とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第七八話、投稿します。
次は一〇月三一日日曜日です。


第七八話:〈面識皆無〉の大切なヒト

真守は学校の応接室の扉を開けて自分を見た瞬間、泣き崩れた女性を見つめながら困惑していた。

 

小萌先生が女性に近づいて(なだ)めようとしているが、女性はずっと嗚咽(おえつ)を漏らして泣きっぱなしだった。

 

真守は革張りのソファから立ち上がって躊躇(ためら)いがちにその女性と小萌先生に近づく。

 

「あの、どうすればいいか困ってしまうから……泣かないでください」

 

珍しく真守が困惑した様子で敬語を使うと、女性は顔を上げてエメラルドグリーンの(うる)んだ瞳で真守を見上げた。

 

「お…………伯母さま?」

 

真守が困った顔で問いかけると、女性はボロボロと涙を零して声を上げて泣く。

 

真守は人の気持ちがわかる。誰かに寄り添いあうことができる。

 

でも今回ばかりはどうすればいいか分からなかった。

 

初めて顔を合わせる肉親に対してどうやって寄り添えばいいか、分からなかった。

 

でも土御門が肉親のことを勘ぐらなくていいからと言ってくれたから。

 

真守は泣き崩れた女性に近づいて、柔らかく微笑みながらその背中をそっと撫でた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

あるお屋敷に双子の姉妹が生まれました。

 

姉妹の内、妹は一族を出奔(しゅっぽん)して数学者になってしまいます。

 

実家と疎遠になった中、妹は一人の実業家と出会い、結婚して女の子を出産します。

 

ですが妹は病気になり、実業家に我が子を預けて亡くなってしまいました。

 

その実業家は実はとんでもないクソ野郎で他に手を出していた女性がいて、女にそそのかされた実業家はその女の子を学園都市に捨ててしまいました。

 

お屋敷の人々は疎遠になって飛び出し、亡くなった娘に子供がいると知って大慌て。

 

実業家が学園都市に捨てたと知り、置き去り(チャイルドエラー)の保護施設を捜し回っても娘が生んだ子供はいませんでした。

 

さて、子供は一体どこに行ってしまったのでしょうか。

 

「……っていうのが、真守ちゃんの詳しい身の上話だってぇ」

 

深城は新しい住居であるシェアハウスのラウンジに積まれた段ボールを仕分けしながら、深城が真守から話を聞いた時にタイミング悪く『スクール』の仲介人から連絡が入って聞けなかった垣根に事情を説明する。

 

「なんつーか。クソ家庭環境が問題の置き去り(チャイルドエラー)だったんだな、真守」

 

垣根は深城と同じように段ボールの仕分けをして林檎や引っ越しを手伝っている誉望を呼び寄せ、念動能力(サイコキネシス)で目的の部屋へと運ばせながら嫌そうに顔をしかめた。

 

「うん。それでね、ここからがすごいんだけど」

 

深城は必要な段ボールが違う段ボールの下に積まれていたため、上の段ボールを力量装甲(ストレンジアーマー)で強化した両手でひょいっと持ち上げながら告げる。

 

「あ? 何がすごいって?」

 

運動神経は悪いのに力だけはある深城が力任せに段ボールを持ち上げるのに垣根は不安を覚えて、よたよたとする深城から段ボールを取り上げながら声を上げた。

 

「真守ちゃんのお母さまの実家って古物商の重鎮で、マクレーン古物商って言ってイギリスを主体としてヨーロッパで商売してるおうちなんだって。もう数百年続いている老舗らしいとかなんとか、だから真守ちゃんのお母さま、古いしきたりとかが嫌で出ていったんだって」

 

「古物商? ……あいつ、外国の良いとこのお嬢様だったのか?」

 

深城の話がふわっとしているので後で真守にきちんと聞こうと考えながら垣根が深城に声を掛けると、深城は段ボールを持ち上げたことで腰がおかしくなったのか、伸びをしながらコクッと頷く。

 

「まあ瞳見れば純日本人じゃないのは分かるよねぇ。緑色の瞳とか絶対にヨーロッパの方じゃなくちゃありえないし」

 

「そうか。……真守の実家は真守を探してたのか」

 

深城があっけらかんと真守の特徴について言及するのを聞きながら垣根は自分が持っている段ボールを指定の場所に置ながら少し安堵の表情を見せた。

 

「うん。……でも真守ちゃんを引き取ったの、学園都市の『闇』の研究所だからねえ」

 

「はん。見つかるわけねえよな、そりゃあ」

 

深城は寂しそうに微笑みながら告げると、垣根は学園都市を嘲笑しながら告げる。

 

「でもこうやって会えたよ。真守ちゃん。超能力者(レベル5)に認定されて大変だったけど、良いことあったねえ」

 

「……まあな」

 

超能力者(レベル5)になって真守はあらゆるしがらみに囚われるようになった。

 

だが超能力者(レベル5)に認定されたことで真守は親族に見つけてもらえることができた。

 

実は自分を繋ぎとめるために超能力者(レベル5)にされたことを知らない真守にとって、親族が見つかったのは本当に幸福なことなのだ。

 

一人でずっと孤独に戦ってきた真守が家族に会えてよかった。

 

垣根は何故か少し寂しさを覚えながらも、真守を大切にしてくれる身内がいてくれたことが嬉しくて、真守のことを想って柔らかく目を細めた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

真守は応接室のソファで向かい合って自分の伯母と対峙していた。

 

アシュリン=マクレーン。

 

二〇代後半と言われても問題ないほどに若い彼女は真守の髪の毛を銀髪にして、ショートカットにして少し真守の年を取らせたような大人の女性だった。

 

泣き崩れた彼女は自分が泣くと分かっていたので耐水性の化粧をしていたらしく、泣いても綺麗な化粧を保っていた。

 

きちんと先を見据えて対処してあったり、泣いてしまったことを恥ずかしそうにしながらも凛としている辺り、気品があって内面も外見も美しい人だな、と真守は感じた。

 

「じゃあ、真守ちゃんはお金に不自由なく暮らしているのね?」

 

アシュリンは古物商で世界を渡り歩いているからか、使い慣れた様子の日本語で滑らかに喋り、真守のことを『真守ちゃん』と親しげに呼ぶ。

 

「うん。超能力者(レベル5)に認定されたから奨学金も増えたし、大丈夫」

 

真守はその柔らかな問いかけに、上ずった声を出しながらもきちんと答えるので、アシュリンはほっとした様子で微笑む。

 

「良かった。あ、でも真守ちゃんのために銀行作ってきたから後で口座教えるわね」

 

「……えっと、断ればいいのか喜べばいいのか。分からない……」

 

真守が所在無さげにすりすりと内ももを擦り合わせて顔をしかめると、アシュリンはそんな真守を見て柔らかくいたずらっぽく微笑む。

 

「貰えるものは貰っておくものよ」

 

「普段はそうしているんだが……み、身内から貰うってなるとちょっと違くて。……遠慮してしまうんだ」

 

とても自分を産んだ母親と同じ年齢だと思えないくらい若々しいアシュリンの前で真守が困惑していると、アシュリンは体を前に乗り出させて人差し指を振り、優しく注意してきた。

 

「真守ちゃん、身内のわたくしには甘えなさい。今まで甘えるなんてことできなかったんだから。お金のことを気にかけているのであれば問題ないわ。真守ちゃんのおうちはきちんとした家柄だもの。真守ちゃんに少し分けたくらいで減らないから」

 

「……ありがとう」

 

『真守ちゃんのおうち』という言葉がくすぐったくて真守は照れ隠しに微笑む。

 

アシュリンはそんな真守をじぃーっと見てから柔らかく微笑むと、真守の隣に座っていた小萌先生へとしっかり頭を下げる。

 

「月詠先生。真守ちゃんのこと、ずっと守ってくださってありがとうございます。これからも真守ちゃんをよろしくお願いいたしますね」

 

「は、はいなのですっ。生徒を守るのは先生の役目です。朝槻ちゃんを預かる身としてできる限りのことをしますよ。マクレーン様もこれからよろしくお願いしますです。何か分からない事があったら仰ってくださいね」

 

深く頭を下げられたので小萌先生もその小さな頭をしっかりと下げる。

 

お嬢様らしく綺麗な仕草で頭を上げると、アシュリンは(かたわ)らに置いてあった紙袋の中身を取り出して真守に手渡してきた。

 

それはアンティーク調の重い写真立てだった。

 

「真守ちゃん。これがわたくしの妹で、あなたのお母さまの写真よ。最後に姉妹で撮った写真だけど、あなたのお母さまであることに違いはないわ」

 

真守はアシュリンから手渡された写真立てを手元に引き寄せて見つめる。

 

仲睦まじそうな銀髪碧眼の双子が寄り添うように笑顔で映っていた。

 

「……右が、私のお母さま?」

 

「ええ、そうよ。ふふっ。真守ちゃんも確かな目を持っていて嬉しいわ」

 

真守が右側に映っている銀髪を真守のように背中の中ほどまでロングに伸ばした女性へとそっと写真立てのガラス越しに触れる。

 

「アメリアお母さま……」

 

アメリア=マクレーン。

 

それが真守の母親の名前らしい。

 

マクレーン古物商の古さが気に入らずに実家から離れて数学者になり、真守のことを捨てた男と結婚した女性。

 

「……真守ちゃんには悪いけれど、あの子はバカでね。知っても知らないふりをして幸せに過ごせるならそれでいいって考えていたのよ。そのせいで実家とも色々あったのだけど」

 

そんな考えだったから実業家が他の女に手を出していたと知っていても一緒にいたらしい。

 

あるいは、実家に帰れないから(すが)りつくしかなかったのか。

 

 

それとも。

 

「きっと、自分が一緒になった人を最期まで信じたかったのでしょう。それくらいの気概はあるとあの子はあのクソ野郎を信じていたのよ」

 

「……優しい人だったんだな」

 

真守が突然口の悪くなったアシュリンの言葉を聞いて苦笑しながらしみじみ告げると、アシュリンは寂しそうに笑う。

 

「そうね。優しすぎて自分の幸せを逃してしまったのよ。……真守ちゃんがもし幸せじゃなかったら、何が何でも本国に連れて帰ろうと思っていたのよ」

 

「ま、マクレーン様。そ、それはちょっと……」

 

小萌先生が慌てて苦言を(てい)すると、アシュリンはそんな気ありませんよ、と小萌先生に目配せした後真守を見た。

 

「でも大丈夫そうで安心したわ。真守ちゃんを一目見て分かったわ。あの子とは違うって」

 

「……そう、なのか?」

 

「わたくしだって古物商の血筋。物事を冷静に見極める目には自信があるわ。だから真守ちゃんはここで幸せになりなさい。真守ちゃんにとってはそれが一番の幸せだと思うから」

 

アシュリンの言葉に、真守はそっと顔を俯かせてぼそぼそと呟く。

 

「……大切なものが、たくさんあるんだ」

 

「ええ。分かっているわ」

 

「だから…………アシュリン伯母さまのことも、マクレーンの人たちのことも、大切にしたい……」

 

真守が躊躇いがちに自分の意見を言うとアシュリンはきょとっと目を開いて真守を見た。

 

その顔が本当に自分の表情と同じで真守は思わずふふっと笑ってしまった。

 

そんな真守を見つめて、アシュリンは柔らかく目を細めて微笑む。

 

「……そう。そうなのね。ええ。大事にしてくれると嬉しいわ」

 

「うん」

 

自分の伯母とは初めて会ったはずなのに、なんだかとっても懐かしくて、くすぐったくて。

 

真守はアシュリンのしみじみとした呟きにふにゃっと安堵の笑みを浮かべた。

 

「それで真守ちゃん。聞きたいんだけど、気になる男の子とかいるの?」

 

「ふぇっ!?」

 

真守は突然アシュリンにそう問いかけられてすっとんきょうな声を上げて、真守の隣で一息ついていた小萌先生は飲んでいたお茶を噴き出した。

 

「き、気になるおとこのこ……?」

 

真守はわくわくとした表情のアシュリンから目を逸らしてしどろもどろに呟く。

 

「真守ちゃんが悪い虫に食べられないか心配なのよ。……あなたのお母さまはそうだったし」

 

そこでアシュリンがフッと寂しそうに笑うので、どうフォローすればいいか分からない真守だったが、顔をしかめながらもぽそぽそと呟く。

 

「気になる男の子なのかはよく分からないけど……でも、私のことを想ってくれている人なら確実に二人いる」

 

「……二人共男の子なの?」

 

「ちがうっ……男の子と、女の子!」

 

『その歳で男を翻弄(ほんろう)してる方なの……?』とアシュリンがちょっと引いている中、真守は垣根と深城のことを考えながら猛烈に抗議する。

 

二人はきっと、初めて伯母と会っている自分のことを心配してくれていることだろう。

 

そう思うと、心が温かくなって真守は思わず二人を想って柔らかく目を細める。

 

「私のことを第一に考えてくれる子たちなんだ。私の幸せをいつだって願ってくれる、優しい子たちなんだ」

 

真守が幸せそうに微笑んだのを見て、アシュリンは目を見開いてから柔らかく微笑む。

 

「……その笑顔で全部分かったわ。良い子たちに会えたのね」

 

「うん。だから大丈夫。私はずっと幸せだったぞ。……それで、えっと。……伯母さまに会えてもっと幸せになった。ふふ」

 

真守はアシュリンのしみじみとした声に応えるように真守がはにかむように微笑むと、それを聞いていた小萌先生ははらっと涙を零してアシュリンは愛しい存在を温かな目で見つめていた。

 

真守はそんな二人の前で垣根と深城のことを想って、彼らに叔母と楽しく和やかに話したことを伝えたいな、と温かい気持ちのまま柔らかく微笑んだ。

 

 




真守ちゃんの事情が明らかになりました。

とあるの話では親の話なんてほとんど出てきませんが、一方通行とか垣根くんの家族構成ってどうなってるんでしょうね。原作で片方は将来大物になるし、片方は死んでしまうし……気になる……。

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