とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第八七話、投稿します。
次は一一月一一日木曜日です。


第八七話:〈急転直下〉で世界を救いに

〈レディリー=タングルロードが魔術師かもしれないって? そう思う根拠はなんだぜい、朝槻?〉

 

ショッピングモールでテロがあった夜。真守は自室のベッドに寝転がって土御門元春に電話を掛けていた。

 

「レディリー=タングルロードのあの体内エネルギーの流れ……あれは始点と終点が存在せず、メビウスの輪のように捻じれという矛盾を生じさせながらも円環しているんだ。何故ああなっているのか、あらゆるエネルギーを生成できる私でさえも分からないんだ」

 

〈つまり専門家であるお前にも解明できないから魔術の領分だと考察した。……成程、納得いったぜい〉

 

クッションを手元に引き寄せて抱きしめながら、真守は土御門の言葉に一つ頷く。

 

「ああ。……アイツは恐らく不老不死だ。それもすごく長く生きてる」

 

〈なんだって?〉

 

真守は土御門の疑問に毛足の長いクッションに無限()のマークを書きながら告げる。

 

「人間は始まった時から終わりが決まっている。つまりエネルギーの循環に始点と終点が存在しないということは、人の枠組みから外れているということなんだ。あれでは殺されたとしてもメビウスの輪の矛盾点から生き返ると思う」

 

〈だったらロリっ子じゃなくてロリババアって事かにゃー!? それは解釈違いぜよ、朝槻ーっ!!〉

 

土御門が性癖的な好みに反すると叫ぶので真守は思わずジト目で顔をしかめる。

 

「いや、問題はそこじゃないだろうが。……不老不死を裏付ける理由もきちんとあるんだ。レディリー=タングルロードは体の成熟具合と精神性について矛盾点が多く見受けられてな、」

 

そこまで言いかけたら突然バターン! と自室の扉が開け放たれたので、真守は猫のように体を飛び上がらせながら振り返る。

 

「な。何入ってきて……!」

 

扉を思いきり開け放ったのは当然垣根で、真守は垣根に注意するために声を掛けるが、それを途中でやめた。

 

垣根が嫉妬ではなく、真剣な表情をして自分に向けて手を出してくるからだ。

 

「貸せ。ソイツには話がある」

 

土御門元春が多角スパイだと知っている垣根は、一度土御門ときちんと話をしなければならないと思っていた。

真守の友達であろうと、アレイスターに繋がっている土御門を垣根が放っておけるわけがない。

真守もいつか面倒ごとになるだろうな、と思っていたので携帯電話に手を当てて顔をしかめて土御門に話しかける。

 

「……土御門。ごめん、垣根が……えぇと、超能力者(レベル5)第三位の垣根帝督がな……」

 

〈ん? ああ、そろそろ来ると思ったぜよ。代わってくれ〉

 

真守が言いづらそうに土御門に声を掛けると、土御門は瞬時に何があったか察して真守に垣根と電話を代わるように言うので、真守はおずおずと垣根に携帯電話を差し出す。

 

「よお、忠犬」

 

〈犬はお互い様だろ。統括理事会直轄の暗部組織のリーダーサマ?〉

 

土御門がアレイスターの犬だと考えていた垣根のカマ掛けに対し、土御門は即座に肯定し、なおかつ垣根の身分を知っていると牽制をしてきた。

 

「チッ。やっぱり何もかもお見通しってことか。ますますクソ野郎じゃねえか」

 

自分よりもアレイスターに近いところにいて、なおかつそんな人間が真守の近くにいることに垣根は苛立って舌打ちをし、臨戦態勢で土御門と言葉を交わす。

 

〈で? お前の懸念事項はやっぱり朝槻か?〉

 

「当たり前だろ、舐めてんのか。いいか、俺はお前を信用しない。もし真守を利用するならブチ殺してやる」

 

「ちょ、垣根……!」

 

垣根が冗談では済まさないという真剣な表情で告げるので、真守は垣根を制止しようとするが、垣根は『黙ってろ』と視線で真守に訴えてくる。

 

〈そっちこそ朝槻を泣かしたらただじゃすまない。そいつは俺にとっても大切なんだ〉

 

「ハッ。どの口が言うんだか。知ってんだよ、コイツのこと虐めてテメエが(えつ)に浸ってんのをよぉ、なあクラスの三バカ(デルタフォース)?」

 

垣根はもちろん真守のことをイジっているクラスの三バカ(デルタフォース)を知っており、つい先日も青髪ピアスが無断で真守の盗撮写真をばらまいていた事も知っている。

下部組織を動かしてその写真を回収して事態を軽く収めたが、あの手のバカは直接真守(被害者)に制裁を下されても学習しないのが問題だ。

直接言っても意味がないとは思うが、それでも圧を掛けておくのに越したことはない。

 

〈あれー? もしかして俺たちが適度に朝槻をイジれるのが羨ましいんだかにゃー? 朝槻が大切過ぎて奥手になってるていとくーん?〉

 

だが垣根がそう思っていると、先程までの駆け引きをどっかにやって土御門が全力でおどけてきた。

 

「……なんだとコラ?」

 

垣根はいきなりふざけだした土御門に呆然としながらも携帯電話を横目で睨みつけた。

 

〈ぷぷー。手を出したらぁー盛りっぱなしになっちゃってぇー歯止めが利かなくてぇー朝槻のこと泣かしちゃって嫌われたらどうしよーって怯えてるヤツにぃーほどよい虐め方について責められる理由なんてないぜよー。まあ、髪の毛にばーっかりキスするなんて我慢できてない証拠だがにゃー☆ ぷぷぷ〉

 

「ぐっ……なっ────……っ?!」

 

バカっぽそうでその実策士である土御門が全力でおちゃらけたまま自分の気持ちを正確に読み取ってくるので垣根は思わず絶句してしまった。

 

何か反論しようと口を開くが、あまりにも動揺しすぎて垣根は言葉に詰まってしまう。

そんな垣根を笑って、土御門は畳みかけた。

 

〈良ければ俺が手加減の仕方とか心構えとか教えてやってもいいぜよー? なんせ土御門さん、ちゃーんと相手を(たの)しませることができるできた人間だからにゃー!〉

 

「テメエぶち殺す! 今からテメエがいる場所に大群送り込んで(なぶ)り殺しにしてやるから首洗って待っていやがれ!!」

 

土御門のイジりについにブチ切れた垣根が暴言を吐くので、真守は垣根に抱き着いて体を張って止める。

 

「垣根ダメ! 土御門殺したら許さないっもう一生口利かない!!」

 

「うるせえ! 真守、よく聞け! コイツとんでもねえ性悪だぞ!? なんでこんなヤツのダチやってんだよ!!」

 

極悪非道な土御門の魔の手が真守にいつも伸びていることが心底許せなくなった垣根は、抱き着いてきた真守のことを土御門の魔の手から守りたいばっかりに思わず庇うように抱きしめながら叫ぶ。

 

「土御門は優しいヤツだ! 義理の妹にすっごく優しくできるとっても良いヤツ!」

 

垣根に庇われそうになりつつも、真守は土御門を守るために声を大きくして垣根に抗議する。

 

「テメエ誰も彼も優しい優しいって言うが、優しいの定義が甘すぎんだよ!」

 

「あ、甘くない! 私は確かな目を持ってる!!」

 

〈っくくく……ほらほら痴話ゲンカは後でやってくれにゃー。それに朝槻まだ言いたいことがあるみたいだったからほれ。とっとと代われ〉

 

ぎゃーぎゃーわめく二人が仲良さそうで笑っていた土御門だったが、話題を元に戻すために垣根にそう切り出す。

 

「テメエマジで覚えとけよ……!」

 

土御門に向けて地を這うような声を垣根は出すが、一つ息を吐いて気持ちを入れ替えると、真守にぶしつけに携帯電話を差し出す。

 

真守が携帯電話を受け取って垣根から離れてくるっと回ると、自分から真守が離れたのが気に食わず、垣根は後ろから真守を抱きしめてがっちりホールドして真守の頭に顎を乗せ、全身から不機嫌オーラを出し始める。

 

〈で、朝槻。レディリー=タングルロードが不老不死を裏付ける違和感って結局なんなんだ?〉

 

「う、うん。……精神は体の成長と共に育つ。レディリー=タングルロードの記者会見など見たが、彼女は精神が成熟しつつも肉体に引っ張られている傾向が見られる」

 

真守は垣根にいつぞや外でキスされた時のように覆い隠されるように抱きしめられていることにドキドキしながらも自分が感じたレディリーへの違和感を口にした。

 

〈魔術師の中には肉体の成長を停める人間もいるにはいるが……そこを加味してもおかしいとお前は感じているんだな?〉

 

「ああ。アイツと直接会った時には鳴護も一緒にいたんだが、レディリーは鳴護とジェニー=リンドを同列に考えた。ジェニー=リンドは一九世紀初期の女性だ。一〇歳がそんな昔のオペラ歌手と鳴護を同列に考えるなんて、どう頑張ってもおかしい」

 

真守は先程のおちゃらけモードから魔術師に戻って冷静な土御門の言葉に即座に頷いて答えた。

 

〈成程……一九世紀初期の女性を好きって言ったならそれですでに二〇〇年だからな。……分かった。こっちで調べてみるぜ〉

 

「後は鳴護についてのことだが」

 

真守は自分の長い髪の毛の毛先を弄ぶ垣根に顔をしかませながらも、話題を切り換えてもう一つ土御門に伝えたかった事柄について切り出す。

 

「お前ももう掴んでいるかもしれないが、学園都市は鳴護が聖人的な資質を持っていると知ってあの子の資質と能力を解剖学的に解明しようとしてる。幾つか芽は摘んでおいたが、裏で糸を引いている人間がいる。おそらくレディリー=タングルロードだ。あいつ……相当ヤバいぞ? ここまで調べているのに私に弱みを一切見せない」

 

〈そうか。経験でお前の実力に勝ってるところからしても、お前はおかしいと思ってるんだな? いやはや、朝槻の能力に経験で勝るなんてとんでもないヤツですたい〉

 

「魔術的にレディリー=タングルロードの身元が分かったら連絡してくれ。あいつは所詮外の人間。学園都市側のデータサーバーには判断材料にならないモノばかりだし、超能力者(レベル5)第一位である私が迂闊に手を出すと色々と厄介な問題に発展しかねない」

 

レディリーの底が知れないと告げる土御門に真守が自分の立場を考えながらもお願いすると、土御門はそれに気前よく答える。

 

〈分かった。それに関しては専門だからな。上手くやってみせるぜい。じゃあな、朝槻。うまく垣根帝督飼いならして俺のこと殺させないでくれにゃー?〉

 

「……とりあえずお前のことはきちんと守るから安心しろ」

 

真守は土御門と会話しながら、自分の毛先に不機嫌な顔でぶすっとむくれてキスを落とす垣根の顔をぐいーっと手の平で押しのけながらお願いをする。

 

〈頼むぜい、んじゃなー!〉

 

土御門との通話を切った瞬間、垣根を押しのけていた手の平に垣根がキスしてきたので真守はびっくりして思わず蒼閃光(そうせんこう)で作られた猫耳と尻尾を出して能力を開放してしまい、そのまま垣根を睨み上げた。

 

「調子に乗り過ぎだっ!!」

 

次の瞬間、顔を真っ赤にした真守から垣根に向けて源流エネルギーと電気エネルギーの合わせ技が放たれた。

 

先日のプールの時と同じように再び撃沈した垣根に真守はぷんぷんと怒っており、『電話してる時くらいは大人しくしていろ、ばか!』と怒鳴られて流石にちょっとやりすぎだったと垣根は真守の怒りに正当性を見出して反省した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「で? イギリス清教が新しい命令を出して鳴護を保護しようとしてお前は動いたけど、結局鳴護は連れ去られてしまったということか?」

 

真守は早朝、真守が以前入院していたマンモス病院にある上条がいつも入院したら使う病室の中で気まずそうな顔をしているステイルを睨み上げて問い詰めていた。

 

昨夜、鳴護アリサを巡る戦いでステイルたち魔術世界の住人と統括理事会の認可を得た民事解決用干渉部隊を名乗る黒鴉部隊が激突した際、上条はその戦いに巻き込まれて負傷して病院に担ぎ込まれてしまったのだ。完全にとばっちりである。

 

「新しい命令というのは?」

 

「……シュメールのジグラット。バベルの塔、万里の長城、ギゼーのピラミッド……合理性を超えた規模を持った建築物はたとえ純粋に科学的に作られていても存在した時点で魔術的意味合いを帯びてしまうのさ。これは分かるかい?」

 

そのとばっちりの元凶であるステイルは顔をしかめつつも真守にそう説明するので真守は超能力者(レベル5)に見合った頭を高速でフル回転させる。

 

「魔術は人の文明と密接に関係して発展してきたから応用が利き、柔軟性が高い。だから科学にも柔軟に対応してしまう。だからこそイギリス清教は問題視していると?」

 

「そう。そんな『エンデュミオン』を使ってギリシャ占星術を得意とする『予言巫女(シビュラ)』であるレディリー=タングルロードは、エンデュミオンに『聖人』を組み込んだ超大規模魔術を行使しようとしているんだにゃー」

 

真守の問いかけに答えたのは上条の病室に入ってきた土御門で、真守は土御門の方に振り返った。

 

「土御門」

 

「おっはー朝槻。……現時点では詳細不明だが、エンデュミオンを組み込んだ魔術が発動したら北半球丸ごと全滅なのは間違いない。それくらい大きな反応が宇宙にはあるんだ」

 

「全滅?」

 

真守は自分に挨拶をしてそのままシリアスモードに移行した土御門の話を聞いて、きょとっと目を見開く。

 

その言葉がやけに引っかかったのだ。

 

「エンデュミオンも北半球だけど、エンデュミオンももしかしてその術式の範囲内に入っているのか?」

 

「それは分からんぜよ。……わざわざ聞くってことは何か引っかかるのか、朝槻?」

 

「……エンデュミオンがもし本当に範囲内に入っていたらレディリー=タングルロードは当然死ぬ。それが目的なんじゃないのか? 不老不死は人の心にはあまりにも重いものだ。死にたくても死ねない苦しみは凄まじいと思う。だから彼女は死ぬつもりじゃないのか?」

 

「あの魔術の目的が北半球を巻き込んでの盛大な自殺? それに不老不死だって?」

 

ステイルが真守の憶測を聞いて理解できないと顔をしかめていると、土御門は真守の推察に納得がいって頷く。

 

「ステイル。朝槻が言うにはレディリー=タングルロードにはエネルギー循環の始点と終点が存在しないで、存在がねじ曲がっているんだ。だからヤツは人間の枠組みから超えて不老不死になり果てている。もし生きることに疲れて死を望んでいるのであれば、何が何でも自殺しようとするだろう」

 

「……核を始末するか、あの塔を破壊するしかないな」

 

土御門の説明を聞いて合理性を理解したステイルは、そこで一瞬黙ってからいつものように短絡的な解決策を口にする。

 

「そんなことすれば当然全面戦争になっちまうんだぜい。科学の方は関係者だけ始末するって方向で進んでるんだにゃー」

 

「そんなことはさせねえ」

 

魔術側のステイルと科学側の土御門の立場からそれぞれの対処法を聞いたところで、ベッドに横たわっていた上条が体を起こした。

 

上条が決意の表情をしているので、真守もそれに同意するようにコクッと頷いた。

 

「上条の言う通りだ。……科学と魔術、どちらも鳴護を殺そうとするなら、私たちが相手になってやる。もちろん、世界を見捨てることなんてしない。丸ごと救って責任もって終わらせてやる」

 

「ああ。アリサも世界も、まとめて俺たちが奪い返すしかないんだ!! やってやる!!」

 

上条がそう宣言をして布団を引っぺがしてベッドから降りる隣で、真守はステイルと土御門に笑いかけた。

 

「それに鳴護や世界だけじゃない。レディリーも救ってやる」

 

「不老不死の彼女を救う手立てがあるのかい? ……キミのことだから、どうせ殺してやるなんてことはしないんだろ?」

 

着替え出した上条に背を向けた真守が背中越しに宣言すると、真守のやり方を知っているステイルは顔をしかめながらもからかい口調で真守に声を掛けた。

 

「私の能力は流動源力(ギアホイール)。どんなエネルギーでも生成することができる能力者だ。彼女のエネルギーの循環を壊してやって一度限りの命を取り戻させてやるくらいなんてことない」

 

ステイルに問いかけられて真守が得意気に告げると、ステルスはため息を吐く。

 

「流石超能力者(レベル5)第一位。はっきり言って規格外過ぎるね」

 

ステイルの隣で土御門もやれやれと肩をすくめているので、真守は二人の反応を見てくすくすと小さく笑う。

 

「お誉めに預かり光栄だ。では動くぞ、上条?」

 

真守が振り返ると、そこにはいつもの学生服に着替えた上条がいた。

 

「ああ!」

 

真守の言葉に上条は頷き、そして廊下にいたインデックスと共に全てを助けるために動き出した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「あ。……久しぶりね、垣根さん」

 

「よお御坂美琴。上条当麻に会いに来たのか?」

 

垣根が病院のフロントのソファに座って真守のそばにいるカブトムシと感覚を共有していると、美琴が両手にジュースを持って垣根に近づいてきた。

 

「ええ。風紀委員(ジャッジメント)で後輩で、アンタも知ってる黒子から私の知り合いの子がさらわれたって聞いて動いたら、その現場にあのバカがいたから。それでここに来たの」

 

「ふーん。ならここにいていいのか?」

 

「どうしてよ?」

 

垣根は両手をポケットに入れながら立ち上がってきょとんとした美琴をにやにやと嗤って見つめ、彼女が知らない現状を教えてあげる。

 

「上条当麻は真守とその他数名と一緒に病院から抜け出していったぞ」

 

「は?!」

 

「つーわけで俺もここに用はねえから。じゃあな」

 

垣根は驚愕する美琴を置いて、フロア内をツカツカと歩きながら正面玄関へと向かう。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! あたしも行く!!」

 

「来るなら勝手にしろ。──ただし、俺について来られるんだったらな?」

 

垣根はそうやって美琴を挑発しながら正面玄関前に出ると、未元物質(ダークマター)の翼を広げて宙へと踊り出る。

 

「と、飛んでいくのはズルいでしょうが!? ちょっと、待ちなさいよ!! ねえ!?」

 

美琴は飛んでいく垣根を見上げて叫び声を上げるが、すぐにその声と美琴の姿は垣根が離れたことで小さくなっていく。

 

「んで真守? お前は上条当麻とそのシスターを第二三学区に送り届けたら生身で宇宙に行くつもりかよ」

 

垣根は自分が構築したネットワークに接続して、真守の右肩にくっついているカブトムシ越しに真守に声を掛けると、ネットワークを通して真守の声が聞こえてくる。

 

『決まってるだろ。私は生身で宇宙に向かえるし』

 

「俺には黒鴉部隊に制圧されたエンデュミオンの対処に行けって言うのに、お前は優雅に宇宙散歩か?」

 

『機嫌悪くしないで、垣根。……機嫌悪くても、もちろん私のお願い聞いてくれるんだろ?』

 

真守が軽く笑いながら自分に声を掛けてくるので、垣根はチッと軽く舌打ちをしながらも柔らかな微笑を浮かべて答えた。

 

「お前のためだ。しょうがないからやってやる」

 

『垣根は暗部組織の人間だから簡単に表に出ちゃいけないのにいつもありがとう』

 

真守が嬉しそうな声で礼を言うと、垣根は鼻で嗤ってから応える。

 

「気にすんな。俺は俺がやりたいようにやってるだけだ」

 

『じゃあちょっと言い方変える。……いつも私のために頑張ってくれてありがとう』

 

「良いな。そっちのありがとうの方が断然ヤル気が出る。……なるべく早く帰ってこい。怪我だけはすんなよ」

 

真守の言い方が気に入った垣根は柔らかく笑って真守を送り出すための言葉を呟く。

 

『ふふっ誰に言ってるんだ? ──行ってくるね、垣根』

 

真守がカブトムシ越しに軽やかに笑うと、垣根に最後にきちんと挨拶をした。

 

「おう」

 

垣根はそれに応えつつ、学園都市の街並みを睥睨しながらエンデュミオンへと向かって行った。

 

大切な女の子の助けをするために。

彼女が愛する世界を守るために。

本当なら柄じゃないが、それでも真守のためならば自分らしくないこともする。

そしていつかそれが自分らしい行いになるだろうと垣根は思いながら、エンデュミオンへと向かっていた。

 




垣根くんと土御門が邂逅しました。土御門、垣根くんのことを全力でイジります。楽しそう。

ちなみに髪の毛にキスというのは『触ってみたい』『構ってほしい』『独占したい』『我慢している』『愛しくてたまらない』『自分のものアピール』という意味があります。
独占欲満タンな垣根くん。


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