とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第八三話、投稿します。
※次は一一月七日日曜日です。


第八三話:〈天翔乙女〉は地に墜ちて

真守は眼下に広がる青い地球を見つめていた。

 

蒼閃光(そうせんこう)で形作られた猫耳と尻尾は鋭い輝きを放っており、真守が能力をフルに使用している事が理解できた。

 

そんな真守と『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の『残骸(レムナント)』へと近づくシャトルがあった。

 

真守はエネルギーを生み出して推進力を得て宇宙を泳いでシャトルに接近、手の平からパリッパパリと音を響かせて電気エネルギーを生み出して即座にシャトルにハッキング。

学園都市の科学技術に遠く及ばないシステムに軽々と侵入した真守は、シャトルに自前で搭載されている地球への帰還プログラムを動かしてシャトルを地上へと送り帰す。

 

〈今、『残骸(レムナント)』を狙っている機関全てに学園都市が非公式の声明を送ったわ。内容教えてほしい?〉

 

シャトルからそっと離れた真守の右耳に取り付けられていた無線機から緋鷹の声が聞こえてくるので、真守はイヤホンに触れて『必要ない』という意味を込めて二回叩く。

 

〈え? 教えてほしくないって? じゃあ教えちゃおうかしら〉

 

真守が緋鷹の言葉に顔をしかめると、緋鷹はうきうきと声明文を読み上げる。

 

〈『現在、我々学園都市は超能力者(レベル5)第一位を宇宙空間に配置し、「残骸(レムナント)」を回収しに来たシャトルたちを平和的に地球へと帰還させている。これは実際に起こっている事で、我々が超能力者(レベル5)第一位にシャトル撃墜を命令しないのは慈悲であり、再度「残骸」を回収しようものなら撃墜も(いと)わない』。……ですってー。かぉっこいい、超能力者(レベル5)第一位さん〉

 

真守がイヤホンを何度も苛立ちを込めてトントンと叩くが、緋鷹はその圧に負けずにけらけらと笑い、楽しそうに声を掛ける。

 

〈声明も発表したし、学園都市も『演算中枢(シリコンランダム)』を回収して地上に降ろしたから、これで面倒事は終わりよ。お疲れ様。エンデュミオンに戻ってきて祝杯でも上げましょう〉

 

緋鷹はそれきり無線を切って応答しなくなる。

 

(なんかやっぱりちょっとよく分からない仲介人だよなあ)

 

真守は心の中で緋鷹のことを考えて(いぶか)しみながら、緋鷹の言葉通りにエンデュミオンへと戻っていった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「なんだって?」

 

エンデュミオンの静止軌道ステーション内の外周部、オールビタルリング内を真守は疑似的な重力を発生させて地上で歩くように移動していたが、簡素な推進ジェットで移動している仲介人の緋鷹からとんでもないことを告げられて、怪訝な声を出して緋鷹を見上げた。

 

「だから学園都市が回収した『残骸(レムナント)』、それも『演算中枢(シリコンランダム)』が外部の組織と結託した能力者に奪われたのよ」

 

「……私がせっかくお膳立てして回収させてやったのに、それを奪われるとは一体どういうことだ。なんでそういうこと起こすかなあ」

 

真守がぼやくと、緋鷹は手に持っていたタブレットから情報を読み取って真守に伝えてきた。

 

「外部の組織は『科学結社(Asociacion de ciencia)』。ケープケネディから『残骸(レムナント)』を狙っているそうよ」

 

「学園都市の声明を聞いても諦めきれない連中か」

 

「あんなに頑張ったのに学園都市が『演算中枢(シリコンランダム)』を奪われるなんてねえ」

 

真守が緋鷹から伝えられた情報について苛立ちを込めて呟くと、緋鷹は学園都市上層部が慌てる緊急事態なのに他人事のように告げてきた。

 

「その言い方すごくムカつく。大体、『演算中枢(シリコンランダム)』以外の『残骸(レムナント)』が盗まれても復元不可能なのに、なんで私が『超能力者(レベル5)第一位は宇宙空間でも生存できる』なんていう学園都市の自慢に付き合わされなくちゃならないんだ」

 

「あら。あなたが護衛したシャトルによる調査で分かった事なんだからしょうがないじゃない?」

 

「それはそうだけど、プロパガンダに使われてイラつくのは当たり前だろ」

 

真守と緋鷹の会話の通り、『演算中枢(シリコンランダム)』以外の『残骸(レムナント)』を回収したところで『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』は復元できないが、それが分かったのは真守が護衛したシャトルの調査結果なため、真守が事前に情報を仕入れて学園都市からの仕事を意味ないからやらないと拒絶することはできなかった。

 

調査結果を知った時憤慨した真守だったが、学園都市の自慢に付き合わされるとしても請け負った仕事は最後まできちんとこなそうと頑張っていた。

それなのに学園都市の失態を聞いて真守はますます機嫌を悪くしており、そんな真守を緋鷹は上から覗き込むようにして小首を傾げ、微笑んで声を掛けてきた。

 

「どうする? エンデュミオンから降りるには少々時間がかかるけど」

 

「それを聞いてくる時点で私に大気圏突入してどうにかしろと言っているようなモンだろ」

 

真守は緋鷹をジト目で見上げながらため息を吐くと、疑似的な重力を生み出すのをやめて地面をトッと蹴って宙に浮き、緋鷹に近づく。

 

「もうここまで来たらお前たちの言う通りにしてやる」

 

「ええ。そう言ってくれると思ってもう用意しているわ」

 

真守が緋鷹に顔を近づけて心底気にくわなそうに告げると、緋鷹はくすくすと笑って頷いた。

 

完全に緋鷹に自分の心が読まれている真守は不快感に顔をしかませると、腹いせに緋鷹の推進ジェットに干渉してあらぬ方向へと飛ばした。

すると緋鷹はきゃーっと軽い悲鳴を上げてはしゃぎだした。

 

どうやら真守が本気で自分を害すことなどないと信じているらしい。

 

(本当になんなんだ、コイツ)

 

真守は心の中でため息を吐きながら、緋鷹を引き寄せてそのままエンデュミオンから地上に大気圏突入で降りる準備をさせ始めた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』という凍結された計画があり、その計画は『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の予測演算にて成り立っていた。

 

だがその予測演算を狂わす形で『実験』に介入してきた者たちがいて、その者たちの目論見の通りに予測演算に誤差が生じて、結果『実験』は凍結された。

 

だが何者かに破壊された『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の『残骸(レムナント)』が回収されて『樹形図の設計者』が復元されると、『実験』のための再演算によってその誤差を修正されて、『実験』が再開させられてしまうのだ。

 

『実験』は今生存している妹達(シスターズ)を全員、超能力者(レベル5)である一方通行(アクセラレータ)が殺害することで完遂される。

 

そのため妹達(シスターズ)の命を守りたいと考えている一方通行(アクセラレータ)は情報を掴んで『残骸(レムナント)』を木端微塵にするために『残骸』を外部の組織に運び出そうとしていた人間のもとにやって来た。

 

だがその『残骸(レムナント)』を運び出そうとしている人間は壊れかけた能力者だった。

 

一方通行(アクセラレータ)は八月三一日に打ち止め(ラストオーダー)を救おうとして脳に損傷を受け、自前の演算能力を喪っている。

 

それを知っているその能力者は自分が負けるはずがないと嗤っていたが、一方通行(アクセラレータ)が弱くなったところでその少女が強くなったわけではないし、それに一方通行は弱くなったからと言って誰にも負けるつもりはなかった。

 

それ故に一方通行(アクセラレータ)は少女を楽々と撃破して『残骸(レムナント)』を木っ端みじんに破壊することに成功した。

 

(……まァ。規格外で勝ち筋が見えねェヤツらがいるけどよォ)

 

一方通行(アクセラレータ)は戦闘が終わった場所で手ごたえがなさ過ぎて、自分の定義を壊した彼女と自分の攻撃を打ち消した少年を思い出して心の中で呟きながら松葉杖をついてその場を後にしようとする。

 

「あァ?」

 

その時、夜空に不自然な流れ星が煌めいたので一方通行(アクセラレータ)は思わず夜天に目を向けた。

 

その流れ星は蒼い輝きを帯びていて、普通の流れ星ではないことが一目で分かった。

 

「…………あの光」

 

一方通行(アクセラレータ)が呟く中、蒼い流星がどんどんと大きくなっていく。

 

それは一方通行(アクセラレータ)のすぐ近くの地面に落ちた。

 

「──あ。良かった。もう終わったか?」

 

ズッドォ──ン、と鈍い音を立ててアスファルトの地面にクレーターを作る形でその人物は降り立ち、煙の中から一方通行(アクセラレータ)に声を掛ける。

 

「あァ。……つーかオマエ、宇宙に行ってたってクチかァ?」

 

一方通行(アクセラレータ)は生身で大気圏突入してピンピンしている真守に特に驚きもせずにそう問いかけると、真守は頷く。

 

「行ってた。統括理事会に言われて『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の『残骸(レムナント)』を回収しようとする他国の機関を追い帰してた」

 

「……それはご苦労ォなこった」

 

朝槻真守のキャッチコピーはそう言えば地球が滅亡しても死なない能力者だったな、と一方通行(アクセラレータ)はなんとなく思い出しながら告げる。

 

「『残骸(レムナント)』はお前に完膚なきまでに破壊されているし、私の望み通りになったな。まだお前は入院中だし、後始末は私がやるからお前は病院に帰っていいぞ。というか、随分髪が伸びたなあ」

 

「……あの能力者も救うつもりかァ?」

 

真守が一方通行(アクセラレータ)に向けて世間話をしていると、一方通行は墜落防止用の金網のフェンスの上で気絶している結標淡希を横目に見ながら告げる。

 

「救うとは大げさな。少し悩みを聞いてやるだけだ」

 

真守はクスクスと笑いながら地面を軽く蹴って結標淡希の下まで飛び上がる。

 

「……ふン」

 

一方通行(アクセラレータ)は自覚がないままに人を救う真守を見上げながら鼻で嗤い、彼女に言われた通り病院に帰るためにその場から去っていった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

結標淡希は救急車の中でぼうっと自分を見下ろす真守を見上げていた。

 

なんとなく意識があった結標は規格外の超能力者(レベル5)第一位が宇宙から降りてきたのを知っている。

その第一位は元第一位と話をすると自分のもとにやってきて体に触れてきて、怪我の具合を診ると救急車を呼び、自分を介抱し始めた。

 

結標は自分に宿った能力が怖かった。

人を傷つける力を持っている自分が怖かったのだ。

 

自分の能力に恐怖を感じていたある日、『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』の『実験』に使われるクローン人間の存在を知った。

 

能力者の能力の要は脳だ。

遺伝子構造が同じであるならば、同じ能力の同じ強度(レベル)がクローンにも宿るはずなのに、オリジナルとクローンには強度(レベル)の違いが見られた。

 

それは単純な脳の構造以外に能力には何らかの重要なカギがあるということだ。

 

そのカギを調べるために『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の『残骸(レムナント)』を復元、演算すれば、もしかしたら人間の代わりに超能力を扱える個体がいると分かるかもしれない。

 

そうすれば自分が能力者になる必要はなかった。だから『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』によってこの世界に問いかけたかった。

 

自分が能力者になった意味があるのかと。

 

だから自分よりも劣った空間移動系能力者である白井黒子に、同胞になりえる彼女に一緒に真理を探してみないかと結標が勧誘したところ、白井黒子は『今更それが何になるのか』と結標に問いかけてきた。

 

結標淡希が能力者である事実は真理が明るみになろうと変わらない。

一生お前は能力者で、一生お前は人を傷つける人間だと白井黒子は結標淡希に告げた。

 

その瞬間、結標淡希は白井黒子に自分の考えを粉々に砕かれた。

 

白井黒子が言った通りだ。

 

だから結標は自分が変われないのだと絶望し、能力の制御を失い、一方通行(アクセラレータ)によって打ちのめされて能力者として完全に使い物にならなくなってしまった。

 

自分がこれからどうすればいいか分からない。

 

「お前、自分の能力が怖いのか?」

 

そんな自分の行く末を失い、呆然としている結標に真守は問いかけた。

 

真守が何故結標の動機を知っているかというと、救急車を待っている間に妹達(シスターズ)の一体であるミサカ一〇〇三二号に助けを求められた上条と一緒に駆けつけてきた御坂美琴に全て聞いたからだ。

 

「そうじゃなかったな。自分が人を傷つける人間だと言うのが怖いんだったな」

 

真守は御坂美琴から聞いた結標の動機を頭の中で組み立てて結標淡希が本当に恐怖していることを察しており、先程の言葉を撤回して確信を持ってそう告げた。

 

結標淡希は統括理事長がいる『窓のないビル』の『案内人』をやっていた。

 

統括理事長が進める『計画(プラン)』に真守は関わっており、そのため結標淡希は真守が超能力者(レベル5)第一位に認定される前から真守の存在を知っていた。

 

そんな真守の能力である流動源力(ギアホイール)という特性によって、真守が少しの情報からその物事の流れを正確に読み取って全てを見破ってしまうと結標淡希は知っていたため、自分の心の底に隠し持っている気持ちを看破されても特に驚かなかった。

 

「大丈夫だ」

 

真守は結標の頬に手を添えて微笑む。

 

「お前がこれまで人を傷つける人間だったとしても、これからもそうでなければならない理由はない。だからこれからお前は人を傷つけないように気を付ければいいんだ。それだけで世界は変わる」

 

「無理よ……だって、私。……能力が、暴走しちゃうもの…………もう、壊されてしまったのだし」

 

「できるよ」

 

真守は力なく呟く結標に救いの手を伸ばした。

 

「人にできないことはない。強く願ってその願いを叶えるために進み続ければ、その願いに絶対に辿り着ける。それに強い能力を持っているお前は思い込みが強いからな。お前が変われるって強く思い込めば、お前は絶対に変われるよ」

 

「……っは。…………詭弁ね」

 

結標が真守の言葉を嗤うと、真守はそんな結標にいたずらっぽく微笑む。

 

「詭弁になるかどうかはお前のこれからの行動に掛かってるぞ。それはお前も分かるだろ?」

 

「…………あなた、本当に人たらしね」

 

真守の言葉に反論できなくて結標は降参し、真守を見上げながらそう告げて柔らかく微笑む。

 

結標は真守がこれまで多くの人間を救ってきたと知っているから、真守をそう揶揄(やゆ)することができるのだ。

 

「え。……何だソレ。ちょっとどういうことだ」

 

「さあ?」

 

真守が何故人たらしなんて不名誉な言い方を初対面の結標に言われなければならないと憤慨していると結標は笑ってごまかす。

 

「……傷だらけなのにそこまでの減らず口。そんな口が利けるならお前はまだ大丈夫だよ。壊れてなんかない」

 

真守は結標の自分に対する言葉にムッと口を尖らせるが、それでも次の瞬間には微笑んで、結標のぼさぼさになった髪の毛を整えてやる。

 

「私だって人を傷つける人間だったけど、こうやってお前の気持ちを聞ける人間になれた。努力すれば人としての()り方なんてどうとでもなる。……人を傷つけるのが怖いなら、人を傷つけられるほどのその強力な力で周りの人間を守ればいい。お前の力は素晴らしいものだ。使い方次第でお前は変われる。だから大丈夫」

 

(……正直、なんでこんな女に周りは簡単に(ほだ)されるのだろうって思ってた)

 

結標は髪の毛を整えてくれる真守の手を感じながらぼうっと頭の中で考える。

 

(…………でも、意外と悪くないわ。ええ、この人の言葉を信じてみたくなるくらいには)

 

結標は蓄積された疲労からそっと目を伏せると、そのまま意識を薄れされていく。

 

「大丈夫。人は変われるんだ。……変われるからこそ、そこから逸脱してしまうこともあるんだがな────……」

 

そんな真守の寂しそうな声を聞きながら、結標は意識を落としてゆっくりと眠りに落ちていった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「で? 宇宙に行った感想は?」

 

垣根は宇宙から帰ってきてラウンジで一息ついている真守の隣に座って声を掛けた。

 

「地球は意外と青かった」

 

真守は垣根が前にも買ってきてくれて、すっかり真守のお気に入りになった一個一〇〇〇円もする瓶に入ったチーズケーキをスプーンですくってあむ、と食べながら告げる。

 

「なんだ、意外とって。……なあ、宇宙空間で酸素必要としないでいるってどんな感じだ?」

 

「なんでわくわくしてるんだ? ……そうだなあ。本能的なものを脳の電気信号イジって全部抑えてるし、感覚が鈍っている所と鈍ってないところがあるって感じだなあ。でもその違和感も覚えないように色々と細工してるから……とりあえず不快じゃないぞ」

 

「他国はお前が抑えた。そして学園都市が回収した『残骸(レムナント)』は一方通行(アクセラレータ)が壊した。……お前が望む展開になってよかったな」

 

真守がワクワクしている様子の垣根に感覚的なものを告げると、垣根はふーんと言いながら柔らかく目を細めて真守の思惑が叶ってよかったと告げた。

 

「んー白井が負傷してなかったら完璧だったんだけどなあ」

 

真守は結標淡希と『演算中枢(シリコンランダム)』を争って負傷させられた白井黒子の心配をしながらチーズケーキをすくって食べる。

 

「まあ良かったじゃねえか。……一人でよく頑張ったな、真守」

 

『後で見舞いに行こう』と考えている真守の頭に垣根はポン、と手を置き、真守の頭を優しく撫でてそう声を掛けて真守を(ねぎら)う。

すると真守はそれを受けて柔らかく表情を弛緩させた。

 

「うん。垣根もありがと。だってそれとなく一方通行(アクセラレータ)に情報を渡してくれたもんな?」

 

「……アイツの手助けするのはもうごめんだ」

 

垣根に真守がお礼を告げると、垣根は一方通行(アクセラレータ)のために動いたことが心底嫌でチッと舌打ちをする。

 

「そう言うなよ。ありがとうな、垣根」

 

「……ああ」

 

真守がふにゃっと柔らかな笑みを浮かべて気持ちよさそうに目を細めて何度も自分にお礼を言う姿を見て、垣根は思わず笑みをこぼしながら真守の頭を撫で続ける。

 

「えへへ。垣根に頭撫でられるの、好きだな」

 

はにかむ真守が可愛くて、垣根は真守の頭を撫でるのを一旦止めると、ソファの背中から真守の肩に腕を通して真守を自分の方にそっと倒す。

 

「はぅっ」

 

そして再び垣根が腕の中で真守の頭を撫で始めると、真守は顔を赤らめて動揺の声を上げるが、それでも垣根の腕の中に大人しく収まってチーズケーキを食べながら大人しく頭を撫でられる。

 

「あー! 垣根さん、真守ちゃんを胸の中で抱きしめてる! ずるい!」

 

垣根が真守と甘い時間を過ごしていると、それを邪魔する声が上がった。

 

「お前はいつも真守のこと抱きしめてるんだからいいだろ」

 

垣根が振り返るとそれはやっぱり深城で、垣根は顔をしかめながら深城に声を掛ける。

 

「人が抱きしめてると抱きしめたくなるー! ねー林檎ちゃん!」

 

深城は隣にいた林檎に声を掛けると、林檎は無言でテテテっと垣根と真守に近づいて、「ん」と(うな)って垣根へと両手を広げて前に立つ。

 

「なんだよ林檎。お前は抱き上げて欲しいのか? あとな、あと」

 

「むー」

 

垣根が笑って告げて、真守のことを見せつけるようにギューッと胸の内で抱きしめると林檎は不満そうな声を上げる。

 

「かっ垣根。もういいから。林檎のことぎゅーってしてやれっ」

 

真守は力強く自分をロックしている垣根に告げると、垣根は不満なのか真守のことを自分に密着させる。

 

それに慌てる真守が愛おしくて、そして意地悪をしたくて真守の頭にちゅっとキスをすると、それを見た深城があー! と声を上げる。

 

林檎は垣根の前で不機嫌になって垣根の膝をぽんぽんと叩き、真守は垣根の腕の中で顔を真っ赤にしてフルフル震えて涙目になっていた。

 

垣根は大切な少女と彼女を取り巻く穏やかな世界に(ひた)っていつまでも穏やかな気持ちのまま柔らかな笑みをこぼしていた。

 

そんな垣根の想いに気が付いた真守は居心地良さそうに笑って垣根にすり寄り、そんな真守を見て深城が地団太を踏む姿を笑って見ていた。

 




これにて『残骸』篇は終了です。

実は結標ちゃんが探していた『能力を使える別の生命体』というのは垣根くんが自分の能力で造っちゃってます。
とんでもないことしでかしている垣根くんですが、その偉業に全く気付いていません。ただ道具として使っているだけです。完全無自覚。

次回『エンデュミオンの奇蹟』篇。開幕。

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