑うので、土御門は思わずため息を吐いた。

 

真守はひとしきり笑った後、自分よりも背が高い土御門を見上げて微笑む。

 

「スパイとは良い顔をあらゆる方面にしなければならない常時綱渡り状態の職種だ。それなら大切な人なんて作らなければいいのに。お前は人間臭すぎる。……歯車になるなら、完璧な部品として生きれば生きやすいのに。まあそこがお前の良いところだがな?」

 

土御門は朝槻真守がそうやって半笑いしながらぼやく理由を知っている。

 

真守の能力、流動源力(ギアホイール)には源流エネルギーという『絶えず流動し続ける全ての源の力』という意味ももちろん含まれているが、本質は別にある。

 

歯車(GEAR)は回転し、仕組みを動かし続けるためにある。

 

車輪(WHEEL)は回転し、進むべき道を進み続けるためにある。

 

『世界の()()()()()()()()、そして絶えず世界を()()()()()()()』ことにこそ、真守の能力の本質は()る。

 

新たな定義を造り出すことができるのも真守の能力の本質で、世界を進み続けさせるためには新たな定義を加える必要があるからだ。

 

そしてそれはこの世に存在するあらゆるものは移り変わっていくという『万物流転の法則』と同じである。

 

あらゆる組織、機関の間を縫うように生きて、あらゆる組織のバランスを取るために部品として動くならば、部品らしく動けるように何か大切なものに囚われずに人間性を捨て去って部品に徹すれば、熱くならずに済んで身を滅ぼすこともなくなる。

 

物事の流れを見出すことができるエネルギー生成の能力者であり、『世界の仕組み』に(たずさ)わる人間として『部品として世界を回す人間』の()り方を確実に理解できるから、真守は土御門にそうやって遠回しにぼやくように助言したのだ。

 

「そうやって俺にアドバイスしてくれるが、朝槻自身は俺がそうなることを望んじゃいないだろ?」

 

「当たり前だ。私の信じている土御門元春は部品なんて言うチンケな役にハマる人間じゃない」

 

土御門がおどけて告げると、真守は軽やかに笑いながら自分が信じている土御門に関して言及して告げる。

 

真守が軽やかに笑うと土御門は笑うしかなかった。

 

真守がどこまでも人を信じるからこそ、この少女にできることが自分にあるのであれば土御門元春はできる限りのことをしようと思うのだ。

 

「……で、そんな(ふところ)のひろーい真守さんは、何をそんな深刻な顔をしていたんだにゃー?」

 

土御門に問いかけられて真守はウッと(うめ)いた。

 

「……上条の病室に来たら、丁度小萌先生から連絡があったんだ」

 

「朝槻にか? あの人心配性だから朝槻が超能力者(レベル5)に認定されてから毎日電話かけてるだろ。それとは別件ですたい? しかもこんな朝早く?」

 

真守は土御門の問いかけに自分でも動揺しているのが分かるがどうすればいいか分からず困惑ながら、ぽそぽそっと呟く。

 

 

「……私の、親族が…………見つかったって」

 

 

「へ? SHINZOKU?」

 

真守が躊躇いがちに呟いた言葉に意表を突かれて、土御門はスパイにとって失態にもなり得るような本心からの驚きを思わず漏らしてしまった。

 

「……私は学園都市のプロパガンダの一貫として全世界に超能力者(レベル5)として発表されただろ? そんな私を一目見て自分の身内だと悟ったその人は即座に学園都市に連絡してきたんだ。事情が事情だったからその人を学園都市が特別に受け入れて統括理事会監視のもとでDNA鑑定所で鑑定したところ、本当に私の肉親だったみたいで……」

 

「朝槻が超能力者(レベル5)として有名になったから親として名乗り出て、朝槻の人気にあやかって甘い汁(すす)ろうってことか?」

 

土御門が苛立ちを(にじ)ませて問いかけると、真守は首を横に振った。

 

「名乗り出てきたのは私の死んだお母さまの親族で、私のことを学園都市に置き去りにしたのは父親なんだ。私のお母さま、実家から出奔(しゅっぽん)してて疎遠になっていたんだが、そんなお母さまのことを実家の人たちは変わらずに大事に想ってたんだ。……お母さまが亡くなったのも、私が生まれてることも全て知った時には、何もかも遅かったんだよ」

 

土御門はそこで全てを悟った。

 

おそらく学園都市は置き去り(チャイルドエラー)にされてしまった真守を必死に探していた親族から真守の存在を意図的に隠したのだろう。

 

真守はその能力の希少さから能力開発を受けた直後、置き去り(チャイルドエラー)凄惨(せいさん)な実験を行っていた『特異能力解析研究所』に所属させられることになり、真守の開発官(デベロッパー)は『解析研』の所長である木原分析となった。

 

そして何より、真守は学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリーが進める『計画(プラン)』に欠かせない人物だ。

 

置き去り(チャイルドエラー)になった時点でその子供は学園都市の所有物であり、その所有物が『計画(プラン)』の要で、そんな存在を親族が返せと言ってくるならば秘匿するに決まっている。

 

それに学園都市の『闇』にどっぷり浸かっている真守の口から凄惨な人体実験が外部に伝われば学園都市の権威は地に落ちる。そして真守を探して慌てふためいた親族ならば真守を必ず学園都市の『闇』から救い出し、そのまま真守を学園都市から引き離そうとするだろう。

 

それは学園都市にとっても統括理事長にとっても痛手過ぎる。だから真守は自分のことを探している親族に秘匿されて引き離されていた。

 

だが学園都市は真守を超能力者(レベル5)第一位に認定して、世界にその存在を公表した。

 

そんな大々的に公表されれば真守のことを探していた真守の親族は真守が身内だと気づく可能性がある。

 

それを予測していたであろう学園都市は真守の親族を特別に学園都市内に受け入れ、本来ならば秘匿されるべき研究所で採取した真守のDNAを使って鑑定をここ数日で迅速に済ませたのだろう。

 

そんな真守の親族は現在学園都市にいる。真守のすぐ近くに。

 

「小萌先生に学園都市が受け入れた親族と会ってみるか聞かれたんだな?」

 

こんな朝早くに何の連絡かと思った土御門だったが、真守にとって非常に重要な案件であるため小萌先生も即座に連絡を取ったのだろう。

 

土御門がそう問いかけると、真守はコクッと肯定を示すために一つ頷いた。

 

「今学園都市に来てる人は私のお母さまの一卵性双生児の姉なんだって。だから遺伝子的に見ればお母さまと同じなんだ。……小萌先生が言うには、髪色以外そっくりらしい。伯母さまは銀髪なんだって」

 

「外国人なのか?」

 

「うん。まあ、私の瞳と顔立ち見れば一発でルーツが外国だって分かるけど、それ以外にも私は肌が弱いんだ。日光ですぐに赤くなってしまうから夏でも長袖着なくちゃいけないくらいだし。だから白人系の血が入っているのは前から分かってた」

 

真守は自分のエメラルドグリーンの瞳を指さしながら呟く。

 

確かに真守は黒髪で一見日本人っぽいが、瞳はどう頑張っても異国の血を引いているし、なんなら顔立ちだって日本人とは言えない。

 

「朝槻は会うか会わないか迷ってるんだな?」

 

「ううん。会った方がいいのは分かってるんだ。会うべきだと私も思ってる」

 

「じゃあ何で悩んでいるんだ?」

 

土御門が至極真っ当な疑問を投げかけて来るので、真守は顔をしかめながらもぽそぽそと呟く。

 

「……親族なんて知らないで生きてきたからどうすればいいか分からないんだ。どう対応すればいいのか……。普通の人たちとどう違うんだろう……つ、土御門はどうだった? 舞夏と最初、どうだった?」

 

真守は動揺して瞳を揺らしながら土御門を見上げた。

 

土御門の妹は義妹だ。

 

それはつまり、最初から家族ではなかったのに、途中から家族になったということだ。

 

だからこそ突然できた家族とどう付き合っていいか真守は聞きたくなってしまった。

 

「……か、家族ってものがあったかいものだって言うのは分かってる。でも自分に家族がいるって言われても、突然過ぎてはっきり言ってどうすればいいか分からない……だから土御門は義妹ができた時どう思ったか聞いてみたくて。……その、良ければ教えて欲しい。無理ならいいんだ」

 

いつも冷静な真守が突然現れた身内に動揺してしまう理由を土御門は理解できる。それくらい突拍子もない事態だからだ。

 

そして自分がスパイ的な立ち位置だからそういうプライベートを聞いては駄目だと真守が考えていることも、それでもやっぱり突然現れた家族とどうやって付き合っていけばいいか困惑しているのも、土御門には分かっている。

 

朝槻真守は土御門元春にとって大事な友人だ。大変な立場にあるのだから平穏な生活が少しでもできればいいと思っている。

 

「『家族』ってのは、接するのにどんな思惑があるなんて勘ぐらなくていい」

 

だからこそ土御門元春は『家族』についての持論を真守に伝えた。

 

「そう、なのか?」

 

土御門の信じる『家族』というものの()り方を少し聞いた真守は不安そうに訊ねた。

 

「ああ。裏があるとかそういうのを考えなくていいんだ。心の底から本当に気を許せる相手ってのが『家族』ってもんだ。遺伝子的には母親と一緒なんだろ? そんな人たちがずっとお前を探したってことは、直接顔を見たこともないお前を本当に大切に想っている証拠だ」

 

「……そうだよな。私も、そうだと思う。でも……突然現れた人たちをどうすればいいか本当に分からなくて……」

 

「……まあ、受け入れがたいよな。だがこれだけははっきりしてる」

 

土御門は珍しく弱気な真守を見て、そうなっても仕方がないと真守の境遇にため息をついて、そして真守を奮い立たせるよう言葉を掛けた。

 

「その人たちはお前を愛しているよ。絶対にな」

 

真守は土御門の断言を聞いて真守は目を見開いた後に安堵してふふっと微笑んだ。

 

「ありがとう、土御門。そうだな、一度も会った事がない私のことを愛してくれているんだからきっと大丈夫だな」

 

真守が柔らかく瞳を細めて微笑むと、土御門もニカッと笑って応えた。

 

二人が穏やかに笑っていると上条の病室内で動きがあったことに二人共気が付いた。

 

「起きたみたいだ」

 

「お、そうだな。──おーっす、カミやーん、遊びに来たぜい。メロン一個は高すぎるから小さなカットメロンの乗ったコンビニデザートの豪華プリンで我慢ぜよ」

 

「上条。具合の方はどうだ?」

 

土御門はコンビニで買った見舞い品の入ったビニール袋をぐるぐる振り回しながら病室の扉を開けて入っていき、真守はその後ろからひょこっと顔を出して上条に声を掛けた。

 

「うーす。土御門、朝槻! わざわざこんな朝早くにありがとな。……あ、ごめん。神裂。なに言おうとしてたんだっけ?」

 

真守と土御門が病室へと入るとベッドに寝ている上条の近くで顔を真っ赤にしている神裂がいて、上条はそんな神裂に声を掛けていた。

 

「おおう、なんだねーちん。ついにカミやんに平謝りする時が来たって感じですかい? どうせまたベッタベタの王道的にも『今までかけた迷惑の借りを返します』とか『なんでも言いつけてください』とかって進言するつもりだぜい。やーい、このツルのエロ返しー」

 

だっはっはっはー! と笑ってウッと(うな)る神裂を生き生きした様子でイジる土御門を見て、真守は『コイツ、イギリス清教内でも通常運転なのか……』と土御門を横目でじとーっとジト目で見つめながら心の中で呟く。

 

「ちっ違います! 誰がこんな常識知らずの子供にそんな台詞(セリフ)を吐きますか!?」

 

「……こんな、じょうしき、しらずー~~」

 

神裂に辛らつな言葉を吐かれた上条はその三連続の言葉に(うめ)く。

 

「あ、いえ。だからそういうつもりで言ったのでは……そうではなくて、今のは土御門の暴言を撤回させるためにだけに使った言葉ですので、恩を返すという部分は、ええと……」

 

土御門はしろどもどろになる神裂に詰め寄って悪魔のささやきを繰り返す。

 

「でも結局ねーちんは脱ぐんでしょ? お詫びにどんな服でも着るんでしょ?」

 

「ぬ、脱ぎませんし着ませんよ! 結局ってどういう意味ですか?!」

 

「……土御門。それ流石にセクハラ」

 

自分よりも一五センチは高い神裂の前へ移動した真守は神裂を背中に庇ったまま白い目で抗議する。

 

(……お詫びに、どんな服でも……?)

 

「なんかすごく邪な感情の気配がする!?」

 

真守はそこであらぬ妄想をしはじめた上条からただならぬオーラを感じ、神裂を守りながらバッと振り返って上条を睨みつける。

 

「えっ!? い、嫌だなー朝槻さん! 流石の俺もあんなもんを男の手でレジまで持ってくなんてわたくし上条当麻の人生が崩壊しますのでそんな事は全然考えてませんよーっ」

 

「……お前、神裂にどんな服を着させるつもりだ……!?」

 

真守は上条の意味不明な言葉に首を傾げている神裂を全力で守るために、神裂のファッション上むき出しの腹にぎゅっと抱き着いた。

 

体の小ささからして真守が神裂に(すが)りついているようにしか見えないのだが、目が子猫を守る母親のそれなので妙に迫真の勢いがある。

 

「くっくっく。さあ汝の望みは何だ! 年上の膝枕で母性本能丸出しの耳かきか! お姉様の意外にも小さくて可愛らしいお手製弁当か!?」

 

「やめてーっ! 野郎同士のバカトーク中ならともかく女の子たちの前で俺のピンポイントを暴いていかないでーっ」

 

「か、上条…………そうか、そういう趣味なんだ……」

 

土御門によって暴露された性癖を上条が肯定したのを聞いて、真守は思わずそう呟く。

 

「ヤバい! どうするんだよ土御門! 俺の救いの女神サマが引いちゃってるんだけど!?」

 

「え? 何々カミやん。まさか朝槻にも女神プレイを強要するのかにゃー? ダメダメ。コイツにはこわーい超能力者(レベル5)さまが公共の場で慰め目的でハグしてもらったのに気持ちが抑えられなくなって頭に何度もキスするくらい熱烈ラブコール飛ばしてるから、そんなことすればカミやんの命なんてろうそくの火みたいにフッと儚く消えてしまうぜよ」

 

上条が土御門に抗議すると、土御門は上条へと耳を寄せて『聞き捨てなりませんなー』と言いたげにしながら一気にまくし立ててぶっちゃけた。

 

「ぶっ!?」

 

「……超能力者(レベル5)? って、やっぱり垣根のことか?!」

 

上条が思わず噴き出してしまった真守をちらっと見つめながら疑問の声を上げると、真守は顔を真っ赤にして事情が分かっていない神裂から離れ、土御門にふらふらと動揺しながらも詰め寄る。

 

「おまえっなんで!? お前、どっ一体どこでぇ見っ……ナンデー!!」

 

「ふっふっふ。土御門さんはなんでもお見通しぜよー! シェアハウスするとかなー!」

 

「シェアハウス?! 同棲!?」

 

真守は土御門から放たれる言葉に一々驚いている上条をギンッと睨みつける。

 

「上条! 深く聞いたら殺す!!」

 

「ハッハイ!!」

 

「ちょっと話し合うぞ土御門! お前がどういう情報経路を持っているかについてぇ!!」

 

上条が真守の殺気に当てられて背筋をピィン! として裏返った声で返事する中、真守は即座に土御門に向き直ってこれ以上余計なことを言われる前にぐいぐいと土御門を病室の外へ出そうとする。

 

「えーそんな強引なー朝槻ー俺に触れるなよーお前の事好きな超能力者(レベル5)サマがすっ飛んでくるだろーがー」

 

「うるさい! ああ、もう!! いっそその面倒な口を取ってしまおうか!?」

 

「え!? そんなご無体なー!! やーめーてー!!」

 

真守はなおも軽い調子の土御門を即座に病室から叩きだすために怒りを込めて掴み上げると、片手で病室の扉を思いきり開けて土御門を外へと放り投げる。

 

「お前ぇぇぇ本当に一体どういうことだ!!」

 

「神裂ねーちんもカミやんと二人きりになりたそうだったし、丁度良いタイミングだったろ?」

 

真守が病室から出て顔を真っ赤にして土御門に掴みかかるとおちゃらけた調子を失くして先程の戯れは二人に気を利かせたかったからだと暗に告げる。

 

「…………お、お前はほんっとうに……!」

 

「朝槻」

 

「な、なんだいきなり真面目になって」

 

真守が一転して真面目な声音で自分を呼んだ土御門を見つめていると、土御門はサングラスをくいっと指で押し上げながら告げる。

 

「お前が相手の立ち位置を全部知って楽しくやってんなら俺はそれでいい。それでも色々気を付けろよ。分かったか?」

 

「……忠告ありがとう」

 

真守は突然真面目になった土御門を掴み上げるのをやめて顔を赤くしたまま俯かせてぽそぽそ呟くと、土御門は真守から離れてくるっと向きを変えて歩き出す。

 

「おう。んじゃなー引っ越し頑張れよー。それと!」

 

「……まだ何かあるのか?」

 

真守が土御門の後姿を睨みつけていると、土御門は真守に背を向けて手を振りながら告げる。

 

「親族に会うのも、楽しんでな」

 

「…………ありがと、土御門」

 

土御門が心の底から激励を飛ばしてくるので真守はまったく、とため息を吐きながら柔らかく目を細めてお礼を告げた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「土御門元春……か」

 

垣根は上条当麻の病室の外に張り付けていたカブトムシで病室内の一部始終を珍しく自分の学生寮の部屋で見ており、そう独り呟いた。

 

(真守のそばにいられるってことはアレイスターにも媚び売ってるのは確実だな。……まあ、真守が言うには義理人情に厚い男みたいだが、──要注意人物だな)

 

垣根は土御門元春を危険人物と敵視しながら、彼に自分の行動が全てバレていたのを知って顔をしかませ、一体どこから見ていたんだとアレイスターに通じている土御門の情報網を忌々しく思って今度はバレないようにしてやる、と決意した。

 

バレるところでやるのが確実に悪いが、垣根は最後までそれに気が付かなかった。

 




土御門のカミングアウトと真守ちゃんのルーツにまつわる話でした。

真守ちゃんの能力の本質についてでてきましたが、原作で能力名を自分でつける学生もいると明記されているように、真守ちゃんも自分の能力名を直感でつけました。

超電磁砲は美琴が自分でつけたと書いてありましたし、一方通行はそうですし、超能力者はみんなそうなんですかね。未元物質も垣根くんが自分でつけそうです。


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