とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第八五話、投稿します。
次は一一月九日火曜日です。


第八五話:〈遊戯最中〉に問題投入

垣根と真守の攻防は垣根が真守にパーカーを強制的に着せるということで一旦終了した。

 

そんな攻防を気にもしなかった深城はじゃぶじゃぶとプールを泳いでうきわに浮いている弓箭の方へと林檎と一緒に近づいてにへらっと弓箭に笑いかけた。

 

「猟虎ちゃーん。林檎ちゃんと一緒に潜水勝負しよーっ」

 

「潜水、ですか?」

 

弓箭はぷかぷかと浮き輪に乗ったまま深城の言葉にコテッと小首を傾げる。

 

「うん! 長くプールの中に潜っていられたら勝ち!」

 

「はわ……わたくし、水の中で怖くて目ぇ開けられないんですよーっ」

 

弓箭が上手くできないと嘆いていると、深城は弓箭の浮き輪に手をかけてグッと親指を立てる。

 

「大丈夫! 目ぇ開けなくても潜水できるよ!」

 

「深城、弓箭に強要するな。そしてお前運痴なんだからやめとけ」

 

真守はプールの縁に寄り掛かって深城に注意をする。

 

垣根との攻防に負けた真守は不服な顔をしており、深城に声を掛けるにしては珍しくぶっきらぼうな口調だった。

 

「なにをぅ!? 無限に潜ってられる人に言われたくないね!」

 

「私が無限に潜れようが、お前が運痴なのに変わりはないだろ」

 

真守が機嫌悪そうに告げると、深城は地団太を踏んでちゃぷちゃぷとプールを揺らす。

 

「あら。その曲聞いたことあるわ」

 

そこで突然、プールサイドチェアに横たわっている心理定規(メジャーハート)が声を上げたので、真守は気になってプールに入ったまま顔を後ろに向けて心理定規を見た。

 

心理定規(メジャーハート)が声を掛けたのは同じように隣に設置されているプールサイドチェアに横たわっている誉望で、誉望はその手にタブレット端末を持っており、そこから流れてきた曲について彼女は誉望に声を掛けたらしい。

 

「最近有名になってる『ARISA』ってアーティストスよ。ネットとかストリートライブで活動してて、よく第七学区でもストリートライブしてるそうです」

 

「ああ。この曲が『ARISA』なのね。噂では彼女の歌を聞けばいい事が起きるらしいわよ」

 

「良い事? 都市伝説には必ず裏がありますから、何らかの関係があるんですかね」

 

誉望が首を傾げていると、テーブルの上に置いてあった真守の携帯電話に着信があった。

 

「朝槻さん! 着信です! 『神裂火織』さんから!」

 

「神裂?」

 

真守は誉望と心理定規(メジャーハート)の会話を聞いていたのですぐさまプールから上がると垣根に強制的に着させられたパーカーから水をぽたぽた垂らしながらテーブルに近づき、携帯電話に手を伸ばす。

 

携帯電話は防水仕様なので手が濡れてようが問題ないが、その携帯電話をいつのまにか近づいてきていた垣根がひょいっと先に奪った。

 

「『神裂火織』……ねえ? あの女じゃねえか」

 

「返して」

 

垣根が上に手を伸ばして真守の身長的に届かない位置に携帯電話を(かか)げるので、真守はムッと口を尖らせて携帯電話へと向けて背を伸ばすが、届く距離ではない。

 

「話した内容俺に言うなら返してやる」

 

「意地悪なヤツには教えなっ……──い!」

 

真守は顔をしかませながらそこで声を上げて高くジャンプし、垣根の体にしがみつくと携帯電話を取り返す。

 

「う……っ!?」

 

「きゃあっ!」

 

真守が胸をむぎゅっと押し付けるように自分にしがみついてきたので、垣根はその真守の胸の柔らかい感触に思わずバランスを崩してしまう。

 

垣根に胸を圧しつける形でしがみついていた真守は垣根に完全に重心を預けていたので、二人共空いているプールサイドチェアにもつれるように倒れ込んだ。

 

しかも真守が垣根を押し倒す形で、垣根の足の間に片足を割り入れる状態で。

 

「「!!」」

 

真守が重力によって押し付けてくる柔らかな感触とハプニングによって固まる垣根の上で真守は無表情で上体を起こし、次の瞬間能力を解放して蒼閃光の猫耳と尻尾をぴょこっと出した。

 

「垣根のばかっ!!」

 

真守はガガギギギッと歯車が不快に鳴り響く音と共に蒼閃光(そうせんこう)(ほとばし)らせる。そして次の瞬間。真守はバリバリババリッという雷鳴と一緒に、鋭い電撃を生み出した。

 

「もしもし」

 

〈真守? どうしてそのように不機嫌なのですか?〉

 

「ちょっとバカ野郎がいたんだ。そいつのせいで機嫌が悪いだけで、お前は全く悪くない」

 

真守はむすーっと顔を赤くしてプールサイドの隅っこの方に寄っており、神裂と通話を開始する。

 

そんな真守の後方では垣根がプールサイドチェアの上で撃沈していた。源流エネルギーでこの世界の攻撃が通用しない垣根の定義を食い破った真守は、その上から電気エネルギーを流すという二段構えの方法で垣根を撃沈させたのだ。

 

ちなみに心理定規(メジャーハート)は呆れており、誉望はあの垣根に攻撃を通す真守に怯え、一部始終を見ていた深城はあらーっと満面の笑みで嬉しそうにしていた。

 

そして弓箭と林檎はと言うと、弓箭の方は潜水でいっぱいいっぱいで事態に気が付いていなかった。そして林檎は弓箭が溺れないように見ていたので、二人は最初事態を呑み込めず、真守が突然垣根へ攻撃したのでびっくりしていた。

 

〈鳴護アリサを知っていますか?〉

 

「鳴護アリサ?」

 

真守は神裂の問いかけによって、能力を解放したままで現出している尻尾をぴょいっと傾げながら声を上げた。

 

〈『ARISA』という名前でアーティスト活動を行っているのですが〉

 

「うん? 今丁度その『ARISA』については小耳に挟んだばかりだけど。その子がどうかしたのか?」

 

真守は先程聞いたばかりの話題が神裂の口から出てきていたのできょとっと目を見開く。そして、何故神裂の口から彼女の話が出てきたのか怪訝な表情をした。

 

〈彼女は『聖人』。もしくはそれと同等の力を持っているかもしれないんです〉

 

真守は神裂から放たれた言葉に、目を鋭く細める。

 

聖人。

それは『神の子』と身体的特徴が似ているが故に『神の子』の力の一端を身に宿した人間だ。

神裂火織もその『聖人』に分類されており、彼女は『聖痕』を解放してその莫大な力を使うことができる。

だが『神の子』の力は膨大であるためそれに人間の肉体の方が耐え切れず、高速戦闘を長時間行うことはできないという欠点も持ち合わせている。

それでも凄まじい力を持つのには変わらないので、魔術世界では核兵器並みと位置付けられている存在である。

 

「それは本当か? 鳴護アリサは学園都市に住んでるから、確実に能力者なんだぞ?」

 

真守が心の中で『聖人』に関して復習しながら問いかけると、神裂はつらつらと説明する。

 

〈前例がありませんから、『聖人』が能力開発を受けたらどうなるか分かっていないんです。そして彼女が普通に暮らしていられることから、『聖人』の素質が能力開発によってどうにかなってしまうわけではないようです〉

 

「……確かにそうだけど。鳴護アリサは本当に聖人なのか? その根拠は?」

 

〈『聖人』というのは定義が曖昧ですから正確には分かりません。ですが暫定で既に第九位。覚醒すれば私をもしのぐ力を得るでしょう〉

 

聖人である神裂が言うのだから多少曖昧でもそうなのだろう、と真守は納得する。

そして相変わらず顔をしかめたまま、真守は神裂に問いかけた。

 

「魔術世界にとっての核兵器が科学世界にいたら確かにマズい。それでイギリス清教的にはどう動くんだ?」

 

〈とりあえず実地調査をしています。あなたから何か情報を得られればと思ったんですが、いかがでしょう〉

 

「私も少ししか知らないけど、気になるから鳴護アリサについて調べておくよ。ネットに顔出ししてるし、すぐに情報が集まると思う」

 

〈助かります〉

 

神裂が頼もしい真守に礼を言っていると、真守はふと気になって神裂に問いかけた。

 

「ところで一人で来たのか? 他にも誰か来ているのか? ステイルとか」

 

〈ええ。彼も来ています。別働隊ですけれど〉

 

「隊? 団体で来ているのか?」

 

真守が神裂の表現に首を傾げていると、神裂はそこで爆弾発言をした。

 

〈ええ。彼の弟子と共に〉

 

「でっ……弟子!? あいつ私より年下なのに弟子いるのか!?」

 

真守が思わず驚愕すると、その驚愕を表すかのように真守が展開していた猫耳と尻尾がピーンと上向きへ伸びる。

 

〈ルーンの腕は確かですから〉

 

神裂が少し棘のある言い方をするが、それが気にならないほど真守は驚いており、思わず声をひそませて問いかける。

 

「……ち、ちなみに女? 同年代? それとも年下?」

 

〈? ええ、三人共女の子で、同年代か年下だと思いますよ?〉

 

(……アイツはちっこい女の子が好きなのか…………)

 

真守はぴこぴこと蒼閃光の猫耳の片方を動かしながら、神裂の言葉によって思わず『ステイルロリコン説』を心の中で唱えてしまう。

 

「じゃあステイルにもよろしく言っておいてくれ。何か分かったらこちらから連絡する」

 

〈頼みましたよ〉

 

「ああ。……じゃあ、なっ!」

 

真守は神裂との通話を切りながらその場から飛び上がる。

 

猫の様に身を(ひるがえ)して宙へと逃げて先程まで自分が立っていた場所を見ると、そこにはブチ切れて完全に目が据わっている垣根がいて、自分をキッと睨み上げていた。

 

「心底ムカついた。今日という今日はテメエを泣かしてやる!」

 

「なんかそれ表現がえっちだしそもそも逆切れじゃないか!?」

 

垣根が未元物質(ダークマター)の翼を広げて自分に叩きつけようとしてくるので、真守は空中で身を翻してひょいっとそれをかわして壁にトッと足をつけて張り付く。

 

「この女……っ!」

 

垣根は飛んで真守へ向けて未元物質(ダークマター)の翼を再び叩きつけようとするが、攻撃を読んでいた真守は垣根が攻撃してくる前に前方へと躍り出る。

真守が突然前に出てきたことによって虚を突かれた垣根は照準が定まらずに甘い攻撃を繰り出してしまい、そんな垣根の攻撃を真守は空中で体をひねって難なく避けた。

 

「なんでプールに来て鬼ごっこしなくちゃなんないんだ!」

 

「うるせえ! テメエが大人しくしてればいいだけだろうが!」

 

「だって大人しくしたら垣根がえっちな事してくるだろうが!」

 

「……ッテメエ……その減らず口叩きのめしてやるっ!」

 

真守との口論でヒートアップした垣根は執拗に真守を追う。

 

垣根がプールの破壊なんて気にするわけがないと知っている真守は、施設に垣根の攻撃が当たらないように垣根の攻撃を誘導しながら縦横無尽にプール内を駆け回って垣根から逃げ続ける。

 

真守に攻撃を誘導されているので垣根は苛立ちを見せるが、流れを読める真守の生み出す流れに逆らうことはできない。

 

「わーっ、猟虎ちゃん、林檎ちゃん。見てアレ。アレが超能力者(レベル5)カップルの喧嘩だよ」

 

「スケールが大きすぎますね……」

 

「二人共空飛んでる。朝槻、翼出さないかな」

 

「んー。真守ちゃんはあんまり翼出さないねえ」

 

プールに入っている三人は呑気な会話をして、心理定規(メジャーハート)は呆れた様子でプールを目いっぱい使って普通なら鬼ごっこをしている二人を傍観し、誉望は常人なら死ぬ攻撃を意中の相手にする垣根の精神が恐ろしくてガタガタ震えていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

プールから帰ってきた真守は垣根と喧嘩したまま不機嫌極まりなくしており、垣根がラウンジに来ても無視してタブレット端末で鳴護アリサについて調べていた。

 

だが次の瞬間、垣根が真守に向かって身をかがめて頭にキスしてきたので、真守は体を飛び上がらせた。

 

「……っ!?」

 

頭に柔らかな唇の感触に真守が顔を赤くしてバッと垣根を見上げると、垣根が切なそうに自分を見つめてくるので、真守は思わずドキッとしてしまう。

 

「な……な、べ、別にちゅーされたくらいで私は許さな、」

 

「悪かった」

 

真守の言葉を(さえぎ)った垣根は、真守の髪の毛を一筋すくって自分の口に持ってきてキスをしながら謝る。

 

「お前のことが心配なのにお前がいつも大丈夫だって怒るから俺もつい怒っちまうんだ。……悪かった」

 

垣根が辛そうな顔をして謝ってくるので真守はきゅーんと胸が苦しくなる。

 

「……っ。こ、こっち来て。神裂から言われた話、するから……」

 

確かにプライベートプールでパーカーを着させたのは垣根の立派な『嫉妬』だが、神裂からの電話を巡ってのケンカは真守がまた問題に巻き込まれるかもしれないという垣根の真っ当な『心配』であった。

 

パーカー事件で真守も垣根も互いに頭に血が上っていたので神裂の電話で二回目の喧嘩に発展したのはあまりよくなかったな、と真守は反省して、しょんぼりしながら自分の座っている右隣をぽんぽんと叩き、垣根に座るように指示をする。

 

垣根は真守の髪の毛から手を離して真守の隣に座ると、ぐいっと真守の腰を抱き寄せて自分の方に引き寄せる。

 

「…………っはう、」

 

「嫌か?」

 

垣根に寄り添う形になってしまった真守は胸がドキドキしてしまって思わず情けない声を出すと、垣根が甘い声で耳元で囁いてきた。

 

「……べ、別に嫌、じゃない……けどっ」

 

真守は顔を真っ赤にしてしどろもどろになりながらも、意を決してコテッと垣根の体に頭を預けてケンカは終わりだと暗に告げた。

 

「せ、聖人……って言うのは、偶像の理論の一種だ」

 

垣根が自分の胸に寄り掛かる真守の頭をそっと撫でていると、真守は頭を撫でられるのが気持ちよくて恥ずかしくて体を硬直させながらも懸命に説明を始める。

 

「お前に天使の役割が与えられているのと同じで、聖人も何らかの役割を与えられてんのか?」

 

「与えられた、というよりそういう素質を持って生まれたんだ。聖人というのは生まれた時から神の子に似た身体的特徴と魔術的記号を持つ人間のことで、その身に神の力の一端を宿せるんだ。……けどそれは諸刃の剣。神の力の一端が強大すぎて、制御が難しい。最悪自爆する可能性もある」

 

「その聖人ってのがこの女なのか?」

 

垣根は真守が端末に映し出している『ARISA』という名前でアーティスト活動をしている鳴護アリサを見つめながら問いかける。

 

「神裂が言うには、聖人と同等の力を持つ……らしいんだけど結構曖昧なんだ。しかも聖人が能力開発を受けたことなんてないからどうなってるか分からない。まあ普通にアーティスト活動できてるみたいだから大丈夫そうだけど」

 

「聖人って魔術使えんだろ? 能力開発受けたら死にそうだが、そこは大丈夫なのか?」

 

垣根が問いかけると、真守はビッと人差し指を上げて説明口調になる。

 

「能力開発が行われた能力者が魔術を使うと死にそうになるのは、体内で魔力を精製する時に肉体に莫大な負荷がかかって血管や内臓が傷つくからだ。魔力というのは血液の流れや内臓の活動リズムを意図的に崩して精製するから、能力を開発するために整えられた体のリズムを崩せば、体に重大な負荷がかかってしまうんだ」

 

「つまり能力開発を受けた聖人でも、魔力を精製しなかったら普通に暮らしていけるってことか」

 

垣根が問いかけると真守はコクッと頷き、真剣な表情で顔をしかませる。

 

「聖人が身に宿している『天使の力(テレズマ)』は魔力と全く違う力だからな。だから多分、能力開発を受けても問題は生じないんだと思う」

 

「『天使の力(テレズマ)』?」

 

「『天使の力(テレズマ)』とは天使が使う力、天使そのものを構成するエネルギーの事だ。……どこか違う世界から呼び出す源流エネルギーとは明確には違うけど、それでも莫大過ぎるから似通っていると私の友達のシスターに言われたことがある」

 

「ふーん。それで? 事の経緯ってのは鳴護アリサに聖人って疑いがあるからそれを調べるために神裂火織がお前に連絡したって事で良いんだよな?」

 

「うん。今回はいつもよりも慎重になる必要がある。聖人は魔術世界の住人だ。科学世界に本来ならばいるべき存在じゃない。……強硬策が取られなければいいんだけど」

 

「殺すってことか。短絡的だな」

 

「うん。私は彼らにこの子を殺させたくないし、この子にも死んでほしくない。だから慎重にコトを進めたい」

 

垣根の嘲笑に(こた)えた真守は端末に映って楽しそうに歌っている鳴護アリサを見つめながらこの子を守りたいという顔つきをする。

 

人を誰よりも大切に想う真守が決心している姿が懸命で愛しくて、垣根は真守を愛でるために真守の頭にそっとキスを落とした。

 

「はぅ」

 

真守は柔らかい唇の感触に情けない声を出すと、垣根の胸板をぐいぐいと押す。

 

「垣根ぇー……何かあったら頭にちゅーするのやめて……っ」

 

真守は顔を真っ赤にして離れようとするが、男の垣根の方が力が強いし、何より肉体のポテンシャルが垣根は普通の男よりも高くなっているので自分を引き寄せる力が強くて全然離れられない。

 

「なんで。別に外じゃねえからいいだろ」

 

「ううー……でもなんか恥ずかしい……っ」

 

真守が体に力を入れて自分に落とされるキスの感触に震えている様子が可愛くて、垣根は意地悪い笑みを浮かべると真守の耳元で甘く囁く。

 

「じゃあほっぺがいいか?」

 

「もっとダメっ!」

 

真守は耳をバッと手で押さえて垣根を睨み上げるが、垣根は顔を真っ赤にして自分を意識しまくっている真守が愛しくて真守の頭に頬を摺り寄せる。

 

「じゃあ我慢しろ」

 

「ううー……っ」

 

垣根が自分のことを全力で愛でてくるのでその恥ずかしさで真守が(うな)っていると、そんな真守と垣根にそっと近づく影があった。

 

「朝槻」

 

「はぅあっ!? な、なんだ、林檎?」

 

真守が大袈裟に声を上げて振り返ると、そこには真守が垣根に愛でられるところを目撃しようがいつもの表情で立っている林檎の姿があった。

 

「ケータイに着信来てるよ。ほら」

 

林檎は真守の着信音が鳴り響いている携帯電話を差し出す。

 

「チッタイミング悪ぃな」

 

垣根に気を取られていてまったく着信音が聞こえていなかった真守が慌てて林檎から受け取ると、垣根は真守の耳元すぐ近くで苛立ちを込めて舌打ちをする。

 

「……私にとってはベストタイミングだったんだが」

 

自分の腰を離さないでここで電話しろと暗に告げている垣根を真守は顔を赤くしてジト目を向けながら、『上条当麻』と画面に表示されている携帯電話をスライドさせて通話に出た。

 

「もしもし?」

 

〈朝槻か!? 今ステイルが襲ってきたんだけど! いや、正確には鳴護アリサって子を狙ってきてだな!?〉

 

「あの不良神父。やっぱりか」

 

真守は興奮して声が大きくなっている上条に対して顔をしかめつつ、短絡的な行動をすぐに取るステイルの行動を考えてため息を吐いた。

 

〈やっぱりって?〉

 

「神裂から連絡があったんだ。鳴護アリサが聖人かもしれないって。それでステイルが手っ取り早い方法で事を収めようと鳴護アリサを襲撃したんだろう」

 

〈嘘だろ? だってアリサは……!〉

 

真守の的を射た憶測を聞いて上条はあからさまな動揺を見せる。

 

「鳴護アリサについてはこっちで調べておく。ステイルはバカ一直線だからまた性懲(しょうこ)りもなく襲ってくるだろうから、上条はそれまで彼女をお願い。大丈夫そうか?」

 

〈……ああ、言われなくても! アリサは俺とインデックスの友達だからな!!〉

 

「うん。それでも何かあったら連絡しろ、な?」

 

(『聖人』かもしれない鳴護アリサ。んーなんか胸騒ぎがする。こういう勘って当たるからマズいんだよなー)

 

真守は鋭い決意を秘めた上条の声を聞いてから一言二言話してからピッと携帯電話の通話を切り、真剣な表情をして心の中で呟く。

 

そして話が終わって邪魔が入らなくなった垣根が頬ずりを再開したので、真守は『林檎の前でしないでっ!』と声を上げる。だが、垣根は真守のことをかわいがるのをやめないし、林檎は林檎で輪に入りたくて真守の前にやって来て膝をぺちぺちと叩き、頭を撫でるようにおねだりし始める。

 

真守が顔を赤くしながら林檎の頭を撫でていると、そこに深城がやって来て『いちゃいちゃしやがって! あたしも交ぜてーっ!!』と叫ぶ。真守は事態がもっとややこしくなって、思わずため息を吐いた。

 

でもみんな幸せそうでよかった、と真守はそっと心の中で呟いて、その幸せな空間の中心で温かな幸せを堪能していた。

 




水着回と『エンデュミオンの奇蹟』の本題についてでした。

ここから垣根くんと真守ちゃんのイチャイチャ成分が高くなっていきます。
もっとイチャイチャさせたい(願望)。

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