とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第八話、投稿します。
次は八月一二日投稿予定です。
キリが悪くて少し長め。
……確認したところ、何故かルビがおかしな事になっているのですがこれはどうすればいいんでしょうか。
……プレビューでは無事だったのですが。一体どういう事だ……。
※優しいお方に教えていただき、ノタリコンの方は修正させていただきました。
本当にありがとうございました。


禁書目録篇:上
第八話:〈魔術初見〉は突然に


夏休み初日。

真守は学園都市内を歩いていた。

白と黒のスポーティーなオーバーサイズパーカー。それに白い袖なしブラウスに黒のハイウェストショートパンツ。黒いタイツの先にはウェッジソールの白のパンプス。それとバイク乗りがよく使用するような黒い革のパンク風ウェストバッグ。

 

塩対応クールアイドルに似つかわしい服装をした真守にとって初めての高校生活の夏休みは、バイトを集中して入れられる期間だった。

 

真守は消えた八人目の超能力者(レベル5)流動源力(ギアホイール)だ。

能力は全てのエネルギーの源である源流エネルギーを生み出すことだ。

そして真守は源流エネルギーに指向性を加えて電気エネルギー、運動エネルギー、熱エネルギーなど様々なエネルギーへと変える事ができる。

 

そのエネルギーを売ることをバイトと称しており、幸か不幸か昨日は落雷があってライフラインが絶たれたので、電気を欲している施設が多くて結構稼げた。

 

一応、学園都市の『闇』に関係なさそうな場所で、更に口が固そうなところを狙って身元が他にバレないように売っているが、上層部が真守ではなく深城を超能力者、流動源力としているので真守の身元がバレてもあまり意味を成さない。

 

ただでさえ不良たちに絡まれるのに、これ以上情報が拡散されて注目なんかされたくない。

 

夏休みとは解放感に満ちている、と真守はしみじみ思う。

いつもは深夜に病院を抜け出すと、冥土帰しに咎められるような目をされるのだが、夏休みくらいは良いだろうとその目を向けてこない。

ということで。真守は完全下校時刻を過ぎても意気揚々と遊んでいた。

 

「朝槻──!!」

 

真守が道を歩いていると後ろから声をかけられた。

真守が振り返ると上条が真守を神様仏様女神さまー朝槻さま! ……なんて目を向けてくるので、真守は首をひねった。

上条は真守に近づくと、突然腰を九〇度直角に曲げて華麗に頭を下げた。

 

「朝槻さま! お願いがあります! 補習のプリント教えてください!」

 

「上条、お前補習だったのか?」

 

「……はい。夏休み初日から『すけすけ見る見る』やってんのに補習のプリントまで出されたんだよ。お願いします、この通り! 今度なんかおごるから!」

 

『すけすけ見る見る』とは目隠しをした状態でポーカーに一〇回勝つという透視能力専攻の時間割りである。

超能力者(レベル5)と言えどまるっきり専門外で真守だってできない事を、この無能力者(レベル0)は夏休み初日からやらされていたのだと知ると、なんだか可哀想になる。

それなのに補習プリントを出されたなんてますます不憫に思える。

 

「いいよ。上条の家でいい?」

 

「ありがとうございます! やっぱり持つべき友は大能力者(レベル4)!」

 

「絶賛するな」

 

上条が声を上げて感激するのでつまらなそうに真守が告げるが、上条は感激しっぱなしである。

真守と上条は自分たちの高校の学生寮にある上条自宅へと向かう。

 

「お前、夏休み初日から災難だな」

 

「そうなんですよ、冷蔵庫の中身は昨日の落雷でおじゃんになるし、キャッシュカードは踏み砕くし、何故かシスターさんがベランダで布団の代わりに干されているし」

 

「し、シスター? 布団の代わり……?」

 

真守がそれは一体どんな不幸のシチュエーションだ? と、首を傾げていると、上条がそのシスターを思い出しているのか思案顔になる。

 

「なんか、魔術とかなんだとか言ってたな。追われてるとか。まあ、ウチにフード忘れていったし、もしかしたら会えるかもな」

 

「ふーん……?」

 

上条の説明に真守はますます意味が分からなくなる。

学生寮に着くと、上条に先導されるがままにエレベーターに乗った。

目的の階について上条宅へと向かうと、とある部屋の前で清掃ロボットが三台わらわら動いていた。

 

「なんで清掃ロボットが三台も」

 

「人の部屋の前で何掃除してんだ?」

 

真守が首を傾げると、どうやらよりにもよって上条の自宅の前らしい。

清掃ロボットが頑張って清掃しようとしていたのはゴミではなかった。

 

「……人?」

 

「インデックス?」

 

白い修道服を着た銀髪碧眼の少女が倒れていた。

 

真守が即座に近寄ると、上条もそれに続く。

上条にインデックスと呼ばれた少女に真守が近づくと、その様子に目を見開いた。

 

「上条、この子重症だ!」

 

清掃ロボットをどけて少女の前に膝をついていた真守が鋭い声を上げる。

上条がその言葉に反応して近づくと、真守の言う通りに少女は背中をバッサリと斬られて、白い修道服が真っ赤に染まっていた。

 

「しっかりしろ、インデックス!」

 

「意識がないけれどまだギリギリ大丈夫そう」

 

「一体どこの誰にやられたんだ!」

 

「上条、意識がないんだって。落ち着け」

 

上条を宥めていると真守はピリッと背中に走る異変を感じた。

 

(何これ。私ですら生成したことないエネルギーを感じる!)

 

真守が弾かれたように顔を上げた。

周りを見渡すと、先程自分たちが曲がった角から異様な気配が漂っていた。

 

「誰!?」

 

真守が警戒心を露わに叫ぶと、現れたのは長身の神父の黒い服を着た一四、五歳の少年だった。

 

真っ赤な髪にたくさんのピアス。

目元にはバーコードの入れ墨があり、口には煙草をくわえているという変人の域に片足を突っ込んでいるのに、整った顔立ちをしている。

 

「随分と勘の良いお嬢さんだ」

 

完璧に気配を殺していたはずなのに、真守が気づいたので感嘆した声を上げる。

気配を殺そうが、そこにこちらを伺っている人間がいれば、空気の流れを機敏に察知できる真守には丸わかりだ。

 

「誰だと聞いてるんだ」

 

真守が再び問いかけると男はひょうひょうと答えた。

 

「僕たち、魔術師だけど?」

 

「……は?」

 

魔術師という単語を聞いて真守は首を傾げる。男はそんな真守と上条を無視してインデックスを見た。

 

「うーん、こりゃまた随分と()()も派手にやっちゃったねえ」

 

「なんで……」

 

男が『神裂』という第三者の名前を呟いたので、真守は単独犯じゃないと警戒心を露わにする。その隣で上条が唸るように呟いた。

 

「ここまで戻ってきた理由? さあね、忘れ物でもしたんじゃないかな?」

 

「忘れ物? ……それってフードの事?」

 

先ほどシスターがフードを忘れていったと上条から真守は聞いていた。

真守が問いかけると男は不敵に微笑んだ。

 

「正解、あれってどこで落としたんだろうね?」

 

「フードに残った魔力を探知してここまで来た……?」

 

「魔力? どういう事だ? ……アイツは探知系の能力者なのか?」

 

上条の呟きの意味が分からずに真守が首を傾げると、上条は突然怒鳴った。

 

「このバッカ野郎!」

 

「上条?」

 

「原理はよく分からねえが、一つだけ分かる事がある! コイツは俺を巻き込まないためにここに帰ってきたんだよ!」

 

真守は上条の憤りに意識のない少女を見た。

ベランダに引っかかってただけの不可思議な出会いをした上条とインデックス。

この少女は自分が狙われているにも関わらず、上条の事を守るために帰ってきた。

 

自分の身が危険なのに誰かを守ろうとしている心優しい少女ならば、尚更自分が守る価値がある。

 

「この子から話が聞けない限り、お前から話を聞き出すしかないな」

 

即座に長身の男を叩き潰す敵と認識して、真守は睨みつけた。

 

「それを斬ったのは僕じゃないよ。神裂だって何も血まみれにするつもりじゃなかったんじゃないかな。その修道服『歩く教会』は絶対防御なんだけれど、何の因果で砕けたんだかね?」

 

「……なんでだよ。俺は魔術なんてメルヘン信じられねえし、てめえら魔術師みてえなモンは理解できねえ。けど、お前たちにだって正義と悪くらいあるんだろ!? ……こんな小さな女の子、寄ってたかって追い回して血まみれにしてこれだけのリアルを前に、まだ自分の正義を語ることができんのかよ!!」

 

「言いたいことが済んだらどいてほしいな。それ、回収するから」

 

「回、収……?」

 

上条が長身の男の言葉に呆然として、真守はその言い分にぴくッと反応した。

そんな二人の前で長身の男は高らかに告げる。

 

「そう、回収だよ。回収。正確にはソレの持ってる一〇万三〇〇〇冊の魔導書だけどね。この国では禁書目録って言葉で良いのかな。教会が『目を通しただけで魂まで穢れる』っていう悪しき禍々しき本が魔導書。ああ、注意したまえ。キミたち程度の人間だったら一冊でも目を通せば廃人コース確定だから」

 

「ふざけんなよ、そんなもの一体どこにあるっていうんだ!」

 

上条がもっともなことを訊ねると、長身の男はインデックスを指さした。

正確には、インデックスの頭を。

 

「あるさ、ソレの頭の中に」

 

「え?」

 

「完全記憶能力。一度見たものを一瞬で覚えて、一字一句を永遠に記憶し続ける能力をソレは持ってる。その能力でソレは世界各地に封印されて持ち出すことのできない魔導書を記憶して頭に保管している魔導書図書館ってワケなのさ。ま、ソレ自身は魔力を練ることができないから無害なんだけれど。その一〇万三〇〇〇冊は少々危険なんだ。だから、魔術を使える連中に連れ去られる前にこうして保護しにやってきたって訳さ」

 

上条がインデックスの事情を聞いてそれが理解できないで呆然としている中、真守は音もなくゆらりと立ち上がった。

 

「──何語ってるんだ?」

 

真守から言葉が発せられた瞬間、上条もそして魔術師でさえも恐怖が体を駆け抜けた。

 

空気がひりつき、真守から凶悪過ぎる威圧感が放たれていた。

真守の感情の高ぶりと共に、彼女の高すぎる事象干渉力によって空間が震えているのだ。

 

その空間を震わせる様子は、圧倒的な強者の存在感をほうふつとさせた。

その威圧感はこれまで強大な敵と戦ってきた長身の男の裡で、警鐘を鳴らさせるほどだった。

はっきり言って黒猫のように可憐で無害な少女から出される威圧感ではなかった。

 

人のことを傷つける事すら許せないのに、モノ扱いまでする男。

あの研究所にいた人間と同じ姿勢を見せるこの男を、真守は到底許す事なんてできない。

 

真守は場の緊張で高まる中、冷たく言い放った。

 

「はっきり言ってお前の言う事は意味が分からない。でもね、お前が何を考えているのか一つだけ分かった。──人をモノとして扱う、ただそれだけ」

 

真守はそこで能力を解放した。

 

真守の頭に青白い蒼閃光(そうせんこう)の三角形が二つ猫耳のように展開されて、それに連なるようにそれぞれ二つずつの三角形が浮かび上がる。

ハイウェストのショートパンツのお尻の上から尻尾のようなタスキがぴょこっと伸びて、その付け根にリボンのように三角形が二つ尻尾を挟むように現出する。

 

「そんな扱いを私は許さないぞ、このペテン師」

 

あからさまな臨戦態勢に真守が移行したのを見て男も構えた。

 

「っ……別に僕たちのモノだし、それに僕は彼女を保護しようとしているんだよ。幾ら常識と良心があったって拷問には耐えられないからねえ。そんな連中に女の子の体を預けるなんて考えたら、キミだって心が痛いだろう?」

 

「女の子の体考えるなら斬りつけるなよ」

 

真守は長身の男の言葉によって怒りが頂点になった。

 

そして、その場からフッと消えた。──ように見えた。

真守は長身の男の目が追いつけない程の速度で足元に迫り、魔術師の男の腹を思い切り蹴りつけた。

 

「ぐぅはっ!!」

 

魔術師の男は真守の蹴りをもろに食らって吹き飛ばされるが、倒れることなく踏みとどまってから真守を強大な敵と認識して嗤った。

 

「……女の子だと思って甘く見てたよ。流石この街の子供だね」

 

「お前、外から来たんだ? 侵入者?」

 

長身の男の言葉に真守が頭を回転させて訊ねると、そんな様子の真守に勘が鋭くて頭が回る少女だと、男は警戒心を強めた。

 

「ステイル=マグヌスというのが僕の名前なんだけれどね。良い蹴りを繰り出す君には、我が名が最強である理由をここに証明する(F o r t i s 9 3 1)と名乗った方が良いかもね」

 

「勇敢? それとも強者?」

 

真守はラテン語の直訳を即座に口にして訊ねる。

 

「語源はどうだっていいんだよ。僕たちの魔法名だからね。聞き慣れないかな?」

 

「なんだそれ」

 

「僕たち魔術師って生き物は、魔術を使う時に真名を名乗ってはいけないそうだ。古い因習だから理解できないけれど、重要なのは魔法名を名乗り上げた事でね。僕たちの間ではむしろ──殺し名、かな」

 

ステイルはそう告げると咥え煙草を口から外して外に放り投げた。

 

炎よ(Kenaz)──」

 

そして、咥え煙草から大きな炎が吹きあがってステイルの右手へと火球となって集まっていく。

上条は熱波から顔を守るように手をかざすが、真守は涼しい顔でステイルを見つめていた。

 

巨人に苦痛の贈り物を(Purisaz Naupiz Gebo)

 

その瞬間、真守たちに向かって炎の塊を投げ飛ばした。

 

真守は両手を胸の前でクロスさせて源流エネルギーを生成して、即座にシールドのように纏った。

真守たちに向かって放たれた炎は、真守がシールドとして展開したエネルギーと真っ向から衝突した。

 

蒼閃光が迸るごとに歯車が軋みを上げるような音が辺りに響く。

 

真守たちを襲った炎が真守の生成した源流エネルギーを衝突すると、何故か虹色の煌めきを辺りにまき散らした。

それは真守の展開したシールドの表面を流れていくように舞い散っていく。

 

エネルギーと炎の衝突の余波からインデックスを守るために、上条は身を挺して彼女を庇った。

 

(この虹色の煌めき……。源流エネルギーが炎を構成する謎のエネルギーを焼き尽くした事で生まれたモノ? この感触は生命エネルギーに似てる。……そうか。あのステイル=マグヌスとかいう男が能力の基盤に使っているのは、生命エネルギーを基に精製しているのか……?)

 

両手を胸の前でクロスさせるのをやめながら冷静に分析する真守を、ステイルは見つめた。

 

「……キミ、一体なんなんだい?」

 

ステイルは冷静に分析している真守をしかめっ面で見つめた。

自分の操る魔術の炎が、目の前の少女が発生させた何らかの未知なるエネルギーによって、焼き尽くされたと感じたからだ。

 

「朝槻真守。外から来た人間には理解できないかもしれないけど、私は強いぞ」

 

それは純然たる事実だった。

 

何故なら真守は消えた八人目とされる学園都市の頂点、超能力者(レベル5)流動源力(ギアホイール)だからだ。

 

「興味がある。お前、その未知のエネルギーは生命エネルギーから精製しているものだな?」

 

真守はステイルが未知のエネルギーを精製している臓器を寸分違わずに指さしてからスッとステイルの顔に指を向けた。

 

「何故、魔力の集中的な精製ポイントが分かる!?」

 

「私はエネルギーの流れを感知できる。それくらい当たり前だ。そうか、それは魔力というのか。またオカルトチックな名称だな」

 

「バカな! 魔力すら知らないのに何故そこまで看破を!?」

 

「エネルギーを感知できるからと言った。上条、魔術って能力とは全く別物らしい。あれは能力者みたいに周囲の事象に介入しているんじゃない。魔力というエネルギーを使って無理やり事象を作り出しているみたいなんだ」

 

「じゃあ、魔術っていうのは明確に科学技術じゃないってことか?」

 

真守の推測に上条が訊ねると真守ははっきりと頷いて断言した。

 

「仕組みが違っても、世界を侵食するように意図的に造り出された異能ならお前の右手は打ち消せるぞ」

 

「……やっぱり、俺の右手は魔術を打ち消せるのか。思えば、インデックスの服を木っ端みじんにしたのだって俺の右手だったし」

 

「え。……お前、女の子に何してるの?」

 

自分の右腕を見つめて呟いた上条の言葉に真守は即座に反応した。

一転して軽蔑のまなざしを真守が上条に向けると、上条が大きな声で言い訳をした。

 

「いやですね! インデックスさんが絶対防御だから包丁刺しても大丈夫って大見栄切るから! それで少し押し問答になって、俺の右手だったらお前のそれ、魔術って分かるんじゃねーかって、ちょっと軽い気持ちでやってしまっただけですよ!?」

 

「ふーん」

 

「この状況で塩対応止めてくれませんか!?」

 

言い訳を聞いて、ますます上条へと真守が心底軽蔑の視線を送っていると、上条が悲痛な声を上げた。

その二人の会話を聞いていたステイルは興味深そうに呟いた。

 

「成程。その経緯を聞いてやっとわかったよ。『歩く教会』はキミが破壊したんだね?」

 

ステイルの様子を伺いながら真守は上条にそっと囁くように声をかける。

 

「……上条、お前腹が立ってるだろ」

 

「当たり前だろ!」

 

「じゃあ、あの子のことは私に任せて。傷を塞ぐ手立てがあるからお前には時間稼ぎをしてほしい」

 

「そんな事ができるのか?」

 

「能力を応用すればな」

 

上条は真守の能力を力量装甲(ストレンジアーマー)という体の周りに生命エネルギーの余剰を纏ってシールドにする能力だと思っている。

 

その能力で説明がつかない流動源力としての力を使うから、真守は『応用すれば』という言葉であえて曖昧に表現する。

消えた八人目である事を隠しているのは心苦しいが、説明するのに時間が惜しい。

 

それ程までにインデックスが重症なのだ。

 

「分かった。あのステイルって奴は俺に任せて、お前はインデックスを!」

 

「頼む」

 

真守は上条と居場所を交代してインデックスの下に膝を下ろす。

 

ステイルは二人の会話を聞いて怪訝な表情をした。

自分の炎を焼き尽くすことのできるほどの破壊力を生み出せる能力者が、人を救う事もできるなんて尋常じゃない。

 

「でたらめな能力者だ。そんな能力者は後ろに下がってキミが僕の相手になるのかな?」

 

「なれるに決まってんだろ!」

 

ステイルと上条は睨み合う。

 

「────世界を構築する(M T W O T)五大元素のひとつ(F F T O)偉大なる始まりの炎よ(I I G O I I O F)

 

それは生命を育む(I I B)恵みの光にして( O L)邪悪を罰する裁きの光なり(A I I A O E)

 

それは穏やかな幸福(I I)を満たすと同時に(M H)冷たき闇を滅する(A I I)凍える不幸なり(B O D)

 

その名は炎、その役は剣(I I N F I I M S)

 

顕現せよ、我が身を食らいて力と為せ(I C R M M B G P)────!」

 

呪文のようなモノをステイルが詠唱すると、真守たちの前に巨大な炎によって形作られた巨人が姿を現した。

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)。その意味は、『必ず殺す』」

 

「──邪魔だ!」

 

ステイルが放った魔女狩りの王(イノケンティウス)という炎の巨人を、上条は右手の幻想殺しで即座に打ち消した。

 

真守がインデックスの手を握って処置を始めようとしていると、真守の後ろに上条が打ち消した炎がなびいていく。

その炎が再び集まっている事に気が付いて、真守は後ろを振り返った。

 

そこには、魔女狩りの王(イノケンティウス)が再び顕現していた。

 

熱波と炎が真守とインデックスを襲う。

真守は左手を突き出して、インデックスと自分を守るように源流エネルギーを展開、その炎を全て焼き尽くした。

 

「上条!」

 

虹色の煌めきが辺りに吹きすさぶ中、真守がインデックスを庇っているので動けないと暗に告げると、即座に上条が真守の前に立って、魔女狩りの王(イノケンティウス)に立ち向かった。

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)は凝縮された炎である光を帯びた十字架を手に取って、上条に向かって振り下ろす。その十字架に真正面から上条は右手を当てた。

 

どんな異能でも通常なら上条の右手の幻想殺し(イマジンブレイカー)は打ち消すはずだ。

 

だが、魔女狩りの王(イノケンティウス)とその十字架は上条の右手に触れているにも関わらず、その形を保ち続けていた。

真守はそこで、学生寮全体に帯びるエネルギーの異常な流れを知覚した。

 

「上条! この学生寮からソイツにエネルギーが集まってるぞ!」

 

「じゃあ、コイツに触れても意味がないのか!?」

 

「──ルーン」

 

上条と真守が未知の技術に困惑していると冷たく無機質な声が響いた。

 

それは、真守が手を握っているインデックスの声だった。

 

「『神秘』、『秘密』を指し示す二四の文字にしてゲルマン民族により二世紀から使われる魔術言語で、古代英語のルーツとされます」

 

「……ルーンって北欧神話の、神々の創造した魔法とか言うアレ? ……というか、お前意識が戻ったのか?」

 

真守は突然、目を見開いて冷静に言葉を紡ぐインデックスに問いかけた。

 

真守はオカルトを齧っている。

齧っていると言っても小説家が資料として集めるオカルト本をつらつらと見たり、十字教の聖書を読んだりするくらいだ。

そこには魔術の使い方も、こうして魔術が存在しているのなんて当然書かれていない。

むしろ今の今まで魔術とはフィクションであり、あったらいいなくらいで語り継がれていた幻想だと思っていた。

 

真守はオカルトに興味はなかったが、オカルトに触れなければならない理由があった。

 

源城深城。

まるで幽霊のようになってしまったあの少女。

自分の身に起こった事態に()()()()()()()()()にもかかわらず、深城は魂やら幽霊やら、天使なんかを信じていた。

 

(深城の信じているモノが知りたくて私はオカルトを齧った。その延長線上にある魔術。それが本当にあるって事は、もしかして魂も存在するって事か?)

 

真守がこの場にいない深城のことを考えているとインデックスが言葉を続ける。

 

「──『魔女狩りの王(イノケンティウス)』を攻撃しても意味がありません。壁、床、天井。辺りに『刻んだルーンの刻印』を消さない限り、何度でも蘇ります」

 

「お前、インデックスだよな……?」

 

「はい」

 

上条の確認するような問いかけにインデックスは迷わず即答する。

 

「はい。私はイギリス清教内、第零聖堂区『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔導書図書館です。正式名称はIndex-Librorum-Prohibitorumですが、呼び名は略称の禁書目録で結構です。自己紹介が済みましたら、元のルーン魔術に説明を戻します。『魔女狩りの王(イノケンティウス)』を形成しているのはルーン文字。それを消さなければ『魔女狩りの王(イノケンティウス)』を倒すことはできません」

 

「キミたちにそれは不可能だ。灰は灰に(Ash To Ash)──」

 

ステイルは真守たちの目の前で呟きながら右手に炎の剣を生み出した。

 

「──塵は塵に(Dust To Dust)

 

ステイルは続けてその左手にも炎の剣を生み出した。

 

「────吸血殺しの紅十字(Squeamish Bloody Rood)!」

 

ステイルが叫んで特攻してくるが、上条は動けない。

とっさに真守はステイルがいる方向へと源流エネルギーを放ってその炎の剣にぶつけた。

 

その瞬間、酷い爆発が学生寮の廊下を焼いた。

上条はそれによって階段の方へと吹き飛ばされた。

 

インデックスを抱いて視界が晴れるまで真守が辺りを警戒していると、ステイルもいなかった。

 

恐らく上条を追っていったのだろう。

 

「上条は自分の役目を担っている。私もやるべきことをしなければ」

 

真守はインデックスの体に手を当てると、スッと目を閉じた。

 

源流エネルギーに指向性を加えて電気エネルギーを生成する。

その生成した電気エネルギーをバチバチと掌に帯電させると、インデックスの体にその電気を通した。

その電気エネルギーを緻密に操作して、細胞一つ一つに分裂を促進させるように働きかける。

自然治癒を使って傷を急速に塞ぐ手法で真守はインデックスの治療を始める。

 

真守が生成できる生命エネルギーを直接体に注いで治療しないのは、真守が過去にそれで失敗したからだ。

真守が生み出す生命エネルギーは、死の向こう側に行こうとしていた人間すら救うが、その人間にある種の()()()を与える。

 

つまり、真守が生命エネルギーを注ぎ続けなければ、その人間は命を保つことができないのだ。

朝槻真守はほぼ死んでいた源白深城をそれで生かした。

 

その結果。

深城の体の成長が止まり、なおかつ真守が生命エネルギーを注ぎ込み続けなければ生きていけなくなってしまった。

真守と深城の体は目に見えない特殊なバイパスによって繋がっており、真守はそのバイパスを使って深城に生命エネルギーを注ぎ込み続けている。

 

真守がいれば深城は死なない。

 

だが、それは真守がいなければ深城は生きていけない事にも繋がる。

深城はずっと一緒にいてほしいと願った。

 

『死にたくない、一人にしないで』と、彼女は死の間際に言った。

 

その時、既に深城がかけがえのない人間になっていた真守はその願いを引き受けた。

絶対に離れないと誓った。

 

運命共同体である二人は、そうやって互いが互いを必要として生きている。

 

(深城みたいな事には絶対にさせない。インデックスは確実に私が救う! 救ってみせる!!)

 

真守は固くそう決意してインデックスの傷を癒すために祈るように能力を行使していた。

 




真守ちゃんの罪が明らかになった回。
深城に真守ちゃんは負い目がありますが、それ以上に真守ちゃんは深城のことを想ってます。

ちゃんと罪があってちゃんと汚い、でも命に対して真摯な真守ちゃん。


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